説明

重合性モノマー組成物、固体電解コンデンサの製造方法

【課題】多孔性で複雑な形状を有する弁作用金属上においても、優れた重合性を有し、高電気伝導性、高耐久性を示す導電性高分子重合体を与える導電性高分子形成用重合性モノマー組成物を提供すること。また、そのような重合性モノマー組成物を用い、高静電容量、低誘電損失であり、特に低ESRを示す固体電解コンデンサの製造方法を提供すること。
【解決手段】重合性モノマー組成物として、チオフェン誘導体モノマー中にプロピレンジオキシチオフェンに代表されるアルキレンジオキシチオフェン化合物を含む混合組成物を用いて重合体を生成し、固体電解質層として弁作用金属上に該重合体を形成する固体電解コンデンサの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子形成用重合性モノマー組成物および固体電解コンデンサの製造方法に関し、より詳しくは、弁作用金属上に導電性高分子層からなる固体電解質層を有し、電気特性に優れた固体電解コンデンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体電解コンデンサの固体電解質形成用材料としては、二酸化マンガン等に代表される無機導電性材料や、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)錯体等の有機導電性材料が知られている。
さらに、それらの材料より電気伝導性に優れる導電性高分子材料を固体電解質として用いた固体電解コンデンサが広く実用化されている。
【0003】
この導電性高分子材料においては、3,4−エチレンジオキシチオフェン(以下、「EDOT」と略記する。)をモノマーとして重合した導電性高分子が広く知られている。
このEDOTは、重合の反応速度が比較的穏やかであり、多孔性の陽極との密着性に優れた導電性高分子層を形成できるため、固体電解コンデンサの固体電解質層形成材料として有用である。
【0004】
しかし、近年の電子機器は、より省電力化、高周波数化への対応を求められており、それら電子機器に用いられる固体電解コンデンサにおいても、小型大容量化あるいは低等価直列抵抗(以下、「ESR」と略記する。)化等のさらなる特性向上が求められている。
固体電解コンデンサの電気特性は、用いる固体電解質形成材料種や形成方法に大きく依存するが、従来公知である3,4−エチレンジオキシチオフェンを凌駕する優れた導電性高分子モノマーの開発や、固体電解質層の新規な形成方法に期待が持たれている。
【0005】
このような背景の中、特許文献1には、3−アルキル−4−アルコキシチオフェンの重合体を固体電解質とする固体電解コンデンサが開示されており、該重合体を用いることによって、高周波領域でも優れた電気特性を有する固体電解コンデンサが得られることが開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、アルコキシ基で置換された部位を有するアルキレンジオキシチオフェン誘導体ポリマーを固体電解質とする固体電解コンデンサが開示されている。
該ポリマーを採用することにより、ポリマー中に残留する重合用酸化剤の結晶化を抑制でき、得られる固体電解コンデンサの漏れ電流を低減できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−332453号公報
【特許文献2】特開2004−096098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記文献に開示されている重合体をもってしてもなお十分な電気特性を得ることが困難であり、さらなる固体電解コンデンサの電気特性の向上が要望されている。
【0009】
本発明の目的は、多孔性で複雑な形状を有する弁作用金属上においても、優れた重合性を有し、高電気伝導性、高耐久性を示す導電性高分子重合体を与える導電性高分子形成用重合性モノマー組成物を提供することである。
また、そのような重合性モノマー組成物を用い、高静電容量、低誘電損失であり、特に低ESRを示す固体電解コンデンサの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は鋭意検討した結果、重合性モノマー組成物として、チオフェン誘導体モノマー中に下記一般式(1)で特定される化合物を含む混合組成物を用いて重合体を生成し、
固体電解質層として弁作用金属上に該重合体が形成された固体電解コンデンサが上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は以下に示すものである。
【0011】
第1の発明は、
ガスクロマトグラフィーで測定される純度が90.00%以上であるチオフェン誘導体モノマー中に、下記一般式(1)で示される化合物が0.01〜10重量%含まれてなることを特徴とする導電性高分子形成用重合性モノマー組成物である。
【0012】
【化1】

【0013】
上式(1)中、Rは置換基を有していてもよい炭素数3〜6のアルキレン基を示す。
【0014】
第2の発明は、
前記チオフェン誘導体モノマーが、下記一般式(2)で示されることを特徴とする第1の発明に記載の導電性高分子形成用重合性モノマー組成物である。
【0015】
【化2】

【0016】
上式中、R、Rは、それぞれ同一でも異なっていても良い水素原子、炭素数1〜6のアルキル基を示す。
【0017】
第3の発明は、
誘電体酸化皮膜が形成された弁作用金属上に導電性高分子からなる固体電解質層を具備した固体電解コンデンサの製造方法において、
第1又は第2の発明に記載の重合性モノマー組成物と、ドーパント兼酸化剤溶液とを液相にて接触させることにより化学酸化重合し、誘電体酸化皮膜が形成された弁作用金属に重合体を形成させることを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法である。
【0018】
第4の発明は、
前記ドーパント兼酸化剤溶液が、
芳香族有機スルホン酸第二鉄塩が20〜80重量%の範囲で有機溶媒中に溶解された溶液であることを特徴とする第3の発明に記載の固体電解コンデンサの製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の導電性高分子形成用重合性モノマー組成物は、高導電性、高熱耐久性の導電性高分子を与え、高静電容量、低ESR、低誘電損失、かつ、高耐電圧を示す固体電解コンデンサの製造に資する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
まず、本発明の導電性高分子形成用重合性モノマー組成物について説明する。
本発明の導電性高分子形成用重合性モノマー組成物は、ガスクロマトグラフィーで測定される純分(純度)90.00%以上であるチオフェン誘導体モノマー中に、特定の化学構造を有するアルキレンジオキシチオフェン誘導体を含むものである。
【0021】
本発明の導電性高分子形成用重合性モノマーは、主モノマーとしてガスクロマトグラフィーで測定される純分(純度)90.00%以上であるチオフェン誘導体モノマー及び、副モノマーとして下記に説明するアルキレンジオキシチオフェン誘導体を含む。
ここで、該チオフェン誘導体モノマーにおいて、ガスクロマトグラフィーにて測定される純度が90.00%に満たない場合、導電性高分子の重合性が悪化し、ひいては得られる固体電解コンデンサのESRの低減効果が損なわれる場合がある。
上記主モノマーのより好ましい純度は、95.00%以上であり、さらに好ましくは99.00%以上である。
【0022】
上記主モノマーであるチオフェン誘導体モノマーの化学構造としては下記一般式(2)で示される化合物であることが好ましい。
【0023】
【化3】

【0024】
上式中、R、Rは、それぞれ同一でも異なっていても良い水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、または置換基を有していてもよいアリール基を示す。
【0025】
上記アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、i−ペンチル基、1−メチルブチル基、1,2−ジメチルプロピル基、1,1−ジメチルプロピル基、ネオペンチル基などが挙げられる。
上記置換基を有していてもよいアリール基としては、フェニル基、o−メチルフェニル基、m−メチルフェニル基、p−メチルフェニル基、2,3−ジメチルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基、2,5−ジメチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、2,3,4−トリメチルフェニル基、2,3,5−トリメチルフェニル基、2,4,5−トリメチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、2,3,4,5−テトラメチルフェニル基、2,3,4,6−テトラメチルフェニル基、2,3,5,6−テトラメチルフェニル基、2,4,5,6−テトラメチルフェニル基、3,4,5,6−テトラメチルフェニル基、ペンタメチルフェニル基、o−エチルフェニル基、m−エチルフェニル基、p−エチルフェニル基、2,3−ジエチルフェニル基、2,4−ジエチルフェニル基、2,5−ジエチルフェニル基、2,6−ジエチルフェニル基、3,4−ジエチルフェニル基、3,5−ジエチルフェニル基、2,4,6−トリエチルフェニル基、p−nプロピルフェニル基、p−イソプロピルフェニル基、α−ナフチル基、β−ナフチル基、ベンジル基、p−メチルベンジル基、p−エチルベンジル基、p−イソプロピルベンジル基が挙げられる。
【0026】
従って、上式(2)で表されるチオフェン誘導体モノマーとして具体的には、エチレンジオキシチオフェン(EDOT)、2−メチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(2−メチル−EDOT)、2−エチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(2−エチル−EDOT)、2−プロピル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(2−プロピル−EDOT),2−iso−プロピル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(2−iso−プロピル−EDOT)、2−ブチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(2−ブチル−EDOT)、2−iso−ブチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(2−iso−ブチル−EDOT)、2−sec−ブチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(2−sec−ブチル−EDOT),2−tert−ブチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(2−tert−ブチル−EDOT)、2−ペンチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(2−ペンチル−EDOT)及び2−ヘキシル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(2−ヘキシル−EDOT)が挙げられる。
これらの中でも、該チオフェン誘導体モノマーとしては、25℃において液状を呈するものであることが好ましい。
【0027】
これらのチオフェン誘導体モノマーは公知の方法にて製造することができ(2)で示される化合物は、例えば、特開2010−132571号公報等に記載の方法で得ることができる。
【0028】
次に、本発明の導電性高分子形成用重合性モノマー組成物に含有される副モノマーである、特定の化学構造を有するアルキレンジオキシチオフェン誘導体について説明する。
【0029】
アルキレンジオキシチオフェン誘導体としては下記一般式(1)で示されるものが好ましい。
【0030】
【化4】

【0031】
上式(1)中、Rは置換基を有していても良い炭素数3〜6のアルキレン基を示す。
【0032】
上記炭素数3〜6のアルキレン基としては、n−プロピレン基、n−ブチレン基、iso−ブチレン基、sec−ブチレン基、tert−ブチレン基、n−ペンチレン基、iso−ペンチレン基、sec−ペンチレン基、tert−ペンチレン基、n−ヘキシレン基、iso−ヘキシレン基、sec−ヘキシレン基、tert−ヘキシレン基が挙げられ、これらの中でも、重合性モノマー組成物の重合性の面から、n−プロピレン基、iso−ブチレン基、tert−ブチレン基であることが好適である。
【0033】
上記置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基が好ましく挙げられ、これら置換基は上記炭素数3〜6のアルキレン基に対し、1個又は複数個置換されていても良い。
【0034】
従って、(1)で示される化合物において、好ましいものは下記一般式(3)で示される化合物である。
【0035】
【化5】

【0036】
上式(3)中、R、R、Rはそれぞれ同一であっても異なっていても良い、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を示す。
【0037】
チオフェン誘導体モノマー中に含まれる前記一般式(3)で示される化合物として具体的には、プロピレンジオキシチオフェン、2−メチル−プロピレンジオキシチオフェン、3−メチル−プロピレンジオキシチオフェン、2−エチルプロピレンジオキシチオフェン、3−エチルプロピレンジオキシチオフェン、2−プロピルプロピレンジオキシチオフェン、2−イソプロピルプロピレンジオキシチオフェン、3−プロピルプロピレンジオキシチオフェン、3−イソプロピルプロピレンジオキシチオフェン、2,2−ジメチルプロピレンジオキシチオフェン、2,3−ジメチルプロピレンジオキシチオフェン、3,3−ジメチルプロピレンジオキシチオフェン、2,2−ジエチルプロピレンジオキシチオフェン、2,3−ジエチルプロピレンジオキシチオフェン、3,3−ジエチルプロピレンジオキシチオフェン、2,2−ジプロピルプロピレンジオキシチオフェン、2,3−ジプロピルプロピレンジオキシチオフェン、3,3−ジプロピルプロピレンジオキシチオフェン、2,2−ジイソプロピルプロピレンジオキシチオフェン、2,3−ジイソプロピルプロピレンジオキシチオフェン、3,3−ジイソプロピルプロピレンジオキシチオフェン、2−エチル−2−メチルプロピレンジオキシチオフェン、2−エチル−3−メチルプロピレンジオキシチオフェン、3−エチル−2−メチルプロピレンジオキシチオフェン、2−メチル−2−プロピルプロピレンジオキシチオフェン、2−メチル−3−プロピルプロピレンジオキシチオフェン、3−メチル−2−プロピルプロピレンジオキシチオフェン、3−メチル−3−プロピルプロピレンジオキシチオフェン、2−エチル−2−プロピルプロピレンジオキシチオフェン、2−エチル−3−プロピルプロピレンジオキシチオフェン、3−エチル−2−プロピルプロピレンジオキシチオフェン、3−エチル−3−プロピルプロピレンジオキシチオフェン、2−メチル−2−プロピルプロピレンジオキシチオフェン、2−メチル−3−イソプロピルプロピレンジオキシチオフェン、3−メチル−2−イソプロピルプロピレンジオキシチオフェン、3−メチル−3−イソプロピルプロピレンジオキシチオフェン、2−エチル−3−イソプロピルプロピレンジオキシチオフェン、3−エチル−2−イソプロピルプロピレンジオキシチオフェン、3−エチル−3−イソプロピルプロピレンジオキシチオフェンが挙げられ、最も好ましくは、プロピレンジオキシチオフェン、2−メチル−プロピレンジオキシチオフェン、3−メチル−プロピレンジオキシチオフェン、3,3−ジメチルプロピレンジオキシチオフェンである。
【0038】
チオフェン誘導体モノマー中に、前記一般式(1)、好ましくは前記一般式(3)で示される化合物が含有された重合性モノマー組成物を用いることによって、特に、ESRの低減効果が生じる。
【0039】
チオフェン誘導体モノマー中に含まれる(1)式で示される化合物の含有量としては、0.01重量%〜10重量%、好ましくは、0.05〜5重量%、さらに好ましくは0.1重量%〜2重量%である。
0.01重量%に満たない場合、ESRの低減効果が見られない場合があり、10重量%を超える場合、重合性モノマー組成物の重合性が損なわれ、緻密な固体電解質層が形成されない場合がある。
【0040】
(1)で示される化合物は、公知の方法で得ることができ、例えば、国際公開WO2009/090866号公報に記載された方法に順じて製造することができる。
【0041】
次に、本発明の固体電解コンデンサの製造方法について説明する。
本発明は、誘電体酸化皮膜が形成された弁作用金属上に導電性高分子からなる固体電解質層を具備した固体電解コンデンサの製造方法において、
上記導電性高分子形成用重合性モノマー組成物と、ドーパント兼酸化剤である化合物の溶液を、液相にて接触させることにより化学酸化重合し、誘電体酸化皮膜が形成された弁作用金属上に重合体を形成する工程を有することを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法である。
【0042】
上記一般式(2)で示される化合物を90.00〜99.99重量%及び上記一般式(1)で示される化合物を0.01〜10.00重量%含むもの、より好ましくは0.05〜5.00重量%、さらに好ましくは0.05〜2.0重量%含むものを重合性モノマー組成物として使用し重合した重合体を適用するとさらに優れた特性を発現する。
【0043】
弁作用金属としては、例えば、アルミニウム、タンタル、チタン、ニオブ又はこれらの合金を用いることができ、より好ましくは、アルミニウム、タンタル、ニオブが挙げられる。
これら弁作用金属の形態は、金属箔、あるいはこれらを主成分とする粉末の焼結体等のものが好適に使用できる。
【0044】
上記重合体を形成する工程は、化学酸化重合による方法であっても良いし、電解酸化重合による方法であっても良い。
得られる固体電解コンデンサの電気特性や、より簡便な製造工程であるという面から、化学酸化重合により重合体を形成する工程であることが好ましい。
【0045】
化学酸化重合により重合体を形成する好ましい工程としては、一般式(2)で示されるチオフェン誘導体モノマーからなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物及び、一般式(1)で示される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物を含むモノマー組成物と、ドーパント兼酸化剤である化合物の溶液を用い、弁作用金属上に、該重合性モノマー組成物の重合体を形成する。
【0046】
化学酸化重合における上記酸化剤としては、ヨウ素、臭素、ヨウ化臭素、二酸化塩素、ヨウ素酸、過ヨウ素酸、亜塩素酸などのハロゲン化物、5フッ化アンチモン、5塩化リン、5フッ化リン、塩化アルミニウム、塩化モリブデンなどの金属ハロゲン化物、あるいは過マンガン酸塩、重クロム酸塩、無水クロム酸、第二鉄塩、第二銅塩などの高原子価状態遷移金属イオン又はその塩、硫酸、硝酸、トリフルオロメタン硫酸などのプロトン酸、三酸化硫黄、二酸化窒素などの酸素化合物、過酸化水素、過硫酸アンモニム、過ホウ酸ナトリウムなどのペルオキソ酸又はそれらの塩、モリブドリン酸、タングストリン酸、タングストモリブドリン酸等のヘテロポリ酸又はそれらの塩があげられる。
【0047】
本発明の固体電解コンデンサの製造方法におけるより好ましい形態として、ドーパント兼酸化剤である化合物の溶液を使用することである。
ドーパント兼酸化剤である化合物とは、導電性高分子のドーパントとなるアニオン成分を有する酸化剤化合物塩であり、そのような化合物を用いることにより、化学重合の際に、アニオン成分が導電性高分子に取り込まれてドーパントとして機能し、導電性が向上された導電性高分子を形成することができる。
好ましいアニオン成分としては、有機スルホン酸イオン、カルボン酸イオン等の有機酸イオン、ホウ素化合物イオン、リン酸化合物イオン、過塩素酸イオン等の無機酸イオンなどがあげられる。
そのようなアニオン成分を含む酸化剤化合物塩として特に好適なものとしては、塩化第二鉄や過塩素酸第二鉄等の無機酸の鉄(III)塩、ベンゼンスルホン酸第二鉄やパラトルエンスルホン酸第二鉄塩、アルキルナフタレンスルホン酸第二鉄塩等の芳香族有機スルホン酸の鉄(III)塩を挙げることができ、最も好適なものとして、有機スルホン酸第二鉄塩を挙げることができる。
【0048】
上記ドーパント兼酸化剤は、有機溶媒に溶解された状態で使用することが好ましい。
溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール等のアルコール系溶媒が好適である。
これらの中で特に好適なものは、上記芳香族有機スルホン酸の鉄(III)塩が上記アルコール系溶媒に、20重量%〜80重量%、より好ましくは30重量%〜70重量%、さらに好ましくは40重量%〜60重量%溶解されたものである。
この様な濃度に溶解されたドーパント兼酸化剤を用いることで、導電性及び耐久性に優れた導電性高分子重合体を、複雑な形状を有する弁作用金属上に、緻密に形成することが可能となる。
【0049】
以下、本発明の固体電解コンデンサの製造方法について、アルミニウム巻回型コンデンサを作製する方法を具体例に挙げ、より詳しく説明する。
【0050】
まず、陽極となるアルミニウム箔表面を、エッチングして粗面化させた後、陽極リードを接続し、ついでアジピン酸二アンモニウム等の水溶液中で化成処理して、誘電体酸化皮膜を形成させる。本発明を実施する上で、エッチング倍率の大きな箔を用いることにより、静電容量の大きなコンデンサを得ることができ、好ましい。
【0051】
別途、陰極リードを接続した対向陰極アルミニウム箔と、上記陽極アルミニウム箔との間に、マニラ紙等のセパレータを挟み込み、円筒状に巻き取り、ついで熱処理によりセパレータを炭化させて、巻回型のコンデンサ素子を準備する。
【0052】
次に、上記コンデンサ素子の陽極箔上に、導電性高分子からなる固体電解質層を形成させる。該固体電解質層を形成させる方法としては、
1.上記(1)式及び(2)式で示される化合物を含む重合性モノマー組成物液と、ドーパント兼酸化剤を含む溶液とを混合した重合溶液を調整し、該液を弁作用金属に塗布あるいは浸漬によって接触後加熱させ、重合体を形成する方法。
2.上記重合性モノマー液を準備し、別途ドーパント兼酸化剤を含有する溶液を準備して、上記重合性モノマー液を含浸保持させた弁作用金属を、該酸化剤溶液中に塗布あるいは浸漬し、接触後加熱させ重合体を形成する方法。
3.ドーパント兼酸化剤を含有する溶液を、塗布あるいは含浸して保持させた弁作用金属に、上記重合性モノマー液を塗布あるいは浸漬し、接触後加熱させ重合体を形成する方法が挙げられる。
これらの方法は、特に制限されるものでない。
【0053】
ここで、加熱の温度とは、0℃から200℃の範囲で任意に選択することができ、加熱時間とは1分から24時間の範囲で任意に選択することができる。
0℃未満では、重合反応が生じにくくなり、200℃を越える温度では、コンデンサ特性が悪化する場合がある。
【0054】
上記含浸、加熱工程は複数回繰り返してもよい。
【0055】
上記工程により、陽極アルミニウム箔の微細なエッチング孔内に、導電性高分子が十分に充填された固体電解コンデンサ素子を形成することができる。
【0056】
ついで、金属製ケース等で外装、封口し、電圧を印加してエージングを行い、固体電解コンデンサを完成する。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は本実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例中、「%」は、「重量%」を表し、静電容量(C)及び誘電損失(tanδ)は周波数120Hzで、等価直列抵抗(ESR)は周波数100kHzで測定した。また、容量含浸率は、固体電解質層形成前のコンデンサ素子を15%アジピン酸二アンモニウム水溶液中で測定した静電容量に対し、得られた固体電解コンデンサの静電容量を百分率で示したものである。
【0058】
実施例1
アルミニウム箔の表面をエッチングして粗面化させた後、カシメ付けにより、陽極リードを接続させ、ついで、10%アジピン酸二アンモニウム水溶液中、電圧4.0Vで化成処理して、表面に誘電体酸化皮膜を形成させた。
【0059】
ついで、上記陽極箔と、陰極リードとを抵抗溶接により接続させた対向陰極アルミニウム箔との間に、厚さ50μmのマニラ紙をセパレータとして挟み込み、円筒状に巻き取り、次いで、温度400℃で4分間、熱処理して、マニラ紙を炭化させて、コンデンサ素子を準備した。得られたコンデンサ素子の15重量%アジピン酸二アンモニウム水溶液中での静電容量は150μFであった。
【0060】
次に、プロピレンジオキシチオフェンを0.10%含有したモノマー純度99.55%であるエチレンジオキシチオフェン(EDOT)と、ドーパント兼酸化剤である50%p−トルエンスルホン酸第二鉄/n−ブタノール溶液とを準備し、両者の重量比率を1:2.5に調合した溶液に当該コンデンサ素子を120秒間浸漬後、45℃で1時間、180℃で1時間加熱して、化学酸化重合を行い、コンデンサ素子中にPEDOTを含む固体電解質層を形成させた。
【0061】
ついで、外装であるコンデンサケースに封入し、エポキシ樹脂を用いて封口し、両極に電圧4.0Vを印加させてエージングを行い、固体電解コンデンサを完成させた。
【0062】
実施例2〜12
使用する主モノマーとしてEDOTを用い、EDOTの純度及び組成重量部、及び、副モノマーとして使用したジアルキレンジオキシチオフェン及び組成重量部を表1に示すように重合性モノマー組成物を準備し、実施例1と同様に固体電解コンデンサを完成させた。
【0063】
実施例13
実施例1と同様の重合前処理済みコンデンサ素子を準備し、プロピレンジオキシチオフェンを0.07%含有したモノマー純度99.82%である2−メチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(2−メチル−EDOT)を用いた以外は実施例1と同様な方法で処理を行い、固体電解コンデンサを作製した。
【0064】
実施例14〜24
使用する主モノマーとして2−メチル−EDOTを用い、2−メチル−EDOTの純度及び組成重量部及び、副モノマーとして使用した及び組成重量部を表2に示す通りに重合性モノマー組成物を準備し、実施例1と同様に固体電解コンデンサを完成させた。
【0065】
実施例25
実施例1と同様の重合前処理済みコンデンサ素子を準備し、プロピレンジオキシチオフェンを0.09%含有したモノマー純度99.62%である2−エチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(2−エチル−EDOT)を用いた以外は実施例1と同様な方法で処理を行い、固体電解コンデンサを作製した。
【0066】
実施例26〜36
使用する主モノマーとして2−エチル−EDOTを用い、2−エチル−EDOTの純度及び組成重量部及び、副モノマーとして使用した及び組成重量部を表3に示す通りに重合性モノマー組成物を準備し、実施例1と同様に固体電解コンデンサを完成させた。
【0067】
実施例37
実施例1と同様の重合前処理済みコンデンサ素子を準備し、プロピレンジオキシチオフェンを0.05%含有したモノマー純度99.72%である2−プロピル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(2−プロピル−EDOT)を用いた以外は実施例1と同様な方法で処理を行い、固体電解コンデンサを作製した。
【0068】
実施例38〜48
使用する主モノマーとして2−プロピル−EDOTを用い、2−プロピル−EDOTの純度及び組成重量部及び、副モノマーとして使用した及び組成重量部を表4に示す通りに重合性モノマー組成物を準備し、実施例1と同様に固体電解コンデンサを完成させた。
【0069】
比較例1
実施例1と同様の重合前処理済みコンデンサ素子を準備し、プロピレンジオキシチオフェンを0.10%含有したモノマー純度89.55%であるエチレンジオキシチオフェン(EDOT)を用いた以外は実施例1と同様な方法で処理を行い、固体電解コンデンサを作製した。
【0070】
比較例2〜13
使用する主モノマーとしてEDOTを用い、EDOTの純度及び組成重量部、及び、副モノマーとして使用したジアルキレンジオキシチオフェン及び組成重量部を表1に示すように重合性モノマー組成物を準備し、実施例1と同様に固体電解コンデンサを完成させた。
【0071】
比較例14
実施例1と同様の重合前処理済みコンデンサ素子を準備し、プロピレンジオキシチオフェンを0.11%含有したモノマー純度89.75%である2−メチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(2−メチル−EDOT)を用いた以外は実施例1と同様な方法で処理を行い、固体電解コンデンサを作製した。
【0072】
比較例15〜26
使用する主モノマーとして2−メチル−EDOTを用い、2−メチル−EDOTの純度及び組成重量部及び、副モノマーとして使用した及び組成重量部を表2に示す通りに重合性モノマー組成物を準備し、実施例1と同様に固体電解コンデンサを完成させた。
【0073】
比較例27
実施例1と同様の重合前処理済みコンデンサ素子を準備し、プロピレンジオキシチオフェンを0.09%含有したモノマー純度89.81%である2−エチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(2−エチル−EDOT)を用いた以外は実施例1と同様な方法で処理を行い、固体電解コンデンサを作製した。
【0074】
比較例28〜39
使用する主モノマーとして2−エチル−EDOTを用い、2−エチル−EDOTの純度及び組成重量部及び、副モノマーとして使用した及び組成重量部を表3に示す通りに重合性モノマー組成物を準備し、実施例1と同様に固体電解コンデンサを完成させた。
【0075】
比較例40
実施例1と同様の重合前処理済みコンデンサ素子を準備し、プロピレンジオキシチオフェンを0.10%含有したモノマー純度89.77%である2−プロピル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(2−プロピル−EDOT)を用いた以外は実施例1と同様な方法で処理を行い、固体電解コンデンサを作製した。
【0076】
比較例41〜52
使用する主モノマーとして2−プロピル−EDOTを用い、2−プロピル−EDOTの純度及び組成重量部及び、副モノマーとして使用した及び組成重量部を表4に示す通りに重合性モノマー組成物を準備し、実施例1と同様に固体電解コンデンサを完成させた。
【0077】
実施例1〜12並びに比較例1〜13にて使用した重合性モノマー組成物の組成を表1に、実施例13〜24並びに比較例14〜26にて使用した重合性モノマー組成物の組成を表2に、実施例25〜36並びに比較例27〜39にて使用した重合性モノマー組成物の組成を表3に、実施例37〜48並びに比較例40〜52にて使用した重合性モノマー組成物の組成を表4に、また実施例1〜12並びに比較例1〜13にて得られた固体電解コンデンサの初期電気特性、容量含浸率を表5に、実施例13〜24並びに比較例14〜26にて得られた固体電解コンデンサの初期電気特性、容量含浸率を表6に、実施例25〜36並びに比較例27〜39にて得られた固体電解コンデンサの初期電気特性、容量含浸率を表7に、実施例37〜48並びに比較例40〜52にて得られた固体電解コンデンサの初期電気特性、容量含浸率を表8に、示す。
【0078】
なお、本発明におけるガスクロマトグラフィーによる純度は、Agilent Technologies社製のAgilent 6890 N ネットワークGCを使用し、FIDによる検出装置により得られたピーク面積の面積比により表示した。
【0079】
【表1】

PrDOT:プロピレンジオキシチオフェン
2Me PrDOT:2−メチルプロピレンジオキシチオフェン
3Me PrDOT:3−メチルプロピレンジオキシチオフェン
3,3DMe PrDOT:3,3−ジメチルプロピレンジオキシチオフェン
【0080】
【表2】

PrDOT:プロピレンジオキシチオフェン
2Me PrDOT:2−メチルプロピレンジオキシチオフェン
3Me PrDOT:3−メチルプロピレンジオキシチオフェン
3,3DMe PrDOT:3,3−ジメチルプロピレンジオキシチオフェン
【0081】
【表3】

PrDOT:プロピレンジオキシチオフェン
2Me PrDOT:2−メチルプロピレンジオキシチオフェン
3Me PrDOT:3−メチルプロピレンジオキシチオフェン
3,3DMe PrDOT:3,3−ジメチルプロピレンジオキシチオフェン
【0082】
【表4】

PrDOT:プロピレンジオキシチオフェン
2Me PrDOT:2−メチルプロピレンジオキシチオフェン
3Me PrDOT:3−メチルプロピレンジオキシチオフェン
3,3DMe PrDOT:3,3−ジメチルプロピレンジオキシチオフェン
【0083】
【表5】

【0084】
【表6】

【0085】
【表7】

【0086】
【表8】

【0087】
表5〜8に示すように、実施例1〜48で得られた固体電解コンデンサは、比較例1〜52の固体電解コンデンサより低ESRであることがわかった。
【0088】
以上のことからエチレンジオキシチオフェン群にプロピレンジオキシチオフェン群を添加した場合、ESRの改善が確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスクロマトグラフィーで測定される純度が90.00%以上であるチオフェン誘導体モノマー中に、
下記一般式(1)、
【化1】

(上式(1)中、Rは置換基を有していてもよい炭素数3〜6のアルキレン基を示す。)で示される化合物が0.01〜10重量%含まれてなることを特徴とする導電性高分子形成用重合性モノマー組成物。
【請求項2】
前記チオフェン誘導体モノマーが、
下記一般式(2)、
【化2】

(上式(2)中、R、Rは、それぞれ同一でも異なっていても良い水素原子、炭素数1〜6のアルキル基を示す。)
で示されることを特徴とする請求項1に記載の導電性高分子形成用重合性モノマー組成物。
【請求項3】
誘電体酸化皮膜が形成された弁作用金属上に導電性高分子からなる固体電解質層を具備した固体電解コンデンサの製造方法において、
請求項1又は2に記載の重合性モノマー組成物と、ドーパント兼酸化剤溶液を液相にて接触させることにより化学酸化重合し、誘電体酸化皮膜が形成された弁作用金属に重合体を形成させることを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項4】
前記ドーパント兼酸化剤溶液が、
芳香族有機スルホン酸第二鉄塩が20〜80重量%の範囲で有機溶媒中に溶解された溶液であることを特徴とする請求項3に記載の固体電解コンデンサの製造方法。

【公開番号】特開2012−77218(P2012−77218A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224454(P2010−224454)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【出願人】(000228349)日本カーリット株式会社 (269)
【Fターム(参考)】