重金属処理剤及びそれを用いた重金属汚染物の処理方法
【課題】有害な重金属の中で特にアニオン種で汚染された重金属汚染物質をアルカリ領域において高度に処理できる重金属処理剤がなかった。
【解決手段】タンニン、珪酸塩、及び鉄化合物及び／又はマグネシウム塩を含んでなる重金属処理剤では、アルカリ領域において六価クロム等のアニオン種の重金属を高度に処理することができる。当該重金属処理剤はアルカリ性で高性能であるため、鉛等のカチオン種の重金属処理能に優れるアミンのジチオカルバミン酸塩と併用して用いることによりアニオン種とカチオン種の重金属を同時に処理することができる。
【解決手段】タンニン、珪酸塩、及び鉄化合物及び／又はマグネシウム塩を含んでなる重金属処理剤では、アルカリ領域において六価クロム等のアニオン種の重金属を高度に処理することができる。当該重金属処理剤はアルカリ性で高性能であるため、鉛等のカチオン種の重金属処理能に優れるアミンのジチオカルバミン酸塩と併用して用いることによりアニオン種とカチオン種の重金属を同時に処理することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【０００１】
本発明は、重金属を含有する固体廃棄物、例えば、ゴミ焼却場から排出される焼却灰及び飛灰、重金属に汚染された土壌、排水処理後に生じる汚泥、工場から排出される排水等に含有される鉛、カドミウム、水銀、ヒ素、セレン、六価クロム等の有害な重金属を簡便、かつ高効率で安定的に固定化することのできる重金属処理剤、並びに重金属汚染物の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【０００２】
都市ゴミ焼却工場などから排出される飛灰は重金属含有率が高く、重金属の溶出を抑制する処理を施すことが必要である。その様な処理方法のひとつとして薬剤処理法があり、キレート系薬剤等の重金属処理剤を添加して重金属を不溶化する方法が用いられている。
【０００３】
キレート系薬剤としてはアミン誘導体のカルボジチオ酸塩が主に用いられている。特にピペラジンカルボジチオ酸塩は他のアミン誘導体と比較しても硫化水素及び二硫化炭素等の有害ガス発生が少ないことが、重金属処理剤として広く用いられている。（例えば特許文献１参照）しかし、重金属汚染物質に含有されるヒ素、セレン、六価クロム等はアニオン種の形態で存在し、アミン誘導体のカルボジチオ酸塩などのキレート系薬剤で処理することは困難であった。
【０００４】
それに対して、重金属汚染物質を硫化鉄で処理する方法が知られている。（例えば特許文献２）しかし、硫化鉄を用いてもヒ素、セレン、六価クロム等のアニオン種に関して効果が不十分な場合があり、さらには硫化鉄では鉛やカドミウム、水銀といったカチオン種に対しても効果が弱いという問題があった。
【０００５】
一方、各種重金属の処理にタンニン（タンニン酸）を用いて処理する方法が知られている。（特許文献３、４、５参照）しかし、従来タンニン成分を用いる方法では、タンニンを多量に用いることが必要である上に、処理性能がｐＨに左右され、弱酸性から中性領域ではある程度性能を発現するが、アルカリ性においては処理性能が不十分となる問題があった。
【０００６】
【特許文献１】特許第３３９１１７３号
【特許文献２】特開２００２−３２６８１９
【特許文献３】特開平９―１２２６１６号
【特許文献４】特開２００４−１０５９４４
【特許文献５】特許第３１８３３５４号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【０００７】
重金属汚染物質、特に六価クロム等のアニオン種の重金属の処理では、アルカリ性においては処理が困難であり、主にアルカリ性で処理されるカチオン種の重金属と同時に処理をすることができなかった。
【課題を解決するための手段】
【０００８】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、重金属汚染物質の処理においてタンニンと、珪酸塩及び鉄化合物及び／又はマグネシウム塩を含んでなる重金属処理剤では、従来処理が困難であったアニオン種の六価クロムの高レベルの除去（環境基準０．０５ｍｇ／Ｌ以下でさらには０．０１ｍｇ／Ｌレベル）が可能であり、当該重金属処理剤はアルカリ性で高い性能を発揮するため、鉛等のカチオン種の重金属処理に用いられるアミンのジチオカルバミン酸塩と直接併用することによりアニオン種とカチオン種の両者を同時に除去することが可能であることを見出し、本発明を完成するに到ったものである。
【０００９】
以下、本発明を詳細に説明する。
【００１０】
本発明の重金属処理剤はタンニン、珪酸塩、及び鉄化合物及び／又はマグネシウム塩を含んでなるものである。
【００１１】
タンニン（ｔａｎｎｉｎ）は、酸、アルカリ、酵素で多価フェノール酸と多価アルコールに加水分解する加水分解型と複数分子のカテキンが炭素−炭素結合で縮合する縮合型に大別され、タンパク質、アルカロイド、金属イオン等と結合し得る難溶性の塩を形成する水溶性化合物で、複数のフェノール性ヒドロキシ基を持つ芳香族化合物である。分子量としては５００程度の低分子化合物から２００００に達する巨大な物まであるが、いずれも用いることができる。タンニン酸と称されることもある。タンニンは従来革製品に工業的に用いられており、例えばケブラッチョ（木材）から抽出されたケブラッチョタンニン等が例示できる。
【００１２】
珪酸塩としては珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、珪酸ナトリウム、酸化ケイ素を用いることができるが、処理性能に優れた珪酸カルシウム及び／又は珪酸マグネシウムが好ましい。
【００１３】
鉄化合物としては塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄をもちいることができるが、中でも塩化第一鉄、塩化第二鉄が好ましい。
【００１４】
マグネシウム塩としては、硫酸塩、塩酸塩、硝酸塩、炭酸塩、水酸化物が上げられるが、価格から硫酸塩及び／又は塩酸塩を用いることが好ましい。
【００１５】
タンニンはそれ単独で金属と結合して難溶性の化合物を形成するが、タンニン自身が金属と結合したものでは金属が再溶解し易いため、それ単独を用いた場合には重金属をある程度処理（固定化）することはできても、重金属処理剤としては不十分である。またタンニンと珪酸塩、又はタンニンと鉄化合物或いはマグネシウム塩だけを組合せて用いても重金属処理能は不十分である。本発明では、タンニン（成分１）、珪酸塩（成分２）及び鉄化合物及び／又はマグネシウム塩（成分３）の３成分を必須の成分として用いることにより、少量のタンニンによって高度の重金属処理が可能となるものである。
【００１６】
本発明におけるタンニン（成分１）、珪酸塩（成分２）及び鉄化合物及び／又はマグネシウム塩（成分３）の組合せ比としては、これらの成分が含まれていれば特に限定はないが、（成分１）／（成分２）／（成分３）の重量比で１：１：１〜１：１０：１０の範囲が例示でき、特に（成分１）よりも（成分２）及び（成分３）の比率の大きい１：５：５、より好ましくは１：４：２等の組合せ比がより好ましい比として例示できる。
【００１７】
本発明の重金属処理剤は、水溶液、スラリ−又は固相混合体のいずれの形態でも適用できるが、水溶性でない珪酸塩を用いる場合は固相混合体を用いることが好ましい。
【００１８】
本発明の重金属処理剤はｐＨが７以上として用いることが好ましく、さらにｐＨ１０以上、特にｐＨ１２以上で用いることが好ましい。酸性領域ではアニオン種の重金属、特に六価クロムの処理能力が低下する傾向がある。
【００１９】
本発明の重金属処理剤は、さらにアミンのジチオカルバミン酸塩と併用することによりアニオンとカチオン両方の重金属を同時に処理することが可能である。
【００２０】
アミンのジチオカルバミン酸塩は特に限定はなく、アミンとしてはモノアミンのジエチルアミンや、ポリアミンのジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン等の鎖状アミンや、ピペラジン等の環状アミンが例示できる。中でもアミンのジチオカルバミン酸塩がピペラジン―Ｎ，Ｎ’―ビスカルボジチオ酸塩及び／又はピペラジン―Ｎ―カルボジチオ酸塩では、ｐＨが弱アルカリ性となっても硫化水素や二硫化炭素等の有害ガスの発生がないため、特に好ましい。
【００２１】
ピペラジンカルボジチオ酸塩としては、ピペラジン−Ｎ−カルボジチオ酸塩、ピペラジ
ン−Ｎ，Ｎ’−ビスカルボジチオ酸塩、又はそれらの混合物が例示できる。特にピペラジ
ン−Ｎ，Ｎ’−ビスカルボジチオ酸塩、又はその比率の高いものが好ましい。これらの塩
としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、鉄等の金属錯体が用いられる。特に水溶性が必要な場合にはナトリウム塩、カリウム塩が好ましい。
【００２２】
本発明の重金属処理剤は、本発明の重金属処理剤の構成成分であるタンニン、珪酸塩及び鉄化合物及び／又はマグネシウム塩を個別に重金属汚染物に添加することもできるが、所望とする組成比で事前に固相混合して一剤化したものを添加してもよい。
【００２３】
アミンのジチオカルバミン酸塩はｐＨが弱アルカリ性となった場合、硫化水素や二硫化炭素等の有害ガスが発生する場合があるが、本発明の重金属処理剤は水存在下でｐＨが８以上を呈するため、アミンのジチオカルバミン酸塩と直接混合して処理できる。
【００２４】
本発明の重金属処理剤とアミンのジチオカルバミン酸塩は、いずれもアルカリ性で高性能を発揮するため、アルカリ性で鉛等のカチオン種の重金属固定化と六価クロム等のアニオン種の固定化が同時に処理できるものである。また、本発明の効果を損なわない範囲で、他の助剤を添加して用いてもよい。
【００２５】
本発明の重金属処理剤は重金属汚染物と混合することにより重金属の固定化処理に用いることができる。重金属汚染物質は、特に限定されるものではないが、例えば焼却飛灰、排水、土壌、地下水等が例示できる。
【００２６】
重金属汚染物質に対する使用量は、汚染物質中の重金属含有量によっても異なるため一概に規定できないが、均一に分散し易い水系処理物（排水、地下水）に対してはタンニンとして０．１〜１重量％、混合しにくい固形物系処理物（灰、土壌）に対してはタンニンとして０．５〜５％の範囲で混合することが好ましい。
【発明の効果】
【００２７】
本発明の重金属処理剤は、六価クロム等のアニオン種の重金属をアルカリ性領域で高度に処理でき、更に、アミンのジチオカルバミン酸塩水溶液からなるカチオン種の重金属処理剤と混合して用いることによりアニオン種とカチオン種を一度に高度に処理することが可能となる。
【実施例】
【００２８】
以下本発明を実施例で説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【００２９】
実施例１
タンニン（ケブラッチョタンニン）、珪酸カルシウム、塩化第二鉄を１：４：２の比率（重量比）に混合し、六価クロム１００ｐｐｍ含有する水溶液１００ｍＬ中に添加し、３０分間攪拌処理後、ろ過して溶液中に残存する六価クロム濃度を測定した。その際に水溶液のｐＨを４〜１２まで水酸化ナトリウムを用いて変化させた。結果を図１に示す。
【００３０】
ｐＨ７以上において、タンニン添加量が０．５重量％未満において環境基準の０．０５ｍｇ／Ｌ未満が達成された。
【００３１】
実施例２
塩化第二鉄を硫酸マンガンに代えた以外は実施例１と同様にして処理を行った。
【００３２】
結果を図２に示す。ｐＨ１２以上においてタンニン添加量が０．５重量％未満において環境基準の０．０５ｍｇ／Ｌ未満が達成された。
【００３３】
比較例１
塩化第二鉄をタンニンの不溶化剤として良く知られているゼラチンに代えた以外は実施例１と同様にして処理を行った。
【００３４】
結果を図３に示す。いずれのｐＨ領域においても環境基準の０．０５ｍｇ／Ｌ以下は達成されなかった。
【００３５】
実施例３
六価クロム溶出量（Ｃｒ６＋）が５ｐｐｍ、鉛溶出量（Ｐｂ）が１．７ｐｐｍ、カドミウム溶出量（Ｃｄ）が０．０６ｐｐｍのアルカリ飛灰に、ジチオカルバミン酸塩（ピペラジン−Ｎ，Ｎ’−ビスカルボジチオ酸カリウム）を成分とする東ソ−（株）製の重金属処理剤ＴＳ−３００を４重量％添加すると共に実施例１の組成の重金属処理剤を用いて、環境庁告示第１３号試験に従い処理した。処理時のｐＨは、１０．５であった。
【００３６】
添加した重金属処理剤中のタンニン量と六価クロムの処理能力の関係を図４に示した。
【００３７】
六価クロムは、タンニン４重量％の添加で固定化され、処理灰における管理基準（１．５ｐｐｍ）を達成した。また、Ｐｂ及びＣｄも０．０１ｐｐｍ以下となり、いずれの重金属元素も飛灰処理に係る判定基準を達成した。
【００３８】
実施例４
実施例１の組成の重金属処理剤を用いてヒ素の三価（Ａｓ３＋）及び五価（Ａｓ５＋）を１０ｐｐｍ含有する水溶液１００ｍＬをそれぞれ調整し、３０分間攪拌処理後、ろ過して溶液中に残存する砒素濃度を測定した。処理時のｐＨは、約１０であった。
【００３９】
添加した重金属処理剤中のタンニン量と各ヒ素成分の処理能力の関係を図５に示した。
【００４０】
各ヒ素成分は、タンニン０．５重量％で排水基準の０．１ｐｐｍ以下を達成した。
【００４１】
処理剤の添加量と重金属処理能を表１に示す。
【００４２】
【表１】
【図面の簡単な説明】
【００４３】
【図１】タンニン＋珪酸カルシウム＋塩化第二鉄を用いた水溶液中の六価クロムの処理能力を示すグラフ（実施例１）
【図２】タンニン＋珪酸カルシウム＋硫酸マグネシウムを用いた水溶液中の六価クロムの処理能力を示すグラフ（実施例２）
【図３】タンニン＋珪酸カルシウム＋ゼラチンを用いた水溶液中の六価クロムの処理能力を示すグラフ（比較例１）
【図４】タンニン＋珪酸カルシウム＋塩化第二鉄とアミンのジチオカルバミン酸塩を用いた飛灰中の六価クロム、鉛及びカドミウムの処理能力を示すグラフ（実施例３）
【図５】タンニン＋珪酸カルシウム＋塩化第二鉄を用いた水溶液中のヒ素の処理能力を示すグラフ（実施例４）
【技術分野】
【０００１】
本発明は、重金属を含有する固体廃棄物、例えば、ゴミ焼却場から排出される焼却灰及び飛灰、重金属に汚染された土壌、排水処理後に生じる汚泥、工場から排出される排水等に含有される鉛、カドミウム、水銀、ヒ素、セレン、六価クロム等の有害な重金属を簡便、かつ高効率で安定的に固定化することのできる重金属処理剤、並びに重金属汚染物の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【０００２】
都市ゴミ焼却工場などから排出される飛灰は重金属含有率が高く、重金属の溶出を抑制する処理を施すことが必要である。その様な処理方法のひとつとして薬剤処理法があり、キレート系薬剤等の重金属処理剤を添加して重金属を不溶化する方法が用いられている。
【０００３】
キレート系薬剤としてはアミン誘導体のカルボジチオ酸塩が主に用いられている。特にピペラジンカルボジチオ酸塩は他のアミン誘導体と比較しても硫化水素及び二硫化炭素等の有害ガス発生が少ないことが、重金属処理剤として広く用いられている。（例えば特許文献１参照）しかし、重金属汚染物質に含有されるヒ素、セレン、六価クロム等はアニオン種の形態で存在し、アミン誘導体のカルボジチオ酸塩などのキレート系薬剤で処理することは困難であった。
【０００４】
それに対して、重金属汚染物質を硫化鉄で処理する方法が知られている。（例えば特許文献２）しかし、硫化鉄を用いてもヒ素、セレン、六価クロム等のアニオン種に関して効果が不十分な場合があり、さらには硫化鉄では鉛やカドミウム、水銀といったカチオン種に対しても効果が弱いという問題があった。
【０００５】
一方、各種重金属の処理にタンニン（タンニン酸）を用いて処理する方法が知られている。（特許文献３、４、５参照）しかし、従来タンニン成分を用いる方法では、タンニンを多量に用いることが必要である上に、処理性能がｐＨに左右され、弱酸性から中性領域ではある程度性能を発現するが、アルカリ性においては処理性能が不十分となる問題があった。
【０００６】
【特許文献１】特許第３３９１１７３号
【特許文献２】特開２００２−３２６８１９
【特許文献３】特開平９―１２２６１６号
【特許文献４】特開２００４−１０５９４４
【特許文献５】特許第３１８３３５４号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【０００７】
重金属汚染物質、特に六価クロム等のアニオン種の重金属の処理では、アルカリ性においては処理が困難であり、主にアルカリ性で処理されるカチオン種の重金属と同時に処理をすることができなかった。
【課題を解決するための手段】
【０００８】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、重金属汚染物質の処理においてタンニンと、珪酸塩及び鉄化合物及び／又はマグネシウム塩を含んでなる重金属処理剤では、従来処理が困難であったアニオン種の六価クロムの高レベルの除去（環境基準０．０５ｍｇ／Ｌ以下でさらには０．０１ｍｇ／Ｌレベル）が可能であり、当該重金属処理剤はアルカリ性で高い性能を発揮するため、鉛等のカチオン種の重金属処理に用いられるアミンのジチオカルバミン酸塩と直接併用することによりアニオン種とカチオン種の両者を同時に除去することが可能であることを見出し、本発明を完成するに到ったものである。
【０００９】
以下、本発明を詳細に説明する。
【００１０】
本発明の重金属処理剤はタンニン、珪酸塩、及び鉄化合物及び／又はマグネシウム塩を含んでなるものである。
【００１１】
タンニン（ｔａｎｎｉｎ）は、酸、アルカリ、酵素で多価フェノール酸と多価アルコールに加水分解する加水分解型と複数分子のカテキンが炭素−炭素結合で縮合する縮合型に大別され、タンパク質、アルカロイド、金属イオン等と結合し得る難溶性の塩を形成する水溶性化合物で、複数のフェノール性ヒドロキシ基を持つ芳香族化合物である。分子量としては５００程度の低分子化合物から２００００に達する巨大な物まであるが、いずれも用いることができる。タンニン酸と称されることもある。タンニンは従来革製品に工業的に用いられており、例えばケブラッチョ（木材）から抽出されたケブラッチョタンニン等が例示できる。
【００１２】
珪酸塩としては珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、珪酸ナトリウム、酸化ケイ素を用いることができるが、処理性能に優れた珪酸カルシウム及び／又は珪酸マグネシウムが好ましい。
【００１３】
鉄化合物としては塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄をもちいることができるが、中でも塩化第一鉄、塩化第二鉄が好ましい。
【００１４】
マグネシウム塩としては、硫酸塩、塩酸塩、硝酸塩、炭酸塩、水酸化物が上げられるが、価格から硫酸塩及び／又は塩酸塩を用いることが好ましい。
【００１５】
タンニンはそれ単独で金属と結合して難溶性の化合物を形成するが、タンニン自身が金属と結合したものでは金属が再溶解し易いため、それ単独を用いた場合には重金属をある程度処理（固定化）することはできても、重金属処理剤としては不十分である。またタンニンと珪酸塩、又はタンニンと鉄化合物或いはマグネシウム塩だけを組合せて用いても重金属処理能は不十分である。本発明では、タンニン（成分１）、珪酸塩（成分２）及び鉄化合物及び／又はマグネシウム塩（成分３）の３成分を必須の成分として用いることにより、少量のタンニンによって高度の重金属処理が可能となるものである。
【００１６】
本発明におけるタンニン（成分１）、珪酸塩（成分２）及び鉄化合物及び／又はマグネシウム塩（成分３）の組合せ比としては、これらの成分が含まれていれば特に限定はないが、（成分１）／（成分２）／（成分３）の重量比で１：１：１〜１：１０：１０の範囲が例示でき、特に（成分１）よりも（成分２）及び（成分３）の比率の大きい１：５：５、より好ましくは１：４：２等の組合せ比がより好ましい比として例示できる。
【００１７】
本発明の重金属処理剤は、水溶液、スラリ−又は固相混合体のいずれの形態でも適用できるが、水溶性でない珪酸塩を用いる場合は固相混合体を用いることが好ましい。
【００１８】
本発明の重金属処理剤はｐＨが７以上として用いることが好ましく、さらにｐＨ１０以上、特にｐＨ１２以上で用いることが好ましい。酸性領域ではアニオン種の重金属、特に六価クロムの処理能力が低下する傾向がある。
【００１９】
本発明の重金属処理剤は、さらにアミンのジチオカルバミン酸塩と併用することによりアニオンとカチオン両方の重金属を同時に処理することが可能である。
【００２０】
アミンのジチオカルバミン酸塩は特に限定はなく、アミンとしてはモノアミンのジエチルアミンや、ポリアミンのジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン等の鎖状アミンや、ピペラジン等の環状アミンが例示できる。中でもアミンのジチオカルバミン酸塩がピペラジン―Ｎ，Ｎ’―ビスカルボジチオ酸塩及び／又はピペラジン―Ｎ―カルボジチオ酸塩では、ｐＨが弱アルカリ性となっても硫化水素や二硫化炭素等の有害ガスの発生がないため、特に好ましい。
【００２１】
ピペラジンカルボジチオ酸塩としては、ピペラジン−Ｎ−カルボジチオ酸塩、ピペラジ
ン−Ｎ，Ｎ’−ビスカルボジチオ酸塩、又はそれらの混合物が例示できる。特にピペラジ
ン−Ｎ，Ｎ’−ビスカルボジチオ酸塩、又はその比率の高いものが好ましい。これらの塩
としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、鉄等の金属錯体が用いられる。特に水溶性が必要な場合にはナトリウム塩、カリウム塩が好ましい。
【００２２】
本発明の重金属処理剤は、本発明の重金属処理剤の構成成分であるタンニン、珪酸塩及び鉄化合物及び／又はマグネシウム塩を個別に重金属汚染物に添加することもできるが、所望とする組成比で事前に固相混合して一剤化したものを添加してもよい。
【００２３】
アミンのジチオカルバミン酸塩はｐＨが弱アルカリ性となった場合、硫化水素や二硫化炭素等の有害ガスが発生する場合があるが、本発明の重金属処理剤は水存在下でｐＨが８以上を呈するため、アミンのジチオカルバミン酸塩と直接混合して処理できる。
【００２４】
本発明の重金属処理剤とアミンのジチオカルバミン酸塩は、いずれもアルカリ性で高性能を発揮するため、アルカリ性で鉛等のカチオン種の重金属固定化と六価クロム等のアニオン種の固定化が同時に処理できるものである。また、本発明の効果を損なわない範囲で、他の助剤を添加して用いてもよい。
【００２５】
本発明の重金属処理剤は重金属汚染物と混合することにより重金属の固定化処理に用いることができる。重金属汚染物質は、特に限定されるものではないが、例えば焼却飛灰、排水、土壌、地下水等が例示できる。
【００２６】
重金属汚染物質に対する使用量は、汚染物質中の重金属含有量によっても異なるため一概に規定できないが、均一に分散し易い水系処理物（排水、地下水）に対してはタンニンとして０．１〜１重量％、混合しにくい固形物系処理物（灰、土壌）に対してはタンニンとして０．５〜５％の範囲で混合することが好ましい。
【発明の効果】
【００２７】
本発明の重金属処理剤は、六価クロム等のアニオン種の重金属をアルカリ性領域で高度に処理でき、更に、アミンのジチオカルバミン酸塩水溶液からなるカチオン種の重金属処理剤と混合して用いることによりアニオン種とカチオン種を一度に高度に処理することが可能となる。
【実施例】
【００２８】
以下本発明を実施例で説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【００２９】
実施例１
タンニン（ケブラッチョタンニン）、珪酸カルシウム、塩化第二鉄を１：４：２の比率（重量比）に混合し、六価クロム１００ｐｐｍ含有する水溶液１００ｍＬ中に添加し、３０分間攪拌処理後、ろ過して溶液中に残存する六価クロム濃度を測定した。その際に水溶液のｐＨを４〜１２まで水酸化ナトリウムを用いて変化させた。結果を図１に示す。
【００３０】
ｐＨ７以上において、タンニン添加量が０．５重量％未満において環境基準の０．０５ｍｇ／Ｌ未満が達成された。
【００３１】
実施例２
塩化第二鉄を硫酸マンガンに代えた以外は実施例１と同様にして処理を行った。
【００３２】
結果を図２に示す。ｐＨ１２以上においてタンニン添加量が０．５重量％未満において環境基準の０．０５ｍｇ／Ｌ未満が達成された。
【００３３】
比較例１
塩化第二鉄をタンニンの不溶化剤として良く知られているゼラチンに代えた以外は実施例１と同様にして処理を行った。
【００３４】
結果を図３に示す。いずれのｐＨ領域においても環境基準の０．０５ｍｇ／Ｌ以下は達成されなかった。
【００３５】
実施例３
六価クロム溶出量（Ｃｒ６＋）が５ｐｐｍ、鉛溶出量（Ｐｂ）が１．７ｐｐｍ、カドミウム溶出量（Ｃｄ）が０．０６ｐｐｍのアルカリ飛灰に、ジチオカルバミン酸塩（ピペラジン−Ｎ，Ｎ’−ビスカルボジチオ酸カリウム）を成分とする東ソ−（株）製の重金属処理剤ＴＳ−３００を４重量％添加すると共に実施例１の組成の重金属処理剤を用いて、環境庁告示第１３号試験に従い処理した。処理時のｐＨは、１０．５であった。
【００３６】
添加した重金属処理剤中のタンニン量と六価クロムの処理能力の関係を図４に示した。
【００３７】
六価クロムは、タンニン４重量％の添加で固定化され、処理灰における管理基準（１．５ｐｐｍ）を達成した。また、Ｐｂ及びＣｄも０．０１ｐｐｍ以下となり、いずれの重金属元素も飛灰処理に係る判定基準を達成した。
【００３８】
実施例４
実施例１の組成の重金属処理剤を用いてヒ素の三価（Ａｓ３＋）及び五価（Ａｓ５＋）を１０ｐｐｍ含有する水溶液１００ｍＬをそれぞれ調整し、３０分間攪拌処理後、ろ過して溶液中に残存する砒素濃度を測定した。処理時のｐＨは、約１０であった。
【００３９】
添加した重金属処理剤中のタンニン量と各ヒ素成分の処理能力の関係を図５に示した。
【００４０】
各ヒ素成分は、タンニン０．５重量％で排水基準の０．１ｐｐｍ以下を達成した。
【００４１】
処理剤の添加量と重金属処理能を表１に示す。
【００４２】
【表１】
【図面の簡単な説明】
【００４３】
【図１】タンニン＋珪酸カルシウム＋塩化第二鉄を用いた水溶液中の六価クロムの処理能力を示すグラフ（実施例１）
【図２】タンニン＋珪酸カルシウム＋硫酸マグネシウムを用いた水溶液中の六価クロムの処理能力を示すグラフ（実施例２）
【図３】タンニン＋珪酸カルシウム＋ゼラチンを用いた水溶液中の六価クロムの処理能力を示すグラフ（比較例１）
【図４】タンニン＋珪酸カルシウム＋塩化第二鉄とアミンのジチオカルバミン酸塩を用いた飛灰中の六価クロム、鉛及びカドミウムの処理能力を示すグラフ（実施例３）
【図５】タンニン＋珪酸カルシウム＋塩化第二鉄を用いた水溶液中のヒ素の処理能力を示すグラフ（実施例４）
【特許請求の範囲】
【請求項１】
タンニン、珪酸塩、及び鉄化合物及び／又はマグネシウム塩を含んでなる重金属処理剤。
【請求項２】
珪酸塩が珪酸カルシウム及び／又は珪酸マグネシウムである請求項１に記載の重金属処理剤。
【請求項３】
鉄化合物が塩化鉄である請求項１及至請求項２に記載の重金属処理剤。
【請求項４】
マグネシウム塩が硫酸マグネシウム及び／又は塩化マグネシウムである請求項１及至請求項３に記載の重金属処理剤。
【請求項５】
ｐＨが７以上で用いる請求項１及至請求項４に記載の重金属処理剤。
【請求項６】
さらにアミンのジチオカルバミン酸塩を含んでなる請求項１及至請求項５に記載の重金属処理剤。
【請求項７】
アミンのジチオカルバミン酸塩がピペラジン―Ｎ，Ｎ’―ビスカルボジチオ酸塩及び／又はピペラジン―Ｎ―カルボジチオ酸塩である請求項６に記載の重金属処理剤。
【請求項８】
請求項１及至請求項７のいずれかに記載の重金属処理剤を重金属汚染物と混合する重金属の固定化処理方法。
【請求項１】
タンニン、珪酸塩、及び鉄化合物及び／又はマグネシウム塩を含んでなる重金属処理剤。
【請求項２】
珪酸塩が珪酸カルシウム及び／又は珪酸マグネシウムである請求項１に記載の重金属処理剤。
【請求項３】
鉄化合物が塩化鉄である請求項１及至請求項２に記載の重金属処理剤。
【請求項４】
マグネシウム塩が硫酸マグネシウム及び／又は塩化マグネシウムである請求項１及至請求項３に記載の重金属処理剤。
【請求項５】
ｐＨが７以上で用いる請求項１及至請求項４に記載の重金属処理剤。
【請求項６】
さらにアミンのジチオカルバミン酸塩を含んでなる請求項１及至請求項５に記載の重金属処理剤。
【請求項７】
アミンのジチオカルバミン酸塩がピペラジン―Ｎ，Ｎ’―ビスカルボジチオ酸塩及び／又はピペラジン―Ｎ―カルボジチオ酸塩である請求項６に記載の重金属処理剤。
【請求項８】
請求項１及至請求項７のいずれかに記載の重金属処理剤を重金属汚染物と混合する重金属の固定化処理方法。
【図１】
【図２】
【図３】
【図４】
【図５】
【図２】
【図３】
【図４】
【図５】
【公開番号】特開２００９−２５６３９４（Ｐ２００９−２５６３９４Ａ）
【公開日】平成２１年１１月５日（２００９．１１．５）
【国際特許分類】
【出願番号】特願２００８−１０３５５８（Ｐ２００８−１０３５５８）
【出願日】平成２０年４月１１日（２００８．４．１１）
【出願人】（０００００３３００）東ソー株式会社 (1,901)
【Ｆターム（参考）】
【公開日】平成２１年１１月５日（２００９．１１．５）
【国際特許分類】
【出願日】平成２０年４月１１日（２００８．４．１１）
【出願人】（０００００３３００）東ソー株式会社 (1,901)
【Ｆターム（参考）】
[ Back to top ]