説明

醸造廃水の処理方法

【課題】 焼酎、日本酒などの製造工程で発生する醸造廃水、特にモロミ粕等を脱水機にて脱水した後の廃水の活性汚泥槽に対する負荷を低減できる処理方法を提供する。
【解決手段】 醸造廃水に対し、シリカ−鉄系無機凝集剤を添加した後、有機高分子凝集剤を添加し、固液分離処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、醸造の際に発生する醸造廃水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下水処理場や、食品工場、製紙工場、化学工場等の廃水処理施設では、沈降分離、生物処理等の処理により廃水を浄化させている。かかる廃水処理において発生する汚泥は、スクリューデカンター、ベルトプレス等で脱水処理された後、焼却処分されることが一般的である。また、汚泥の脱水効率向上を目的として、あらかじめ、汚泥に高分子凝集剤を添加混合して汚泥粒子をフロック化することが広く行われている。
ここで、汚泥に対し良好で且つ安定した脱水処理を行うには、汚泥粒子と水とを効率良く分離させること、すなわち、大きなフロックを安定的に形成させ、含水率の低い脱水ケーキを得ることが重要であり、これまで、種々の高分子凝集剤および脱水処理方法が提案されている。たとえば、(1)アミド基含有単量体と、カチオン性単量体と、エーテル型単量体または水酸基含有単量体とからなる高分子凝集剤(特許文献1等)や、(2)有機質汚泥に対して、ポリ塩化アルミニウム、硫酸バンド、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、ポリ硫酸鉄等の無機凝集剤および両性高分子凝集剤による脱水処理を順次行うことにより脱水ケーキの含水率を低下させる脱水処理方法が開示されている(特許文献2、3等)。
【0003】
一方、日本酒等の醸造酒や焼酎等の蒸留酒などの酒類の製造工程では、原料である米を水洗いした際に生じる洗米廃水、モロミを搾って酒類を分離した後に残るモロミ粕等を脱水処理した際に生じる廃水、酒類を入れる瓶を洗浄した際に生じる洗瓶廃水等の種々の廃水(醸造廃水)が生じる。
これらの醸造廃水、特にモロミ粕を脱水した廃水は、pHが低く、またBODやCODが著しく高いため、そのままでは活性汚泥槽の負荷が高すぎて処理できない。そのため、従来、モロミ粕を脱水した廃水は、洗瓶廃水または洗米廃水で希釈する処理を行わなければならず、そのためには大規模な活性汚泥槽を設ける必要があった。
このような問題に対し、醸造廃水を少し希釈し、これを加圧浮上処理することにより活性汚泥の負荷を低減する方法が試行されている。
【特許文献1】特開平4−96913号公報
【特許文献2】特開昭63−158200号公報
【特許文献3】特開平2−180700号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、醸造廃水、特にモロミ粕を脱水した後の廃水中に含まれるBODやCODは非常に高濃度であるため、上記のような方法であっても、BODやCODを充分に低減することはできず、活性汚泥槽でそのまま処理できるほどに負荷を低減することは困難である。
このような問題に対し、上述のような汚泥の処理に用いられている高分子凝集剤を用いることが考えられる。しかしながら、本発明者らの検討によれば、高分子凝集剤を用いた従来の方法を醸造廃水の処理に適用しても、BODやCODを低減することは容易ではなく、上記と同様、活性汚泥槽でそのまま処理できるほどに負荷を低減することは困難である。
本発明は、前記事情を鑑みてなされたものであり、焼酎、日本酒などの製造工程で発生する醸造廃水、特にモロミ粕等を脱水機にて脱水した後の廃水の活性汚泥槽に対する負荷を低減できる処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、醸造廃水に対し、まずシリカ−鉄系無機凝集剤を添加し、その後、有機高分子凝集剤を添加し、さらに固液分離処理を行うことにより、活性汚泥処理が可能な程度にまで醸造廃水中のBOD、CODを低減できることを見出し、本発明に到達した。
即ち、本発明は、醸造廃水に対し、シリカ−鉄系無機凝集剤を添加した後、有機高分子凝集剤を添加し、固液分離処理を行うことを特徴とする醸造廃水の処理方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の醸造廃水の処理方法によれば、醸造廃水、特にモロミ粕等を脱水機にて脱水した際に生じる廃水の活性汚泥槽に対する負荷を低減できる。そのため、活性汚泥槽がコンパクト化でき、効率よく醸造廃水の処理を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明の醸造廃水の処理方法は、醸造廃水に対して、異なる凝集剤を用いて2段階の凝集処理を行うことを特徴としている。以下、各凝集処理について説明する。
【0008】
本発明の処理方法においては、まず、醸造廃水にシリカ−鉄系無機凝集剤を添加する。シリカ−鉄系無機凝集剤を添加することにより、一次フロックが形成される。
シリカ−鉄系無機凝集剤の添加による凝集処理は、特に限定されないが、たとえば、醸造廃水に対して、シリカ−鉄系無機凝集剤の原液を、必要に応じて水で適宜希釈して添加し、撹拌混合することにより行うことができる。
【0009】
本発明の処理方法により処理される醸造廃水は、焼酎、日本酒等の酒類など、発酵作用を利用して製造される製品の製造工程において発生する廃水であり、たとえば焼酎、日本酒等の瓶を洗浄した洗瓶廃水、原料の米を洗浄した洗米廃水、モロミ粕の脱水後の廃水などが含まれる。
本発明は、特に、焼酎および/または日本酒のモロミ粕を脱水した後の廃水の処理に好適である。通常、モロミから酒を分離した後に残るモロミ粕は、更に機械的に脱水処理され、固相(スカム)と水相とに分離される。このとき、スカムの殆どは堆肥の原料として場外に排出される。一方、水相、すなわちモロミ粕を脱水した後の廃水は、pHが3.5〜5の酸性で、SSは300〜500mg/l程度であるが、BODおよびCODが異常に高く、通常、BODが50,000〜100,000mg/l、CODが20,000〜50,000mg/lにも達するため、そのままでは負荷が高すぎて活性汚泥槽に放流できないが、本発明の処理方法により処理することにより、活性汚泥槽での処理が可能となる。
本発明により処理される醸造廃水は、凝集剤の効果と使用量を勘案し、且つコストを削減するためには、BODが50,000mg/l以下であることが好ましく、30,000mg/l以上であることが好ましい。BODが50,000mg/lを越えるような醸造廃水、たとえばモロミ粕を脱水した後の廃水については、水や、比較的BODが低い洗米廃水などで希釈して用いることが好ましい。BODが50,000mg/l以下であると、薬剤の添加量が少なくてすみ、またフロックの形成も非常に良好であり、BOD等の除去率が良好である。更に、水で希釈してBODを低くすれば薬剤は少なくてすむが、処理しなければいけない廃水量が増え、装置を大きくする必要があり、更には活性汚泥槽の容量も増やさなければならないなどの問題がある。
【0010】
本発明で使用されるシリカ−鉄系無機凝集剤は、シリカおよび鉄を主成分とする無機の凝集剤である。
シリカ−鉄系無機凝集剤中、シリカと鉄のモル比は特に限定されず、任意の比のものが使用できる。除濁効果、及び沈降速度などの点で、Si/Fe=0.5〜3のものが好ましい。
シリカ−鉄系無機凝集剤としては、たとえば水道機工(株)から、市販されている一般式[SiO・[Fe]で表されるポリシリカ鉄系凝集剤(商品名:PSI−025〜PSI−300、分子量:200,000〜500,000(ダルトン))などが挙げられる。
【0011】
シリカ−鉄系無機凝集剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
シリカ−鉄系無機凝集剤の添加量は、醸造廃水の種類、水質、BOD、COD、SS等を考慮して設定されるものであり、フロックを形成する量が添加される。たとえば、焼酎および/または日本酒のモロミ粕の脱水した後の廃水であって、BOD濃度が50,000mg/l程度の醸造廃水の場合には、シリカ−鉄系無機凝集剤を、3,000〜8,000ppmの濃度となるよう添加することが好ましい。
【0012】
次いで、シリカ−鉄系無機凝集剤を添加した後、有機高分子凝集剤を添加する。有機高分子凝集剤を添加することにより、シリカ−鉄系無機凝集剤の添加により形成された一次フロックを粗大化する。
有機高分子凝集剤の添加による凝集処理は、特に限定されないが、たとえば、醸造廃水に対して、有機高分子凝集剤の溶液を、必要に応じて適宜希釈して添加し、撹拌混合することにより行うことができる。
【0013】
有機高分子凝集剤としては、一般的に市販されている任意の有機高分子凝集剤が使用可能である。かかる有機高分子凝集剤としては、通常、水溶性高分子が用いられており、その分子量やイオン性等が異なる様々な種類のものがある。たとえばイオン性によりアニオン性高分子凝集剤、ノニオン性高分子凝集剤、カチオン性高分子凝集剤、両性高分子凝集剤に大別される。本発明においては、特に、醸造廃水中のBODやCODの低減効果に優れる点で、カチオン性および/または両性高分子凝集剤が好ましい。
【0014】
カチオン性高分子凝集剤は、分子内にカチオン基を有する水溶性高分子であり、たとえば、ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート類の4級アンモニウム塩を構成単位として含有する重合体、アクリルアミド重合体のマンニッヒ変性物、ポリビニルアミン、ポリビニルアミジン等が挙げられる。中でも、ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート類の4級アンモニウム塩を構成単位として含有する重合体が好ましく、ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート類の4級アンモニウム塩のみから構成される重合体、または、ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート類の4級アンモニウム塩とその他のモノマーとの共重合体が特に好ましい。その他のモノマーとしては、より高分子量化を計ることができるため、アクリルアミドが好ましい。その他のモノマーとしては、共重合可能な非極性の水溶性モノマーまたは少量の疎水性モノマーを含んでも良い。
両性高分子凝集剤は、分子内にカチオン基とアニオン基とを併せ持つ高分子凝集剤であり、たとえば上記カチオン性高分子凝集剤に用いられるモノマーと、アクリル酸などの、アニオン基を形成するモノマーとを共重合させたものが挙げられる。
カチオン性および両性高分子凝集剤中のカチオン基の量(カチオン化率)は、全構成単位に対し、1〜50モル%が好ましい。
【0015】
有機高分子凝集剤は、分子量が大きいほど凝集効果が優れるため好ましく、たとえば 300万以上であることが好ましく、500万以上がより好ましい。
【0016】
有機高分子凝集剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
有機高分子凝集剤の添加量は、上記のシリカ−鉄系無機凝集剤の添加量と同様に、醸造廃水の種類、水質、BOD、COD、SS等を考慮して設定されるものであり、たとえば、焼酎および/または日本酒のモロミ粕の脱水した後の廃水であって、BOD濃度が50,000mg/l程度の醸造廃水の場合には、有機高分子凝集剤を、5〜10ppmの濃度となるよう添加することが好ましい。
【0017】
次いで、有機高分子凝集剤を添加した後、固液分離処理を行う。これにより、固形分(スカム)と水相とを分離させる。
固液分離処理の方法としては、一般的に固液分離に用いられている方法を用いることができ、たとえば、クリュープレス型脱水機、フィルタープレス型脱水機、ベルトプレス型脱水機、スクリューデカンター等の脱水機を用いる方法、加圧浮上法等が挙げられる。本発明においては、これらの中でも、固液分離処理が加圧浮上法により行われることが好ましい。
加圧浮上法は、浮遊懸濁粒子の除去、濃縮等に使用される方法であり、加圧下で空気を水に溶解した後、減圧して空気をガス化し、微細な気泡を発生させる方法であり、発生した気泡が浮遊懸濁粒子に付着して浮遊懸濁粒子を浮上させ、固液分離を行うと同時に、その浮力によって浮遊懸濁粒子が濃縮され、スカムとして分離される。
加圧浮上法は、市販の加圧浮上装置を用いて行うことができる。
【0018】
このとき、分離された水相は、そのまま活性汚泥槽に放出して活性汚泥による生物化学処理を行い、放流できる水質までBOD、COD等の数値を落としてから放流される。
また、分離されたスカムは脱水機に戻し、モロミ粕と共に脱水される。
【0019】
以上説明したように、従来の醸造廃水、特にモロミ粕を脱水した後の廃水は、そのままでは活性汚泥処理ができなかったが、シリカ−鉄系無機凝集剤を添加後、有機高分子凝集剤を添加して固液分離することで、活性汚泥処理が可能なレベルにまでBODやCODを低減できる。そのため、活性汚泥槽への負荷が軽減され、活性汚泥槽をコンパクト化できる。
【実施例】
【0020】
以下の実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
(実施例1)
実施例1は、焼酎の製造工場から排出されるモロミ粕を脱水した時の廃水を使用して試験に供した。この廃水のpHは4.10、SSは316mg/lであり、BODは54,000mg/l、CODが24,000mg/lであった。
実施例1は、この廃水にシリカ−鉄系無機凝集剤(水道機工(株)製:商品名PSI−100)を、5,000ppmとなるように添加・混合してフロックを形成させた後、更に、有機高分子凝集剤として、カチオン性高分子凝集剤(アクリルアミド(AAM)/ジメチルアミノエチルアクリレート・メチルクロライド4級アンモニウム塩(DME)共重合体,AAM/DME=90/10モル%(カチオン化率10モル%),分子量約700万)を5ppmとなるように添加・混合した後、加圧浮上装置((株)宮本製作所製、MS9200型)にて固液分離処理した。スカムが除かれて流出してきた水相を分析した結果、BODが19,500mg/l、CODが13,870mg/lであり、そのまま活性汚泥槽にて処理可能な値となっていた。
【0021】
(実施例2〜3)
実施例2は、有機高分子凝集剤として、両性高分子凝集剤であるAAM/DME/アクリル酸ナトリウム(AA)=65/35/5モル%の共重合体(カチオン化率35モル%、分子量約570万)を使用した以外は実施例1と同様に処理を行った例であり、実施例3は、有機高分子凝集剤として、アニオン性高分子凝集剤であるAAM/AA=90/10モル%のアニオン系共重合体(分子量約920万)を使用し、添加量を10ppmとした以外は実施例1と同様に処理を行った例である。
両性高分子凝集剤を用いた実施例2では、BODが20,500mg/l、CODが13,000mg/lと大幅に低下した。
アニオン性高分子凝集剤を用いた実施例3では、BODが38,000mg/l、CODが16,500mg/lであった。
実施例1〜3の結果をまとめて表1に示した。
【0022】
【表1】

【0023】
(比較例1)
実施例1におけるシリカ−鉄系無機凝集剤に代えて、従来公知の無機凝集剤であるポリ塩化アルミニウムを用いた以外は実施例1と同様に処理を試みたが、ポリ塩化アルミニウムを5,000ppmとなるよう添加しただけではフロックは形成されなかった。
そこで、この液のpHを9にしたところ、微小のフロックが形成されたため、これに実施例1で用いたカチオン性高分子凝集剤(AAM/DME=90/10モル%の共重合体)を加えたが、5ppmの添加量ではフロックが粗大化せず、固液分離処理が出来なかった。
【0024】
(比較例2)
この例では、シリカ−鉄系無機凝集剤に代えてポリ塩化アルミニウムを用いた場合に、BODおよびCODが実施例1と同等のレベルの処理水が得られる最良の手法を検討した。その結果、BODおよびCODが実施例1と同等のレベルとするためには、ポリ塩化アルミニウムを7,000ppmの濃度となるよう添加した後、その液を、pHが9になるまで苛性ソーダで中和し、実施例3で用いたアニオン性高分子凝集剤(AAM/AA=90/10モル%共重合体)を30ppmの濃度となるよう添加した後、更に実施例1で用いたカチオン性高分子凝集剤(AAM/DME=90/10モル%共重合体)を80ppmの濃度となるよう添加する必要があった。また、水酸化アルミニウムが生成されるため、実施例1と比べ、スカムの発生量が約25%増量していた。
【0025】
これらの結果から、醸造廃水にシリカ−鉄系無機凝集剤を添加後、有機高分子凝集剤を添加して固液分離する本発明が、ポリ塩化アルミニウムのようなシリカ−鉄系無機凝集剤以外の無機凝集剤を使用する場合と比べて、以下のような利点を有することが確認できた。
1)pH調整が不要である。
2)使用する薬剤の添加量や種類が少ない。
3)水酸化アルミニウム等の水酸化物を生成しないので、スカムの発生量が少ない。
4)処理が簡素化されるので処理能力が向上する。
また、本発明によれば、醸造廃水中のBODやCODを、活性汚泥槽でそのまま処理できる程度にまで低減できることから、従来の醸造廃水の処理で行われているように、活性汚泥槽で処理できるように希釈して処理する場合と比べ、活性汚泥槽のコンパクト化が期待できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
醸造廃水に対し、シリカ−鉄系無機凝集剤を添加した後、有機高分子凝集剤を添加し、固液分離処理を行うことを特徴とする醸造廃水の処理方法。


【公開番号】特開2006−263593(P2006−263593A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−85895(P2005−85895)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(301057923)ダイヤニトリックス株式会社 (127)
【Fターム(参考)】