説明

酸素還元触媒、それを用いた燃料電池および空気電池、酸素還元触媒の製造方法

【課題】白金触媒よりも貴金属使用量が少なく、かつ白金微粒子触媒と同等以上の酸素還元能を有することができる酸素還元触媒を提供する。
【解決手段】酸素還元触媒は、有機金属高分子を含み、当該有機金属高分子は、有機高分子と、カウンターイオンと、金属と、を含み、有機高分子は、その主鎖もしくは主鎖の一部または側鎖もしくは側鎖の一部が、窒素(N)、酸素(O)、硫黄(S)、およびセレン(Se)から選択される少なくとも一種を含む複素5員環、または複素6員環、あるいはこれらの縮合環から構成され、カウンターイオンは、有機骨格を有するアニオン基を含み、記金属は、遷移金属および貴金属からなる群から選択される少なくとも一種を含み、当該金属が、前記カウンターイオン、または前記有機高分子に含まれる窒素(N)、酸素(O)、硫黄(S)、およびセレン(Se)のいずれかに配位することができる

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素還元触媒、それを用いた燃料電池および空気電池、酸素還元触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池や空気電池は、空気中などの酸素を酸化剤とし、燃料となる化合物や負極活物質との化学反応のエネルギーを電気エネルギーとして取り出す電気化学エネルギーデバイスである。燃料電池や空気電池は、Liイオン電池などの2次電池よりも高い理論エネルギー容量を有する。また、燃料電池や空気電池は、自動車車載用電源、家庭や工場などの定置式分散電源、あるいは携帯電子機器用の電源などとして利用することができるものである。燃料電池や空気電池の酸素極側では、酸素が還元される電気化学反応が起こる。このような酸素還元反応は、比較的低温では進行しにくい反応である。そのため酸素還元反応には白金(Pt)などの貴金属微粒子触媒が一般的に用いられている。かかる触媒を用いることにより当該酸素還元反応が促進されるものの、それでもなお、酸素還元反応における低温での反応性の低さが、燃料電池や空気電池のエネルギー変換効率を下げる主な要因のひとつとなっている。
【0003】
特許文献1には、上述の酸素還元反応に用いられる酸素還元触媒としては、主に貴金属の白金(Pt)やその合金で平均粒径がナノメートルサイズの微粒子をカーボンブラックなどの比表面積の大きな担体上に担持したものが用いられていることが記載されている。
【0004】
例えば、特許文献2には、酸素還元触媒として、白金微粒子触媒の代わりに、フタロシアニンやポルフィリンなどの有機骨格に原子・イオン状の金属が配位した金属系大環状化合物を用いることが記載されている。大半の金属系大環状化合物が示す触媒活性はPtに比べるとかなり低い。
現在、上述のような酸素還元触媒に用いられる金属系大環状化合物として各種の提案がある(例えば、特許文献1、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2006/003943号公報
【特許文献2】特開2005−205287号公報
【特許文献3】特開2005−205393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のとおり、燃料電池や空気電池などの酸素還元反応を伴う電気化学エネルギーデバイスを実用に供するためには、高いエネルギー変換効率を実現するために、白金(Pt)などの貴金属触媒と同等以上の酸素還元作用を示す触媒が必要である。
【0007】
白金は、酸素を水に還元する電気化学反応に対して、既知の触媒の中では比較的高い酸素還元活性を示すが、実用上はそれでも不十分で、前述の電源として用いるには、大量の白金が必要である。白金は希少かつ高価であり、大量のPtを電極触媒として用いることはコスト面で実用上問題がある。コストを低く抑えるために、白金などの貴金属の使用量を低く抑えた触媒が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、有機金属高分子を含み、
前記有機金属高分子は、有機高分子と、カウンターイオンと、金属と、を含み、
前記有機高分子は、その主鎖もしくは主鎖の一部または側鎖もしくは側鎖の一部が、窒素(N)、酸素(O)、硫黄(S)、およびセレン(Se)から選択される少なくとも一種を含む複素5員環、または複素6員環、あるいはこれらの縮合環から構成され、
前記カウンターイオンは、有機骨格を有するアニオン基を含み、
前記金属は、遷移金属および貴金属からなる群から選択される少なくとも一種を含み、
前記金属が、前記カウンターイオン、または前記有機高分子に含まれる窒素(N)、酸素(O)、硫黄(S)、およびセレン(Se)のいずれかに配位したことを特徴とする酸素還元触媒が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、白金触媒よりも貴金属使用量が少なく、かつ白金微粒子触媒と同等以上の酸素還元能を有する触媒を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る酸素還元触媒は、有機金属高分子を含み、当該有機金属高分子は、有機高分子と、カウンターイオンと、金属と、を含み、有機高分子は、その主鎖もしくは主鎖の一部または側鎖もしくは側鎖の一部が、窒素(N)、酸素(O)、硫黄(S)、およびセレン(Se)から選択される少なくとも一種を含む複素5員環、または複素6員環、あるいはこれらの縮合環から構成され、カウンターイオンは、有機骨格を有するアニオン基を含み、前記金属は、遷移金属および貴金属からなる群から選択される少なくとも一種を含み、当該金属が、前記カウンターイオン、または前記有機高分子に含まれる窒素(N)、酸素(O)、硫黄(S)、およびセレン(Se)のいずれかに配位することができる。
【0011】
窒素(N)を含む複素5員環は、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、テルラゾール、イソテルラゾール、セレナゾール、イソセレナゾール、チオゾール、チアゾール、イソチアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、フラザンおよび、トリアゾールなどから選択され;
酸素(O)を含む複素5員環は、フラン、およびジオキサンなどから選択され;
硫黄(S)を含む複素5員環は、チオフェンなどから選択され;
セレン(Se)を含む複素5員環が、セレノフェンなどから選択され;
窒素(N)を含む前記複素6員環は、ピリジン、ピリミジン、ピペリジン、ピラジン、ピペラジン、ピリダジン、セレノモルホリン、およびモルホリンなどから選択され;
酸素(O)を含む複素6員環は、ピラン、およびジオキセンなどから選択され;
硫黄(S)を含む複素6員環は、チオピラン、トリチアン、およびチオキサンなどから選択され;
セレン(Se)を含む複素6員環は、セレニンであるか;または、
縮合環は、キナゾリン、イソキノリン、キノリン、ナフチリジン、アクリジン、ベンゾキノリン、フェナントロリン、キノキサリン、インドール、インドリン、インダゾール、カルバゾール、ベンゾチアゾール、ベンズイミダゾール、ピロロピリジン、ベンゾフラン、ジヒドロベンゾフラン、フェノキサチイン、ジベンゾフラン、ジベンゾジオキシン、メチレンジオキシベンゼン、ベンズオキサゾール、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェン、およびチアントレンなどから選択されてもよい。
【0012】
本発明に係る有機高分子は、その主鎖または主鎖の一部が、上述した、窒素(N)、酸素(O)、硫黄(S)、およびセレン(Se)から選択される少なくとも一種を含む複素5員環、または複素6員環あるいはこれらの縮合環から構成されてもよい。また、本発明の有機高分子は、その側鎖または側鎖の一部が、上述した、窒素(N)、酸素(O)、硫黄(S)、およびセレン(Se)から選択される少なくとも一種を含む複素5員環、または複素6員環あるいはこれらの縮合環などから構成されてもよい。
【0013】
金属は、酸素の吸着サイトとして作用することが可能ならば、いずれの遷移金属や貴金属を用いてもよい。さらに金属は、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Zn、Ir、Pt、および、Auなどから選択することができる。この金属原子は、酸素分子の吸着サイトであると同時に、解離、原子状酸素のプロトン化過程の活性サイトとなりうる。
【0014】
本発明に係る有機高分子の主鎖または側鎖は、アルキル基またはビニル基などの置換基を有することができる。
【0015】
また、本発明に係る有機高分子の主鎖もしくは側鎖または置換基は、ハロゲンまたはスルホン酸基などの置換基(官能基)を有することができる。
さらに、本発明の有機高分子の主鎖もしくは側鎖または上記置換基もしくは官能基は、上述した、窒素(N)、酸素(O)、硫黄(S)、およびセレン(Se)からなる群から選択される少なくとも一種を含む複素5員環、および複素6員環、またはこれらの縮合環、アミノ基、イミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、オキシム基、ケトン基、アルデヒド基、チオール基、ホスフィン基、アルシン、セレニド、チオカルボキシル基、ジチオカルボキシル基、および、ジチオカルバナトなどの置換基(官能基)を有することができる。
【0016】
このように、有機高分子の主鎖、あるいは、側鎖に含まれる水素(H)のすべて、または一部を上述の置換基に置換することができる。これらの置換を行うことによって、カウンターイオンやカウンターイオンに配位する金属の電子状態や、その原子間距離を調整したり、親水性あるいは疎水性を利用して、電極触媒反応やそれに伴う物質輸送を改善したりすることができる。
【0017】
また、本発明に係る有機高分子の主鎖もしくは側鎖または置換基は、カウンターイオンを含むことができる。このとき、上記金属は当該カウンターイオンに配位することができる。
【0018】
本発明に係るカウンターイオンは、有機骨格を有するアニオン基を含んでいればよい。カウンターイオンは、有機金属高分子に含まれていればよく、さらには有機高分子に含まれていてもよい。
このカウンターイオンの有機骨格は、ベンゼン、アヌレン類、多環芳香族炭化水素、芳香族多環化合物ならびに、上述の窒素(N)、酸素(O)、硫黄(S)、およびセレン(Se)からなる群から選択される少なくとも一種を含む複素5員環、および複素6員環、またはこれらの縮合環の誘導体からなる群から選択される少なくとも一種含むことができる。
【0019】
さらに、多環芳香族炭化水素は、アセン類、フェナントレン、クリセン、トリフェニレン、テトラフェン、ピレン、ピセン、ペンタフェン、ペリレン、ヘリセン、およびコロネンから選択され;アセン類は、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、およびペンタセンから選択され;芳香族多環化合物は、ビフェニル、トリフェニルメタン、およびアセプレイアジレンから選択されてもよい。
または、この有機骨格は、アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基などから選択されてもよい。
【0020】
カウンターイオンのアニオン基は、カルボン酸アニオン、硫酸アニオン、スルホン酸アニオン、亜硫酸アニオン、チオ硫酸アニオン、炭酸アニオン、クロム酸アニオン、二クロム酸アニオン、リン酸一水素アニオン、リン酸アニオンなどから選択できる。また、カウンターイオンのアニオン基は、これらのアニオンの無機塩などを含むことができる。
【0021】
本発明に係る酸素還元触媒においては、カウンターイオンを取り込むことが可能な有機高分子に、金属を配位する能力のあるカウンターイオンを取り込ませて、かかるカウンターイオンに金属を配位させることができる。さらに、本発明に係る有機高分子は、主鎖または、側鎖に原子状金属が配位可能な配位子を有することができる。ここで、配位子としては、上述の窒素(N)、酸素(O)、硫黄(S)、およびセレン(Se)を挙げることができる。この配位子に金属を配位させることもできる。
【0022】
これにより、金属を配位させ、かかる金属を酸素還元反応の活性点として用いることができる。配位した金属は、1個でも酸素還元能力を有することができる。
【0023】
本発明の効果について説明する。本発明において、酸素分子の吸着に関与する金属原子が0.25Nm以上、0.55Nm以下の原子間距離で配置されることによって、ブリッジ型の酸素分子吸着構造が実現される。また、この構造により、原子状の酸素への解離、プロトン化過程を経て、4電子型の還元反応を促進させることができる。このような有機金属高分子を含む本発明に係る酸素還元触媒は、主として4電子過程により酸素還元反応が進行し、高い酸素還元活性を有するが可能になる。
【0024】
ここで、酸素還元反応について説明する。酸素還元反応には、水分子(HO、酸性溶液中)または、水酸化物イオン(OH-、アルカリ電解液中)に還元される4電子反応と過酸化水素に還元される2電子反応が存在する。燃料電池あるいは空気電池のような高いエネルギー密度が要求されるエネルギ−デバイスの酸素還元電極用触媒は、O+4H+4e→2HO E=1.229V vs SHE(酸性電解液中)と平衡電位がより貴な電位にある4電子過程で進行する触媒であることが望まれるものである。そのため、本発明に係る酸素還元触媒は、燃料電池あるいは空気電池に好適に用いられる。
【0025】
また、本発明に係る酸素還元触媒においては、酸素還元反応における酸素分子の直接的な吸着サイトとなる原子・イオン状の金属原子が、0.25Nm以上、0.55Nm以下の原子間距離であることが好ましい。これは、白金などの金属微粒子触媒上の最近接原子間距離と同程度であり、さらに、フタロシアニン、ポルフィリンなどの金属系大環状化合物にくらべて、半分程度であると同時に、高密度で金属が導入されていることになる。
【0026】
このように、酸素還元反応の活性点である配位した金属原子の原子間距離を0.25Nm以上、0.55Nm以下の範囲にすることで、高密度で配置されることに加え、4電子過程による酸素還元反応が促進され、高い酸素還元反応が実現される。
【0027】
さらに、本発明に係る酸素還元触媒において、有機金属高分子を2次元的に作製することにより、金属微粒子触媒に比べて、使用金属量を大幅に削減することが可能である。
【0028】
そのため、本発明に係る酸素還元触媒は、金属微粒子触媒よりも金属量が少ない状態であっても、金属系大環状化合物の酸素還元能力を大きく上回り、白金微粒子触媒と同程度あるいは、それ以上の酸素還元能力を有することができる。
【0029】
さらに、本発明に係る酸素還元触媒においては、高分子状の主鎖または側鎖が形成されている。主鎖または側鎖の高分子構造内では、配位した金属の電子状態を容易に変化させ、酸素還元反応を優位に起こさせることが可能になる。さらには、酸素還元反応時の触媒の安定性を向上させることが可能になる。そのため、酸性またはアルカリ溶液中かつ高い電位において、長時間化学的に安定な酸素還元触媒が実現される。
【0030】
ところで、特許文献2には、金属が配位した金属系大環状化合物が記載されている。大半の金属系大環状化合物が示す触媒活性はPtに比べるとかなり低いことが問題であった。また、この金属系大環状化合物は、酸素還元反応とともに分解してしまうため、酸性溶液中において非常に不安定である。当該金属系大環状化合物を用いても燃料電池や空気電池を長期間安定して動作させることが困難であった。
【0031】
これに対して、上述のとおり、本発明においては、白金触媒よりも貴金属使用量が少なく、かつ白金微粒子触媒と同等以上の酸素還元能を有する酸素還元触媒が実現されるものである。また、金属が有機高分子に配位されることにより、金属系大環状化合物よりも、酸素還元状態における安定性を大幅に改善することが可能になり、長期間化学的に安定した酸素還元触媒が実現される。かかる酸素還元触媒を用いることにより、燃料電池や空気電池を長期間安定して動作させることができる。
【0032】
本発明に係る有機高分子の主鎖または側鎖は、電気伝導性を有することができる。これにより電極触媒反応時の電子移動が速やかに行われるため、触媒活性が高くなる。電気伝導性を高めるために、主鎖にドーピングを行うことも可能である。ドーパントとしては、電子受容性ドーパントとして、ヨウ素、臭素などのハロゲン分子、五フッ化砒素、五フッ化アンチモニー、三塩化鉄などの強いルイス酸、硫酸、フルオロ硫酸などのプロトン酸、三塩化鉄、四塩化チタンなどの遷移金属化合物、塩素イオン、過塩素酸イオンなどの電解質アニオン他、電子親和力の大きい物質などが挙げられる。電子供与性ドーパントとしては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ユウロピウムなどの希土類など、一般的にイオン化ポテンシャルの小さい物質が挙げられる。
【0033】
さらに、有機高分子の主鎖、および側鎖が電気伝導性を有しない場合でも、伝導性付与剤を添加することにより、本発明に係る酸素還元触媒として使用することができる。電気伝導性を付与するために、繊維状のカーボン、粒子状カーボン、カーボンナノチューブやその誘導体、フラーレンおよびその誘導体などを添加することも可能である。さらには、電気伝導性のある酸化物や窒化物などの無機化合物、金属、ならびに導電性高分子、分子結晶などを添加してもよい。主鎖および側鎖が電気伝導性を持つ場合でも伝導性付与剤を添加することによって触媒活性を高めることができる場合もある。
【0034】
つづいて、本発明に係る酸素還元触媒の製造方法について説明する。
酸素還元触媒の製造方法は、窒素(N)、酸素(O)、硫黄(S)、およびセレン(Se)から選択される少なくとも一種を含む複素5員環、または複素6員環、あるいはこれらの縮合環からなる複素環化合物を、有機骨格を有するアニオン基を含むカウンターイオンを含有する溶液中で重合させ、遷移金属および貴金属からなる群から選択される少なくとも一種の金属を含む金属塩または金属錯体を加える工程を含むものである。
【0035】
カウンターイオンは、高分子重合時に、導入するイオンを溶液中に加えることで、高分子に導入することができる。またカウンターイオンは、酸化剤を加えて化学重合することにより、高分子に導入することも可能である。さらには、カウンターイオンは、カウンターイオンを含む電解液中で電解重合により、高分子に導入することも可能である。
【0036】
カウンターイオンに、金属を配位させる場合は、高分子を合成した後、高分子が溶解する溶媒中に、所望の金属を含む金属塩を混合することにより得る、または合成した配位子を含む高分子より配位能力が低く、所望の金属が配位している配位子を有する錯体を混合することにより得ることができる。配位子を含む高分子への置換反応が遅い場合は、配位子を含む高分子の投入量を多くしたり、加熱攪拌したりすることにより反応を促進する。また、同じ金属イオンの酸化状態の変化により置換活性から置換不活性の錯体、またはその逆になる金属イオンがある。この性質を利用して、置換活性な状態ですばやく置換反応を行った後、酸化あるいは還元により置換不活性な状態にして新たな錯体を作製することもできる。酸化剤、還元剤ともに一般的なものが用いられる。酸化剤としては過マンガン酸カリウム、二酸化マンガン、四酸化オスミウム、硝酸など、還元剤としてはシュウ酸、二酸化硫黄、チオ硫酸ナトリウム、硫化水素、水素化ホウ素、ジボラン、チオ硫酸ナトリウム、硫化水素などが挙げられる。また、電気化学的手法により、金属を配位させたり、高分子を合成し同時に金属を配位させたりすることも可能である。
【0037】
本発明に係る酸素還元触媒を燃料電池や空気電池の電極触媒として使用する際には、集電電極上に直接、分散あるいは、塗布してもよいし、カーボン微粒子などのような比表面積の大きな電気伝導性を持つ担体の上に分散、塗布してもよい。
【0038】
金属量を少なく抑えるためには、比表面積の大きな担体上に、本発明の酸素還元触媒を数層分担持させることが望ましい。
【0039】
酸素還元触媒の担持方法は、触媒の合成時に担体を混合してもよいし、高分子触媒の合成後に混合してもよい。さらに、担持した触媒を触媒電極とする際には、バインダーなどのイオン導電性を持つ添加物を加えることもできる。ただし、この触媒担持方法は、上記に限定されるものではなく、触媒と電極が電気的に接触すればいかなる方法でもかまわない。
【0040】
本発明に係る酸素還元触媒を含む電極触媒を、燃料電池や空気電池の電極触媒として用いることができる。燃料電池においては、酸性溶液、アルカリ溶液、中性溶液のいかなる性質をもつ電解液も使用することが可能である。燃料電池の燃料においては、なんら限定されることなく、水素や、水素化合物を用いることができる。また、空気電池においても場合も同様に、特に限定されることなく、一般的に用いられている電解液や負極活物質を使用することが可能である。
【0041】
本発明に係る酸素還元触媒は、燃料電池、空気電池などの酸素を酸化剤とする電気化学デバイスの電極に用いることができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1) (有機金属高分子の合成)
カウンターイオンとして、ベンゼンスルホン酸のパラ位にドデシル基を持つp‐ドデシルベンゼンスルホン酸(DBS)を用いたポリピロールを、以下に示したドデシルベンゼンスルホン酸鉄(III)を酸化剤に用いた化学酸化重合法により作製した。
【0043】
ドデシルベンゼンスルホン酸鉄(III)は、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム溶液に塩化鉄(III)を加えて作製した。塩化鉄投入後、攪拌しているとドデシルベンゼンスルホン酸鉄が析出してくる。溶液を遠心分離にかけて析出物を取り出した。この段階の析出物には塩化ナトリウムが混入している可能性があるので、超純水で十分に洗浄し除去した。洗浄後のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムをメタノールに溶かし、酸化剤溶液とした。
【0044】
次にピロールモノマーを超純水に滴下し攪拌を加えてエマルジョン化したピロールを作製した。ここに酸化剤を滴下して、ピロールの化学酸化重合を行い、カウンターイオンとしてドデシルベンゼンスルホン酸を含んだPPy−DBSを得た。
【0045】
次に得られたPPy−DBSにCo、Ni、Fe、Ptを配位させた。PPyを分散させたメタノール溶液に、各々、酢酸コバルト、酢酸ニッケル、酢酸鉄、塩化白金酸を入れ、不活性ガス雰囲気で還流処理を6時間行った。還流後超純水で十分に洗浄し、PPyに配位せずに吸着しているCo等の金属を洗い流した。洗浄後の試料を十分に乾燥させPPy−DBS中のPPおよびDBSに、Co、Ni、Fe、Ptを配位させた。
【0046】
(実施例2) (有機金属高分子の構造)
実施例1で得られた有機金属高分子を紫外・可視・近赤外分光法(UV−ViS−NIR)、X線吸収分光(EXAFS)、X線光電子分光(XPS)、赤外吸収分光(IR)により構造解析を行った。解析の結果、Co、Ni、Fe、Ptは、ポリピロール中の窒素(N)およびドデシルベンゼンスルホン酸中のスルホン酸基に配位していることが確認された。
【0047】
(実施例3)(燃料電池用電極触媒の製造、および特性評価)
本発明の有機金属高分子をカソード電極触媒に用いた燃料電池を作製し、その特性評価を行った。
実施例1で作製したPPy−DBS中のDBSにCo、Ni、Fe、Ptが配位した有機金属高分子をカソード電極触媒として、小型の試験燃料電池を作製した。まず、拡散層として、カーボンクロスの表面にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョンで撥水化したカーボンブラックを塗布し、撥水化処理したものを用意した。次に、撥水化処理された拡散層の表面にカソード電極に有機金属高分子の粉末、アノード電極にケッチェンブラック上にPt担持した触媒をナフィオン溶液(ポリマ分5%wt、アルドリッチ社製)と混合した。混合物を塗布・乾燥することによって、拡散層の表面に触媒層を形成し、カソード用ガス拡散電極及びアノード用ガス拡散電極を作製した。
【0048】
その後、触媒層を内側にして、電解質膜(厚さ約50μmのナフィオン(登録商標)膜、デュポン社製)の両面からガス拡散電極を熱圧着し、膜電極接合体(MEA)を得た。さらに、MEAをグラファイト板にガス流路を設けた集電体で挟んで、試験電池を作製した。
燃料電池出力は、電池運転後10時間後および10000時間動作後に計測し、性能比較を行った(表1)。
上記の結果から明らかなように、本発明の有機金属高分子を含む酸素還元触媒は、金属量を低減しつつも、安定性に優れ、活性が高い触媒であることが分かった。
【0049】
(比較例1)
実施例3と同様な測定を、カソード触媒として白金Pt微粒子を用いて行った。電池出力は、10時間後で158mW/cm、10000時間後で124mW/cmであった。(表1)
【0050】
【表1】

【0051】
(実施例4) (有機金属高分子の構造)
実施例1〜3の他にさらに、有機高分子の主鎖、側鎖、配位子、置換基、金属成分などの条件を変えて、本発明の有機金属高分子を合成した。またそれらの有機金属高分子の有効性を検討した。合成方法、および構造の評価方法は、それぞれ、実施例1、2に記載したものと同様の方法で行った。
【0052】
酸素還元能の評価は、実施例3記載の方法によって行った。アノード触媒には、ケッチェンブラック上にPtRu(50w/w%)の合金触媒を金属成分が20wt%で担持したものを、金属成分が10mg/cmとなるように塗布した触媒電極を用いた。カソード触媒には、有機金属高分子中の金属成分が5×10-5mol/cmとなるように調整し、触媒中に含まれる金属成分あたりの電池出力が比較できるようにした。燃料電池出力は、電池運転後10時間後および10000時間動作後に計測した。種々の有機金属高分子を酸素還元触媒とした燃料電池の結果を表2、表3に示す
上記の結果から明らかなように、本発明の有機金属高分子を含む酸素還元触媒は、金属量を低減しつつも、安定性に優れ、活性が高い触媒であることが分かった。
【0053】
【表2】

【0054】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機金属高分子を含み、
前記有機金属高分子は、有機高分子と、カウンターイオンと、金属と、を含み、
前記有機高分子は、その主鎖もしくは主鎖の一部または側鎖もしくは側鎖の一部が、窒素(N)、酸素(O)、硫黄(S)、およびセレン(Se)から選択される少なくとも一種を含む複素5員環、または複素6員環、あるいはこれらの縮合環から構成され、
前記カウンターイオンは、有機骨格を有するアニオン基を含み、
前記金属は、遷移金属および貴金属からなる群から選択される少なくとも一種を含み、
前記金属が、前記カウンターイオン、または前記有機高分子に含まれる窒素(N)、酸素(O)、硫黄(S)、およびセレン(Se)のいずれかに配位したことを特徴とする酸素還元触媒。
【請求項2】
前記有機高分子は、その前記主鎖または前記主鎖の一部が、窒素(N)、酸素(O)、硫黄(S)、およびセレン(Se)から選択される少なくとも一種を含む前記複素5員環、または前記複素6員環あるいはこれらの前記縮合環から構成されたことを特徴とする請求項1記載の酸素還元触媒。
【請求項3】
前記有機高分子は、その前記側鎖または前記側鎖の一部が、窒素(N)、酸素(O)、硫黄(S)、およびセレン(Se)から選択される少なくとも一種を含む前記複素5員環、または前記複素6員環あるいはこれらの前記縮合環から構成されたことを特徴とする請求項1記載の酸素還元触媒。
【請求項4】
前記遷移金属および前記貴金属は、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Zn、Ir、Pt、および、Auからなる群から選択される少なくとも一種をさらに含む請求項1から3のいずれかに記載の酸素還元触媒。
【請求項5】
窒素(N)を含む前記複素5員環は、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、テルラゾール、イソテルラゾール、セレナゾール、イソセレナゾール、チオゾール、チアゾール、イソチアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、フラザンおよび、トリアゾールから選択され;
酸素(O)を含む前記複素5員環は、フラン、およびジオキサンから選択され;
硫黄(S)を含む前記複素5員環は、チオフェンから選択され;
セレン(Se)を含む前記複素5員環が、セレノフェンから選択され;
窒素(N)を含む前記複素6員環は、ピリジン、ピリミジン、ピペリジン、ピラジン、ピペラジン、ピリダジン、セレノモルホリン、およびモルホリンから選択され;
酸素(O)を含む前記複素6員環は、ピラン、およびジオキセンから選択され;
硫黄(S)を含む前記複素6員環は、チオピラン、トリチアン、およびチオキサンから選択され;
セレン(Se)を含む前記複素6員環は、セレニンであるか;または、
前記縮合環は、キナゾリン、イソキノリン、キノリン、ナフチリジン、アクリジン、ベンゾキノリン、フェナントロリン、キノキサリン、インドール、インドリン、インダゾール、カルバゾール、ベンゾチアゾール、ベンズイミダゾール、ピロロピリジン、ベンゾフラン、ジヒドロベンゾフラン、フェノキサチイン、ジベンゾフラン、ジベンゾジオキシン、メチレンジオキシベンゼン、ベンズオキサゾール、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェン、およびチアントレンから選択されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の酸素還元触媒。
【請求項6】
前記有機高分子の前記主鎖または前記側鎖は、アルキル基またはビニル基の置換基を有することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の酸素還元触媒。
【請求項7】
前記有機高分子の前記主鎖もしくは前記側鎖または前記置換基は、ハロゲンまたはスルホン酸基の置換基を有することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の酸素還元触媒。
【請求項8】
前記有機高分子の前記主鎖もしくは前記側鎖または前記置換基は、窒素(N)、酸素(O)、硫黄(S)、およびセレン(Se)からなる群から選択される少なくとも一種を含む前記複素5員環、および前記複素6員環、またはこれらの前記縮合環、アミノ基、イミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、オキシム基、ケトン基、アルデヒド基、チオール基、ホスフィン基、アルシン、セレニド、チオカルボキシル基、ジチオカルボキシル基、および、ジチオカルバナトからなる群から選ばれる少なくとも一種の置換基を有することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の酸素還元触媒。
【請求項9】
前記有機高分子の前記主鎖もしくは前記側鎖または前記置換基は、前記カウンターイオンを含み、
前記金属が前記カウンターイオンに配位したことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の酸素還元触媒。
【請求項10】
前記有機骨格は、ベンゼン、アヌレン類、多環芳香族炭化水素、芳香族多環化合物ならびに、窒素(N)、酸素(O)、硫黄(S)、およびセレン(Se)からなる群から選択される少なくとも一種を含む前記複素5員環、および前記複素6員環、またはこれらの前記縮合環の誘導体からなる群から選択される少なくとも一種を含むことを特徴とする請求項1から請求項9のいずれかに記載の酸素還元触媒。
【請求項11】
前記多環芳香族炭化水素は、アセン類、フェナントレン、クリセン、トリフェニレン、テトラフェン、ピレン、ピセン、ペンタフェン、ペリレン、ヘリセン、およびコロネンから選択され;
前記アセン類は、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、およびペンタセンから選択され;
前記芳香族多環化合物は、ビフェニル、トリフェニルメタン、およびアセプレイアジレンから選択されることを特徴とする請求項10に記載の酸素還元触媒。
【請求項12】
前記有機骨格は、アルキル基、アルケニル基、およびアルキニル基からなる群から選択される少なくとも一種を含むことを特徴とする請求項1から請求項11のいずれかに記載の酸素還元触媒。
【請求項13】
前記アニオン基は、カルボン酸アニオン、硫酸アニオン、スルホン酸アニオン、亜硫酸アニオン、チオ硫酸アニオン、炭酸アニオン、クロム酸アニオン、二クロム酸アニオン、リン酸一水素アニオン、およびリン酸アニオンからなる群から選択される少なくとも一種を含むことを特徴とする請求項1から請求項12のいずれかに記載の酸素還元触媒。
【請求項14】
導電性付与剤をさらに含むことを特徴とする請求項1から請求項13のいずれかに記載の酸素還元触媒。
【請求項15】
電気伝導性を有する担体をさらに含み、前記担体に前記有機金属高分子が担持されたことを特徴とする請求項1から請求項14のいずれかに記載の酸素還元触媒。
【請求項16】
請求項1から請求項15のいずれかに記載の酸素還元触媒を用いた燃料電池。
【請求項17】
請求項1から請求項15のいずれかに記載の酸素還元触媒を用いた空気電池。
【請求項18】
請求項1から15のいずれかに記載の酸素還元触媒の製造方法であって、
窒素(N)、酸素(O)、硫黄(S)、およびセレン(Se)から選択される少なくとも一種を含む複素5員環、または複素6員環、あるいはこれらの縮合環からなる複素環化合物を、有機骨格を有するアニオン基を含むカウンターイオンを含有する溶液中で重合させ、遷移金属および貴金属からなる群から選択される少なくとも一種の金属を含む金属塩または金属錯体を加える工程を含むことを特徴とする酸素還元触媒の製造方法。
【請求項19】
前記溶液は、酸化剤を含むことを特徴とする請求項18に記載の酸素還元触媒の製造方法。

【公開番号】特開2010−167390(P2010−167390A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−14369(P2009−14369)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】