説明

重合体分散液および塗料

【課題】自動車外装用など高水準の耐水性が要請される分野の塗膜の成形に用いることができる重合体分散液を提供する。外観性に優れ、耐侯性、低臭気性を備え、自動車外装塗膜など高水準の耐水性が要請される分野の塗膜の成形に適用することができ、有機溶剤系塗料に代替可能であり、労働衛生上、健康上安全に塗膜を成形することができる塗料を提供する。
【解決手段】パーオキサイド基およびハイドロパーオキサイド基を含有するラジカル重合開始剤を用いて、親水性単量体(a1)成分を重合した後、疎水性単量体(a2)成分を重合して得られる重合体(A)と、疎水性単量体(b2)成分を重合して得られる重合体(B)と、水とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐水性に優れる塗膜を得ることができる重合体分散液や、これを用いた塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、建築物、家電製品の外装、内装材の塗装工程において、揮発性有機化合物排出量低減の要求が一層高まっており、それを実現するための一つの手段として、有機溶剤系塗料を水系塗料へ代替する取り組みが進められている。塗料原料である重合体水分散液に対して、これを用いて得られる塗膜において耐水性の向上のため、特に、高度な耐水性が求められる車両用塗料に適用できるような改良が行われている。重合体水分散液の一般的な製造方法として、溶液重合により得られる重合体溶液を水中に分散する方法がある。しかしこの方法では、水中に疎水性重合体を安定して分散させるために界面活性剤が必要であり、界面活性剤が塗膜の耐水性を損ねる傾向にあるという問題であった。そのため、界面活性剤として低分子化合物に代替して親水性重合体を用いる試みがなされている。
【0003】
例えば、溶液重合により、先ず疎水性単量体成分を重合し、続いて親水性単量体成分を重合した後、水を加えることにより得られる重合体水分散液について記載されている(特許文献1)。しかしながら、得られた重合体分散液に硬化剤を配合して得られる塗膜の耐水性は、界面活性成分として低分子化合物を用いた場合より向上するものの、車両用塗膜としては不十分なレベルであった。
【0004】
ところで、先ずハイドロパーオキサイド基の反応による重合を行い、次にパーオキサイド基の反応による重合を行うことにより、異種の重合体鎖を含有する共重合体を合成できる(特許文献2)ことが報告されている。しかしながら、このような共重合体を、重合体分散液を製造する際の分散安定剤として用いることはなされていない。
【特許文献1】特開昭55−62953号公報
【特許文献2】特開2000−219711号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、自動車外装用など高水準の耐水性が要請される分野の塗膜の成形に用いることができる重合体分散液を提供することにある。本発明は、外観性に優れ、耐侯性、低臭気性を備え、自動車外装塗膜など高水準の耐水性が要請される分野の塗膜の成形に適用することができ、有機溶剤系塗料に代替可能であり、労働衛生上、健康上安全に塗膜を成形することができる塗料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが鋭意研究した結果、パーオキサイド基およびハイドロパーオキサイド基を含有するラジカル重合開始剤を用いて、先ず親水性単量体を重合した後、次に疎水性単量体を重合して得られる重合体を分散安定剤として用い、重合体分散液を製造することにより、耐水性に優れる塗料用重合体水分散液が得られることを見出し本発明に到達した。
【0007】
本発明は、パーオキサイド基およびハイドロパーオキサイド基を含有するラジカル重合開始剤を用いて、親水性単量体(a1)成分を重合した後、疎水性単量体(a2)成分を重合して得られる重合体(A)と、疎水性単量体(b2)成分を重合して得られる重合体(B)と、水とを含む重合体分散液に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の重合体分散液は、自動車外装用など高水準の耐水性が要請される分野の塗膜の成形に用いることができ、工業的価値は極めて高い。本発明の塗料は、外観性に優れ、耐候性、低臭気性を備え、自動車外装塗膜など高水準の耐水性が要請される分野の塗膜の成形に適用することができ、有機溶剤系塗料に代替可能であり、労働衛生上、健康上安全に塗膜を成形することができ、工業的価値は極めて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の重合体分散液は、パーオキサイド基およびハイドロパーオキサイド基を含有するラジカル重合開始剤を用いて、親水性単量体(a1)成分を重合した後、疎水性単量体(a2)成分を重合して得られる重合体(A)と、疎水性単量体(b2)成分を重合して得られる重合体(B)と、水とを含むことを特徴とする。
【0010】
本発明の重合体分散液に含まれる重合体(A)は、水系分散液中において、重合体(B)を安定して保持する作用を有する。かかる重合体(A)を得るための単量体の重合に用いるラジカル重合開始剤は、パーオキサイド基およびハイドロパーオキサイド基を含有するものであればいずれのものであってもよいが、式(1)で表される化合物を好ましいものとして挙げることができる。
【0011】
【化1】

【0012】
式(1)中、R1、R2は、独立して水素原子または水酸基を示し、少なくとも一方は水酸基を示す。R3、R4は、独立して水素原子、メチル基、またはエチル基を示し、m、nはそれぞれ整数であって、m+n=0〜3を満たす。具体的には、日本油脂製のパーヘキサH等を挙げることができる。式(1)中、(R3O)mはHmと置換することを示し、(OR4nはHnと置換することを示す。このようなラジカル重合開始剤を用いて親水性単量体(a1)成分の重合を行い、その後に疎水性単量体(a2)成分の重合を行い、得られる重合体(A)を含有する分散液から得られる塗膜において、耐水性の向上を図ることができる。
【0013】
上記重合体(A)の単量体成分の親水性単量体(a1)成分としては、水酸基含有単量体及び酸基含有単量体を含むものが好ましい。親水性単量体(a1)成分には、疎水性単量体を含有していてもよいが、水酸基含有単量体及び酸基含有単量体の含有量が親水性単量体(a1)成分を構成する全単量体に対して50質量%以上であることが好ましい。
【0014】
上記水酸基含有単量体としては、具体的に、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。これらのうち、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等を、得られる塗膜の外観、硬度、耐溶剤性、耐水性等の物性のバランスから、特に好ましいものとして挙げることができる。
【0015】
上記酸基含有単量体としては、具体的に、アクリル酸、メタアクリル酸、イタコン酸、マレイン酸モノブチル等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。これらのうち、アクリル酸、メタアクリル酸等を、得られる塗膜の外観、硬度、耐溶剤性、耐水性等の物性のバランスから、特に好ましいものとして挙げることができる。
【0016】
上記親水性単量体(a1)成分に含有可能な疎水性単量体としては、具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tーブチルアクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘプチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、スチレン等のビニル単量体を挙げることができる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、スチレン等を、得られる塗膜の外観、硬度、耐溶剤性、耐水性等の物性のバランスから、特に好ましいものとして挙げることができる。
【0017】
このような親水性単量体(a1)成分中の水酸基含有単量体、酸基含有単量体、疎水性単量体の含有割合としては、質量比において、30〜70:30〜70:20〜0などを挙げることができる。
【0018】
上記重合体(A)の単量体成分の疎水性単量体(a2)成分としては、疎水性単量体を主として含有するものであればよく、親水性単量体を含有していてもよいが、疎水性単量体の含有量が疎水性単量体(a2)成分を構成する全単量体に対して50質量%以上であることが好ましい。
【0019】
上記疎水性単量体(a2)成分に含有される疎水性単量体としては、上記親水性単量体(a1)成分に含有可能な疎水性単量体として例示したものと同様のビニル単量体を挙げることができる。これらのうち、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tーブチルアクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート等を、得られる塗膜の外観、硬度、耐溶剤性、耐水性等の物性のバランスから、特に好ましいものとして挙げることができる。
【0020】
上記疎水性単量体(a2)成分に含有されていてもよい親水性単量体としては、上記親水性単量体(a1)成分に含有可能な親水性単量体として例示した水酸基含有単量体や、酸基含有単量体等と同様のものを、具体的に挙げることができる。かかる水酸基含有単量体としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等を、また、酸基含有単量体としては、アクリル酸、メタアクリル酸、イタコン酸、マレイン酸モノブチル等を、得られる塗膜の外観、硬度、耐溶剤性、耐水性等の物性のバランスから、特に好ましいものとして挙げることができる。
【0021】
このような疎水性単量体(a2)成分中の疎水性単量体、水酸基含有単量体、酸基含有単量体の含有割合としては、質量比において、100〜60:0〜40:0〜30などを挙げることができる。
【0022】
上記親水性単量体(a1)成分、疎水性単量体(a2)成分には酸基を中和する中和剤を含有させることができる。酸基を中和する中和剤を含有することにより、得られる重合体分散液の分散安定性が向上する効果を得ることができる。中和剤としては、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の水酸化物;アンモニア水、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン等のアミン化合物等を挙げることができる。中和剤の使用量としては、例えば、酸基含有単量体に対して0〜3当量の範囲で用いることができる。
【0023】
その他、酸基含有単量体(a1)成分、水酸基含有単量体(a2)成分には、必要に応じて、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン等のメルカプタン化合物、α−メチルスチレンダイマー等の分子量調節剤等、通常公知の重合添加剤が含有されていてもよい。
【0024】
上記重合体(A)の分子量としては、3000〜500万好ましくは1万〜30万を挙げることができる。
【0025】
上記ラジカル開始剤を用いて親水性単量体(a1)成分、疎水性単量体(a2)成分から重合体(A)を得るには、いずれの重合方法も使用することができるが、水系重合を好ましい方法として挙げることができる。水系重合において、第一に上記ラジカル開始剤のハイドロパーオキサイド基におけるラジカルによる親水性単量体(a1)成分の重合を行う。使用する触媒としては、レドックス系重合触媒を用いることができ、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、L−アスコルビン酸ナトリウム、L−アスコルビン酸カリウム、硫酸第1鉄、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、グルコース、デキストロース、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム等を挙げることができる。これらは1種を単独で、又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち硫酸第一鉄、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート等を好ましいものとして挙げることができる。触媒の使用量としては、単量体成分100部に対して、硫酸第一鉄0.000001〜0.001質量部、好ましくは0.00001〜0.0001質量部;エチレンジアミン四酢酸ナトリウムは0.000001〜0.001質量部、好ましくは0.00001〜0.0001質量部;ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレートは、0.01〜10質量部、好ましくは0.1〜3質量部を挙げることができる。
【0026】
上記親水性単量体(a1)成分の重合後、親水性単量体(a1)成分の重合反応系において上記ラジカル開始剤のパーオキサイド基におけるラジカルによる疎水性単量体(a2)成分の重合を行うことができる。疎水性単量体(a2)成分の重合反応の条件としては、重合温度は例えば20〜250℃好ましくは40〜90℃、重合時間は1分〜10時間好ましくは1時間〜4時間等を挙げることができる。
【0027】
本発明の重合体分散液に含まれる重合体(B)は、疎水性単量体(b2)成分を重合して得られるものであり、上記重合体(A)の作用により、水系分散液中で安定して存在することができる。重合体(B)としては、疎水性単量体(b2)単位を有するものであればいずれのものであってもよいが、上記重合体(A)の疎水性単量体(a2)成分として例示したものと同様のものを、具体的に挙げることができる。その場合、重合体(B)に含有される疎水性単量体(b2)としては、重合体(A)に含まれる疎水性単量体(a2)と同一のものであっても、また異なるものであってもよい。また、上記のビニル単量体を、50質量%以上含有するものであれば、水酸基含有単量体や酸基含有単量体等の親水性単量体単位を含有するものであってもよい。
【0028】
上記重合体(B)には、必要に応じて、上記親水性単量体(a1)成分や疎水性単量体(a2)成分の中和剤や、その他の添加物として例示したものと、同様の添加物を含有していてもよい。その場合、重合体(B)に含有される添加物としては、重合体(A)に含まれるものと同一のものであっても、また異なるものであってもよい。
【0029】
上記重合体(B)の分子量としては、3000〜500万、好ましくは1万〜30万を挙げることができる。
【0030】
このような重合体(B)を上記ビニル単量体等から得る方法としては、いずれの重合方法も使用することができるが、例えば、溶液重合を挙げることができる。溶液重合としては、具体的に、例えば、反応容器に、有機溶剤を仕込み、所定の温度に加熱した後、単量体と重合開始剤を滴下して供給する方法を挙げることができる。
【0031】
使用する有機溶剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、n−ノルマルヘキサン、n−ヘプタン、ミネラルスピリット等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素;トルエン、キシレン、エクソン製ソルベッソ100、エクソン製ソルベッソ150等の芳香族炭化水素溶剤;LAWS、HAWS等の脂肪族炭化水素と芳香族炭化水素の混合物;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸2−エトキシエチル、酢酸3−メトキシブチル、酢酸アミル、エトキシエチルプロピオネート等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブタノール、3−メトキシ−1−ブタノール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等のアルコール類;セロソルブアセテート、3−メトキシ−3−メチルブチルアセテート、メトキシプロピルアセテート等のグリコールエステル類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ブチルセロソルブ、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル類を挙げることができる。これらは1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、得られる塗膜の外観、硬度、耐溶剤性、耐水性等の物性のバランスを考慮すると、トルエン、キシレン、エクソン製ソルベッソ100、エクソン製ソルベッソ150、ブタノール、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル等を好ましく用いることができる。
【0032】
使用する重合開始剤としては、具体的には、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス2,4−ジメチルバレロニトリル等のアゾ化合物;キュメンヒドロパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルヒドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、ジt−ブチルパーオキサイド、ジt−アミルパーオキサイド、ジt−ヘキシルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過酸化物を挙げることができる。これらは1種単独又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス2,4−ジメチルバレロニトリル、過酸化ベンゾイル、ジt−ブチルパーオキサイド、ジt−アミルパーオキサイド、ジt−ヘキシルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート等を好ましいものとして用いることができる。
【0033】
これらの重合反応において溶媒の使用割合は、単量体100質量部に対して、0〜500質量部、好ましくは30〜80質量部とし、重合開始剤としては、単量体100質量部に対して、0.01〜10質量部、好ましくは0.5〜5質量部とすることができる。重合条件としては、単量体成分に応じて適宜選択することができる。例えば、重合温度は、10〜250℃、好ましくは110〜180℃、重合時間は、1分〜20時間、好ましくは2〜8時間などを挙げることができる。
【0034】
このような重合体(A)、重合体(B)を水に分散した重合体水分散液を得るには、重合体(B)に重合体(A)と共に水を加え、攪拌、混合装置を用いて混合する方法によることができ、必要に応じて、ミキサー、ホモジナイザー等の高せん断応力を付加することもできる。重合体(A)は、水系重合により得た場合は、反応系をそのまま使用することもでき、また、反応液から、酸凝固法、塩凝固法、スプレードライ法等により粉体として回収したものであってもよい。重合体の攪拌、混合時の温度としては、例えば、室温から100℃等であってもよい。
【0035】
上記重合体分散液中に含まれる水としては、水のみならず、水に可溶な、例えば、アルコール等の有機溶媒を、水溶媒の作用を阻害しない範囲で含有していてもよい。
【0036】
重合体分散液中の水の使用量としては、単量体100質量部に対して、0.001〜1000質量部である。好ましくは50〜300質量部、より好ましくは60〜150質量部である。水の使用量が単量体100質量部に対して0.001質量部以上であれば、高水準の塗膜を得ることができ、水の使用量が単量体100質量部に対して1000質量部以下であれば、得られる塗料の固形分濃度を高くすることができ、得られる水分散重合体を塗料として用いた場合、効率のよい塗膜成形を行うことができる。
【0037】
上記重合体分散液の重量平均分子量としては、好ましくは300〜105万であり、より好ましくは1000〜94万であり、更に好ましくは3000〜74.5万であり、5000〜3万が最も好ましい。重合体分散液中の分子量がこの範囲であると、平滑性に優れた塗膜を得ることができる。ここで重量平均分子量としては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーの測定による測定値とすることができる。
【0038】
上記重合体分散液中の重合体(A)、重合体(B)の体積平均粒径としては、0.01〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.05〜1μmであり、さらに好ましくは0.1〜0.5μmである。粒径が0.01μm以上であれば、得られる塗料の粘度が高くなるのを抑制し、固形分の含有量を高くすることができる。粒径が10μm以下であれば、重合体粒子は水中での安定した分散状態にあり、重合体分散液の保存時においてその分散状態が一定に保持できる。
【0039】
ここで、粒径はレーザー回折法、光散乱法、ドップラー法等により測定することができ、測定機器としては例えばHORIBA製RA−920で測定した測定値を採用することができる。
【0040】
本発明の塗料は、上記重合体分散液を用いることを特徴とする。かかる塗料には、上記重合体分散液中に含まれる重合体の硬化剤を配合することが好ましい。硬化剤としては、具体的には、イソシアネート化合物、メラミン化合物等を用いることができる。イソシアネート化合物としては、トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート等を、アロファネート化、ビウレット化、ウレトジオン化、イソシアヌレート化、アダクト化した誘導体として;さらには、イソシアネート基をラクタム、アルコールあるいはオキシムでブロックして;また、親水性官能基を導入して、例えば、親水性官能基含有イソシアヌレート型ヘキサメチレンジイソシアネートを用いることができる。 イソシアネート化合物の使用量としては、得られる塗膜の機械的性質を考慮すると、重合体分散液の水酸基に対するイソシアネート基の当量比が0.01〜50であることが好ましく、より好ましくは0.1〜10であり、さらに好ましくは1.0〜3.0である。
【0041】
硬化剤としてのメラミン化合物としては、具体的に、メチル化メラミン、ブチル化メラミン、メチル/ブチル化メラミン等を挙げることができる。これらは、重合体分散液100質量部に対して好ましくは0.1〜1000質量部、より好ましくは1〜500質量部、さらに好ましくは10〜100質量部用いることができる。
【0042】
本発明の塗料は、クリヤー塗料、顔料を含む着色塗料として用いることができる。顔料としては、有機系顔料、酸化チタン、酸化鉄、アルミニウム・フレーク、またはチタン・コート・マイカ等の無機系顔料を用いることができる。
【0043】
本発明の塗料には、その他、光輝材、充填剤、可塑剤、顔料分散剤、増粘剤、消泡剤、レベリング剤等を配合することができる。
【0044】
本発明の塗料は、自動車、建築物、家電製品の外装、内装材など、高水準が要請される分野における塗膜に適用することができる。塗料の塗布可能な基材としては、鉄、ステンレススチール、アルミニウム等の金属類;ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン等のオレフィン重合体、ポリメチルメタクリレート、ABS重合体、ポリスチレン等のプラスチック;ガラス、スレート板、コンクリート、珪酸カルシウム等の珪酸塩系、石膏系、石綿系もしくはセラミック系等の無機物;木材類、紙類、繊維類、FRP等を挙げることができる。
【0045】
本発明の塗料は、上記基材に、静電塗装、エアー・スプレー塗装、エアレス・スプレー塗装、刷毛塗り、ロールコート等公知の方法で塗装することができる。 乾燥、硬化は、例えば、常温で1日から2週間程度、約60〜250℃の温度で約30秒〜3時間程度行うことができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。ここで、実施例、比較例における「部」、「%」は質量を基準としたものである。
【0047】
[重合体(A)の調製]
攪拌装置、冷却管、加熱装置、温度センサー、定量供給装置を備えた反応容器に、水200部を仕込み、40℃に加熱した。硫酸第一鉄 0.0001部、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.0003部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート1部を加えた後、2−ヒドロキシエチルメタクリレート35部、メタクリル酸35部、n−オクタデシルメルカプトプロピオン酸0.7部、日本油脂製パーヘキサHの1部の混合物と、ジメチルアミノエタノール36部とを、同時に1時間で供給した。滴下終了から30分保持した後、スチレン15部、2−エチルヘキシルアクリレート9部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート6部を加え、90℃に加熱した。2時間保持した後、冷却し重合体(A)を得た。固形分は、32.0%であった。
【0048】
[重合体(B)の調製]
攪拌装置、冷却管、加熱装置、温度センサー、定量供給装置を備えた反応容器に、プロピレングリコール−n−ブチルエーテル19.0部を仕込み、142℃に昇温した。昇温後、プロピレングリコール−n−ブチルエーテル2.4部に溶かしたジ−t−ブチルパーオキシド2.4部を、4時間かけて添加した。その添加開始20分後から、スチレン50部、2−エチルヘキシルアクリレート30.0部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート20.0部を、3時間40分かけて添加した。添加終了後、30分間保持し、重合体(B)を得た。
【0049】
[実施例]
[重合体分散液の調製]
重合体(B)を90℃に調節し、重合体(A)62.5部(固形分20部)を添加した。
さらに固形分20部に水80.0部を添加し、1時間攪拌し重合体分散液を得た。
【0050】
得られた重合体分散液について、140℃で30分間加熱し、不揮発分の質量を測定し、固形分とした。固形分は45.2質量%であった。
【0051】
粒度分布測定装置(HORIBA製RA−920)を用いて、体積平均値を測定し、粒径とした。粒径0.5μmであった。
【0052】
[塗膜の調製]
得られた重合体分散液を用いて塗料を調製した。
【0053】
上記重合体分散液30部(固形分換算)、住友バイエル製VPLS2319 11部、日本乳化剤製DMFDG 18部を攪拌棒で1分間攪拌した。配合物の粘度が、イワタカップ(NK−2)で20秒になるまで、水を加えた。得られた塗料を、エアスプレーにより、黒ソリッド上塗りダル鋼板に、膜厚が40μmになるように塗装した。
【0054】
[塗料の評価]
得られた塗膜について耐水性を以下のようにして評価した。
【0055】
塗装板を40℃の水に10日浸漬し、塗膜外観の変化を目視により観察し、次のように判定した。
【0056】
良好:塗膜に変化は見られない
不良:塗膜に白化、ブリスター等の変化があり、使用不可能な程度である。
【0057】
得られた塗膜の耐水性は良好であった。
【0058】
[比較例]
スチレン3.0部、2−エチルヘキシルアクリレート1.8部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート8.2部、メタクリル酸7.0部の混合物と、ソルベッソ100(エクソン化学製)0.63部に溶かしたジ−t−ブチルパーオキシド0.34部の溶液を、90分間かけて添加した。添加後1時間保持し、冷却し、重合液(a)を得た。(144.8部、固形分83.3%)
上記方法によって調製した重合体(B)を分散容器内で90℃に加熱し、ジメチルエタノールアミン2.3部を添加した後、重合液(a)と、水130.0部とを加え、1時間攪拌し、重合体分散液を得た。固形分45.8%、粒径0.5μmであった。
【0059】
得られた重合体分散液を用いて、実施例1と同様にして塗料を調製し、同様に塗装し、その耐水性の評価を行った。耐水性は不良であった。
【0060】
結果より、パーオキサイド基およびハイドロパーオキサイド基を含有するラジカル重合開始剤を用いて、親水性単量体を重合した後、疎水性単量体を重合して得られる重合体と、疎水性単量体単位を含む重合体とを含む重合体分散液は、塗膜耐水性に優れる塗料を与えられることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーオキサイド基およびハイドロパーオキサイド基を含有するラジカル重合開始剤を用いて、親水性単量体(a1)成分を重合した後、疎水性単量体(a2)成分を重合して得られる重合体(A)と、疎水性単量体(b2)成分を重合して得られる重合体(B)と、水とを含む重合体分散液。
【請求項2】
請求項1に記載の重合体分散液を用いることを特徴とする塗料。

【公開番号】特開2008−69311(P2008−69311A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−250917(P2006−250917)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】