説明

金の非シアン溶解除去剤

【解決手段】 セリウム(IV)塩を酸化剤とし、補助剤としてハロゲン化水素酸又はハロゲン化物を添加してなる金の溶解除去剤。
【効果】 本発明の金の溶解除去剤は、有害なシアンを使用しておらず、酸性タイプなので、有機レジストへのアタックが弱く、更に、用途に応じて酸化剤のセリウム(IV)塩と補助剤のハロゲン化水素酸又はハロゲン化物の種々の組み合わせが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアン化物を使用せずに金を溶解除去する金の溶解除去剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金を溶解・除去する薬剤としては、王水(硝酸+塩酸)が知られている。しかし、王水は刺激臭が強く、実験室的に使用されているにすぎない。また、シアン化アルカリを使用し、これにニトロベンゼン誘導体を添加する金の溶解除去剤も知られており、これはプリント配線板に関連する分野で多く用いられているが、シアンの毒性が問題であり、しかも強アルカリであるため、取り扱い性に劣る問題がある。更に、ヨウ素とヨウ化カリを用いる方法もウエハープロセスなどで一部使用されているが、溶解速度が遅いという問題がある。これに対し、金、白金族の貴金属をハロゲン間化合物とハロゲン化オキソ酸を含有する溶解液で溶解する貴金属の溶解方法が提案され(特許文献1:特開平7−157832号公報)。また、揮発性有機溶剤にアルカリ金属又はアルカリ土類金属のヨウ化物及びヨウ素単体を溶解したのち、この溶液に不純物を含む金を加熱溶解させ、次いで有機溶剤を留去して金を析出させ、この金を分離後、前記有機溶剤で洗浄する金の精製方法(特許文献2:特開平11−12663号公報)が提案されているが、更に有効な金の溶解除去剤が望まれている。
【0003】
【特許文献1】特開平7−157832号公報
【特許文献2】特開平11−12663号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、シアン化物を使用せず、比較的速い速度で確実に金を溶解除去することができる金の溶解除去剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、セリウム(IV)塩にハロゲン化水素酸又はハロゲン化物を併用することにより、シアン化物を使用することなく、比較的短時間で効率よく、確実に金を溶解除去し得ることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0006】
従って、本発明は、
(1)セリウム(IV)塩を酸化剤とし、補助剤としてハロゲン化水素酸又はハロゲン化物を添加してなる金の溶解除去剤、
(2)更に、ハロゲン化水素酸以外の酸を添加してなる(1)の金の溶解除去剤
を提供する。
【0007】
この場合、本発明の金の溶解除去剤は、例えば、無電解金めっき液の液分解等でめっき槽、めっき冶具等の接液部に析出した金を溶解又は剥離して除去することができる。また、半導体、プリント基板等の配線中の金のエッチングにも使用でき、これは酸性タイプなので、有機レジスト膜へのアタックが弱いという利点を与える。
【発明の効果】
【0008】
本発明の金の溶解除去剤は、有害なシアンを使用しておらず、酸性タイプなので、有機レジストへのアタックが弱く、更に、用途に応じて酸化剤のセリウム(IV)塩と補助剤のハロゲン化水素酸又はハロゲン化物の種々の組み合わせが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の金の非シアン溶解・除去剤は、酸化剤としてセリウム(IV)塩を含有し、更に補助剤としてハロゲン化水素酸又はハロゲン化物を添加してなるものである。
【0010】
更に、好ましくは、上記成分を水に溶解して使用する場合、セリウム(IV)塩を水に溶解させるため、ハロゲン化水素酸以外の酸を配合することもできる。
【0011】
この場合、セリウム(IV)塩としては、硫酸セリウム(IV)、硫酸四アンモニウムセリウム(IV)、硝酸二アンモニウムセリウム(IV)、水酸化セリウム(IV)、酸化セリウム(IV)などが挙げられる。
【0012】
補助剤のハロゲン化水素酸としては、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸などが挙げられ、ハロゲン化物としては、上記ハロゲン化水素酸のリチウム、ナトリウム、カリウム塩、アンモニウム塩、有機アンモニウム塩(コリン塩、テトラメチルアンモニウム(TMA)塩等)などが挙げられる。
【0013】
ハロゲン化水素酸以外の酸としては、硫酸、硝酸、過塩素酸、リン酸などが挙げられる。
【0014】
この場合、セリウム(IV)塩、補助剤、ハロゲン化水素酸以外の酸の濃度は特に制限されないが、セリウム(IV)塩0.001〜2モル/L、特に0.005〜1モル/L、ハロゲン化水素酸以外の酸0.01〜6モル/L、特に0.05〜2モル/L、補助剤0.001〜5モル/L、特に0.005〜2モル/Lとすることができる。これら成分の濃度は、目的に応じて適宜選定され、例えば、めっき槽、めっき冶具等の接液部に析出した不要な金の除去には、比較的高濃度で使用することができ、一方、半導体プリント基板等の配線中の金のエッチングに使用するような場合は、低濃度で使用することができる。
【0015】
なお、本発明の金の溶解除去剤には、必要に応じてその他添加剤として、湿潤剤、界面活性剤、アルコール(メタノール、エタノール等)などを0.01〜10,000ppm配合することができる。
【0016】
本発明の金の溶解除去剤を用いて金を溶解除去する場合、金を除去すべき被処理物に溶解除去剤を接液すればよく、この場合、操作温度は室温〜80℃とすることができるが、通常は室温で処理すれば十分である。なお、撹拌は任意である。金の除去時間は、除去すべき金量によって相違するが、0.1〜24時間で金を溶解・除去し得るように各成分濃度及び操作温度や液量などを選定すればよい。
【実施例】
【0017】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記例で、操作は全て室温で行った。
<効果の確認方法>
以下の方法で金析出物をガラスビーカ壁に作製してテスト部材とした。ガラスビーカ壁に析出した金(Au)析出物が溶解されて透明になることで効果を確認した。
<テスト用金析出部材の作製方法>
(1)100mLトールビーカを使用し、ビーカ壁を洗浄するためのビーカ内にNaOH20g/Lの洗浄液を入れて5分間静置し、その後、内部の液を廃棄して脱イオン水で洗浄する。
(2)次に、このビーカ内に20mMトリメチルテトラデシルアンモニウムブロマイド(TTAB)溶液2mLと脱イオン水50mLを入れ、5分間静置する。これは、TTABをビーカ壁に吸着させて密着性を上げるためである。
(3)上記(2)の溶液が入ったままの状態で亜硫酸金溶液(Au100g/L)を1mL(Au0.2g)加え、1N−H2SO4溶液でpH7.3に合わせる。更に還元剤として水素化ホウ素ナトリウム(SBH)100g/Lの溶液2mL(SBH0.2g)を徐々に加え、撹拌する。これにより約1時間でビーカ壁が金色になった。
(4)内部の液を廃棄し、脱イオン水で洗浄してから、以下の金溶解除去液を入れてテストを行った。
【0018】
[比較例1]
上記の内壁に金が析出した100mLトールビーカに硫酸セリウム(IV)0.1モル/Lと硫酸1モル/Lを加え、撹拌しながら24時間放置したが、変化なかった。硫酸は、セリウム(IV)塩の溶解のために加えた。
【0019】
[比較例2]
上記の内壁に金が析出した100mLトールビーカに硫酸四アンモニウムセリウム(IV)0.1モル/Lと硫酸1モル/Lを加え、撹拌しながら24時間放置したが、変化なかった。硫酸は、セリウム(IV)塩の溶解のために加えた。
【0020】
[比較例3]
上記の内壁に金が析出した100mLトールビーカに硝酸二アンモニウムセリウム(IV)0.1モル/Lと硫酸0.5モル/Lを加え、撹拌しながら24時間放置したが、変化なかった。硫酸は、セリウム(IV)塩の溶解のために加えた。
【0021】
[実施例1]
上記の内壁に金が析出した100mLトールビーカに硫酸セリウム(IV)0.1モル/L、硫酸1モル/Lと塩酸0.1モル/Lを加え、撹拌した。
約1時間で、金析出物が完全に溶解した。硫酸は、セリウム(IV)塩の溶解のために加えた。
【0022】
[実施例2]
上記の内壁に金が析出した100mLトールビーカに硫酸四アンモニウムセリウム(IV)0.1モル/L、硫酸1モル/Lと塩酸0.1モル/Lを加え、撹拌した。
約1時間で、金析出物が完全に溶解した。硫酸は、セリウム(IV)塩の溶解のために加えた。
【0023】
[実施例3]
上記の内壁に金が析出した100mLトールビーカに硝酸二アンモニウムセリウム(IV)0.1モル/L、硫酸0.5モル/Lと塩酸0.1モル/Lを加え、撹拌した。
約1時間で、金析出物が完全に溶解した。硫酸は、セリウム(IV)塩の溶解のために加えた。
【0024】
[実施例4]
上記の内壁に金が析出した100mLトールビーカに硫酸セリウム(IV)0.1モル/L、硫酸1モル/Lと臭化水素酸0.1モル/Lを加え、撹拌した。
約1時間で、金析出物が完全に溶解した。硫酸は、セリウム(IV)塩の溶解のために加えた。
【0025】
[実施例5]
上記の内壁に金が析出した100mLトールビーカに硫酸四アンモニウムセリウム(IV)0.1モル/L、硫酸1モル/Lと臭化水素酸0.1モル/Lを加え、撹拌した。
約1時間で、金析出物が完全に溶解した。硫酸は、セリウム(IV)塩の溶解のために加えた。
【0026】
[実施例6]
上記の内壁に金が析出した100mLトールビーカに硝酸二アンモニウムセリウム(IV)0.1モル/L、硫酸0.5モル/Lと臭化水素酸0.1モル/Lを加え、撹拌した。
約1時間で、金析出物が完全に溶解した。硫酸は、セリウム(IV)塩の溶解のために加えた。
【0027】
[実施例7]
上記の内壁に金が析出した100mLトールビーカに硫酸セリウム(IV)0.1モル/L、硫酸1モル/Lとヨウ化カリ0.05モル/Lを加え、撹拌した。
約1時間で、金析出物が完全に溶解した。硫酸は、セリウム(IV)塩の溶解のために加えた。
【0028】
[実施例8]
上記の内壁に金が析出した100mLトールビーカに硫酸四アンモニウムセリウム(IV)0.1モル/L、硫酸1モル/Lとヨウ化カリ0.05モル/Lを加え、撹拌した。
約1時間で、金析出物が完全に溶解した。硫酸は、セリウム(IV)塩の溶解のために加えた。
【0029】
[実施例9]
上記の内壁に金が析出した100mLトールビーカに硝酸二アンモニウムセリウム(IV)0.1モル/L、硫酸0.5モル/Lとヨウ化カリ0.05モル/Lを加え、撹拌した。約1時間で、金析出物が完全に溶解した。硫酸は、セリウム(IV)塩の溶解のために加えた。
【0030】
上記結果を表1〜4に示す。
溶解性評価 ○:金析出物が完全に溶解
×:金析出物不溶
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
【表3】

【0034】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セリウム(IV)塩を酸化剤とし、補助剤としてハロゲン化水素酸又はハロゲン化物を添加してなる金の溶解除去剤。
【請求項2】
更に、ハロゲン化水素酸以外の酸を添加してなる請求項1記載の金の溶解除去剤。

【公開番号】特開2006−241506(P2006−241506A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−57516(P2005−57516)
【出願日】平成17年3月2日(2005.3.2)
【出願人】(000189327)上村工業株式会社 (101)
【Fターム(参考)】