説明

酸素吸収性包装容器

【課題】液体中に含有させることで酸素を発生し、そのままでは容器が膨らみ、破裂の恐れもある容器の中から酸素を速やかに除去し、液中へ溶出する成分量が低い事を特徴とする酸素吸収性組成物を用いた酸素吸収性包装容器、またその酸素吸収方法を提供する。
【解決手段】酸素吸収性樹脂組成物からなるフィルムDまたはシートであり、そのフィルムDまたはシートの一部または全面が液体Cに接触する態様で配置されており、容器E内の液体Cの液相溶存酸素及び、容器E内の気相酸素を吸収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は 酸素吸収性樹脂組成物からなるシートまたはフィルムに関する。
【0002】
本明細書において「脱酸素」とは密閉された環境中の酸素濃度が0.1vol%以下となることを意味し、「脱酸素剤」とは脱酸素状態を実現させることを目的として使用される薬剤、材料等の物を意味する。また、「酸素吸収性」とは「酸素吸収剤としての機能を有する」と同義である。さらに、「酸素吸収」とは到達酸素濃度に関わらず、薬剤、材料等が環境中の酸素を取り込むことを意味する。また本明細書において、「酸素吸収性樹脂層」は酸素吸収性樹脂組成物からなるフィルム、シートの事を示す。「隔離層(または支持層)」は熱可塑性樹脂組成物からなるフィルム、シートの事を示す。酸素吸収性樹脂層の片面又は両面に隔離層が配されてなる構造体の事を「酸素吸収性多層体」と記載する。該酸素吸収性多層体を使用した容器の事を「酸素吸収性包装容器」とした。
【背景技術】
【0003】
食品、飲料、医薬品、医療品、化粧品、金属製品、電子製品に代表される、酸素の影響を受けて変質あるいは劣化し易い各種物品の酸素酸化を防止し長期に保存する目的で、これらを収納した包装容器や包装袋内の酸素除去を行う酸素吸収剤が使用されている。この酸素吸収剤として初期に開発され現在も多く使用されている形態は、粉状または粒状の鉄粉やアスコルビン酸などからなる酸素吸収剤を通気性の小袋に詰めたものである。
【0004】
近年は、取り扱いが容易で適用用途が広いフィルム状の酸素吸収剤も利用されるようになってきた。フィルム状の酸素吸収剤に関して、その酸素吸収性組成物及びフィルム構成について多くの提案がなされている。樹脂に鉄粉やアスコルビン酸などの酸素吸収剤を配合してフィルムやシート等に成形し、一方の側に熱融着性を有する隔離層を積層し、他方の側にガスバリア層を積層した基本的な酸素吸収性多層体が知られている(特許文献1)。また、酸化可能な有機成分又は樹脂成分と遷移金属触媒からなる層を含む包装用フィルムも知られている(特許文献2、3)。さらに、有機物からなる酸素吸収剤が酸化に伴い発生するガスを抑制するために、ゼオライトなどの吸着剤を酸素吸収性組成物に含有させることや、吸着剤を含む層を積層した酸素吸収性多層フィルムとすること、あるいは発生したガスの中和剤としての塩基を含む層を積層した酸素吸収性多層フィルムとすることが提案されている(特許文献4〜6)。
【0005】
発生ガスがアルデヒド系ガスの場合、そのガスの除去剤としては、主に煙草臭の消臭、シックハウス症候群対策を目的として、アミン化合物やヒドラジド化合物、ヒドラジン誘導体を無機物に担持させたものが知られている(特許文献7、8)。
【0006】
従来、酸素吸収性樹脂組成物からなるシートまたはフィルムは、(1)酸素吸収性樹脂組成物が、易酸化性樹脂組成物と遷移金属触媒からなるものの場合は、酸素吸収する過程で有機成分が発生し該有機成分が内容物(特に液体であった場合)へ溶出する問題や、(2)酸素吸収性樹脂組成物が、熱可塑性樹脂と易酸化性無機化合物からなる酸素吸収性樹脂組成物の場合にはその無機化合物が内容物へ溶出し、それらの成分の移行によって内容物の変質をもたらしてしまう、という重大な問題が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭55−90535号公報
【特許文献2】特許第2991437号公報
【特許文献3】特許第3183704号公報
【特許文献4】特開平05−247276号公報
【特許文献5】特開平06−100042号公報
【特許文献6】特許第3306071号公報
【特許文献7】特許第2837057号公報
【特許文献8】特開2007−204892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、酸素吸収性樹脂組成物からなるシートまたはフィルム(酸素吸収性樹脂層)を用いて、特に液中の溶存酸素を吸収させる目的で使用する際に、酸素吸収性樹脂組成物から発生する有機成分や無機酸化物が該液体へ移行し、内容物の変質をおこすという課題を解決し、実用上充分な速度で該液中の溶存酸素を吸収することが可能な酸素吸収性樹脂組成物及びその方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、液中の溶存酸素を吸収する酸素吸収性組成物からなるシートまたはフィルム(酸素吸収性樹脂層)について、有機成分の発生及び/又は無機酸化物の移行による該液体の内容物の変質を可能な限り抑制させる研究を進めた結果、酸素吸収性樹脂層に発生ガス吸収剤を含有させるか、酸素吸収性樹脂層の片面又は両面に隔離層を設けることにより、酸化に伴い生成する有機成分の発生や、無機酸化物の内容物への移行を抑制し、かつ実用上充分な速度で酸素吸収が可能な酸素吸収性多層体、及び該多層体を使用した酸素吸収性包装容器、またその酸素吸収方法を見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、酸素吸収性組成物からなる酸素吸収性フィルムまたはシートの少なくとも一部が液体に接触する態様で配置された酸素吸収性包装容器である。
【発明の効果】
【0011】
本発明による酸素吸収性樹脂組成物からなるシートまたはフィルムの一部または全面を液体に接触させる事で、液体の液中溶存酸素を吸収する過程において発生する成分は該液体へ移行することなく解決される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る酸素吸収製樹脂組成物の一態様の断面図。(態様a,b,c)
【0013】
【図2】本発明に係る酸素吸収製樹脂組成物を使用した酸素吸収方法の態様。(態様a,b,c,d)
【発明を実施するための形態】
【0014】
酸素吸収性樹脂組成物の、酸化に伴い発生する有機成分及び/又は無機酸化物が、内容物特に内容物が液体であった場合の該液体の内容物の変質を解決するため、本発明者らは以下に示すような様々な検討を行い、その結果最適な態様である本発明に至った。
【0015】
以下、本発明の実施の一形態を図面に即して説明する。図1−aは酸素吸収性樹脂層の単層である。図1−bは酸素吸収性樹脂層の片面に隔離層を配してなる多層体である。図1−cは酸素吸収性樹脂層の両面に隔離層を配してなる多層体である。
【0016】
以下、本発明の酸素吸収方法の一形態を図面に即して説明する。図2−aは酸素吸収性樹脂組成物からなる酸素吸収性樹脂層を有するフィルムを底材として使用した容器であり、底面から液体の液中溶存酸素を吸収している。図2−bは酸素吸収性樹脂組成物からなる酸素吸収性樹脂層を有するフィルムを液中に浸漬し、液体の液中溶存酸素を吸収している。図2−cは酸素吸収性樹脂組成物からなる酸素吸収性樹脂層を有するフィルムを容器胴部の一部に使用した容器であり、胴部から液体の液中溶存酸素を吸収している。図2−dは酸素吸収性樹脂組成物からなる酸素吸収性樹脂層を有するフィルムを容器胴部に使用した容器であり、胴部から液体の液中溶存酸素を吸収している。
【0017】
以下、本発明の実施の一形態を図面に即して説明する。図1−aにおいては、酸素吸収性樹脂組成物からなる酸素吸収性樹脂層(A)を有する。図1−bにおいては、酸素吸収性樹脂組成物からなる酸素吸収性樹脂層(A)と片側に熱可塑性樹脂層からなる隔離層(B)を有する。図1−cにおいては、酸素吸収性樹脂組成物からなる酸素吸収性樹脂層(A)と、Aの両面に熱可塑性樹脂層からなる隔離層(B)を有する。
【0018】
本発明は、上記酸素吸収性樹脂層(A)、又は上記酸素吸収性樹脂層(A)に隔離層(B)を一体化したものを液体に一部または全面に接触させ液体の液中溶存酸素を吸収する酸素吸収性包装容器及びその酸素吸収方法に関する。
【0019】
本発明の酸素吸収性多層体を構成する隔離層(B)は酸素吸収性樹脂層(A)と液体と隔離する役割を果たすと共に、酸素吸収性樹脂層(A)から発生する移行物質を液体中に溶出しないよう隔離しつつ、酸素吸収性樹脂層の速やかな酸素吸収を妨げないように、効率的な酸素透過を行う役割を果たす。
【0020】
本発明の酸素吸収性組成物は、易酸化性熱可塑性樹脂及び遷移金属触媒を含有している酸素吸収性組成物か、又は熱可塑性樹脂及び易酸化性無機化合物を含有する酸素吸収性樹脂組成物の事を意味する。
【0021】
酸素吸収性樹脂層(A)の厚みは、1〜300μmが好ましく、1〜200μmがより好ましい。厚みが1μmを下回ると酸素吸収性多層体が酸素を吸収する速度が遅くなるため好ましくなく、300μmを上回ると包装材料としての柔軟性が損なわれるため好ましくない。
【0022】
本発明に用いられる酸素吸収性組成物が、易酸化性熱可塑性樹脂及び遷移金属触媒からなる場合の、易酸化性熱可塑性樹脂には、芳香族ジアミンとジカルボン酸との重縮合で得られるポリアミド樹脂が好ましく用いられる。ポリアミド樹脂を作製する際の芳香族ジアミンは、オルソキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、メタキシリレンジアミンが挙げられるが、酸素吸収性能の観点からパラキシリレンジアミン、メタキシリレンジアミンが好ましく用いられ、メタキシリレンジアミンが特に好ましく用いられる。また、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンを混合しても良い。さらに性能に影響しない範囲で、各種脂肪族ジアミンや芳香族ジアミンを共重合成分として組み込んでもよい。ジカルボン酸としては、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンニ酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マロン酸等が挙げられる。これらの中でも、酸素吸収性能の観点でアジピン酸、セバシン酸、イソフタル酸が好ましく用いられる。また、性能に影響しない程度で、各種脂肪族ジカルボン酸や芳香族ジカルボン酸を共重合成分として組み込んでもよい。少なくとも芳香族ジアミンとジカルボン酸との重縮合によって得られるアミノ基濃度が1〜30μeq/gのポリアミド樹脂であるが、アミノ基濃度が1〜25μeq/gであると酸素吸収性能が向上するため特に好ましい。また、末端アミノ基濃度が30μeq/gより高いと、良好な酸素吸収性能を得ることができない。
【0023】
また、本発明に用いられる酸素吸収性組成物が、易酸化性熱可塑性樹脂及び遷移金属触媒からなる場合の易酸化性熱可塑性樹脂には、アリル基、ベンジル基、アルコール基、エーテル基、アルデヒド基、ケトン基及び第三級炭素のうち、少なくとも1つを有する熱可塑性樹脂も好ましく用いられる、なかでも本発明においては、アリル基を有する熱可塑性樹脂を易酸化性熱可塑性樹脂として用いることが好ましい。例えば炭素と炭素が二重結合で結合した部分を有する有機高分子化合物、第3級炭素原子に結合した水素原子を有する有機高分子化合物、ベンジル基を有する有機高分子化合物が挙げられ、これらを単独で、または組み合わせて用いることができる。炭素と炭素が二重結合で結合した部分を有する有機高分子化合物における炭素−炭素二重結合は高分子の主鎖にあっても良いし、側鎖にあっても良い。代表例として1,4−ポリブタジエン、1,2−ポリブタジエン、1,4−ポリイソプレン、3,4−ポリイソプレン、スチレンブタジエンゴム、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、エチレン/アクリル酸メチル/アクリル酸シクロヘキセニルメチル共重合体等が挙げられる。また、第3級炭素原子に結合した水素原子を有する有機高分子化合物として、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等が挙げられる。ベンジル基を有する有機高分子化合物として水添スチレンブタジエンゴム、水添スチレンイソプレンゴム等が挙げられる。これらのうち好ましくは、炭素と炭素が二重結合で結合した部分を有する有機高分子化合物、より好ましくは、1,2−ポリブタジエンである。本発明においては、酸素吸収性樹脂組成物は無機塩基及びアミン化合物を含有しないことが望ましい。酸素吸収性樹脂層(A)に無機塩基及びアミン化合物が含有されると酸素吸収性多層体の酸素吸収性能は低下する。
【0024】
本発明に用いられる易酸化性無機化合物には、鉄粉およびハロゲン化金属からなる公知の無機酸化物を使用することができる。鉄粉としては、還元鉄粉、噴霧鉄粉等の各種製法で得られる鉄粉を使用することができ、鉄粉の粒径は平均粒径10〜50μmが好ましく、その最大粒子径は酸素吸収性樹脂層の加工を考慮して制限をうける。ハロゲン化金属としては、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、または塩化バリウム等で例示されるアルカリ金属、またはアルカリ土類金属のハロゲン化物の一種以上が好ましく用いられる。
【0025】
加えて、本発明の易酸化性無機化合物としては、無機酸化物に還元処理を施すことによって、無機酸化物中の一部の酸素原子が除去され、格子欠陥が形成された、酸素欠陥を有する無機酸化物が挙げられる。無機酸化物としては、例えば、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウムなどの光導電性無機化合物が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
酸素吸収性樹脂組成物が易酸化性樹脂を使用している場合に組み合わせて使用される、遷移金属触媒は遷移金属の塩や酸化物等の金属化合物である。遷移金属としてはマンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅が好適であり、マンガン、鉄、コバルトが優れた触媒作用を示すため特に好適である。遷移金属の塩としては、遷移金属の鉱酸塩及び脂肪酸塩が含まれ、例えば、遷移金属の塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩又は高級脂肪酸塩である。代表例としてオクチル酸コバルト、オクチル酸マンガン、ナフテン酸マンガン、ナフテン酸鉄、ステアリン酸コバルト等が挙げられる。扱い易さの点から好ましい遷移金属触媒は、遷移元素金属の塩を担体に担持した担持触媒である。担体の種類は、特に限定されないが、ゼオライト、珪藻土、ケイ酸カルシウム類などを用いることができる。特に、触媒調製時及び調製後の大きさが0.1〜200μmの凝集体が、取扱い性が良いため好ましい。特に、樹脂組成物中に分散した際に10〜100nmである担体が、樹脂組成物中に配合した際に透明な樹脂組成物を与えるため好ましい。このような担体として、合成ケイ酸カルシウムが例示される。酸素吸収性樹脂組成物(b)への遷移金属触媒の配合割合は、酸素吸収性能と物理強度と経済性から、酸素吸収性樹脂組成物(b)に含有される易酸化性熱可塑性樹脂に対して、金属原子重量として0.001〜10wt%が好ましく、0.01〜1wt%が特に好ましい。
【0027】
隔離層(B)に用いられる熱可塑性樹脂の代表例としては、ポリエチレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、ポリプロピレン、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−エチレンブロック共重合体、エチレン−環状オレフィン共重合体等のポリオレフィン樹脂、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体の各種イオン架橋物、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のエチレン系共重合体、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン-ブタジエン共重合体等の合成ゴム系樹脂及びその水添樹脂、軟質ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリメチルペンテン、シリコーン樹脂及びポリシロキサンと他の樹脂との共重合体等が挙げられ、これらを単独で、または組み合わせて用いることができる。この隔離層(B)は、微少な空間を有するマイクロポーラス状の隔離層(セパレーター)であっても良い。
【0028】
隔離層(B)の厚さは厚くなると酸素吸収性多層体が酸素を吸収する速度が遅くなるため、1〜100μmが好ましく、1〜30μmがより好ましい。
【0029】
本発明の隔離層(B)は、熱可塑性樹脂を含有する酸素透過度1000cc/(m・24h・atm)以上の層を意味する。隔離層(B)の酸素透過度が1000cc/(m・24h・atm)未満であると、本発明の酸素吸収性多層体が酸素を吸収する速度が遅くなるため好ましくない。
【0030】
酸素吸収性樹脂層(A)及び隔離層(B)の層間強度はそれぞれ互いに融着性のある樹脂または同一の樹脂を選択することが好ましい。
【0031】
本発明の酸素吸収性多層体においては、ガス吸収剤を用いることができる。ガス吸収剤を用いる場合、ガス吸収剤は酸素吸収性樹脂層(A)に添加することも出来るし、隔離層(B)に添加する事もできる。
【0032】
本発明で用いられるガス吸収剤は、主にアルデヒド類、もしくはカルボン酸由来のガス性成分を化学的及び/または物理的に固定する物質である。本発明において用いられるガス吸収剤は、上記性能を有する物質であれば、本発明の効果を妨げない範囲で任意のものが用いられるが、アルデヒド類由来のガスを吸着する場合には、ヒドラジン誘導体、尿素誘導体またはグアニジン誘導体をガス吸収剤として用いることが好ましい。この際、これらの誘導体を単独でまたは組み合わせて用いてガス吸収剤としてもよいし、その他の物質と組み合わせて用いてガス吸収剤としてもよい。また、上記の機能を有する市販の消臭剤もガス吸収剤として用いることが出来る。カルボン酸由来のガス性成分を吸着する場合には塩基性化合物が好ましく、塩基性化合物としては、周期表1族又は2族の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、酸化物等が好ましく、2族金属の水酸化物、酸化物が特に好ましい。具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素カルシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム等が好ましく、酸化マグネシウムが特に好ましい。また、有機の塩基性化合物も使用可能であり、その代表は窒素上に非共有電子対を持つアミン化合物である。
【0033】
ヒドラジン誘導体、尿素誘導体またはグアニジン誘導体、塩基性化合物を担体に担持させてガス吸収剤とする場合には、この態様で用いることにより担体へガスの物理吸着も併せて期待できるためより好ましい。担体の種類は、特に限定されないが、ゼオライト、珪藻土、ケイ酸カルシウム、多孔質シリカ類、活性白土などを用いることができ、中でもケイ酸カルシウム、多孔質シリカ類、活性白土が好ましい。担体に担持させるヒドラジン誘導体、尿素誘導体またはグアニジン誘導体の量は、0.001〜30mmol/(g−担体)が好ましく、0.01〜10mmol/(g−担体)が特に好ましい。
【0034】
ガス吸収剤の配合割合は、隔離層(B)に含有される熱可塑性樹脂に対して0.01〜50wt%が好ましく、0.1〜10wt%が特に好ましい。配合割合が0.01wt%を下回ると発生する酸性ガスを十分に吸収することが出来ないため好ましくなく、50wt%を上回ると隔離層(B)の酸素透過度が著しく低下するため好ましくない。
【0035】
酸素吸収性樹脂層(A)及び隔離層(B)にガス吸収剤を配合する際には分散性を向上させるため、あるいは酸素吸収性樹脂層の酸素透過性を上げ酸素を吸収する速度を速くするために、さらに別種の熱可塑性樹脂を配合しても良い。配合する熱可塑性樹脂は、易酸化性熱可塑性樹脂との相溶性が高いものやフィルム化した際の酸素透過度が高いものが好ましい。公知のポリオレフィン系接着性樹脂組成物が好適に使用できる。
【0036】
酸素吸収性樹脂層(A)を構成する酸素吸収性樹脂組成物は、例えば易酸化性熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物と遷移金属触媒を含有する樹脂組成物を樹脂の溶融温度以上で混合することによって製造できる。また例えば熱可塑性樹脂組成物と酸素吸収を発現する無機物を該樹脂の溶融温度以上で混合することによって製造できる。
【0037】
ガス吸収剤は、酸素吸収性樹脂層(A)もしくは隔離層(B)に混合して使用することができ、各樹脂組成物の溶融する温度以上で混合することによって製造できる。
【0038】
本発明の酸素吸収性樹脂層(A)には光開始剤を含有させて酸素吸収反応を活性化させることができる。光開始剤とは、光照射により酸素吸収反応の反応系に効率的に活性種を発生させ、反応速度を向上させる働きを持つ物質である。本発明においては、光照射により励起した光開始剤分子が易酸化性熱可塑性樹脂から水素を引き抜いて活性なラジカルとし、酸素吸収反応を開始させることが好ましい。
【0039】
光開始剤の代表例としてベンゾフェノンとその誘導体、及びチアジン染料、金属ポルフィリン誘導体、アントラキノン誘導体等が挙げられる。好ましくは、ベンゾフェノン骨格構造を含むベンゾフェノン誘導体である。光開始剤の配合割合は、各々の酸素吸収性樹脂組成物中、0.001〜10wt%が好ましく、0.01〜1wt%が特に好ましい。
【0040】
本発明の酸素吸収性多層体に照射する光は、電磁波の1種であり、光開始剤にエネルギーを与え励起状態にするものである。酸素吸収を活性化する光の波長は180nm〜800nmが好ましく、200〜380nmの紫外光が特に好ましい。
【0041】
上記以外の酸素吸収を活性化させる方法として、電子線、α線、β線、γ線、X線等の放射線及び熱、高周波、超音波等の外部からのエネルギーの付与により、易酸化性熱可塑性樹脂から水素を引き抜いてラジカルとすることにより、酸素吸収反応を開始させることもできる。
【0042】
本発明の酸素吸収性多層体は、例えば 隔離層(B)としてのフィルム、シートに酸素吸収性樹脂層を押出装置を用いて押出ラミネートを行い製造できる。酸素吸収性樹脂層を押出装置を用いてフィルムを製造し、接着剤を使用して隔離層(B)としてフィルム、シートとラミネーションを行って製造しても良い。もしくは隔離層(B)/酸素吸収性樹脂層(A)/隔離層(B)の構成で共押出装置でも製造できる。また本発明の酸素吸収性多層体が有する所期の性能を損なわない範囲内で、任意の層を積層しても良く、これらの層は種々の方法を適宜組み合わせて積層することができる。
【0043】
本発明の酸素吸収性多層体は、酸素吸収性の包装材料として包装袋や包装容器の一部または全部に用いることができる。
【0044】
本発明の酸素吸収性包装容器の用途は液体へ接触する分野であり、液体への移行物質が少なく、実用性の高い酸素吸収性能を発揮する。接触する液体としては、水及び水溶液、有機溶媒並びにその混合物が例示され、水及び水溶液又は有機溶媒並びにその混合物、にイオン性液体を含む電解液であっても良い。特に炭酸エチレンや炭酸ジエチルなどの有機溶媒に、ヘキサフルオロリン酸リチウム (LiPF6)といったリチウム塩が溶解した物に用いることができる。その他の好適に用いることができる液体としては、溶質としてLiPF6 の他、LiBF4 などのフッ素系錯塩、LiN(SO2Rf)2・LiC(SO2Rf)3 (ただしRf = CF3,C2F5)、などの塩を含むものが例示され、溶媒としては炭酸エチレン・炭酸プロピレンなどの環状炭酸エステル系高誘電率・高沸点溶媒、低粘性率溶媒である炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル等の低級鎖状炭酸エステル、低級脂肪酸エステル等を用いたものが例示される。
【0045】
また、本発明の酸素吸収性包装容器には、コバルト、マンガン、ニッケル、リン酸鉄、コバルト酸リチウムなどのリチウム遷移金属酸化物(LiCoO、LiMn2O4、LiNiO2、LiFePO4、Li2FePO4F、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2、Li(LiaNixMnyCoz)O2)及びグラファイト、ハードカーボン、スズ、ケイ素材料、チタン酸リチウム 、黒鉛 (LiC6)、ハードカーボン (LiC6) 、チタネイト (Li4Ti5O12)、Si (Li4.4Si)、Ge (Li4.4Ge)の包装容器に用いられる。
【0046】
本発明の酸素吸収容器に、上記記載の炭酸エチレンや炭酸ジエチルなどの液体と共にリチウム遷移金属化合物を入れて置いた際に発生する酸素を吸収することで、包装容器の膨らみや破損を防ぐことが可能である。
【実施例】
【0047】
以下に実施例と比較例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。以下の実施例及び比較例においては下記の材料を使用し酸素吸収性樹脂組成物を作製しフィルム、シートを作成した。
【0048】
(酸素吸収性樹脂組成物1)
オクチル酸コバルトを合成ケイ酸カルシウムに含浸し、減圧乾燥して遷移金属触媒含有粉末1とし、遷移金属触媒含有粉末1と易酸化性熱可塑性樹脂であるポリブタジエンとを、2軸混練押出機を用いて140℃で溶融混練することにより、酸素吸収性樹脂組成物1を得た。(RBに対するコバルト原子の含量:0.12wt%、合成ケイ酸カルシウム(平均粒子径2μm)の含量:0.75wt%、PBPの含量:0.21wt%)
【0049】
(酸素吸収性樹脂組成物2)
オクチル酸コバルトを合成ケイ酸カルシウムに含浸し、減圧乾燥して遷移金属触媒含有粉末1とし、遷移金属触媒含有粉末1と、光開始剤の4−フェニルベンゾフェノン(以下、「PBP」と表記する)を混合しこれらを易酸化性熱可塑性樹脂であるポリブタジエンと2軸混練押出機を用いて140℃で溶融混練することにより、酸素吸収性樹脂組成物2を得た(RBに対するコバルト原子の含量:0.12wt%、合成ケイ酸カルシウム(平均粒子径2μm)の含量:0.75wt%、PBPの含量:0.21wt%)。
【0050】
(酸素吸収性樹脂組成物3)
メタキシリレンジアミン:セバシン酸:アジピン酸を0.992:0.4:0.6の割合のモル比で使用し、溶融重合及び固相重合を行ってポリアミド樹脂を合成した(以下、当該ポリアミド樹脂をポリアミド1と表記する)。得られた、ポリアミド1に遷移金属触媒として、ステアリン酸コバルトをコバルト濃度400ppmとなるよう二軸押出機にて、溶融したポリアミド1にサイドフィードにて添加した。さらに、得られたポリアミドとステアリン酸コバルトの混合物(以下、ステアリン酸コバルト含有ポリアミド1と表記する)に、ポリオレフィン樹脂として、直鎖状低密度ポリエチレン(MFR4.0g/10分(JIS K7210に準拠して測定)、240℃のMFR7.9g/10分、250℃のMFR8.7g/10分、以下LLDPE1と表記する)、及び無水マレイン酸変性ポリエチレン(MFR6.0g/分(JIS K7210に準拠して測定)、以下MAPEと表記する)を、ステアリン酸コバルト含有ポリアミド1:LLDPE:MAPE=40:55:5の重量比で、240℃にて溶融混練し、酸素吸収性樹脂組成物3を得た。
【0051】
(酸素吸収性樹脂組成物4)
酸素吸収性樹脂組成物2に、酸化マグネシウムと、エチレン尿素を質量比100対1.4対6.0で2軸混練押出機を用いて160℃で溶融混練することにより、酸素吸収性樹脂組成物4を得た。
【0052】
(隔離層用樹脂組成物1)
直鎖状低密度ポリエチレン(製品名;日本ポリエチレン(株)製「ノバテックLL UF641」、MFR2.1g/10分(JIS K7210に準拠して測定)、240℃のMFR4.4g/10分、250℃のMFR5.2g/10分、以下LLDPE1と表記する)を隔離層用樹脂組成物1を作成した。
【0053】
(隔離層用樹脂組成物2)
LLDPE1に酸化マグネシウムを、質量比100対1.4で2軸混練押出機を用いて160℃で溶融混練することにより、隔離層用樹脂組成物2を作製した。
【0054】
(隔離層用樹脂組成物3)
LLDPE1にNS−241を、質量比100対6で混合し、2軸混練押出機を用いて140℃で溶融混練して隔離層用樹脂組成物3を作製した。
【0055】
(実施例1)
酸素吸収性樹脂組成物1を酸素吸収性樹脂層(A1)、隔離層用脂組成物1を隔離層(B1)とした多層フィルムを2種3層の共押出により作製した(共押出温度は160℃)。層構成は、順に厚みが約10μmの隔離層(B1)、厚みが約20μmの酸素吸収性樹脂層(A1)、厚みが約10μmの隔離層(B1)とし、酸素吸収性多層体1とした。この酸素吸収性多層体1をガスバリア袋に液体として、炭酸エチレン及び炭酸ジメチルをそれぞれ各20mL入れ、200cm2になるように酸素吸収性多層体1を浸漬させる。この中にコバルト酸リチウム5gを入れ該フィルムの全面に液体が接触した状態とし、袋内のヘッドスペースは空気を5.0mLなるよう調整し、ガスバリア袋を密閉して酸素吸収性包装容器サンプルとした。
【0056】
(実施例2)
酸素吸収性樹脂組成物2を酸素吸収性樹脂層(A2)、隔離層用脂組成物1を隔離層(B1)とした多層フィルムを2種3層の共押出により作製した(共押出温度は160℃)。層構成は、順に厚みが約10μmの隔離層(B1)、厚みが約20μmの酸素吸収性樹脂層(A2)、厚みが約10μmの隔離層(B1)とし、酸素吸収性多層体2とした。
【0057】
(実施例3)
酸素吸収性樹脂組成物2を酸素吸収性樹脂層(A2)、隔離層用脂組成物2を隔離層(B2)とした多層フィルムを2種3層の共押出により作製した(共押出温度は160℃)。層構成は、順に厚みが約10μmの隔離層(B2)、厚みが約20μmの酸素吸収性樹脂層(A2)、厚みが約10μmの隔離層(B2)とし、酸素吸収性多層体3とした。
【0058】
(実施例4)
酸素吸収性樹脂組成物2を酸素吸収性樹脂層(A2)、隔離層用脂組成物2を隔離層(B2)とした多層フィルムを2種3層の共押出により作製した(共押出温度は160℃)。層構成は、順に厚みが約10μmの隔離層(B3)、厚みが約20μmの酸素吸収性樹脂層(A2)、厚みが約10μmの隔離層(B3)とし、酸素吸収性多層体4とした。
【0059】
(実施例5)
酸素吸収性樹脂組成物3を酸素吸収性樹脂層(A3)、隔離層用脂組成物1を隔離層(B1)とした多層フィルムを2種3層の共押出により作製した(共押出温度は160℃)。層構成は、順に厚みが約10μmの隔離層(B1)、厚みが約20μmの酸素吸収性樹脂層(A1)、厚みが約10μmの隔離層(B1)とし、酸素吸収性多層体5とした。
【0060】
(実施例6)
酸素吸収性樹脂組成物2を厚み約20μの単層で成膜し、酸素吸収性樹脂層(A2)のみからなる、酸素吸収性フィルムを作成した。
【0061】
(比較例1)
酸素吸収性樹脂組成物1を厚み約20μの単層で成膜し、酸素吸収性樹脂層(A1)のみからなる、酸素吸収性フィルムを作成した。
【0062】
下記に示す評価方法により、酸素吸収性多層フィルムの酸素吸収性能及び液中への溶出性評価、及びガス性有機物放出濃度を評価した。
【0063】
(酸素吸収性多層フィルムの評価方法(以下評価方法1))
サンプルを25℃60%RHの環境下で保存し、経時でエタノールの液中溶存酸素濃度はニードル式酸素濃度計Microx TX3(PreSens社)で測定し、ヘッドスペース(気相)の酸素濃度は、ガスクロマトグラフィーにて測定した。
【0064】
結果を表1にまとめる。
【0065】
【表1】

【符号の説明】
【0066】
(A):酸素吸収層
(B):隔離層
(C):酸素吸収性樹脂組成物からなるフィルム
(D):液体
(E):バリア性容器
(F):バリア容器内のヘッドスペース(気相)
(G):バリア容器内に封入した液体(液相)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素吸収性組成物からなる酸素吸収性フィルムまたはシートの少なくとも一部が液体に接触する態様で配置された酸素吸収性包装容器。
【請求項2】
該酸素吸収性組成物が、易酸化性熱可塑性樹脂及び遷移金属触媒、又は熱可塑性樹脂及び易酸化性無機化合物を含有することを特徴とする請求項1記載の酸素吸収性包装容器。
【請求項3】
該酸素吸収性のフィルムまたはシートの片面又は両面に、熱可塑性樹脂組成物からなる隔離層が配されている事を特徴とする請求項1又は2に記載の酸素吸収性包装容器。
【請求項4】
該液体が、環状炭酸エステル、低級鎖状炭酸エステル及び低級脂肪酸エステルからなる群の少なくとも1種の有機溶媒と、リチウムフッ素錯塩及びリチウム塩からなる群の少なくとも1種の溶質を含む請求項1〜3のいずれかに記載の酸素吸収性包装容器。
【請求項5】
該有機溶媒が、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル及び炭酸ジエチルからなる群の少なくとも1種を含む請求項4記載の酸素吸収性包装容器。
【請求項6】
該溶質が、LiPF6、LiBF4及びLiN(SO2Rf)2・LiC(SO2Rf)3 (ただしRf = CF3,C2F5)なる群の少なくとも1種を含む請求項4又は5記載の酸素吸収性包装容器。
【請求項7】
液体と共存させることで酸素を生成するコバルト、マンガン、ニッケル、リン酸鉄、コバルト酸リチウムなどのリチウム遷移金属酸化物(LiCoO、LiMn2O4、LiNiO2、LiFePO4、Li2FePO4F、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2、Li(LiaNixMnyCoz)O2)及びグラファイト、ハードカーボン、スズ、ケイ素材料、チタン酸リチウム 、黒鉛 (LiC6)、ハードカーボン (LiC6) 、チタネイト (Li4Ti5O12)、Si (Li4.4Si)、Ge (Li4.4Ge)を一つ以上含んでなる請求項1〜6のいずれかに記載の記載の酸素吸収性包装容器。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の酸素吸収性包装容器を用いた酸素吸収方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−171666(P2012−171666A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36655(P2011−36655)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】