説明

重合性化合物およびその用途

【課題】
プラスチックレンズなどの光学部材に要求される高い透明性、良好な耐熱性、機械的強度を有しつつ、かつ、屈折率(nd)1.7を超える高屈折率を有する樹脂の原料となる重合性化合物、該樹脂からなる光学部材を提供する。
【解決手段】
分子内にオキセタン基を1個または2個以上有し、かつ、金属原子の中から選ばれる一種を含有する化合物であり、好ましくは一般式(1)で表される化合物。


(1)

[式中、MはSn原子、Si原子、Zr原子、Ti原子またはGe原子を表し、
は水素原子または一価の有機基を表し、RおよびRは二価の有機基を表し、
およびXは各々独立に硫黄原子または酸素原子を表し、
Yは無機または有機残基を表し、
mは0または1以上の整数を表し、nは1〜pの整数を表し、pは金属原子Mの価数を表す]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非常に高い屈折率を有する透明樹脂用の原料モノマーとして有用な、分子内にオキセタン基を1個または2個以上有し、かつ、金属原子の中から選ばれる一種を含有する化合物に関する。
【0002】
さらには、該化合物を含有してなる重合性組成物、該重合性組成物を重合して得られる樹脂ならびに該樹脂からなる光学部材に関する。
【背景技術】
【0003】
無機ガラスは透明性に優れ、光学異方性が小さいなどの諸物性に優れていることから、透明性材料として広い分野で使用されている。しかしながら、重くて破損しやすい、成型加工して製品を得る際の生産性が悪い等の短所があり、無機ガラスに代わる素材として透明性有機高分子材料(光学用樹脂)が使用されている。かかる光学用樹脂から得られる光学部材としては、例えば、視力矯正用眼鏡レンズやデジタルカメラなどの撮影機器用レンズ等のプラスチックレンズなどがあって、実用化され普及をみている。特に、視力矯正用眼鏡レンズの用途においては、無機ガラス製のレンズと比較して軽量で割れにくい、染色が可能でファッション性に富むなどの特長を生かして広く使用されている。
【0004】
従来、眼鏡レンズに用いられる光学用樹脂としてジエチレングリコールビスアリルカーボネートを加熱下に注型重合して得られる架橋型樹脂(通称、DAC樹脂)が実用化されており、透明性、耐熱性が良好で色収差が低いといった特徴から、汎用の視力矯正用プラスチック眼鏡レンズ用途において最も多く使用されてきた。しかしながら、屈折率が低い(nd=1.50)ためにプラスチックレンズの中心厚みや周辺の厚み(コバ厚)が大きくなり、着用感、ファッション性に劣るなどの問題があって、これら問題を解決し得る高屈折率のプラスチックレンズ用樹脂が求められ開発が行われた。
【0005】
その流れの中にあって、 ジイソシアネート化合物とポリチオール化合物を注型重合させて得られる硫黄原子を含有するポリチオウレタンは、透明性、耐衝撃性に優れ、高屈折率(nd=1.6〜1.7)で、かつ、色収差も比較的低いなどの極めて優れた特徴を実現し、薄厚、軽量の高品質な視力矯正用プラスチック眼鏡レンズの用途で使用されてきている。
【0006】
一方、さらに高い屈折率を有する光学用樹脂を追求する流れの中で、エピスルフィド基を有する化合物を重合させて得られる透明性樹脂(特許文献1、特許文献2)やSeなどの金属含有化合物を重合させて得られる樹脂(特許文献3、特許文献4)などいつくかの提案がなされている。また最近では、プラスチックレンズとして必要な諸特性(透明性、熱的特性、機械的特性など)を有しつつ、かつ、屈折率(nd)1.7を超える高屈折率の光学用樹脂が求められ開発が行われている。
【0007】
【特許文献1】特開平9−110979号公報
【特許文献2】特開平11−322930号公報
【特許文献3】特開平11−140046号公報
【特許文献4】特開2001−296402号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、プラスチックレンズなどの光学部材に必要な諸特性(透明性、熱的特性、機械的特性など)を有しつつ、かつ、屈折率(nd)1.7を超える非常に高い屈折率を与える重合性化合物、該化合物を重合して得られる樹脂ならびに該樹脂からなる光学部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、分子内にオキセタン基を1個または2個以上有し、かつ、金属原子の中から選ばれる一種を含有する化合物に関する。より具体的な態様としては、金属原子がSn原子、Si原子、Zr原子、Ti原子またはGe原子である前記化合物、ならびに、一般式(1)で表される化合物に関する。
【0010】
【化1】

(1)

[式中、MはSn原子、Si原子、Zr原子、Ti原子またはGe原子を表し、
は水素原子または一価の有機基を表し、RおよびRは二価の有機基を表し、
およびXは各々独立に硫黄原子または酸素原子を表し、
Yは無機または有機残基を表し、
mは0または1以上の整数を表し、nは1〜pの整数を表し、pは金属原子Mの価数を表す]
【0011】
さらには、前記化合物を含有する重合性組成物、前記重合性組成物を重合して得られる樹脂、ならびに、該樹脂からなる光学部材に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の化合物を重合して得られる樹脂は、高い透明性、良好な耐熱性と機械的強度を有しつつ、かつ、屈折率(nd)1.7を超える高屈折率を有しており、プラスチックレンズなどの光学部材に使用される樹脂として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明の化合物は、分子内にオキセタン基を1個または2個以上有し、かつ、金属原子の中から選ばれる一種を含有することを化学構造上の特徴とする化合物である。本発明の化合物は重合性のオキセタン基を有することから、重合性化合物として有用であり、後で詳しく述べるように該化合物を重合して得られる樹脂は透明で、高屈折率であるという特徴を有している。
【0015】
本発明の化合物において、金属原子としては、所望の効果を発現するものであれば、特に限定されるものではないが、好ましくは、Sn原子、Si原子、Zr原子、Ti原子またはGe原子である。
【0016】
本発明の化合物の好ましい態様としては、一般式(1)で表される化合物である。
【0017】
【化2】

(1)

[式中、MはSn原子、Si原子、Zr原子、Ti原子またはGe原子を表し、
は水素原子または一価の有機基を表し、RおよびRは二価の有機基を表し、
およびXは各々独立に硫黄原子または酸素原子を表し、
Yは無機または有機残基を表し、
mは0または1以上の整数を表し、nは1〜pの整数を表し、pは金属原子Mの価数を表す]
【0018】
一般式(1)において、Mは、Sn原子、Si原子、Zr原子、Ti原子またはGe原子を表す。
【0019】
一般式(1)において、XおよびXは各々独立に硫黄原子または酸素原子を表す。本発明の所望の効果である高屈折率であることを鑑みると、XおよびXとして、硫黄原子はより好ましい。
【0020】
一般式(1)において、Rは水素原子または一価の有機基を表す。
かかる有機基としては、鎖状脂肪族基、環状脂肪族基、芳香族基または芳香族−脂肪族基であり、好ましくは、炭素数1〜20の鎖状脂肪族基、炭素数3〜20の環状脂肪族基、炭素数5〜20の芳香族基、炭素数6〜20の芳香族−脂肪族基であり、より好ましくは、炭素数1〜4の鎖状脂肪族基、フェニル基である。
【0021】
一般式(1)において、RおよびRはそれぞれ独立に二価の有機基を表す。
かかる二価の有機基としては、鎖状または環状脂肪族基、芳香族基または芳香族−脂肪族基であって、好ましくは、炭素数1〜20の鎖状脂肪族基、炭素数3〜20の環状脂肪族基、炭素数5〜20の芳香族基、炭素数6〜20の芳香族−脂肪族基である。
かかる二価の有機基は、基中に炭素原子、水素原子以外のヘテロ原子を含有していても良い。かかるヘテロ原子としては、酸素原子または硫黄原子が挙げられるが、本発明の所望の効果を考慮すると、硫黄原子であることが好ましい。
【0022】
一般式(1)において、mは0または1以上の整数を表す。
かかるmとして、好ましくは、0〜4の整数であり、より好ましくは、0〜2の整数であり、さらに好ましくは、整数0または1である。
【0023】
一般式(1)において、nは1〜pの整数を表す。
かかるnとして、好ましくは、整数pまたはp−1であり、より好ましくは、整数pである。
【0024】
一般式(1)において、pは金属Mの価数を表す。すなわち例えば、MがSn原子またはTi原子である場合、p=2または4であり、好ましくは、整数4を表す。またMがZr原子、Si原子、Ge原子である場合、p=4である。
【0025】
一般式(1)において、Yは無機または有機残基を表す。
該残基としては、例えば、ハロゲン原子、水酸基、チオール基、アルキル基、アリール基、アルキルオキシ基、アルキルチオ基、アリールオキシ基、アリールチオ基が示される。
【0026】
一般式(1)で表される化合物としては、具体的には例えば、
テトラキス(3−オキセタニルチオ)スズ、
テトラキス(3−オキセタニルチオ)ジルコニウム、
テトラキス(3−オキセタニルチオ)ケイ素、
テトラキス(3−オキセタニルチオ)チタン、
テトラキス(3−オキセタニルチオ)ゲルマニウム、
テトラキス(3−オキセタニルオキシ)スズ、
テトラキス(3−オキセタニルオキシ)ジルコニウム、
テトラキス(3−オキセタニルオキシ)ケイ素、
テトラキス(3−オキセタニルオキシ)チタン、
テトラキス(3−オキセタニルオキシ)ゲルマニウム、

トリス(3−オキセタニルチオ)メチルスズ、
トリス(3−オキセタニルチオ)ブチルスズ、
トリス(3−オキセタニルチオ)フェニルスズ、
ビス(3−オキセタニルチオ)ジメチルスズ、
テトラキス(1−メチル−3−オキセタニルチオ)スズ、
テトラキス(1−エチル−3−オキセタニルチオ)スズ、
テトラキス(1−エチル−3−オキセタニルチオ)ジルコニウム、
テトラキス(1−エチル−3−オキセタニルチオ)チタン

トリス(3−オキセタニルチオ)フェニルオキシスズ、
トリス(3−オキセタニルチオ)フェニルチオスズ、
トリス(3−オキセタニルチオ)フェニルオキシジルコニウム、
トリス(2−オキセタニルチオ)フェニルチオジルコニウム
などが例示されるが、本発明はこれら化合物に限定されるものではない。
【0027】
本発明の一般式(1)で表される化合物は、代表的には例えば、一般式(2−a)及び/又は(2−b)で示される金属のハロゲン化物と、一般式(3)で表されるオキセタン基を有するヒドロキシ化合物、もしくは、メルカプト化合物との反応により製造される。
【0028】
【化3】

(2−a)
【0029】
【化4】

(2−b)

(式中、M、Y、nおよびpは前記に同じであり、Zはハロゲン原子を表す)
【0030】
【化5】

(3)

(式中、R、R、R、X、Xおよびmは前記に同じ)
【0031】
一般式(2−a)または(2−b)で表される化合物は、一部の化合物について工業原料または試薬として入手可能である。
【0032】
一般式(3)で表される化合物は、一部の化合物について工業原料または試薬として入手可能であり、それらを原料にして誘導することにより製造される。代表的には、例えば、Journal of American Chemical Society.,79巻,3455頁 (1957年)等に記載の方法に従って製造される。
【0033】
反応は無溶媒で行ってもよく、あるいは、水溶媒または反応に不活性な有機溶媒の存在下に行ってもよい。かかる有機溶媒としては、反応に不活性な有機溶媒であれば特に限定するものではなく、石油エーテル、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレンなどの炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミルなどのエステル系溶媒、塩化メチレン、クロロホルム、クロルベンゼン、ジクロルベンゼンなどの含塩素系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシドなど非プロトン性極性溶媒などが例示される。
【0034】
反応温度は、特に制限するものではないが、通常、−78℃〜200℃の範囲であり、好ましくは、−78℃〜100℃である。
【0035】
反応時間は反応温度により影響されるが、通常、数分から100時間である。
【0036】
反応における、一般式(2−a)及び/又は(2−b)で表される化合物と一般式(3)で表される化合物の使用量は、特に限定するものではないが、通常、一般式(2−a)及び/又は(2−b)で表される化合物1モルに対して、一般式(3)で表される化合物の使用量は、0.01〜100モルである。
好ましくは、0.1モル〜50モルであり、より好ましくは、0.5モル〜20モルである。
【0037】
反応は無触媒で行われてもよく、あるいは、触媒存在下に行われてもよいが、反応を効率よく行うために、塩基を用いることは好ましい。かかる塩基として、例えば、ピリジン、トリエチルアミン、ジメチルアニリン、ジエチルアニリン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセンなどが例示される。
【0038】
本発明の重合性組成物は、重合性化合物として、分子内にオキセタン基を1個または2個以上有し、かつ、金属原子を含有する本発明の化合物を含有し、かつ、重合触媒を含有してなる。この場合、一般式(1)で表される化合物を代表とする本発明の化合物を単独で用いてもよく、あるいは、異なる複数の化合物を併用しても差し支えない。
【0039】
本発明の重合性組成物中に含まれる重合性化合物の総重量に占める、本発明の化合物の含有量は、特に限定するものではないが、通常、10重量%以上であり、好ましくは、30重量%以上であり、より好ましくは、50重量%以上であり、さらに好ましくは、70重量%以上である。
【0040】
本発明の重合性組成物に使用する重合触媒としては、特に限定するものではなく、例えば、オキセタン化合物をカチオン重合する際に使用される重合触媒など各種公知の重合触媒を使用することができる。
【0041】
かかる重合触媒としては、例えば、無機酸、有機酸およびその誘導体(塩、エステルまたは酸無水物など)、四級アンモニウム塩化合物、四級ホスホニウム塩化合物、三級スルホニウム塩化合物、二級ヨードニウム塩などのオニウム塩化合物、ルイス酸化合物、前記以外の他カチオン重合触媒などが挙げられる。またその他に、ラジカル重合触媒、アミン化合物、ホスフィン化合物などを使用してもよい。
【0042】
かかる重合触媒の使用量は、重合性組成物の組成、重合条件などによって影響されるため、特に限定されるものではないが、重合性組成物中に含まれる全重合性化合物100重量部に対して、0.0001〜10重量部であり、好ましくは、0.001〜5重量部であり、より好ましくは、0.005〜3重量部である。また前記重合触媒を複数併用しても差し支えない。
【0043】
本発明の重合性組成物は、本発明の所望の効果を損なわない範囲において、分子内にオキセタン基を1個または2個以上有し、かつ、金属原子を含有する本発明の化合物以外の、他の重合性化合物を含有してもよい。
【0044】
かかる重合性化合物としては、公知の各種重合性モノマーまたは重合性オリゴマーが挙げられ、例えば、(メタ)アクリル酸エステル化合物、ビニル化合物、エポキシ化合物、エピスルフィド化合物、オキセタン化合物、チエタン化合物などが例示される。
【0045】
本発明の重合性組成物中に含まれる重合性化合物の総重量に占める、これら他の重合性化合物の含有量は、特に制限はないが、通常、90重量%以下であり、好ましくは、80重量%以下であり、より好ましくは、70重量%以下であり、さらに好ましくは、50重量%以下である。
【0046】
本発明の重合性組成物の製造方法として、代表的には、本発明の一般式(1)で表される化合物を用い、所望により上記の公知の各種重合性化合物を併用して、さらに上記重合触媒を添加した後、混合、溶解させる方法などが挙げられる。さらに該重合性組成物は、必要に応じて減圧下で十分に脱気処理(脱泡)し、重合前に不溶物や異物などを濾過により除去した後、重合に使用されることが好ましい。
【0047】
また重合性組成物を製造する際には、本発明の効果を損なわない範囲内で所望に応じて、内部離型剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色顔料(例えば、シアニングリーン、シアニンブルー等)、染料、流動調節剤、充填剤などの公知の各種添加剤を添加することが可能である。
【0048】
本発明の樹脂ならびに該樹脂からなる光学部材は、上記重合性組成物を重合して得られるものである。かかる方法として、プラスチックレンズを製造する際に用いられる従来より公知の各種方法によって好適に実施されるが、代表的には、注型重合が挙げられる。
すなわち、前述の方法により製造された本発明の重合性組成物を、必要に応じて、減圧下での脱法処理やフィルターろ過を行った後、該重合性組成物を成型用モールドに注入し、必要に応じて加熱して重合を行うことによって実施される。この場合、低温から高温へ徐々に加熱して重合することが好ましい。
【0049】
該成型用モールドは、例えば、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル等からなるガスケットを介した鏡面研磨した二枚の鋳型により構成される。鋳型としては、代表的には、ガラスとガラスの組み合わせであり、他にガラスとプラスチック板、ガラスと金属板等の組み合わせの鋳型が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、成型用モールドは2枚の鋳型をポリエステル粘着テープなどのテープ等で固定したものであってもよい。必要に応じて、鋳型に対して離型処理など公知の処理方法を行ってもよい。
【0050】
注型重合を行う場合、重合温度は重合開始剤の種類など重合条件によって影響されるので、限定されるものではないが、通常、−50〜200℃であり、好ましくは、−20〜170℃であり、より好ましくは、0〜150℃である。
【0051】
重合時間は、重合温度により影響されるが、通常、0.01〜100時間であり、好ましくは、0.05〜50時間である。また必要に応じて、低温や昇温、降温などを行っていくつかの温度を組み合わせて重合を行うことも可能である。
【0052】
また、本発明の重合性組成物は、電子線、紫外線や可視光線などの活性エネルギー線を照射することによっても重合を行うことができる。この際には、必要に応じて、活性エネルギー線によって重合開始するラジカル重合触媒やカチオン重合触媒が用いられる。
【0053】
得られた光学レンズは、硬化後、必要に応じて、アニール処理を施されてもよい。さらに必要に応じて、反射防止、高硬度付与、耐摩耗性向上、防曇性付与あるいはファッション性付与の目的で、表面研磨、帯電防止処理、ハードコート処理、無反射コート処理、染色処理、調光処理(例えば、フォトクロミックレンズ化処理など)など公知の各種物理的または化学的処理を施されてもよい。
【0054】
また本発明の重合性組成物を重合して得られる樹脂硬化物および光学部材は、高い透明性、良好な耐熱性と機械的強度を有しつつ、かつ、屈折率(nd)1.75を超える高屈折率を有している。
【0055】
本発明の光学部材としては、例えば、視力矯正用眼鏡レンズ、撮像機器用レンズ、液晶プロジェクター用フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、コンタクトレンズなどの各種プラスチックレンズ、発光ダイオード(LED)用封止材、光導波路、光学レンズや光導波路の接合に用いる光学用接着剤、光学レンズなどに用いる反射防止膜、液晶表示装置部材(基板、導光板、フィルム、シートなど)に用いる透明性コーティングまたは透明性基板などが挙げられる。
【0056】
以下、製造例および実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
<本発明の一般式(1)で表される化合物の製造>
【実施例1】
【0058】
[本発明の式(1−1)で表される化合物の製造]
3−オキセタンチオール 39.67g(0.440モル)と純水198gを秤取して得られた混合物に対して、10%水酸化ナトリウム水溶液168g(水酸化ナトリウム0.420モル相当)を25℃で加えてナトリウムチオラートを調製した。該溶液に対して、四塩化スズ・五水和物 35.10g(0.100モル)を水226gに溶解させて調製した四塩化スズの10%水溶液を30℃で4時間要して適下した後、さらに同温度で2時間反応させた。反応終了後、生成物をクロロホルム200gで抽出した後、水洗、分液して取り出した有機層から減圧下に25℃で溶媒を留去して微黄色透明液体の粗生成物を得た。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製して下記式(1−1)のテトラキス(3−オキセタニルチオ)スズ 33.27g(収率70%)を得た。
【0059】
【化6】

(1−1)
【0060】
<本発明の重合性組成物の調製とその重合による樹脂硬化物の製造>
実施例において製造した樹脂または光学部品(レンズ)の物性評価を下記の方法に従って行った。
・外観: 目視および顕微鏡観察により色味、透明性、光学的な歪みの有無を確認した。
・屈折率: プルフリッヒ屈折計を用いて20℃で測定した。
【実施例2】
【0061】
室温(25℃)下、ガラスビーカーに実施例1で製造した式(1−1)で表される化合物 30gを秤取し、重合触媒としてトリフルオロメタンスルホン酸 0.015gを加えた後、攪拌して十分に混合した。得られた混合液をテフロン製フィルターで濾過した後、1.3kPa以下の減圧下に発泡が認められなくなるまで十分脱気させた。ガラスモールドとテープよりなるモールド中へ該重合性組成物を注入した後、加熱オーブン中へ入れ30〜120℃まで徐々に昇温し20時間重合を行った。
【0062】
得られた樹脂の成型片は透明性良好であり、歪みのない外観良好なものであった。
得られた樹脂の屈折率を測定したところ、屈折率nd=1.755であった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の重合性化合物を重合して得られる樹脂は、高い透明性、良好な耐熱性と機械的強度を有しつつ、かつ、屈折率(nd)1.7を超える高屈折率を有しており、プラスチックレンズなどの光学部材に用いられる樹脂として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内にオキセタン基を1個または2個以上有し、かつ、金属原子の中から選ばれる一種を含有する化合物。
【請求項2】
金属原子がSn原子、Si原子、Zr原子、Ti原子またはGe原子である請求項1記載の化合物。
【請求項3】
一般式(1)で表される請求項1記載の化合物。
【化1】

(1)

[式中、MはSn原子、Si原子、Zr原子、Ti原子またはGe原子を表し、
は水素原子または一価の有機基を表し、RおよびRは二価の有機基を表し、
およびXは各々独立に硫黄原子または酸素原子を表し、
Yは無機または有機残基を表し、
mは0または1以上の整数を表し、nは1〜pの整数を表し、pは金属原子Mの価数を表す]
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の化合物を含有する重合性組成物。
【請求項5】
請求項4記載の重合性組成物を重合して得られる樹脂。
【請求項6】
請求項5記載の樹脂からなる光学部品。



【公開番号】特開2006−83313(P2006−83313A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−270812(P2004−270812)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】