説明

重金属含有水の処理方法及び重金属含有水の処理装置

【課題】人工湿地を利用して低コスト・低エネルギーで重金属含有水から重金属を確実に除去できるとともに、長期間にわたって安定して重金属を除去することが可能な重金属含有水の処理方法及び重金属含有水の処理装置を提供する。
【解決手段】重金属含有水から重金属を除去する重金属含有水の処理方法であって、浸透型又は伏流型の人工湿地20に前記重金属含有水を通過させる工程と、人工湿地20において、硫酸還元菌によって硫酸イオンを還元して硫化物イオンを生成する工程と、前記重金属を、前記硫化物イオンと反応させて重金属の硫化物を生成して沈降分離する工程と、前記硫酸還元菌を活性化するために有機物を人工湿地20に供給する工程と、を備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばZn,Cu,Fe,Cd,Pb等の重金属を含有する重金属含有水から当該重金属を除去する重金属含有水の処理方法及び重金属含有水の処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
前述の重金属を含有する重金属含有水としては、例えば鉱山廃水、工場廃液、産業廃棄物処理場の浸出水及び道路排水等が挙げられる。従来より、これらの重金属含有水から重金属を除去する方法が数多く提案されている。
例えば、特許文献1には、石灰石を充填した塔内を通液させて酸性排水を中和する方法が提案されている。また、特許文献2には、炭酸カルシウムを添加し、pH6程度に上げて鉄、銅、亜鉛の大部分を除去し、のちに苛性ソーダでpH8.4まで上げて残留する亜鉛等を取り除く方法が提案されている。
【0003】
さらに、特許文献3には、ロックウールやアルカリ土類金属などの排水処理材を吹きつけたり、これらの排水処理材を充填した層に廃水を通過させ、pH6〜8に上げて鉄などの重金属を水酸化物として除去する方法が提案されている。
また、このような薬剤を用いた処理方法では、中和した際に生じる沈澱物の分離と処分を行う設備に多大な管理費用がかかるため、例えば特許文献4には、低コストの管理方法が提案されている。
【0004】
一方、排水中に含まれる有機物等を除去する方法として、例えば特許文献5、6に開示されているように、人工湿地を用いた処理方法が提案されている。
また、非特許文献1には、前述の人工湿地を用いて、重金属含有水から重金属を除去する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭59−016591号公報
【特許文献2】特開平01−099688号公報
【特許文献3】国際公開第2002/079100号
【特許文献4】特開平06−190398号公報
【特許文献5】特開2000−005777号公報
【特許文献6】特開2008−068211号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Robinson, J.D.F., Robb, G.A.(1995).Methods for the control and treatment of acid mine drainage. Coal Inter., p.152-156
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1−3に開示されているように、中和剤等を用いた処理方法においては、中和施設、シックナー(沈降装置)、プレス(脱水装置)等の設備が必要となり、水の処理に多大な費用と労力が必要となる。また、中和によって生成される沈殿物は、沈降性及び脱水性が悪く、容積が大きくなるため、沈殿物自体の処理にも多大な費用と労力が必要となる。また、亜鉛等においては、炭酸カルシウムを用いた除去方法では、水中の濃度を2mg/l以下にまで下げることは困難であった。
【0008】
一方、特許文献5、6に開示されたように、人工湿地を用いた水処理においては、低コスト及び低エネルギーで水を処理することが可能であるが、有機物の除去を目的としたものが主流である。
非特許文献1には、人工湿地にコンポスト(有機質肥料)を充填し、人工湿地内に存在する酸化還元菌の作用によって、重金属を硫化物として沈殿除去する方法が提案されている。しかしながら、長期の使用によって、酸化還元菌によりすべてのコンポストが分解された場合には、人工湿地が好気性となって酸化還元菌の働きが劣化してしまう。このため、重金属の除去を長期間にわたって継続して行うことができないといった問題があった。
【0009】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、人工湿地を利用して低コスト・低エネルギーで重金属含有水から重金属を確実に除去できるとともに、長期間にわたって安定して重金属を除去することが可能な重金属含有水の処理方法及び重金属含有水の処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明に係る重金属含有水の処理方法は、重金属含有水から重金属を除去する重金属含有水の処理方法であって、浸透型又は伏流型の人工湿地に前記重金属含有水を通過させる工程と、前記人工湿地において、硫酸還元菌によって硫酸イオンを還元して硫化物イオンを生成する工程と、前記重金属を、前記硫化物イオンと反応させて重金属の硫化物を生成して沈降分離する工程と、前記硫酸還元菌を活性化するために有機物を前記人工湿地に供給する工程と、を備えていることを特徴としている。
【0011】
この構成の重金属含有水の処理方法によれば、人工湿地において硫酸還元菌によって硫酸イオンを還元して硫化物イオンを生成する工程と、前記重金属を、前記硫化物イオンと反応させて重金属の硫化物を生成して沈降分離する工程と、を有しているので、人工湿地に重金属含有水を通過させることで重金属含有水中の重金属を除去することが可能となる。なお、除去される重金属としては、例えばZn,Cu,Fe,Cd,Pb等の水から分離しやすい硫化物を生成するものが好ましい。
【0012】
また、前記硫酸還元菌を活性化するために有機物を前記人工湿地に供給する工程を備えているので、人工湿地が嫌気性に保持され、硫酸還元菌の作用が長期間にわたって維持されることになり、長期間にわたって安定して重金属を除去することができる。なお、人工湿地に供給される有機物としては、例えば乳酸、乳酸塩、ブドウ糖、メタノール、エタノール、酢酸、蟻酸、ショ糖等の市販の薬剤、又は、コンポスト、肥料、培養土、生分解性プラスチック等のリサイクル資材等を用いることができる。
【0013】
ここで、前記人工湿地に、有機物を予め充填する工程を有していることが好ましい。
この場合、人工湿地に重金属含有水を通過させる前に、予め人工湿地にコンポスト等の有機物を充填しておくことによって硫酸還元菌が活性化されることになり、初期段階から安定して重金属を除去することが可能となる。
【0014】
また、前記人工湿地に、前記硫酸還元菌を予め充填する工程を有していることが好ましい。
この場合、人工湿地に重金属含有水を通過させる前に、予め人工湿地に前記硫酸還元菌を充填しておくことにより、人工湿地内に数多くの硫酸還元菌が存在することになって重金属の除去が活発に行われることになり、初期段階から安定して重金属を除去することが可能となる。
【0015】
さらに、前記人工湿地内部の酸化還元電位を測定する工程を有し、前記酸化還元電位が所定範囲となるように、有機物を前記人工湿地に供給し、前記人工湿地を嫌気性に保持する構成とすることが好ましい。
この場合、人工湿地の酸化還元電位を測定し、酸化還元電位が所定範囲となるように人工湿地に有機物を供給することにより、人工湿地が確実に嫌気性に保持され、硫酸還元菌が活性化されることになる。これにより、長期間にわたって重金属の除去を安定して行うことが可能となる。
【0016】
また、前記人工湿地に、水生植物が植栽されていることが好ましい。
人工湿地にヨシ等の水生直物を植栽すると、水生直物の根を介して栄養分が人工湿地内に供給されることになり、人工湿地が嫌気性となって硫酸還元菌が活性化されることになる。よって、有機物を前記人工湿地に供給する工程において、供給する有機物の量を低減することが可能となる。なお、栄養塩類が少なくなった場合には、人工湿地中の栄養分の消費されるとともに酸素が根圏に供給されるため、人工湿地を好気性へと移行させるおそれがある。このため、水生植物を植栽する場合には、前述のように前記人工湿地内部の酸化還元電位を測定する工程を有していることが好ましい。
【0017】
さらに、前記人工湿地の下流に、好気性の第2人工湿地を設け、この第2人工湿地において有機物を除去する工程を備えていることが好ましい。
前記人工湿地に有機物が過剰に供給された場合には、重金属を除去した処理水中に有機物が含有されることになる。よって、人工湿地の下流側に、好気性の第2人工湿地を設けることによって、過剰に供給された有機物を除去することが可能となる。よって、人工湿地において有機物の供給量を精度よく調整する必要がなくなり、重金属の除去を効率的に行うことができる。
【0018】
本発明に係る重金属含有水の処理装置は、重金属含有水から重金属を除去する重金属含有水の処理装置であって、前記重金属含有水が通過される浸透型又は伏流型の人工湿地と、前記人工湿地に対して有機物を供給する有機物供給手段と、を備えていることを特徴としている。
【0019】
この構成の重金属含有水の処理装置によれば、前記重金属含有水が通過される浸透型又は伏流型の人工湿地と、前記人工湿地に対して有機物を供給する有機物供給手段と、を備えているので、適宜、有機物を人工湿地に供給することで、人工湿地を嫌気性に保持することが可能となり、長期間にわたって硫酸還元菌を活性化させることができる。よって、人工湿地において、硫酸還元菌の作用による重金属の除去を長期間にわたって安定して行うことができる。
【0020】
また、前記人工湿地内部の酸化還元電位を測定する酸化還元電位測定器と、この酸化還元電位測定器の測定値に基づいて前記有機物供給手段による有機物の供給量を制御する制御部と、を備えていることが好ましい。
この場合、制御部により、人工湿地の内部の酸化還元電位を測定する酸化還元電位測定器の測定値に基づいて有機物供給手段による有機物の供給量が制御されるので、人工湿地が嫌気性に確実に保持され、硫酸還元菌が活性化されることになり、長期間にわたって重金属の除去を安定して行うことが可能となる。また、必要以上の有機物を人工湿地に供給することを防止することができ、有機物の使用量の削減を図ることができる。
【0021】
ここで、前記有機物供給手段は、有機物含有液を移送する送液ポンプと、前記人工湿地の内部に配設された供給管と、を備えていることが好ましい。
この場合、有機物を液体状態で人工湿地に供給することができ、送液ポンプの動作を制御することにより有機物の供給量を精度良く制御することができる。また、人工湿地の内部に配設された供給管から有機物が供給されるので、人工湿地全体に有機物を効率的に供給することができ、人工湿地全体で硫酸還元菌を活性化することができる
【0022】
さらに、前記人工湿地の下流に、好気性の第2人工湿地を設けられていることが好ましい。
この場合、有機物供給手段によって前記人工湿地に有機物が過剰に供給された場合であっても、好気性の第2人工湿地において有機物を除去することが可能となる。よって、有機物供給手段による有機物の供給量を特に制限する必要がなくなり、重金属の除去を効率的に行うことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、人工湿地を利用して低コスト・低エネルギーで重金属含有水から重金属を確実に除去できるとともに、長期間にわたって安定して重金属を除去することが可能な重金属含有水の処理方法及び重金属含有水の処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態である重金属含有水の処理装置の概略説明図である。
【図2】図1に示す重金属含有水の処理装置に備えられた有機物供給手段の供給管の説明図である。
【図3】図1に示す重金属含有水の処理装置に備えられた廃水ポンプと有機物ポンプの制御を示す説明図である。
【図4】本発明の他の実施形態である重金属含有水の処理装置の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。図1に本発明の実施形態である重金属含有水の処理装置を示す。
この重金属含有水の処理装置10は、例えばZn,Cu,Fe,Cd,Pb等の重金属を含有する重金属含有水から当該重金属を除去するものであり、本実施形態では、重金属として亜鉛(Zn)を含む鉱山廃水から亜鉛(Zn)を除去するものである。なお、鉱山廃水は、通常、硫酸イオンも含有している。
【0026】
本実施形態である重金属含有水の処理装置10は、図1に示すように、浸透型の人工湿地20と、この人工湿地20に鉱山廃水を供給する廃水供給手段15と、人工湿地20に有機物を供給する有機物供給手段30と、人工湿地20内部の酸化還元電位を測定する酸化還元電位測定器40と、を備えている。
【0027】
人工湿地20は、有底筒状をなす装置本体21と、この装置本体21の底部に敷き詰められた砂利層23と、この砂利層23の上側に設けられた砂層24と、を備えている。また、砂層24の下層部分には、硫酸還元菌が活性化された活性層25が設けられている。また、装置本体21の上部には、人工湿地20で処理された処理水を排出する排出口22が設けられている。さらに、本実施形態においては、図1に示すように、砂層24の上部に、ヨシ等の水生植物27が植栽されている。
【0028】
廃水供給手段15は、鉱山廃水を移送する廃水ポンプ16と、鉱山廃水を人工湿地20内に供給する供給配管17と、を備えている。本実施形態では、図1に示すように、供給配管17が装置本体21の底部、つまり、人工湿地20の砂利層23の下方側に配設されている。よって、鉱山廃水は、人工湿地20の砂利層23の下層側から順次上方へと移送され、砂層24を通過した後に装置本体21の上部に設けられた排出口22から外部へと排出される構成とされている。なお、処理される鉱山廃水は、有機物をほとんど含んでいない。
【0029】
有機物供給手段30は、液体状の有機物を移送する有機物ポンプ31と、液体状の有機物を人工湿地20内に供給する供給管32と、を備えている。本実施形態では、図1に示すように、供給管32が人工湿地20の砂層24の下部に配設されており、有機物が供給される部分に前述の活性層25が形成されている。
ここで、供給管32は、図1及び図2に示すように、上下方向に延びる縦管33と、砂層24の下部において水平方向に延びる横管34と、この横管34から分岐して設けられた複数の支管35と、を備え、これら横管34及び支管35の上側部分に有機物を供給する供給孔36が穿設されており、有機物を人工湿地20内部に広く供給可能な構成とされている。
【0030】
なお、有機物供給手段30によって供給される有機物としては、例えば乳酸、乳酸塩、ブドウ糖、メタノール、エタノール、酢酸、蟻酸、ショ糖、コンポスト、肥料、培養土、生分解性プラスチック等が挙げられるが、本実施形態では、液体状であって有機物ポンプによって容易に移送可能な乳酸を用いている。
【0031】
酸化還元電位測定器40は、人工湿地20内部に埋設される電極部41と、電位を算出する算出部42と、を備えている。そして、この酸化還元電位測定器40は、廃水供給手段15の廃水ポンプ16及び有機物供給手段30の有機物ポンプ31の動作を制御する制御部19に接続されている。
この制御部19においては、酸化還元電位測定器40によって測定された人工湿地20の酸化還元電位に基づいて、廃水ポンプ16及び有機物ポンプ31の動作を制御することになる。
【0032】
ここで、図3を用いて、制御部19における廃水ポンプ16及び有機物ポンプ31の制御動作について説明する。人工湿地20においては、酸化還元電位がプラスの場合には人工湿地20が好気性となっており、酸化還元電位がマイナスの場合には人工湿地20が嫌気性となっていることになる。本実施形態である重金属含有水の処理装置10において利用される硫酸還元菌は、嫌気性において活性化することになるため、本実施形態では、人工湿地20を嫌気性に保持するように、廃水ポンプ16及び有機物ポンプ31の動作を制御することになる。
【0033】
具体的には、図3に示すように、酸化還元電位が+100mVを超えた場合には、廃水ポンプ16の動作を停止する。これにより、人工湿地20内への有機物の少ない鉱山廃水の供給が停止される。また、酸化還元電位が+100mV以下となった場合には、廃水ポンプ16の動作を起動する。
また、酸化還元電位が−100mV以上の場合には、有機物ポンプ31を起動させて、人工湿地20の酸化還元電位を低下させる。一方、酸化還元電位が−110mVを下回った場合には、有機物が過剰に供給されることになるため、有機物ポンプ31を停止する。これにより、酸化還元電位が上昇することになる。
このような制御を行うことによって、人工湿地20の酸化還元電位が−105mV前後に調整され、人工湿地20を嫌気性に保持することになる。
【0034】
以下に、前述の重金属含有水の処理装置10を用いた重金属含有水の処理方法について説明する。
まず、鉱山廃水を人工湿地20内に供給する前に、人工湿地20内にコンポスト等の有機物を予め供給しておく。このとき、例えば下水処理場の汚泥等を混合することによって、人工湿地20内部に硫酸還元菌を数多く配置しておくことが可能となる。
【0035】
次に、廃水ポンプ16を可動させて鉱山廃水を人工湿地20の底部から上方に向けて供給する。すると、硫酸還元菌によって、鉱山廃水中に含まれる硫酸イオンが還元され、硫化物イオンが生成される。そして、この硫化物イオンと重金属である亜鉛(Zn)とが反応して硫化亜鉛(ZnS)が生成される。この硫化亜鉛は、水に対して難溶性であるため、水から沈降分離されることになる。なお、硫酸還元菌による硫化亜鉛の生成までの反応式を以下に示す。
2CHO + SO2− → HS + 2HCO
S + Zn2+ → ZnS↓ + 2H
【0036】
硫酸還元菌の作用によって亜鉛が沈降分離された処理水は、砂層24をさらに上昇していき、装置本体21の上部に設けられた排出口22から外部へと排出されることになる。また、硫化亜鉛は、砂層24の下部に沈殿していくことになる・
【0037】
ここで、有機物供給手段30を用いて有機物(乳酸)を人工湿地20内に供給することによって、人工湿地20を嫌気性に保持し、硫酸還元菌を活性化させる。
そして、本実施形態では、前述のように、人工湿地20内部の酸化還元電位を測定し、この酸化還元電位が所定値(−105mV)となるように、有機物の供給量を制御し、人工湿地20を嫌気性に保持している。
【0038】
以上のようにして、人工湿地20を用いて、重金属として亜鉛を含有する鉱山廃水から亜鉛を除去することが可能となる。
【0039】
このような構成とされた本実施形態である重金属含有水の処理装置10及び重金属含有水の処理方法によれば、人工湿地20に鉱山廃水を通過させ、この人工湿地20において、硫酸還元菌の作用によって鉱山廃水に含まれる硫酸イオンを還元して硫化物イオンを生成し、重金属である亜鉛を、硫化物イオンと反応させて難水溶性の硫化亜鉛を生成させて沈降分離しているので、人工湿地20を用いて重金属である亜鉛を確実に除去することができる。
【0040】
また、人工湿地20に対して有機物(本実施形態では、乳酸)を供給する有機物供給手段30を備えているので、人工湿地20が嫌気性に保持され、硫酸還元菌の作用が長期間にわたって維持されることになり、長期間にわたって安定して重金属である亜鉛を除去することができる。
さらに、本実施形態では、有機物供給手段30によって供給する有機物を液体状の乳酸としているので、有機物ポンプ31の動作を制御することによって、有機物(乳酸)の供給量を容易に、かつ、精度良く調整することができる。
【0041】
そして、本実施形態では、人工湿地20内部の酸化還元電位を測定する酸化還元電位測定器40と、この酸化還元電位測定器40の測定値に基づいて廃水供給手段15の廃水ポンプ16及び有機物供給手段30の有機物ポンプ31の動作を制御する制御部19と、を備えており、制御部19によって人工湿地20を嫌気性に保持する構成とされているので、硫酸還元菌が安定して活性化されることになり、長期間にわたって重金属である亜鉛の除去を安定して行うことができる。さらに、必要以上の有機物が人工湿地20に供給されることを防止できる。
【0042】
また、本実施形態においては、人工湿地20に、コンポスト等の有機物を予め充填するとともに、硫酸還元菌を含んだ下水処理場の汚泥等を混合しているので、初期段階から人工湿地20内に数多くの硫酸還元菌が配置されるとともに、有機物によって硫酸還元菌が活性化されることになり、鉱山廃水の処理を初期段階から効率的に行うことが可能となる。また、有機物供給手段30によって人工湿地20内に供給する乳酸の使用量を削減することができる。
【0043】
さらに、本実施形態においては、人工湿地20の砂層24に、ヨシ等の水生植物27が植栽されているので、水生直物27の根から栄養分が人工湿地20内に供給されることになり、人工湿地20が嫌気性となって硫酸還元菌が活性化され、重金属である亜鉛の除去を効率的に行うことができる。また、有機物供給手段30によって供給する乳酸の使用量を削減することができる。
なお、水生植物27が枯死する冬季(低温環境)においては、水生植物27による硫酸還元菌の活性化の効果が低下することになるため、有機物供給手段30によって乳酸を積極的に供給することになる。これにより、年間を通じて安定した亜鉛の除去処理を行うことができる。
【0044】
さらに、本実施形態では、有機物供給手段30の供給管32が、砂層24の下部において水平方向に延びる横管34と、この横管34から分岐する複数の支管35と、を備えており、有機物を人工湿地20内部に広く供給可能な構成とされているので、有機物を微量供給する場合でも、人工湿地20の全面に広がるように供給でき、硫酸還元菌を確実に活性化させることができる。
【0045】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、図4に示すように、嫌気性に保持して重金属を除去する人工湿地20の下流側に、好気性に保持された第2の人工湿地120を設けても良い。この場合、人工湿地20において過剰に供給された有機物を第2の人工湿地120において除去することが可能となる。よって、有機物供給手段による有機物の供給量を特に制限する必要がなくなり、重金属の除去を効率的に行うことができる。
【0046】
また、重金属として亜鉛を含有する鉱山廃水を処理するものとして説明したが、これに限定されることはなく、例えば工場廃液、産業廃棄物処理場の浸出水や道路排水等であってもよい。また、重金属としては、亜鉛以外のCu,Fe,Cd,Pb等を除去するものであってもよい。なお、除去対象となる重金属は、硫化物が難水溶性となって処理水との分離が容易なものが好ましい。
【0047】
さらに、有機物供給手段によって人工湿地に供給される有機物として乳酸を用いたものとして説明したが、これに限定されることはなく、乳酸塩、ブドウ糖、メタノール、エタノール、酢酸、蟻酸、ショ糖、コンポスト、肥料、培養土、生分解性プラスチック等の他の有機物であってもよい。
また、有機物供給手段及び廃水供給手段の構成は、本実施形態に限定されることはなく、人工湿地に対して有機物及び廃水(重金属含有水)を供給できる構成であればよい。
【0048】
また、浸透型の人工湿地を用いたものとして説明したが、これに限定されることはなく、伏流型の人工湿地を採用してもよい。
さらに、装置本体を、有底円筒状を成すものとして説明したが、これに限定されることはなく、装置本体の形状は任意に設計することができる。
【符号の説明】
【0049】
10 重金属含有水の処理装置
19 制御部
20 人工湿地
27 水生植物
30 有機物供給手段
31 有機物ポンプ(送液ポンプ)
32 供給管
40 酸化還元電位測定器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属含有水から重金属を除去する重金属含有水の処理方法であって、
浸透型又は伏流型の人工湿地に前記重金属含有水を通過させる工程と、
前記人工湿地において、硫酸還元菌によって硫酸イオンを還元して硫化物イオンを生成する工程と、
前記重金属を、前記硫化物イオンと反応させて重金属の硫化物を生成して沈降分離する工程と、
前記硫酸還元菌を活性化するために有機物を前記人工湿地に供給する工程と、
を備えていることを特徴とする重金属含有水の処理方法。
【請求項2】
前記人工湿地に、有機物を予め充填する工程を有していることを特徴とする請求項1に記載の重金属含有水の処理方法。
【請求項3】
前記人工湿地に、前記硫酸還元菌を予め充填する工程を有していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の重金属含有水の処理方法。
【請求項4】
前記人工湿地内部の酸化還元電位を測定する工程を有し、
前記酸化還元電位が所定範囲となるように、前記有機物を前記人工湿地に供給し、前記人工湿地を嫌気性に維持することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の重金属含有水の処理方法。
【請求項5】
前記人工湿地に、水生植物が植栽されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の重金属含有水の処理方法。
【請求項6】
前記人工湿地の下流に、好気性の第2人工湿地を設け、この第2人工湿地において有機物を除去する工程を備えていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の重金属含有水の処理方法。
【請求項7】
重金属含有水から重金属を除去する重金属含有水の処理装置であって、
前記重金属含有水が通過される浸透型又は伏流型の人工湿地と、
前記人工湿地に対して有機物を供給する有機物供給手段と、
を備えていることを特徴とする重金属含有水の処理装置。
【請求項8】
前記人工湿地内部の酸化還元電位を測定する酸化還元電位測定器と、
この酸化還元電位測定器の測定値に基づいて前記有機物供給手段による有機物の供給量を制御する制御部と、
を備えていることを特徴とする請求項7に記載の重金属含有水の処理装置。
【請求項9】
前記有機物供給手段は、有機物含有液を移送する送液ポンプと、前記人工湿地の底部に配設された供給管と、を備えていることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の重金属含有水の処理装置。
【請求項10】
前記人工湿地の下流に、好気性の第2人工湿地を設けられていることを特徴とする請求項7から請求項9のいずれか一項に記載の重金属含有水の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−269249(P2010−269249A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123445(P2009−123445)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 第43回日本水環境学会年会 社団法人日本水環境学会 平成21年3月16日開催
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】