説明

醤油粕を用いた加工食品の製造方法

【課題】醤油工場から産業廃棄物として排出されていた醤油粕を加工食品としてヒトが喫食できるようにするための技術を提供する。特に、舌触りが良好な加工食品を製造するための方法を提供する。
【解決手段】醤油粕を150℃未満で加熱加圧処理して得られた固形分に調味料を配合すればよい。舌触りを一層良くするには、前記加熱加圧処理を行うに先立って、および/または、前記加熱加圧処理を行った後に、湿式で磨砕を行うことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、醤油を搾り取った後に排出される残渣(醤油粕)を加工食品として有効活用できるようにする技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
醤油は、日本人の食生活には無くてはならない調味料であり、多量に消費されている。この醤油は、例えば、大豆や麦等の穀物を蒸煮し、麹菌を用いて作成した麹に、塩水等を混合して発酵・熟成させることで製造でき、醤油工場では、副産物として醤油粕(醤油を搾った後の残渣)が生じている。
【0003】
醤油粕を有効利用する技術として、例えば、特許文献1には、加熱処理した醤油粕をアルカリ水で抽出することにより、醤油粕からイソフラボン化合物を製造する方法が提案されている。イソフラボン化合物は、エストロゲン作用、抗酸化作用、抗菌作用、抗脂血作用、抗コレステロール作用等を有していることが知られている。
【0004】
この特許文献1には、加熱処理することによって、醤油粕にアルカリ水を加えたときに、醤油粕とアルカリ水が良好に分離することが記載されており、具体的には、加熱処理は、80〜280℃で行うことが記載されている。しかしこの特許文献1は、醤油粕から水溶成分としてイソフラボン化合物を抽出する技術であり、醤油粕自体(即ち、固形分)を有効活用することについては記載されていない。そのためイソフラボン化合物を抽出した後には、残渣が残ってしまい、産業廃棄物として処理しなければならない。
【0005】
一方、醤油粕は、家畜の飼料としても利用されている。特許文献2には、醤油粕を家畜用配合飼料原料として利用するために、醤油粕特有の異臭を除去するための技術が提案されている。具体的には、特許文献2には、150℃以上、400℃以下の過熱水蒸気を醤油粕に接触させれば、醤油粕を脱臭でき、家畜用配合飼料として有効活用できることが記載されている。しかし特許文献2では、醤油粕をヒトが喫食するための加工食品として再利用することについては記載されていない。従って特許文献2に記載されているように、醤油粕を脱臭するために150℃以上の高温で加熱処理すると、ヒトが喫食できるような舌触りが良好なものにはならない。近年では、配合飼料の普及により、飼料としての需要は少なくなっており、産業廃棄物として処理される醤油粕量は、益々増大する一方であり、焼却等によってコストを費やして処理されているのが実情である。
【特許文献1】特開2002−3487号公報
【特許文献2】特開2003−230370号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、この様な状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、醤油工場から産業廃棄物として排出されていた醤油粕を、ヒトが喫食できる食品として加工するための技術を提供することにある。特に、本発明では、舌触りが良好な加工食品を製造するための方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決することのできる本発明に係る加工食品の製造方法とは、醤油粕を150℃未満で加熱加圧処理して得られた固形分に調味料を配合する点に要旨を有する。
【0008】
本発明の加工食品の舌触りを一層良くするには、前記加熱加圧処理を行うに先立って、および/または、前記加熱加圧処理を行った後に、湿式で磨砕を行うことが好ましい。
【0009】
前記加熱加圧処理は、特に、120〜140℃で行うことが好ましく、前記加熱加圧処理の時間は、例えば、1〜5時間程度とすればよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、醤油粕を加熱加圧処理することで、舌触りが良くなり、ヒトが喫食できる加工食品を提供できる。従って、本発明によれば、従来、産業廃棄物として処分されていた醤油粕を新たな食品として有効利用できる。特に、本発明の加工食品は、醤油粕を原料として用いているため食物繊維を豊富に含んでおり、整腸作用等の効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明者は、産業廃棄物として処分されていた醤油粕を新たな食品として再利用することができ、しかも整腸作用等の効果が認められる加工食品を提供すべく鋭意検討を行ってきた。その結果、醤油粕を加熱加圧処理すれば、舌触りが良好となり、食感が良くなってヒトが喫食できる食品となることを見出し、本発明を完成した。以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明では、醤油工場から排出された醤油粕を150℃未満で加熱加圧処理した後、得られた固形分に調味料を配合することが重要である。醤油粕を加熱加圧することで、醤油粕(特に、セルロース)の一部が分解され、分子量が小さくなるために舌触りが良くなり、ヒトが良好に喫食できる状態となる。また、150℃未満で加熱加圧処理することで、タンパク質が分解されてアミノ酸となり、旨みも向上する。但し、加熱加圧処理の温度が150℃以上になると、醤油粕が分解し過ぎてしまい、苦味が出て加工食品としての品質が低下する。また、上記特許文献2に記載されているように、過熱水蒸気を醤油粕に接触させたとしても、醤油粕は殆んど分解されないため、セルロースが分解されずに残って舌触りは悪いままである。従って、本発明では、醤油粕を150℃未満で加熱加圧処理する。加熱加圧処理の温度は、好ましくは140℃以下である。加熱加圧処理の温度の下限は、例えば、100℃とすればよい。加熱加圧処理の温度は、好ましくは110℃以上、より好ましくは120℃以上である。
【0013】
加熱加圧処理を行う圧力は、当該処理温度における飽和蒸気圧以上とすればよい。上限は特に限定されず、加熱加圧処理を行う高圧処理容器が耐えうる圧力とすればよい。
【0014】
醤油粕に加熱加圧処理を施す時間は、特に限定されず、加熱加圧処理して得られる固形分の舌触りが良好となり、喫食可能になる範囲であればよい。処理時間は、例えば、1〜5時間程度とすればよい。
【0015】
加熱加圧処理を行う際には、醤油粕を均一に加熱加圧処理するために、高圧処理容器内の醤油粕を攪拌することが望ましい。
【0016】
本発明では、上記加熱加圧処理を行うに先立って、および/または、上記加熱加圧処理を行った後に、湿式で磨砕を行うことが好ましい。醤油粕を湿式状態で磨砕して微細化することで、醤油粕の粒径を小さくすることができ、舌触りを一層良好にすることができる。
【0017】
湿式で磨砕する工程と上記加熱加圧処理の順番は特に限定されず、醤油粕を湿式で磨砕した後に、加熱加圧処理を行って固形分を得てもよいし、或いは醤油粕を加熱加圧処理した後に、湿式で磨砕して固形分を得てもよい。
【0018】
醤油粕を湿式で磨砕した後に、上記加熱加圧処理を行なえば、磨砕時には醤油粕が既に微細化されているため、加熱加圧処理において均一な反応が促進される。一方、醤油粕を加熱加圧処理した後に、湿式で磨砕すれば、加熱加圧処理により加水分解された醤油粕を均一に微細化できる。
【0019】
なお、醤油粕を湿式で磨砕した後に、加熱加圧処理を行い、次いで再度、湿式で磨砕を行ってもよい。必要に応じて湿式で磨砕する工程を複数回に分けて行ってもよいし、加熱加圧処理を複数回に分けて行ってもよい。
【0020】
湿式で磨砕を行うときの条件は特に限定されず、磨砕機として、例えば、家庭用のミキサーを用いることができるほか、工業的には、例えば、増幸産業株式会社製の「スーパーマスコロイダー LC.タイプ(装置名)」を用い、数百〜数千rpm程度の回転数で磨砕すればよい。このとき砥石間隔を調整したり、磨砕機を通す回数を調整すれば、舌触りを変化させることができる。なお、磨砕時の温度が高く(例えば、70℃程度以上)なり過ぎないように水冷して調整するのがよい。
【0021】
本発明で用いることのできる醤油粕は、特別なものに限定されない。即ち、本醸造方式、混合醸造方式(新式醸造)、混合方式(アミノ酸添加法)などの各種方式により副生する醤油粕を使用することができる。原料となる大豆の種類も特に限定されず、例えば、丸大豆(未加工の大豆)や脱脂大豆、脱皮大豆などのいずれであってもよい。
【0022】
なお、上記醤油粕は、醤油を搾り取った後の粕をそのまま高圧処理容器に入れて処理してもよいが、適当な大きさに切断してから高圧処理容器に入れて処理してもよい。醤油粕を切断するには、高圧処理容器にカッター等を備えて上記処理前に粗切断したり、或いはインラインミキサーを使用し、醤油粕をパイプラインを通過させて高圧処理容器へ装入する工程で粗切断すればよい。
【0023】
上記醤油粕は、必要に応じて、常法に従って脱塩処理を行ってもよい。醤油粕には、塩分を多く含んでいるため、ヒトが食するには減塩をしておく方が健康に良いからである。
【0024】
また、醤油は、通常、醤油原料を圧縮することによって搾って製造されるため、副産物として生成する醤油粕の水分率は低くなっている。そこで高圧処理容器には、醤油粕の他に、水を加えてから加熱加圧処理を行うのがよい。水を加えることで加熱加圧処理して得られた固形分の粘性が下がり、舌触りが一層良くなる。
【0025】
加える水の量は特に限定されず、上記固形分を加工食品としたときの加工食品の形態に応じて定めればよい。加工食品の形態を味噌のようなペースト状にするには、高圧処理容器内に、醤油粕の質量に対して、例えば、2〜4倍程度、好ましくは3倍程度の水を加えればよい。
【0026】
加える水は、上水(水道水)をそのまま用いてもよいし、煮沸処理や膜イオン処理等に付した水、更には天然の湧き水や深層水などを使用してもよい。
【0027】
上記のようにして得られた固形分は、必要に応じて濾過することで舌触りを悪くする粗大な固形分や醤油粕に混入した醤油粕以外の不要物を除去してもよい。また、必要に応じて裏ごしすれば、一層滑らかとなり、舌触りが非常に良くなる。
【0028】
上記のようにして得られた固形分は、もちろんそのまま食することができるが、加工食品の素材として用いることができ、該固形分に調味料を配合して好みの味に整えればよい。調味料としては、例えば、砂糖(黒砂糖を含む)、蜂蜜、塩、酢、醤油、味噌、香辛料(例えば、胡椒、唐辛子、山椒など)、ゴマ、ゴマ油、昆布、カツオ粉末、紫蘇、海苔、生姜などを配合すればよい。例えば、調味料として黒砂糖や昆布を配合してペースト状にすれば、味噌の代替品として喫食することができ、例えば、生野菜(例えば、キャベツやキュウリなど)に付けて食してもよいし、野菜等に塗り付けて焼くと味噌田楽風に調理して食することができる。
【0029】
以上のように、本発明では、醤油粕を加熱加圧処理することで、加工食品の素材として用いることができるようになり、しかも原料として醤油粕を用いているため、繊維質が豊富で、優れた整腸作用を発揮すると考えられる。また、イソフラボン化合物も含まれているため、抗コレステロール作用等も期待できる。このように本発明によれば、従来は産業廃棄物として排出されていた醤油粕を新たな食料源として有効活用できる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実験例によって更に詳細に説明するが、下記実験例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0031】
[実験例1]
丸大豆から醤油を搾った後の残渣(醤油粕;ニシキ醤油株式会社から入手)50gに、150gの水を加え、攪拌した後、130℃で3時間の加熱加圧処理を行って固形分を得た。なお、加熱加圧処理した後、該固形分を濾過して粗大な固形分を除去した。
【0032】
[実験例2]
上記実験例1において、水を加えて攪拌した後、加熱加圧処理する前に、家庭用ミキサー(タイガー魔法瓶株式会社製のミル「SKL−A250(品番)」)を用いて湿式磨砕した点以外は、上記実験例1と同じ条件で固形分を得た。湿式磨砕は、10秒間通電して磨砕した後、電源を切って10秒間保持工程を10回繰返して行った。
【0033】
[実験例3]
上記実験例1において、加熱加圧処理を行って得られた固形分を、上記家庭用ミキサーを用いて上述した条件で湿式磨砕した後、濾過して粗大な固形分を除去した。
【0034】
[実験例4]
上記実験例3において、水を加えて攪拌した後、加熱加圧処理する前にも、上記家庭用ミキサーを用いて上述した条件で湿式磨砕を行い、他は上記実験例3と同じ条件で固形分を得た。
【0035】
[実験例5]
丸大豆から醤油を搾った後の残渣(醤油粕;ニシキ醤油株式会社から入手)15gに、45gの水を加え、攪拌した後、上記家庭用ミキサーを用いて上述した条件で湿式磨砕して固形分を得た。湿式磨砕を行った後、該固形分を濾過して粗大な固形分を除去した。
【0036】
上記実験例1〜5で得られた固形分に、調味料として黒砂糖と昆布を適量配合してペースト状の加工食品を得た。
【0037】
得られた加工食品をパネラー5人に喫食してもらい、舌触りが良いものを合格、舌触りが悪いものを不合格と評価してもらった。
【0038】
実験例1〜4で得られた加工食品は、全パネラーが、舌触りが良く、喫食可能であると評価した。また、実験例1〜4で得られた加工食品は、コクがあり、旨いと評価された。一方、実験例5で得られた加工食品は、全パネラーが、舌触りが悪く、喫食できないと評価した。特に、実験例5で得られた加工食品は、コクがなく、旨く無いと評価された。
【0039】
舌触りの良さは、実験例1で得られた加工食品、次に実験例2や3で得られた加工食品の順で良く、実験例4で得られた加工食品の舌触りが最も良かった。一方、実験例5で得られた加工食品の舌触りは、実験例1で得られた加工食品の舌触りよりも悪かった。
【0040】
上記実験例1〜5において、同じ条件で濾過した結果、濾過残渣(濾過できなかった固形分)が最も多かったのは、上記実験例5で得られた固形分であり、濾過に供した固形分のうち、約1/4が濾過残渣として廃棄処分された。これに対し、濾過残渣が最も少なかったのは、上記実験例4で得られた固形分であり、濾過に供した固形分は殆んど濾過され、濾過残渣は殆んど発生しなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
醤油粕を150℃未満で加熱加圧処理して得られた固形分に調味料を配合することを特徴とする加工食品の製造方法。
【請求項2】
前記加熱加圧処理を行うに先立って、および/または、前記加熱加圧処理を行った後に、湿式で磨砕を行う請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記加熱加圧処理を120〜140℃で行う請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記加熱加圧処理を1〜5時間行う請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。