説明

重合体およびこれを用いた熱硬化性組成物

【課題】本発明は、ベンゾオキサジンの優れた絶縁特性、低吸湿性という特性を維持しつつ、ベンゾオキサジンの硬化体の脆性を改善することができる重合体を提供することを目的の一つとする。
【解決手段】本発明は、(a)1分子内に2個のフェノール性水酸基を有する化合物、(b)1分子内に2級アミノ基を2個有する化合物および(c)アルデヒド類の反応により得られる重合体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体およびこれを用いたベンゾオキサジン系熱硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ベンゾオキサジン化合物は優れた絶縁特性を有し、熱硬化時の体積変化が少なく、また低吸湿性である等の特徴から、デバイス周辺材料への応用が期待されている。しかしながら、ベンゾオキサジンの硬化体は一般的に脆く、エポキシ樹脂のような他の樹脂と複合させて使用されるのが一般的である。この場合には、どうしてもベンゾオキサジンの優れた特性を減じることとなってしまう。
【0003】
このため、ベンゾオキサジンの優れた特性を最大限に発揮しながら、ベンゾオキサジンの硬化体の脆性を克服する手段が考えられている。例えば特開平9−278985号公報では、ベンゾキサジンに靭性を付与するために液状のエラストマーを添加する方法が開示されている(特許文献1)。
この場合には、靭性は付与されるものの、それ以外の特性、例えば電気的特性や吸湿性などが低下してしまうのを避けられない。
【特許文献1】特開平9−278985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題の一つは、前記の問題点である。
従って、本発明の目的の一つは、ベンゾオキサジンの優れた絶縁特性、低吸湿性という特性を維持しつつ、ベンゾオキサジンの硬化体の脆性を改善することのできる重合体を提供することにある。
【0005】
また、本発明の他の目的は、優れた絶縁特性、低吸湿性という特性を備え、硬化体の脆性が改善された熱硬化性組成物を提供することにある。
【0006】
また、本発明のさらに他の目的は、優れた絶縁特性、低吸湿性という特性を備え、脆性が改善された硬化体を提供することにある。
【0007】
ベンゾオキサジンの硬化体の特徴としては、低吸湿性でありながら接着性が良好なことが挙げられる。これは硬化に伴いベンゾオキサジン環が開環して生成するフェノール性水酸基が三級アミノ基と水素結合していることに由来すると考えられている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者らは、鋭意研究した結果、分子内にフェノール性水酸基が三級アミノ基と水素結合しうるような構造の線状の重合体を用いれば、上記課題が克服できると考えた。そして、本発明者らは、更に研究を重ねた結果、1分子内に2個のフェノール性水酸基を有する化合物、1分子内に2級アミノ基を2個有する化合物およびホルムアルデヒドのMannich型の付加反応により得られる重合体が、前記目的を達成し得ることの知見を得た。
【0009】
本発明は、前記知見に基づいてなされたもので、下記1.〜12.の発明を提供するものである。
1.(a)1分子内に2個のフェノール性水酸基を有する化合物、(b)1分子内に2級アミノ基を2個有する化合物および(c)アルデヒド類の反応により得られる重合体。
【0010】
2.前記成分(a)の1分子内に2個のフェノール性水酸基を有する化合物が、下記一般式(I)で示される、前記1に記載の重合体。
【0011】
【化1】

【0012】
〔上記一般式(I)において、R1〜R10はそれぞれ独立に、H、OHまたは炭素数1〜10の脂肪族もしくは脂環式の炭化水素基を示し、R1,R2,R3のいずれか1つ、およびR6,R7,R8のいずれか1つがOHである。ただし、R1がOHのとき、R2はHであり、R2がOHのとき、R1もしくはR3がHであり、R3がOHのとき、R2はHである。また、R6がOHのとき、R7はHであり、R7がOHのとき、R6もしくはR8がHであり、R8がOHのとき、R7はHである。
Xは直接結合手(原子もしくは原子団が存在しない)またはヘテロ元素もしくは官能基を含んでいても良い脂肪族、脂環式もしくは芳香族の炭化水素基を示す。〕
【0013】
3.前記一般式(I)中のXが、下記群Aから選択される少なくとも一つである、前記2に記載の重合体。
【0014】
【化2】

〔上記式中、★印は式(I)の芳香環への結合部位を意味する。〕
【0015】
4.前記一般式(I)において、
1又はR3がOHのとき、R2はHであり、R4が炭素数1〜10の脂肪族または脂環式の炭化水素基であり、
2がOHのとき、R1もしくはR3のいずれかがHであり、もう一方が炭素数1〜10の脂肪族または脂環式の炭化水素基であり、
6又はR8がOHのとき、R7はHであり、R9が炭素数1〜10の脂肪族または脂環式の炭化水素基であり、
7がOHのとき、R6もしくはR8のいずれかがHであり、もう一方が炭素数1〜10の脂肪族または脂環式の炭化水素基である、
前記2または3に記載の重合体。
【0016】
5.前記脂肪族または脂環式の炭化水素基が、下記群Bより選択される、前記2〜4の何れかに記載の重合体。
【0017】
【化3】

【0018】
6.前記成分(b)の1分子内に2級アミノ基を2個有する化合物が、1つの環内にNを2個含む環状アミン化合物、1つの環内にNを1個含む環を2個有する環状アミン化合物、または炭素数4〜20の鎖状アミン化合物である、前記1〜5の何れかに記載の重合体。
【0019】
7.前記成分(b)の1分子内に2級アミノ基を2個有する化合物が、下記群Cから 選択される少なくとも一つである、前記6に記載の重合体。
【0020】
【化4】

【0021】
8.前記成分(c)のアルデヒド類が、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、およびブチルアルデヒドから選択される少なくとも一つである、前記1〜7の何れかに記載の重合体。
【0022】
9.下記一般式で示される重合体。
【化5】

〔式中、Aは1分子内に2個のフェノール性水酸基を有する化合物の残基を示し、Bは1分子内に2級アミノ基を2個有する化合物の残基を示し、Rはアルデヒド類の残基を示す。nは平均の繰返し数であり、1以上の整数を示す。〕
【0023】
10.前記1〜9の何れかに記載の重合体と、ベンゾオキサジン化合物とを少なくとも含む熱硬化性組成物。
【0024】
11.前記ベンゾオキサジン化合物が、1分子内に少なくとも2つのジヒドロベンゾオキサジン環を有する化合物である、前記10の熱硬化性組成物。
【0025】
12.前記10または11に記載の熱硬化性組成物を硬化させた硬化体。
【発明の効果】
【0026】
本発明の重合体によれば、ベンゾオキサジンの優れた絶縁特性、低吸湿性という特性を維持しつつ、ベンゾオキサジンの硬化体の脆性を改善することができる。
【0027】
本発明の熱硬化性組成物によれば、優れた絶縁特性、低吸湿性という特性を備え、その硬化体の脆性が改善される。
【0028】
本発明の硬化体によれば、優れた絶縁特性、低吸湿性という特性を備え、脆性が改善される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
〔重合体〕
以下、本発明の重合体について、その好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
本発明の重合体は、(a)1分子内に2個のフェノール性水酸基を有する化合物、(b)1分子内に2級アミノ基を2個有する化合物および(c)アルデヒド類の反応により得られるものである。本発明の重合体は、かかる構成からなるため、ベンゾオキサジンの優れた絶縁特性、低吸湿性という特性を維持しつつ、ベンゾオキサジンの硬化体の脆性を改善することができる。
【0030】
本発明の重合体を得るための上記反応は、いわゆるMannich型の付加反応である。
ここで、Mannich付加反応とは、以下に示すように、フェノール性水酸基を有する化合物1モル、2級アミン1モル、およびアルデヒド1モルより、下記のような付加体が得られるものである。
【0031】
【化6】

【0032】
本発明に使用される成分(a)の1分子内に2個のフェノール性水酸基を有する化合物としては、例えば、下記一般式(I)で示される化合物が挙げられる。成分(a)として下記一般式(I)で示される化合物を用いることで、効率よく目的の重合体を得ることができる。
【0033】
【化7】

【0034】
〔上記一般式(I)において、R1〜R10はそれぞれ独立に、H、OHまたは炭素数1〜10の脂肪族もしくは脂環式の炭化水素基を示し、R1,R2,R3のいずれか1つ、およびR6,R7,R8のいずれか1つがOHである。ただし、R1がOHのとき、R2はHであり、R2がOHのとき、R1もしくはR3がHであり、R3がOHのとき、R2はHである。また、R6がOHのとき、R7はHであり、R7がOHのとき、R6もしくはR8がHであり、R8がOHのとき、R7はHである。
Xは直接結合手(原子もしくは原子団が存在しない)またはヘテロ元素もしくは官能基を含んでいても良い脂肪族、脂環式もしくは芳香族の炭化水素基を示す。〕
【0035】
前記一般式(I)中のXは、下記群Aから選択される少なくとも一つであることが好ましい。成分(a)としてこのような化合物を用いることにより、一層効率よく目的の重合体を得ることができる。
【0036】
【化8】

〔上記式中、★印は式(I)の芳香環への結合部位を意味する。〕
【0037】
特に、前記一般式(I)において、
1又はR3がOHのとき、R2はHであり、R4が炭素数1〜10の脂肪族または脂環式の炭化水素基であり、
2がOHのとき、R1もしくはR3のいずれかがHであり、もう一方が炭素数1〜10の脂肪族または脂環式の炭化水素基であり、
6又はR8がOHのとき、R7はHであり、R9が炭素数1〜10の脂肪族または脂環式の炭化水素基であり、
7がOHのとき、R6もしくはR8のいずれかがHであり、もう一方が炭素数1〜10の脂肪族または脂環式の炭化水素基である、
ことが好ましい。
成分(a)としてこのような化合物を用いることにより、副反応を低減させ、より疎水性を付与した重合体を得ることができる。
【0038】
前記の脂肪族または脂環式の炭化水素基は、特に反応性の低下を招くことなく、目的の特性を付与するという点から、下記群Bより選択されることが好ましい。
【0039】
【化9】

【0040】
成分(a)の化合物の具体例としては、
4,4’−ビフェノール、2,2’−ビフェノール、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、2,2’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、2,2’−ジヒドロキシジフェニルメタン、ビスフェノールA、ビスフェノールS、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルプロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン(a=2の化合物)、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(a=3の化合物)、1,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン(a=4の化合物)、2,6−ビス((2−ヒドロキシフェニル)メチル)フェノール(b=1の化合物)等のように、連結部Xを除き、ベンゼン環のOH基以外の基が全てHである化合物や、
2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2'−メチレンビス(4−メチルフェノール)、4,4'−メチレンビス(2−メチルフェノール)、4,4'−シクロペンチリデンビス(2−メチルフェノール)、4,4'−シクロヘキシリデンビス(2−メチルフェノール)、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシ−2,5−ジメチルフェニル)スルホン、ビス(2−ヒドロキシ−4,5−ジメチルフェニル)スルホン、4,4'−(1−メチルエチリデン)ビス(2−(2−プロペニル)フェノール)、4,4'−(1−メチルエチリデン)ビス(2−(1−メチルエチル)フェノール)、4,4'−(1−メチルエチリデン)ビス(2−シクロヘキシルフェノール)、4,4’−メチレンビス(2,5−ジメチルフェノール)のように、連結部Xを除き、ベンゼン環のOH基以外の基が一つまたは複数置換された化合物等が挙げられる。
また、連結部Xに芳香環を含む場合においても、この芳香環は種々の置換基、たとえば炭素数1〜10の直鎖状あるいは分岐を含む脂肪族炭化水素基や脂環式炭化水素基等で置換されていてもよい。
【0041】
これらは使用に際し、1種または2種以上で用いられる。
【0042】
また、下記一般式(II)あるいは一般式(III)で示されるような化合物を成分(a)として使用することも可能である。
【0043】
【化10】

〔上記一般式(II)において、R13〜R18はそれぞれ独立に、H、OHまたは炭素数1〜10の脂肪族もしくは脂環式の炭化水素基を示し、R13はOHであり、R14,R15,R16のいずれか1つがOHである。ただし、R14がOHのとき、R15とR18はHであり、R15がOHのとき、R14,R16,R18のいずれか2つがHであり、R16がOHのとき、R14はHであり、R15,R17のいずれかがHである。〕
【0044】
【化11】

〔上記一般式(III)において、R19〜R26はそれぞれ独立に、H、OHまたは炭素数1〜10の脂肪族もしくは脂環式の炭化水素基を示し、R19またはR20がOHであり、R23,R24,R25のいずれか1つがOHである。ただし、R19がOHのときR20はHであり、R20がOHのときR19またはR21がHである。また、R23がOHのときR24はHであり、R24がOHのときR23,R25のいずれかがHであり、R25がOHのときR24,R26のいずれかがHである。〕
【0045】
上記一般式(II)で示されるような化合物としては、
ハイドロキノン、レゾルシノール、2−メチルレゾルシノール、2,5−ジメチルレゾルシノール、カテコール、等が挙げられる。
一般式(II)で示されるような化合物を用いると高重合度の重合体が得られやすい。
【0046】
上記一般式(III)で示されるような化合物としては、
1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、等が挙げられる。
【0047】
本発明に使用される成分(b)の1分子内に2級アミノ基を2個有する化合物としては、例えば、1つの環内にNを2個含む環状アミン化合物、1つの環内にNを1個含む環を2個有する環状アミン化合物、または炭素数4〜20の鎖状アミン化合物が好ましい。成分(b)としてかかる化合物を用いることで、比較的低温下で、効率よく目的の重合体を得ることができる。
【0048】
前記成分(b)の1分子内に2級アミノ基を2個有する化合物は、特に、反応速度、入手の容易さ、得られる重合体の特性の点から、下記群Cから選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【0049】
【化12】

【0050】
成分(b)の化合物のうち、特に、ピペラジン、1,3−ジ(4−ピペリジル)プロパンが好ましい。これらは使用に際し、1種または2種以上で用いられる。
【0051】
本発明に使用される成分(c)のアルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド等が挙げられる。ホルマリン(ホルムアルデヒドの水溶液)、パラホルムアルデヒド(ホルムアルデヒドの重合物)等のホルムアルデヒド類が、反応性、入手の容易さおよび価格の点で好ましい。
【0052】
本発明の重合体を得る際の合成スキームの一例を次に示す。ここでは、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパンと、1,3−ジ(4−ピペリジル)プロパンと、パラホルムアルデヒドとの反応により得られる重合体の例を示す。
【0053】
【化13】

【0054】
本発明の重合体は、その構造式として、下記一般式で示される重合体が提供される。
【0055】
【化14】

〔式中、Aは1分子内に2個のフェノール性水酸基を有する化合物の残基を示し、Bは1分子内に2級アミノ基を2個有する化合物の残基を示し、Rはアルデヒド類の残基を示す。nは平均の繰返し数であり、1以上の整数を示す。〕
ここで、Aが示す残基由来の1分子内に2個のフェノール性水酸基を有する化合物としては、前述した例の各化合物等が挙げられる。また、Bが示す残基由来の1分子内に2級アミノ基を2個有する化合物としては、前述した例の各化合物等が挙げられる。また、Rが示す残基由来のアルデヒド類としては、前述した例の各化合物等が挙げられる。nは平均の繰返し数であり、1以上の整数を示し、好ましくは3〜500である。
【0056】
また、本発明の重合体は、該重合体に対して、分子内に2個以上のベンゾオキサジン環を有する低分子量のベンゾオキサジン化合物を添加して熱硬化性組成物として使用することも可能である。この低分子量のベンゾオキサジン化合物は加熱溶融時に低粘度となるものが使用上好ましいがこれに限定されるものではない。
あるいは本発明の重合体をエポキシ樹脂、フェノール樹脂等の他の熱硬化性樹脂との組成物として使用することも当然可能である。
【0057】
〔熱硬化性組成物〕
本発明の熱硬化性組成物は、前述した重合体と、ベンゾオキサジン化合物とを少なくとも含むものである。本発明の熱硬化性組成物は、かかる構成からなるため、優れた絶縁特性、低吸湿性という特性を備え、硬化体の脆性が改善される。
【0058】
本発明に用いられるベンゾオキサジン化合物としては、特に制限されるものではないが、
硬化反応特性および硬化体の力学特性等の点から、1分子内に少なくとも2つのジヒドロベンゾオキサジン環を有する化合物が好ましい。
【0059】
本発明の熱硬化性組成物において、前記重合体とベンゾオキサジン化合物との重量比(前者/後者)は、好ましくは1/99〜95/5である。重合体の重合度が大きいほど、少ない添加量で効果が発現される。
【0060】
本発明の熱硬化性組成物は、必要に応じて、硬化促進剤を添加することもできる。硬化促進剤としては、ベンゾオキサジン化合物を開環重合する際に一般的に使用されている任意の硬化促進剤が使用でき、例えば、カテコール、ビスフェノールA等の多官能フェノール類、p−トルエンスルホン酸、p−フェノールスルホン酸等のスルホン酸類、安息香酸、サリチル酸、シュウ酸、アジピン酸等のカルボン酸類、コバルト(II)アセチルアセトネート、アルミニウム(III) アセチルアセトネート、ジルコニウム(IV)アセチルアセトネート等の金属錯体、酸化カルシウム、酸化コバルト、酸化マグネシウム、酸化鉄等の金属酸化物、水酸化カルシウム、イミダゾール及びその誘導体、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネン等の第三級アミン及びこれらの塩、トリフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン・ベンゾキノン誘導体、トリフェニルホスフィン・トリフェニルボロン塩、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート等のリン系化合物及びその誘導体が挙げられる。これらは1種類のみを用いても、2種以上の混合物として用いてもよい。
【0061】
硬化促進剤の添加量は特に限定されないが、多量に添加すると誘電率や誘電正接が上昇したり、機械的物性に悪影響を及ぼしたりする場合があるので、一般に、ベンゾオキサジン化合物100重量部に対し5重量部以下であり、好ましくは3重量部以下である。
【0062】
〔硬化体〕
本発明の硬化体は、前述した熱硬化性組成物を硬化させたものである。本発明の硬化体は、かかる構成からなるため、優れた絶縁特性、低吸湿性という特性を備え、脆性が改善されたものである。
【0063】
本発明の硬化体は、電子材料周辺用途、特に積層板、封止剤、接着剤等の用途に好適に使用される。また他にも航空機部材、自動車部材、建築部材、等にも使用することが可能である。
【0064】
[実施例]
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。但し、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。
【実施例1】
【0065】
1.高分子量体(重合体)の合成−1
(a)2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン0.1モル、(b)ピペラジン0.1モル、(c)パラホルムアルデヒド0.2モルをクロロホルム中で6時間還流下に反応させた。得られた反応後の溶液を多量のメタノールに投じ、重合体を析出させた。これをろ別し、減圧乾燥により重合体を得た。収率は88.0%であった。
【実施例2】
【0066】
2.高分子量体(重合体)の合成−2
(a)2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン0.1モル、(b)1,3−ジ(4−ピペリジル)プロパン0.1モル、(c)パラホルムアルデヒド0.2モルをクロロホルム中で5時間還流下に反応させた。得られた反応後の溶液を多量のメタノールに投じ、重合体を析出させた。これをろ別し、減圧乾燥により重合体を得た。収率は91.0%、GPC法による重量分子量は8,400であった。
【実施例3】
【0067】
3.高分子量体(重合体)の合成−3
(a)2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン0.1モル、(b)1,3−ジ(4−ピペリジル)プロパン0.1モル、(c)パラホルムアルデヒド0.2モルをトルエン中で4時間還流下に反応させた。得られた反応後の溶液を多量のメタノールに投じ、重合体を析出させた。これをろ別し、減圧乾燥により重合体を得た。収率は98%、GPC法による重量平均分子量は17,900であった。
【実施例4】
【0068】
4.高分子量体(重合体)の合成−4
(a)2−メチルレゾルシノール0.08モル、(b)1,3−ジ(4−ピペリジル)プロパン0.8モル、(c)パラホルムアルデヒド0.16モルをトルエン/エタノール中で昇温しながら3時間反応させた。反応途中でエタノールおよび生成する水を共沸させながら除去した。得られた反応後の溶液を多量のメタノールに投じ、重合体を析出させた。これをろ別し、減圧乾燥により重合体を得た。
【実施例5】
【0069】
5.成型
実施例1〜4の重合体を、プレス機を用いて3MPaにて、140℃で1h、160℃で1h、180℃で1hプレス成型を行い、厚さ100ミクロンおよび500ミクロンの硬化体を得た。
【0070】
得られた硬化体の特性評価は、以下のようにして行うことができる。
評価項目:
○力学特性(評価方法)
JIS K 7127に準拠し、厚さ100ミクロンのシートについて引っ張り試験により破壊応力、破壊ひずみ、弾性率を測定する。
【0071】
○絶縁特性
誘電率及び誘電正接:容量法により、厚さ500ミクロンのシートを誘電率測定装置(AGILENT社製、商品名「RFインピーダンス/マテリアル アナライザ E4991A」)に供給し、容量法によって、23℃、100MHz及び1GHzにおける誘電率及び誘電正接を測定する。
【0072】
○低吸湿性
吸水率:JIS K 7209に準拠し、吸水率を測定する。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、ベンゾオキサジンの優れた絶縁特性、低吸湿性という特性を維持しつつ、ベンゾオキサジンの硬化体の脆性を改善することのできる重合体、及び、優れた絶縁特性、低吸湿性という特性を備え、硬化体の脆性が改善された熱硬化性組成物、並びに、優れた絶縁特性、低吸湿性という特性を備え、脆性が改善された硬化体として、産業上の利用可能性を有する。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)1分子内に2個のフェノール性水酸基を有する化合物、(b)1分子内に2級アミノ基を2個有する化合物および(c)アルデヒド類の反応により得られる重合体。
【請求項2】
前記成分(a)の1分子内に2個のフェノール性水酸基を有する化合物が、下記一般式(I)で示される、請求項1に記載の重合体。
【化1】

〔上記一般式(I)において、R1〜R10はそれぞれ独立に、H、OHまたは炭素数1〜10の脂肪族もしくは脂環式の炭化水素基を示し、R1,R2,R3のいずれか1つ、およびR6,R7,R8のいずれか1つがOHである。ただし、R1がOHのとき、R2はHであり、R2がOHのとき、R1もしくはR3がHであり、R3がOHのとき、R2はHである。また、R6がOHのとき、R7はHであり、R7がOHのとき、R6もしくはR8がHであり、R8がOHのとき、R7はHである。
Xは直接結合手(原子もしくは原子団が存在しない)またはヘテロ元素もしくは官能基を含んでいても良い脂肪族、脂環式もしくは芳香族の炭化水素基を示す。〕
【請求項3】
前記一般式(I)中のXが、下記群Aから選択される少なくとも一つである、請求項2に記載の重合体。
【化2】

〔上記式中、★印は式(I)の芳香環への結合部位を意味する。〕
【請求項4】
前記一般式(I)において、
1又はR3がOHのとき、R2はHであり、R4が炭素数1〜10の脂肪族または脂環式の炭化水素基であり、
2がOHのとき、R1もしくはR3のいずれかがHであり、もう一方が炭素数1〜10の脂肪族または脂環式の炭化水素基であり、
6又はR8がOHのとき、R7はHであり、R9が炭素数1〜10の脂肪族または脂環式の炭化水素基であり、
7がOHのとき、R6もしくはR8のいずれかがHであり、もう一方が炭素数1〜10の脂肪族または脂環式の炭化水素基である、
請求項2または3に記載の重合体。
【請求項5】
前記脂肪族または脂環式の炭化水素基が、下記群Bより選択される、請求項2〜4の何れかに記載の重合体。
【化3】

【請求項6】
前記成分(b)の1分子内に2級アミノ基を2個有する化合物が、1つの環内にNを2個含む環状アミン化合物、1つの環内にNを1個含む環を2個有する環状アミン化合物、または炭素数4〜20の鎖状アミン化合物である、請求項1〜5の何れかに記載の重合体。
【請求項7】
前記成分(b)の1分子内に2級アミノ基を2個有する化合物が、下記群Cから選択される少なくとも一つである、請求項6に記載の重合体。
【化4】

【請求項8】
前記成分(c)のアルデヒド類が、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、およびブチルアルデヒドから選択される少なくとも一つである、請求項1〜7の何れかに記載の重合体。
【請求項9】
下記一般式で示される重合体。
【化5】

〔式中、Aは1分子内に2個のフェノール性水酸基を有する化合物の残基を示し、Bは1分子内に2級アミノ基を2個有する化合物の残基を示し、Rはアルデヒド類の残基を示す。nは平均の繰返し数であり、1以上の整数を示す。〕
【請求項10】
請求項1〜9の何れかに記載の重合体と、ベンゾオキサジン化合物とを少なくとも含む熱硬化性組成物。
【請求項11】
前記ベンゾオキサジン化合物が、1分子内に少なくとも2つのジヒドロベンゾオキサジン環を有する化合物である、請求項10記載の熱硬化性組成物。
【請求項12】
請求項10または11に記載の熱硬化性組成物を硬化させた硬化体。


【公開番号】特開2007−45862(P2007−45862A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−228896(P2005−228896)
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】