説明

金型およびその製造方法

【課題】表面に形成された微細凹凸構造を転写するインプリント法に用いられる金型の細孔の深さのバラツキが抑えられた金型を製造できる方法、およびこれより製造された金型の提供。
【解決手段】円筒状のアルミニウム基材30を電解液中で陽極酸化して、外周面に複数の細孔を有する陽極酸化アルミナが形成された金型を製造する方法であって、アルミニウム基材30の内周面に電解液を接触させないように陽極酸化する、金型の製造方法、およびこれより製造された金型。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、可視光の波長以下の周期の微細凹凸構造を表面に有する光学フィルムなどの物品は、反射防止効果、ロータス効果等を発現することが知られている。特に、モスアイ構造と呼ばれる微細凹凸構造は、空気の屈折率から物品の材料の屈折率へと連続的に屈折率が増大していくことで有効な反射防止機能を発現することが知られている。
【0003】
微細凹凸構造を表面に有する光学フィルムの製造方法としては、基材フィルム(被転写体)の表面に、金型の表面に形成された微細凹凸構造を転写するインプリント法が挙げられる。
インプリント法で用いる金型の製造方法としては、例えば、平板状のアルミニウム基材を電解液中で陽極酸化して、アルミニウム基材に、複数の細孔を有する陽極酸化アルミナを形成する方法が提案されている(特許文献1)。また、円筒状のアルミニウム基材を電解液中で陽極酸化して、アルミニウム基材の内周面または外周面に、複数の細孔を有する陽極酸化アルミナを形成する方法が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2010/095415号パンフレット
【特許文献2】特許第4368384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜2に記載のように円筒状のアルミニウム基材を単に電解液中で陽極酸化した場合は、アルミニウム基材の場所によって陽極酸化の程度にムラが生じてしまい、その結果、場所によって細孔の深さにバラツキがある金型が得られる場合があった。特に、アルミニウム基材が長くなったり、基材の直径が大きくなったりするほど顕著である。
こうした金型を用い、インプリント法にて複数の凸部を表面に有する光学フィルムを製造すると、場所によって凸部の高さにバラツキがある、すなわち場所によって反射率にバラツキがある光学フィルムとなってしまう。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、細孔の深さのバラツキが抑えられた金型を製造できる方法、およびこれより製造された金型の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、陽極酸化反応が進行するとアルミニウム基材自体が発熱し、これに影響を受けて電解液の温度が上昇することで、陽極酸化の程度にムラが生じてしまい、その結果、細孔の深さにバラツキが生じることが分かった。
【0008】
アルミニウム基材の発熱(熱流量Q)は下記式(1)、(2)から求められる。
熱流量Q[J/s]=電圧E×電流I ・・・(1)
熱流量Q[Kcal/h]={(初期温度t−変化温度t)×流量V×比重w×比熱c}/時間H ・・・(2)
また、電圧Eは下記式(3)に示すオームの法則と、下記式(4)に示す抵抗値計算式から求められる。
電圧E[V]=電流I×抵抗R ・・・(3)
抵抗R[Ω]=抵抗率ρ×長さ(厚さ)L/断面積A ・・・(4)
ここで、抵抗率ρは電解液濃度により決定される値であり、長さLは陽極と陰極間との距離であり、陽極酸化槽の形状により決定される値であり、電圧Eは陽極酸化条件により決定される値であり、断面積Aは電解液に対するアルミニウム基材の接触面積であり、抵抗率ρ、長さL、電圧Eはそれぞれ固定値である。
【0009】
上記式(1)〜(4)より、断面積Aの値が小さくなると、抵抗Rの値が大きくなる。よって、電流Iの値が小さくなるため、熱流量Qの値も小さくなる。
従って、電解液に対するアルミニウム基材の接触面積が小さくなればアルミニウム基材の発熱を軽減できるようになり、その結果、電解液の温度上昇が抑制されるので、陽極酸化中の電解液の温度が安定し、細孔の深さのバラツキが抑えられた金型を製造できるとの着想に基づき、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の金型の製造方法は、円筒状のアルミニウム基材を電解液中で陽極酸化して、外周面に複数の細孔を有する陽極酸化アルミナが形成された金型を製造する方法であって、アルミニウム基材の内周面に電解液を接触させないように陽極酸化することを特徴とする。
ここで、前記アルミニウム基材の内部に電解液が入らないように止水しながら、もしくは前記アルミニウム基材の内周面を被覆して、陽極酸化することが好ましい。
また、本発明の金型は、前記金型の製造方法により製造されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、細孔の深さのバラツキが抑えられた金型を製造できる方法、およびこれより製造された金型を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第一の実施形態で用いる陽極酸化処理装置の一例を示す断面図である。
【図2】図1に示される部材の詳細を説明する要部断面図である。
【図3】陽極酸化アルミナの細孔の形成過程を示す断面図である。
【図4】第一の実施形態で用いる陽極酸化処理装置の他の例を示す断面図である。
【図5】第二の実施形態で用いる陽極酸化処理装置の一例を示す断面図である。
【図6】第二の実施形態で用いる陽極酸化処理装置の他の例を示す断面図である。
【図7】実施例1および比較例1におけるアルミニウム基材に対する通電状態を説明するグラフを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[金型の製造方法]
本発明の金型の製造方法は、円筒状のアルミニウム基材を電解液中で陽極酸化して、外周面に複数の細孔を有する陽極酸化アルミナが形成された金型を製造する方法であって、アルミニウム基材の内周面に電解液を接触させないように陽極酸化することを特徴とする。
以下、本発明の金型の製造方法の一例について詳細に説明する。
【0014】
<第一の実施形態>
本発明の第一の実施形態は、アルミニウム基材の内部に電解液が入らないように止水しながら陽極酸化して金型を製造する実施形態である。
第一の実施形態における金型の製造方法としては、例えば下記工程(a)〜工程(f)を有する方法が挙げられる。
(a)中空円柱状のアルミニウム基材を電解液中、定電圧下で陽極酸化して、表面に複数の細孔を有する酸化皮膜を形成する工程。
(b)酸化皮膜を処理液中で除去し、陽極酸化の細孔発生点を形成する工程。
(c)前記工程(b)の後、電解液中、再度陽極酸化し、細孔発生点に細孔を有する酸化皮膜を形成する工程。
(d)前記工程(c)の後、細孔の径を拡大させる工程。
(e)前記工程(d)の後、電解液中、再度陽極酸化する工程。
(f)前記工程(d)と工程(e)を繰り返し行う工程。
【0015】
工程(a)
図1は、陽極酸化処理装置の一例を示す断面図である。
陽極酸化処理装置10は、電解液で満たされた陽極酸化槽12と、陽極酸化槽12の周囲を囲い、陽極酸化槽12からオーバーフローした電解液14を受けるための外槽16と、電解液14を一旦貯留する貯留槽18と、外槽16で受けた電解液14を貯留槽18へ流下させる流下流路20と、貯留槽18の電解液14を、アルミニウム基材30よりも下側の、陽極酸化槽12の底部近傍に形成された供給口22へ返送する返送流路24と、返送流路24の途中に設けられたポンプ26と、供給口22から吐出された電解液14の流れを調整する整流板28とを備えている。
【0016】
陽極酸化処理装置10は、陽極となる円筒状のアルミニウム基材30の両端の開口31A、31Bを封止するように、それぞれ挿入された一対の回転可能な回転部材32A、32Bと、これら回転部材32A、32Bをそれぞれ回転可能に支持すると共に、これら回転部材32A、32Bを介してアルミニウム基材30を支持する一対の保持板33A、33Bと、アルミニウム基材30を挟んで対向配置された2枚の陰極板36と、アルミニウム基材30および2枚の陰極板36に電気的に接続された電源38と、貯留槽18の電解液14の温度を調節する調温手段40とを備えている。
【0017】
ポンプ26は、貯留槽18から返送流路24を通って陽極酸化槽12へ向かう電解液14の流れを形成するとともに、供給口22から勢いを付けて電解液14を吐出させることによって、陽極酸化槽12の底部から上部へ上昇する電解液14の流れを形成するものである。
【0018】
整流板28は、供給口22から吐出された電解液14が陽極酸化槽12の底部全体からほぼ均一に上昇するように電解液14の流れを調整する、複数の貫通孔が形成された板状部材であり、表面が略水平となるようにアルミニウム基材30と供給口22との間に配置されている。
【0019】
2枚の陰極板36は、アルミニウム基材30の中心軸に対して平行に配置され、かつアルミニウム基材30を水平方向から挟むように、アルミニウム基材30から間隙をあけて対向配置された金属板である。陰極板36は、少なくとも1枚以上配置されていればよい。
また貯留槽18に設けられた調温手段40としては、水、オイル等を熱媒とした熱交換器、電気ヒータ等が挙げられる。
【0020】
保持板33A、33Bは、アルミニウム基材30を軸方向から挟むように間隙をあけて対向配置された金属板であり、それぞれアルミニウム基材30の軸方向の延長上に、回転部材32A、32Bを回転可能に嵌挿させる開口である軸受け部34A、34Bを有している。軸受け部34A、34Bの内周面に、樹脂材料又は金属材料からなるドライベアリング35A、35Bが設けられ、これらドライベアリング35A、35Bによって回転部材32A、32Bは、保持板33A、33Bに対して回転可能に支持されている。
【0021】
互いに離間した保持板33A、33Bの上部には、これらに跨って貫通する複数のバー部材41が設けられている。保持板33A、33Bは、これらバー部材41から垂下するようにして互いに平行した状態で、これらバー部材41によって連結されている。
【0022】
回転部材32A、32Bは、アルミニウム基材30の開口31A、31Bに嵌め合い、若しくは軽圧入状態で挿入されており、アルミニウム基材30を両端側から挟むように固定している。これによりアルミニウム基材30は回転部材32A、32Bにより、内部に電解液14が入らないように止水された構造となっている。
【0023】
アルミニウム基材30を回転部材32A、32Bにて挟むように固定することにより、アルミニウム基材30は回転部材32A、32Bに対しての周方向への回転を規制された状態で回転部材32A、32Bに支持され、より詳しくは、アルミニウム基材30は、回転部材32A、32Bによって、その軸方向が水平状態となるように支持されている。すなわち、アルミニウム基材30は、回転部材32A、32Bによって陽極酸化槽12の底部と平行の状態となるように支持されている。
【0024】
回転部材32A、32Bは導電性を有する材料からなり、図1に示すように回転中心領域に挿入孔42A、42Bが形成され、挿入孔42、42Bには導電性を有する材料からなる棒状の通電用シャフト43A、43Bが挿入されている。
通電用シャフト43A、43Bは、回転部材32A、32Bに対して一体的に固定されており、回転部材32A、32Bの回転に連動して回転する。
通電用シャフト43Aを回転部材32Aに固定する方法としては、例えば図2に示すように、通電用シャフト43Aにフランジ部70を形成し、ボルト締結する等といった態様が考えられるが、その他の態様であっても構わない。なお、通電用シャフト43Bを回転部材32Bに固定する場合も同様である。
【0025】
通電用シャフト43A、43Bの一端は円錐状に形成され、この円錐状端部44A、44Bは、バー部材41から垂下された給電フラットバー45A、45Bの下端側に形成される回転受け部46A、46Bに当接されている。回転受け部46A、46Bは円錐状の凹部47A、47Bを有し、この凹部47A、47Bの最下面に円錐状端部44A、44Bの先端を当接させるとともに、凹部47A、47Bの側面領域によって円錐状端部44A、44Bの周囲を囲うようにして位置規制している。なお、円錐状端部44A、44Bは通電用シャフト43A、43Bと一体のものであっても、脱着可能に取り付けられる別体のものであっても構わない。
また、通電用シャフト43A、43Bは、陽極酸化槽12および外槽16を貫通しており、通電用シャフト43A、43Bと陽極酸化槽12および外槽16との間には、通電用シャフト43A、43Bを回転可能及び軸方に移動可能に支持する滑り軸受け48・・・が設けられている。
【0026】
通電用シャフト43A、43Bは、給電フラットバー45A、45B及び回転受け部46A、46Bを介して電源38に電気的に接続されており、電源38から電流を供給される。電源38から通電用シャフト43A、43Bに供給された電流は、回転部材32A、32Bのアルミニウム基材30に当接する当接面37A、37Bを介して、アルミニウム基材30に供給される。
なお、回転部材32A、32Bは、全体が導電性を有する材料から構成されている必要はなく、アルミニウム基材30と通電用シャフト43A、43Bとを電気的に接続可能な構成とされていればよい。
【0027】
上述のようにして構成された陽極酸化処理装置10では、図示しないモータの駆動力を通電用シャフト43A、43Bに伝達させ、通電用シャフト43A、43Bおよび回転部材32A、32Bの回転に連動させてアルミニウム基材30を回転させる。
【0028】
この陽極酸化処理装置10を用いたアルミニウム基材30の陽極酸化は、下記のように行う。
アルミニウム基材30の両端の開口31A、31Bに回転部材32A、32Bをそれぞれ挿入し、内部に電解液が入らないように止水した状態で電解液14に浸漬させる。そして、通電用シャフト43A、43Bを回転部材32A、32Bに装着し、モータ(図示略)を駆動させ、通電用シャフト43A、43Bおよび回転部材32A、32Bを回転させ、アルミニウム基材30をその軸方向を回転中心として回転させる。
アルミニウム基材30を回転させながら、給電フラットバー45A、45B、回転受け部46A、46B、通電用シャフト43A、43B、および回転部材32A、32Bを介してアルミニウム基材30と陰極板36との間に電圧を印加し、アルミニウム基材30の陽極酸化を行う。
【0029】
なお、回転部材32A、32Bで両端を封止したアルミニウム基材30を電解液14で満たされていない陽極酸化槽12内に設置した後、または電解液14で満たされていない陽極酸化処理槽12内でアルミニウム基材30の両端を回転部材32A、32Bで封止した後、陽極酸化槽12内を電解液14で満たすことで、アルミニウム基材30を電解液14に浸漬させてもよい。
【0030】
アルミニウム基材30の陽極酸化を行う間は、アルミニウム基材30を回転させながら、陽極酸化槽12から電解液14の一部を排出しつつ、陽極酸化槽12に同量の電解液14を供給する。具体的には、陽極酸化槽12から電解液14をオーバーフローさせ、オーバーフローした電解液14を貯留槽18に流下させ、電解液14の温度を貯留槽18で調節した後、該電解液14を、アルミニウム基材30よりも下側に設けられた供給口22から陽極酸化槽12内に返送する。
この際、ポンプ26によって供給口22から勢いを付けて電解液14を吐出させ、さらに整流板28によって供給口22から吐出された電解液14が陽極酸化槽12の底部全体からほぼ均一に上昇するように電解液14の流れを調整することによって、陽極酸化槽12の底部から上部へ上昇する電解液14のほぼ均一な流れが形成される。
【0031】
陽極酸化槽12への電解液14の供給量(供給口22からの電解液の吐出量)は、陽極酸化槽12の容積に対して、循環回数が3分に1回以上が好ましい。そうすることで、陽極酸化槽11は頻繁な液更新が行え、除熱、発生した水素除去を効率良く行える。具体的には、槽容量が107Lの時、供給流量を36L/min程度にするのが好ましい。
【0032】
アルミニウム基材30の表面の周速は、0.1m/min以上が好ましい。アルミニウム基材30の表面の周速が0.1m/min以上であれば、アルミニウム基材30の周囲における電解液14の濃度や温度のムラが充分に抑えられる。駆動装置の能力の点から、アルミニウム基材30の表面の周速は、25.1m/min以下が好ましい。
【0033】
上述のようにしてアルミニウム基材30を陽極酸化すると、図3(a)に示す状態から図3(b)に示すように細孔52を有する酸化皮膜54が形成される。
アルミニウムの純度は、99%以上が好ましく、99.5%以上がより好ましく、99.8%以上がさらに好ましい。アルミニウムの純度が低いと、陽極酸化した際に、不純物の偏析により可視光線を散乱する大きさの凹凸構造が形成されたり、陽極酸化で形成される細孔52の規則性が低下したりする。
電解液としては、シュウ酸、硫酸等が挙げられる。
【0034】
シュウ酸を電解液として用いる場合:
シュウ酸の濃度は、0.7M以下が好ましい。シュウ酸の濃度が0.7Mを超えると、電流値が高くなりすぎて酸化皮膜の表面が粗くなることがある。
ある所定の周期で規則性の高い細孔を有する陽極酸化アルミナを得るには、所定の周期に合った化成電圧をかける必要がある。例えば周期が100nmの陽極酸化アルミナの場合、化成電圧は30〜60Vであることが好ましい。所定の周期に合った化成電圧をかけない場合、規則性が低下する傾向にある。
化成電圧が30〜60Vの時、周期が100nmの規則性の高い細孔を有する陽極酸化アルミナを得ることができる。化成電圧がこの範囲より高くても低くても規則性が低下する傾向にある。
電解液の温度は、60℃以下が好ましく、45℃以下がより好ましい。電解液の温度が60℃を超えると、いわゆる「ヤケ」といわれる現象がおこり、細孔が壊れたり、表面が溶けて細孔の規則性が乱れたりすることがある。
【0035】
硫酸を電解液として用いる場合:
硫酸の濃度は0.7M以下が好ましい。硫酸の濃度が0.7Mを超えると、電流値が高くなりすぎて定電圧を維持できなくなることがある。
化成電圧が25〜30Vの時、周期が63nmの規則性の高い細孔を有する陽極酸化アルミナを得ることができる。化成電圧がこの範囲より高くても低くても規則性が低下する傾向がある。
ある所定の周期で規則性の高い細孔を有する陽極酸化アルミナを得るには、所定の周期に合った化成電圧をかける必要がある。例えば周期が63nmの陽極酸化アルミナの場合、化成電圧は25〜30Vであることが好ましい。所定の周期に合った化成電圧をかけない場合、規則性が低下する傾向にある。
電解液の温度は、30℃以下が好ましく、20℃以下がよりに好ましい。電解液の温度が30℃を超えると、いわゆる「ヤケ」といわれる現象がおこり、細孔が壊れたり、表面が溶けて細孔の規則性が乱れたりすることがある。
【0036】
工程(b)
図3(c)に示すように、酸化皮膜54を一旦除去する。ここで、これを陽極酸化の細孔発生点56にすることで細孔の規則性を向上することができる。
酸化皮膜を除去する方法としては、アルミニウムを溶解せず、酸化皮膜を選択的に溶解する溶液に溶解させて除去する方法が挙げられる。このような溶液としては、例えば、クロム酸/リン酸混合液等が挙げられる。
【0037】
工程(c)
酸化皮膜を除去したアルミニウム基材30を再度、陽極酸化すると、図3(d)に示すように、円柱状の細孔52を有する酸化皮膜54が形成される。
陽極酸化は、上述した陽極酸化処理装置10を用いて行う。条件は、図3(b)に示した酸化皮膜54を形成した際と同様な条件であればよい。陽極酸化の時間を長くするほど深い細孔を得ることができる。
【0038】
工程(d)
図3(e)に示すように、細孔52の径を拡大させる処理を行う。細孔径拡大処理は、酸化皮膜を溶解する溶液に浸漬して陽極酸化で得られた細孔の径を拡大させる処理である。このような溶液としては、例えば、5質量%程度のリン酸水溶液等が挙げられる。
細孔径拡大処理の時間を長くするほど、細孔径は大きくなる。
【0039】
工程(e)
図3(f)に示すように、再度、陽極酸化すると、円柱状の細孔52の底部から下に延びる、直径の小さい円柱状の細孔52がさらに形成される。
陽極酸化は、上述した陽極酸化処理装置10を用いて行う。条件は、上述と同様な条件であればよい。陽極酸化の時間を長くするほど深い細孔を得ることができる。
【0040】
工程(f)
上述した工程(d)と工程(e)を繰り返すと、直径が開口部から深さ方向に連続的に減少する形状の細孔52を有する陽極酸化アルミナ(アルミニウムの多孔質の酸化皮膜(アルマイト))が形成された、図3(g)に示すようなロール状の金型60が得られる。最後は細孔径拡大処理で終わることが好ましい。
繰り返し回数は、合計で3回以上が好ましく、5回以上がより好ましい。繰り返し回数が2回以下では、非連続的に細孔の直径が減少するため、このような細孔を転写して製造され光学フィルムの反射率低減効果は不充分である。
【0041】
細孔52の形状としては、略円錐形状、角錐形状等が挙げられる。細孔52間の平均周期は、可視光線の波長以下、すなわち400nm以下である。細孔52間の平均周期は、25nm以上が好ましい。
【0042】
細孔52のアスペクト比(細孔の深さ/細孔の開口部の幅)は、1.5以上が好ましく、2.0以上がより好ましい。
【0043】
以上説明した本発明の金型の製造方法にあっては、アルミニウム基材の両端を回転部材で封止することで、アルミニウム基材の内部に電解液が入らないように止水されるので、アルミニウム基材の内周面に電解液を接触させないように陽極酸化できる。従って、電解液に対するアルミニウム基材の接触面積が、内部を止水しない場合に比べて約半分に減少するため、陽極酸化によるアルミニウム基材の発熱を軽減できる。その結果、電解液の温度上昇が抑制されるので、陽極酸化中の電解液の温度が安定し、細孔の深さのバラツキが抑えられた金型が得られる。
【0044】
加えて、電解液の温度が安定することで、熱によるアルミニウム基材の変形を効果的に防止したり、陽極酸化時の「ヤケ」を抑制したりできる。また、槽冷却装置の能力や整流器容量を軽減できるので、設備的に安価な構成とすることが可能となる。
さらに、アルミニウム基材の内部を止水することで、陽極酸化処理槽の電解液使用量も少なくなり、廃液や電解液コスト削減に繋がる。
【0045】
このような本発明の効果は、アルミニウム基材が長くなったり、基材の直径が大きくなったりするほど、すなわち、アルミニウム基材の表面積が大きくなり、電解液の使用量が増えるほど発揮される。
従って、本発明の金型の製造方法は、大型の金型を製造する場合に特に好適である。
【0046】
なお、第一の実施形態における金型の製造方法は、上述した方法に限定されない。
上述した製造方法では、図1に示すように、通電用シャフト43A、43Bが陽極酸化槽12および外槽16を貫通し、給電フラットバー45A、45B、および回転受け部46A、46Bが外槽16の外側に出ている陽極酸化処理装置10を用いているが、例えば通電用シャフト43A、43Bは陽極酸化槽12および外槽16を貫通せず、給電フラットバー45A、45B、および回転受け部46A、46Bが陽極酸化槽12の内側に収められていてもよい。ただし、この場合は給電フラットバー45A、45Bの一部、および回転受け部46A、46Bが電解液14に浸漬することとなるため、これらが磨耗した場合、電解液14が汚染され、アルミニウム基材30の品質に影響することがある。従って、電解液14の汚染防止を考慮すると、図1に示すように、給電フラットバー45A、45B、および回転受け部46A、46Bが外槽16の外側に出ている方が好ましい。また給電フラットバー45A、45B、および回転受け部46A、46Bを用いず、回転しながら給電可能なロータリーコネクタ等の装置を用いてもよい。
【0047】
また、アルミニウム基材を陽極酸化する際には、例えば図4に示す陽極酸化処理装置80を用いてもよい。なお、図4において、図1と同様の構成要素については同一符号で示し、その説明を省略する。
図4に示す陽極酸化処理装置80は、水平方向に軸方向を沿わせてアルミニウム基材30を支持する一対の支持軸81A、81Bが設けられている。支持軸81A、81Bは陽極酸化処理槽12を貫通し、陽極酸化槽12の側壁に対して回転可能に支持されている。
支持軸81A、81Bは、例えばモータ等の回転駆動部(図示略)と接続されており、この回転駆動部によって支持軸81A、81Bが同一方向に回転されることで、この陽極酸化処理装置80ではアルミニウム基材30が回転するようになっている。
【0048】
さらに、図4に示す陽極酸化処理装置80では、通電用シャフト43A、43Bの他端に円盤状の通電部材82A、82Bが一体に設けられており、通電部材82A、82Bはアルミニウム基材30の両端に面接触して封止している。
通電部材82A、82Bは、通電用シャフト43A、43Bあるいはアルミニウム基材30の軸方向にエアシリンダ等の進退動を行う駆動部(図示略)によって、進退動ができるように設置されている。アルミニウム基材30を電解液14で満たされていない陽極酸化処理槽12の側壁に支持された支持軸81A、81Bに設置した後、アルミニウム基材30の軸方向の両側から、通電部材82A、82Bをアルミニウム基材30の両端に面接触させることで通電可能となる。
アルミニウム基材30の両端を通電部材82A、82Bで封止して、内部に電解液が入らないように止水した後、陽極酸化槽12内を電解液14で満たす。
【0049】
図4に示すように、アルミニウム基材30は、両端の内径側角部が面取りされ、テーパ状になっていることが好ましい。一方、通電部材82A、82Bは、アルミニウム基材30のテーパ面に面接触できるように、外径側角部が面取りされ、テーパ状になっていることが好ましい。これにより、両者は通電部材82A、82Bのアルミニウム基材30に当接する当接面83A、83Bにおいて、電気的に緊密に接触することができる。加えて、アルミニウム基材30若しくは通電部材82A、82B側が回転した場合に、接触させた抵抗により回転を伝達することができ、これらを同期させて回転させることができる。従って、接触面積が大きく、また回転した際の滑りの影響や摩耗の影響も軽減されるため、安定した電流供給が可能となる。
【0050】
なお、通電部材82A、82Bとアルミニウム基材30を同期させて回転させる手段としては、支持軸81A、81Bではなく、図1に示す陽極酸化処理装置10と同様に、通電部材82A、82Bに接続された通電用シャフト43A、43Bが回転駆動源になっていてもよい。その場合、支持軸81A、81Bは上記で説明した回転駆動部に接続せず、アルミニウム基材30と同期して回転できるような構造になっていればよい。
また、図4に示す陽極酸化処理装置80では、アルミニウム基材30の両端の内径側角部、および通電部材82A、82Bの外径側角部を面取りしてテーパ状にしているが、アルミニウム基材30の両端の外径側角部を面取りし、通電部材82A、82Bの内径側角部を面取りしてテーパ状にしてもよい。さらに、各通電部材82A、82Bにおいて、テーパの形状は同一であってもよいし、異なっていてもよい。
また、通電部材82A、82Bは、全体が導電性を有する材料から構成されている必要はなく、アルミニウム基材30と通電用シャフト14とを電気的に接続可能な構成とされていればよい。
【0051】
<第二の実施形態>
次に、図5を用いて本発明の第二の実施形態について説明する。
第二の実施形態において、第一の実施形態と異なる点は、アルミニウム基材の内周面を被覆して陽極酸化する点である。
なお、図5において、第一の実施形態の図1と同様の構成要素については同一符号で示し、その説明を省略する。
【0052】
図5に示す陽極酸化処理装置90は、アルミニウム基材30の内周面の全てがフィルムFで被覆されている。
アルミニウム基材30の内周面をフィルムFで被覆する方法としては特に制限されず、例えば接着剤でフィルムFを内周面に貼り付ける方法が挙げられる。
フィルムFとしては、耐酸性を有する樹脂から構成されるフィルムが好ましい。このような樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリイソブチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、塩素化ポリエーテル樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂、キシレン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリステル樹脂などが挙げられる。
【0053】
第二の実施形態によれば、アルミニウム基材の内周面を被覆するので、アルミニウム基材の内周面に電解液を接触させないように陽極酸化できる。従って、電解液に対するアルミニウム基材の接触面積が、内周面を被覆しない場合に比べて約半分に減少するため、陽極酸化によるアルミニウム基材の発熱を軽減できる。その結果、電解液の温度上昇が抑制されるので、陽極酸化中の電解液の温度が安定し、細孔の深さのバラツキが抑えられた金型が得られる。
加えて、電解液の温度が安定することで、熱によるアルミニウム基材の変形を効果的に防止したり、陽極酸化時の「ヤケ」を抑制したりできる。また、槽冷却装置の能力や整流器容量を軽減できるので、設備的に安価な構成とすることが可能となる。
【0054】
このような本発明の効果は、アルミニウム基材が長くなったり、基材の直径が大きくなったりするほど、すなわち、アルミニウム基材の表面積が大きくなり、電解液の使用量が増えるほど発揮される。
従って、本発明の金型の製造方法は、大型の金型を製造する場合に特に好適である。
【0055】
なお、第二の実施形態では、図5に示すようにアルミニウム基材30の内周面が被覆されているので、アルミニウム基材30の内部に電解液が入らないように止水する必要はない。従って、電解液14で満たされた陽極酸化処理槽12内でアルミニウム基材30の両端に回転部材32A、32Bを挿入してもよい。
また、電源38から通電用シャフト43A、43Bに供給された電流が、回転部材32A、32Bの当接面37A、37Bを介してアルミニウム基材30に供給されれば、アルミニウム基材30の両端を回転部材32A、32Bで封止する必要はなく、例えば回転部材32A、32Bはスポーク状やリング状であってもよい。
【0056】
また、第二の実施形態における金型の製造方法は、上述した方法に限定されず、例えば図6に示す陽極酸化処理装置100を用いてアルミニウム基材30を陽極酸化してもよい。なお、図6において、第一の実施形態の図1、4と同様の構成要素については同一符号で示し、その説明を省略する。
図6に示す陽極酸化処理装置100を用いる場合、アルミニウム基材30を電解液14で満たされた陽極酸化処理槽12の支持軸81A、81Bの上に設置し、その後、前後移動を行う駆動部(図示略)を用いて通電用シャフト43A、43Bを両側から同時に動かして、通電部材82A、82Bにアルミニウム基材30を接触させることができる。
【0057】
なお、上述した第二の実施形態における金型の製造方法では、図5、6に示すようにアルミニウム基材30の内周面の全てをフィルムFで被覆しているが、内周面の一部が被覆された状態で(すなわち、内周面の一部が露出した状態で)陽極酸化してもよい。アルミニウム基材の内周面の少なくとも一部が被覆されていれば、内周面を被覆しない場合に比べて電解液に対する接触面積を減らすことができるので、上述した本発明の効果が得られる。ただし、本発明の効果を十分に発揮するためには、内周面の全てを被覆するのが好ましい。
【0058】
[金型]
本発明の金型は、上述した本発明の金型の製造方法により得られる。従って、本発明の金型は、細孔の深さのバラツキが抑えられ、規則性の高い細孔を有する。
本発明の金型は、例えば表面に形成された微細凹凸構造を転写するインプリント法で用いられる金型として好適である。
【実施例】
【0059】
[実施例1]
図1に示す陽極酸化処理装置10を用いて、円筒状のアルミニウム基材30を以下のようにして陽極酸化した。
まず、アルミニウム基材30(外径200mm、長さ320mm)の両端を回転部材32A、32Bで封止し、内部に電解液14が入らないように止水した状態で、陽極酸化槽12内の電解液14に浸漬させた。ついで、通電用シャフト43A、43Bを回転部材32A、32Bに装着し、モータ(図示略)を駆動させ、通電用シャフト43A、43Bおよび回転部材32A、32Bを表面の周速が3.8m/minの条件下で回転させ、アルミニウム基材30をその軸方向を回転中心として回転させた。
そして、アルミニウム基材30を回転させながら、給電フラットバー45A、45B、回転受け部46A、46B、通電用シャフト43A、43B、および回転部材32A、32Bを介してアルミニウム基材30と陰極板36との間に40Vの電圧を印加して、30分間陽極酸化し、アルミニウム基材30の表面に酸化皮膜を形成した。
電解液14としては、濃度0.3Mのシュウ酸水溶液(初期温度16℃、調温なし)を用い、槽容積が107Lであったため、電解液の供給量を36L/分とした。
【0060】
上記のようにして陽極酸化処理装置10で30分通電した際の電流値の状態を実測した結果を図7に示す。
なお、図7において、横軸は積算時間(秒)を示し、縦軸は電流値(A)である。
【0061】
[比較例1]
電解液14で満たされた陽極酸化処理槽12内でアルミニウム基材30の両端に回転部材32A、32Bを挿入し、電解液がアルミニウム基材30の内部に流入する状態とした以外は、実施例1と同様にして陽極酸化した。このときの電流値の状態を実測した結果を図7に示す。
【0062】
実施例1の場合、陽極酸化されるアルミニウム基材の処理面積(すなわち、電解液との接触面積)は、25.0dmであった。一方、比較例1の場合、アルミニウム基材の処理面積は、42.1dmであった。
また、図7から明らかなように、アルミニウム基材の両端を封止し、内部に電解液が入らないように止水して陽極酸化した実施例1は、内部を止水せずに陽極酸化した比較例1に比べて電流値が小さかった。従って、上記式(1)より熱流量Qの値が小さくなるので、陽極酸化によるアルミニウム基材の発熱が軽減され、その結果、電解液の温度上昇が抑制されることが示された。
よって、本発明であれば、陽極酸化中の電解液の温度が安定するので、細孔の深さのバラツキが抑えられた金型を製造することができる。
【符号の説明】
【0063】
10、80、90、100 陽極酸化処理装置、
14 電解液、
30 アルミニウム基材、
32A、32B 回転部材、
82A、82B 通電部材、
52 細孔、
54 酸化皮膜(陽極酸化アルミナ)、
60 金型、
F フィルム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のアルミニウム基材を電解液中で陽極酸化して、外周面に複数の細孔を有する陽極酸化アルミナが形成された金型を製造する方法であって、
アルミニウム基材の内周面に電解液を接触させないように陽極酸化する、金型の製造方法。
【請求項2】
前記アルミニウム基材の内部に電解液が入らないように止水しながら陽極酸化する、請求項1に記載の金型の製造方法。
【請求項3】
前記アルミニウム基材の内周面を被覆して陽極酸化する、請求項1に記載の金型の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の金型の製造方法により製造された、金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−240303(P2012−240303A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112500(P2011−112500)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】