説明

酸素検知剤組成物。

【課題】 酸素の有無あるいは濃度を色の変化により識別する光および熱に対して安定性が改良された酸素検知剤組成物を提供する。
【解決手段】 シクロデキストリン類、可逆変色性有機色素および還元剤を含む酸素検知剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸素検知剤組成物に関する。より詳しくは酸素の有無あるいは濃度を色の変化により識別でき、しかも光および熱に対して安定な酸素検知剤組成物に関するものである。本発明の酸素検知剤組成物は、粉末状、錠剤状、紙状、布状、糸状又はインキとして使用できる。
【背景技術】
【0002】
従来より、酸化還元により可逆的に色が変わる可変性有機色素を利用した酸素検知剤が提案されている。例えば、チアジン染料あるいはアジン染料、オキサジン染料などの有機色素と還元剤とからなる固形状の酸素検知剤が開示されている(特許文献1および特許文献2)。また、チアジン染料等と還元性糖類とアルカリ性物質とを樹脂溶液中に溶解もしくは分散させた酸素インジケーターインキ組成物が知られている(特許文献3)。市販の錠剤型酸素検知剤(登録商標エージレスアイ、三菱瓦斯化学(株)製)および酸素検知機能を有するインキ組成物を塗布した酸素検知体(登録商標ペーパーアイ、三菱瓦斯化学(株)製)は、透明な包装容器内の酸素濃度が0.1容量%未満の無酸素状態であることを簡便に色変化で示す機能製品であり、脱酸素剤(登録商標エージレス、三菱瓦斯化学(株)製)と共に食品の鮮度保持および医療医薬品の品質保持等に使用されている。
【0003】
しかしながら、従来の酸素検知剤は、耐光性および保存安定性が不十分で、光照射下では退色したり変色機能が低下することがあり、また、高温下では褐色化したり変色機能が低下することがあるため、鮮明な色彩を長期間維持するためには遮光下かつ低温下で保存しなければならない欠点を有していた。特にこの傾向は酸素検知インキを塗布した酸素検知体の場合に顕著であった。
近年、層状ケイ酸塩の層間に有機色素を挿入することにより耐光性と保存安定性が大幅に改善された酸素検知剤組成物(特許文献4)および酸素検知インキ組成物(特許文献5)が開発されている。また、酸素検知体は、空気下から無酸素状態に置かれた際に迅速に変色する変色応答性が要求される。
【0004】
【特許文献1】特開昭53−117495号公報
【特許文献2】特開昭53−120493号公報
【特許文献3】特開昭56−084772号公報
【特許文献4】特開2004−45365号公報
【特許文献5】特開2004−323740号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、耐光性および保存安定性に優れ、かつ応答性に優れた実用性に優れた酸素検知体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記従来技術の問題点に鑑み鋭意研究を行った結果、包接化合物の使用によって、耐光性と保存安定性に優れ、かつ雰囲気が無酸素状態に変化した際の変色応答性に優れることを見出し本発明に到達した。
すなわち、本発明は、シクロデキストリン類、可逆変色性有機色素および還元剤を含む酸素検知剤組成物に関するものである。さらに、前記酸素検知剤組成物を担体に担持させてなる酸素検知剤、前記酸素検知剤を打錠してなる酸素検知剤錠剤前記酸素検知剤組成物を紙、布または糸に含ませてなる酸素検知体、前記酸素検知剤組成物を含有する酸素検知インキ及び該酸素検知インキを塗布または印刷した酸素検知体に関するものである。
【0007】
本発明は、シクロデキストリン類を使用することを特徴とする。シクロデキストリン類が種々の化合物を包接して安定化又は機能化を促す場合があることは知られている。しかしながら、少なくとも可逆変色性有機色素がシクロデキストリン類に包接された複合体を形成する本発明の構成によって、耐光性・保存安定性と変色応答性という互いに矛盾する機能を両立させる酸素検知剤組成物が提供されることは、予想し難い発見であった。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、光および熱に対して比較的安定な酸素検知剤が提供される。
本発明の酸素検知剤は、形状が粉末状、錠剤、布または糸に含浸させたもの、または、これを含有する酸素検知インキを塗布または印刷したものとして、また、透明あるいは半透明な固形状のものとして、食品の保存および医療医薬品の品質保持の分野において極めて高い価値を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明で用いられるシクロデキストリン類とは、環状オリゴ糖である。クラウンエーテルのように包接能を有する化合物の一種で、環の内部に分子を取り込むことができる。シクロデキストリンは環の外部は親水性で、内部は疎水性という特異的な構造をつくっているため、様々な分子を取り込んで包接化合物を形成することができる。
【0010】
シクロデキストリンは、疎水空洞内に化合物を取り込み、薬物の物理化学的性質を改善することができるため、食品、化粧品、臨床検査薬、繊維、樹脂など多方面で利用されている。特に化合物がゲスト化合物の場合、シクロデキストリンとの包接複合体の形成により、温度、湿度、酸素、光などに不安定な分子を安定化させたり、水に溶けにくい化合物の溶解性の改善のために汎用されている。
【0011】
シクロデキストリンは、高度に選択的な酵素的合成によって製造されることが一般的である。シクロデキストリンは、一般にドーナツ形状の環をなす6個、7個または8個のグルコースモノマーからなり、グルコースの個数に応じて各々α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリンまたはγ-シクロデキストリンと呼ばれる。グルコースモノマーの特異的な結合によって、シクロデキストリンが剛性を有する円錐台分子構造をとり、その内部に一定の体積の空洞が形成される。この内部空間がシクロデキストリンの重要な構造的特徴であり、この構造によって数々の分子と錯体を形成することができる。錯体を形成する分子は、シクロデキストリンの内部空間に少なくとも部分的に嵌合し、包接化合物を形成できる大きさでなければならない。
【0012】
本発明で用いられる可逆変色性有機色素は、分子内に動きやすいπ電子を有する長い共役二重結合系を含んでいる芳香族化合物であって、酸化還元により可逆的に色彩が変わる酸化還元可変性有機色素である。本発明の可変性有機色素として、酸化還元指示薬、あるいはチアジン染料、アジン染料、オキサジン染料、インジゴイド染料、チオインジゴイド染料などが好適に用いられる。例えば、メチレンブルー、ニューメチレンブルー、メチレングリーン、バリアミンブルーB、ジフェニルアミン、フェロイン、カプリブルー、サフラニンT、インジゴ、インジゴカルミン、インジゴ白、インジルビンなどが挙げられる。好ましくは、メチレンブルーに代表されるチアジン染料である。可逆変色性有機色素に組み合わせて、不変性有機色素等の非変色性着色剤を使用することもできる。これにより色調の変化を分かりやすくすることができる。
【0013】
本発明で用いられる還元剤は、酸素濃度が大気中より低い条件下で上記の有機色素を還元する化合物であって、例えば、グルコース、フルクトース、キシロースなどの単糖類、マルトースなどの還元性二糖類、アスコルビン酸およびその塩、亜ジチオン酸およびその塩、システインおよびその塩などが挙げられる。
【0014】
還元剤の還元活性を高めるために、更に、塩基性物質を加えることが望ましい場合がある。塩基性物質としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどの水酸化塩や炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウムなどの炭酸塩などが選択できる。
【0015】
本発明の酸素検知剤おいて、シクロデキストリン類、可逆変色性有機色素及び還元剤の配合比は、シクロデキストリン類1重量部に対して、可逆変色性有機色素は、0.001重量部〜100重量部、好ましくは、0.005〜50重量部、より好ましくは、0.01重量部〜10重量部である。還元剤は、シクロデキストリン類1重量部に対して、0.01重量部〜1000重量部、好ましくは、0.1重量部〜500重量部である。塩基性物質は、還元剤1重量部に対して、0.001重量部〜1000重量部、好ましくは、0.01重量部〜500重量部である。
【0016】
本発明の酸素検知剤組成物を担体に含浸させることにより、形状が粉末状である酸素検知剤粉粒体を得ることができる。担体としては、各種の無機物粉粒体が使用でき、特に塩基性無機物が好ましい。さらに、本発明の酸素検知剤組成物を担体に含浸させた後、これを打錠することで、錠剤形状とすることができる。本発明の酸素検知剤組成物のアルカリ性水溶液を糸・紙・布などに含浸することにより、フィルム状、シート状、糸状形態にすることができる。
【0017】
本発明により、耐光性および保存安定性に優れ、かつ酸素濃度低下に対する応答性にも優れた酸素検知体が提供される。本発明の酸素検知体は、食品の保存および医療医薬品の品質保持等の無酸素保存分野において極めて高い利用価値を有する。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明する。
実施例1
γ−シクロデキストリン0.20g、可逆変色性有機色素メチレンブルー0.01gおよびD−(+)−グルコース1.0gが溶解している水溶液10mLを炭酸マグネシウム粉末25gに混合し、含浸させ、青色粉末状の酸素検知剤を得た。
この青色粉末状の酸素検知剤を用いて以下の変色試験を行った。すなわち、市販の脱酸素剤(商品名:エージレスSA、三菱瓦斯化学(株)製)とともにガスバリア性容器内に密封保存し、ジルコニア式酸素濃度計を用いて容器内酸素濃度を追跡した。容器内酸素濃度が0.1容量%未満の脱酸素雰囲気になってから1時間以内に、酸素検知剤は無酸素状態を示す白色になり、開封による空気曝露により速やかに再び青色になった。繰り返しこの操作を行ったところ、この色調変化は、酸素濃度により可逆的であり、酸素検知剤は繰り返し使用できた。
【0019】
実施例2
シクロデキストリン混合物(商品名:セルデックスTB−50、日本食品化工(株))0.45g、メチレンブルー0.03g、非変色性有機色素フロキシン0.02gおよびキシロース2.5gが溶解している水溶液15mLを炭酸マグネシウム50gに混合し、含浸させた後、錠剤型に成形し、青紫色錠剤型の酸素検知剤を得た。
【0020】
この青紫色錠剤型の酸素検知剤を用いて実施例1と同様の変色試験を行った。ガスバリア性容器内が酸素濃度0.1容量%未満の脱酸素雰囲気にってから1時間以内に、酸素検知剤は無酸素状態を示すピンク色になり、開封による空気曝露により速やかに再び青色になった。繰り返しこの操作を行ったところ、この色調変化は、酸素濃度により可逆的であり、酸素検知剤は繰り返し使用できた。
【0021】
実施例3
γ−シクロデキストリン0.20g、メチレンブルー0.01gおよびD−(+)−グルコース1.0gが溶解している水溶液5mLに水酸化ナトリウム水溶液を混合してpH11.0に調整した混合液を得た後、濾紙に含浸させ青色シート状の酸素検知剤を得た。
【0022】
得られた青色シート状の酸素検知剤の光照射劣化加速試験を行った。すなわち、得られた酸素検知剤に、蛍光灯を光源とする5000ルクスの可視光を25℃、60%RH、空気下にて照射し、可視分光光度計で有機色素成分の濃度変化を追跡することにより耐光性を評価した。蛍光灯照射6時間後も極大吸収波長約650nmから計測されたメチレンブルー濃度は、全く減少していなかった。すなわち、本発明の酸素検知剤は、光照射下でも劣化しにくい酸素検知剤であった。
【0023】
比較例1
シクロデキストリン類を使用することなく、メチレンブルー0.01gおよびD−(+)−グルコース1.0gが溶解している水溶液5mLに水酸化ナトリウム水溶液を混合してpH11.0に調整した混合液を得た後、濾紙に含浸させた青色シート状の酸素検知剤を得た。
【0024】
比較例1にて得られた青色シート状の酸素検知剤に、実施例3と同様に蛍光灯を光源とする5000ルクスの可視光を25℃、60%RH、空気下にて照射して光照射劣化加速試験を行った。蛍光灯照射開始6時間後、極大吸収波長約650nmから計測されたメチレンブルー濃度は、50%減少していた。すなわち、従来型の酸素検知剤は、光照射により色素成分が劣化した。
【0025】
実施例4
実施例3にて得られた青色シート状の酸素検知剤を用いて、60℃、60%RH、脱酸素雰囲気下における加熱劣化加速試験を行った。すなわち、得られたフィルム状の酸素検知剤をガスバリア性容器内が酸素濃度0.1容量%未満の脱酸素雰囲気に密封し、60℃、60%RH下に保管し、耐熱性を評価した。評価は、保管試料を空気下に戻した後、可視分光光度計を用いて有機色素成分の濃度変化を追跡した。加熱劣化加速試験開始3日後も極大吸収波長650nmから計測されたメチレンブルー濃度は、全く減少していなかった。すなわち、本発明の酸素検知剤は、熱によっても劣化しにくい酸素検知剤であった。
【0026】
比較例2
比較例1で得られた青色シート状の酸素検知剤を用いて、実施例4と同様に60℃、60%RH、脱酸素雰囲気下に保管し、加熱劣化加速試験を行った。評価は、保管試料を空気下に戻した後、可視分光光度計を用いて有機色素成分の濃度変化を追跡した。エージレスアイCの極大吸収波長650nmから計測されたメチレンブルー濃度は、3日後20%減少した。すなわち、従来型の酸素検知剤は、熱により色素成分が劣化した。
【0027】
実施例5
ヒドロキシプロピル化β−シクロデキストリン(商品名:HP−β−シクロデキストリン、日本食品化工(株)製)10.0g、メチレンブルー1.0gをグリセリン100gに混合した後に、L−(+)−アスコルビン酸1.8gを加えて混合し、青色の酸素検知インキ顔料を得た。
【0028】
この酸素検知インキ顔料と、ロジンのペンタエリスリトールエステル3.8g、プロピレングリコールモノエチルエーテル1.3g、ミネラルスピリット1.3g、粘土2.0gを混合して酸素検知インキとした。この酸素検知インキを用いて青色の絵文字を上質紙にスクリーン印刷し、印刷物を、脱酸素剤エージレスSAPE(三菱瓦斯化学(株)製)および含水綿布と共に、透明な気体非透過性プラスチック袋に密封した。8時間後、袋内雰囲気の酸素濃度は0.1容量%未満になったが、その約1時間後に青色絵文字は無酸素状態を示す無色になり、開封による空気曝露後5分以内に元の青色に戻った。本発明の酸素検知インク顔料の印刷適性と反復的酸素検知能を有することが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロデキストリン類、可逆変色性有機色素および還元剤を含む酸素検知剤組成物。
【請求項2】
少なくとも可逆変色性有機色素の一部が、シクロデキストリン類に包接された複合体を形成している請求項1記載の酸素検知剤組成物。
【請求項3】
シクロデキストリン類が、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、α−シクロデキストリン誘導体、β−シクロデキストリン誘導体およびγ−シクロデキストリン誘導体からなる群より選択された1種または2種以上の混合物である請求項1記載の酸素検知剤組成物。
【請求項4】
請求項1記載の酸素検知剤組成物と非変色性着色剤を含む請求項1記載の酸素検知剤組成物。
【請求項5】
請求項1記載の酸素検知剤組成物を担体に担持させてなる酸素検知剤。
【請求項6】
請求項5記載の酸素検知剤を打錠してなる酸素検知剤錠剤。
【請求項7】
請求項1記載の酸素検知剤組成物を紙、布または糸に含ませてなる酸素検知体。
【請求項8】
請求項1記載の酸素検知剤組成物を含有する酸素検知インキ。
【請求項9】
請求項8 記載の酸素検知インキを塗布または印刷した酸素検知体。

【公開番号】特開2007−3259(P2007−3259A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−181604(P2005−181604)
【出願日】平成17年6月22日(2005.6.22)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】