説明

量子状態制御方法

【課題】量子ビットの量子状態に基づいて、量子ビットの量子状態を制御できるようにする。
【解決手段】まず、ステップS101で量子ビットに相互作用する状態で結合した量子状態検出器を動作させる読み出しパルスの量子状態検出器への照射を開始し、ステップS102で、読み出しパルスの照射により量子ビットが量子ビットのいずれかの状態に安定した後で量子ビットの量子状態を90度回転させるパルス幅の第1制御パルスを量子ビットに照射し、ステップS103で、第1制御パルスが照射されてからπ/(2Δω)の後の量子ビットの量子状態を所望の角度回転させる所望のパルス幅の第2制御パルスの照射、および、第1制御パルスが照射されてからπ/Δωの後の量子ビットの量子状態を所望の角度回転させる所望のパルス幅の第3制御パルスの照射の少なくとも1つの照射を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子ビットの量子状態を制御する量子状態制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
量子状態を利用する量子ビットは、熱エネルギーによる量子状態の破壊を避けるため、多くの場合、極低温の環境で実現されている。また、量子ビットを測定したときに得られる信号は、小さいことが多く、十分な精度で測定するためには、フィルターや増幅器が欠かせない。
【0003】
例えば、量子状態の制御では、図8に示すように、まず、冷凍機801の内部に配置した量子ビット802の量子状態を検出器803で検出し、検出した信号を測定装置804の測定部805で測定し、パルス生成部806で制御パルスを生成する。生成した制御パルスは制御線807に伝送され、量子ビット802を制御する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】I. Siddiqi et al. ,"RF-Driven Josephson Bifurcation Amplifier for Quantum Measurement", Phys. Rev. Lett. , vol.93, no.20, 207002, 2004.
【非特許文献2】A. LUPASCU et al. ,"Quantumnon-demolitionmeasurement of a superconducting two-level system", Nature Physics, vol.3, pp.119-123, 2007.
【非特許文献3】N. Boulant et al. , "Quantum nondemolition readout using a Josephson bifurcation amplifier", Physical Review B, vol.76, 014525, 2007.
【非特許文献4】K. Kakuyanag et al. , "Readout strength dependence of state projection in superconducting qubit", http://arxiv.org/abs/1004.0182v2.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上述した量子状態の制御では、量子状態の情報を得るために、冷凍機801内の量子ビットの状態を検出した検出器803より出力される微小な信号を、冷凍機801の内部や外部のフィルター(不図示)や増幅器(不図示)を用いて十分大きな信号にしている。このため、得られた量子状態の情報をもとにして量子状態の制御を行おうとすると、フィルターや配線による遅延、および、得られた量子状態の情報をもとに量子ビット802の制御パルスを生成するための遅延などが発生してしまう。
【0006】
量子ビットを利用する量子演算は、コヒーレンス時間内に行う必要がある。しかしながら、上述した遅延のために、量子状態に基づく量子状態制御をコヒーレンス時間内に実現することは容易ではないという問題があった。
【0007】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、量子ビットの量子状態に基づいて、量子ビットの量子状態を制御できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る量子状態制御方法は、少なくとも一組の量子ビットと、量子ビットと相互作用して量子状態を検出した後にこの検出結果を保持する量子状態検出器とを有する量子装置の制御を行う量子状態制御方法において、量子ビットと量子状態検出器との相互作用による量子状態の検出結果に応じたエネルギー変化をした量子ビットを、任意の量子状態に変化させる。
【0009】
上記量子状態制御方法において、量子状態検出器による量子状態の検出は、読み出しパルスの量子状態検出器への照射により行い、任意の量子状態の生成は、量子ビットの量子状態を回転させる制御パルスを量子ビットに照射することで行い、制御パルスの照射は、エネルギー変化をした後の量子ビットに対して読み出しパルスの照射中に行うようにすればよい。例えば、量子ビットへの制御パルスの照射は、量子ビットの量子状態を90°回転させるパルス幅の制御パルスの照射を含む。
【0010】
また、本発明に係る量子状態制御方法は、量子ビットに相互作用する状態で結合した量子状態検出器を動作させる読み出しパルスの量子状態検出器への照射を開始する第1ステップと、読み出しパルスの照射により量子ビットが量子ビットのいずれかの固有状態に射影した後で量子ビットの量子状態を90°回転させるパルス幅の第1制御パルスを量子ビットに照射する第2ステップと、第1制御パルスが照射されてからπ/(2Δω)の後の量子ビットの量子状態を所望の角度回転させる所望のパルス幅の第2制御パルスの照射、および第1制御パルスが照射されてからπ/Δωの後の量子ビットの量子状態を所望の角度回転させる所望のパルス幅の第3制御パルスの照射の少なくとも1つの照射を行う第3ステップと、第1制御パルスを照射してからπ/Δωの後の所望の時間後に読み出しパルスの照射を停止する第4ステップとを少なくとも備え、Δωは、量子ビットの2つの励起状態のエネルギーの変化分である。
【0011】
上記量子状態制御方法において、第3ステップは、第1制御パルスが照射されてからπ/(2Δω)の後に、量子ビットの量子状態を所望の角度回転させる所望のパルス幅の第2制御パルスを量子ビットに照射する第5ステップと、第2制御パルスが照射されてからπ/(2Δω)の後に、量子ビットの量子状態を所望の角度回転させる所望のパルス幅の第3制御パルスを量子ビットに照射する第6ステップとを備え、第4ステップでは、第3制御パルスを照射してから所望の時間後に読み出しパルスの照射を停止するようにすればよい。
【0012】
上記量子状態制御方法において、量子状態検出器は、読み出しパルスに応じてジョセフソン分岐読み出し動作を行うことにより、量子ビットの磁束に応じて位相が変化した応答パルスを出力する超伝導量子干渉計と、読み出しパルスが入力される入力端と、超伝導量子干渉計からの応答パルスを出力する出力端と、入力端および出力端に接続された超伝導量子干渉計を含む共振器とを備えるものであればよい。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、読み出しパルスを照射している間に、各制御パルスを量子ビットに照射するなど、量子ビットと量子状態検出器との相互作用による量子状態の検出結果に応じたエネルギー変化をした量子ビットを、任意の量子状態に変化させるようにしたので、固有状態に射影した量子ビットの量子状態に基づいて、量子ビットの量子状態を制御できるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の実施の形態における量子状態制御方法を説明するフローチャートである。
【図2】図2は、量子ビットの量子状態の制御の概念を示す説明図である。
【図3】図3は、制御対象となる量子ビットおよび量子状態検出器を含むシステムの構成を示す構成図である。
【図4】図4は、ジョセフソン分岐増幅の分岐の状態、および共振器の状態に対応する量子ビットのエネルギー状態を示す説明図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態における量子状態制御の1例を示すシーケンス図である。
【図6】図6は、図5のシーケンスに対応する量子ビットの量子状態をブロッホベクトルによって示す説明図である。
【図7】図7は、量子状態検出器で検出されている量子状態が基底状態の場合に、この量子状態を反転させるための制御を説明するための説明図である。
【図8】図8は、量子状態を帰還制御する制御システムの構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態における量子状態制御方法を説明するフローチャートである。この量子状態制御方法は、まず、ステップS101で、量子ビットに相互作用する状態で結合した量子状態検出器を動作させる読み出しパルスの量子状態検出器への照射を開始する。
【0016】
次に、ステップS102で、読み出しパルスの照射により量子ビットが量子ビットのいずれかの固有状態に射影した後で量子ビットの量子状態を90°回転させるパルス幅の第1制御パルスを量子ビットに照射する。
【0017】
次に、ステップS103で、第1制御パルスが照射されてからπ/(2Δω)の後の量子ビットの量子状態を所望の角度回転させる所望のパルス幅の第2制御パルスの照射、および、第1制御パルスが照射されてからπ/Δωの後の量子ビットの量子状態を所望の角度回転させる所望のパルス幅の第3制御パルスの照射の少なくとも1つの照射を行う。
【0018】
例えば、第1制御パルスが照射されてからπ/(2Δω)の後に、量子ビットの量子状態を所望の角度回転させる所望のパルス幅の第2制御パルスを量子ビットに照射し、次に、第2制御パルスが照射されてからπ/(2Δω)の後に、量子ビットの量子状態を所望の角度回転させる所望のパルス幅の第3制御パルスを量子ビットに照射すればよい。
【0019】
次に、ステップS104で、第3制御パルスを照射してから所望の時間後に読み出しパルスの照射を停止する。
【0020】
なお、上記Δωは、量子ビットの2つの励起状態のエネルギーの変化分である。
【0021】
上述した実施の形態における量子状態制御方法によれば、第2制御パルスのパルス幅、第3制御パルスのパルス幅、および第3制御パルスを照射してから読み出しパルスの照射を停止するまでの時間を、適宜に設定することで、読み出しパルスの照射によりいずれかの固有状態に射影した後の量子ビットの量子状態に基づいて、量子ビットの量子状態が制御できるようになる。ここで、第2制御パルスのパルス幅を0とすれば、第2制御パルスの照射はせずに、第3制御パルスを照射することになる。また、第3制御パルスのパルス幅を0とすれば、第3制御パルスは照射しないことになる。
【0022】
以下、量子ビットの量子状態制御についてより詳細に説明する。
【0023】
はじめに、概要について説明する。まず、本実施の形態による量子状態制御方法では、量子ビットおよびこの量子ビットと結合した量子状態検出器を備える構成が制御対象となる。量子状態検出器と量子ビットとの間には相互作用があり、量子状態検出器の状態は、測定時の量子ビットの状態を反映して当該状態を保持する。また、量子ビットも、量子状態検出器の状態を反映し、量子ビットのエネルギーを僅かに変化させる。
【0024】
ここで、本発明では、図2に示すように、まず、読み出しパルスの照射により、未知状態|Ψ〉201の量子ビットの量子状態が、量子状態検出器により検出202される状態となる。この後、量子状態検出器で検出202されている状態|g〉203もしくは状態|e〉204に制御操作205を加える。前述した各制御パルスの量子ビットへの照射が、制御操作205である。これにより、量子ビットを、所望とする第1任意状態206もしくは第2任意状態207の状態にする。
【0025】
なお、図2において、第1任意状態206もしくは第2任意状態207を示す式では、θ1およびθ2は、|g〉を北極の方向に向いた状態に対応させ、|e〉を南極の方向に向いた状態に対応させたブロッホ球表示において、量子状態の変化に対応する緯度に相当している。また、φは、上記ブロッホ球表示において、量子状態の変化に対応する経度に相当している。
【0026】
上述したように、本発明では、量子ビットの状態を検出した量子状態検出器によって量子ビットのエネルギーが変化することを利用し、量子状態検出器が検出している量子状態を他の領域に出力することなく、量子ビットの量子状態に応じた任意の状態を制御・形成している。このため、本発明では、量子状態の測定(検出)における遅延など、量子状態の測定結果(検出結果)を反映させることによる遅延が発生せず、高速な量子状態の制御が実現できる。
【0027】
次に、制御対象となる量子ビットおよび量子状態検出器を含むシステムの構成について説明する。ここでは、量子ビットが超伝導磁束量子ビットであり、量子状態検出器がジョセフソン分岐増幅によるものである場合について説明する。ジョセフソン分岐増幅は、非線形共振器の双安定状態を利用し、被測定系の微小変化によって共振器の収束する安定状態が変化するように駆動することで、被測定系の変位を共振器の共振状態の違いとして検出するものである。
【0028】
図3に示すように、量子状態検出器301は、SQUID(超伝導量子干渉計)303、第1共振回路304、第2共振回路305を備えている。SQUID303は、対応する量子ビット302と磁気的に結合して設けられ、入力された読み出しパルスに応じてジョセフソン分岐読み出し動作を行う機能を有している。第1共振回路304は、量子状態検出器301の入力端とSQUID303との間に接続され、第2共振回路305は、SQUID303と量子状態検出器301の出力端との間に接続される。SQUID303、第1共振回路304、および第2共振回路305で、共振器を構成している。
【0029】
量子ビット302は、例えば寸法が5μm角程度であり、誘電体基板(不図示)上に形成されたアルミニウムなどの超伝導ループから構成されており、この超伝導ループ上に3つのジョセフソン接合を含んでいる。なお、図3において、ジョセフソン接合は、「×」で示している。量子ビット302の超伝導ループを流れる右回り「|e>」と左回り「|g>」の超伝導電流が、量子ビット302の2つの状態に対応する。
【0030】
SQUID303は、例えば7μm四方のサイズで、上記誘電体基板上で量子ビット302の外側を囲むように形成されたアルミニウムなどの超伝導ループから構成されている。SQUID303は、超伝導ループ上に2つのジョセフソン接合を含んでいる。
【0031】
量子ビット302の超伝導ループを流れるループ電流の向きが変わると、SQUID303の中を貫く磁束量子の量が変化し、この磁束量子の変化に応じてSQUID303のジョセフソンインダクタンスが0.1%程度変わる。この変化によって駆動時の安定状態が変わるように、読み出しパルスの強度や周波数を調節することで、量子ビット302の量子状態を応答パルスの位相および振幅の変化として検出することができる。
【0032】
これら量子ビット302およびSQUID303の製造方法や構成については公知の技術に基づくものであり、ここでの詳細な説明は省略する。
【0033】
第1共振回路304は、量子ビット302およびSQUID303と同一の誘電体基板上に形成されている。第2共振回路305も、量子ビット302およびSQUID303と同一の誘電体基板上に形成されている。
【0034】
また、量子ビット302の近傍には、制御線306が設けられている。制御線306も、量子ビット302およびSQUID303と同一の誘電体基板上に形成されている。
また、上記誘電体基板は、冷凍機300に収容され、量子ビット302およびSQUID303などに、超伝導電流が流れる温度に冷却されている。
【0035】
また、量子状態検出器301の、入力端には、読み出しパルス生成部311が接続し、制御線306には、制御パルス生成部312が接続し、量子状態検出器301の出力端には、増幅器307を介して信号検出部313が接続されている。読み出しパルス生成部311,制御パルス生成部312,および信号検出部313は、例えば、冷凍機300の外部に配置された測定装置310内に設けられている。
【0036】
共振器である量子状態検出器301の共振周波数は、容量素子の電極面積や電極間距離、あるいは伝送線路の線路長など、各々の素子の物理的属性値より調整すればよい。
【0037】
このようなSQUID303に第1共振回路304,第2共振回路305を接続して構成した量子状態検出器301に、読み出しパルス生成部311より出力されたマイクロ波の読み出しパルスを照射すると、非線形性に起因して2つの状態のいずれかに安定する。したがって、この双安定状態において、量子ビット302とSQUID303とを相互作用させれば、量子状態検出器301がどちらの安定状態(高振幅状態または低振幅状態)に収束するかに基づいて、量子ビット302の量子状態を読み出すことができる。なお、高振幅状態と低振幅状態とは、基準の振幅状態に対するものではなく、各々を比較した状態を示しており、高振幅状態は、低振幅状態より高い振幅の状態であることを示している。
【0038】
また、制御パルス生成部312より、第1制御パルス,第2制御パルス,および第3制御パルスを出力し、制御線306により量子ビット302に照射する。
【0039】
ここで、読み出しパルスの照射を開始し、一度、安定状態が実現すると、読み出しパルスのテールが持続している(読み出しパルスの照射が継続している)間は、当該状態を保持する。量子状態検出器301と量子ビット302とは、結合している。このため、上述したように読み出しパルスの照射が継続されていずれかの状態に安定しているとき、量子ビット302は、量子状態検出器301の振幅に依存するエネルギーシフトを受ける。
【0040】
このエネルギーシフトの状態を図4に示す、図4において、灰色と黒色とで異なるエネルギー状態を示しており、これらの間のエネルギーシフトがΔωである。図4は、ジョセフソン分岐増幅の分岐の様子と共振器の状態に対応する量子ビットのエネルギーを示しており、灰色と黒色とで異なるエネルギー状態を示している。共振器を読み出しパルスで駆動すると、量子ビットの状態に応じて、高振幅状態(灰色)または低振幅状態(黒色)で共振する。この共振器の状態は、読み出しパルスを照射している間は保持される。量子ビットが励起状態のときに共振器が高振幅状態になると、量子ビットはエネルギーシフトを受けるため、共振器が低振幅状態の場合よりも、量子ビットの共鳴周波数が、エネルギーシフトΔωに相当する値だけずれる。このエネルギーシフトΔωは、ジョセフソン分岐増幅などの測定により、予め求めておけばよい。
【0041】
本発明では、図5に示すように、上述した読み出しパルス501の照射を継続している間において、3つの第1制御パルス502,第2制御パルス503,および第3制御パルス504を、量子ビットに照射する。なお、各々のパルスは、共振器の状態による量子ビットのエネルギーシフトの逆数時間よりも十分に短いので、各々のパルスによる量子ビット状態のラビ(Rabi)回転角は、よい近似で、量子ビットのエネルギーシフトには依存しないと考えられる。
【0042】
読み出しパルス501の照射を終了した後で検出される状態は、「共振器が低振幅状態で量子ビットが基底状態」、または「共振器が高振幅状態で量子ビットが励起状態」であり、共振器の状態は、読み出しパルス501の照射中、保持される。
【0043】
以下、読み出しパルス501の照射中における各制御パルスの照射による量子状態の変化について、図6を用いて説明する。図6では、量子状態をブロッホ球表示しており、量子状態|g〉を北極の方向に向いた状態に対応させ、量子状態|e〉を南極の方向に向いた状態に対応させて示している。
【0044】
まず、第1制御パルス502の照射によって、図6の(a)から図6の(b)に示すように、量子ビットの量子状態は90°回転する。この後、共振器が高振幅状態(量子ビットが励起状態に対応)の場合には、量子ビットのエネルギーがシフトするので、量子状態の位相が変化する。この変化は、ブロッホ球で経度の変化に相当する。この位相が90°回転する時間がτπ/2[=π/(2Δω)]であり、時間τπ/2の後で、図6の(c)に示す状態となる。時間τπ/2が経過して図6の(c)に示す状態となったら、量子ビットの量子状態を所望の角度αだけ回転させる所望のパルス幅の第2制御パルス503を量子ビットに照射する。第2制御パルス503は、位相が90°(π/2)ずれた状態には寄与しないので、共振器が低振幅状態となっている量子ビットの量子状態にのみ作用する(図6の(d))。
【0045】
更に、時間τπ/2の後(図6の(e))に、量子ビットの量子状態を所望の角度βだけ回転させる所望のパルス幅の第3制御パルス504を量子ビットに照射する。この照射により、まず、位相が0°で低振幅状態(量子ビットが基底状態に対応)の場合には、基底状態からθ1=α+β+π/2だけ回転した状態となる。また、位相が0°で高振幅状態では、基底状態からθ2=β+π/2だけ回転した状態となる(図6の(f))。
【0046】
この後、高振幅状態の量子状態の位相が、φだけ回転するのを待って(図6の(g))、読み出しパルス501の照射を停止すれば、読み出しパルス501の照射により、量子状態検出器が検出している量子状態に応じた、任意の量子状態を形成することができる。
【0047】
実例を挙げて説明すると、量子状態検出器が検出している量子状態が基底状態のときに量子状態を反転させて励起状態にし、量子状態検出器が検出している量子状態が励起状態のときには、このままにする例を挙げると、θ1=π、θ2=πなので、α=0、β=π/2である。
【0048】
図7に示すように、読み出しパルス701の照射を開始してから所定の時間が経つと、図7の(a)に示すような量子状態を反映して量子状態検出器の共振器が安定状態になる。この状態となってから、量子ビットの量子状態をπ/2回転させるパルス幅の2つの制御パルス702,703を、間隔τπ(=π/Δω)で照射することで、量子状態検出器が検出している量子状態が基底状態のときのみ、量子ビットの量子状態を反転させることができる。
【0049】
読み出しパルス701の照射により、図7の(a)に示すように量子状態が固有状態に射影されたのち、制御パルス702の照射により、図7の(b)に示すように、量子ビットの量子状態は90°回転する、この後、時間τπ(=π/Δω)が経過すると、図7の(c)に示すように、初めに励起状態であった量子状態の位相は180°回転した状態となる。この状態で、制御パルス703を照射すれば、読み出しパルス701の照射を停止した後、図7の(d)に示すように、基底状態であった量子ビットの量子状態のみが反転する。
【0050】
なお、各制御パルスのパルス幅は、量子ビットに照射するマイクロ波の振幅強度を含む各条件を固定しておき、前もってラビ振動を測定し、cos(ωt)状の振動の時間依存性から決定すればよい。量子ビットのエネルギーシフトの大きさは、おおよそ数〜数十MHzのオーダーであり、各制御パルスのパルス幅は、各数ns(<<数十〜数百ns)である。照射するマイクロ波の振幅を選択することで、第1制御パルス,第2制御パルス,および第3制御パルスの各々のパルス幅は、数nsのオーダーにすることが可能である。
【0051】
以上に説明したように、本発明は、少なくとも一組の量子ビットと、量子ビットと相互作用して量子状態を検出した後にこの検出結果を保持する量子状態検出器とを有する量子装置の制御を行う量子状態制御方法において、量子ビットと量子状態検出器との相互作用による量子状態の検出結果に応じたエネルギー変化をした量子ビットに、量子状態検出器が検出した検出結果に応じて任意の量子状態を生成するようにしたところに特徴がある。ここで、上述した実施の形態で例を示したように、量子状態検出器による量子状態の検出は、読み出しパルスの量子状態検出器への照射により行い、任意の量子状態の生成は、量子ビットの量子状態を回転させる制御パルスを量子ビットに照射することで行い、制御パルスの照射は、エネルギー変化をした後の量子ビットに対して読み出しパルスの照射中に行うようにすればよい。例えば、量子ビットへの制御パルスの照射は、量子ビットの量子状態を90°回転させるパルス幅の制御パルスの照射を含む。
【0052】
本発明によれば、簡単な構成によって高速な量子状態の制御が可能となるので、量子演算においてコヒーレンス時間を有効に使う点で大きな利点である。また、本発明を利用することにより、高速な量子状態の初期化や量子ビットの冷却なども可能になる。またC−NOT演算と組み合わせることによって測定結果に応じて他の量子ビットを自由に制御することが可能であり、これは量子エラー訂正などに欠かせない技術である。
【0053】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形が実施可能であることは明白である。例えば、量子ビットへの制御パルスの照射は、量子ビットの量子状態を90°回転させるパルス幅の制御パルスの照射のみでもよい。また、例えば、量子状態の検出は、ジョセフソン分岐増幅に限るものではなく、他の検出技術を用いるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0054】
300…冷凍機、301…量子状態検出器、302…量子ビット、303…SQUID(超伝導量子干渉計)、304…第1共振回路、305…第2共振回路、306…制御線、307…増幅器、310…測定装置、311…読み出しパルス生成部、312…制御パルス生成部、313…信号検出部、341,351…容量素子、342,352…伝送線路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一組の量子ビットと、
前記量子ビットと相互作用して量子状態を検出した後にこの検出結果を保持する量子状態検出器とを有する量子装置の制御を行う量子状態制御方法において、
前記量子ビットと前記量子状態検出器との相互作用による量子状態の検出結果に応じたエネルギー変化をした前記量子ビットを、任意の量子状態に変化させる
ことを特徴とする量子状態制御方法。
【請求項2】
請求項1記載の量子状態制御方法において、
前記量子状態検出器による量子状態の検出は、読み出しパルスの前記量子状態検出器への照射により行い、
前記任意の量子状態の生成は、前記量子ビットの量子状態を回転させる制御パルスを前記量子ビットに照射することで行い、
前記制御パルスの照射は、前記エネルギー変化をした後の前記量子ビットに対して前記読み出しパルスの照射中に行う
ことを特徴とする量子状態制御方法。
【請求項3】
請求項2記載の量子状態制御方法において、
前記量子ビットへの制御パルスの照射は、前記量子ビットの量子状態を90°回転させるパルス幅の制御パルスの照射を含むことを特徴とする量子状態制御方法。
【請求項4】
量子ビットに相互作用する状態で結合した量子状態検出器を動作させる読み出しパルスの前記量子状態検出器への照射を開始する第1ステップと、
前記読み出しパルスの照射により前記量子ビットが前記量子ビットのいずれかの固有状態に射影した後で前記量子ビットの量子状態を90°回転させるパルス幅の第1制御パルスを前記量子ビットに照射する第2ステップと、
前記第1制御パルスが照射されてからπ/(2Δω)の後の前記量子ビットの量子状態を所望の角度回転させる所望のパルス幅の第2制御パルスの照射、および前記第1制御パルスが照射されてからπ/Δωの後の前記量子ビットの量子状態を所望の角度回転させる所望のパルス幅の第3制御パルスの照射の少なくとも1つの照射を行う第3ステップと、
前記第1制御パルスを照射してからπ/Δωの後の所望の時間後に前記読み出しパルスの照射を停止する第4ステップと
を少なくとも備え、
前記Δωは、前記量子ビットの2つの励起状態のエネルギーの変化分であることを特徴とする量子状態制御方法。
【請求項5】
請求項4記載の量子状態制御方法において、
前記第3ステップは、
前記第1制御パルスが照射されてからπ/(2Δω)の後に、前記量子ビットの量子状態を所望の角度回転させる所望のパルス幅の第2制御パルスを前記量子ビットに照射する第5ステップと、
前記第2制御パルスが照射されてからπ/(2Δω)の後に、前記量子ビットの量子状態を所望の角度回転させる所望のパルス幅の第3制御パルスを前記量子ビットに照射する第6ステップと、
を備え、
前記第4ステップでは、前記第3制御パルスを照射してから所望の時間後に前記読み出しパルスの照射を停止することを特徴とする量子状態制御方法。
【請求項6】
請求項4または5記載の量子状態制御方法において、
前記量子状態検出器は、
前記読み出しパルスに応じてジョセフソン分岐読み出し動作を行うことにより、前記量子ビットの磁束に応じて位相が変化した応答パルスを出力する超伝導量子干渉計と、
前記読み出しパルスが入力される入力端と、
前記超伝導量子干渉計からの応答パルスを出力する出力端と、
前記入力端および前記出力端に接続された前記超伝導量子干渉計を含む共振器と
を備えることを特徴とする量子状態制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図4】
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