説明

重金属固定化剤および重金属固定化剤の安定性改良方法

【課題】 従来の重金属固定化剤であるジチオカルバミン酸(塩)水溶液では、その水溶液の保存、輸送、使用の際に有毒ガスが発生するため、重金属の固定化効果を損なうことなく、これらの有毒ガスの発生を抑制する重金属固定化剤およびその安定性改良方法を提供する。
【解決手段】 ジチオカルバミン酸(塩)(A)の水溶液にリン酸塩(B)と、カルボキシル基、スルホ基、水酸基、リン酸基、ホスホン酸基およびこれらのアルカリ金属塩基からなる群から選ばれる1種以上の官能基を有する数平均分子量1,000〜30,000のオリゴマー(C)を含有させてなる一液化重金属固定化剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属固定化剤に関する。さらに詳しくは重金属含有物中の重金属を固定化して重金属の溶出を防止することのできる重金属固定化剤および該重金属固定化剤の安定性改良方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、焼却(飛)灰[焼却灰または焼却飛灰を意味する、以下同じ。]、鉱滓、土壌、汚泥などの固体粉末またはスラリーまたは工場排水、洗煙排水(ゴミ焼却場などの煙突に付いたススを水で洗い落とす際に生じる排水)、廃棄物埋め立て処分地の浸出水などの水溶液または懸濁液中に存在する重金属を固定化して重金属の溶出を防止するために添加される薬剤として、ジチオカルバミン酸(塩)水溶液(例えば、特許文献1、2参照)などが知られている。
しかしながら、従来のジチオカルバミン酸(塩)水溶液では、その水溶液の保存、輸送、使用の際に硫化水素や二硫化炭素などの有毒なガスが発生する場合があるため、これを解決する手段として重金属固定化剤水溶液のpHを13以上に保持することにより安定化する方法(例えば、特許文献3参照)や重金属固定化剤を水で希釈した時の希釈液のpHを12以上に調整後使用する方法(例えば、特許文献4参照)が知られている。
【0003】
【特許文献1】特開平8−224560号公報
【特許文献2】特開平11−116938号公報
【特許文献3】特開平10−109081号公報
【特許文献4】特開平10−118612号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、有害ガス発生の抑制にはまだ十分であるとは言い難い。本発明の目的は、重金属の固定化効果を損なうことなく、これらの有毒なガスの発生が抑制された重金属固定化剤および重金属固定化剤の安定性改良方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、この課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明に至った。
すなわち、本発明は、ジチオカルバミン酸(塩)(A)の水溶液にリン酸塩(B)と、カルボキシル基、スルホ基、水酸基、リン酸基、ホスホン酸基およびこれらのアルカリ金属塩基からなる群から選ばれる1種以上の官能基を有する数平均分子量1,000〜30,000のオリゴマー(C)を含有させてなる一液化重金属固定化剤、およびジチオカルバミン酸(塩)(A)の水溶液にリン酸塩(B)と、カルボキシル基、スルホ基、水酸基、リン酸基、ホスホン酸基およびこれらのアルカリ金属塩基からなる群から選ばれる1種以上の官能基を有する数平均分子量1,000〜30,000のオリゴマー(C)を含有させることを特徴とする重金属固定化剤の安定性改良方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の重金属固定化剤および重金属固定化剤の安定性改良方法は、重金属の固定化効果を損なうことなく、かつ、重金属固定化剤の保存、輸送および使用の際に硫化水素や二硫化炭素などの有毒ガスの発生が抑制されるという効果を奏することから極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明における、ジチオカルバミン酸(塩)(A)のうち、ジチオカルバミン酸としては、
(1)炭素数(以下、Cと略記)1〜8の鎖状、分岐状および環状のアルキルジチオカルバミン酸、
(2)1〜5個の水素原子が水酸基またはアルキルエーテル基で置換されていてもよいフェニルジチオカルバミン酸、
(3)C1〜32の鎖状、分岐状および環状のアルキルビスジチオカルバミン酸、
(4)C1〜32の鎖状、分岐状および環状のアルキルトリスジチオカルバミン酸、
(5)C1〜32の鎖状、分岐状および環状のアルキルテトラキスジチオカルバミン酸、
(6)1〜4個の水素原子が水酸基またはアルキル(C4〜12)エーテル基で置換されていてもよいフェニルビスジチオカルバミン酸、
(7)1〜4個の水素原子が水酸基またはアルキル(C4〜12)エーテル基で置換されていてもよいフェニルトリスジチオカルバミン酸、
(8)ポリアミンと二硫化炭素との反応物、
(9)重量平均分子量(以下Mwと略記)4,000以下のポリエチレンイミンと二硫化炭素との反応物、
(10)ポリアミンとエピハロヒドリンとが重縮合したMw4,500以下の重縮合物ポリアミンと二硫化炭素との反応物、
(11)ポリビニルアミンと二硫化炭素との反応物、
およびこれらの混合物などが挙げられる。
なお、(8)のポリアミンと二硫化炭素との反応物や、(9)のポリエチレンイミンと二硫化炭素との反応物は、特開平3−231921号公報等に記載の方法で得られる。
【0008】
上記(8)および(10)におけるポリアミンとしては、窒素原子に1個または2個の活性水素原子が結合してなるイミノ基またはアミノ基を2個以上有する下記の化合物が挙げられる。
【0009】
(i)C2〜22の脂肪族ポリアミン
ジアミン(例えばエチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンおよびN,N’−ジメチルエチレンジアミン);トリアミン(例えばジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミンおよびジブチレントリアミン);および4価またはそれ以上のポリアミン(例えばトリエチレンテトラミン、トリプロピレンテトラミン、トリブチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、テトラプロピレンペンタミン、テトラブチレンペンタミンおよびペンタエチレンヘキサミン)
(ii)C4〜22の脂環式ポリアミン
ジアミン[例えば1,4−シクロヘキサンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンおよびビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン]
(iii)C6〜20の芳香(脂肪)族ポリアミン
ジアミン(例えばフェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン、ジフェニルメタンジアミンおよびジアミノフェニルエーテル)
(iv)C3〜20の複素環ポリアミン
ジアミン(例えばピペラジン);およびトリアミン(例えば1−アミノエチルピペラジンおよびメラミン)
【0010】
これらのうち、形成されるジチオカルバミン酸(塩)の耐熱安定性の観点から好ましいのは、(i)におけるジアミン、およびさらに好ましいのは(iv)におけるジアミン、とくにピペラジンである。
【0011】
ジチオカルバミン酸の塩としては、(1)〜(11)のアルカリ金属(例えばリチウム、ナトリウムおよびカリウム)塩、アンモニウム塩、アミン[例えばC1〜8のモノアルキルアミン、C2〜16のジアルキル(アルキル基のC1〜8)アミン、およびC3〜24のトリアルキル(アルキル基のC1〜8)アミン]塩、C4〜20の4級アンモニウム塩およびこれらの混合物などが挙げられる。
【0012】
上記(A)のうち、耐熱安定性の観点から好ましいのは、(3)〜(11)、これらの塩およびこれらの混合物、さらに好ましいのは(3)〜(11)のアルカリ金属塩、とくに好ましいのは(8)のカリウム塩、最も好ましいのはピペラジンのカリウム塩である。
【0013】
リン酸塩(B)としては、リン酸のアルカリ金属(例えばナトリウムおよびカリウム)塩、例えばリン酸三ナトリウムおよびリン酸三カリウム、リン酸のアルカリ土類金属(例えばカルシウムおよびマグネシウム)塩、例えばリン酸カルシウム、リン酸マグネシウムが挙げられる。これらのうち水への溶解性の観点から好ましいのはリン酸のアルカリ金属塩、さらに好ましいのはリン酸三カリウムである。
上記リン酸のアルカリ金属塩は、リン酸の水素原子が一部未反応のリン酸二水素塩やリン酸一水素塩を含有していてもよく、これら一部未反応の塩の含有量はアルカリ金属塩の全重量に基づいて、通常10%以下、好ましくは0〜5%である。
(B)は通常粉末または水溶液として用いられ、水溶液の場合はその濃度は通常1〜70重量%、工業的な扱いやすさの観点から好ましくは10〜60重量%である。
【0014】
本発明における(C)は、カルボキシル基、スルホ基、水酸基、リン酸基、ホスホン酸基およびこれらのアルカリ金属塩基からなる群から選ばれる1種以上の官能基を有する数平均分子量[以下、Mnと略記。測定はゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)法による。以下同じ。]1,000〜30,000のオリゴマーである。
(C)中の官能基のうち保存安定性の観点から好ましいのは、アルカリ金属(ナトリウム、カリウム等)塩基、さらに好ましいのはカリウム塩基である。カルボキシル基、スルホ基、水酸基、リン酸基、ホスホン酸基およびこれらのアルカリ金属塩基のうちでは、保存安定性の観点から好ましいのはカルボキシル基、スルホ基、水酸基およびこれらのアルカリ金属塩基、さらに好ましいのはカルボキシル基および/またはそのアルカリ金属塩基である。
ここにおいて上記Mnは、下記条件でのGPC法により測定される。
(1)装置 :HLC−8120GPC[東ソー(株)製]
(2)カラム:Guardcolumn α、TSKgel α−3000、
TSKgel α−6000
(3)溶離液:メタノール/水(30/70%v/v)酢酸ナトリウム0.5%w/v 、流量 1ml/min
(4)注入条件:サンプル濃度0.25%、注入量200μl、カラム温度40℃
【0015】
(C)を構成するモノマーとしては、カルボキシル基、スルホ基、水酸基、リン酸基および/またはホスホン酸基含有ビニルモノマーが挙げられる。
カルボキシル基含有ビニルモノマー(酸無水物も含む)としては、脂肪族ビニルモノマー[C3〜30、例えば(メタ)アクリル酸、(無水)マレイン酸、マレイン酸モノアルキル(アルキル基のC1〜28)エステル、フマル酸、フマル酸モノアルキル(アルキル基のC1〜28)エステル、クロトン酸、イタコン酸、イタコン酸モノアルキル(アルキル基のC1〜25)エステル、イタコン酸グリコール(グリコールのC1〜25)モノエーテル、シトラコン酸、シトラコン酸モノアルキル(アルキル基のC1〜25)エステル]、芳香族ビニルモノマー[C7〜30、例えば桂皮酸およびビニル安息香酸]、脂環式ビニルモノマー[C8〜30、例えばビニルシクロヘキサン]およびこれらのアルカリ金属塩;
【0016】
スルホ基含有ビニルモノマーとしては、C2〜30、例えばビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、メチルビニルスルホネート、スチレンスルホン酸、α−メチルスチレンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロキシプロピルスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2−ジメチルエタンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエタンスルホン酸、3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−(メタ)アクリルアミド−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸、アルキル(C3〜18)アリルスルホコハク酸およびこれらのアルカリ金属塩;
【0017】
水酸基含有ビニルモノマーとしては、C4〜30、例えば1官能系[例えばヒドロキシスチレン、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(メタ)アリルアルコール、クロチルアルコール、イソクロチルアルコール、1−ブテン−3−オール、2−ブテン−1−オール]、2官能系[例えば2−ブテン−1,4−ジオールおよび2−ヒドロキシエチルプロペニルエーテル]、および3官能またはそれ以上[例えば庶糖アリルエーテル];
【0018】
リン酸基含有ビニルモノマーとしては、C3〜30、例えば(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル(アルキル基のC1〜28)リン酸モノエステル[例えば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリロイルホスフェートおよびフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート]およびこれらのアルカリ金属塩;
ホスホン酸基含有ビニルモノマーとしては、C3〜30、例えば(メタ)アクリル酸アルキル(アルキル基のC1〜28)ホスホン酸[例えば2−アクリロイルオキシエチルホスホン酸]およびこれらのアルカリ金属塩が挙げられる。
【0019】
(C)を構成するモノマーには、必要により疎水性モノマー(例えばビニル炭化水素、エポキシ基含有(メタ)アクリレート、およびハロゲン含有モノマー)も含まれる。
ビニル炭化水素としては、C3〜30、例えばプロピレン、イソブチレン、ノネン、スチレンおよび1−メチルスチレンが挙げられる。
エポキシ基含有(メタ)アクリレートとしては、C4〜20、例えばグリシジル(メタ)アクリレートが挙げられる。
ハロゲン含有モノマーとしては、C2〜8、例えば塩化ビニルが挙げられる。
(C)を構成する全モノマー中の疎水性モノマーの割合は(C)の水溶性の観点から好ましくは40モル%以下、さらに好ましくは0〜20モル%である。
【0020】
オリゴマー(C)には、上記モノマーの単独重合体または任意の組合せによって得られる共重合体(付加形式はランダムおよび/またはブロックのいずれでもよい)、およびこれらの混合物が含まれる。
重合方法としては、例えばモノマーの水溶液に通常の任意のラジカル開始剤、連鎖移動剤等を添加して重合させるラジカル重合法が挙げられる。
ラジカル開始剤としては、例えば水溶性アゾ開始剤〔例えばアゾビスアミジノプロパン(塩)[例えば、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド]、アゾビスシアノバレリン酸(塩)および2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン](塩)〕、油溶性アゾ開始剤(例えばアゾビスシアノバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリルおよびアゾビスシクロヘキサンカルボニトリル)、水溶性過酸化物(例えば過酸化水素、過酢酸およびt−ブチルパーオキサイド)、油溶性過酸化物(例えばベンゾイルパーオキシドおよびクメンヒドロキシパーオキシド)および無機過酸化物(例えば過硫酸アンモニウムおよび過硫酸ナトリウム)が挙げられる。
上記の過酸化物は還元剤と組み合わせてレドックス開始剤として用いてもよく、還元剤としては重亜硫酸塩(例えば重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸カリウムおよび重亜硫酸アンモニウム)、還元性金属塩[例えば硫酸鉄(II)]、3級アミン[例えばジメチルアミノ安息香酸(塩)およびジメチルアミノエタノール]、遷移金属塩のアミン錯体[例えば塩化コバルト(III)のペンタメチレンヘキサミン錯体および塩化銅(II)のジエチレントリアミン錯体]および有機性還元剤(例えばアスコルビン酸)が挙げられる。また、アゾ開始剤、過酸化物開始剤およびレドックス開始剤はそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上の開始剤を併用してもよい。
連鎖移動剤としては、例えば分子内に1つまたは2つ以上の水酸基を有する化合物[分子量32〜Mn50,000、例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール(分子量100〜Mn50,000)およびポリエチレンポリプロピレングリコール(分子量100〜Mn50,000)]、分子内に1つまたは2つ以上のアミノ基を有する化合物[例えばアンモニアおよびアミン(C1〜30、例えばメチルアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミンおよびプロパノールアミン)]および分子内に1つまたは2つ以上のチオール基を有する化合物[例えば脂肪族メルカプタン(C1〜20、例えばメチルメルカプタン、エチルメルカプタン、プロピルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、ヘキサデシルメルカプタン、n−オクタデシルメルカプタン、2−メルカプトエタノール、メルカプト酢酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオ酢酸、1−チオグリセロール、チオグリコール酸モノエタノールアミン、チオマレイン酸、システインおよび2−メルカプトエチルアミン)、脂肪族ジチオール(C2〜40、例えばエチレンジチオール、ジエチレンジチオール、トリエチレンジチオール、プロピレンジチオール、1,3−および1,4−ブタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオールおよびネオペンチルジチオール)、脂環式ジチオール(C5〜20、例えばシクロペンタンジチオールおよびシクロヘキサンジチオール)および芳香族ジチオール(C6〜16、例えばベンゼンジチオールおよびビフェニルジチオール)、トリチオール(C3〜20、例えばチオグリセリン)]が挙げられる。
【0021】
(C)のMnは、1,000〜30,000、好ましくは2,000〜20,000である。Mnが1,000未満では重金属固定化剤の有害ガス抑制の効果、および重金属固定化剤の低温貯蔵安定性が悪く、またMnが30,000を超えると重金属固定化剤に対する溶解性が悪い、または、低温貯蔵下でオリゴマー(またはポリマー)が析出するといった問題がある。
【0022】
本発明において、(A)、(B)および(C)の重量比(A)/(B)/(C)は、重金属固定化効果、有害ガス抑制および低温貯蔵安定性の観点から、好ましくは10〜99.5/0.5〜90/0.01〜10、さらに好ましくは15〜99/1〜85/0.02〜8、とくに好ましくは20〜98/2〜80/0.03〜6である。
(A)/(B)/(C)が上記範囲の場合は有毒ガス発生の抑制の効果が極めて良好となる。
【0023】
(A)の水溶液に(B)および(C)を含有させる方法としては次の方法が挙げられる。
[1](A)の水溶液に(B)および(C)を加える。
[2](B)に(A)の水溶液におよび(C)を加える。
[3](C)の水溶液に(A)および(B)を加える。
[4](A)と(B)と(C)の混合物を水に溶解させる。
[5](A)の水溶液に(C)およびリン酸を加えて(B)を形成させる。
[6](C)の水溶液に(A)およびリン酸を加えて(B)を形成させる。
[7](B)および/または(C)の存在下に(A)を形成させる。水中でも水を後添加 してもよい。その後必要により(B)または(C)を加える。
[8] ジチオカルバミン酸に(B)および(C)を加えてから塩を形成させる。
[9](C)の未中和物に(A)および(B)を加えてから塩を形成させる。
[10]ジチオカルバミン酸および(C)の未中和物に(B)を加えてから塩を形成させ る。
【0024】
上記の、(A)の水溶液に(B)および(C)を含有させる温度条件は、0〜90℃であり、均一混合される条件であれば撹拌条件は特に限定されない。
本発明の重金属固定化剤の水溶液pHは、通常12以上、保存時の安定性の観点から好ましい下限は12.2、さらに好ましくは12.5、同様の観点から好ましい上限は14.0、さらに好ましくは13.8である。ここで水溶液pHは、本発明の重金属固定化剤の30重量%水溶液の25℃においてpHメーターで測定される値であり、以下同様である。
【0025】
本発明の重金属固定化剤は、ブロック状固体、粉体、液体、スラリー、ペーストなど、種々の性状の重金属含有物中の重金属の固定化に有効であるが、焼却(飛)灰、鉱滓、土壌、汚泥などの固体粉末やスラリーまたは工場排水、洗煙排水、廃棄物埋め立て処分場の浸出水などの水溶液や懸濁液中の重金属の固定化においてさらに効果的であり、特に焼却(飛)灰中の重金属の固定化には特に効果的である。
【0026】
本発明の重金属固定化剤の使用量は、該重金属含有物中に含まれる重金属含有量によって任意に調整可能であり特に限定は無いが、重金属含有物の重量(固体、粉体、ペーストの場合はそれらの全重量、また、液体、スラリーの場合は固形分の全重量)に基づいて、重金属固定化効果の観点から、固形分として、好ましい下限は0.1%、さらに好ましくは0.2%、特に好ましくは0.3%であり、また、薬剤コストの観点から好ましい上限は30%、さらに好ましくは20%、特に好ましくは10%である。
【0027】
本発明の重金属固定化剤を重金属含有物に添加使用するに際しては、その他の添加剤を併用してもよい。
その他の添加剤としては、凝集剤、界面活性剤などが挙げられる。
【0028】
凝集剤としては、無機系〔硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、アルミン酸ソーダ、硫酸第1鉄、硫酸第2鉄、塩化第2鉄など〕、有機系〔ポリアクリル酸(塩)、アクリルアミド系ポリマー[ポリアクリルアミド、ポリアクリルアミド部分加水分解物、ポリアクリルアミドメチロール化カチオン化物、アクリルアミドとジアルキルアミノエチルメタクリレート共重合物の4級化物、アクリルアミドとジアルキルアミノエチルメタクリレート4級化物の共重合物など]、ジアルキルアミノエチルメタクリレートポリマーの4級化物、ポリエチレンイミン、天然物系[グアーガム、アルギン酸塩、デンプン誘導体、キトサンなど]など〕が挙げられる。
凝集剤の添加量は、重金属含有物の重量に基づいて、通常5%以下、十分な凝集効果を発揮させるとの観点から好ましくは0.0001〜3%である。
【0029】
界面活性剤としては、非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤および両性界面活性剤が挙げられる。
非イオン界面活性剤としては、例えば、アルキレンオキシド(以下、AOと略記)(C2〜4)付加型非イオン界面活性剤〔高級アルコール(C8〜18)、高級脂肪酸(C12〜24)または高級アルキルアミン(C8〜24)等に直接AO[C2〜4例えば、エチレンオキシド(以下、EOと略記)、プロピレンオキシド(以下、POと略記)、ブチレンオキシドおよびこれらの2種以上の併用]を付加させたもの(分子量158〜Mn200,000);グリコールにAOを付加させて得られるポリアルキレングリコール(分子量150〜Mn6,000)に高級脂肪酸などを反応させたもの;多価アルコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビタンなどの2価〜8価またはそれ以上の多価アルコール)に高級脂肪酸を反応させて得られたエステル化物にAOを付加させたもの(分子量250〜Mn30,000)、高級脂肪酸アミドにAOを付加させたもの(分子量200〜Mn30,000)、多価(2価〜8価またはそれ以上)アルコールアルキル(C3〜60)エーテルにAOを付加させたもの(分子量120〜Mn30,000)等〕、および多価アルコ−ル(C3〜60)型非イオン界面活性剤[多価アルコール脂肪酸(C3〜60)エステル、多価アルコールアルキル(C3〜60)エーテル、脂肪酸(C3〜60)アルカノールアミド等]等が挙げられる。
【0030】
アニオン界面活性剤としては、例えば、カルボン酸(C8〜22の飽和または不飽和脂肪酸)またはその塩(ナトリウム、カリウム、アンモニウム、アルカノールアミン等の塩)、カルボキシメチル化物の塩[C8〜16の脂肪族アルコールおよび/またはそのEO(1〜10モル)付加物などのカルボキシメチル化物の塩等]、硫酸エステル塩[高級アルコール硫酸エステル塩(C8〜18の脂肪酸アルコールの硫酸エステル塩等)]、高級アルキルエーテル硫酸エステル塩[C8〜18の脂肪酸アルコールのEO(1〜10モル)付加物の硫酸エステル塩等]、硫酸化油(天然の不飽和油脂または不飽和のロウをそのまま硫酸化して中和したもの)、硫酸化脂肪酸エステル(不飽和脂肪酸の低級アルコールエステルを硫酸化して中和したもの)、硫酸化オレフィン(C12〜18のオレフィンを硫酸化して中和したもの)、スルホン酸塩[アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、スルホコハク酸ジエステル型、α−オレフィン(C12〜18)スルホン酸塩、イゲポンT型等]およびリン酸エステル塩[高級アルコール(C8〜60)リン酸エステル塩、高級アルコール(C8〜60)EO付加物リン酸エステル塩、アルキル(C4〜60)フェノールEO付加物リン酸エステル塩等]が挙げられる。
【0031】
カチオン界面活性剤としては、第4級アンモニウム塩型[テトラアルキル(C4〜100)アンモニウム塩、例えばラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジオクチルジメチルアンモニウムブロマイド、ステアリルトリメチルアンモニウムブロマイド;トリアルキル(C3〜80)ベンジルアンモニウム塩、例えばラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド(塩化ベンザルコニウム);アルキル(C2〜60)ピリジニウム塩、例えばセチルピリジニウムクロライド;ポリオキシアルキレン(C2〜4)トリアルキルアンモニウム塩、例えばポリオキシエチレントリメチルアンモニウムクロライド;サパミン型第4級アンモニウム塩、例えばステアラミドエチルジエチルメチルアンモニウムメトサルフェート]、アミン塩型[脂肪族高級アミン(C12〜60、例えばラウリルアミン、ステアリルアミン、セチルアミン、硬化牛脂アミン、ロジンアミン)の無機酸塩または有機酸塩;低級アミン(C1〜11)の高級脂肪酸(ステアリン酸、オレイン酸等)塩;脂肪族アミン(C1〜30)のEO付加物等の無機酸塩または有機酸塩;3級アミン(C1〜30、例えばトリエタノールアミンモノステアレート、ステアラミドエチルジエチルメチルエタノールアミン)の無機酸塩または有機酸塩等]等が挙げられる。
【0032】
両性界面活性剤としては、アミノ酸型両性界面活性剤[高級アルキルアミン(C12〜18)のプロピオン酸ナトリウムなど]、ベタイン型両性界面活性剤アルキル(C12〜18)ジメチルベタイン、硫酸エステル塩型両性界面活性剤[高級アルキル(C8〜18)アミンの硫酸エステルナトリウム塩、ヒドロキシエチルイミダゾリン硫酸エステルナトリウム塩等]、スルホン酸塩型両性界面活性剤(ペンタデシルスルホタウリン、イミダゾリンスルホン酸等)、リン酸エステル塩型両性界面活性剤[グリセリン高級脂肪酸(C8〜22)エステル化物のリン酸エステルアミン塩等]等が挙げられる。
【0033】
界面活性剤の添加量は、重金属含有物の重量に基づいて、通常5%以下、好ましくは0.01〜3%である。
【0034】
本発明の重金属固定化剤を重金属含有物に添加する方法としては、通常20〜70重量%の水溶液、重金属含有物の飛散防止などの必要に応じてさらに水で希釈した水溶液として添加する方法が挙げられるが、重金属固定化剤と水を別々に添加してもよく、別々に添加する場合は、どちらを先に添加してもよい。また、重金属含有物がスラリー状の場合は重金属固定化剤のみを直接スラリーに添加してもよい。
【0035】
上記固体粉末またはスラリーに添加して混練する際の混練装置としては、特に限定はなく通常のもの、例えばニーダー、ホバートミキサー等が挙げられる。
また上記排水に添加して撹拌する際の撹拌装置としては、特に限定は無く、撹拌ができるものであれば全ての撹拌装置が挙げられる。
【0036】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、実施例中の部は重量部、%は重量%、水溶液のpHは重金属固定化剤30重量%水溶液の25℃でのpHメーター[堀場製作所(株)製 型番M−12]測定値を表す。
【0037】
合成例1 ピペラジンビスジチオカルバミン酸カリウム水溶液の合成
冷却・撹拌が可能で、窒素置換が可能な反応容器に、水600部、ピペラジン100部を仕込み溶解した後、水酸化カリウム130部を仕込み、200rpmで撹拌した。反応容器中の固形物がスラリー状になったことを確認後、窒素雰囲気下、35℃にて二硫化炭素177部を滴下した。滴下終了後、同温度にて3時間熟成を行なうことによって、ピペラジンビスジチオカルバミン酸カリウムの36.3%水溶液(A1)を得た。水溶液のpHは13であった。
【0038】
実施例1
リン酸三カリウムの44%水溶液(B1)15部、(A1)85部およびアクリル酸ナトリウム重合体(Mn10,000)(C1)0.5部を混合、撹拌し本発明の重金属固定化剤の37.3%水溶液(X1)を得た。水溶液のpHは13であった。
【0039】
実施例2
(B1)5部、(A1)95部および(C1)1部を混合、撹拌し本発明の重金属固定化剤の36.7%水溶液(X2)を得た。水溶液のpHは13であった。
【0040】
実施例3
実施例2において(C1)1部に代えて、アクリル酸カリウム重合体(Mn10,000)(C2)1部を用いたこと以外は実施例2と同様に行い、本発明の重金属固定化剤の36.7%水溶液(X3)を得た。水溶液のpHは13であった。
【0041】
実施例4
実施例2において(C1)1部に代えて、アクリル酸重合体(Mn10,000)(C3)1部を用いたこと以外は実施例2と同様に行い、本発明の重金属固定化剤の36.7%水溶液(X4)を得た。水溶液のpHは12.5であった。
【0042】
実施例5
実施例2において(C1)1部に代えて、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸カリウム塩重合体(Mn10,000)(C4)1部を用いたこと以外は実施例2と同様に行い、本発明の重金属固定化剤の36.7%水溶液(X5)を得た。水溶液のpHは13であった。
【0043】
実施例6
実施例2において(C1)1部に代えて、N−メチロールアクリルアミド重合体(Mn5,000)(C5)1部を用いたこと以外は実施例2と同様に行い、本発明の重金属固定化剤の36.7%水溶液(X6)を得た。水溶液のpHは13であった。
【0044】
実施例7
実施例2において(C1)1部に代えて、2−ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェートカリウム塩重合体(Mn3,000)(C6)1部を用いたこと以外は実施例2と同様に行い、本発明の重金属固定化剤の36.7%水溶液(X7)を得た。水溶液のpHは13であった。
【0045】
実施例8
実施例2において(C1)1部に代えて、2−アクリロイルオキシエチルホスホン酸カリウム塩重合体(Mn3,000)(C7)1部を用いたこと以外は実施例2と同様に行い、本発明の重金属固定化剤の36.7%水溶液(X8)を得た。水溶液のpHは13であった。
【0046】
<有毒ガス試験>
実施例1〜8、比較例1
(X1)〜(X8)および(A1)のそれぞれ50gを容量200mlの密閉フタ付きガラス容器(内径5cm×高さ10.2cmの円筒形)に秤り取り、容器内を窒素置換して密封、30℃で7日間静置後、容器内の二硫化炭素および硫化水素濃度を検知管[二硫化炭素はガステック(株)製NO.13検知管、硫化水素はガステック(株)製NO.4LL検知管]にて測定した。結果を表1に示す。
表1から、実施例1〜8では、比較例1に比べて、二硫化炭素および硫化水素の発生が抑えられることがわかる。
【0047】

【表1】

【0048】
<溶出試験>
実施例1〜8、比較例1
ゴミ焼却により生じた飛灰50部に、上記各重金属固定化剤(X1)〜(X8)および(A1)を重金属固定化剤固形分として0.17部、水10部を添加し、80℃で10分間スパテルを用いて混練した。混練後の処理灰と未処理灰について溶出試験(環境庁公示13号)を行い溶出した鉛イオン濃度を測定した。結果を表2に示す。
表2から、実施例1〜8では、比較例1と同等の重金属固定効果を示すことがわかる。
【0049】

【表2】

【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の重金属固定化剤は、重金属の固定化効果を損なうことなく、重金属固定化剤の保存、輸送および使用の際の硫化水素や二硫化炭素などの有毒ガスの発生が抑制されたものであることから、焼却(飛)灰、鉱滓、土壌、汚泥などの固体粉末もしくはスラリーまたは工場排水、洗煙排水、廃棄物埋め立て処分地の浸出水などの水溶液または懸濁液中に存在する重金属を固定化して重金属の溶出を防止するために添加される薬剤として幅広く用いられる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジチオカルバミン酸(塩)(A)の水溶液にリン酸塩(B)と、カルボキシル基、スルホ基、水酸基、リン酸基、ホスホン酸基およびこれらのアルカリ金属塩基からなる群から選ばれる1種以上の官能基を有する数平均分子量1,000〜30,000のオリゴマー(C)を含有させてなる一液化重金属固定化剤。
【請求項2】
(B)がリン酸のアルカリ金属塩である請求項1記載の重金属固定化剤。
【請求項3】
(C)がカリウム塩である請求項1または2記載の重金属固定化剤。
【請求項4】
(A)、(B)および(C)の重量比が10〜99.5/0.5〜90/0.01〜10である請求項1〜3のいずれか記載の重金属固定化剤。
【請求項5】
重金属を含有する焼却(飛)灰処理用である請求項1〜4のいずれか記載の重金属固定化剤。
【請求項6】
ジチオカルバミン酸(塩)(A)の水溶液にリン酸塩(B)と、カルボキシル基、スルホ基、水酸基、リン酸基、ホスホン酸基およびこれらのアルカリ金属塩基からなる群から選ばれる1種以上の官能基を有する数平均分子量1,000〜30,000のオリゴマー(C)を含有させることを特徴とする重金属固定化剤の安定性改良方法。


【公開番号】特開2006−124683(P2006−124683A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−283498(P2005−283498)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】