説明

重合性液体の精製方法

【目的】 本発明は、着色が少ないばかりでなく、重合物の少ない(メタ)アクリル酸エステル等の重合性液体を高純度で取得する工業的に有利な方法を提供する。
【構成】 重合性液体の蒸留を、精留塔底液の加熱を強制循環型熱交換器で行うとともに塔底液温度と加熱源温度の差を30℃以下に抑制して行うことを特徴とする重合性液体の精製方法。
【効果】 着色が少ないばかりでなく、重合物の少ない高純度の重合性液体を安定的な操業下に取得することを可能にする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、アクリル酸またはメタクリル酸(以下アクリルおよびメタクリルを合わせて(メタ)アクリルという)、(メタ)アクリル酸エステル等の重合性液体の精製方法に関するものであり、着色が少ないばかりでなく、重合物の少ない高純度の重合性液体を収得するに有利な工業的方法を提供するものであり、重合性液体を取り扱う化学業界を始めとして各種業界で利用され得るものである。
【0002】
【従来の技術】(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等の重合性液体は合成樹脂、塗料、粘着剤やその他ポリマー製品の原料として広く用いられており、それらの原料としては当然のことながら、それらの製品に不慮の着色を与えないために、無色透明のものが求められている。しかしながら、これらの重合性液体は、高温下では、着色化や重合物の生成等の弊害が発生しやすく、着色の少ない純度の高い製品を、高温下での蒸留精製で得ることは難しく、その対策が強く求められている。
【0003】その解決手段として、特開昭58−174346号には、(メタ)アクリル酸エステルの重合を避けるために使用する重合防止剤が高温状態になると着色原因となることが指摘されており、その解決手段として、重合防止剤を大量に使用したり、着色性の少ない重合防止剤を選択使用することが提案されている。また、特開昭61−165349号では、活性炭や活性白土により着色物質を吸着除去をする方法が提案されている。一方、特公平6−53711号には、撹拌薄膜蒸発器を使用して、蒸発器内に取り付けられたワイパーにより加熱面を連続的に掻き取ることで、加熱面での重合性液体の滞留による重合及び生成した重合物等のスケール付着を防止する方法が提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記した従来の方法には以下のような問題が存在している。大量に重合防止剤を添加することは熱による着色を増加させやすく、特に製品品質を低下するという問題点を有している。また、特開昭58−174346号に開示されている着色性の少ない特殊な重合防止剤を用いた場合には、最終製品とするためには、その重合防止剤を除去しなければならないという問題点を有している。このことは、活性炭や活性白土により着色物質を用いた場合も同様である。一方、撹拌薄膜蒸発器を使用する方法は、特殊な加熱器であるため設備費が高くなるばかりではなく、ワイパー可動部と固定部の隙間で重合物が発生し、長期運転を不可能にすることが多い。本発明者らは、重合性液体を蒸留操作により精製する際に発生する、上記のような従来法の欠点を解決するために種々検討したのである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、重合性液体を蒸留操作により精製する際の着色や重合物の生成の原因を検討した結果、それらに重合性液体の温度およびその温度における重合性液体の滞留時間が大きく関与しており、特に、重合性液体が加熱源と接触している部分での温度の影響が著しく、その部分での温度が高いほど、着色や重合物の生成が著しいことを見いだし、この知見を重合性液体を蒸留操作により精製する際に、着色と重合物の生成を少なくする方法を得るために利用しながら検討を鋭意重ねた結果、本発明を完成するに至ったのである。
【0006】すなわち、本発明は重合性液体を蒸留操作により精製するに際して、精留塔底液の加熱を強制循環型熱交換器で行うとともに塔底液温度と加熱源温度の差を30℃以下に抑制することを特徴とする重合性液体の精製方法に関するものである。
【0007】以下に本発明をさらに詳しく説明する。本発明で精留塔底液の加熱に用いられる強制循環型熱交換器は、塔底液温度と加熱源温度と差を30℃以下に抑制することが出来るものでなければならず、そのためには下記(1)式を満足する総括伝熱係数Uと伝熱面積Aを有するものでなければならない。
【0008】
【式1】A=Q/(U×Δt) ・・・・・(1)式
【0009】ここで、Qは、必要加熱量Q[kj/Hr]を、Uは、使用する熱交換器の総括伝熱係数U[kj/m2/Hr/℃]及びΔtは、塔底液温度と加熱源との温度差Δt[℃]であり、Aは使用する熱交換器の伝熱面積A[m2]である。Δtは30℃以下で可能な限り小さい値が好ましいが、あまり小さいと伝熱面積Aが大きくなりすぎ、設備費が高くなって経済的に不利になる。そのためΔtは、好ましくは1〜30℃、より好ましくは3〜20℃である。本発明で用いられる熱交換器は、ポンプ等により強制的に反応液を熱交換器に循環させながら、その循環液の一部を蒸発させる強制循環型熱交換器であり、熱交換器のタイプとしては、多管式熱交換器、スパイラル式熱交換器、プレート式熱交換器等が挙げられる。また、熱交換器での全循環量に対する蒸発量の比率は、一般的に知られている1〜20%程度のものである。本発明により精製される重合性液体は多岐にわたるが、その具体例を挙げれば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル等のアクリル酸のアルキルエステルもしくはシクロアルキルエステル、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート等の多官能の(メタ)アクリレート等であり、あるいはこれらの重合性液体を含有する各種の液体等である。本発明の蒸留操作に用いられる機器としては、一般的に用いられているものが挙げられ、例えば、液体および/または蒸気の供給口と抜出口を持つ精留塔、塔頂蒸気凝縮器(コンデンサー)、塔底液加熱器(リボイラー)等から構成される一般的なものが使用される。また、精留塔としては、フラッシュドラムのような空塔、棚段塔、不規則充填塔、規則充填塔が用いられる。塔底液の温度は50〜200℃、好ましくは70〜150℃の温度で行われるが、できる限り低い方が、着色、副生成物や重合などのトラブルが少ない。また、蒸留精製は常圧もしくは減圧下で行われ、その操作圧力は塔底温度が上述の温度範囲に入るように選定される。本発明方法でも、重合性液体を取り扱う従来技術と同様に重合防止剤が併用され、用いられる重合防止剤としては、重合性液体の取り扱いの際に一般的に用いられているフェノチアジン等の芳香族アミン類やハイドロキノン及びその誘導体等のフェノール類化合物等の重合防止剤が挙げられる。また、重合防止剤として酸素も広く用いられ、重合性液体内に溶存する酸素は重合防止剤として大きな効果を有するものであり、酸素を含有する気体の雰囲気下で操作を行うことまたは酸素を含有する気体を重合性液体に導入してバブリング(曝気)することにより導入される溶存酸素が重合防止剤として効果的に働くことになる。酸素を溶存させるために用いられる酸素を含有する気体としては、特に限定されるものではないが、空気などのように酸素濃度が高いと爆発性混合ガス(爆鳴気)を形成し危険性が増大するので、酸素濃度を21容量%(空気)以下に抑えることが好ましい。また、酸素濃度が3容量%より低い場合は酸素分圧が減少し、高い溶存酸素濃度が得にくいので、酸素濃度は3容量%以上にすることが好ましい。
【0010】
【作用】本発明方法が、着色が少ないばかりでなく、重合物が少ない高純度の重合性液体を取得する精製方法として優れている理由の詳細は不明であるが、塔底液加熱器の加熱器との接触部分での温度をできるかぎり下げることにより、その境界部分での過加熱状態を緩和することにより、着色や重合等のトラブルを抑制していると考えられる。また、強制循環型熱交換器を採用することで加熱器との接触面が、絶えず循環液で洗い流されて、接触面で液が停滞しないので、着色や重合等のトラブルが減少していると考えられる。さらに、接触面で停滞した液の重合やスケールの付着が防止されることにより、熱交換器の性能が低下しなく、安定的な操業が可能になっているものと思われる。
【0011】
【実施例】以下に、本発明について実施例および比較例を挙げて詳細に説明する。なお、本明細書において用いる留出率及び収率の定義は次のとおりである。
留出率=(留出液中の重合性液体[g])÷(供給液中の重合性液体[g])収率=(留出液及び缶出液中の重合性液体[g])÷(供給液中の重合性液体[g])
【0012】実施例1リボイラーとして総括伝熱係数が200kj/m2/Hr/℃及び伝熱面積が0.5m2のコイル式熱交換器(加熱源にシリコンオイルを使用)を有するオールダーショウ型(棚段)の精留塔、塔頂蒸気凝縮器(コンデンサー)及び塔頂蒸気凝縮液を精留塔塔頂へ還流する装置からなる蒸留装置を用いて、アクリル酸ブチル95.0重量%を含む精留原料を1時間当たり1250g、常温で精留塔の供給口から連続的に供給して減圧蒸留を行った。精留塔が安定したところでの塔底液は110℃であり、加熱源のシリコンオイルの温度を測定したところ約124℃であり、反応液温度と加熱源との温度差Δtは14℃であった。色調(APHA)が5以下の着色がないアクリル酸ブチルが1009g得られた。
実施例2〜5実施例1と同様に表1に示す蒸留装置及び蒸留条件で精留した所、表1に示す結果となった。なお、表1および以下の表2において、重合液(重合性液体の略)の欄におけるBA、HA等の記号は以下の重合性液体を示す。
BA: アクリル酸ブチルHA: アクリル酸2-エチルヘキシルC−1: アクリル酸2-メトキシエチルDM: メタクリル酸ジメチルアミノエチルAA: アクリル酸
【0013】
【表1】


【0014】比較例1実施例1と同様の蒸留装置及び蒸留条件で蒸留を行った。但し、加熱器の伝熱面積は0.2m2のコイル式熱交換器(加熱源にシリコンオイルを使用)に変更した。ポリマーや副生成物の生成により塔底液(フラスコ内の液)は125℃となり、加熱源のシリコンオイルの温度を測定したところ約160℃であり、反応液温度と加熱源との温度差Δtは35℃であった。色調(APHA)が10の若干着色があるアクリル酸ブチルが917g得られた。
比較例2〜5実施例1と同様に表2に示す蒸留装置及び蒸留条件で精留した所、表2に示す結果となった。
【0015】
【表2】


【0016】
【発明の効果】本発明によれば、着色が少ないばかりでなく、重合物の少ない(メタ)アクリル酸エステル等の重合性液体を高純度で安定的な操業下に取得する方法が提供され、本発明が(メタ)アクリル酸エステル等の重合性液体を製造する化学業界およびそれらを取り扱う業界に寄与する効果は非常に大きなものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】重合性液体を蒸留操作により精製するに際して、精留塔底液の加熱を強制循環型熱交換器で行うとともに塔底液温度と加熱源温度の差を30℃以下に抑制することを特徴とする重合性液体の精製方法。

【公開番号】特開平8−134016
【公開日】平成8年(1996)5月28日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−297900
【出願日】平成6年(1994)11月7日
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)