説明

量子通信システム

【課題】ビット誤りとは異なる方法で、なりすまし盗聴を判別する量子通信システムを提供する。
【解決手段】ゼロまたはπで位相変調された一定の時間間隔Tの光パルス列をパルス当り平均1光子未満で、少なくとも2つ以上連続する光子数ゼロのパルスを含む光パルス列として送信する送信機300と、光パルス列を受信し、長経路316および短経路317の光パルス列に分岐し、長経路316の光パルス列を一定の時間間隔Tだけ遅延させた後、分岐した光パルス列を合波する合波カップラ312を含む受信機310と、送信機300と受信機310の間で光パルス列を伝送する伝送路320を備えた量子通信システムであって、合波カップラ312により合波された光パルス列は、光子数ゼロのパルスを少なくとも1つ以上含み、その存在により盗聴の有無を検出できる量子通信システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子通信システムに関する。より詳細には、位相変調した光パルス列の相対的位相差を検知して、盗聴を発見する量子通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、暗号技術としては数式の数学的な計算困難性(例えば、解読のための計算に膨大な時間がかかる)を基礎にした暗号方式が使用されてきたが、最近では、光子1個レベルの光を用いることにより、物理的に安全性が保証された量子暗号通信の研究が進められている。
【0003】
量子暗号は、量子力学の理論を用いた暗号技術であって、盗聴しても内容が無意味なものになってしまい、かつ盗聴されたことも分かる究極の暗号技術として知られている。
【0004】
量子通信の分野では、互いに離れた地点に存在する2者間で暗号通信を行うための秘密鍵を供給するシステムが知られており、そのシステムは、量子鍵配送システムとも呼ばれている。
【0005】
量子鍵配送システムには、各種方式が存在するが、本明細書では従来技術として、「差動位相シフト量子鍵配送システム」(非特許文献1参照)について説明する。
【0006】
図1は、従来技術の「差動位相シフト量子鍵配送システム」の基本構成を示す。
【0007】
送信機100は、0またはπで任意に位相変調した一定間隔のコヒーレント光パルス列を、パルス当り平均1光子未満(例えば、0.1光子/パルス)で伝送路120を介して、受信機110に送出する。平均光子数1個未満という状態は、通常のレーザ光を大きく減衰させることにより実現することができる。
【0008】
このような光パルス列から光子を検出する場合、あるパルスでは光子が検出され、あるパルスでは何も検出されないという検出結果となる。どのパルスで光子が検出されるかは、測定するまで不確定である。
【0009】
図1に示すように、送信機100より送出された光パルス列は、伝送路120を介して受信機110に到達する。まず、受信機110は、光分岐手段111を使用して、送信機100より受信した光パルス列をエネルギー的に等分になるよう2つに分岐し、分岐した各光パルス列を長経路115および短経路116に送出する。長経路115では、光パルス列に一定の遅延(本明細書では、時間T)を加える。その後、長経路115および短経路116を通った光パルス列は、2×2合波カップラ112にて再び合波する。2×2合波カップラ112は、2つの入力端子(長経路115および短経路116にそれぞれ接続されている)を備え、長経路115および短経路116を通った光パルス列を受け入れる。また、2×2合波カップラ112は、2つの出力端子も備え、それぞれの出力端子は、光子検出器1(113)、および光子検出器2(114)に接続される。
【0010】
上記長経路115で一方の光パルス列に与えられる一定の遅延時間Tは、送信機100から伝送路120を介して受信機110に入力される光パルス列の一定間隔Tに等しいものと仮定すると(図1においてTで示す)、2×2合波カップラ112では、前後のパルスが重なり合って合波される。
【0011】
受信機110に入力された光パルス列は、0またはπで位相変調されている。したがって、受信機110内の分岐・合波回路の伝播位相が適当であれば、重なり合うパルスの位相差は0またはπとなる。
【0012】
2×2合波カップラ112での合波の結果、両パルスは干渉し、位相差が0なら光子検出器2(114)が光子を検出し、位相差πなら光子検出器1(113)が光子を検出する。
【0013】
上記構成を用いて、送信機100と受信機110は、以下の手順により秘密鍵を得る。
【0014】
まず、受信機110は、上記構成により送信機100より送出され、伝送路120を経たパルスから光子を検出する。この際、受信機110は、光子を検出した時刻と検出器を記録する。所定の数の光子が受信された後、受信機110は送信機100に対して光子が検出された時刻(光子検出時刻)を通知する。
【0015】
送信機100は、通知された光子検出時刻と送信機自身の有する位相変調データとから、受信機110が光子検出器1(113)または光子検出器2(114)のいずれかで光子を検出したかを知ることができる。
【0016】
そこで、光子検出器1(113)で光子を検出した場合をビット「0」、光子検出器2(114)で光子を検出した場合をビット「1」と予め取り決めておけば、送信機100と受信機110は、双方で同じビット列を得ることができる。
【0017】
上記手順においては、受信機110から送信機100へ通知されるのは光子検出時刻のみであるため、ビット情報は受信機100の外部に出ることはなく、盗聴されることはない。
【0018】
また、他の従来技術について説明すると、さらに高度な盗聴法である、なりすまし法と呼ばれる方法がある。
【0019】
図2は、従来技術である、なりすまし盗聴の説明図である。
【0020】
盗聴者は、伝送路220の途中で、送信機200によって送出された伝送信号を本来の受信機210と同様の機器構成で受信し、その受信結果に基づいてダミー信号を本来の受信機210に光送信機231を用いて送信する。盗聴者が伝送信号を正しく受信できれば、ダミー信号は元の送信信号と同一であり、受信機210に盗聴行為が気付かれないようにして情報を得ることができる。
【0021】
しかしながら、「差動位相シフト量子鍵配送システム」においては、送信信号はパルス当り平均1光子未満(例えば0.1光子/パルス)の光パルス列であるため、このような送信信号を受信しても、10パルスあたり1回しか光子は検出されない。
【0022】
したがって、盗聴者は、光子を検出した時刻に対応する2つのパルスの位相差は分かるが、それ以外の場合の位相差は検出できない。
【0023】
盗聴者がこのような検出結果に基づいてダミー信号を送ろうとすると、位相差が検出できなかったパルスについては、当て推量で選んだ位相を割り振って再送するか(なりすまし盗聴1)、何も信号を出さないか(なりすまし盗聴2)、のいずれかの方法を採るしかない。
【0024】
前者の場合(なりすまし盗聴1)、当て推量で選んだ位相差を受信機210が検出した際、送信機200が送った信号と異なる信号となる可能性が高い。後者の場合(なりすまし盗聴2)、やはり信号の不一致が生じる。その理由は、この場合に盗聴者が送るのは光子を検出した時刻に対応する連続する2パルスを含む光パルス列であるが、孤立した連続する2つのパルス以外は空のパルスだからである。つまり、孤立した連続する2つのパルスを受信機210が受信すると、分岐・合波回路から出力される段階では3つの時刻で光子が検出され得る(図2参照)。
【0025】
図2を参照して説明すると、図2では、光分岐手段211にて分岐された光パルス列のうち、遅延されない光パルス列(受信機210内の光パルス列のうち、下に記載されている光パルス列)と遅延された光パルス列(受信機210内の光パルス列のうち、上に記載されている光パルス列)を時系列的(右側が時間的に先)に図示する。
【0026】
図2において、両光パルス列が重なる時刻は3つ示されているが、そのうちの真ん中の時刻(第2の時刻と呼ぶ)で光子が検出された場合には、その検出結果は2つのパルスの位相差に従っており、送信機200が意図した通りの検出器で光子が検出される。
【0027】
ところが、2つの光パルス列が重なる時刻のうちの第2の時刻の前後である第1または第3の時刻で光子が検出される場合には、干渉する相手がいないため、一方のパルスの位相(0またはπ)にしたがって、光子検出器1または光子検出器2で光子が検出される。
【0028】
したがって、受信機210が第1または第3の時刻での光子検出結果から秘密鍵ビットを得ると、そのビットは送信機200が意図したものとは異なるものになる。
【0029】
このように、なりすまし盗聴が行われると送信機200および受信機210間でビットの不一致(ビット誤り)が生じる。そこで、送信機200および受信機210は、通常の手順に従って秘密鍵を得た後、いくつかのテストビットを用いて照合検査をする。システムが正常に動作していれば両者のビット情報は一致するが、なりすまし盗聴があれば一致しないビットが発生する。
【0030】
より具体的には、受信機210が第1または第3の時刻で光子検出する確率は1/2であり、そしてこの光子検出から得られるビットが一致しない確率はさらにその1/2であることから、1/4の割合でビット不一致(ビット誤り)となる。ビット誤りがある場合、システムは正常に稼動していないと判断され、その秘密鍵は廃棄される。言い方を変えると、テストビットが一致していれば盗聴行為はなかったと判断することができ、その秘密鍵は安全であることが保証される。
【0031】
このように、従来、なりすまし盗聴を受けたとしても、送信信号が1パルスあたり1光子未満であることにより、盗聴者は正確なダミー信号を送信できず、送受信機間でビット誤りが生じ、盗聴を判別することができた。
【0032】
【非特許文献1】K.Inoue, E.Waks, Y.Yamamoto, 「Differential-phase-shift quantum key distribution using coherent light」、2003年、Physical Review A, vol.68, paper number 022317
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0033】
上述の説明では、送受信機の性能が完全であることを前提として、得られた秘密鍵が安全であることを説明した。しかし、実際には送受信機の性能の不完全さのためにシステム元来のビット誤りが発生する。
【0034】
かかる場合、そのビット誤りに紛れて、鍵の一部が盗聴される可能性がある。
【0035】
例えば、システム元来のビット誤り率がeであったと仮定する。これに対して盗聴者は、伝送信号の一部に対してだけ、上述のなりすまし盗聴2を行うとする。盗聴する割合をxとすると、それにより発生するビット誤り率は、x×1/4=x/4である。
【0036】
ここで、x/4<e、すなわち、システム元来のビット誤り率の方が盗聴により発生するビット誤り率よりも高い場合、送信機および受信機では、このシステム元来のビット誤りによる揺らぎと盗聴による誤り増加との区別がつかず、盗聴に気づくことが困難である。すなわち、割合xに該当する分の鍵情報は、送信機および受信機が気付くことなく盗聴者によって盗まれる可能性がある。
【0037】
実際の装置では、送信機および受信機の不完全さによるビット誤りの発生は避けられない。特に、量子鍵配送システムの場合、1光子が情報伝播の担い手であるため、通常のデジタル光通信系のように光子の多寡により「0」「1」を判別するという手法をとることもできず、ビット誤りが起きやすい。
【0038】
したがって、上述のように盗聴によるビット誤りと、このシステム元来のビット誤りが区別できない場合、盗聴に気づきにくいため、なりすまし盗聴により鍵の一部が盗まれる可能性が高い。
【0039】
これを防ぐには、ビット誤りに頼らずに、なりすまし盗聴を発見できるシステムが望まれる。
【0040】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、ビット誤りとは異なる方法で、なりすまし盗聴を判別する量子通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0041】
上記の課題を解決するため、本発明の量子通信システムは、送信機、および受信機を備える量子通信システムであって、送信機は、一定の時間間隔のパルスからなる光パルス列を送出する光源と、光パルス列を0またはπで位相変調する位相変調器と、位相変調された光パルス列を、少なくとも2つ以上連続する時間位置に空パルスを含む、パルス当り平均1光子未満の光パルス列として送出する減衰手段と、少なくとも2つ以上連続する時間位置の情報を送信する送信手段とを備え、受信機は、送信機の減衰手段より送出された光パルス列を受信し、第1の光パルス列と第2の光パルス列に分岐する分岐手段と、第1の光パルス列を、一定の時間間隔と等しい時間遅延させる遅延手段と、遅延させられた第1の光パルス列と第2の光パルス列を合波し、合波後の光パルス列を生成する合波手段と、遅延させられた第1の光パルス列と第2の光パルス列の相対的位相差が0である場合に光子を検出する第1の光子検出手段と、遅延させられた第1の光パルス列と第2の光パルス列の相対的位相差がπである場合に光子を検出する第2の光子検出手段と、少なくとも2つ以上連続する時間位置の情報を受信する受信手段と、合波後の光パルス列のうち、送信手段を介して送信機から受信した時間位置に該当する時間スロットにおいて、光子が検出されたか否かを判定する判定手段とを備えたことを特徴とする。
【0042】
また、送信機、および受信機を備える量子通信システムにおける通信方法は、0またはπで位相変調された一定の時間間隔の光パルス列であって、少なくとも2つ以上連続する空パルスを含む、パルス当り平均1光子未満の光パルス列を受信し、第1の光パルス列と第2の光パルス列に分岐するステップと、第1の光パルス列を一定の時間間隔と等しい時間遅延させた後、第2の光パルス列と合波し、合波後の光パルス列を生成するステップと、送信機から少なくとも2つ以上連続する空パルスの時間位置の情報を受信するステップと、合波後の光パルス列の各時間スロットから光子を検出するステップと、受信した少なくとも2つ以上連続する空パルスの時間位置では光子が検出されないことに基づいて、合波後の光パルス列の該当する時間スロットから光子を検出したか否かを判定するステップとを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、特定の時間スロットにおける光子検出の有無から、なりすまし盗聴の有無を発見することができる。従来技術のように、ビット誤り率から盗聴を発見する仕組みではないので、装置の不完全さによるビット誤りによって気付きにくい一部盗聴を防ぐ効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
図3は、本発明の実施例に係る量子通信システムの構成図である。
【0045】
図3において、送信機300は、光源301、位相変調器302、減衰手段303、および制御部CPU304を備える。
【0046】
光源301は、位相変調器302に接続されている。また、位相変調器302は、減衰手段303に接続されている。すなわち、光源301と減衰手段303の間には、位相変調器302が存在する。
【0047】
制御部CPU304は、送信機300全体の主制御を行うCPUである。また、送信機300は、光源301、位相変調器302、減衰手段303、および制御部CPU304の制御プログラム等を格納したROM(図示せず)の他、各種データを保管し、また一時ワークエリアとして利用するRAM等のメモリ(図示せず)も備える。このような構成により、制御部CPU304は、送信機300全体の主制御を行うことができる。
【0048】
光源301は、一定の時間間隔Tで光パルス列を送出し、該光パルス列は位相変調器302に入力される。
【0049】
位相変調器302は、光源301から入力された光パルス列に含まれる各パルスを0またはπで位相変調した後、減衰手段303に該光パルス列を受け渡す。すなわち、光パルス列に含まれるパルスのそれぞれの位相は、0またはπである。
【0050】
減衰手段303は、例えば、NDフィルタ(Neutral Density Filter)等、レーザ光などの光源から入射される光を大きく減衰させるための手段であればいずれの手段を用いても構わない。本発明では、パルス当り1光子未満の光パルス列を送信機300から送出するが、パルス当り1光子未満の光パルス列は、通常のレーザ光を大きく減衰させ、平均光子数1個未満という状態を実現することができる。
【0051】
より詳細に説明すると、「パルス当り1光子未満の光パルス列」とは、所定の数の光パルス列であって、2連続の空パルスを含み、かつ、光パルス列に含まれている光子の数がパルスの数よりも少ない状態のことを指す。
【0052】
また、本明細書では、「空パルス」とは、光子数ゼロであるパルスのことを指す。光源301は、一定の時間間隔Tで光パルス列を送出するが(この時点では、各パルスに、光子は含まれている可能性がある)、減衰手段303を通ることにより、光子が含まれていないパルスが生成される。このようなパルスは、何も含まれていない、つまり、単なる空であることを示すため、「空パルス」と定義する。
【0053】
その後、送信機300は、減衰手段303を通った光パルス列を受信機310に対して送出する。
【0054】
光子検出装置としての受信機310は、光分岐手段C1(311)、2×2合波カップラC2(312)、光子検出器1(313)、光子検出器2(314)、制御部CPU315、長経路316、および短経路317を備える。
【0055】
光分岐手段C1(311)は、長経路316および短経路317に接続される。
【0056】
2×2合波カップラC2(312)は、入力端子および出力端子がそれぞれ2つずつ備わっている。該入力端子は長経路316および短経路317に接続されており、該出力端子は光子検出器1(313)および光子検出器2(314)に接続されている。
【0057】
2×2合波カップラC2(312)は、一方の入力端子で長経路316からの光パルス列を受信し、他方の入力端子で短経路317からの光パルス列を受信する。その後、2×2合波カップラC2(312)は、2つの光パルス列の位相差がπの場合には一方の出力端子から光子検出器1に光子を出力し、位相差が0の場合には他方の出力端子から光子検出器2に光子を出力する特性を有する。
【0058】
受信機310については、制御部CPU315が受信機310全体の主制御を行う。制御部CPU315の制御プログラム等を格納したROM(図示せず)や送信機300の有するメモリと同様の機能を果たすメモリ(図示せず)を有する点も送信機300と同様である。
【0059】
受信機310へ入力された光は、光分岐手段C1(311)により長経路316および短経路317にエネルギー的に等分(例えば、50対50)にそれぞれ分岐される。長経路316に分岐された光パルス列は、一定の遅延時間Tだけ遅延させられた後、2×2合波カップラC2(312)で短経路317を通った光パルス列と再び合波される。ここで、一定の遅延時間Tは、図3に示すように、入力された光パルス列のパルス間隔Tに等しいものとする。
【0060】
以上の構成の下、送信機300は、0またはπで任意に位相変調した一定間隔(パルス間隔)Tの光パルス列を、パルス当り平均1個光子未満(例えば、0.1光子/パルス)で送出する。
【0061】
また、送信機300は、光パルス列のコヒーレンス時間をパルス間隔Tより充分長くし、光パルス列の中に、任意の時間位置で、空パルスを2連続で混ぜておく。
【0062】
以下の説明では、説明の便宜上、上記条件で説明するが、本発明を上記条件に限定するという意図ではない。
【0063】
図3では、3番目と4番目のパルスが空パルスである例を示す。
【0064】
受信機310は、光伝送路320を経て送信機300より伝送されてきた光パルス列を、光分岐手段C1(311)にて受け取る。
【0065】
光分岐手段C1(311)にて長経路316および短経路317にエネルギー的に等分(例えば、50対50)にそれぞれ分岐された光パルス列は、2×2合波カップラC2(312)で合波され、合波された光パルス列は、後述するようにパルス間の位相差にしたがって光子検出器1(313)、または光子検出器2(314)にて検出される。
【0066】
上記のような受信機310の回路を構成すると、受信機310の2×2合波カップラC2(312)では、前後のパルスが重なり合い、干渉を起こす。すなわち、送信機300から送出された光パルス列の各パルスは一定の時間間隔Tで送出されており、また長経路316を通った光パルス列は一定の遅延時間Tだけ遅延しているので、長経路316を通った光パルス列はちょうど1パルス分遅延した状態で、短経路317を通った光パルス列と合波される。かかる状態については、図4に詳細に示す。
【0067】
上記2×2合波カップラC2(312)での合波による干渉の結果、パルス間の位相差が0なら光子検出器2(314)が光子を検出し、πなら光子検出器1(313)が光子を検出する。
【0068】
ただし、送信機300から送信された光は、パルス当り平均1個光子未満なので、光子が検出されるのは稀である。
【0069】
光子を検出した場合、制御部CPU315は、受信機310が備えるメモリなど(図示せず)に、光子を検出した時刻(光子検出時刻)を格納する。
【0070】
図4では、図3で説明した空パルスが2連続で送信される場合(3番目と4番目のパルスが空パルス)の受信パルスの重なり具合を示す。
【0071】
図4では、斜線長方形(1、2、5、6)と空白長方形(3、4)のパルスが示されているが、斜線長方形(1、2、5、6)は、光子が存在し得るパルス(以後、信号パルスと呼ぶ)を表し、一方、空白長方形(3、4)は、空パルスを表す。
【0072】
図示するように、空パルスが存在するために、重なり合うパルスの一方が信号パルスで他方が空パルスである場合(t2、t4)と、両方とも空パルスである場合(t3)が生じる。
【0073】
前者の場合(t2、t4)、干渉する相手がいないため、光子は、信号パルスの位相がπの場合には光子検出器1(313)で検出され、または信号パルスの位相が0の場合には光子検出器2(314)で検出される。一方、後者の場合(t3)、光子は全く検出されない。
【0074】
上記構成および動作特性を利用して、以下の手順により、送信機300および受信機310は共通のビットを得る。なお、共通のビットを得る手順についても、上述したように、制御部CPU304および315が、送信機300および受信機310をそれぞれ制御して行う。
(1)送信機300は、受信機310に所定の長さの光パルス列を送信する。
(2)受信機310は、光子を検出した時間スロット(光子検出時刻)を送信機300に通知する。
(3)送信機300は、空パルスの時間位置(上記の例では、3番目と4番目のパルスの時間位置)を受信機310に通知する。
(4)送信機300は、自身の位相変調データと受信機310から受信した光子検出時刻から、受信機310において光子検出器1または光子検出器2のいずれが光子を検出したかを判定する。ただし、信号パルスと空パルスが重なった場合(図4のt2およびt4)、上述したように信号パルス自身の位相にしたがって光子検出器1または光子検出器2のいずれかが光子を検出する。
(5)受信機310は、送信機300から送信された空パルスの時間位置の情報に基づいて、光子を検出した事象が、信号パルス同士の干渉の結果によるものなのか、信号パルスと空パルスが重なった結果によるものなのかを判定する。より詳細に説明すると、受信機310の制御部CPU315は、受信機310内のメモリ(図示せず)から判定用のプログラムを読み出し、該時間位置の情報と光子を検出した事象とから判定を行う。
(6)送信機300と受信機310は、信号パルス同士の干渉から起こった光子を検出した事象について、光子検出器1(313)によるものであればビット「0」を、光子検出器2(314)によるものであればビット「1」を付与する。この場合、光子を検出した検出器は確定しているので、送信機300と受信機310は、同一のビット値を得ることになる。これを秘密鍵ビットとする。
【0075】
なお、上記(2)(3)における送信機300および受信機310は、それぞれ空パルスの時間位置および光子検出時刻を互いに通知するが、盗聴者の存在を考慮して、かかる通知を伝送路320とは異なる伝送路(図示せず)を介して行うことができる。
【0076】
以下、図5を参照しながら、上述の構成・手順によるシステムにおいて、なりすまし盗聴を発見するメカニズムについて説明する。
【0077】
なりすまし盗聴では、盗聴者は、通常、光伝送路320の途中で受信機310と同様の受信回路により光子を検出する(光子を検出する流れについては、上述の説明と重なるので省略する)。そして、光子検出結果に基づき、正規の受信機310が同じ検出結果となるようにダミー信号を送出し、受信機310が盗聴に気付かないようにする。
【0078】
しかしながら、本実施例では、送信機300が送出しているのは、送信レベルがパルス当り平均1個光子未満(例えば0.1個光子/パルス)である光パルス列である。この場合、盗聴者は平均10回のスロットに1回しか光子を検出しない。
【0079】
盗聴者は、光子を検出したスロットについては、正規の受信機310が光子検出器1、または光子検出器2で光子を検出するように位相が設定された2連続パルスを送出することができる。一方、光子検出しないスロットについては光子検出器1、または光子検出器2のいずれの光子検出器で検出できるようにしたら良いのか分からないため、何も送らない。これにより、孤立した2連続パルスが受信機に送られる。
【0080】
より詳細に説明すると、2連続空パルス3、4が送信機300から盗聴者230の受信回路に入ってくる。すると盗聴者230の受信回路では、信号パルス2と空パルス3が重なった時間スロット(図5の矢印A)で光子を検出する場合がある。
【0081】
しかし、盗聴者には、これが信号パルス同士の干渉によるものなのか、一方が信号パルスのみの検出結果なのか区別がつかない。そこで、盗聴者230は、パルス2、3間の位相を測定したものとして、時間位置2、3に2連続パルスを発生させて正規の受信機310にパルス列を送信する。
【0082】
時間位置2、3の2連続パルスが受信機310に入力されると、パルス3、4が重なり合う時間スロット(図5の矢印B)で光子が検出される可能性がある。しかしながら、図4で説明したように、送信機300から送出された光パルス列の3番目と4番目が空パルスであった場合には、受信機310では3番目と4番目のパルスが重なりあう時間スロットでは光子は検出されない。
【0083】
つまり、図5の例は、盗聴がない場合に光子が必ず検出されないと送信機側で分かっている時間スロットで光子が検出されたことを示す。
【0084】
そこで、そのような光子検出があれば、本発明による量子通信システムは、なりすまし盗聴があったということを知る。
【0085】
すなわち、本発明の量子通信システムは、送信機300側から送出する光パルス列中のどの時間位置に空パルスを2連続で発生させておくかを制御することにより、受信機310側での合波後の光パルス列のうち、該空パルスを発生させた時間スロットで光子が検出されたか否かによって、盗聴の有無を判定することができる。
【0086】
また、従来技術である「差動位相シフト量子鍵配送システム」との差異を明確にするために詳細に説明する。「差動位相シフト量子鍵配送システム」で通常送信するのは、「平均光子数が約0.1/パルスのコヒーレント光パルス列」である。例えば、1番から10番までの時間スロットを考えた場合、光子数を測定する前にはどの時間スロットにも光子が「存在する可能性」があるが、光子数を測定すると、どれか1個のスロットにおいてのみ光子が検出され、他のスロットは単に空と観測される。受信機側から考えた場合、本発明と従来技術の「差動位相シフト量子鍵配送システム」は同じように見えるが、逆に、送信機側から考えた場合には、「空パルス」はその時間スロットでは光子が検出されるはずはないと送信機側では分かっており、その時間スロットで光子が検出されたか否かの情報を盗聴の発見に役立てるという点で従来技術とは異なる。
【0087】
これにより、本発明の課題であるビット誤りに頼ることなく、なりすまし盗聴を発見することができるようになる。
【0088】
上記実施例の説明にあたり、説明の便宜上、空パルスを3番目と4番目で2連続する場合について説明したが、本発明は上記実施例に限定されることはない。
【0089】
すなわち、本発明の量子通信システムが盗聴を検出するためには、受信機310の2×2合波カップラC2(312)で合波された際に、合波後の光パルス列のうち光子が検出されることのない時間スロット(図4の例では、3番目と4番目のパルスが重なりあう時間スロット)ができており、該時間スロットは送信機側が空パルスを発生させた時間位置に合致していればよい。
【0090】
そのため、例えば、3連続の空パルスであってもよいし、それ以上連続する空パルスであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】従来技術である差動位相シフト量子鍵配送システムの構成を示す図である。
【図2】従来技術であるなりすまし盗聴法を示す図である。
【図3】本発明の実施例に係る量子通信システムの構成を示す図である。
【図4】図3の受信機におけるパルスの重なり方を示す図である。上は、長経路を通ったパルス列を示し、下は、短経路を通ったパルス列を示す。
【図5】本発明におけるなりすまし盗聴発見のメカニズムの説明する図である。
【符号の説明】
【0092】
100、200、300 送信機
110、210、310 受信機
111、211、311 光分岐手段
112、312 2×2合波カップラ
113、313 光子検出器1
114、314 光子検出器2
115、316 長経路
116、317 短経路
120、220、320 伝送路
230 盗聴者
231 光送信機
301 光源
302 位相変調器
303 減衰手段
304、315 制御部CPU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信機、および受信機を備える量子通信システムであって、
前記送信機は、
一定の時間間隔のパルスからなる光パルス列を送出する光源と、
前記光パルス列を0またはπで位相変調する位相変調器と、
位相変調された光パルス列を、少なくとも2つ以上連続する時間位置に空パルスを含む、パルス当り平均1光子未満の光パルス列として送出する減衰手段と、
前記少なくとも2つ以上連続する時間位置の情報を送信する送信手段と
を備え、
前記受信機は、
前記送信機の前記減衰手段より前記送出された前記光パルス列を受信し、第1の光パルス列と第2の光パルス列に分岐する分岐手段と、
前記第1の光パルス列を、前記一定の時間間隔と等しい時間遅延させる遅延手段と、
前記遅延させられた前記第1の光パルス列と前記第2の光パルス列を合波し、合波後の光パルス列を生成する合波手段と、
前記遅延させられた前記第1の光パルス列と前記第2の光パルス列の相対的位相差が0である場合に光子を検出する第1の光子検出手段と、
前記遅延させられた前記第1の光パルス列と前記第2の光パルス列の相対的位相差がπである場合に光子を検出する第2の光子検出手段と、
前記少なくとも2つ以上連続する時間位置の情報を受信する受信手段と、
前記合波後の光パルス列のうち、前記送信手段を介して前記送信機から受信した前記時間位置に該当する時間スロットにおいて、光子が検出されたか否かを判定する判定手段と
を備えたことを特徴とする量子通信システム。
【請求項2】
送信機、および受信機を備える量子通信システムにおける通信方法であって、
0またはπで位相変調された一定の時間間隔の光パルス列であって、少なくとも2つ以上連続する空パルスを含む、パルス当り平均1光子未満の光パルス列を受信し、第1の光パルス列と第2の光パルス列に分岐するステップと、
前記第1の光パルス列を前記一定の時間間隔と等しい時間遅延させた後、前記第2の光パルス列と合波し、合波後の光パルス列を生成するステップと、
前記送信機から少なくとも2つ以上連続する空パルスの時間位置の情報を受信するステップと、
前記合波後の光パルス列の各時間スロットから光子を検出するステップと、
前記受信した前記少なくとも2つ以上連続する空パルスの時間位置では光子が検出されないことに基づいて、前記合波後の光パルス列の該当する時間スロットから光子を検出したか否かを判定するステップと
を備えたことを特徴とする通信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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