説明

酸素濃縮器の運転停止方法および酸素濃縮器

【課題】外気圧などに変化があっても、バルブの弁座漏れによって水分が吸着筒に浸入することがなく、吸着筒の劣化を確実に防止できる酸素濃縮器の運転停止方法を提供する。
【解決手段】コンプレッサ2の運転を停止すると共にバッファタンク6の吐出側に接続した閉止弁20を閉じ、酸素製造を停止した後、バッファタンク6からの酸素を各吸着筒4、5内に供給し、各吸着筒4、5内に残存する水分をサイレンサ8を介して大気中に排出した後、吸着筒4、5の大気側の切替弁9を閉じると共に各吸着筒4、5を大気圧以上に保持する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気から窒素を吸着して酸素を製造する酸素濃縮器の運転停止方法および酸素濃縮器に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素濃縮器は、窒素を選択的に吸着する吸着剤を充填した複数の吸着筒を用いて、この吸着筒のいずれかに圧縮空気を供給して酸素を製造し、他方で窒素を吸着した吸着筒を脱着し、これを交互に繰り返して酸素を製造する装置である。
【0003】
図4の酸素濃縮器41は、PSA(Pressure Swing Adsorption)方式を用いたPSA酸素濃縮器であり、窒素を選択的に吸着するゼオライトなどの吸着剤42をそれぞれ充填した、2つの吸着筒43が備わっている。ゼオライトなどの窒素吸着剤42は親水性であり、長期的な使用により大気中の水分を吸着すると、窒素吸着性能が低下することが知られている。
【0004】
酸素濃縮器41では、コンプレッサ44で一方の吸着筒43に高圧の空気を供給して、空気中の窒素を吸着剤42に吸着させて分離する吸着工程と、他方の吸着筒43の圧力を下げることで、吸着した窒素を放出し吸着剤42の再生を行う再生工程(脱着工程)とを繰り返し、高濃度酸素を連続的に製造している。
【0005】
製造された高濃度酸素は、圧力や流量や濃度の変動を軽減するため、吸着筒43より下流側に設置されたバッファタンク45に蓄えられる。
【0006】
吸着工程で製造された、あるいは、バッファタンク45に蓄えられた高濃度酸素の一部は、再生工程で排気側に大気開放された吸着筒43に導入され、吸着剤42に吸着した窒素のパージを促進する。
【0007】
吸着筒43に供給する圧縮空気は、大気中の水分を含んでいるので、コンプレッサ45の出口にドレンポット(図示せず)などを設置して、凝縮した水分を除去する機構が採用されている(ドレンポットが設置されない場合もある)。また、ドレンポットで凝縮されずに蒸気として吸着筒43に送られた水分は、各吸着筒43の上流に設置された吸湿剤46で除去される。
【0008】
吸着剤42の上流に設置された吸湿剤46で吸着した水分は、再生工程時に大気開放することで脱着すると共に、製品ガスである乾燥酸素の一部を導入することでパージされる。
【0009】
酸素濃縮器41の通常運転時のパージガス量は、吸着剤42で吸着した窒素ガスのパージを考慮して決定されるため、吸湿剤46で吸着した水分を完全に脱着できていない。
【0010】
そこで、運転停止時には、バッファタンク45に蓄えられた乾燥酸素を利用して、通常運転時のパージガス量の1.5〜4倍の流量のパージガスを流し、水分脱着をさらに促進する(例えば、特許文献1参照)。
【0011】
十分な水分パージが完了した後、吸着筒43に接続されたコンプレッサ側ライン、排気側ライン、バッファタンク側ラインのそれぞれのバルブを閉じることにより、外部からの水分浸入を防止する。
【0012】
【特許文献1】特開2003−180837号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、一般的にバルブのリークを完全に防止することは不可能である。例えば、空気用のプロセスバルブでは、作用する圧力によるが、オリフィス径が数mmのバルブでは最大0.2cm/min(ANR)、オリフィス径が十数mmのバルブでは最大1cm/min(ANR)程度の弁座漏れの発生するバルブがある。従って、長期間の運転停止中には、外気圧の変化などによって、大気側からの若干の空気(水分)の浸入は避けられない。
【0014】
また、運転停止期間が長い方が、ゼオライトは水分を強く吸着し、脱着再生しがたくなることがわかっている。従って、運転停止期間が長期間である場合には、外気からの水分浸入が少量であっても、窒素吸着能力が低下する。
【0015】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、外気圧などに変化があっても、バルブの弁座漏れによって水分が吸着筒に浸入することがなく、吸着筒の劣化を確実に防止できる酸素濃縮器の運転停止方法および酸素濃縮器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、請求項1の発明は、コンプレッサからの圧縮空気を、窒素を選択的に吸着する吸着剤が充填された複数の吸着筒のいずれかに供給して酸素を製造すると共に、これをバッファタンクに貯留し、他方窒素を吸着した吸着筒をサイレンサを介して大気側に連通させると共に、上記バッファタンクから酸素を供給して吸着した窒素を脱着させて再生し、これを交互に繰り返して酸素を連続的に製造する酸素濃縮器の運転停止方法において、上記コンプレッサの運転を停止すると共に上記バッファタンクの吐出側に接続した閉止弁を閉じ、酸素製造を停止した後、上記バッファタンクからの酸素を各吸着筒内に供給し、各吸着筒内に残存する水分を上記サイレンサを介して大気中に排出した後、上記吸着筒の大気側の切替弁を閉じると共に各吸着筒を大気圧以上に保持する酸素濃縮器の運転停止方法である。
【0017】
請求項2の発明は、上記吸着筒を大気圧以上に保持すると共に、上記吸着筒を所定の温度に加熱保持する請求項1に記載の酸素濃縮器の運転停止方法である。
【0018】
請求項3の発明は、空気を圧縮するコンプレッサと、窒素を選択的に吸着する吸着剤が充填された複数の吸着筒と、その吸着筒で濃縮した酸素を貯留するバッファタンクと、上記吸着筒の大気側に設置されたサイレンサと、上記コンプレッサからの圧縮空気をいずれかの吸着筒に交互に供給して吸着させると共に、窒素を吸着した他の吸着筒を脱着させて脱着ガスをサイレンサを介して排気するための切替弁とを備えた酸素濃縮器において、上記バッファタンクの吐出側に閉止弁を接続し、上記吸着筒に上記サイレンサ側がノーマルクローズとなるよう上記切替弁を接続して構成し、かつ酸素製造停止後に、上記コンプレッサを停止すると共に上記閉止弁を閉とし、上記バッファタンク内の酸素を各吸着筒と上記切替弁とを介して上記サイレンサ側に流して各吸着筒内の水分を外部に排出した後、各吸着筒を大気圧以上に保持するよう上記切替弁を閉とする制御手段を備えた酸素濃縮器である。
【0019】
請求項4の発明は、上記バッファタンクと並列に、酸素製造停止後に各吸着筒内の水分をパージする酸素を貯留しておく少なくとも1つの予備バッファタンクを設けた請求項3に記載の酸素濃縮器である。
【0020】
請求項5の発明は、上記バッファタンクは、酸素製造停止後に各吸着筒をパージし、かつパージ終了後に各吸着筒内の圧力を大気圧以上とするのに十分な容量を有する請求項3に記載の酸素濃縮器である。
【0021】
請求項6の発明は、上記制御手段は、上記酸素濃縮器の運転停止期間が短いときは、運転停止中に各吸着筒を大気圧以上に保持し、上記酸素濃縮器の運転停止期間が長いときは、運転停止中に各吸着筒を大気圧より高い圧力で保持するよう制御する請求項3〜5いずれかに記載の酸素濃縮器である。
【0022】
請求項7の発明は、上記吸着筒内の下流側に上記吸着剤が配置されると共に、上記吸着筒内の上流側に吸湿剤が配置される請求項3〜6いずれかに記載の酸素濃縮器である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、外気圧などに変化があっても、バルブの弁座漏れによって水分が吸着筒に浸入することがなく、吸着筒の劣化を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面にしたがって説明する。
【0025】
まず、酸素濃縮器の運転停止方法に用いる酸素濃縮器を説明する。
【0026】
第1の実施形態に用いられる酸素濃縮器は、PSA方式により酸素を濃縮するPSA酸素濃縮器であり、例えば、オゾン発生器などに適用される。
【0027】
図1は、本発明の好適な第1の実施形態を示す酸素濃縮器の概略図である。
【0028】
図1に示すように、第1の実施形態に係る酸素濃縮器1は、空気を圧縮するコンプレッサ2と、窒素を選択的に吸着する吸着剤3が充填された2つの吸着筒4、5と、その吸着筒4、5で濃縮した高濃度酸素を貯留するバッファタンク(第1バッファタンク)6と、バッファタンク6と並列に配置された予備バッファタンク(第2バッファタンク)7と、吸着筒4、5の大気開放側(排気側)に設置されたサイレンサ8と、上記コンプレッサ2からの圧縮空気をいずれかの吸着筒に交互に供給して吸着させると共に、窒素を吸着した他の吸着筒を脱着させて脱着ガスをサイレンサ8を介して排気するための切替弁9と、その切替弁9の開閉制御などを行う制御手段としての制御器10とを備える。
【0029】
コンプレッサ2は、例えば、電動式のダイヤフラムコンプレッサからなる容積型コンプレッサである。そのコンプレッサ2と切替弁9間、切替弁9と吸着筒4、5間は、流路となる配管などの空気供給ライン11で接続される。
【0030】
空気供給ライン11には、外気を遮断する上流側閉止弁としてのコンプレッサ閉止弁12が設けられる。コンプレッサ閉止弁12の下流側の空気供給ライン11には、空気供給ライン11から分岐した枝管21を介して圧力計13が接続される。
【0031】
切替弁9は、コンプレッサ2からの圧縮空気を吸着筒4(または5)に供給する流路と、吸着筒5(または4)からの脱着ガスを排気する流路とを切り替えるものである。
【0032】
切替弁9は2つの三方弁9a、9bからなる。三方弁9aは、コンプレッサ2側がノーマルオープン(NO)、排気側がノーマルクローズ(NC)、吸着筒4側がコモン(C)となるよう設置される。三方弁9bも同様である。
【0033】
三方弁9aのNOは、コンプレッサ閉止弁12の下流側で分岐した空気供給ライン11に接続され、三方弁9bのNOは空気供給ライン11の下流端に接続される。
【0034】
三方弁9a、9bのNCには、共用の排気ライン14が接続され、その排気ライン14の排気口には、排気音を消音するサイレンサ8が接続される。
【0035】
吸着筒4、5内の上流側に吸湿剤15が配置され、下流側には吸着剤3が配置される。吸着剤3はゼオライトからなり、吸湿剤15は活性アルミナからなる。
【0036】
また、吸着筒4、5の外周には、酸素濃縮器1の運転停止中に吸着筒4、5を加熱保持するヒーター16が設置される。
【0037】
吸着筒4、5は、共用の酸素供給ライン22を介して図示しないオゾン発生器などに接続される。
【0038】
酸素供給ライン22の途中にはバッファタンク6が設けられる。そのバッファタンク6の両端の酸素供給ライン22には、バッファタンク6を迂回する分岐管23が接続され、その分岐管23に予備バッファタンク7が設けられる。
【0039】
予備バッファタンク7の上流側の分岐管23には上流側タンク閉止弁17aが設けられ、下流側の分岐管23には下流側タンク閉止弁17bがそれぞれ設けられる。
【0040】
吸着筒4、5の下流側の酸素供給ライン22には、各吸着筒4、5内の圧力を調整する圧力調整手段としてのオリフィス18a、18bが設けられる。
【0041】
バッファタンク6の下流側の酸素供給ライン22には、オゾン発生器などに供給する高濃度酸素の流量を調整するためのレギュレータ19が接続され、その下流側には、外気を遮断する下流側閉止弁としてのオゾナイザ閉止弁20が設けられる。
【0042】
制御器10は、コンプレッサ閉止弁12、三方弁9a、9b、上流側タンク閉止弁17a、下流側タンク閉止弁17b、およびオゾナイザ閉止弁20の各バルブと、圧力計13とに接続され、各バルブの開閉制御を行う。
【0043】
さらに、制御器10は保管モード設定器10aを備える。保管モード設定器10aは、酸素濃縮器1の運転停止期間が短いときは、運転停止中の各吸着筒4、5内の圧力を大気圧以上に、酸素濃縮器1の運転停止期間が長いときは、運転停止中の各吸着筒4、5内の圧力をより高く保持するよう制御する。
【0044】
次に、酸素濃縮器1の運転停止方法を、酸素濃縮器1の動作と共に説明する。
【0045】
まず、酸素濃縮器1の通常運転時の動作を説明する。
【0046】
(通常運転時)
酸素濃縮器1の通常運転に先立ち、コンプレッサ閉止弁12、オゾナイザ閉止弁20、上流側タンク閉止弁17a、および下流側タンク閉止弁17bは開放しておく。
【0047】
酸素濃縮器1では、コンプレッサ2からの圧縮空気を、一方の吸着筒に供給して高濃度酸素を製造する(吸着工程)と共に、窒素を吸着した他方の吸着筒を脱着させて脱着ガスをサイレンサ8側に排気し(再生工程)、これを交互に繰り返すことで、高濃度酸素を製造する。
【0048】
より詳細には、吸着工程では、コンプレッサ2からの圧縮空気がいずれか一方の吸着筒4に導入され、そこで圧縮空気中の窒素が吸着剤3で吸着されて高濃度酸素が生成される。このとき圧縮空気は、ドレンポット(図示せず)で凝縮水が回収された後に吸着筒4に供給され、吸着筒4の吸湿剤15でさらに除湿され、ほぼ絶乾状態で吸着筒4の吸着剤3に供給される。これにより、吸着剤3が水分を吸着して劣化しないようにされる。
【0049】
これと同時に、再生工程では、三方弁9bで吸着筒5とサイレンサ8側とを連通させることで、吸着工程中の吸着筒4、バッファタンク6、および予備バッファタンク7から製品ガス(高濃度酸素)の一部がパージガスとして吸着筒5に導入される。
【0050】
これにより、吸着筒5の吸着剤3で吸着した窒素が脱着され、脱着した窒素はパージガスと共にサイレンサ8側に排出されて、吸着筒5の吸着剤3が再生される。さらに、供給されるパージガス(高濃度酸素)はほぼ絶乾状態であり、吸湿剤15に吸着された水分も脱着される。
【0051】
以上の吸着工程、再生工程を交互に繰り返して高濃度酸素を連続的に製造する。
【0052】
この通常運転時、運転停止時に吸着筒4、5内の水分をパージし、かつ吸着筒4、5を大気圧以上に保持するのに十分な量の高濃度酸素を予備バッファタンク7に貯留しておく。十分な量の高濃度酸素が予備バッファタンク7に貯留された後、制御器10は上流側予備タンク閉止弁17a、下流側予備タンク閉止弁17bを閉じる。
【0053】
吸着工程と再生工程とを切り替える際、両吸着筒4、5内の圧力を平均化させる均圧工程を行ってもよい。
【0054】
(運転停止時および運転停止中)
運転停止時、まず、コンプレッサ2の運転を停止する。これと同時に、制御器10はオゾナイザ閉止弁20を閉じ、酸素製造を停止する。
【0055】
その後、制御器10は上流側予備タンク閉止弁17a、下流側予備タンク閉止弁17bを開き、三方弁9a、9bを切り替えて各吸着筒4、5とサイレンサ8とを連通させる。
【0056】
これにより、バッファタンク6および予備バッファタンク7に貯留された高濃度酸素はパージガスとして酸素供給ライン22、吸着筒4、5、三方弁9a、9b、排気ライン14、サイレンサ8を介して外部に排気され、吸着筒4、5内に残留した窒素および水分がパージされる(図1の点線矢印A、B)。
【0057】
このとき、制御器10に設けられたタイマに、パージ開始からパージ完了までの時間(パージ時間)を設定することで、パージ量を調整してもよい。
【0058】
第1の実施形態では、パージ完了となるパージ時間を適宜設定することで、パージ完了後に各吸着筒4、5を大気圧以上に保持する。
【0059】
パージ完了後、制御器10は、三方弁9a、9bの大気開放側(排気側)を閉じると共に、コンプレッサ閉止弁12を閉じる。
【0060】
これにより、各吸着筒4、5は大気圧以上に保持され、かつ完全に外気から遮断された状態となり、酸素濃縮器1は運転停止となる。
【0061】
また、パージ完了となるパージ時間を変えることで、パージ完了後に各吸着筒4、5を保持する圧力を変更できる。そこで、採用するバルブ(オゾナイザ閉止弁20、コンプレッサ閉止弁12、三方弁9a、9b)の弁座漏れ特性に応じて、各吸着筒4、5を加圧保持する圧力を変更可能としてもよい。
【0062】
第1の実施形態に係る酸素濃縮器の運転停止方法(運転停止時の外部水分流入防止方法)は、コンプレッサ2の運転を停止すると共にオゾナイザ閉止弁20を閉じ、酸素製造を停止した後、バッファタンク6および予備バッファタンク7からの高濃度酸素を各吸着筒4、5内に供給し、各吸着筒4、5内に残存する水分を大気中に排出したのち、三方弁9a、9bの大気開放側(排気側)を閉じると共に各吸着筒4、5内を大気圧以上に保持する。
【0063】
これにより、運転停止中の吸着筒4、5は大気圧以上に保持され、外気圧に変化などがあっても、バルブの弁座漏れによって外気(水分)が吸着筒4、5に浸入することがなく、吸着筒4、5の吸着剤3の劣化を確実に防止できる。
【0064】
第1の実施形態では、制御器10に設けたタイマによりパージ量を設定したが、これに限定されず、運転停止中に外気と遮断される閉塞空間中に圧力計(第1の実施形態では圧力計13)を追加し、その圧力値でパージ量を設定してもよい。
【0065】
このとき、パージ中に圧力計13が示す値と、パージ完了後に閉塞空間が到達する圧力とは異なっていてもよく、事前に測定された運転停止中に必要な圧力になる排気中圧力をもってパージ完了とすればよい。
【0066】
また、運転停止中の吸着筒4、5をヒーター16により100〜200℃程度に加熱保持してもよく、他の熱源による加熱でも良い。
【0067】
吸着剤3および吸湿剤15は、温度が高くなると吸着能力が低下する(脱着しやすくなる)性質を有する。よって、酸素濃縮器1の運転停止中の吸着筒4、5をヒーター16で加熱することで、吸着筒4、5内に残留した窒素や水分が吸着剤3および吸湿剤15に吸着されることを低減でき、吸着剤3の劣化を防止できる。
【0068】
さらに、吸着剤3および吸湿剤15が高温で吸着能力が低下する性質を利用し、酸素製造停止後にパージを行う際にも吸着筒4、5をヒーター16で加熱し、吸着剤3および吸湿剤15の水分の脱着をより促進してもよい。
【0069】
第1の実施形態に係る酸素濃縮器1によれば、第1の実施形態に係る酸素濃縮器の運転停止方法を容易に実施できる。
【0070】
酸素濃縮器1では、制御器10の保管モード設定器10aにより、酸素濃縮器1の運転停止期間が短いときは、運転停止中に各吸着筒4、5を大気圧以上に保持し、酸素濃縮器1の運転停止期間が長いときは、運転停止中に各吸着筒4、5をより高い圧力で保持するよう制御している。
【0071】
これにより、運転停止期間が長く、バルブの弁座漏れにより吸着筒4、5の圧力が低下したとしても、運転停止中は常に各吸着筒4、5が大気圧以上に保持され、運転頻度に関係なく吸着剤3の劣化を防止できる。
【0072】
さらに、酸素濃縮器1の運転停止期間に応じて、各吸着筒4、5を保持する圧力を設定するため、酸素製造停止後に各吸着筒4、5の水分をパージし、各吸着筒を加圧するための高濃度酸素を無駄に製造する必要がなくなる。
【0073】
ここで、運転停止期間と吸着筒4、5内の残留水分量との関係を説明する。
【0074】
図2は、◆で示す高頻度運転(15分を10回/1日)と、◇で示す低頻度運転(15分運転を1回/1日)とについて、運転日数と吸着筒4、5の水分残留による重量増加を示すグラフである。
【0075】
図2に示すように、運転日数1〜62日では、運転回数が多い高頻度運転の方が、低頻度運転と比較して吸着筒4、5の重量増加が多いが、運転日数62〜80日では、高頻度運転よりも低頻度運転の方が吸着筒4、5の重量増加が多くなっている。
【0076】
横軸は運転回数ではないため、運転1回あたりの増加傾向をみるグラフとはなっていないが、最終的に到達する吸着筒4、5の重量(平衡重量)は低頻度運転の方が大きくなることがわかる。
【0077】
高頻度運転に比べて、低頻度運転の平衡重量が大きくなる原因として、低頻度運転の方が運転停止期間が長くなり、吸着筒4、5内に残留した水分が吸着剤3により強く吸着され、次回運転時に再生しにくくなっているためだと考えられる。そのため、排出されなかった水分が吸着筒4、5内に残留し、吸着筒4、5の重量が増加していると考えられる。
【0078】
さらに、酸素濃縮器1の運転停止中にバルブの弁座漏れにより水分が吸着筒4、5内に浸入していることも考えられる。
【0079】
そこで、第1の実施形態に係る酸素濃縮器1では、制御器10の保管モード設定器10aにより、酸素濃縮器1の運転停止期間が短いときは、運転停止中に各吸着筒4、5を大気圧以上に保持し、酸素濃縮器1の運転停止期間が長いときは、運転停止中に各吸着筒4、5をより高い圧力で保持するよう制御した。
【0080】
第1の実施形態では、予備バッファタンク7を設けて酸素製造停止後に各吸着筒4、5内の水分をパージし、各吸着筒4、5を加圧するための高濃度酸素を貯留したが、バッファタンク6の容量を増量し、酸素製造停止後に各吸着筒4、5内の水分をパージし、かつパージ完了後に各吸着筒4、5内の圧力を大気圧以上とするのに十分な容量を有するようにしてもよい。
【0081】
また、オゾナイザ閉止弁20と各吸着筒4、5間の酸素供給ライン22の配管に容量を持たせて、バッファタンク6の容量を補ってもよい。
【0082】
さらに、バッファタンク6と並列に複数の予備バッファタンク7を設けてもよい。その際、予め設定した運転停止期間から必要となる吸着筒4、5の保持圧力を設定し、その保持圧力に応じて、通常運転中に必要な個数の予備バッファタンク7に高濃度酸素を蓄え、酸素製造停止後に必要な時間あるいは圧力までパージすることで、保管用の製品ガス(高濃度酸素)の製造量を最適化してもよい。
【0083】
切替弁9とコンプレッサ閉止弁12は、酸素濃縮器1の運転停止中に外気を遮断するための構成であるが、切替弁9に4つの二方弁を用いることで、コンプレッサ閉止弁12を不要とすることもできる。
【0084】
コンプレッサ2が運転停止時に外気と閉になる構成であれば、コンプレッサ閉止弁12を不要とすることができる。
【0085】
また、外気に通じる各系統(空気供給ライン11、排気ライン14、酸素供給ライン22)にバルブを2個以上設け、その2個のバルブ間に閉塞空間を構成し、その狭い閉塞空間のみ加圧保持してもよい。これにより、少ない製品ガスで、外気(水分)の浸入を防止できる。
【0086】
次に、第2の実施形態を説明する。
【0087】
図3は、第2の実施形態に係る酸素濃縮器31の概略図である。
【0088】
図3に示すように、酸素濃縮器31は、基本的に図1の酸素濃縮器1と同じ構成であり、吸着筒4の上流側に吸湿筒32、吸着筒5の上流側に吸湿筒33をそれぞれ設け、各吸湿筒32、33内の上流側に吸湿剤15を充填すると共に、その下流側に精密取り除湿用の吸湿剤として吸湿筒内吸着剤34を充填したものである。吸着筒4、5内には吸湿剤15を充填せず、吸着剤3のみを充填する。
【0089】
第2の実施形態では、吸着筒4、5と別に吸湿筒32、33を設けることで、吸着剤3と吸湿剤15とが直接接触しないよう構成されている。
【0090】
これにより、吸湿剤15に残留した水分が吸着剤3に拡散することを防止でき、通常運転時および運転停止中に吸着剤3が劣化するのをより確実に防止できる。
【0091】
第2の実施形態では、吸湿筒32、33内に吸湿剤15および吸湿筒内吸着剤34を充填したが、吸湿剤15のみ充填してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の好適な第1の実施形態を示す酸素濃縮器の概略図である。
【図2】酸素濃縮器の運転頻度を変えたときの、運転停止期間と残留水分との関係を示す図である。
【図3】第2の実施形態を示す酸素濃縮器の概略図である。
【図4】従来の酸素濃縮器の概略図である。
【符号の説明】
【0093】
1 酸素濃縮器
2 コンプレッサ
3 吸着剤
4、5 吸着筒
6 バッファタンク
8 サイレンサ
9 切替弁
20 オゾナイザ閉止弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンプレッサからの圧縮空気を、窒素を選択的に吸着する吸着剤が充填された複数の吸着筒のいずれかに供給して酸素を製造すると共に、これをバッファタンクに貯留し、他方窒素を吸着した吸着筒をサイレンサを介して大気側に連通させると共に、上記バッファタンクから酸素を供給して吸着した窒素を脱着させて再生し、これを交互に繰り返して酸素を連続的に製造する酸素濃縮器の運転停止方法において、
上記コンプレッサの運転を停止すると共に上記バッファタンクの吐出側に接続した閉止弁を閉じ、酸素製造を停止した後、
上記バッファタンクからの酸素を各吸着筒内に供給し、各吸着筒内に残存する水分を上記サイレンサを介して大気中に排出した後、
上記吸着筒の大気側の切替弁を閉じると共に各吸着筒を大気圧以上に保持することを特徴とする酸素濃縮器の運転停止方法。
【請求項2】
上記吸着筒を大気圧以上に保持すると共に、上記吸着筒を所定の温度に加熱保持する請求項1に記載の酸素濃縮器の運転停止方法。
【請求項3】
空気を圧縮するコンプレッサと、窒素を選択的に吸着する吸着剤が充填された複数の吸着筒と、その吸着筒で濃縮した酸素を貯留するバッファタンクと、上記吸着筒の大気側に設置されたサイレンサと、上記コンプレッサからの圧縮空気をいずれかの吸着筒に交互に供給して吸着させると共に、窒素を吸着した他の吸着筒を脱着させて脱着ガスをサイレンサを介して排気するための切替弁とを備えた酸素濃縮器において、
上記バッファタンクの吐出側に閉止弁を接続し、上記吸着筒に上記サイレンサ側がノーマルクローズとなるよう上記切替弁を接続して構成し、かつ酸素製造停止後に、上記コンプレッサを停止すると共に上記閉止弁を閉とし、上記バッファタンク内の酸素を各吸着筒と上記切替弁とを介して上記サイレンサ側に流して各吸着筒内の水分を外部に排出した後、各吸着筒を大気圧以上に保持するよう上記切替弁を閉とする制御手段を備えたことを特徴とする酸素濃縮器。
【請求項4】
上記バッファタンクと並列に、酸素製造停止後に各吸着筒内の水分をパージする酸素を貯留しておく少なくとも1つの予備バッファタンクを設けた請求項3に記載の酸素濃縮器。
【請求項5】
上記バッファタンクは、酸素製造停止後に各吸着筒をパージし、かつパージ終了後に各吸着筒内の圧力を大気圧以上とするのに十分な容量を有する請求項3に記載の酸素濃縮器。
【請求項6】
上記制御手段は、上記酸素濃縮器の運転停止期間が短いときは、運転停止中に各吸着筒を大気圧以上に保持し、上記酸素濃縮器の運転停止期間が長いときは、運転停止中に各吸着筒を大気圧より高い圧力で保持するよう制御する請求項3〜5いずれかに記載の酸素濃縮器。
【請求項7】
上記吸着筒内の下流側に上記吸着剤が配置されると共に、上記吸着筒内の上流側に吸湿剤が配置される請求項3〜6いずれかに記載の酸素濃縮器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−39686(P2009−39686A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−209702(P2007−209702)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】