説明

重質炭化水素流をジェット生成物にアップグレードする方法

重質炭化水素供給原料をアップグレードする方法であって、ある触媒を唯一の触媒として含有する反応器システム内で水素存在下に、重質炭化水素供給原料を触媒と前記接触させるステップを含み、触媒は、沈殿又はコゲルを形成するために、少なくとも1種の助触媒金属化合物の溶液;少なくとも1種のVIB族金属化合物の溶液;及び、少なくとも1種の有機酸素含有配位子の溶液を反応条件で混合することにより得られる触媒前駆体の硫化により調製され、それによって燃料生成物を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、35USC120のもとで、2007年10月31日の申請日を有する米国特許仮出願第11/932,751号明細書の利益を主張する。本出願は、前述の仮出願について優先権及び利益を主張し、その開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、芳香族化合物を含む炭化水素原料が、少なくとも1種のVIII族金属及び少なくとも1種のVIB族金属を含む触媒組成物の存在下で水素と接触される水素化転換法に関する。特に、本発明は、単一触媒系を用いて、重質炭化水素質の原料をジェット生成物に転換する方法を対象とする。
【背景技術】
【0003】
FCCの軽質循環油(「LCO」)、中質循環油(「MCO」)及び重質循環油(「HCO」)などの重質炭化水素流は、比較的低い価値を有している。通常、そのような炭化水素流は、水素処理及び/又は水素化分解を含む水素化転換によってアップグレードされる。
【0004】
水素処理触媒は当業者に周知である。通常の水素処理触媒は、バルクの支持されていない触媒として、又はより一般的に耐火性酸化物支持体で支持された触媒としてのいずれか、少なくとも1種のVIII族金属成分及び/又は少なくとも1種のVIB族金属成分を含む。VIII族金属成分は、通常、ニッケル(Ni)及び/又はコバルト(Co)などの非貴金属に基づく。VIB族金属成分は、モリブデン(Mo)及びタングステン(W)に基づくものを含む。最も一般に使用される耐火性酸化物支持体材料はシリカ、アルミナ及びシリカアルミナなどの無機酸化物である。従来の水素処理触媒の例は、NiMo/アルミナ、CoMo/アルミナ及びNiW/シリカアルミナである。ある場合には、白金及び/又はパラジウム含有触媒が使用されることがある。
【0005】
水素処理触媒は、通常、芳香族化合物、硫黄化合物及び/又は窒素化合物の含量を低減するために、炭化水素原料が水素と接触される工程で用いられる。通常、芳香族含量の低減が主な目的である水素処理法は、水素添加又は水素化精製法と呼ばれ、一方、硫黄及び/又は窒素分を低減することに主に注目する方法は、それぞれ水素化脱硫と水素化脱窒素と呼ばれる。伝統的に、用語「水素処理」は水素化脱硫と水素化脱窒素を記述するために用いられるが、用語「水素化精製」は芳香族の水素添加を記述するために用いられている。本発明はこの伝統の用語法に従う。通常、水素化分解法は、原料を、分解と脱アルキル化によってナフサ又はガスなどの軽質生成物に、また、非選択的な開環によって低い体積エネルギー密度成分に転換する。水素化分解の1つの欠点は、分解、脱アルキル化及び非選択的な開環により、それがより多くのH2消費を引き起こすことである。本発明は、ジェット規格の要件を満たすだけでなく高い体積エネルギー密度を有するジェット生成物の製造をしつつ、これらの欠点を回避する。
【0006】
本発明は、固定床反応器システムにおいて支持されていない触媒で重質炭化水素供給原料をアップグレードする方法を対象とする。特に、本発明の方法は、重質炭化水素供給原料を高い体積エネルギー密度を有するジェット生成物にアップグレードする方法を対象とする。
【0007】
Marmoは、米国特許第4,162,961号明細書において、水素添加法の生成物が分留され得るような条件下で水素化される循環油を開示している。
【0008】
Myersらは、米国特許第4,619,759号明細書において、複式の触媒床で行われる、残油及び軽質循環油を含む混合物の接触水素処理を開示しており、ここで、供給原料が最初に接触する触媒床の部分はアルミナ、コバルト及びモリブデンを含む触媒を含んでおり、最初の部分を通過した後に、供給原料が通過する触媒床の第2の部分は、モリブデンとニッケルが加えられたアルミナを含む触媒を含む。
【0009】
Kirkerらは、米国特許第5,219,814号明細書において、高度の芳香族性で実質的に脱アルキル化された供給原料が触媒上で水素化分解することによりハイオクタンガソリン及び低硫黄留分に処理される、中圧の水素化分解法を開示しており、ここで、好ましくは、触媒は超安定性Y及びVIII族金属、及びVI族金属を含み、VIII族金属含量の量は、超安定性Y成分の枠組みアルミニウム含量に所定割合で組み込まれている。
【0010】
Kalnesは、米国特許第7,005,057号明細書において、炭化水素質供給原料が高い温度及び圧力で水素化分解され、ディーゼル沸点範囲の炭化水素への転換が得られる、極めて低硫黄のディーゼル燃料の製造のための接触水素化分解法を開示している。
【0011】
Barreらは、米国特許第6,444,865号明細書において、芳香族化合物を含む炭化水素供給原料が、水素の存在下で高温で触媒と接触される方法で用いられる触媒を開示しており、その触媒は酸性担体上で支持された、白金、パラジウム及びイリジウムの1種又は複数から選択される貴金属の0.1から15重量%、2から40重量%のマンガン及び/又はレニウムを含む。
【0012】
Barreらは、米国特許第5,868,921号明細書において、2種の水素処理触媒の積層床上に留出物留分を下方へ通すことにより、一段階で水素処理される炭化水素留出物留分を開示している。
【0013】
Fujukawaらは、米国特許第6,821,412号明細書において、規定された量の白金、パラジウムを含有し、20から40Åの微結晶直径を有する結晶性アルミナを含有する無機酸化物に支持された、ガスオイルの水素処理用の触媒を開示している。また、上記の触媒の存在下、規定された条件で芳香族化合物を含むガスオイルを水素処理する方法が開示されている。
【0014】
Kirkerらは、米国特許第4,968,402号明細書において、高度に芳香族性の炭化水素供給原料からハイオクタンガソリンを製造する一段階の方法を開示している。
【0015】
Brownらは、米国特許第5,520,799号明細書において、留出物原料をアップグレードする方法を開示している。水素化処理触媒は、通常、反応条件下の固定床反応器である反応域に配置され、低い芳香族性のディーゼル及びジェット燃料が製造される。
【0016】
Soledらは、米国特許第6,162,350号明細書において、Ni−Mo−Wを優先的に含むバルク混合金属触媒で炭化水素供給原料をアップグレードする、スラリー水素化処理法を開示している。
【0017】
Haluskaらは、米国特許第6,755,963号明細書において、1種又は複数のVIII族金属及び1種又は複数のVIB族金属を含むバルク混合金属触媒で炭化水素残油供給原料をアップグレードする、スラリー水素化処理法を開示している。
【0018】
Rileyらは、米国特許第6,582,590号明細書において、1種又は複数のVIII族金属及び少なくとも2種のVIB族金属を含むバルク混合金属触媒で炭化水素供給原料をアップグレードする、多段スラリー水素化処理法を開示している。
【0019】
Rileyらは、米国特許第7,229,548号明細書において、1種又は複数のVIII族金属及び少なくとも2種のVIB族金属を含むバルク混合金属触媒を用いて、ナフサ供給原料を約10wppm未満の窒素及び約15wppm未満の硫黄のナフサ生成物にアップグレードする、スラリー水素化処理法を開示している。
【0020】
Rileyらは、米国特許第6,929,738号明細書において、1種又は複数のVIII族金属及び少なくとも2種のVIB族金属を含むバルク混合金属触媒で、多い硫黄分(約3,000ppmより多い硫黄)の留出物を水素化脱硫する2段階スラリー水素化処理法を開示している。
【0021】
Houらは米国特許第6,712,955号明細書において、Rileyらは米国特許第6,783,663号明細書において、1種又は複数のVIII族金属及び少なくとも2種のVIB族金属を含むバルク混合金属触媒で炭化水素供給原料をアップグレードする、スラリー水素化処理法を開示している。
【0022】
Demminらは、米国特許第6,620,313号明細書において、ラフィネート供給原料を水素化処理する多段法で用いられるNi−Mo−W触媒を開示している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の一実施形態において、重質炭化水素供給原料をアップグレードする方法であって、ある触媒を唯一の触媒として含有する反応器システム内で水素存在下に重質炭化水素供給原料を前記触媒と接触させるステップを含み、触媒は一般式:
[(M)(OH)(L)(MVIB
[式中、Aは、アルカリ金属陽イオン、アンモニウム、有機アンモニウム及びホスホニウム陽イオンのうちの少なくとも1つであり、
は少なくとも1種のVIII族金属であり、
Xは少なくとも1種の酸素含有配位子であり、
VIBは少なくとも1種のVIB族金属であり、
:MVIBは、100:1から1:100の原子数比を有する]
の触媒から調製され、それによって、燃料生成物を製造する方法が提供される。
【0024】
本発明の一実施形態において、重質炭化水素供給原料をアップグレードする方法であって、ある触媒を唯一の触媒として含有する反応器システム内で水素存在下に水素化処理する条件で、重質炭化水素供給原料を前記触媒と接触させるステップを含み、触媒は、沈殿又はコゲルを形成するために、少なくとも1種の助触媒金属化合物の溶液;少なくとも1種のVIB族金属化合物の溶液;及び、少なくとも1種の有機酸素含有配位子の溶液を反応条件で混合することにより得られる触媒前駆体の硫化により調製され、それによって燃料生成物を製造する前記方法が提供される。
【0025】
本発明による方法は、単一反応器システムにおいて、より低い価値の炭化水素流からより高品質の生成物への転化率の増加によって炭化水素生産性の向上を達成することができる。
【0026】
本発明の方法は、軽質循環油(LCO)供給原料及びニッケル、モリブデン及びタングステンを含む触媒で実施され、ジェット生成物を製造するのが望ましい。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は様々な修正及び代替形態が可能であるが、その具体的な実施形態は本明細書に詳細に記載される。しかしながら、具体的な実施形態の本明細書における説明は、開示された特定の形態に本発明を限定するようには意図せず、反対に、この意図は、添付された特許請求の範囲によって規定される本発明の精神及び範囲内にある修正、等価物及び代替物をすべて包含することであることを理解されたい。
【0028】
定義
FCC−用語「FCC」は流体接触分解剤(crack−er)、分解すること(crack−ing)又は分解された(crack−ed)を指す。
【0029】
本明細書で使用する「供給原料」と「供給流」という用語は交換可能である。
【0030】
本明細書で使用する「水素化処理」は、選択的な水素化開環を含む、水素添加、水素化精製、水素処理、水素化脱硫、水素化脱窒素、水素化脱金属、水素化脱芳香族、水素化異性化、水素化脱蝋、水素化分解を含むが、これらに限定されない、水素の存在下で行われる任意の方法を意味する。水素化処理及び反応条件のタイプに依存して、水素化処理する生成物は改善された粘度、粘度指数、飽和含量、低温特性、揮発性及び減極、などを示すことができる。
【0031】
エネルギー密度−燃料の燃焼中に放出される燃焼熱を指す。放出された熱の量は、燃焼中に形成された水が蒸気相のままでいるか、又は凝縮して液体になるかに依存する。水が液相に凝縮する場合、水はその過程において気化熱を放棄する。この場合、放出された熱は総燃焼熱と呼ばれる。純燃焼熱は、水が気相(水蒸気)にとどまるので、総燃焼熱より低い。純燃焼熱は、エンジンが蒸気として水を排出するので、燃料を比較するのに適切な値である。純体積エネルギー密度は、体積を基準に燃料の純エネルギー密度を記述し、1ガロン当たりBtuでしばしば与えられ、例えばジェット燃料では1ガロン当たり125,000Btu及びディーゼル燃料では1ガロン当たり130,000Btuである。
【0032】
LHSV−液空間速度を指し、触媒の容積で除した、液体原料の容積流量(すなわち毎時60°Fでの液体原料の容積)であり、hr−1で与えられる。
【0033】
本明細書に引用された周期表は、IUPAC及び米国標準局によって承認された表であり、一例は、2001年10月のLos Alamos国立研究所の化学部門による元素周期表である。
【0034】
用語「VIB族金属」は、元素、化合物又はイオンの形態の、クロム、モリブデン、タングステン及びこれらの組合せを指す。用語「IIB族金属」は、元素、化合物又はイオンの形態の、亜鉛、カドミウム、水銀及びこれらの組合せを指す。用語「IIA族金属」は、元素、化合物又はイオンの形態の、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム及びこれらの組合せを指す。
【0035】
用語「IVA族金属」は元素、化合物又はイオンの形態の、ゲルマニウム、スズ、鉛及びこれらの組合せを指す。用語「VIII族金属」は元素、化合物又はイオンの形態の、鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、レニウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金及びこれらの組合せを指す。
【0036】
本明細書で使用する用語MP、すなわち「助触媒金属」は、少なくとも1種のVIII族金属;少なくとも1種のIIB族金属;少なくとも1種のIIA族金属;少なくとも1種のIVA族金属;異なるIIB族金属の組合せ;異なるIIA族金属の組合せ;異なるIVA,IIA、IIB又はVIII族金属の組合せ;少なくともIIB族金属と少なくともIVA族金属の組合せ;少なくともIIB族金属と少なくともVIII族金属の組合せ;少なくともIVA族金属と少なくともVIII族金属の組合せ;少なくとも1種のIIB族金属と、少なくとも1種のIVA族金属と少なくとも1種のVIII族金属との組合せ;及び、個々の金属がVIII族、IIB族、IIA族及びIVA族金属のうちのいずれかからである少なくとも2種の金属の組合せ、のうちのいずれかを意味する。
【0037】
本明細書で使用する「1種又は複数の」又は「少なくとも1種の」という語句は、X、Y及びZ、又は、X1−Xn、Y1−Yn及びZ1−Znなどのいくつかの元素又は元素の種類に前置きするために用いられる場合、X若しくはY若しくはZから選択される単一元素又は(X1とX2などの)同一の共通の種類から選択される元素の組合せ、並びに(X1、Y2及びZnなどの)異なる種類から選択される元素の組合せを指すように意図される。
【0038】
本明細書で使用する「水素化転換」又は「水素化処理」は、メタン化、水性ガスシフト反応、水素添加、水素処理、水素化脱硫、水素化脱窒素、水素化脱金属、水素化脱芳香族、水素化異性化、水素化脱蝋及び選択的水素化分解を含む水素化分解法を含む、水素の存在下で行われる任意の方法を意味するが、これらに限定されない。水素化処理及び反応条件のタイプに依存して、水素化処理の生成物は改善された粘度、粘度指数、飽和含量、低温特性、揮発性及び減極、などを示すことができる。
【0039】
本明細書で使用する、用語「触媒前駆体」は、少なくとも1種の助触媒金属(例えば、1種又は複数のVIII族金属、1種又は複数のIIB族金属、1種又は複数のIIA族金属、1種又は複数のIVA族金属及びこれらの組合せ)、少なくとも1種のVIB族金属;少なくとも1種のヒドロキシド;及び1種又は複数の有機酸素含有配位子を含み、この化合物は、硫化の後に水素化処理触媒として触媒活性になり得る化合物を指す。
【0040】
本明細書で使用する用語「中性電荷の」は、触媒前駆体が正味の正又は負電荷を有しないということを指す。用語「中性電荷の触媒前駆体」は時には単に「触媒前駆体」と呼ぶことがある。
【0041】
本明細書で使用する、用語「アンモニウム」は、化学式NH4+を有する陽イオン又は有機第四級アミンなどの陽イオンを含有する有機性窒素を指す。
【0042】
本明細書で使用する用語「ホスホニウム」は、化学式PH4+を有する陽イオン、又は有機リンを含有する陽イオンを指す。
【0043】
用語オキソ陰イオンは単量体のオキソ陰イオン及びポリオキソメタレートを指す。本明細書で使用する、用語「混合物」は、2種以上の物質の物理的な組合せを指す。「混合物」は均質又は不均質、及び任意の物理的な状態又は物理的な状態の組合せであってよい。
【0044】
用語「試薬」は、本発明の触媒前駆体の製造に用いることができる原料を指す。金属に関連して用いられるとき、用語「金属」は、試薬が金属形態であるのはなく金属化合物として存在することを意味する。
【0045】
本明細書で使用する用語「カルボン酸塩」は、脱プロトン化又はプロトン化した状態にあるカルボン酸塩又はカルボン酸基を含む任意の化合物を指す。
【0046】
本明細書で使用する用語「配位子」は、「キレート剤」(又はキレーター又はキレート試薬)と交換可能に用いられてもよく、触媒前駆体などのより大きい錯体を形成するVIB族及び/又は助触媒金属などの、金属イオンと結合する添加剤を指す。
【0047】
本明細書で使用する、「有機」という用語は炭素を含有することを意味し、その炭素は生物学的又は非生物学的な起源でもよい。
【0048】
本明細書で使用する、用語「有機酸素含有配位子」は、少なくとも1個の炭素原子、少なくとも1個の酸素原子及び少なくとも1個の水素原子を含む任意の化合物を指し、前記酸素原子は、助触媒金属(単数又は複数)又はVIB族金属イオンに配位するために利用可能な、1個又は複数の電子対を有する。一実施形態において、酸素原子は、反応のpHで負に帯電している。有機酸素含有配位子の例は、カルボン酸、カルボン酸塩、アルデヒド、ケトン、アルデヒドのエノラート形、ケトンのエノラート形、ヘミアセタール及びヘミアセタールのオキソ陰イオンを含むが、これらに限定されない。
【0049】
用語「コゲル」は、水リッチ相を含有する少なくとも2種の金属の水酸化物共沈物(又は沈殿物)を指す。「コゲル化」はコゲル又は沈殿物を形成する過程を指す。
【0050】
A.概観
一実施形態において、本発明は、
(a)少なくとも1種の助触媒金属水酸化物、少なくとも1種のVIB族金属オキソ陰イオン、及び少なくとも1個の酸素を含む配位する配位子を含む触媒前駆体の硫化によって触媒を調製するステップ;及び、
(b)固定床反応器内で水素の存在下で触媒を用いて重質炭化水素供給流を反応させるステップを含む、重質炭化水素をアップグレードする方法を対象とする。
【0051】
B.原料
重質炭化水素供給原料は、ジェット沸点範囲内に沸点範囲を有する生成物にアップグレードされ得る。炭化水素供給原料は、FCCの軽質、中質及び重質循環油;ジェットとディーゼル燃料の留分;コークス生成物;石炭液化油;重油熱分解工程からの生成物;重油水素処理法及び/又は水素化分解からの生成物;粗製油ユニットから分留された直留;又はこれらの混合物を含むFCCの流出液を含み、約250°Fから約1200°F、好ましくは約300°Fから約1000°Fの沸点範囲がある供給原料の大部分を有する。本明細書及び添付された特許請求の範囲で用いられる用語「大部分」は、少なくとも50重量%を意味するものとする。
【0052】
通常、供給原料は、芳香族性の部分、ナフテン部分又は両方ともを含む少なくとも20重量%の環含有炭化水素化合物、3重量%までの硫黄及び1重量%までの窒素を含んでもよい。好ましくは、供給原料は少なくとも40重量%の環含有炭化水素化合物を含んでいてもよい。より好ましくは、供給原料は少なくとも60重量%の環含有炭化水素化合物を含んでいてもよい。
【0053】
C.触媒
本発明の一実施形態において、使用される触媒は、硫化され、それによって本発明のジェット燃料生成物を製造するために用いられる活性な触媒を製造することができる触媒前駆体から調製される。
【0054】
触媒前駆体式:一実施形態において、中性電荷の触媒前駆体組成物は、一般式がAv[(MP)(OH)x(L)n y]z(MVIBO4)である。
【0055】
式中、Aは1種又は複数の1価の陽イオン種である。一実施形態において、Aは、アルカリ金属陽イオン、アンモニウム、有機アンモニウム及びホスホニウム陽イオンの少なくとも1種である。
【0056】
MPは、使用される助触媒金属に依存して+2又は+4のいずれかの酸化状態Pを有する助触媒金属の少なくとも1種である。MPは、VIII族、IIB族、IIA族、IVA族及びこれらの組合せから選択される。MPが少なくとも1種のVIII族金属である一実施形態において、MPは+2の酸化状態Pを有している。
【0057】
Lは1種又は複数の酸素含有配位子である。また、Lは中性又は負電荷を有し、n≦0である。
【0058】
MVIBは、+6の酸化状態を有する少なくとも1種のVIB族金属である。MP:MVIBは100:1から1:100の間の原子数比を有する。v−2+P*z−x*z+n*y*z=0;及び、0≦y≦−P/n;0≦x≦P;0≦v≦2;0≦zである。一実施形態において、Lは、カルボン酸塩、カルボン酸、アルデヒド、ケトン、アルデヒドのエノラート形、ケトンのエノラート形及びヘミアセタール及びこれらの組合せから選択される。一実施形態において、Aは、NH4+、他の第四級アンモニウムイオン、有機ホスホニウム陽イオン、アルカリ金属陽イオン及びこれらの組合せなどの1価陽イオンから選択される。
【0059】
モリブデンとタングステンの両方がVIB族金属として用いられる一実施形態において、モリブデン対タングステン原子数比(Mo:W)は約10:1から1:10の範囲にある。別の実施形態においては、Mo:Wの比は約1:1から1:5の間にある。モリブデンとタングステンがVIB族金属として用いられる実施形態において、中性電荷の触媒前駆体は、式がAv[(MP)(OH)x(L)n y]z(MotWt’O4)である。モリブデンとタングステンがVIB族金属として用いられるなお別の実施形態において、クロムを、(Cr+W):Moが約10:1から1:10の範囲にある比でタングステンの一部又はすべてと置換することができる。別の実施形態において、(Cr+W):Moの比は1:1と1:5の間にある。モリブデン、タングステン及びクロムがVIB族金属である実施形態において、中性電荷の触媒前駆体は、式がAv[(MP)(OH)x(L)n y]z(MotWt’Crt”O4)である。
【0060】
一実施形態において、助触媒金属MPは、酸化状態+2を有するMPのVIII族金属の少なくとも1種であり、触媒前駆体の式はAv[(MP)(OH)x(L)n y]z(MVIBO4)で、(v−2+2z−x*z+n*y*z)=0である。
【0061】
一実施形態において、助触媒金属MPはNi及びCoなど、2種のVIII族金属の混合物である。なお別の実施形態において、MPは、Ni、Co及びFeなど、3種の金属の組合せである。
【0062】
MPが、Zn及びCdなどの2種のIIB族金属の混合物である一実施形態においては、中性電荷の触媒前駆体は式がAv[(ZnaCda’)(OH)x(L)y]z(MVIBO4)である。なお別の実施形態においては、MPがZn、Cd及びHgなどの3種の金属の組合せであり、中性電荷の触媒前駆体は、式がAv[(ZnaCda’Hga’’)(OH)x(L)n y]z(MVIBO4)である。
【0063】
MPがMg及びCaなどの2種のII族金属の混合物である一実施形態においては、中性電荷の触媒前駆体は、式がAv[(Mgb,Cab’)(OH)x(L)n y]z(MVIBO4)である。MPがMg、Ca及びBaなどの3種のIIA族金属の組合せである別の実施形態において、中性電荷の触媒前駆体は、式がAv[(MgbCab’Bab’’)(OH)x(L)n y]z(MVIBO4)である。
【0064】
助触媒金属成分MP:一実施形態において、助触媒金属(MP)化合物は、溶解状態にあり、助触媒金属化合物の全体量は液体に溶け均一溶液を形成している。別の実施形態において、助触媒金属は、固体として一部は存在し、一部分は液体に溶けている。第3の実施形態において、それは完全に固体の状態である。
【0065】
助触媒金属化合物MPは、硝酸塩、水和硝酸塩、塩化物、水和塩化物、硫酸、水和硫酸、ギ酸塩、酢酸塩、次亜リン酸塩及びこれらの混合物から選択される金属塩又は金属塩の混合物であってよい。
【0066】
一実施形態において、助触媒金属MPは、少なくとも部分的に固体状態のニッケル化合物であり、例えば、炭酸ニッケル、水酸化ニッケル、リン酸ニッケル、亜リン酸ニッケル、ギ酸ニッケル、硫化ニッケル、モリブデン酸ニッケル、タングステン酸ニッケル、酸化ニッケルなどの水不溶性ニッケル化合物、ニッケルモリブデン合金、ラネーニッケルなどのニッケル合金、又はこれらの混合物である。
【0067】
一実施形態において、助触媒金属MPは元素、化合物又はイオンの形態の亜鉛、カドミウム、水銀、ゲルマニウム、スズ又は鉛、及びこれらの組合せなどのIIBとVIA族の金属から選択される。なお別の実施形態において、助触媒金属MPは、元素、化合物又はイオンの形態の、Ni、Co、Fe及びこれらの組合せの少なくとも1種をさらに含む。
【0068】
一実施形態において、助触媒金属化合物は、少なくとも部分的に固体状態の亜鉛化合物であり、例えば、炭酸亜鉛、水酸化亜鉛、リン酸亜鉛、亜リン酸亜鉛、ギ酸亜鉛、硫化亜鉛、モリブデン酸亜鉛、タングステン酸亜鉛、酸化亜鉛などの水に溶けにくい亜鉛化合物、亜鉛モリブデン合金などの亜鉛合金である。
【0069】
一実施形態において、助触媒金属はIIA族金属化合物であり、少なくとも部分的に固体の状態のマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウム化合物の群から選択され、例えば、炭酸塩、水酸化物、リン酸塩、亜リン酸塩、硫化物、モリブデン酸塩、タングステン酸塩、酸化物又はこれらの混合物などの水不溶性化合物である。
【0070】
一実施形態において、助触媒金属化合物は、少なくとも部分的に固体の状態にあるスズ化合物であり、例えば、スズ酸、リン酸スズ、ギ酸亜鉛、酢酸スズ、モリブデン酸スズ、タングステン酸スズ、酸化スズなどの水に溶けにくいスズ化合物、スズモリブデン合金などのスズ合金である。
【0071】
VIB族金属成分:
VIB族金属(MVIB)化合物は、固体、部分的に溶解して、又は溶解状態で加えることができる。一実施形態において、VIB族金属化合物はモリブデン、クロム、タングステン成分及びこれらの組合せから選択される。そのような化合物の例としては以下を含むが、これらに限定されない。すなわち、モリブデン、タングステン又はクロムのアルカリ金属、アルカリ土類又はアンモニウムメタラート、(例えばタングステン酸、メタ−、パラ−、ヘキサ−、又はポリタングステン酸アンモニウム、クロム酸アンモニウム、モリブデン酸、イソ−、ペルオキソ−、ジ−、トリ−、テトラ−、ヘプタ−、オクタ−、又はテトラデカモリブデン酸アンモニウム、アルカリ金属へプタモリブデン酸塩、アルカリ金属オルトモリブデン酸塩、又はアルカリ金属イソモリブデン酸塩)、リンモリブデン酸のアンモニウム塩、ホスホツンスチック(phosphotunstic)酸のアンモニウム塩、リンクロム酸のアンモニウム塩、モリブデン(ジ−及びトリ)オキシド、タングステン(ジ−及びトリ)オキシド、クロム又は酸化クロム、モリブデンカーバイド、窒化モリブデン、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸、クロム酸、タングステン酸、Mo−Pヘテロポリ陰イオン化合物、Wo−Siヘテロポリ陰イオン化合物、W−Pヘテロポリ陰イオン化合物、W−Siヘテロポリ陰イオン化合物、Ni−Mo−Wヘテロポリ陰イオン化合物、Co−Mo−Wヘテロポリ陰イオン化合物、又はこれらの混合物であり、固体、部分的に溶解した、又は溶解状態で加えられる。
【0072】
キレート剤(配位子)L:
一実施形態において、触媒前駆体組成物は、500mg/Kgを超えるLD50値(ラットへの一回経口量として)を有する、少なくとも1種の無毒性の有機酸素含有配位子を含む。第2の実施形態において、有機酸素含有配位子Lは700mg/Kgを超えるLD50値を有する。第3の実施形態において、有機酸素含有キレート剤は1000mg/Kgを超えるLD50値を有する。本明細書で使用する用語「無毒性」は、配位子が500mg/Kgを超えるLD50値(ラットへの一回経口量として)を有していることを意味する。本明細書で使用する用語「少なくとも1種の有機酸素含有配位子」は、一部の実施形態において組成物が1種より多い有機酸素含有配位子を有していてもよいことを意味し、いくつかの有機酸素含有配位子は500mg/Kg未満のLD50値を有してもよいが、少なくとも1種の有機酸素含有配位子は500mg/Kgを超えるLD50値を有する。
【0073】
一実施形態において、酸素含有キレート剤Lは、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、シュウ酸、グリオキシル酸、アスパラギン酸、メタンスルホン酸及びエタンスルホン酸などのアルカンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸及びp−トルエンスルホン酸などのアリールスルホン酸及び安息香酸などのアリールカルボン酸などの無毒性有機酸の付加塩の群から選択される。一実施形態において、酸素含有キレート剤Lはマレイン酸(708mg/kgのLD)である。
【0074】
別の実施形態において、無毒性キレート剤Lは、グリコール酸(1950mg/kgのLD50を有する)、乳酸(3543mg/kgのLD50)、酒石酸(7500mg/kgのLD50)、リンゴ酸(1600mg/kgのLD50)、クエン酸(5040mg/kgのLD50)、グルコン酸(10380mg/kgのLD50)、メトキシ酢酸(3200mg/kgのLD50)、エトキシ酢酸(1292mg/kgのLD50)、マロン酸(1310mg/kgのLD50)、コハク酸(500mg/kgのLD50)、フマル酸(10700mg/kgのLD50)、及びグリオキシル酸(3000mg/kgのLD50)の群から選択される。また別の実施形態においては、無毒性キレート剤はメルカプトコハク酸(800mg/kgのLD50)及びチオ−ジグリコール酸(500mg/kgのLD50)を含み、これらに限定されない有機硫黄化合物の群から選択される。
【0075】
さらに別の実施形態において、酸素含有配位子Lは、カルボン酸塩を含有する化合物である。一実施形態において、カルボン酸塩化合物は1種又は複数のカルボン酸塩官能基を含む。なお別の実施形態において、カルボン酸塩化合物は、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、ペンタノアート及びヘキサノアートを含み、これらに限定されないモノカルボン酸塩、及びシュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、グルタル酸塩、アジピン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩又はこれらの組合せを含み、これらに限定されないジカルボン酸を含む。第4の実施形態において、カルボン酸塩化合物はマレイン酸塩を含む。
【0076】
有機酸素含有配位子は、助触媒金属を含有する溶液又は混合物、VIB族金属を含有する溶液又は混合物、又は助触媒金属及びVIB族金属を含有する沈殿物、溶液又は混合物の組合せと混合することができる。有機酸素含有配位子は、有機酸素含有配位子の全量が水などの液体に溶解した溶解状態であってもよい。有機酸素含有配位子は、助触媒金属(単数又は複数)、VIB族金属(単数又は複数)又はこれらの組合せと混合する間、部分的に溶解し部分的に固体の状態であってもよい。
【0077】
水素化処理触媒前駆体を製造する方法:
本調製方法では、様々な反応及び反応工程の要素の相対量、試薬のタイプ、並びに長さ及び苛酷さを制御することによって、触媒前駆体の組成物及び構造を系統的に変えることが可能である。
【0078】
触媒前駆体を形成するのに用いられる試薬の添加の順序は、様々であってもよい。例えば、有機酸素含有配位子は、沈殿又はコゲル化に先立って助触媒金属及びVIB族金属の混合物と混ぜ合わせることができる。有機酸素含有配位子は、助触媒金属の溶液と混合され、次いで、1種又は複数のVIB族金属の溶液に加えることができる。有機酸素含有配位子は、1種又は複数のVIB族金属の溶液と混合され、1種又は複数の助触媒金属の溶液に加えることができる。
【0079】
VIB族/助触媒金属との沈殿物又はコゲルの形成:
本方法の一実施形態において、第1の段階は沈殿又はコゲル化工程であって、助触媒金属成分溶液とVIB族金属成分溶液とを混合物中で反応させ、沈殿物又はコゲルを得る。沈殿又はコゲル化は、助触媒金属化合物及びVIB族金属化合物が沈殿する又はコゲルを形成する温度とpHで行われる。溶液又は少なくとも部分的に溶液の有機酸素含有配位子は、次いで、沈殿物又はコゲルと混ぜ合わせて触媒前駆体の実施形態を形成する。
【0080】
一実施形態において、触媒前駆体が形成される温度は50から−150℃の間にある。水の場合の100℃などの温度が、プロトン性の液体の沸点未満である場合、本方法は大気圧で一般に行われる。この温度より上では、反応はオートクレーブ中などの高圧で一般に行われる。一実施形態において、触媒前駆体は約0から3000psigの間の圧力で形成される。第2の実施形態において、触媒前駆体は約100から1000psigの間の圧力で形成される。
【0081】
混合物のpHは、生成物の所望の特徴に依存して、沈殿又はコゲル化の速度を増加又は減少させるために変えることができる。一実施形態において、混合物は反応工程(単数又は複数)の間、その本来のpHに保たれる。別の実施形態において、pHは約0〜12の間の範囲に維持される。別の実施形態において、pHは約4〜10の間の範囲に維持される。さらなる実施形態において、pHは約7〜10の間の範囲に維持される。反応混合物に塩基又は酸を加える、又は温度上昇で、pHをそれぞれ上げる又は下げる水酸化イオン又はHイオンに分解する化合物を加えることによって、pHを変化させることができる。例としては、尿素、亜硝酸塩、水酸化アンモニウム、無機酸、有機酸、無機塩基及び有機塩基を含む。
【0082】
一実施形態において、助触媒金属成分(単数又は複数)の反応は、水可溶性金属塩、例えば亜鉛、モリブデン、タングステン金属塩を用いて行われる。この溶液は、他の助触媒金属成分(単数又は複数)、例えば、Cd(NO)又は(CHCOCdなどのカドミウム又は水銀化合物、Co(NO又は(CHCOCoなどのコバルト又は鉄化合物を含むVIII族金属成分、及びクロムなどの他のVIB族金属成分(単数又は複数)をさらに含むことができる。
【0083】
一実施形態において、助触媒金属成分(単数又は複数)の反応は、水可溶性のスズ、モリブデン及びタングステン金属塩を用いて行われる。この溶液は、他のIVA族金属成分(単数又は複数)、例えばPb(NO又は(CHCOPbなどの鉛化合物、及びクロム化合物などの他のVIB族金属化合物をさらに含むことができる。
【0084】
この反応は適切な金属塩を用いて遂行され、ニッケル/モリブデン/タングステン、コバルト/モリブデン/タングステン、ニッケル/モリブデン、ニッケル/タングステン、コバルト/モリブデン、コバルト/タングステン又はニッケル/コバルト/モリブデン/タングステンの沈殿物又はコゲルの組合せをもたらす。有機酸素含有配位子は、VIII族及び/又はVIB族金属成分の沈殿又はコゲル化の前又は後に加えることができる。
【0085】
金属前駆物質は、溶液、懸濁液又はこれらの組合せの反応混合物に加えることができる。可溶性塩がそのように加えられると、それらは反応混合物に溶け、続いて、沈殿又はコゲル化する。溶液は、沈殿及び水の蒸発を達成するために場合によって真空下で加熱することができる。
【0086】
沈殿又はコゲル化の後、触媒前駆体は水を除去するために乾燥することができる。乾燥は、大気条件下、又は窒素、アルゴンなどの不活性雰囲気、又は真空下で実施することができる。乾燥は有機成分の除去ではなく、水を除去するのに十分な温度で達成することができる。好ましくは、触媒前駆体の恒量に到達するまで、乾燥は約120℃で実施される。
【0087】
触媒前駆体の特性評価:
中性電荷の触媒前駆体の特性評価は、粉末X線回折(PXRD)、元素分析、表面積測定、平均孔径分布、平均細孔容積を含むが、これらに限定されない、当業者に知られている技術を用いて実施することができる。空隙率と表面積測定はB.E.T.窒素吸着条件の下でBJH分析を用いて実施することができる。
【0088】
触媒前駆体の特徴:
一実施形態において、触媒前駆体は、窒素吸着によって測定して0.05〜5ml/gの平均細孔容積を有している。別の実施形態において、平均細孔容積は0.1〜4ml/gである。第3の実施形態において、平均細孔容積は0.1〜3ml/gである。
【0089】
一実施形態において、触媒前駆体には少なくとも10m/gの表面積がある。第2の実施形態において、触媒前駆体には少なくとも50m/gの表面積がある。第3の実施形態において、触媒前駆体には少なくとも150m/gの表面積がある。
【0090】
一実施形態において、触媒前駆体には窒素吸着によって決定して2〜50ナノメートルの平均孔径がある。第2の実施形態において、触媒前駆体には窒素吸着によって決定して3〜30ナノメートルの平均孔径がある。第3の実施形態において、触媒前駆体には窒素吸着によって決定して4〜15ナノメートルの平均孔径がある。
【0091】
成形方法:
一実施形態において、触媒前駆体組成物は、一般に、意図した商業的使用に依存して直接様々な形状に形成することができる。これらの形状は、押出加工、ペレット化、ビーズ化又は噴霧乾燥などの任意の適切な技術によって製造することができる。バルク触媒前駆体組成物の液体の量が多すぎ成形工程に直接施すことができない場合、固液分離を成形の前に実施することができる。
【0092】
細孔を形成する薬剤の添加
触媒前駆体は、ステリック(steric)酸、ポリエチレングリコールポリマー、炭水化物ポリマー、メタクリル酸エステル及びセルロースポリマーを含むが、これらに限定されない細孔を形成する薬剤と混合することができる。例えば、乾燥触媒前駆体は、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース又は他のセルロースエーテルなどのセルロース含有材料と100:1から10:1(触媒前駆体の重量%対セルロースの重量%)の比で混合することができ、押出成形できるコンシステンシーの混合物が得られるまで水が加えられる。市販の入手可能なセルロース系の細孔を形成する薬剤の例としてmethocel(Dow Chemical Companyから入手可能)、avicel(FMC Biopolymerから入手可能)及びporocel(Porocelから入手可能)を挙げることができるが、これらに限定されない。押出成形できる混合物は、押出加工し、次いで、場合によって乾燥することができる。一実施形態において、乾燥は窒素、アルゴンなどの不活性雰囲気、又は真空下で実施することができる。別の実施形態において、乾燥は、70から200℃の間の高温で実施することができる。なお別の実施形態において、乾燥は120℃で実施される。
【0093】
任意成分−希釈剤:
希釈剤という用語は、バインダーと交換可能に用いられてもよい。
【0094】
一実施形態において、希釈剤は、触媒を製造する方法に、場合によって含まれている。一般に、加えられる希釈剤材料は、(希釈剤のない)触媒前駆体組成物から調製された触媒より触媒活性が少ないか、又はまったく触媒活性がない。したがって、希釈剤を加えることによって、触媒の活性を低減することができる。したがって、一般に、本発明の方法において加えられる希釈剤の量は、最終触媒組成物の所望の活性に依存する。想定した触媒の用途に依存して、全組成物の0〜95重量%の希釈剤量が適切であり得る。
【0095】
希釈剤は、助触媒金属(単数又は複数)、助触媒金属を含有する混合物、VIB族金属(単数又は複数)又は金属を含有する混合物に、同時に又は逐次加えることができる。代替として、助触媒及びVIB族金属混合物はともに混ぜ合わせることができ、続いて、混ぜ合わせた金属混合物に希釈剤を加えることができる。金属混合物の一部を同時に又は逐次混ぜ合わせ、続いて希釈剤を加え、金属混合物の残りを同時に又は逐次最終的に加えることも可能である。さらに、溶質状態の金属混合物と希釈剤を混ぜ合わせて、続いて少なくとも部分的に固体状態の金属化合物を加えることもまた可能である。有機酸素含有配位子は、少なくとも1つの金属含有混合物中に存在する。
【0096】
一実施形態において、希釈剤は、バルク触媒前駆体組成物を用いて合成される前及び/又はその調製の間に加えられる前に、VIB族金属及び/又は助触媒金属を用いて合成される。一実施形態のこれらの金属のいずれかを用いる希釈剤の合成は、これらの材料に固体の希釈剤を含浸することによって行われる。
【0097】
希釈剤材料は、水素化処理触媒前駆体の希釈剤又はバインダーとして、従来適用されている任意の材料を含む。例としては、シリカ、通常のシリカアルミナ、シリカコートされたアルミナ及びアルミナコートされたシリカなどのシリカアルミナ、(偽)ベーマイトなどのアルミナ、又はギブサイト、チタニア、ジルコニア、サポナイト、ベントナイト、カオリン、海泡石又はヒドロタルサイトなどの陽イオン性粘土又は陰イオン性粘土、又はこれらの混合物を含む。一実施形態において、バインダー材料は、シリカ、アルミニウムドープされたコロイド状シリカ、シリカアルミナ、アルミナ、チタニック(titanic)、ジルコニア、又はこれらの混合物から選択される。
【0098】
これらの希釈剤は、そのまま、又は解膠の後に適用することができる。また、上記希釈剤のうちのいずれかに、工程の間に転換される希釈剤の前駆物質を、適用することも可能である。適切な前駆物質は、例えば、(アルミナ希釈剤を得るための)アルカリ金属アルミン酸塩、(シリカ希釈剤を得るための)水ガラス、(シリカアルミナ希釈剤を得るための)アルカリ金属アルミン酸塩及び水ガラスの混合物、(陽イオン性粘土及び/又は陰イオン粘土を調製するための)マグネシウム、アルミニウム及び/又はシリコンの水可溶性塩の混合物などの2、3及び/又は4価金属のソースの混合物、クロロヒドロール、硫酸アルミニウム、又はこれらの混合物である。
【0099】
他の任意成分:
所望の場合、上述の成分に加えて、他の金属を含む他の材料を加えることができる。これらの材料は、従来の水素化処理触媒前駆体の調製の間に加えられる任意の材料を含む。好適例は、リン化合物、ボリウム(borium)化合物、追加の遷移金属、希土類金属、充填材又はこれらの混合物である。適切なリン化合物は、リン酸アンモニウム、リン酸又は有機リン化合物を含む。リン化合物は、工程の任意の段階で加えることができる。工程段階で加えることができる適切な追加の遷移金属は、例えば、レニウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、クロム、バナジウム、鉄、コバルト、白金、パラジウム、及びコバルトを含む。一実施形態において、追加の金属は、水不溶性化合物の形態で適用される。別の実施形態において、追加の金属は水溶解性化合物の形態で加えられる。工程の間でこれらの金属を加えることとは別に、最終の触媒前駆体組成物を任意の材料を用いて合成することもまた可能である。例えば、これらの追加の材料のうちのいずれかを含む含浸溶液に、最終の触媒前駆体組成物を含浸させることが可能である。
【0100】
硫化剤成分:
一般式A[(MVIII)(OH)(L)(MVIB)の中性電荷の触媒前駆体を、硫化して活性な触媒を形成することができる。一実施形態において、硫化剤は溶液の形態をしており、一般的条件下で、硫化水素に分解可能である。一実施形態において、硫化剤は、触媒前駆体から硫化触媒を形成するのに必要とされる化学量論量より多い量が存在する。別の実施形態において、触媒前駆体から硫化触媒を製造するために、硫化剤の量は、少なくとも3から1の硫黄対VIB族金属モル比を表す。
【0101】
一実施形態において、硫化剤は、硫化アンモニウム、多硫化アンモニウム((NH)、チオ硫酸アンモニウム((NH)、チオ硫酸塩(Na)、チオ尿素CSN、二硫化炭素、ジメチルジスルフィド(DMDS)、硫化ジメチル(DMS)、tert−ブチル多硫化物(PSTB)及びtert−ノニル多硫化物(PSTN)などの群から選択される。別の実施形態において、硫化剤は、アルカリ及び/又はアルカリ土類金属硫化物、アルカリ及び/又はアルカリ土類金属水素硫化物、及びこれらの混合物から選択される。アルカリ及び/又はアルカリ土類金属を含む硫化剤の使用には、使用済みの触媒からアルカリ及び/又はアルカリ土類金属を除去する追加の分離工程段階を必要とする場合がある。
【0102】
一実施形態において、硫化剤は硫化アンモニウム水溶液であり、この水溶性硫化アンモニウム溶液は硫化水素とアンモニアの精油所オフガスから合成することができる。この合成された硫化アンモニウムは、水に易溶性で、使用に先立ってタンクに水溶液で容易に保存することができる。硫化アンモニウム溶液が残油より密であるので、それは、反応の後に沈降槽中で容易に分離することができる。
【0103】
硫化剤は、押出の間又は前に触媒前駆体と混合された元素硫黄であり得る。元素硫黄は触媒前駆体と共押出加工することができ、水素処理中インサイチューで活性な触媒を形成する。
【0104】
一実施形態において、炭化水素供給原料は触媒前駆体の硫化を実施する硫黄のソースとして用いられる。炭化水素供給原料による触媒前駆体の硫化は、水素処理中1基又は複数の水素処理反応器中で実施することができる。
【0105】
硫化工程:
触媒を形成する触媒前駆体の硫化は、水素処理反応器の中に触媒を導入する前に、又は反応器内でインサイチューで実施することができる。一実施形態において、触媒前駆体は、70℃から500℃の温度で、10分から5日、及びH含有ガスの圧力の下で、硫化剤と接触させ、活性な触媒に転換される。硫化温度が硫化剤(硫化アンモニウム溶液の場合の60〜70℃などの)の沸点未満である場合、工程は一般に大気圧で行われる。硫化剤/任意成分の沸点より上では、反応は、一般に、オートクレーブ内などの高圧で行われる。
【0106】
一実施形態において、硫化は、室温から400℃の範囲の温度で、1/2時間から24時間行われる。別の実施形態において、硫化は150℃から300℃である。なお別の実施形態において、硫化は圧力下で300〜400℃の間である。第4の実施形態において、硫化は、チオダゾール(thiodazole)、チオ酸、チオアミド、チオシアナート、チオエステル、チオフェノール、チオセミカルバジド、チオ尿素、メルカプトアルコール及びこれらの混合物の群から選択される少なくとも1種の硫黄添加剤の存在下で、0から50℃の間の温度で水性硫化アンモニウム溶液が用いられる。
【0107】
本発明の一実施形態において、本発明の触媒は、例えばシリカ、アルミナ、マグネシア、チタニアなど、及びこれらの混合物などの耐火金属酸化物材料などの追加の構造支持材料を場合によって含むことができる。構造支持体は、例えばモノリス、球体、又は中空円筒を含む任意の形態であってもよい。より具体的には、金属酸化物材料は、アルミナ、シリカ、シリカアルミナ、ケイ酸塩、アルミノケイ酸塩、マグネシア、ゼオライト、活性炭、酸化チタン、酸化トリウム、粘土及びこれらの支持体の任意の組合せなどの「支持体」を含むことができる。本発明の一実施形態において、好ましくは、本発明の触媒は、50重量%から95重量%の間の構造支持体を含有することができる。本発明の一実施形態において、好ましい支持体はジルコニアであった。
【0108】
D.工程条件及び設備
一実施形態において、固定床反応器システム内で、水素の存在下、触媒を用いて重質炭化水素供給流を反応させる。固定床反応器システムは少なくとも1基の反応器を含む。さらに、1基より多い反応器は、直列若しくは並列、又は、両方のいずれかで使用することができる。使用される各反応器は、本明細書に記載された触媒を用いる。VIII族及びVIB族金属成分及び比の最適化によって、本発明の方法において用いられるこれらの触媒は、1基の反応器に配置して、1基の反応器内でLCOを直接ジェット生成物に転換することができる。
【0109】
反応域は、固定床の触媒を含む。重質炭化水素供給流は反応域に供給され、反応域は約300°Fから約900°Fの温度を有しており、それによって反応生成物を生成する。好ましい実施形態において、供給流はLCOであり、反応生成物はジェット燃料生成物である。
【0110】
通常、炭化水素供給原料の接触は供給原料が触媒と接触する反応器内で起こる。この反応は、100psigから3000psigの範囲の圧力、0.1から10hr−1の範囲の炭化水素供給LHSV(液空間速度)、及び約400〜20,000のSCF/bblの範囲の水素と炭化水素の比で起こる。炭化水素供給原料のより高い転化率が望ましい場合、工程は、未転換の供給原料を含んでいてもよい生成物の少なくとも一部を回収する分離ステージを場合によって含む。次に、生成物流の少なくとも一部は、場合によって、反応器システムに再利用される。触媒がコークス堆積物又は他の毒物によって失活させられた場合、触媒活性は再生によって若返らせることができる。再生のために適する方法は当業者に知られている。
【0111】
上記の条件で炭化水素供給を処理することによって、実質的にほとんどの硫黄及び窒素化合物を除去し、部分的に芳香族化合物を水素添加することができる。その結果、最終的に25%未満の芳香族含量を与え、硫黄と窒素が低含有量で、ジェット燃料規格内の炭化水素生成物を提供する。より具体的には、創造性のあるこの方法は、硫黄の量を約15wppm未満、より好ましくは約10wppm、最も好ましくは約5wppm未満に低下させることができる。また、これは窒素の量を、約10wppm未満、より好ましくは約5wppm未満、及び最も好ましくは約1wppm未満に低下させることができる。
【0112】
E.生成物
本発明において使用される方法は、重質炭化水素供給原料をジェット燃料生成物にアップグレードする。用いられる本方法は、少なくとも125,000Btu/galより大きい純燃焼熱を有するジェット燃料生成物を製造し、好ましくは純燃焼熱は少なくとも127,000Btu/gal、より好ましくは128,500Btu/gal、さらに好ましくは129,500Btu/galより大きいことが見出だされた。さらに、この生成物はジェット燃料の規格を満たす。とりわけ、生成物はジェット燃料の−40℃未満の凝固点を有する。生成物は18mmを超える煙点を有する。生成物は、摂氏−20度で8cSt未満の粘度を有する。生成物は、摂氏−20度で0.840g/cc未満の密度を有する。
【0113】
他の実施形態は当業者にとって明白であろう。
【実施例】
【0114】
以下の例は本発明の具体的な実施形態を説明するために示され、決して本発明の範囲を限定するように解釈されるべきではない。
【0115】
(例1.触媒前駆体形成)
式(NH{[Ni2.6(OH)2.08(C2−0.06](Mo0.350.65}の触媒前駆体を以下のように調製した。52.96gのへプタモリブデン酸アンモニウム(NHMo24・4HOを室温で2.4Lの脱イオン(DI)水に溶かした。結果として生じる溶液のpHは5〜6の範囲内にあった。次いで、73.98gのメタタングステン酸アンモニウム粉末を上記の溶液に加え、完全に溶けるまで室温で撹拌した。90mlの濃厚な(NH)OHを一定の撹拌をしながらこの溶液に加えた。結果として生じるモリブデン酸塩/タングステン酸塩溶液を10分間撹拌し、pHを監視した。この溶液は9〜10の範囲のpHを有していた。150mlの脱イオン水に溶かして174.65gのNi(NO・6HOを含有する第2の溶液を調製し、90℃に熱して、それによって、高温のニッケル溶液を作り、次いで、モリブデン酸塩/タングステン酸塩溶液に1時間にわたりゆっくり加えた。結果として生じる混合物を91℃に加熱し、さらに30分間撹拌した。溶液のpHは5〜6の範囲にあった。青緑色の沈殿物が生じ、沈殿物はろ過によって集めた。沈殿物は、1.8LのDI水に溶かした10.54gのマレイン酸の溶液に分散し、70℃に熱した。結果として生じるスラリーは、70℃で30分間撹拌し、ろ過して、沈殿物を生成し、集め、室温で一晩真空乾燥した。材料は次いでさらに120℃で12時間乾燥した。結果として生じる材料は、2.5Åに幅広のピークを持つ典型的なXRDパターンを有し、非晶質Ni−OHを含有する材料であることを示している。BET法で測定して、表面積測定値は、50〜150m/gの範囲、平均細孔容積は0.1〜0.2cc/g、平均孔径は5〜50nmであった。
【0116】
(例2.硫化)
例1の6.5ccの触媒前駆体を管形反応器に配置し、まず700cc/minのNを用いて100°Fで夜通しパージした。次いで、温度は4時間で450°Fに上げた。このNフローに450°Fで1時間保持した後、700cc/minのHに切り替え、圧力は800psigに上げた。反応器は、450°F及び700cc/minのHで800psigに1時間保持した。次いで、n−ヘプタン中に6重量%のDMDS(ジメチルジスルフィド)を含有する硫化原料36cc/hrを、800psig、700cc/minのHに450°Fで導入し、これらの条件下で2時間保持した。続いて、温度は4時間で450°Fから650°Fに上げ、650°Fで2時間保持した。硫化原料をなお保ちつつ、温度を650°Fから約300°Fまで、できるだけ早く落とした。次いで、硫化原料を停止し、圧力は1000psigなどの事前に選択した反応圧力に上げ、H流量を77.2cc/minに調節した。この段階で、FCCLCOを6.5cc/hrの流量、1000psig、77.2cc/minのH流量、約300°Fで開始した。続いて、反応器温度は約300°Fから600°Fなどの事前に選択された反応温度に1°F/minの速度で上げた。次いで反応を6.5cc/hrの原料、77.2cc/minのH、600°F及び1000psigで進めた。
【0117】
(例3.触媒)
以下の触媒を、本発明の実施例又は比較例に用いた。
【0118】
(1)本発明の触媒は以下ではNi−Mo−Wと呼ばれ、例1及び2に従って調製した。
【0119】
(2)アルミナ基剤に支持されたモリブデンとニッケルを含む水素処理触媒は、以下ではNi−Moと呼ばれる。
【0120】
(3)混合シリカアルミナ/アルミナ基材に支持された白金とパラジウムを含む水素化精製触媒は、以下ではPt−Pdと呼ばれる。
【0121】
(例4.供給原料)
表1は、本発明において用いられる供給原料の特性を開示する。供給原料は、精油所の流体接触分解ユニットからの軽質循環石油(LCO)生成物である。供給原料も模擬蒸留で分析した。模擬蒸留の結果は表2にリストされている。この供給原料は水素処理されていない。
【0122】
(例5.)
単一固定床反応器内で単一触媒として本発明のNi−Mo−W触媒を用いるジェット燃料へのLCOのアップグレード
例4の表1及び表2に記載されているFCCLCO原料は、例3に記載されている本発明の6.5ccのNi−Mo−W触媒上で、6.5cc/hrの流量で単一固定床反応器内で水素化処理した。反応器温度は600°Fで、反応器圧力は1000psigだった。水素流量は77.2cc/minだった。
【0123】
触媒反応の結果も表1にリストされている。模擬蒸留からの結果も表2にリストされている。この結果は、ジェット規格を満たすことを示す。
【0124】
(比較例1)
単一固定床反応器内で単一触媒としてNi−Mo触媒を用いるジェット燃料へのLCOのアップグレード
例5に記載された本発明のNi−Mo−W触媒と比較するために、例4の表1及び表2に記載されたFCCLCO原料を11.2cc/hrの流量で、例3に記載された5.9gのNi−Mo触媒上で固定床反応器内で水素処理した。この比較例において、温度は660°Fであり、圧力は1700psigだった。水素流量は300cc/minだった。
【0125】
触媒反応の結果も表1にリストされている。模擬蒸留の結果も表2にリストされている。その結果、そのようなNi−Mo触媒で調製されたジェット生成物はジェット規格を満たさないことがわかり、特に1000psigという低圧及び600°Fという低温でのその高活性による、例5に記載された本発明のNi−Mo−W触媒の利点を示す。
【0126】
(比較例2)
2基の固定床反応器内のPt−Pd水素化精製を用いるジェット燃料へのLCOのアップグレード
比較例1において、例4中の表1及び表2に記載されたFCCLCO原料を11.2cc/hrの流量で、例3に記載された5.9gのNi−Mo触媒上で固定床反応器内で水素処理した。次いで、この第1の反応器内で製造された結果として生じる水素処理生成物を4cc/hrの流量で、例3に記載された4.7gの白金/パラジウム水素化精製触媒上で第2の固定床反応器内で水素化精製した。Pt/Pd触媒を含むこの第2の反応器の温度は、550°Fで、圧力は1000psigだった。水素流量は100cc/minだった。このようにして、ジェット生成物は、各段階が1種の触媒を含む2段階水素処理−水素化精製反応器システムによって製造される。
【0127】
2種の触媒を含むこの2段階反応器システムから製造されたジェット生成物の特性も、表1にリストされている。反応生成物も模擬蒸留で分析した。模擬蒸留の結果も表2にリストされている。
【0128】
その結果、Ni−Mo及びPt/Pd触媒を混ぜ合わせる、そのような2段階水素化処理を用いると、例えば、128,781Btu/ガロンのなお高い純燃焼熱を有し改善された煙点でわかるように、ジェット燃料特性が改善されていることがわかる。単一反応器に単一のNi−Mo−W触媒のみを使用する例5と比較すると、比較例2の方法は望ましくない。なぜなら、高エネルギー密度ジェット燃料生成物を製造するために、水素処理触媒が1基の反応器において用いられ、水素化精製触媒が別の反応器において用いられるからである。LCOを高エネルギー密度ジェット燃料生成物にアップグレードするために、1種より多い触媒及び1基より多い反応器を使用することは経済的に不利である可能性がある。
【表1】


【表2】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
重質炭化水素供給原料をアップグレードする方法であって、
ある触媒を唯一の触媒として含有する反応器システム内で水素存在下に重質炭化水素供給原料を前記触媒と接触させるステップを含み、触媒は一般式:
[(M)(OH)(L)(MVIB
[式中、Aは、アルカリ金属陽イオン、アンモニウム、有機アンモニウム及びホスホニウム陽イオンのうちの少なくとも1つであり、
は少なくとも1種のVIII族金属であり、
Lは1種又は複数の酸素含有配位子であり、n≦0である中性又は負電荷を有しており、
VIBは少なくとも1種のVIB族金属であり、
:MVIBは、100:1から1:100の原子数比を有し、及び0≦y≦−2/n、0≦x≦2;0≦v≦2、及び0≦zである。]
の触媒から調製され、それによって、燃料生成物を製造する、前記方法。
【請求項2】
重質炭化水素供給原料がFCCの軽質、中質及び重質循環油;ジェットとディーゼル燃料の留分;コークス生成物;石炭液化油;重油熱分解工程からの生成物;重油水素化分解からの生成物;粗製油ユニットから分留された直留;又はこれらの混合物を含むFCCの流出液を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
燃料生成物が125,000Btu/ガロンを超える純燃焼熱を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
触媒が支持されていない、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
触媒が支持されている、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
燃料生成物の凝固点が摂氏−40度未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
燃料生成物の煙点が18mmを超える、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
燃料生成物の引火点が摂氏38度を超える、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
摂氏20度での燃料生成物の密度が0.840g/ccに等しいか又はそれ未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
摂氏−20度での燃料生成物の粘度が8cSt未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
燃料生成物がジェット燃料生成物である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
重質炭化水素供給原料をアップグレードする方法であって、ある触媒を唯一の触媒として含有する反応器システム内で水素存在下に水素化処理する条件で、重質炭化水素供給原料を前記触媒と接触させるステップを含み、触媒は、沈殿又はコゲルを形成するために、少なくとも1種の助触媒金属化合物の溶液;少なくとも1種のVIB族金属化合物の溶液;及び、少なくとも1種の有機酸素含有配位子の溶液を反応条件で混合することにより得られる触媒前駆体の硫化により調製され、それによって燃料生成物を製造する、前記方法。
【請求項13】
重質炭化水素供給原料がFCCの軽質、中質及び重質循環油;ジェットとディーゼル燃料の留分;コークス生成物;石炭液化油;重油熱分解工程からの生成物;重油水素化分解からの生成物;粗製油ユニットから分留された直留;又はこれらの混合物を含むFCCの流出液を含む請求項12に記載の方法。
【請求項14】
燃料生成物が125,000Btu/ガロンを超える純燃焼熱を有する、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
触媒が支持されていない、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
触媒が支持されている、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
燃料生成物の凝固点が摂氏−40度未満である、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
燃料生成物の煙点が8mmを超える、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
燃料生成物の引火点が摂氏38度を超える、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
摂氏20度での燃料生成物の密度が0.840g/ccに等しいか又はそれ未満である、請求項12に記載の方法。
【請求項21】
燃料生成物がジェット燃料生成物である、請求項12に記載の方法。
【請求項22】
請求項1の方法によって調製された生成物。
【請求項23】
請求項12の方法によって調製された生成物。
【請求項24】
供給原料が芳香族性部分、ナフテン部分又は両方を含む環含有炭化水素化合物を少なくとも20重量%含む、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
供給原料が芳香族性部分、ナフテン部分又は両方を含む環含有炭化水素化合物を少なくとも20重量%含む、請求項4に記載の方法。

【公表番号】特表2011−502205(P2011−502205A)
【公表日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−532214(P2010−532214)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【国際出願番号】PCT/US2008/081629
【国際公開番号】WO2009/058897
【国際公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(503148834)シェブロン ユー.エス.エー. インコーポレイテッド (258)
【Fターム(参考)】