説明

重合性溶液およびアクリル系樹脂発泡体の製造方法

【課題】 環境にやさしいアクリル系樹脂発泡体を製造するアクリル系樹脂発泡体の製造方法を提供すること。
【解決手段】 アクリル系モノマーを含む重合性モノマー成分、尿素、窒素含有化合物からなる還元剤、及び、レドックス系重合開始剤を含有する重合性溶液を作製し、前記重合性モノマー成分を重合させた後、得られた重合体を加熱することによって前記尿素を分解させてアクリル系樹脂発泡体を形成させるアクリル系樹脂発泡体の製造方法であって、前記重合性溶液には、重合させる前記重合性モノマー成分と同一或いは異なる重合性モノマー成分の重合体を発泡させてなるアクリル系樹脂発泡体をさらに含有させることを特徴とするアクリル系樹脂発泡体の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合性溶液およびアクリル系樹脂発泡体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アクリル系樹脂発泡体は、強度に優れるとともに軽量性、断熱性に優れていることから、表面に繊維強化プラスチックス(FRP)を貼り付けて、貨物車両の保冷室の壁材や、小型ボートの船体を構成するための部材として利用されている。この部材を作製する際には、部材よりも大きなアクリル系樹脂発泡体を形成し、スライス加工やスライス加工よりも複雑な切削加工等により該アクリル系樹脂発泡体を所定の形状や寸法に加工することが行われている。
このようなアクリル系樹脂発泡体は、通常、下記特許文献1に示されているように、アクリル系モノマーを含んだ重合性モノマー成分に発泡剤となる尿素と重合開始剤とを混合した重合性溶液を作製し、該重合性溶液を型枠に流し入れ、該型枠ごと加熱して前記重合性モノマー成分を重合させた後、得られた重合体をさらに高温に加熱することによって尿素を分解させてガス発泡させるような方法が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−045256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、斯かる方法で得られたアクリル系樹脂発泡体を加工する際には、アクリル系樹脂発泡体の表皮部分を切り落とす等により端材や切り粉が発生してしまうという問題がある。端材や切り粉は、現状では、サーマルリサイクルされて熱エネルギーとしての回収はなされているものの、マテリアルリサイクルといった環境に対してより望ましいリサイクルがなされていない。
しかも、アクリル系樹脂発泡体を作製するには、重合性モノマー成分を重合させる際に高温で長時間加熱する必要があることから、現状では、アクリル系樹脂発泡体は、環境に対して十分に望ましい方法で作製されているとはいえない。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑み、環境にやさしくアクリル系樹脂発泡体を製造することが出来る重合性溶液、及び、環境にやさしいアクリル系樹脂発泡体を製造するアクリル系樹脂発泡体の製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行い、重合性モノマー成分を重合させるのに際して、該重合性モノマー成分と同一或いは異なる重合性モノマー成分の重合体を発泡させてなるアクリル系樹脂発泡体を存在させることで重合反応が促進されることを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0007】
即ち、上記課題を解決するための本発明に係るアクリル系樹脂発泡体の製造方法は、アクリル系モノマーを含む重合性モノマー成分、尿素、窒素含有化合物からなる還元剤、及び、レドックス系重合開始剤を含有する重合性溶液を作製し、前記重合性モノマー成分を重合させた後、得られた重合体を加熱することによって前記尿素を分解させてアクリル系樹脂発泡体を形成させるアクリル系樹脂発泡体の製造方法であって、前記重合性溶液には、重合させる前記重合性モノマー成分と同一或いは異なる重合性モノマー成分の重合体を発泡させてなるアクリル系樹脂発泡体をさらに含有させることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る重合性溶液は、アクリル系モノマーを含む重合性モノマー成分、尿素、窒素含有化合物からなる還元剤、及び、レドックス系重合開始剤を含有し、前記重合性モノマー成分を重合させた後、得られた重合体を加熱することによって前記尿素を分解させてアクリル系樹脂発泡体を形成させるための重合性溶液であって、重合させる前記重合性モノマー成分と同一或いは異なる重合性モノマー成分の重合体を発泡させてなるアクリル系樹脂発泡体をさらに含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明においては、一旦作製されたアクリル系樹脂発泡体が前記重合性溶液に含有されて、重合性モノマー成分の重合反応が促進される。従って、環境にやさしくアクリル系樹脂発泡体を製造することが出来、従来マテリアルリサイクルされていなかった端材や切り粉等もこの重合反応の促進に利用することができる。
すなわち、本発明によれば従来の重合性溶液を用いる場合に比べてより一層環境にやさしいアクリル系樹脂発泡体を製造し得る。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。
まず、本実施形態に係るアクリル系樹脂発泡体の製造方法について説明する。
【0011】
本実施形態に係るアクリル系樹脂発泡体の製造方法では、まず、重合性モノマー成分と、発泡剤としての尿素とを混合してモノマー溶液を作製する。そして、レドックス系重合開始剤、及び窒素含有化合物からなる還元剤を前記モノマー溶液に混合して混合液を作製する。なお、該混合液を作製する際には、必要に応じて、Cu+、Cu2+、Fe3+、Ag+、Pt2+、及び、Au3+からなる群より選ばれる1種以上の金属イオン、並びに、塩化物イオンを前記モノマー溶液に混合する。次に、アクリル系樹脂発泡体を該混合液に混合して重合性溶液を作製する。そして、該重合性溶液をその流動性が失われるまで重合させて重合体を得、該重合体を加熱することによって前記尿素を分解させてアクリル系樹脂発泡体を形成させる。
重合性溶液に加えるアクリル系樹脂発泡体(以下、添加用発泡体ともいう。)は、該重合性溶液(以下、第1重合性溶液ともいう。)と同じ重合性モノマー成分或いは異なる重合性モノマー成分を含む重合性溶液(以下、第2重合性溶液ともいう。)を重合させた重合体を発泡させたものである。
以下、まず、第1重合性溶液を構成させるための成分について説明する。
【0012】
(アクリル系モノマー)
前記アクリル系モノマーとしては、発泡剤として用いられる前記尿素に対する優れた溶解性を示すことから水溶性のアクリル系モノマーを含有させることが好ましく、(メタ)アクリル酸を用いることが好ましい。
なお、本明細書における“(メタ)アクリル”との用語は、“メタクリル”と“アクリル” の何れか一方又は両方を意味している。
また、(メタ)アクリル酸以外のアクリル系モノマーとしては、該アクリル系モノマーの重合体を発泡させるのに際して優れた発泡性を発揮させ得る点においてメタクリル酸メチルを用いることが好ましい。
(メタ)アクリル酸、メタクリル酸メチル以外のアクリル系モノマーとしては、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、クロトン酸、アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリルアミド、マレイン酸アミド、マレイン酸イミドなどを採用することができる。
【0013】
(アクリル系モノマー以外の重合性モノマー成分)
なお、上記アクリル系モノマーと共重合可能なモノマーをアクリル系樹脂発泡体の改質などを目的として第1重合性溶液に少量含有させることも可能である。
特に、発泡性の向上に有効となるスチレンモノマーを重合性溶液に含有させることが好ましい。
ただし、スチレンモノマーを過剰に含有させると、アクリル系樹脂発泡体の特徴である硬質さを損なうおそれを有することからアクリル系モノマーとスチレンモノマーとの合計に占めるスチレンモノマーの含有量は20質量%以下とすることが好ましい。
【0014】
より具体的には、前記第1重合性溶液は、重合性モノマー成分の内の50〜70質量%がメタクリル酸メチルで、14〜30質量%が(メタ)アクリル酸で、10〜20質量%がスチレンであることが好ましい。
なお、14〜30質量%の割合で含有される(メタ)アクリル酸の内、全てをメタクリル酸としても、全てをアクリル酸としても良く、メタクリル酸とアクリル酸との両方を併せて14〜30質量%となるように重合性溶液に含有させてもよい。
ただし、尿素に対する溶解性の観点からは、メタクリル酸を多く含有させることが好ましい。
このような配合を採用することで、発泡性に優れ、硬質で強度に優れたアクリル系樹脂発泡体を得ることができる。
【0015】
(尿素)
前記尿素は、発泡剤として第1重合性溶液に含有されるもので、該尿素からなる発泡剤の含有量が少ないと、得られるアクリル系樹脂発泡体の発泡度(発泡倍率)が低下して軽量性を損なうおそれを有し、逆に過剰であると、重合性溶液中に尿素を均一に溶解させることが困難となったり、得られるアクリル系樹脂発泡体中に発泡剤を残存させ易くなったり、破泡を生じさせたりするおそれを有する。
このようなことから、尿素は、重合性モノマー成分の合計量を100質量部とした場合に1〜15質量部となる割合で重合性溶液に含有させることが好ましい。
【0016】
(還元剤、重合開始剤)
前記還元剤及び前記重合開始剤としては、N,N−ジメチルアニリンなどの窒素含有化合物を還元剤として用いるとともにt−ブチルハイドロパーオキサイドなどのようなレドックス系重合開始剤を用いることが重要である。
上記N,N−ジメチルアニリン以外の窒素含有化合物で還元剤として利用可能な具体的な物質としては、トリエチルアミンなどのアミン化合物が挙げられる。
また、上記t−ブチルハイドロパーオキサイド以外のレドックス系重合開始剤として利用可能な具体的な物質としては、クメンヒドロキシパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド、p−メンタンヒドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロパーオキサイドなどが挙げられる。
【0017】
前記重合開始剤は、通常、重合性モノマー成分の合計量を100質量部とした場合に、0.1〜5質量部となる割合で重合性溶液に含有され、前記還元剤は、通常、前記重合開始剤の含有量に対して0.5〜5倍の割合で重合性溶液に含有される。
【0018】
(金属イオン、塩化物イオン)
前記金属イオンは、いずれも酸化還元電位が正の値のものである。
また、前記金属イオンは、重合性溶液中で、電子を授与するもの、すなわち酸化剤として、また電子を供与するもの、すなわち還元剤としての機能を発揮し、前記重合性モノマー成分の重合反応の促進に寄与するものである。
一方で前記塩化物イオンは、前記の金属イオンと結合や脱離することにより、前記重合性モノマー成分の重合反応の促進に寄与するものである。
【0019】
上記の金属イオン及び塩化物イオンは、塩化銅、塩化第二鉄、塩化銀、塩化金といった形で同じ物質で両方を一度に重合性溶液に含有させるようにしてもよく別々の物質によって重合性溶液に含有させるようにしてもよい。
上記のような塩化物以外であれば、例えば、臭化銅、ヨウ化銅、ステアリン酸銅、ナフテン酸銅、臭化銀などの物質によって重合性溶液に上記のような金属イオンを含有させることができる。
なお、銅、銀、金については、上記のような塩ではなく、金属そのもの、或いは、合金によってそのイオンを重合性溶液に含有させることができる。
例えば、銅、銅合金(コンスタンタン:銅/ニッケル合金、真鍮:銅/亜鉛合金)、銀、金からなる微粒子、線、メッシュなどを重合性溶液中に混入させることによってこれらのイオンを重合性溶液に含有させることができる。
【0020】
なお、塩化物イオンを重合性溶液に含有させるための具体的な物質としては、例えば、塩化ナトリウム、塩酸などの他に、1,3−ジメチルイミダゾリウムクロライド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムクロライド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−メチル−3−n−オクチルイミダゾリウムクロライド、1−メチル−1−ヒドロキシエチル−2−牛脂アルキル−イミダゾニウムクロライドなどのイミダゾリウム塩型の界面活性剤、ヘキサトリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ヤシアルキルトリメチルアンモニウムクロライド、牛脂アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジアルキルジメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライドなどの第4級アンモニウム塩型の界面活性剤などが挙げられる。
【0021】
なお、塩化物イオンを重合性溶液に含有させるための具体的な物質としては、塩化ナトリウム、塩酸、及び、ヘキサトリメチルアンモニウムクロライド、ジアルキルジメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライドのいずれかであることが好ましく、特に、セチルトリメチルアンモニウムクロライドを採用することが好ましい。
これらの塩化物イオン含有物質を第1重合性溶液に含有させる場合には、通常、重合性溶液中の重合性モノマー成分の合計量を100質量部とした場合に0.005〜5質量部となる割合で含有させることができる。
【0022】
また、前記金属イオンを第1重合性溶液に含有させるための具体的な物質としては、塩化銀、塩化銅、ステアリン酸銅、ナフテン酸銅、塩化第二鉄、又は、銅(銅粒子や銅線)が好ましい。
これらを重合性溶液に含有させる場合には、通常、重合性溶液中の重合性モノマー成分の合計量を100質量部とした場合に1×10-6〜1×10-2質量部となる割合で含有させることができる。
【0023】
なお、前記第1重合性溶液は、脱水剤や重合抑制剤をさらに含有してもよい。
該脱水剤としては、硫酸ナトリウムや硫酸マグネシウム等の硫酸塩、ゼオライト(モレキュラーシーブ)などを挙げることができ、このような脱水剤の第1重合性溶液における含有量は、例えば、第1重合性溶液中の重合性モノマー成分の合計量を100質量部とした場合に0.01〜1質量部となる割合で含有させることができる。このような脱水剤は第1重合性溶液の調整時に混合攪拌して溶液中の水分を脱水した後、ろ過除去されることが望ましい。前記第1重合性溶液は、脱水剤を含有することにより、得られる重合体には気泡が含まれ難くなり、その結果、該重合体の発泡力が向上され、得られるアクリル系樹脂発泡体が高発泡倍率となりやすくなるという利点がある。
また、前記重合抑制剤としては、アルカリ土類金属塩、即ち、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウムの塩であって、例えば、ギ酸カルシウムなどを挙げることができ、このような重合抑制剤の第1重合性溶液における含有量は、例えば、第1重合性溶液中の重合性モノマー成分の合計量を100質量部とした場合に0.002〜0.2質量部となる割合で含有させることができる。前記第1重合性溶液は、重合抑制剤を含有することにより、重合性モノマー成分を重合させた際に、過剰に重合してしまうのを抑制することができるという利点がある。
【0024】
なお、前記第1重合性溶液は、気泡調整剤などをさらに含有してもよく、該気泡調整剤としては、例えば、アルカリ土類金属塩、金属酸化物、珪藻土などの粉末状無機物、無水硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0025】
(添加用発泡体)
前記第1重合性溶液に含有される添加用発泡体は、第1重合性溶液に含まれる重合性モノマー成分と同一のモノマーを同じ組成割合で含有する重合性モノマー成分、或いは第1重合性溶液に含まれる重合性モノマー成分と異なる重合性モノマー成分の重合体を発泡して得られるアクリル系樹脂発泡体である。
【0026】
また、前記添加用発泡体としては、大きいと重合性モノマー成分への溶解に長時間を要したり、均一に溶解され難くなるので、10mm角以下のものが好ましく、5mm角以下のものがより好ましく、1mm角以下のものがさらに好ましい。
なお、貨物車両の保冷室の壁材や、小型ボートの船体を構成するための部材を作製する際には、部材よりも大きなアクリル系樹脂発泡体を形成し、スライス加工等により該アクリル系樹脂発泡体を所定の形状や寸法に加工することが行われているが、前記添加用発泡体としては、このような加工の際に発生する端材や切り粉などを用いることができる。該端材や切り粉は、大きさが小さいことから、破砕せずとも、重合性モノマー成分に溶解させやすいという利点がある。また、端材や切り粉は、破砕しないでそのまま使用し得ることから、破砕するためのエネルギーを抑制でき、更に、破砕するための設備を用意する必要もなくなるという利点もある。
【0027】
前記添加用発泡体は、重合性モノマー成分の合計量を100質量部とした場合に、好ましくは0.1〜20質量部、より好ましくは1〜15質量部、さらにより好ましくは5〜10質量部となる割合で第1重合性溶液に含有される。
前記第1重合性溶液は、重合性モノマー成分の合計量100質量部に対して前記添加用発泡体が20質量部以下であることにより、該添加用発泡体が重合性モノマー成分に均一に溶解されやすくなるという利点がある。また、前記第1重合性溶液は、重合性モノマー成分の合計量100質量部に対して前記添加用発泡体が0.1質量部以上であることにより、第1重合性溶液中の重合性モノマー成分の重合が促進されるという利点がある。
【0028】
次に、前記添加用発泡体を形成させるための第2重合性溶液について説明する。
前記添加用発泡体としては、アクリル系モノマーを含む重合性モノマー成分、尿素、窒素含有化合物からなる還元剤、及び、レドックス系重合開始剤を含有する第2重合性溶液を作製し、前記重合性モノマー成分を重合させた後、得られた重合体を加熱することによって前記尿素を分解させることにより得られるアクリル系樹脂発泡体を用いることが好ましい。該第2重合性溶液は、Cu+、Cu2+、Fe3+、Ag+、Pt2+、及び、Au3+からなる群より選ばれる1種以上の金属イオンと塩化物イオンとをさらに含有することが好ましい。
前記添加用発泡体を作製するためのアクリル系モノマーとしては、発泡剤として用いられる前記尿素に対する優れた溶解性を示すことから水溶性のアクリル系モノマーを含有させることが好ましく、(メタ)アクリル酸を用いることが好ましい。
また、(メタ)アクリル酸以外のアクリル系モノマーとしては、該アクリル系モノマーの重合体を発泡させるのに際して優れた発泡性を発揮させ得る点においてメタクリル酸メチルを用いることが好ましい。
前記添加用発泡体を作製するためのアクリル系モノマー以外には、スチレンモノマーを用いることが好ましく、アクリル系モノマーとスチレンモノマーとの合計に占めるスチレンモノマーの含有量は20質量%以下とすることが好ましい。
より具体的には、前記添加用発泡体を作製するための第2重合性溶液は、重合性モノマー成分の内の50〜70質量%がメタクリル酸メチルで、14〜30質量%が(メタ)アクリル酸で、10〜20質量%がスチレンであることが好ましい。
前記添加用発泡体を作製するための尿素は、重合性モノマー成分の合計量を100質量部とした場合に1〜15質量部となる割合で第2重合性溶液に含有させることが好ましい。
前記添加用発泡体を作製するための還元剤及び前記重合開始剤としては、N,N−ジメチルアニリンなどの窒素含有化合物を還元剤として用いるとともにt−ブチルハイドロパーオキサイドなどのようなレドックス系重合開始剤を用いることが好ましい。前記重合開始剤は、通常、重合性モノマー成分の合計量を100質量部とした場合に、0.1〜5質量部となる割合で第2重合性溶液に含有され、前記還元剤は、通常、前記重合開始剤の含有量に対して0.5〜5倍の割合で第2重合性溶液に含有される。
前記添加用発泡体を作製するための塩化物イオンを第2重合性溶液に含有させるための具体的な物質としては、塩化ナトリウム、塩酸、及び、ヘキサトリメチルアンモニウムクロライド、ジアルキルジメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライドのいずれかであることが好ましく、特に、セチルトリメチルアンモニウムクロライドを採用することが好ましい。これらの塩化物イオン含有物質を第2重合性溶液に含有させる場合には、通常、第2重合性溶液中の重合性モノマー成分の合計量を100質量部とした場合に0.005〜5質量部となる割合で含有させることができる。
前記添加用発泡体を作製するための金属イオンを第2重合性溶液に含有させるための具体的な物質としては、塩化銀、塩化銅、ステアリン酸銅、ナフテン酸銅、塩化第二鉄、又は、銅(銅粒子や銅線)が好ましい。これらを第2重合性溶液に含有させる場合には、通常、第2重合性溶液中の重合性モノマー成分の合計量を100質量部とした場合に1×10-6〜1×10-2質量部となる割合で含有させることができる。
なお、前記添加用発泡体を作製するための第2重合性溶液は、脱水剤や重合抑制剤をさらに含有してもよく、気泡調整剤などをさらに含有してもよい。
【0029】
本実施形態のアクリル系樹脂発泡体の製造方法は、上記のように構成されているので、以下の利点を有するものである。
即ち、本実施形態に係るアクリル系樹脂発泡体の製造方法では、重合させる前記重合性モノマー成分と同一或いは異なる重合性モノマー成分の重合体を発泡させてなるアクリル系樹脂発泡体が第1重合性溶液に含有されることで、重合性モノマー成分の重合反応が促進される。従って、従来マテリアルリサイクルされていなかった端材や切り粉等もこの重合反応の促進に利用することができ、環境にやさしいアクリル系樹脂発泡体を製造することが出来る。
【実施例】
【0030】
以下に、実施例を示して、重合性溶液及びアクリル系樹脂発泡体の製造方法を具体的に説明するが、本発明の重合性溶液及びアクリル系樹脂発泡体の製造方法は以下に例示の方法に限定されるものではない。
【0031】
(重合性溶液に含有させるアクリル系樹脂発泡体の切り粉及び端材の製造)
メタクリル酸メチル61.5質量%、メタクリル酸23質量%、及び、スチレン15.5質量%からなる重合性モノマー成分100質量部に、発泡剤としての尿素を5質量部混合し、且つ、均一に溶解させてモノマー溶液を作製した。
該モノマー溶液に、前記重合性モノマー成分100質量部に対して、重合開始剤としてt−ブチルヒドロパーオキサイドを0.48質量部、還元剤としてN,N−ジメチルアニリンを0.48質量部、塩化物イオン添加用物質として塩化セチルトリメチルアンモニウムを0.1質量部、金属イオン(Cu2+)添加用物質としてステアリン酸銅(II)を0.001質量部さらに加え重合性溶液を作製した。
【0032】
この重合性溶液800gを2.5cm×10cm×30cmの内法を有するガラス製の直方体状の型枠に入れた。
該型枠を30℃の恒温槽に入れて恒温槽内の水の温度を30℃から50℃に徐々に上げ、50℃で24時間加熱して重合体を得た。
そして、その後、この重合体を発泡用の型枠に入れ、該型枠を170℃に温度設定された熱風循環炉に入れて50分間加熱し、発泡剤(尿素)を分解、発泡させて、厚さ7.3cm×幅44cm×長さ88cmで嵩密度0.048g/cm3のアクリル系樹脂発泡体を作製した。
次に、該アクリル系樹脂発泡体を切削加工して発生した切り粉や端材を、実施例及び比較例のアクリル系樹脂発泡体を作製する際に用いるための切り粉、約1mm角の端材、及び約15mm角の端材とした。
【0033】
(実施例1)
メタクリル酸メチル61.5質量%、メタクリル酸23質量%、及び、スチレン15.5質量%からなる重合性モノマー成分100質量部に、発泡剤としての尿素を5質量部混合し、且つ、均一に溶解させてモノマー溶液を作製した。
該モノマー溶液に、前記重合性モノマー成分100質量部に対して、重合開始剤としてt−ブチルヒドロパーオキサイドを0.48質量部、還元剤としてN,N−ジメチルアニリンを0.48質量部、塩化物イオン添加用物質として塩化セチルトリメチルアンモニウムを0.1質量部、金属イオン(Cu2+)添加用物質としてステアリン酸銅(II)を0.001質量部さらに加え混合液を作製した。
そして、この混合液に、前記重合性モノマー成分100質量部に対して、前記切り粉5質量部をアクリル系樹脂発泡体として攪拌混合し、且つ、均一に溶解させて重合性溶液を作製した。
【0034】
この重合性溶液800gを2.5cm×10cm×30cmの内法を有するガラス製の直方体状の型枠に入れた。
この重合性溶液は、常温(30℃)で42時間放置したところ、重合して流動性が見られない状態になっており、触っても液状の付着物が見られず十分に硬化されている状態になっていた。このようにして得られた重合体は、薄黄色となっていた。
そして、その後、該重合体を発泡用の型枠に入れ、該型枠を170℃に温度設定された熱風循環炉に入れて50分間加熱し、発泡剤(尿素)を分解、発泡させたところ、嵩密度0.058g/cm3の薄黄色のアクリル系樹脂発泡体を得ることができた。
一方、前記重合性溶液800gを2.5cm×10cm×30cmの内法を有するガラス製の直方体状の型枠に入れ、この重合性溶液を30℃の恒温槽に入れて恒温槽内の水の温度を30℃から50℃に徐々に上げ、50℃で20時間放置したところ、重合して流動性が見られない状態になっており、触っても液状の付着物が見られず十分に硬化されている状態になっていた。このようにして得られた重合体は、薄黄色となっていた。
そして、その後、該重合体を発泡用の型枠に入れ、該型枠を170℃に温度設定された熱風循環炉に入れて50分間加熱し、発泡剤(尿素)を分解、発泡させたところ、嵩密度0.058g/cm3の薄黄色のアクリル系樹脂発泡体を得ることができた。
【0035】
(実施例2)
前記混合液に、前記重合性モノマー成分100質量部に対して、前記切り粉10質量部をアクリル系樹脂発泡体として混合したこと以外は、実施例1と同様にして、重合性溶液を作製した。
この重合性溶液800gを2.5cm×10cm×30cmの内法を有するガラス製の直方体状の型枠に入れた。
この重合性溶液は、常温(30℃)で42時間放置したところ、重合して流動性が見られない状態になっており、触っても液状の付着物が見られず十分に硬化されている状態になっていた。このようにして得られた重合体は、薄黄色となっていた。
そして、その後、該重合体を発泡用の型枠に入れ、該型枠を170℃に温度設定された熱風循環炉に入れて50分間加熱し、発泡剤(尿素)を分解、発泡させたところ、嵩密度0.050g/cm3の薄黄色のアクリル系樹脂発泡体を得ることができた。
一方、前記重合性溶液800gを2.5cm×10cm×30cmの内法を有するガラス製の直方体状の型枠に入れ、この重合性溶液を30℃の恒温槽に入れて恒温槽内の水の温度を30℃から50℃に徐々に上げ、50℃で20時間放置したところ、重合して流動性が見られない状態になっており、触っても液状の付着物が見られず十分に硬化されている状態になっていた。このようにして得られた重合体は、薄黄色となっていた。
そして、その後、該重合体を発泡用の型枠に入れ、該型枠を170℃に温度設定された熱風循環炉に入れて50分間加熱し、発泡剤(尿素)を分解、発泡させたところ、嵩密度0.050g/cm3の薄黄色のアクリル系樹脂発泡体を得ることができた。
【0036】
(実施例3)
前記切り粉の代わりに、前記端材(1mm角)をアクリル系樹脂発泡体として用いたこと以外は、実施例1と同様にして、重合性溶液を作製した。
この重合性溶液800gを2.5cm×10cm×30cmの内法を有するガラス製の直方体状の型枠に入れた。
この重合性溶液は、常温(30℃)で42時間放置したところ、重合して流動性が見られない状態になっており、触っても液状の付着物が見られず十分に硬化されている状態になっていた。このようにして得られた重合体は、薄黄色となっていた。
そして、その後、該重合体を発泡用の型枠に入れ、該型枠を170℃に温度設定された熱風循環炉に入れて50分間加熱し、発泡剤(尿素)を分解、発泡させたところ、嵩密度0.060g/cm3の薄黄色のアクリル系樹脂発泡体を得ることができた。
一方、前記重合性溶液800gを2.5cm×10cm×30cmの内法を有するガラス製の直方体状の型枠に入れ、この重合性溶液を30℃の恒温槽に入れて恒温槽内の水の温度を30℃から50℃に徐々に上げ、50℃で20時間放置したところ、重合して流動性が見られない状態になっており、触っても液状の付着物が見られず十分に硬化されている状態になっていた。このようにして得られた重合体は、薄黄色となっていた。
そして、その後、該重合体を発泡用の型枠に入れ、該型枠を170℃に温度設定された熱風循環炉に入れて50分間加熱し、発泡剤(尿素)を分解、発泡させたところ、嵩密度0.060g/cm3の薄黄色のアクリル系樹脂発泡体を得ることができた。
【0037】
(実施例4)
金属イオン(Cu2+)添加用物質としてのステアリン酸銅(II)を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、重合性溶液を作製した。
この重合性溶液800gを2.5cm×10cm×30cmの内法を有するガラス製の直方体状の型枠に入れて、常温(30℃)で42時間放置しても十分に硬化していなかった。
一方、前記重合性溶液の入った型枠を30℃の恒温槽に入れて恒温槽内の水の温度を30℃から50℃に徐々に上げ、50℃で40時間加熱したところ、重合性溶液が重合して流動性が見られない状態になっており、触っても液状の付着物が見られず十分に硬化されている状態になっていた。このようにして得られた重合体は、薄黄色となっていた。
そして、その後、170℃に温度設定された熱風循環炉に該重合体を入れて50分間加熱し、発泡剤(尿素)を分解、発泡させたところ、嵩密度0.35g/cm3の薄黄色のアクリル系樹脂発泡体を得ることができた。
【0038】
(比較例1)
実施例1と同様にして作製した混合液800gを、アクリル系樹脂発泡体としての切り粉と混合せずに、重合性溶液として2.5cm×10cm×30cmの内法を有するガラス製の直方体状の型枠に入れ、常温(30℃)で42時間放置したところ、この重合性溶液は十分に硬化しなかった。
一方、前記重合性溶液の入った型枠を30℃の恒温槽に入れて恒温槽内の水の温度を30℃から50℃に徐々に上げ、50℃で24時間加熱したところ、重合性溶液が重合して流動性が見られない状態になっており、触っても液状の付着物が見られず十分に硬化されている状態になっていた。このようにして得られた重合体は、無色透明となっていた。
そして、その後、170℃に温度設定された熱風循環炉に該重合体を入れて50分間加熱し、発泡剤(尿素)を分解、発泡させたところ、嵩密度0.090g/cm3の純白のアクリル系樹脂発泡体を得ることができた。
【0039】
(比較例2)
金属イオン(Cu2+)添加用物質としてのステアリン酸銅(II)を用いなかったこと以外は実施例1と同様にして作製した混合液800gを、アクリル系樹脂発泡体としての切り粉と混合せずに、重合性溶液として2.5cm×10cm×30cmの内法を有するガラス製の直方体状の型枠に入れ、常温(30℃)で42時間放置したところ、この重合性溶液は十分に硬化しなかった。
また、前記重合性溶液の入った型枠を30℃の恒温槽に入れて恒温槽内の水の温度を30℃から50℃に徐々に上げ、50℃で40時間加熱したが、この重合性溶液は十分に硬化しなかった。
【0040】
実施例及び比較例の結果を表1〜3にまとめて示す。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
表1に示すように、本発明の範囲内である実施例1〜3の重合性溶液は、ステアリン酸銅を同量含有するがアクリル系樹脂発泡体を含有しない比較例1に比して、常温(30℃)という低温でも硬化できた。また、本発明の範囲内である実施例4の重合性溶液は、実施例4と同様にステアリン酸銅を同量含有しないが、実施例4と異なりアクリル系樹脂発泡体を含有しない比較例2に比して、50℃という低温でも硬化できた。
以上のことからも、本発明によれば、重合反応が促進されることがわかる。
【0044】
【表3】

【0045】
表3に示すように、実施例1〜3の重合性溶液は、金属イオン(Cu2+)添加用物質としてのステアリン酸銅を含有しない実施例4と比較すると、常温(30℃)という低温でも硬化できた。
このことから、重合性溶液は、金属イオンを含有することが好ましいことがわかる。
【0046】
なお、前記混合液に、前記重合性モノマー成分100質量部に対して、前記切り粉25質量部を混合した以外は、実施例1と同様にして、重合性溶液を作製しようとしたところ、前記切り粉を前記重合性モノマー成分に溶解させるのに時間がかかってしまった。このことから、前記重合性モノマー成分100質量部に対する切り粉の量は、20質量部以下にすることが好ましいことがわかる。
また、前記切り粉の代わりに、前記端材(15mm角)をアクリル系樹脂発泡体として用いたこと以外は、実施例1と同様にして、重合性溶液を作製しようとしたところ、15mm角の端材を前記重合性モノマー成分に溶解させるのに時間がかかってしまった。このことから、端材としては、10mm角以下のものを用いることが好ましいことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系モノマーを含む重合性モノマー成分、尿素、窒素含有化合物からなる還元剤、及び、レドックス系重合開始剤を含有する重合性溶液を作製し、前記重合性モノマー成分を重合させた後、得られた重合体を加熱することによって前記尿素を分解させてアクリル系樹脂発泡体を形成させるアクリル系樹脂発泡体の製造方法であって、
前記重合性溶液には、重合させる前記重合性モノマー成分と同一或いは異なる重合性モノマー成分の重合体を発泡させてなるアクリル系樹脂発泡体をさらに含有させることを特徴とするアクリル系樹脂発泡体の製造方法。
【請求項2】
前記重合性溶液には、Cu+、Cu2+、Fe3+、Ag+、Pt2+、及び、Au3+からなる群より選ばれる1種以上の金属イオンと塩化物イオンとをさらに含有させる請求項1記載のアクリル系樹脂発泡体の製造方法。
【請求項3】
アクリル系モノマーを含む重合性モノマー成分、尿素、窒素含有化合物からなる還元剤、及び、レドックス系重合開始剤を含有し、前記重合性モノマー成分を重合させた後、得られた重合体を加熱することによって前記尿素を分解させてアクリル系樹脂発泡体を形成させるための重合性溶液であって、
重合させる前記重合性モノマー成分と同一或いは異なる重合性モノマー成分の重合体を発泡させてなるアクリル系樹脂発泡体をさらに含有することを特徴とする重合性溶液。

【公開番号】特開2013−75935(P2013−75935A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214914(P2011−214914)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】