説明

重金属成分を含有する処理対象物の処理及び該処理対象物からの重金属成分の回収方法

【課題】重金属成分を含有する処理対象物から容易に効率よく重金属成分を取り除くことができ、重金属成分を含有する処理対象物の処理を容易にし、且つ重金属成分を含有する処理対象物から容易に効率よく重金属成分を回収することができる、重金属成分を含有する処理対象物の処理及び該処理対象物からの重金属成分の回収方法を提供すること。
【解決手段】重金属成分を含有する処理対象物と磁性粉を水中に分散させた後、この分散液から、重金属成分を含有する微粒子及び磁性粉を磁気的な力で分離する工程(1)と、分離した重金属成分を含有する微粒子及び磁性粉を抽出剤水溶液中に分散させて、重金属成分を抽出剤水溶液中に抽出し、重金属成分を微粒子から抽出剤水溶液中に分離する工程(2)とからなることを特徴とする重金属成分を含有する処理対象物の処理及び該処理対象物からの重金属成分の回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、都市ごみや産業廃棄物等の焼却灰(炉底灰及び飛灰)、重金属成分に汚染された土壌、下水汚泥等の、亜鉛、銅、マンガン、鉛、カドミウム、クロム等の重金属成分を含有する処理対象物中から、該重金属成分を効率よく分離する、上記処理対象物の処理及び上記処理対象物からの重金属成分の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、都市ごみや産業廃棄物のほとんどは焼却処分されており、焼却物の9%が炉底灰、1%が飛灰として回収される。この炉底灰や飛灰は、亜鉛、銅、マンガン、鉛、カドミウム、クロム等の重金属を高い濃度で含有している。このため炉底灰や飛灰は有効利用されず、以下の方法で処理され廃棄されている。
【0003】
(1)セメント固化法:重金属成分を含有する処理対象物とセメントと水を混練し、固化してその内部に重金属成分を封じ込める方法である。この方法は、使用設備が簡単で特殊な設備を必要としない点は優れているが、養生処理を十分に行わないと、成形体が貯留中に崩壊する恐れがある。また、重金属成分の種類によっては、例えば鉛、クロムは、高pHで塩基性塩として溶解する可能性があり、さらに、成形体が酸に弱いため、近年の酸性雨で保管によっては重金属成分が再溶解する恐れがある。
【0004】
(2)溶融固化法:重金属成分を含有する処理対象物を1300℃以上の温度で加熱処理し、ガラス状態にして重金属成分を不溶化する方法である。この方法では、大幅に体積が小さくなる、重金属成分の溶出が少ない利点があるが、溶融させるために非常に高エネルギーを必要とし、設備が複雑で高コストである点、また高温での処理であるため比較的沸点の低い重金属成分(例えば鉛、カドミウム)は揮散してしまう問題がある。
【0005】
(3)薬剤処理法:重金属成分を含有する処理対象物とキレート剤と水を混練し、重金属成分とキレート剤を反応させ、金属キレート物として不溶化する方法である。この方法は、装置は簡単であるが、キレート剤が高価であること、鉛、クロム等のアルカリサイドで塩基性塩となりやすい物質は溶出防止が困難である等の問題がある。
【0006】
(4)酸抽出法:重金属成分を含有する処理対象物に酸を加え、重金属をイオン化して抽出し、種々の方法で重金属イオンを溶解度の低い化合物にし、不溶化する方法である。この方法では、炉底灰及び飛灰中の重金属成分を回収できる可能性を持つが、重金属成分を含有する処理対象物が、炉底灰や飛灰の場合には主成分がカルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属化合物、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属化合物であるため、処理で加えられる酸の大半はこれらアルカリ土類金属化合物、アルカリ金属化合物の中和に消費されるため、大量の酸が必要となり、結果として高コストになり、不経済になる問題がある。
【0007】
重金属成分に汚染された土壌の浄化でも上記4つの方法が用いられているが、同様の問題がある。
【0008】
上記方法の問題点を解決する方法として、種々の方法が提唱されており、代表的なものとして特許文献1〜4に記載されている方法等が挙げられる。
特許文献1及び特許文献2に記載されている方法は、焼却灰に、特許文献1では硫化鉄を、特許文献2では炭酸ガスを用いて重金属成分を不溶化するもので、重金属成分を不溶化した焼却灰は産業廃棄物として取り扱われる。これらの方法では、重金属成分を含有した不溶化処理された焼却灰の保管、処分がまた問題となる。
また、特許文献3及び特許文献4に記載されている方法は、焼却灰から重金属成分を抽出し、焼却灰を無害化する方法である。特許文献3では、アルカリ性下で、チオ硫酸ナトリウムとアンモニアイオンを含む水溶液で廃棄物を処理している。この特許文献3の方法は、重金属成分をアンモニア錯体、チオ硫酸錯体として水溶液中に抽出するものであるが、重金属成分の抽出率が約50%程度であり、満足のいく除去率ではなかった。また、特許文献4では、産業廃棄物の焼却灰を水に分散させ、重金属成分を水に抽出させ、その溶液をバイオマス由来の重金属吸着剤もしくはキレート樹脂、イオン交換樹脂で処理している。この特許文献4の方法は、重金属成分を抽出するために、重金属成分を含有する焼却灰を分散した懸濁液のpHを酸性サイド(pH=4〜8)に調整する必要があり、先に述べた酸抽出法と同様に多量の酸が必要となる問題がある。
【0009】
また、特許文献5には、焼却灰等の銅を含む廃棄物の硫酸浸出スラリーの濾液に、鉄を添加して液中の銅を析出させ、析出した銅を分離回収する方法が記載されているが、この方法は、鉄よりもイオン化傾向の大きい金属(亜鉛やクロム)を回収することはできず、また鉄とイオン化傾向の接近した金属(カドミウム)の回収も困難となる。加えて先に述べた酸抽出法と同様な問題を有する。
また、特許文献6及び7には、生活排水や工場廃水から重金属イオンを磁気的な力で分離回収する磁気分離浄化装置が記載されているが、これらの装置は、生活排水や工場廃水を対象としており、焼却灰、土壌、下水汚泥等の固形状物を処理することはできない。
【0010】
【特許文献1】特開2004−74051号公報
【特許文献2】特開2004−74100号公報
【特許文献3】特開2003−275707号公報
【特許文献4】特開2004−202449号公報
【特許文献5】特開2004−279971号公報
【特許文献6】特開平11−47632号公報
【特許文献7】特開平10−118518号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、前述した従来の重金属成分を含有する処理対象物の処理法の問題点を解消し、容易に効率よく重金属成分を含有する処理対象物から重金属成分を取り除くことができ、重金属成分を含有する処理対象物の処理を容易にし、且つ重金属成分を含有する処理対象物から容易に効率よく重金属成分を回収することができる、重金属成分を含有する処理対象物の処理及び該処理対象物からの重金属成分の回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、重金属成分を含有する処理対象物と磁性粉を水中に分散させた後、この分散液から、重金属成分を含有する微粒子及び磁性粉を磁気的な力で分離する工程(1)と、分離した重金属成分を含有する微粒子及び磁性粉を抽出剤水溶液中に分散させて、重金属成分を抽出剤水溶液中に抽出し、重金属成分を微粒子から抽出剤水溶液中に分離する工程(2)とからなることを特徴とする重金属成分を含有する処理対象物の処理及び該処理対象物からの重金属成分の回収方法を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法によれば、容易に効率よく重金属成分を含有する処理対象物から重金属成分を取り除くことができるため、重金属成分を含有する処理対象物の処理が容易であり、また重金属成分を含有する処理対象物から容易に効率よく重金属成分を回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の重金属成分を含有する処理対象物の処理及び該処理対象物からの重金属成分の回収方法を、その好ましい実施形態について詳細に説明する。
本発明の方法は、焼却灰等の重金属成分を含有する処理対象物から、この重金属成分を多く含有する微粒子部分を効率よく分離する工程(1)、該工程(1)で分離した微粒子から重金属成分を抽出し、回収する工程(2)の2つの工程からなる。
【0015】
まず上記工程(1)について説明する。
本工程(1)は、重金属成分を含有する処理対象物と磁性粉を水中に分散させる工程(a)、及び該工程(a)で得られた分散液から、重金属成分を含有する微粒子及び磁性粉を磁気的な力で分離する工程(b)からなる。
【0016】
本発明の処理対象である重金属成分を含有する処理対象物としては、例えば、都市ごみや産業廃棄物等の焼却灰(炉底灰及び飛灰)、重金属成分に汚染された土壌、下水汚泥等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。これらの焼却灰や重金属成分で汚染された土壌等の処理対象物中の重金属成分(例えば銅、鉛、カドミウム、クロム、マンガン等)は、主に焼却灰中の微粒子の表面や土壌中の粘土微粒子の表面に吸着している。
【0017】
本発明で使用される磁性粉は、磁性粉である限り限定されるものではなく、例えば、フェライトやマグネタイトのような磁性酸化物粉末、Fe粉のような金属粉、ステンレス粉のような合金粉末が使用できる。該磁性粉の平均粒子サイズは特に限定されないが、100μm以下の磁性粉が好ましく、さらに好適には10〜500nmの磁性粉が望ましい。磁性粉の平均粒子サイズが100μmを超える場合には、重金属成分を含有する処理対象物と磁性粉との混合時(水中分散時)に大きなエネルギーが必要となる。また、磁性粉の平均粒子サイズが10nm未満の場合には、磁気能力が小さく、磁石等を利用して微粒子部分を分離するのに多大なエネルギーを必要とする。また、コストの面から100μm以下の磁性酸化物粉末が望ましい。
【0018】
また、上記磁性粉としては、平均粒子径10nm〜100μm、好ましくは10〜500nm、比表面積0.01〜100m2 /g、好ましくは0.1〜70m2 /g、及び負荷磁場398kA/mにおける飽和磁化量50〜180Am2 /kgの磁性粉が好ましく、コストの面でより好ましくは、平均粒子径10〜500nm、比表面積0.1〜100m2 /g及び負荷磁場398kA/mにおける飽和磁化量50〜90Am2 /kgのマグネタイトである。
【0019】
上記磁性粉の製法は特に限定されるものではないが、フェライト及びマグネタイトについては湿式酸化法が望ましい。その一例としてマグネタイト粒子の製造法を以下に挙げる。第一鉄塩水溶液と、該第一鉄塩水溶液中の第一鉄塩に対し所定当量の水酸化アルカリ及び/又は炭酸アルカリを含む水溶液とを混合し、水酸化第一鉄コロイド及び/又は炭酸第一鉄コロイドを含む懸濁液を得る。次いで、この懸濁液(第一鉄塩反応水溶液)に60〜100℃の温度範囲に加熱しながら酸素含有ガスを通気して酸化反応を行い、マグネタイト粒子を生成させる方法である。また、第一鉄塩水溶液と、該第一鉄塩水溶液中の第一鉄塩に対し5〜20at%の第二鉄塩を含む水溶液とを混合し、次いで該第一鉄塩と第二鉄塩を含む混合水溶液に、該混合水溶液中の第一鉄塩及び第二鉄塩に対し所定当量の水酸化アルカリ及び/又は炭酸アルカリを含む水溶液を混合し、水酸化第一鉄と水酸化第二鉄コロイド及び/又は炭酸第一鉄と水酸化第二鉄コロイドを含む懸濁液を得る。次いで、この懸濁液を60〜100℃の温度範囲に加熱しながら酸素含有ガスを通気して酸化反応を行い、マグネタイト粒子を生成させる方法もある。このとき第一鉄塩と第二鉄塩に対する水酸化アルカリ及び/又は炭酸アルカリの当量比や反応温度を調整することにより、平均粒子径10〜500nm、比表面積0.1〜100m2 /g及び負荷磁場398kA/mにおける飽和磁化量50〜90Am2 /kgのマグネタイト粒子を得ることができる。
【0020】
上記マグネタイト粒子の製造法に用いられる第一鉄塩水溶液としては、塩化第一鉄水溶液、硫酸第一鉄水溶液、硝酸第一鉄水溶液等を使用することができる。また、第二鉄塩水溶液としては、塩化第二鉄水溶液、硫酸第二鉄水溶液、硝酸第二鉄水溶液等を使用することができる。また、水酸化アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水溶液及びアンモニア水等を使用することができる。また、炭酸アルカリ水溶液としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸アンモニウム等の炭酸アルカリ水溶液を使用することができる。
【0021】
反応温度は60℃〜100℃の温度範囲で本発明において磁性粉として使用し得るマグネタイトを製造することができるが、平均粒子径が10〜150nm、好ましくは10〜100nmのマグネタイトを得るには、反応温度は60〜70℃の温度範囲が望ましい。第一鉄塩と第二鉄塩に対する水酸化アルカリ及び/又は炭酸アルカリの当量比は、第一鉄塩と第二鉄塩の和に対し1.00〜1.50当量が好ましく、更に好ましくは1.10〜1.25当量である。また、第一鉄塩と第二鉄塩に対する水酸化アルカリの当量比が0.7〜1.5当量であることが好ましく、第一鉄塩と第二鉄塩に対する炭酸アルカリの当量比が0.3〜0.8当量であることが好ましい。第一鉄塩と第二鉄塩に対する水酸化アルカリ及び/又は炭酸アルカリの当量比が1.00当量より小さい場合、生成するマグネタイト粒子に未反応の鉄化合物、ゲーサイトが混在し、また該当量比が1.50当量を超えると、αオキシ水酸化鉄が混在してしまう。これらの化合物は非磁性であるため、溶液中からの磁気的な分離ができないので、これらの化合物が混在することは好ましくない。
【0022】
また、上記マグネタイト粒子の製造法において、Al、Si、Mn、Zn,Ca,Mg等の各種金属の塩を原料中又は酸化反応中に添加することにより、これら各種金属原子をマグネタイト粒子に含有させることができる。
【0023】
また、本発明において磁性粉として使用される金属粉も、その製法に制限されるものではなく、例えば、金属を機械的に処理し、微粒子粉末にする方法や、金属酸化物を水素気流中で還元し、金属粉を得る方法等により製造された金属粉を使用することができる。
【0024】
上記重金属成分を含有する処理対象物と上記磁性粉を水中に分散させる方法としては、特に制限されるものではなく、例えば該処理対象物と該磁性粉を水中に投入し、攪拌すればよい。攪拌条件は、特に制限されるものでなく、上記処理対象物と上記磁性粉が水中に分散し、混合できれば良い。
上記磁性粉の使用量は、上記重金属成分を含有する処理対象物100質量部に対し、好ましくは0.1〜1000質量部、より好ましくは1〜100質量部である。磁性粉の使用量が0.1質量部より少ないと、重金属成分の分離が困難となり、効率が低下する。また、磁性粉の使用量が1000質量部より多いと、コスト的に好ましくない。
また、水の使用量は、特に限定されるものではなく、分離が実施できる使用量でよいが、上記重金属成分を含有する処理対象物100質量部に対し、好ましくは100〜10000質量部、より好ましくは500〜5000質量部である。
【0025】
上記重金属成分を含有する処理対象物と上記磁性粉を水中に分散させた分散液から、重金属成分を含有する微粒子及び磁性粉を磁気的な力で分離する方法は、特に制限されないが、例えばソレノイド電磁石、希土類磁石、フェライト磁石等を使用する方法が挙げられる。
【0026】
本工程(1)により、重金属成分を含有する処理対象物から、この重金属成分を多く含有する微粒子部分を該重金属成分とともに効率よく分離することができる。
【0027】
次に、上記工程(2)について説明する。
本工程(2)は、上記工程(1)で分離した重金属成分を含有する微粒子及び磁性粉を抽出剤水溶液中に分散させて、重金属成分を抽出剤水溶液中に抽出する工程(c)、該抽出剤水溶液から、微粒子(重金属成分が抽出された微粒子)及び磁性粉を分離し、重金属成分を回収する工程(d)からなる。
【0028】
本工程(2)で使用する抽出剤としては、特に限定されるものではなく、例えば酸、塩、錯形成剤等が挙げられる。上記酸としては、例えば硫酸、塩酸、硝酸等の無機酸、酢酸、蟻酸、シュウ酸等の有機酸が挙げられ、排水中のBOD、CODの観点から無機酸の使用が好ましい。また、上記塩としては、例えば硫酸ナトリウム、硫化ナトリウム等が挙げられ、上記錯形成剤としては、例えばエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)等が挙げられる。
上記抽出剤水溶液の上記抽出剤濃度は、10-3〜5mol/Lが好ましく、より好ましくは0.1〜2.0mol/L、さらに好ましくは0.1〜1.0mol/Lである。抽出剤濃度が10-3mol/L未満であると、重金属イオンの抽出量が低下するほか、添加する抽出剤水溶液の量が多大になる。また、抽出剤濃度が5mol/L超であると、コストが高くなる。
また、上記抽出剤水溶液の使用量は、上記重金属成分を含有する処理対象物100質量部に対し、好ましくは100〜5000質量部、より好ましくは500〜1000質量部である。抽出剤水溶液の使用量が100質量部より少ないと、重金属イオンの抽出量が低下し、また抽出剤水溶液の使用量が5000質量部より多いと、コストが高くなる。
また、上記抽出剤水溶液の使用量は、上記抽出剤の量が、上記処理対象物中の重金属成分の含有量に対して1〜100000モル倍となる量であることが好ましく、10〜10000モル倍となる量であることが更に好ましい。
【0029】
上記工程(1)で分離した重金属成分を含有する微粒子及び磁性粉を上記抽出剤水溶液中に分散させる方法としては、特に制限されるものではなく、例えば該微粒子及び該磁性粉を上記抽出剤水溶液中に投入し、攪拌すればよい。攪拌条件は、特に制限されるものでなく、上記微粒子と上記磁性粉が上記抽出剤水溶液中に分散し、混合できれば良い。
このように重金属成分を含有する微粒子及び磁性粉を抽出剤水溶液中に分散させることによって、微粒子に含有される重金属成分が抽出剤水溶液中に抽出される。
【0030】
重金属成分が抽出された抽出剤水溶液から、微粒子(重金属成分が抽出された微粒子)及び磁性粉を分離する方法は、特に制限されるものではなく、上記工程(1)における「重金属成分を含有する処理対象物と磁性粉を水中に分散させた分散液から、重金属成分を含有する微粒子及び磁性粉を磁気的な力で分離する方法」と同様に、ソレノイド電磁石、希土類磁石、フェライト磁石等を使用する方法を採用することができる。また、上記抽出剤として、可溶性の酸、塩又は錯形成剤を使用した場合には、ろ過等で微粒子(重金属成分が抽出された微粒子)及び磁性粉を分離することもできる。
【0031】
また、重金属成分が抽出された抽出剤水溶液から、該重金属成分を回収する方法は、特に制限されるものではないが、鉛及びカドミウムは上記抽出剤水溶液の抽出剤として硫酸を使用すれば硫酸鉛、硫酸カドミウムとして回収できる。また、薬剤に硫化ナトリウムを使用すれば、鉛、カドミウム及び銅を硫化鉛、硫化カドミウム、硫化銅として回収できる。また、イオン交換樹脂、キレート樹脂を使用し、重金属成分を回収しても良い。
本工程(2)では、上記工程(1)において、重金属成分を含有する処理対象物中の重金属成分を多く含有する微粒子部分を、重金属成分を含まない大部分の処理対象物から分離してから、重金属成分を抽出剤で抽出するため、従来の上記(4)酸抽出法の様に多量の酸を必要とすることがなく、少量の抽出剤で重金属成分を効率的に抽出剤水溶液中に抽出することができる。
【0032】
本発明の方法により重金属成分が除去された処理対象物及び本発明で使用された磁性粉は、処理対象物が焼却灰であればコンクリートの材料として再利用が可能になり、土壌であれば埋め戻すことが可能になる。磁性粉がマグネシウムフェライトやマグネタイト、鉄粉であれば、使用後、コンクリートの材料として再利用しても地中に埋めても環境への負荷は小さい。磁性粉は重金属成分除去後、本発明の方法に再使用しても差し支えない。
【実施例】
【0033】
次に本発明の実施例を挙げるが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【0034】
<マグネタイト粒子の製造>
80Lの反応器に10L/minの窒素ガスを吹き込みながら、0.6mol/minの塩化第一鉄水溶液40Lと該第一鉄塩に対し4.8molの塩化第二鉄を添加し、水溶液を良く混合した。次いで該第一鉄塩と第二鉄塩を含む水溶液中の第一鉄塩及び第二鉄塩に対し0.6当量の水酸化アルカリ及び0.6当量の炭酸アルカリを含む水溶液20Lを混合し、水酸化第一鉄と水酸化第二鉄コロイド及び炭酸第一鉄と水酸化第二鉄コロイドを含む懸濁液を得た。次いで、この懸濁液(第一鉄塩反応水溶液)を60℃に加熱し、60℃の反応温度を維持しながら,窒素ガスの流通を停止し、空気を20L/min通気して酸化反応を行った。得られたマグネタイト粒子をろ過し、60℃の脱イオン水200Lで水洗した。水洗したマグネタイト粒子の一部を窒素気流下、120℃で乾燥した。得られたマグネタイト粒子をマグネタイト2とした。このマグネタイト2の平均粒子径は45nmであり、比表面積は25.5m2 /gであり、保磁力は13.30kA/mであり、負荷磁場398kA/mにおける飽和磁化量は78.1Am2 /kgであった。
【0035】
下記表1に示す製造条件とした以外は、マグネタイト2の製造法と同様にして、マグネタイト1及び3〜5をそれぞれ製造した。
【0036】
【表1】

【0037】
<マグネタイトの諸特性>
マグネタイト1〜5の諸特性を下記表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
マグネタイトの諸特性の測定は以下の測定法で実施した。
〔平均粒子径〕
マグネタイトの平均粒子径は「透過型電子顕微鏡 H−7600」(日立製作所社製)で撮影された写真より測定した。
〔比表面積〕
マグネタイトの比表面積は「マルチソーブ−12」(ユアサアイオニックス)を使用し、BET法にて測定した。
〔pH〕
JIS(Z−8802)に準じて測定を行った。即ち、マグネタイト試料5gに純水105mLを入れ、5分間煮沸し、ろ過後、溶液のpHを「pHメーターHM−30G」(東亜DKK社製)で測定を行った。
〔磁気特性〕
マグネタイトの磁気特性は「振動試料磁力計 VSM−3S」(東英工業社製)を使用し、外部磁場398kA/ m(5kOe)で測定した。
【0040】
実施例1<重金属成分を含む処理対象物の処理及び重金属成分の回収>
本実施例で使用した焼却灰(炉底灰及び飛灰)の蛍光X線分析による組成を下記表3に示す。
【0041】
【表3】

【0042】
また、上記焼却灰の原子吸光分析による重金属成分の含有量を下記表4に示す。重金属成分の測定は、環境省告示第19号の操作に従い、「偏光ゼーマン原子吸光分光光度計Z-6100」(日立製作所社製)を用い重金属イオンを測定した。
【0043】
【表4】

【0044】
上記焼却灰10gと上記平均粒子径45nmのマグネタイト2 0.5gを脱イオン水100mL中に入れ、20mm長の攪拌子を入れ、攪拌速度1500rpmで20分間攪拌した。攪拌後、得られた懸濁液中に磁石を入れ、磁石に引き付けられた物質(重金属成分を含有する微粒子及びマグネタイト2)を懸濁液中から分離した(操作1) 。その後、懸濁液をろ過した。ろ過残渣は0.83gであった。該ろ過残渣中に含まれる重金属成分の量及びろ液中に含まれる重金属成分の量を下記表5に示す。
【0045】
先の操作1で磁石に引き付けられた物質を1mol/Lの硫酸水溶液100mL中に入れ、20mm長の攪拌子を入れ、攪拌速度1500rpmで20分間攪拌した。この操作で白色の硫酸鉛が硫酸水溶液中に析出した。攪拌後、液中に磁石を入れ、磁石に引き付けられた物質を取り除いた(操作2) 。磁石に引き付けられた物質中に含まれる重金属成分の量及び液中に回収された重金属成分の量を下記表5に示す。
【0046】
下記表5に本実施例における実験操作の重金属成分の物質収支を示す。
【0047】
【表5】

【0048】
本発明によれば、例えば処理した焼却灰はセメントの材料に使用できるため二次的な廃棄物を生じることがなく、また重金属成分は抽出剤水溶液中に濃縮されるため有価金属として再度回収することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属成分を含有する処理対象物と磁性粉を水中に分散させた後、この分散液から、重金属成分を含有する微粒子及び磁性粉を磁気的な力で分離する工程(1)と、分離した重金属成分を含有する微粒子及び磁性粉を抽出剤水溶液中に分散させて、重金属成分を抽出剤水溶液中に抽出し、重金属成分を微粒子から抽出剤水溶液中に分離する工程(2)とからなることを特徴とする重金属成分を含有する処理対象物の処理及び該処理対象物からの重金属成分の回収方法。
【請求項2】
工程(2)の後、微粒子及び磁性粉を磁気的な力で抽出剤水溶液から分離する請求項1記載の方法。
【請求項3】
磁性粉が、平均粒子径10nm〜100μm、比表面積0.01〜100m2 /g及び負荷磁場398kA/mにおける飽和磁化量50〜180Am2 /kgの磁性粉である請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
磁性粉が、平均粒子径10〜500nm、比表面積0.1〜100m2 /g及び負荷磁場398kA/mにおける飽和磁化量50〜90Am2 /kgのマグネタイトである請求項1又は2記載の方法。
【請求項5】
抽出剤として酸、塩又は錯形成剤を使用する請求項1〜4の何れかに記載の方法。

【公開番号】特開2007−216143(P2007−216143A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−39704(P2006−39704)
【出願日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(000157119)関東電化工業株式会社 (68)
【出願人】(506054947)株式会社 正田商事 (1)
【Fターム(参考)】