重力式岸壁または護岸における地震時の変位低減方法および変位低減構造
【課題】重力式岸壁または重力式護岸において地震時の変位を低減させることのできる変位低減方法および変位低減構造を提供する。
【解決手段】この重力式岸壁または護岸における地震時の変位低減方法は、ケーソン式重力岸壁または護岸において、ケーソンの固有周波数を低周波数側にシフトさせて多くの周波数成分を含む地震波と選択的に共振する現象を回避することで、ケーソンKに対する応答加速度に比例する慣性力を小さくしてケーソンの水平変位を低減させる。
【解決手段】この重力式岸壁または護岸における地震時の変位低減方法は、ケーソン式重力岸壁または護岸において、ケーソンの固有周波数を低周波数側にシフトさせて多くの周波数成分を含む地震波と選択的に共振する現象を回避することで、ケーソンKに対する応答加速度に比例する慣性力を小さくしてケーソンの水平変位を低減させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重力式岸壁または重力式護岸において地震時の変位を低減させる方法および構造に関する。
【背景技術】
【0002】
重力式の港湾施設における地震時の主な被災形態として、(1)護岸法線が海側へはらみだす、(2)背後地盤が陥没する、(3)荷役施設が損傷するなどが挙げられる。このような被災を受けると、岸壁であれば荷役船舶が接岸できなくなるほか、クレーンが使用不可になると荷役作業が行えないなど物流活動に大きな支障をきたす。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
港湾施設では重力式岸壁としてケーソンがよく用いられているが、地震時におけるケーソン岸壁の滑動問題では海側へ作用する主な外力として以下のような作用が考えられる(図1参照)。
(A)地震によるケーソンの慣性力
(B)ケーソン背面の残留水圧
(C)ケーソン前面の動水圧
(D)ケーソン背後地盤の土圧(地震時土圧)
【0004】
図1の(A)〜(D)の合力Fに対して、ケーソンKとマウンドMとの摩擦力Rが大きければ滑動しないが、その逆であれば滑動する、と静的な力のつり合いから推察することができる。
【0005】
地震時におけるケーソンの滑動を防止するため、一般には上記(D)の土圧を軽減することを考える。すなわち、背後地盤は浚渫土等の緩い飽和した砂質土で構成される場合が多いため、地震時に液状化する可能性が高く、その場合にはケーソンに作用する土圧が急増する。そこで、背後地盤を締め固める、あるいはセメント等により固化処理することで地震時における液状化の発生を防ぎ、ケーソンに作用する地震時土圧を軽減している。
【0006】
背後地盤が液状化しない場合には、先述した静的な力のつり合いのみならず岸壁または護岸の振動(周波数)特性にも注意する必要がある。それは、共振と呼ばれる現象であり、ケーソンあるいは背後地盤の固有周波数と入力される地震波の周波数とが近くなると、大きな振動が生じて上記(A)の値が増大する。例えば、地震波が図2に示す観測波であれば、図3のフーリエスペクトルから分かるように多くの周波数成分を含んでいるが、共振し易い物体の固有周波数は図4に示す加速度応答スペクトルから推定でき、図4の場合には、3Hz付近の固有周波数を持つ物体が最も共振し易いと言える。ケーソンの固有周波数は、堤体高などによって様々であるが、0.6〜2Hz程度であると考えられ、図2の地震波がケーソンに作用する場合には図5(a)のようにケーソンKが共振する可能性も否定できない。
【0007】
すなわち、図5(c)のように工学的基盤からマウンドMに地震波が入力すると、図5(a)のようにケーソン式の岸壁または護岸ではケーソンKが地震波と共振し揺れが大きくなる可能性があり、その場合には堤体の水平変位が助長されると考えられる。ケーソンKの中詰材としては、図5(b)のように、一般に浚渫土または雑石等が用いられ、滑動抵抗力(上記摩擦力R)を得るための重量材としての役割がある。
【0008】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、重力式岸壁または重力式護岸において地震時の変位を低減させることのできる変位低減方法および変位低減構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための重力式岸壁または護岸における地震時の変位低減方法は、ケーソン式重力岸壁または護岸において、ケーソンの固有周波数を低周波数側にシフトさせて多くの周波数成分を含む地震波と選択的に共振する現象を回避することで、前記ケーソンに対する応答加速度に比例する慣性力を小さくして前記ケーソンの水平変位を低減させることを特徴とする。
【0010】
この地震時の変位低減方法によれば、重力式岸壁また重力式護岸において地震時の変位を低減させることができる。
【0011】
上記重力式岸壁または護岸における地震時の変位低減方法において、前記ケーソンの中詰材を地震時に液状化させて低剛性にすることにより、前記ケーソンの固有周波数を低周波数側にシフトさせることができる。
【0012】
また、前記ケーソンの中詰材として相対密度60%以下の飽和砂を用い、前記飽和砂を地震時に液状化させて低剛性にすることにより、前記ケーソンの固有周波数を低周波数側にシフトさせることができる。
【0013】
前記飽和砂を前記ケーソン内部の全中詰可能容積の75%以上詰め、ケーソンの重量を確保しながら地震時に液状化させることができる。
【0014】
また、前記ケーソンの中詰材として、砂の水中単位体積重量(γsub)を超えた水中単位体積重量(γsub)を有する材料を前記ケーソン内部に底から詰めることで前記ケーソンの重量を確保し、残りを水で満たし、前記水を地震時にスロッシングさせることにより、前記ケーソンの固有周波数を低周波数側にシフトさせることができる。
【0015】
前記砂の水中単位体積重量(γsub)を超えた水中単位体積重量(γsub)を有する材料として製鋼スラグを用いることができる。
【0016】
上記目的を達成するための重力式岸壁または護岸における地震時の変位低減構造は、ケーソン式重力岸壁または護岸において、ケーソンに地震時に液状化するような材料を中詰材として詰め、前記中詰材が地震時に液状化することにより、前記ケーソンの固有周波数を低周波数側にシフトさせて多くの周波数成分を含む地震波と選択的に共振する現象を回避することで、前記ケーソンに対する応答加速度に比例する慣性力を小さくして前記ケーソンの水平変位を低減させることを特徴とする。
【0017】
この地震時の変位低減構造によれば、重力式岸壁また重力式護岸において中詰材を地震時に液状化させて低剛性にすることで地震時の変位を低減させることができる。
【0018】
上記目的を達成するためのもう1つの重力式岸壁または護岸における地震時の変位低減構造は、ケーソン式重力岸壁または護岸において、砂の水中単位体積重量(γsub)を超えた水中単位体積重量(γsub)を有する材料をケーソン内部に底から詰めることで前記ケーソンの重量を確保し、残りを水で満たし、前記水が地震時にスロッシングすることにより、前記ケーソンの固有周波数を低周波数側にシフトさせて多くの周波数成分を含む地震波と選択的に共振する現象を回避することで、前記ケーソンに対する応答加速度に比例する慣性力を小さくして前記ケーソンの水平変位を低減させることを特徴とする。
【0019】
この地震時の変位低減構造によれば、重力式岸壁また重力式護岸においてケーソンの重量を確保するとともに、ケーソン内部の水を地震時にスロッシングさせることにより地震時の変位を低減させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、重力式岸壁または重力式護岸において地震時の変位を低減させることのできる変位低減方法および変位低減構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】重力式港湾施設に用いられるケーソンにおける地震時の滑動問題を説明するための図である。
【図2】地震波の例を示すグラフである。
【図3】図2の地震波のフーリエスペクトルを示すグラフである。
【図4】図2の地震波の加速度応答スペクトルを示すグラフである。
【図5】従来のケーソン式岸壁に図2のような地震波が作用したときケーソンが地震波と共振し揺れが大きくなることを説明するための概略的な断面図(a)、ケーソンの内部構成を概略的に示す断面図(b)およびケーソンが設置される工学的基盤への地震波の入力を模式的に示す図(c)である。
【図6】第1実施形態においてケーソンの中詰材を低剛性材料としたケーソン式岸壁を概略的に示す断面図(a)およびケーソンの内部構成を概略的に示す断面図(b)である。
【図7】第2実施形態においてケーソンの中詰材を低剛性材料および高比重材料としたケーソン式岸壁を概略的に示す断面図(a)およびケーソンの内部構成を概略的に示す断面図(b)である。
【図8】第3実施形態においてケーソンの中詰材を高比重材料および水としたケーソン式岸壁を概略的に示す断面図(a)およびケーソンの内部構成を概略的に示す断面図(b)である。
【図9】本解析例で用いた解析モデルを示す図である。
【図10】本解析例の検討ケース(a)〜(e)における分割要素の概要を示す図である。
【図11】本解析例の結果を示す図で、ケーソン天端位置(図9)における水平変位時刻歴(図2の20秒まで)を示す。
【図12】本解析例の結果を示す図で、横軸がケーソン内部の全中詰可能容積に対する低剛性材料の割合で、縦軸が各検討ケース(b)〜(e)の水平変位を検討ケース(a)の従来技術の水平変位で基準化したグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。
【0023】
〈第1実施形態〉
図6は、第1実施形態においてケーソンの中詰材を低剛性材料としたケーソン式岸壁を概略的に示す断面図(a)およびケーソンの内部構成を概略的に示す断面図(b)である。
【0024】
図6(a)のケーソン式岸壁は、捨石からなり基礎地盤とされるマウンドMの上にケーソンKが水面Sよりも高く設置され、ケーソンKの背面陸側に裏込石Bが構成されている。マウンドMは粘性土Jの上で地盤改良された改良地盤Iの上に構築され、裏込石Bの背面陸側には埋立土Uが埋め戻されている。
【0025】
ケーソンKは、コンクリートの躯体と、内部空洞に充填された中詰材とから構成される。ケーソンKには、図6(b)のように、その内部空間に相対密度60%以下のゆるい飽和砂11が中詰材として詰められ、地震時に中詰材を積極的に液状化させるようにしている。相対密度60%以下のゆるい飽和砂であると、地震の揺れにより容易に液状化し、低剛性となる。
【0026】
かかる中詰材は、重力式ケーソンKの所定の重量を満足することができるとともに、地震時に液状化することで低剛性となってケーソンの固有周波数を低周波数側にシフトさせることができる。
【0027】
すなわち、図6(a)のように、図5(c)と同様に改良地盤Iを介してケーソンKの工学的地盤であるマウンドMに図2のような地震波Eが入力すると、マウンドM上のケーソンKは、水平方向に揺れるが、中詰材としての飽和砂11が揺れのために液状化することで剛性が低くなり、ケーソンKの固有周波数が低周波数側にシフトする。これにより、多くの周波数成分を含む地震波と選択的に共振する現象を回避し、ケーソンKに対する応答加速度(α)に比例する慣性力(m・α ただし、m:ケーソンの質量)を小さくすることで、ケーソンKの水平変位を低減することができる。このように、ケーソンKが図2のような地震波に共振せず、その揺れが小さくなり、ケーソンKの水平変位が低減する。
【0028】
以上のように、第1実施形態によれば、ケーソンKの中詰材を、飽和砂11とすることで、ケーソンKの重量を確保しつつ、地震時に容易に液状化させて低剛性とすることで、地震時の揺れを低減させ、ケーソン岸壁の水平変位を低減させることができる。
【0029】
〈第2実施形態〉
図7は、第2実施形態においてケーソンの中詰材を低剛性材料および高比重材料としたケーソン式岸壁を概略的に示す断面図(a)およびケーソンの内部構成を概略的に示す断面図(b)である。
【0030】
図7(a)のケーソン式岸壁は、図6(a)と同様の構造であるが、ケーソンKの中詰材としてケーソンの重量確保のため比重が比較的大きい高比重材料を追加したものである。すなわち、ケーソンKには、中詰材として、図7(b)のように、高比重材料12が底から詰められ、残りが相対密度60%以下のゆるい飽和砂11が詰められることで、地震時に飽和砂11を積極的に液状化させるようにしている。かかる中詰材により、重力式ケーソンの所定の重量を満足することができるとともに、ケーソンの固有周波数を低周波数側にシフトさせることができる。
【0031】
高比重材料12は、例えば、製鋼スラグや雑石等から構成できるが、他の材料であってもよく、この場合、高比重材料12として、その水中単位体積重量が通常の砂よりも大きい材料を選択する。例えば、高比重材料12を製鋼スラグとする場合、製鋼スラグは、その水中単位体積重量(γsub)が16kN/m3であり、水中単位体積重量(γsub)が10kN/m3である通常の砂に比べて1.6倍程度重い。
【0032】
また、図7(b)のように、飽和砂11と高比重材料12との体積比を、n:1−n(n≦1)とすると、本実施形態では、n≧0.75が好ましい。すなわち、飽和砂11はケーソン内部の全中詰可能容積の75%以上であることが好ましい。
【0033】
図7(a)のように、図5(c)と同様に改良地盤Iを介してケーソンKの工学的地盤であるマウンドMに図2のような地震波Eが入力すると、マウンドM上のケーソンKは、水平方向に揺れるが、中詰材としての飽和砂11が揺れのために液状化することで剛性が低くなり、ケーソンKの固有周波数が低周波数側にシフトする。これにより、多くの周波数成分を含む地震波と選択的に共振する現象を回避し、ケーソンKに対する応答加速度(α)に比例する慣性力(m・α ただし、m:ケーソンの質量)を小さくすることで、ケーソンKの水平変位を低減することができる。このように、ケーソンKが図2のような地震波に共振せず、その揺れが小さくなり、ケーソンKの水平変位が低減する。この剛性低下の効果は図6の場合よりも小さいものの、ケーソンKの重量を図6の場合よりも大きくできる。
【0034】
以上のように、第2実施形態によれば、ケーソンKの中詰材を、飽和砂11と高比重材料12とすることで、ケーソンKの重量を大きくできるとともに、地震時に容易に液状化させて低剛性とすることで、地震時の揺れを低減させ、ケーソン岸壁の水平変位を低減することができる。
【0035】
〈第3実施形態〉
図8は、第3実施形態においてケーソンの中詰材を高比重材料および水としたケーソン式岸壁を概略的に示す断面図(a)およびケーソンの内部構成を概略的に示す断面図(b)である。
【0036】
図8(a)のケーソン式岸壁は、図6(a)と同様の構造であるが、ケーソンKの中詰材として比重が比較的大きい高比重材料と水を用いたものである。すなわち、ケーソンKには中詰材として、図8(b)のように、その内部空間の底部に高比重材料12が詰められ、残りが水13で満たされ、地震時に水13がケーソンKの内部でスロッシングするようにしている。かかる中詰材により、重力式ケーソンの所定の重量を満足することができるとともに、固有周波数を低周波数側にシフトさせることができる。
【0037】
高比重材料12は、例えば、製鋼スラグ等から構成できるが、他の材料であってもよく、この場合、高比重材料12として、その水中単位体積重量(γsub)が通常の砂よりも大きい材料を選択する。
【0038】
例えば、高比重材料12を製鋼スラグとする場合、製鋼スラグの水中単位体積重量(γsub)と通常の砂の水中単位体積重量(γsub)とを比べると、上述のように製鋼スラグの方が1.6倍程度重い。このため、図6(b)と同程度のケーソン重量を確保するためには、ケーソンKの中詰材の体積の1/1.6=0.625程度を製鋼スラグにすればよい。このとき、ケーソンKの内部においてスロッシングのために必要な水のない上部の空間14の容積を考慮し、水13+空間14と高比重材料12との体積比を、n:1−n(n≦1)とすると、n≦0.37にすれば所定のケーソン重量を確保できる。なお、たとえば、空間14の容積が、ケーソンの全中詰可能容積の10%程度必要とすると、水13の体積は全中詰可能容積の27%程度となる。
【0039】
また、製鋼スラグは、実際には塊状の固形物の集合体で、間隙を有し、水を入れると、この間隙にも水が浸透する。このため、水13と高比重材料12をケーソン内部に投入する場合は、重量比で投入することが好ましい。
【0040】
図8(a)のように、図5(c)と同様に改良地盤Iを介してケーソンKの工学的地盤であるマウンドMに図2のような地震波Eが入力すると、マウンドM上のケーソンKは、水平方向に揺れるが、中詰材としての水13がケーソンKの内部で揺れることで液面揺動が引き起こされ、スロッシングすることにより、ケーソンKの固有周波数が低周波数側にシフトする。これにより、多くの周波数成分を含む地震波と選択的に共振する現象を回避し、ケーソンKに対する応答加速度(α)に比例する慣性力(m・α ただし、m:ケーソンの質量)を小さくすることで、ケーソンKの水平変位を低減することができる。このように、ケーソンKが図2のような地震波に共振せず、その揺れが小さくなり、ケーソンKの水平変位が低減する。
【0041】
以上のように、第3実施形態によれば、ケーソンKの中詰材を、高比重材料12と水13とすることで、ケーソンKの重量を確保しつつ、地震時に水13をスロッシングさせることで、地震時の揺れを低減させ、ケーソン岸壁の水平変位を低減することができる。
【0042】
なお、上記各実施形態においては、ケーソンに対する地震による慣性力(図1の(A))を小さくすることで地震時におけるケーソンの水平変位を低減させることを目的とし、ケーソンの背後地盤(図6(a)等の埋立土Uなど)やケーソン直下の地盤(図6(a)等の地盤Iなど)は地震により液状化しないことを前提とする。
【解析例】
【0043】
(財)沿岸技術研究センター「港湾構造物設計事例集上巻」(平成19年3月)に記載の一般的なケーソン式岸壁を参考にして、以下の条件で有限要素法による解析的検討を行った。なお、解析には港湾空港での適用性が確認されているFLIPを用いた。
【0044】
〈解析条件〉
【0045】
図9に本解析例の解析モデルを示す。この解析モデルは、ケーソン式−15m岸壁であり、直下地盤には高置換80%によるサンドコンパクションによる地盤改良が実施されている。なお、本実施形態は背後地盤が液状化しないケースを想定しているので、本解析例では背後の埋立土は液状化しない条件とした。各土層の物性値は港湾構造物設計事例集に記載の値を用いた。次の表1に解析パラメータを示す。中詰材のパラメータは低剛性材料の物性であり、砂の1/100程度の剛性である。拘束条件は、底面粘性境界および側方粘性境界+反力境界を用い、図2に示した地震波(2E波)を検討モデル底面から入力した。なお、以下の表1において、例えば、「2.2E+06」は「2.2×106」を意味する。
【0046】
【表1】
【0047】
〈検討ケースと解析結果〉
【0048】
検討ケース(a)〜(e)の概要を図10(a)〜(e)に示す。各検討ケース(a)〜(e)の結果の一覧を表2に示す。
【0049】
図10(a)の検討ケース(a)は従来技術であり、ケーソン内部に低剛性材料はない。図10(b)の検討ケース(b)はケーソン内部1/4上部を低剛性材料とし、図10(c)の検討ケース(c)はケーソン内部1/2上部を低剛性材料とし、図10(d)の検討ケース(d)はケーソン内部3/4上部を低剛性材料とし、図10(e)の検討ケース(e)はケーソンの中詰全てを低剛性材料としたものである。
【0050】
【表2】
【0051】
検討結果として、図11に、ケーソン天端位置(図9)における水平変位時刻歴(図2の20秒まで)を示す。また、表2に、各検討ケース(a)〜(e)におけるケーソン天端位置(図9)における最終水平変位(以下、「水平変位」という。)を示す。図11,表2によれば、検討ケース(a)の従来技術の水平変位が−0.5mであるのに対し、他の検討ケース(b)〜(e)の水平変位は若干ではあるが低減されていることがわかる。
【0052】
具体的に水平変位の低減効果を確認するため、図12に、横軸がケーソン内部の全中詰可能容積に対する低剛性材料の割合で、縦軸が検討ケース(a)の従来技術の水平変位で基準化したグラフを示す。図12によれば、少なくともケーソン重心よりも低い位置まで低剛性材料を適用した場合(本検討ケース(d)(e))、検討ケース(a)の従来技術よりもケーソン天端の水平変位が5〜10%程度低減できることがわかる。
【0053】
以上のように、低剛性材料を全中詰可能容積の75%〜100%とし、ケーソンの上部に適用することで地震時における水平変位を5〜10%程度低減することが示された。
【0054】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。例えば、図6(b)では、ケーソンKの中詰材を飽和砂として、地震時に液状化することで低剛性になるようにしたが、本発明は、これに限定されず、所定の重量を満足する範囲で剛性の低い材料を用いてもよく、例えば、ゴムチップに砂を混合させたような低剛性材料であってもよく、ケーソンKの固有周波数が低周波数側にシフトする。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の重力式岸壁または護岸における地震時の変位低減方法および変位低減構造によれば、重力式岸壁または重力式護岸において地震時の変位を簡単な方法・手段で低減させることができるので、施工コストがさほどかからずに重力式岸壁・護岸における耐震性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0056】
11 飽和砂 12 高比重材料 13 水 14 空間 K ケーソン M マウンド
【技術分野】
【0001】
本発明は、重力式岸壁または重力式護岸において地震時の変位を低減させる方法および構造に関する。
【背景技術】
【0002】
重力式の港湾施設における地震時の主な被災形態として、(1)護岸法線が海側へはらみだす、(2)背後地盤が陥没する、(3)荷役施設が損傷するなどが挙げられる。このような被災を受けると、岸壁であれば荷役船舶が接岸できなくなるほか、クレーンが使用不可になると荷役作業が行えないなど物流活動に大きな支障をきたす。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
港湾施設では重力式岸壁としてケーソンがよく用いられているが、地震時におけるケーソン岸壁の滑動問題では海側へ作用する主な外力として以下のような作用が考えられる(図1参照)。
(A)地震によるケーソンの慣性力
(B)ケーソン背面の残留水圧
(C)ケーソン前面の動水圧
(D)ケーソン背後地盤の土圧(地震時土圧)
【0004】
図1の(A)〜(D)の合力Fに対して、ケーソンKとマウンドMとの摩擦力Rが大きければ滑動しないが、その逆であれば滑動する、と静的な力のつり合いから推察することができる。
【0005】
地震時におけるケーソンの滑動を防止するため、一般には上記(D)の土圧を軽減することを考える。すなわち、背後地盤は浚渫土等の緩い飽和した砂質土で構成される場合が多いため、地震時に液状化する可能性が高く、その場合にはケーソンに作用する土圧が急増する。そこで、背後地盤を締め固める、あるいはセメント等により固化処理することで地震時における液状化の発生を防ぎ、ケーソンに作用する地震時土圧を軽減している。
【0006】
背後地盤が液状化しない場合には、先述した静的な力のつり合いのみならず岸壁または護岸の振動(周波数)特性にも注意する必要がある。それは、共振と呼ばれる現象であり、ケーソンあるいは背後地盤の固有周波数と入力される地震波の周波数とが近くなると、大きな振動が生じて上記(A)の値が増大する。例えば、地震波が図2に示す観測波であれば、図3のフーリエスペクトルから分かるように多くの周波数成分を含んでいるが、共振し易い物体の固有周波数は図4に示す加速度応答スペクトルから推定でき、図4の場合には、3Hz付近の固有周波数を持つ物体が最も共振し易いと言える。ケーソンの固有周波数は、堤体高などによって様々であるが、0.6〜2Hz程度であると考えられ、図2の地震波がケーソンに作用する場合には図5(a)のようにケーソンKが共振する可能性も否定できない。
【0007】
すなわち、図5(c)のように工学的基盤からマウンドMに地震波が入力すると、図5(a)のようにケーソン式の岸壁または護岸ではケーソンKが地震波と共振し揺れが大きくなる可能性があり、その場合には堤体の水平変位が助長されると考えられる。ケーソンKの中詰材としては、図5(b)のように、一般に浚渫土または雑石等が用いられ、滑動抵抗力(上記摩擦力R)を得るための重量材としての役割がある。
【0008】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、重力式岸壁または重力式護岸において地震時の変位を低減させることのできる変位低減方法および変位低減構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための重力式岸壁または護岸における地震時の変位低減方法は、ケーソン式重力岸壁または護岸において、ケーソンの固有周波数を低周波数側にシフトさせて多くの周波数成分を含む地震波と選択的に共振する現象を回避することで、前記ケーソンに対する応答加速度に比例する慣性力を小さくして前記ケーソンの水平変位を低減させることを特徴とする。
【0010】
この地震時の変位低減方法によれば、重力式岸壁また重力式護岸において地震時の変位を低減させることができる。
【0011】
上記重力式岸壁または護岸における地震時の変位低減方法において、前記ケーソンの中詰材を地震時に液状化させて低剛性にすることにより、前記ケーソンの固有周波数を低周波数側にシフトさせることができる。
【0012】
また、前記ケーソンの中詰材として相対密度60%以下の飽和砂を用い、前記飽和砂を地震時に液状化させて低剛性にすることにより、前記ケーソンの固有周波数を低周波数側にシフトさせることができる。
【0013】
前記飽和砂を前記ケーソン内部の全中詰可能容積の75%以上詰め、ケーソンの重量を確保しながら地震時に液状化させることができる。
【0014】
また、前記ケーソンの中詰材として、砂の水中単位体積重量(γsub)を超えた水中単位体積重量(γsub)を有する材料を前記ケーソン内部に底から詰めることで前記ケーソンの重量を確保し、残りを水で満たし、前記水を地震時にスロッシングさせることにより、前記ケーソンの固有周波数を低周波数側にシフトさせることができる。
【0015】
前記砂の水中単位体積重量(γsub)を超えた水中単位体積重量(γsub)を有する材料として製鋼スラグを用いることができる。
【0016】
上記目的を達成するための重力式岸壁または護岸における地震時の変位低減構造は、ケーソン式重力岸壁または護岸において、ケーソンに地震時に液状化するような材料を中詰材として詰め、前記中詰材が地震時に液状化することにより、前記ケーソンの固有周波数を低周波数側にシフトさせて多くの周波数成分を含む地震波と選択的に共振する現象を回避することで、前記ケーソンに対する応答加速度に比例する慣性力を小さくして前記ケーソンの水平変位を低減させることを特徴とする。
【0017】
この地震時の変位低減構造によれば、重力式岸壁また重力式護岸において中詰材を地震時に液状化させて低剛性にすることで地震時の変位を低減させることができる。
【0018】
上記目的を達成するためのもう1つの重力式岸壁または護岸における地震時の変位低減構造は、ケーソン式重力岸壁または護岸において、砂の水中単位体積重量(γsub)を超えた水中単位体積重量(γsub)を有する材料をケーソン内部に底から詰めることで前記ケーソンの重量を確保し、残りを水で満たし、前記水が地震時にスロッシングすることにより、前記ケーソンの固有周波数を低周波数側にシフトさせて多くの周波数成分を含む地震波と選択的に共振する現象を回避することで、前記ケーソンに対する応答加速度に比例する慣性力を小さくして前記ケーソンの水平変位を低減させることを特徴とする。
【0019】
この地震時の変位低減構造によれば、重力式岸壁また重力式護岸においてケーソンの重量を確保するとともに、ケーソン内部の水を地震時にスロッシングさせることにより地震時の変位を低減させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、重力式岸壁または重力式護岸において地震時の変位を低減させることのできる変位低減方法および変位低減構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】重力式港湾施設に用いられるケーソンにおける地震時の滑動問題を説明するための図である。
【図2】地震波の例を示すグラフである。
【図3】図2の地震波のフーリエスペクトルを示すグラフである。
【図4】図2の地震波の加速度応答スペクトルを示すグラフである。
【図5】従来のケーソン式岸壁に図2のような地震波が作用したときケーソンが地震波と共振し揺れが大きくなることを説明するための概略的な断面図(a)、ケーソンの内部構成を概略的に示す断面図(b)およびケーソンが設置される工学的基盤への地震波の入力を模式的に示す図(c)である。
【図6】第1実施形態においてケーソンの中詰材を低剛性材料としたケーソン式岸壁を概略的に示す断面図(a)およびケーソンの内部構成を概略的に示す断面図(b)である。
【図7】第2実施形態においてケーソンの中詰材を低剛性材料および高比重材料としたケーソン式岸壁を概略的に示す断面図(a)およびケーソンの内部構成を概略的に示す断面図(b)である。
【図8】第3実施形態においてケーソンの中詰材を高比重材料および水としたケーソン式岸壁を概略的に示す断面図(a)およびケーソンの内部構成を概略的に示す断面図(b)である。
【図9】本解析例で用いた解析モデルを示す図である。
【図10】本解析例の検討ケース(a)〜(e)における分割要素の概要を示す図である。
【図11】本解析例の結果を示す図で、ケーソン天端位置(図9)における水平変位時刻歴(図2の20秒まで)を示す。
【図12】本解析例の結果を示す図で、横軸がケーソン内部の全中詰可能容積に対する低剛性材料の割合で、縦軸が各検討ケース(b)〜(e)の水平変位を検討ケース(a)の従来技術の水平変位で基準化したグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。
【0023】
〈第1実施形態〉
図6は、第1実施形態においてケーソンの中詰材を低剛性材料としたケーソン式岸壁を概略的に示す断面図(a)およびケーソンの内部構成を概略的に示す断面図(b)である。
【0024】
図6(a)のケーソン式岸壁は、捨石からなり基礎地盤とされるマウンドMの上にケーソンKが水面Sよりも高く設置され、ケーソンKの背面陸側に裏込石Bが構成されている。マウンドMは粘性土Jの上で地盤改良された改良地盤Iの上に構築され、裏込石Bの背面陸側には埋立土Uが埋め戻されている。
【0025】
ケーソンKは、コンクリートの躯体と、内部空洞に充填された中詰材とから構成される。ケーソンKには、図6(b)のように、その内部空間に相対密度60%以下のゆるい飽和砂11が中詰材として詰められ、地震時に中詰材を積極的に液状化させるようにしている。相対密度60%以下のゆるい飽和砂であると、地震の揺れにより容易に液状化し、低剛性となる。
【0026】
かかる中詰材は、重力式ケーソンKの所定の重量を満足することができるとともに、地震時に液状化することで低剛性となってケーソンの固有周波数を低周波数側にシフトさせることができる。
【0027】
すなわち、図6(a)のように、図5(c)と同様に改良地盤Iを介してケーソンKの工学的地盤であるマウンドMに図2のような地震波Eが入力すると、マウンドM上のケーソンKは、水平方向に揺れるが、中詰材としての飽和砂11が揺れのために液状化することで剛性が低くなり、ケーソンKの固有周波数が低周波数側にシフトする。これにより、多くの周波数成分を含む地震波と選択的に共振する現象を回避し、ケーソンKに対する応答加速度(α)に比例する慣性力(m・α ただし、m:ケーソンの質量)を小さくすることで、ケーソンKの水平変位を低減することができる。このように、ケーソンKが図2のような地震波に共振せず、その揺れが小さくなり、ケーソンKの水平変位が低減する。
【0028】
以上のように、第1実施形態によれば、ケーソンKの中詰材を、飽和砂11とすることで、ケーソンKの重量を確保しつつ、地震時に容易に液状化させて低剛性とすることで、地震時の揺れを低減させ、ケーソン岸壁の水平変位を低減させることができる。
【0029】
〈第2実施形態〉
図7は、第2実施形態においてケーソンの中詰材を低剛性材料および高比重材料としたケーソン式岸壁を概略的に示す断面図(a)およびケーソンの内部構成を概略的に示す断面図(b)である。
【0030】
図7(a)のケーソン式岸壁は、図6(a)と同様の構造であるが、ケーソンKの中詰材としてケーソンの重量確保のため比重が比較的大きい高比重材料を追加したものである。すなわち、ケーソンKには、中詰材として、図7(b)のように、高比重材料12が底から詰められ、残りが相対密度60%以下のゆるい飽和砂11が詰められることで、地震時に飽和砂11を積極的に液状化させるようにしている。かかる中詰材により、重力式ケーソンの所定の重量を満足することができるとともに、ケーソンの固有周波数を低周波数側にシフトさせることができる。
【0031】
高比重材料12は、例えば、製鋼スラグや雑石等から構成できるが、他の材料であってもよく、この場合、高比重材料12として、その水中単位体積重量が通常の砂よりも大きい材料を選択する。例えば、高比重材料12を製鋼スラグとする場合、製鋼スラグは、その水中単位体積重量(γsub)が16kN/m3であり、水中単位体積重量(γsub)が10kN/m3である通常の砂に比べて1.6倍程度重い。
【0032】
また、図7(b)のように、飽和砂11と高比重材料12との体積比を、n:1−n(n≦1)とすると、本実施形態では、n≧0.75が好ましい。すなわち、飽和砂11はケーソン内部の全中詰可能容積の75%以上であることが好ましい。
【0033】
図7(a)のように、図5(c)と同様に改良地盤Iを介してケーソンKの工学的地盤であるマウンドMに図2のような地震波Eが入力すると、マウンドM上のケーソンKは、水平方向に揺れるが、中詰材としての飽和砂11が揺れのために液状化することで剛性が低くなり、ケーソンKの固有周波数が低周波数側にシフトする。これにより、多くの周波数成分を含む地震波と選択的に共振する現象を回避し、ケーソンKに対する応答加速度(α)に比例する慣性力(m・α ただし、m:ケーソンの質量)を小さくすることで、ケーソンKの水平変位を低減することができる。このように、ケーソンKが図2のような地震波に共振せず、その揺れが小さくなり、ケーソンKの水平変位が低減する。この剛性低下の効果は図6の場合よりも小さいものの、ケーソンKの重量を図6の場合よりも大きくできる。
【0034】
以上のように、第2実施形態によれば、ケーソンKの中詰材を、飽和砂11と高比重材料12とすることで、ケーソンKの重量を大きくできるとともに、地震時に容易に液状化させて低剛性とすることで、地震時の揺れを低減させ、ケーソン岸壁の水平変位を低減することができる。
【0035】
〈第3実施形態〉
図8は、第3実施形態においてケーソンの中詰材を高比重材料および水としたケーソン式岸壁を概略的に示す断面図(a)およびケーソンの内部構成を概略的に示す断面図(b)である。
【0036】
図8(a)のケーソン式岸壁は、図6(a)と同様の構造であるが、ケーソンKの中詰材として比重が比較的大きい高比重材料と水を用いたものである。すなわち、ケーソンKには中詰材として、図8(b)のように、その内部空間の底部に高比重材料12が詰められ、残りが水13で満たされ、地震時に水13がケーソンKの内部でスロッシングするようにしている。かかる中詰材により、重力式ケーソンの所定の重量を満足することができるとともに、固有周波数を低周波数側にシフトさせることができる。
【0037】
高比重材料12は、例えば、製鋼スラグ等から構成できるが、他の材料であってもよく、この場合、高比重材料12として、その水中単位体積重量(γsub)が通常の砂よりも大きい材料を選択する。
【0038】
例えば、高比重材料12を製鋼スラグとする場合、製鋼スラグの水中単位体積重量(γsub)と通常の砂の水中単位体積重量(γsub)とを比べると、上述のように製鋼スラグの方が1.6倍程度重い。このため、図6(b)と同程度のケーソン重量を確保するためには、ケーソンKの中詰材の体積の1/1.6=0.625程度を製鋼スラグにすればよい。このとき、ケーソンKの内部においてスロッシングのために必要な水のない上部の空間14の容積を考慮し、水13+空間14と高比重材料12との体積比を、n:1−n(n≦1)とすると、n≦0.37にすれば所定のケーソン重量を確保できる。なお、たとえば、空間14の容積が、ケーソンの全中詰可能容積の10%程度必要とすると、水13の体積は全中詰可能容積の27%程度となる。
【0039】
また、製鋼スラグは、実際には塊状の固形物の集合体で、間隙を有し、水を入れると、この間隙にも水が浸透する。このため、水13と高比重材料12をケーソン内部に投入する場合は、重量比で投入することが好ましい。
【0040】
図8(a)のように、図5(c)と同様に改良地盤Iを介してケーソンKの工学的地盤であるマウンドMに図2のような地震波Eが入力すると、マウンドM上のケーソンKは、水平方向に揺れるが、中詰材としての水13がケーソンKの内部で揺れることで液面揺動が引き起こされ、スロッシングすることにより、ケーソンKの固有周波数が低周波数側にシフトする。これにより、多くの周波数成分を含む地震波と選択的に共振する現象を回避し、ケーソンKに対する応答加速度(α)に比例する慣性力(m・α ただし、m:ケーソンの質量)を小さくすることで、ケーソンKの水平変位を低減することができる。このように、ケーソンKが図2のような地震波に共振せず、その揺れが小さくなり、ケーソンKの水平変位が低減する。
【0041】
以上のように、第3実施形態によれば、ケーソンKの中詰材を、高比重材料12と水13とすることで、ケーソンKの重量を確保しつつ、地震時に水13をスロッシングさせることで、地震時の揺れを低減させ、ケーソン岸壁の水平変位を低減することができる。
【0042】
なお、上記各実施形態においては、ケーソンに対する地震による慣性力(図1の(A))を小さくすることで地震時におけるケーソンの水平変位を低減させることを目的とし、ケーソンの背後地盤(図6(a)等の埋立土Uなど)やケーソン直下の地盤(図6(a)等の地盤Iなど)は地震により液状化しないことを前提とする。
【解析例】
【0043】
(財)沿岸技術研究センター「港湾構造物設計事例集上巻」(平成19年3月)に記載の一般的なケーソン式岸壁を参考にして、以下の条件で有限要素法による解析的検討を行った。なお、解析には港湾空港での適用性が確認されているFLIPを用いた。
【0044】
〈解析条件〉
【0045】
図9に本解析例の解析モデルを示す。この解析モデルは、ケーソン式−15m岸壁であり、直下地盤には高置換80%によるサンドコンパクションによる地盤改良が実施されている。なお、本実施形態は背後地盤が液状化しないケースを想定しているので、本解析例では背後の埋立土は液状化しない条件とした。各土層の物性値は港湾構造物設計事例集に記載の値を用いた。次の表1に解析パラメータを示す。中詰材のパラメータは低剛性材料の物性であり、砂の1/100程度の剛性である。拘束条件は、底面粘性境界および側方粘性境界+反力境界を用い、図2に示した地震波(2E波)を検討モデル底面から入力した。なお、以下の表1において、例えば、「2.2E+06」は「2.2×106」を意味する。
【0046】
【表1】
【0047】
〈検討ケースと解析結果〉
【0048】
検討ケース(a)〜(e)の概要を図10(a)〜(e)に示す。各検討ケース(a)〜(e)の結果の一覧を表2に示す。
【0049】
図10(a)の検討ケース(a)は従来技術であり、ケーソン内部に低剛性材料はない。図10(b)の検討ケース(b)はケーソン内部1/4上部を低剛性材料とし、図10(c)の検討ケース(c)はケーソン内部1/2上部を低剛性材料とし、図10(d)の検討ケース(d)はケーソン内部3/4上部を低剛性材料とし、図10(e)の検討ケース(e)はケーソンの中詰全てを低剛性材料としたものである。
【0050】
【表2】
【0051】
検討結果として、図11に、ケーソン天端位置(図9)における水平変位時刻歴(図2の20秒まで)を示す。また、表2に、各検討ケース(a)〜(e)におけるケーソン天端位置(図9)における最終水平変位(以下、「水平変位」という。)を示す。図11,表2によれば、検討ケース(a)の従来技術の水平変位が−0.5mであるのに対し、他の検討ケース(b)〜(e)の水平変位は若干ではあるが低減されていることがわかる。
【0052】
具体的に水平変位の低減効果を確認するため、図12に、横軸がケーソン内部の全中詰可能容積に対する低剛性材料の割合で、縦軸が検討ケース(a)の従来技術の水平変位で基準化したグラフを示す。図12によれば、少なくともケーソン重心よりも低い位置まで低剛性材料を適用した場合(本検討ケース(d)(e))、検討ケース(a)の従来技術よりもケーソン天端の水平変位が5〜10%程度低減できることがわかる。
【0053】
以上のように、低剛性材料を全中詰可能容積の75%〜100%とし、ケーソンの上部に適用することで地震時における水平変位を5〜10%程度低減することが示された。
【0054】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。例えば、図6(b)では、ケーソンKの中詰材を飽和砂として、地震時に液状化することで低剛性になるようにしたが、本発明は、これに限定されず、所定の重量を満足する範囲で剛性の低い材料を用いてもよく、例えば、ゴムチップに砂を混合させたような低剛性材料であってもよく、ケーソンKの固有周波数が低周波数側にシフトする。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の重力式岸壁または護岸における地震時の変位低減方法および変位低減構造によれば、重力式岸壁または重力式護岸において地震時の変位を簡単な方法・手段で低減させることができるので、施工コストがさほどかからずに重力式岸壁・護岸における耐震性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0056】
11 飽和砂 12 高比重材料 13 水 14 空間 K ケーソン M マウンド
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーソン式重力岸壁または護岸において、ケーソンの固有周波数を低周波数側にシフトさせて多くの周波数成分を含む地震波と選択的に共振する現象を回避することで、前記ケーソンに対する応答加速度に比例する慣性力を小さくして前記ケーソンの水平変位を低減させることを特徴とする重力式岸壁または護岸における地震時の変位低減方法。
【請求項2】
前記ケーソンの中詰材を地震時に液状化させることにより、前記ケーソンの固有周波数を低周波数側にシフトさせることを特徴とする請求項1に記載の重力式岸壁または護岸における地震時の変位低減方法。
【請求項3】
前記ケーソンの中詰材として相対密度60%以下の飽和砂を用い、前記飽和砂を地震時に液状化させることにより、前記ケーソンの固有周波数を低周波数側にシフトさせることを特徴とする請求項1または2に記載の重力式岸壁または護岸における地震時の変位低減方法。
【請求項4】
前記飽和砂を前記ケーソン内部の全中詰可能容積の75%以上詰めることを特徴とする請求項3に記載の重力式岸壁または護岸における地震時の変位低減方法。
【請求項5】
前記ケーソンの中詰材として、砂の水中単位体積重量(γsub)を超えた水中単位体積重量(γsub)を有する材料を前記ケーソン内部に底から詰めることで前記ケーソンの重量を確保し、残りを水で満たし、
前記水を地震時にスロッシングさせることにより、前記ケーソンの固有周波数を低周波数側にシフトさせることを特徴とする請求項1に記載の重力式岸壁または護岸における地震時の変位低減方法。
【請求項6】
前記砂の水中単位体積重量(γsub)を超えた水中単位体積重量(γsub)を有する材料として製鋼スラグを用いることを特徴とする請求項5に記載の重力式岸壁または護岸における地震時の変位低減方法。
【請求項7】
ケーソン式重力岸壁または護岸において、ケーソンに地震時に液状化するような材料を中詰材として詰め、
前記中詰材が地震時に液状化することにより、前記ケーソンの固有周波数を低周波数側にシフトさせて多くの周波数成分を含む地震波と選択的に共振する現象を回避することで、前記ケーソンに対する応答加速度に比例する慣性力を小さくして前記ケーソンの水平変位を低減させることを特徴とする重力式岸壁または護岸における地震時の変位低減構造。
【請求項8】
ケーソン式重力岸壁または護岸において、砂の水中単位体積重量(γsub)を超えた水中単位体積重量(γsub)を有する材料をケーソン内部に底から詰めることで前記ケーソンの重量を確保し、残りを水で満たし、
前記水が地震時にスロッシングすることにより、前記ケーソンの固有周波数を低周波数側にシフトさせて多くの周波数成分を含む地震波と選択的に共振する現象を回避することで、前記ケーソンに対する応答加速度に比例する慣性力を小さくして前記ケーソンの水平変位を低減させることを特徴とする重力式岸壁または護岸における地震時の変位低減構造。
【請求項1】
ケーソン式重力岸壁または護岸において、ケーソンの固有周波数を低周波数側にシフトさせて多くの周波数成分を含む地震波と選択的に共振する現象を回避することで、前記ケーソンに対する応答加速度に比例する慣性力を小さくして前記ケーソンの水平変位を低減させることを特徴とする重力式岸壁または護岸における地震時の変位低減方法。
【請求項2】
前記ケーソンの中詰材を地震時に液状化させることにより、前記ケーソンの固有周波数を低周波数側にシフトさせることを特徴とする請求項1に記載の重力式岸壁または護岸における地震時の変位低減方法。
【請求項3】
前記ケーソンの中詰材として相対密度60%以下の飽和砂を用い、前記飽和砂を地震時に液状化させることにより、前記ケーソンの固有周波数を低周波数側にシフトさせることを特徴とする請求項1または2に記載の重力式岸壁または護岸における地震時の変位低減方法。
【請求項4】
前記飽和砂を前記ケーソン内部の全中詰可能容積の75%以上詰めることを特徴とする請求項3に記載の重力式岸壁または護岸における地震時の変位低減方法。
【請求項5】
前記ケーソンの中詰材として、砂の水中単位体積重量(γsub)を超えた水中単位体積重量(γsub)を有する材料を前記ケーソン内部に底から詰めることで前記ケーソンの重量を確保し、残りを水で満たし、
前記水を地震時にスロッシングさせることにより、前記ケーソンの固有周波数を低周波数側にシフトさせることを特徴とする請求項1に記載の重力式岸壁または護岸における地震時の変位低減方法。
【請求項6】
前記砂の水中単位体積重量(γsub)を超えた水中単位体積重量(γsub)を有する材料として製鋼スラグを用いることを特徴とする請求項5に記載の重力式岸壁または護岸における地震時の変位低減方法。
【請求項7】
ケーソン式重力岸壁または護岸において、ケーソンに地震時に液状化するような材料を中詰材として詰め、
前記中詰材が地震時に液状化することにより、前記ケーソンの固有周波数を低周波数側にシフトさせて多くの周波数成分を含む地震波と選択的に共振する現象を回避することで、前記ケーソンに対する応答加速度に比例する慣性力を小さくして前記ケーソンの水平変位を低減させることを特徴とする重力式岸壁または護岸における地震時の変位低減構造。
【請求項8】
ケーソン式重力岸壁または護岸において、砂の水中単位体積重量(γsub)を超えた水中単位体積重量(γsub)を有する材料をケーソン内部に底から詰めることで前記ケーソンの重量を確保し、残りを水で満たし、
前記水が地震時にスロッシングすることにより、前記ケーソンの固有周波数を低周波数側にシフトさせて多くの周波数成分を含む地震波と選択的に共振する現象を回避することで、前記ケーソンに対する応答加速度に比例する慣性力を小さくして前記ケーソンの水平変位を低減させることを特徴とする重力式岸壁または護岸における地震時の変位低減構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−197600(P2012−197600A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62368(P2011−62368)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【Fターム(参考)】
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