説明

金型組立体及び射出成形方法

【課題】射出成形品の意匠面の上方から射出成形品を眺めたとき、内部に対称な中空部が形成され得る金型組立体を提供する。
【解決手段】金型組立体は複数のキャビティを有し、更に、主ランナ21、複数の副ランナ23を備えており、各副ランナ23は、第1方向に延びる副ランナ第1部分24、第2方向に延びる副ランナ第2部分26、及び、屈曲部25から構成されており、副ランナ第1部分24を第1方向に沿って流動した溶融樹脂は、第3方向に流動方向を変えて屈曲部25に流入し、屈曲部25に流入した溶融樹脂は、第1方向又は第2方向に沿って流動し、第3方向に流動方向を変えて副ランナ第2部分26に流入し、副ランナ第2部分26を第2方向に沿って流動した溶融樹脂は、溶融樹脂射出部からキャビティに射出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空部を有する射出成形品を成形するための金型組立体、及び、係る金型組立体を用いた射出成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中空部を有する射出成形品を多数個取りするための金型が、例えば、特開平07−009478から周知である。従来の多数個取りの射出成形用の金型組立体は、金型組立体を構成する第1金型部を第2金型部側から眺めたときの概念図を図17に示すように、第1金型部等に設けられた、複数の射出成形品を射出成形するための複数のキャビティ128と、キャビティ128に溶融熱可塑性樹脂を導入するスプル120と、各キャビティ128に連通する副ランナ123と、副ランナ123とスプル120との間に設けられた主ランナ121とを有する。複数の副ランナ123は、分岐部122において主ランナ121から分岐されている。スプル120は、図面の紙面、垂直方向下方に延びている。また、キャビティ内に溶融熱可塑性樹脂を射出している状態の概念図及び中空部が形成された状態の概念図を図18の(A)及び(B)に示す。尚、参照番号111及び参照番号112は、金型組立体を構成する第1金型部及び第2金型部であり、参照番号127は溶融樹脂射出部である。
【0003】
主ランナから分岐部を経由して副ランナへと流動する溶融熱可塑性樹脂の模式図である図19、並びに、キャビティ内における中空部の形成状態を示す金型組立体等の模式的な一部断面図である図20の(A)及び(B)を参照して、分岐部122での溶融熱可塑性樹脂の挙動を、以下、説明する。
【0004】
主ランナ121の中央部(中心部)を流動する溶融熱可塑性樹脂の温度は、剪断に起因して、主ランナ121の周辺部を流動する溶融熱可塑性樹脂の温度よりも低い。図19、あるいは、後述する図11〜図13にあっては、主ランナ及び副ランナにおいて、相対的に高温の溶融熱可塑性樹脂の部分を右上から左下への斜線で示し、記号「H」を付し、相対的に低温の溶融熱可塑性樹脂の部分を左上から右下への斜線で示し、記号「L」を付す。また、相対的に温度の高い溶融熱可塑性樹脂の部分の流れを白抜きの矢印で示し、相対的に温度の低い溶融熱可塑性樹脂の部分の流れを黒く塗り潰した矢印で示す。そして、主ランナ121において−X方向に流動した溶融熱可塑性樹脂は、分岐部122においてY方向あるいは−Y方向に流動方向が変えられ、副ランナ123内をキャビティ128に向かって流動する。分岐部122に衝突した溶融熱可塑性樹脂は、流動方向が変えられると同時に、流動断面における温度分布も変えられる。即ち、副ランナ123の内部を流動する溶融熱可塑性樹脂にあっては、副ランナ123の主ランナ側を流動する溶融熱可塑性樹脂の温度は、副ランナ123の反主ランナ側を流動する溶融熱可塑性樹脂の温度よりも、相対的に高い。云い換えれば、分岐部122を通過するとき、流動する距離の短い溶融熱可塑性樹脂の部分は、流動する距離の長い溶融熱可塑性樹脂の部分よりも、温度は高い。
【0005】
そして、このような状態で副ランナ123内を流動した溶融熱可塑性樹脂130は、キャビティ128内に射出されるが、キャビティ128内における溶融熱可塑性樹脂130の温度分布は、副ランナ123を流動する溶融熱可塑性樹脂の温度分布を反映した分布となる。云い換えれば、図20の(A)にキャビティ128を含む金型組立体の模式的な断面図を示すように、キャビティ128内における溶融熱可塑性樹脂の温度分布は、図面における左右で非対称となる。尚、相対的に温度の高い溶融熱可塑性樹脂の部分を参照番号130Hで示し、相対的に温度の低い溶融熱可塑性樹脂の部分を参照番号130Lで示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平07−009478
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような現象が生じると、キャビティ128内の溶融熱可塑性樹脂130に加圧流体を導入したとき、中空部131は、より温度の高い溶融熱可塑性樹脂の部分に形成され易いが故に、偏在し易くなる。即ち、射出成形品に残されたパーティングラインPLを含む仮想平面に対する法線方向をz軸方向、射出成形品の軸線をx軸とし、射出成形品を所定のyz平面で切断したとき、図20の(B)に図示するように、中空部131の断面形状はxz平面に対して非対称となる。射出成形品に中空部131を設ける目的の1つに、キャビティ128内で冷却、固化する際の熱可塑性樹脂が中空部内の加圧流体によって金型組立体のキャビティ面に押し付けされる結果、ヒケ等が無く、転写性に優れ、外観に秀でた射出成形品を得ることにある。然るに、中空部が偏在すると、図20の(B)の矢印「A」で示す部分の射出成形品の外観と、矢印「B」で示す部分の射出成形品の外観に差異が生じるといった問題がある。
【0008】
従って、本発明の目的は、射出成形品に残されたパーティングラインを含む仮想平面に対する法線方向をz軸方向、射出成形品の軸線をx軸とし、射出成形品を所定のyz平面で切断したとき、中空部の断面形状がxz平面に対して対称となるような射出成形品を成形するための金型組立体、及び、係る金型組立体を用いた射出成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するための本発明の金型組立体は、
(A)第1金型部、
(B)第2金型部、
(C)第1金型部と第2金型部とを型締めすることで形成され、N個(但し、N≧2)の成形品を成形するためのN個のキャビティ、
(D)主ランナ、
(E)主ランナから分岐し、主ランナと各キャビティとを結ぶN本の副ランナ、
(F)副ランナに連通し、キャビティに開口した溶融樹脂射出部、及び、
(G)加圧流体導入部、
を備えており、
主ランナは、第1金型部と第2金型部との型合わせ面内に位置し、
各副ランナは、
(イ)型合わせ面内に位置し、主ランナから分岐し、型合わせ面と平行な第1方向に延びる副ランナ第1部分、
(ロ)型合わせ面内に位置し、溶融樹脂射出部に連通し、型合わせ面と平行であって、第1方向とは異なる第2方向に延びる副ランナ第2部分、及び、
(ハ)型合わせ面から離れて位置し、副ランナ第1部分と副ランナ第2部分とを結ぶ屈曲部、
から構成されており、
副ランナ第1部分に流入し、副ランナ第1部分を第1方向に沿って流動した溶融樹脂は、副ランナ第1部分の終端部において型合わせ面から離れる第3方向に流動方向を変えて屈曲部に流入し、
屈曲部に流入した溶融樹脂は、第1方向又は第2方向に沿って流動し、屈曲部の終端部において型合わせ面に近づく第3方向に流動方向を変えて副ランナ第2部分に流入し、
副ランナ第2部分に流入し、副ランナ第2部分を第2方向に沿って流動した溶融樹脂は、溶融樹脂射出部からキャビティに射出されることを特徴とする。
【0010】
上記の目的を達成するための本発明の射出成形方法は、上記の本発明の金型組立体を用い、中空部を有する射出成形品をN個取りする射出成形方法であって、
主ランナから副ランナ、溶融樹脂射出部を介してキャビティ内に射出された溶融樹脂の内部に、加圧流体源から加圧流体導入部を介して加圧流体を導入し、以て、キャビティ内の樹脂の内部に中空部を形成することを特徴とする。
【0011】
本発明の射出成形方法あるいは本発明の金型組立体において、第1方向と第2方向との成す角度として、限定するものではないが、70度乃至110度(90±20度)を挙げることができる。また、このような好ましい形態を含む本発明の射出成形方法あるいは本発明の金型組立体において、第1方向と第3方向との成す角度として、限定するものではないが、70度乃至110度(90±20度)を挙げることができる。更には、これらの好ましい形態を含む本発明の射出成形方法あるいは本発明の金型組立体において、主ランナは第4方向に延び、第1方向と第4方向との成す角度として、限定するものではないが、70度乃至110度(90±20度)を挙げることができる。
【0012】
以上に説明した好ましい形態を含む本発明の射出成形方法にあっては、
射出成形品に残されたパーティングラインを含む仮想平面に対する法線方向をz軸方向、射出成形品の軸線をx軸とし、射出成形品を所定のyz平面で切断したとき、射出成形品は、その外形断面形状が、xz平面に対して対称であり、且つ、xy平面に対して対称である部分を有し、
該所定のyz平面で射出成形品を切断したとき、中空部は、その断面形状が、xz平面に対して対称であり、且つ、xy平面に対して非対称である構成とすることができる。
【0013】
以上に説明した好ましい形態を含む本発明の金型組立体あるいは本発明の射出成形方法(以下、これらを総称して、単に、『本発明』と呼ぶ場合がある)においては、N個のキャビティが設けられているが、Nの値として、具体的には、偶数、より具体的には、2,4,6,8,・・・を挙げることができる。また、屈曲部から離れた副ランナ第2部分の部分の延びる方向は、第2方向に限定されない。屈曲部から離れた副ランナ第2部分の部分には、分岐部が設けられていてもよい。
【0014】
本発明において、第1金型部や第2金型部は、炭素鋼、ステンレス鋼、アルミニウム合金、銅合金等の金属材料から作製することができる。溶融樹脂射出部の構造は、公知の如何なる形式の溶融樹脂射出部(ゲート構造)とすることもでき、例えば、サイドゲート構造、ジャンプゲート構造、ピンポイントゲート構造、トンネルゲート構造、ファンゲート構造、フラッシュゲート構造、タブゲート構造、フィルムゲート構造、オーバーラップゲート構造、サブマリンゲート構造、バルブゲート構造を例示することができる。溶融樹脂射出部は、第1金型部に設けられているが、構造によっては、第1金型部と第2金型部とに設けられていてもよい。金型組立体には、キャビティに連通した所謂オーバーフローキャビティを設けてもよい。
【0015】
加圧流体導入部として、周知の加圧ガス注入用のガス注入ノズルを挙げることができる。第1金型部又は第2金型部に配設された加圧流体導入部の数は、N個とすればよい。ガス注入ノズルは、キャビティに開口していてもよいし、溶融樹脂射出部(ゲート部)に開口していてもよい。キャビティ内に導入された溶融樹脂内への加圧流体の注入開始の時点は、キャビティ内への溶融樹脂の導入中、導入完了と同時、あるいは導入完了後とすることができる。キャビティ内へ導入する溶融樹脂の量は、キャビティ内を溶融樹脂で完全に充填するために必要な量であってもよいし(所謂、フルショット法の採用)、キャビティ内を溶融樹脂で完全に充填するには不十分な量であってもよい(所謂、ショートショット法の採用)。
【0016】
加圧流体は、常温・常圧下でガス状あるいは液状の流体であって、溶融樹脂内への導入時、溶融樹脂と反応したり混合しないものが望ましい。具体的には、窒素ガス、炭酸ガス、空気、ヘリウムガス等、常温でガス状の物質、水等の液体、高圧下で液化したガスを使用することができるが、中でも、窒素ガスやヘリウムガス等の不活性ガスが好ましい。注入する加圧流体は、成形品の中空部に断熱圧縮による焼けが生じないような不活性な加圧流体であることが、一層好ましく、窒素ガスを用いる場合、純度90%以上のものを使用することが望ましい。更には、加圧流体として、発泡性樹脂、繊維強化樹脂材料等を使用することもできる。
【0017】
本発明の射出成形方法での使用に適した樹脂として、結晶性熱可塑性樹脂や非晶性熱可塑性樹脂を挙げることができ、具体的には、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン系樹脂;ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミドMXD6等のポリアミド系樹脂;ポリオキシメチレン(ポリアセタール,POM)樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂等のポリエステル系樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AS樹脂といったスチレン系樹脂;メタクリル系樹脂;ポリカーボネート樹脂;変性ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリエーテルスルホン樹脂;ポリアリレート樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリアミドイミド樹脂;ポリイミド系樹脂;ポリエーテルケトン樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂;ポリエステルカーボネート樹脂;液晶ポリマーを例示することができる。
【0018】
更には、ポリマーアロイ材料から成る熱可塑性樹脂を用いることができる。ここで、ポリマーアロイ材料は、少なくとも2種類の熱可塑性樹脂をブレンドしたもの、又は、少なくとも2種類の熱可塑性樹脂を化学的に結合させたブロック共重合体若しくはグラフト共重合体から成る。ポリマーアロイ材料は、単独の熱可塑性樹脂のそれぞれが有する特有な性能を合わせ持つことができる高機能材料として広く使用されている。少なくとも2種類の熱可塑性樹脂をブレンドしたポリマーアロイ材料を構成する熱可塑性樹脂として、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AS樹脂といったスチレン系樹脂;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン系樹脂;メタクリル樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミドMXD6等のポリアミド系樹脂;変性PPE樹脂;ポリブチレンテレフタレート樹脂やポリエチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル樹脂;ポリオキシメチレン樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリイミド樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリアリレート樹脂;ポリエーテルスルホン樹脂;ポリエーテルケトン樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂;ポリエステルカーボネート樹脂を挙げることができる。2種類の熱可塑性樹脂をブレンドしたポリマーアロイ材料として、ポリカーボネート樹脂とABS樹脂とのポリマーアロイ材料を例示することができる。尚、このような樹脂の組合せを、ポリカーボネート樹脂/ABS樹脂と表記する。以下においても同様である。更に、少なくとも2種類の熱可塑性樹脂をブレンドしたポリマーアロイ材料として、ポリカーボネート樹脂/PET樹脂、ポリカーボネート樹脂/PBT樹脂、ポリカーボネート樹脂/ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート樹脂/PBT樹脂/PET樹脂、変性PPE樹脂/HIPS樹脂、変性PPE樹脂/ポリアミド系樹脂、変性PPE樹脂/PBT樹脂/PET樹脂、変性PPE樹脂/ポリアミドMXD6樹脂、ポリオキシメチレン樹脂/ポリウレタン樹脂、PBT樹脂/PET樹脂を例示することができる。
【0019】
以上に説明した各種の熱可塑性樹脂に、添加剤や、充填剤、強化剤を加えることもできる。
【0020】
添加剤として、可塑剤;安定剤;酸化防止剤:紫外線吸収剤;ニッケルビス(オクチルフェニル)サルファイド等の有機ニッケル化合物、ヒンダードアミン系化合物等の紫外線安定剤;帯電防止剤;難燃剤;バイナジン、プリベントール、チアベンダゾール等の防かび剤;流動パラフィン、ポリエチレンワックス、脂肪酸アマイド等の滑剤;ADCA等の有機発泡剤;透明核剤;有機顔料、無機顔料、有機染料といった各種の着色剤;架橋剤;アクリルグラフトポリマー、MBS等の耐衝撃強化剤を挙げることができる。
【0021】
可塑剤として、フタル酸ジエチル、フタル酸ジ−n−ブチル、フタル酸−2−エチルヘキシル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ブチルベンジル、フタル酸ジシクロヘキシル等のフタル酸類;リン酸トリエチル、リン酸トリブチル、リン酸トリクレシル、リン酸トリフェニル等のリン酸エステル類;オレイン酸ブチル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸−n−ヘキシン、アジピン酸ジ−2−エチルヘキシル等の脂肪酸塩基エステル類;ジエチレングリコールジベンゾエート等のアルコールエステル類;クエン酸アセチルトリエチル、マレイン酸ジブチル等のオキシ酸エステル類;トリメリット系可塑剤;ポリエステル系可塑剤;エポキシ系;塩化パラフィン系可塑剤を挙げることができる。
【0022】
安定剤として、ジ−n−オクチルスズ化合物、ジ−n−ブチルスズ化合物、ジメチルスズ化合物等の有機スズ系安定剤;三塩基性硫酸鉛、二塩基性亜リン酸鉛、ケイ酸鉛等の鉛化合物系安定剤;カドミウム石けん、鉛石けん、亜鉛石けん等の金属石けん系安定剤;リン酸トリスノニル;リン酸トリスノニルフェニル等を挙げることができる。
【0023】
酸化防止剤として、ジブチルクレゾール、ブチルヒドロキシアニソール等のフェノール系酸化防止剤;メチレンビス(メチルブチルフェノール)、チオビス(メチルブチルフェノール)等のビスフェノール系酸化防止剤;トリス(メチルヒドロキシブチルフェニル)ブタン、トコフェノール等のポリフェノール系酸化防止剤;ジミリスチルチオジプロピオネート等の有機イオウ化合物;トリス(モノ/ジノニルフェニル)ホスファイト等の有機リン化合物を挙げることができる。
【0024】
紫外線吸収剤として、サリチル酸フェニル、サリチル酸ブチルフェニル等のサリチル酸系紫外線吸収剤;ジヒドロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤;(ヒドロキシメチルフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;アクリル酸エチルヘキシルシアノジフェノニル等のシアノアクリレート系紫外線吸収剤を挙げることができる。
【0025】
帯電防止剤として、ポリ(オキシエチレン)アルキルアミン、ポリ(オキシエチレン)アルキルフェニルエーテル等の非イオン界面活性剤系帯電防止剤;アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルリン酸塩等の陰イオン界面活性剤系帯電防止剤;第4級アンモニウムクロライド等の陽イオン界面活性剤系帯電防止剤;両性系界面活性剤;電導性樹脂を挙げることができる。
【0026】
難燃剤として、テトラブロモビスフェノールA、ポリブロモビフェノール、ビス(ヒドロキシジブロモフェニル)プロパン、塩化パラフィン等のハロゲン系難燃剤;リン酸アンモニウム、リン酸トリクレジル等のリン系難燃剤;三酸化アンチモン;赤リン;酸化スズ等を挙げることができる。
【0027】
充填剤、強化剤として、無機系材料;ステンレス鋼繊維、高強度アモルファス金属繊維、ステンレス箔、スチール箔、銅箔等の金属系材料;高分子ポリエチレン繊維、高強力ポリアレート繊維、パラ系全芳香族ポリアミド繊維、アラミド繊維、PEEK繊維、PEI繊維、PPS繊維、フッ素樹脂繊維、フェノール樹脂繊維、ビニロン繊維、ポリアセタール繊維等の有機系材料;粉系を挙げることができる。
【0028】
無機系の充填剤、強化剤として、ガラス繊維、ガラス長繊維、石英ガラス繊維等のガラス系材料;PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、グラファイトウィスカ等の炭素系材料;炭化ケイ素繊維、炭化ケイ素連続繊維、炭化ケイ素ウィスカ、炭化ケイ素ウィスカシート等の炭化ケイ素系材料;ボロン繊維といったボロン系材料;Si−Ti−C−O繊維といったSi−Ti−C−O系材料;チタン酸カリウム繊維、チタン酸カリウムウィスカ、チタン酸カリウム系導電性ウィスカ等のチタン酸カリウム系材料;窒化ケイ素ウィスカ、窒化ケイ素ウィスカシート等の窒化ケイ素系材料;硫酸カルシウムウィスカといった硫酸カルシウム系材料を挙げることができる。
【0029】
粉系の充填剤、強化剤として、マイカフレーク、マイカ粉、シラスバルーン、シリカ微粉、タルク粉、水酸化アルミニウム粉、水酸化マグネシウム粉、マグネシウムシリケート粉、硫酸カルシウム微粉、球状中空ガラス粉、金属化粉、高純度合成シリカ微粉、二硫化タングステン粉、タングステンカーバイト粉、ジルコニア微粉、ジルコニア系微粉、部分安定化ジルコニア粉、アルミナ−ジルコニア複合粉、複合金属粉、鉄粉、アルミニウム粉、モリブデン金属粉、タングステン粉、窒化アルミニウム粉、ナイロン微粒子粉、シリコーン樹脂微粉、スピネル粉、アモルファス合金粉、アルミフレーク、ガラスフレークを挙げることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明にあっては、型合わせ面から離れて位置し、副ランナ第1部分と副ランナ第2部分とを結ぶ屈曲部が備えられている。ここで、屈曲部が第1方向に沿って延びている場合、屈曲部と副ランナ第2部分とは、空間的に「捩れ」の関係にあるし、屈曲部が第2方向に沿って延びている場合、屈曲部と副ランナ第1部分とは、空間的に「捩れ」の関係にある。そして、屈曲部と副ランナ第1部分あるいは副ランナ第2部分とがこのような「捩れ」の関係にあるが故に、副ランナ第1部分から、屈曲部を通過し、副ランナ第2部分へと流動する溶融樹脂にあっては、副ランナ第1部分における溶融樹脂の温度分布と、副ランナ第2部分における溶融樹脂の温度分布とは、恰も、位相が、90度±20度の範囲で、ずれた関係となる。即ち、例えば、副ランナ第1部分における溶融樹脂の温度分布が副ランナ第1部分断面左右において非対称である場合、副ランナ第2部分における溶融樹脂の温度分布は副ランナ第2部分断面上下において非対称となる。その結果、射出成形品に残されたパーティングラインを含む仮想平面に対する法線方向をz軸方向、射出成形品の軸線をx軸とし、射出成形品を所定のyz平面で切断したとき、中空部の断面形状がxz平面に対して対称となるので、外観に秀でた射出成形品を得ることができる。即ち、射出成形品の意匠面の上方から射出成形品を眺めたとき、内部には対称な中空部が形成されているが故に、優れた外観を有する意匠面を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1の(A)は、実施例1の金型組立体における主ランナ、屈曲部、副ランナを斜めから眺めたときの部分的な模式図であり、図1の(B)は、主ランナ、屈曲部、副ランナを流動する溶融樹脂の温度分布を模式的に示す図である。
【図2】図2の(A)及び(B)は、それぞれ、実施例1の金型組立体における主ランナ、屈曲部、副ランナを、図1の(A)における一点鎖線、及び、二点鎖線で切断したときに得られる模式的な断面図である。
【図3】図3は、実施例1の金型組立体における主ランナ、屈曲部、副ランナを、図1の(A)における三点鎖線で切断したときに得られる模式的な断面図である。
【図4】図4は、実施例1の金型組立体の概念図である。
【図5】図5の(A)及び(B)は、実施例1の金型組立体において、キャビティ内に溶融樹脂を射出している状態の概念図、及び、中空部が形成された状態の概念図である。
【図6】図6の(A)は、実施例2の金型組立体における主ランナ、屈曲部、副ランナを斜めから眺めたときの部分的な模式図であり、図6の(B)は、主ランナ、屈曲部、副ランナを流動する溶融樹脂の温度分布を模式的に示す図である。
【図7】図7の(A)及び(B)は、それぞれ、実施例2の金型組立体における主ランナ、屈曲部、副ランナを、図6の(A)における一点鎖線、及び、二点鎖線で切断したときに得られる模式的な断面図である。
【図8】図8は、実施例2の金型組立体における主ランナ、屈曲部、副ランナを、図6の(A)における三点鎖線で切断したときに得られる模式的な断面図である。
【図9】図9は、実施例2の金型組立体の概念図である。
【図10】図10の(A)及び(B)は、実施例2の金型組立体において、キャビティ内に溶融樹脂を射出している状態の概念図、及び、中空部が形成された状態の概念図である。
【図11】図11は、実施例1あるいは実施例2の金型組立体において、主ランナから分岐部を経由して副ランナへと流動する溶融樹脂の模式図である。
【図12】図12は、実施例1あるいは実施例2の金型組立体において、副ランナが90度曲がる部分において流動する溶融樹脂の模式図である。
【図13】図13は、実施例1あるいは実施例2の金型組立体において、副ランナが空間的に「捩れ」の位置関係にあるときに流動する溶融樹脂の模式図である。
【図14】図14は、実施例1あるいは実施例2の金型組立体の一部分を示す概念図である。
【図15】図15の(A)及び(B)は、それぞれ、実施例1の金型組立体において、キャビティ内における中空部の形成の状態を示す金型組立体等の模式的な一部断面図である。
【図16】図16の(A)及び(B)は、それぞれ、実施例2の金型組立体において、キャビティ内における中空部の形成の状態を示す金型組立体等の模式的な一部断面図である。
【図17】図17は、従来の多数個取りの射出成形用の金型組立体の概念図である。
【図18】図18の(A)及び(B)は、図17に図示した従来の多数個取りの金型組立体において、キャビティ内に溶融樹脂を射出している状態の概念図、及び、中空部が形成された状態の概念図である。
【図19】図19は、図17に図示した従来の多数個取りの金型組立体において、主ランナから分岐部を経由して副ランナへと流動する溶融樹脂の模式図である。
【図20】図20の(A)及び(B)は、それぞれ、図17に図示した従来の多数個取りの金型組立体において、キャビティ内における中空部の形成の状態を示す金型組立体等の模式的な一部断面図である。
【図21】図21は、比較例1の金型組立体における主ランナ、屈曲部、副ランナを斜めから眺めたときの部分的な模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照して、好ましい実施例に基づき本発明を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではなく、実施例における種々の数値や材料は例示である。
【実施例1】
【0033】
実施例1は、本発明の金型組立体及び射出成形方法に関する。実施例1あるいは後述する実施例2の金型組立体の一部分の概念図を図14に示し、実施例1の金型組立体を構成する第1金型部を第2金型部側から眺めたときの概念図を図4、図5の(A)、図5の(B)に示す。また、実施例1の金型組立体における主ランナ、屈曲部、副ランナを、図1の(A)における一点鎖線、及び、二点鎖線を含むXY平面で切断したときに得られる模式的な断面図を図2の(A)及び(B)に示し、図1の(A)における三点鎖線を含むYZ平面で切断したときに得られる模式的な断面図を図3に示す。
【0034】
実施例1あるいは後述する実施例2の金型組立体は、
(A)第1金型部11、
(B)第2金型部12、
(C)第1金型部11と第2金型部12とを型締めすることで形成され、N個(但し、N≧2であり、実施例にあっては、N=2)の成形品を成形するためのN個のキャビティ28、
(D)主ランナ21、
(E)主ランナ21から分岐し、主ランナ21と各キャビティ28とを結ぶN本の副ランナ23、
(F)副ランナ23に連通し、キャビティ28に開口した溶融樹脂射出部27、及び、
(G)加圧流体導入部29、
を備えている。
【0035】
実施例1あるいは後述する実施例2において、第1金型部11及び第2金型部12は、炭素鋼から作製されている。溶融樹脂射出部27は、具体的には、サイドゲート構造を有し、第1金型部11と第2金型部12とに設けられている。加圧流体導入部29は、具体的には、周知の加圧ガス注入用のガス注入ノズルから構成されており、ガス注入ノズルは、キャビティ28に開口している。第2金型部12に配設された加圧流体導入部の数はN個である。加圧流体として窒素ガスを用いる。
【0036】
実施例1あるいは後述する実施例2において、主ランナ21は、第1金型部11と第2金型部12との型合わせ面内に位置している。また、各副ランナ23は、
(イ)型合わせ面内に位置し、主ランナ21から分岐し、型合わせ面と平行な第1方向に延びる副ランナ第1部分24、
(ロ)型合わせ面内に位置し、溶融樹脂射出部27に連通し、型合わせ面と平行であって、第1方向とは異なる第2方向に延びる副ランナ第2部分26、及び、
(ハ)型合わせ面から離れて位置し、副ランナ第1部分24と副ランナ第2部分26とを結ぶ屈曲部25、
から構成されている。尚、参照番号22は、主ランナ21と副ランナ23とが分岐する分岐部である。また、図示しない射出成形装置の成形用シリンダーと主ランナ21とを結ぶスプル20は、図面の紙面、垂直方向下方に第1金型部11内を延びている。
【0037】
実施例1あるいは後述する実施例2にあっては、便宜上、第1方向をY方向(あるいは−Y方向)とし、第2方向をX方向(あるいは−X方向)とし、後述する第3方向をZ方向(あるいは−Z方向)としている。
【0038】
そして、図1の(A)に示すように、実施例1において、副ランナ第1部分24に流入し、副ランナ第1部分24を第1方向(例えば、Y方向)に沿って流動した溶融樹脂(溶融熱可塑性樹脂)は、副ランナ第1部分24の終端部において型合わせ面から離れる第3方向(Z方向)に流動方向を変えて屈曲部25に流入する。更には、屈曲部25に流入した溶融樹脂は、実施例1にあっては第1方向(Y方向)に沿って流動し、屈曲部25の終端部において型合わせ面に近づく第3方向(−Z方向)に流動方向を変えて副ランナ第2部分26に流入する。そして、副ランナ第2部分26に流入し、副ランナ第2部分26に流入した時点で方向を変え、第2方向(X方向)に沿って流動した溶融樹脂は、溶融樹脂射出部27からキャビティ28に射出される。
【0039】
ここで、実施例1あるいは後述する実施例2にあっては、第1方向と第2方向との成す角度、第1方向と第3方向との成す角度、主ランナ21が延びる第4方向と第1方向との成す角度を、90度とした。
【0040】
以下、図1の(B)、及び、図11〜図13を参照して、実施例1において、主ランナから分岐部を経由して副ランナへと流動する溶融樹脂の温度分布を説明する。尚、図1の(B)の「A」は、図1の(A)の矢印「A」における溶融樹脂の温度分布状態を模式的に示す図であり、図1の(B)の「B」は、図1の(A)の矢印「B」における溶融樹脂の温度分布状態を模式的に示す図であり、図1の(B)の「C」は、図1の(A)の矢印「C」における溶融樹脂の温度分布状態を模式的に示す図であり、図1の(B)の「D」は、図1の(A)の矢印「D」における溶融樹脂の温度分布状態を模式的に示す図であり、図1の(B)の「F」は、図1の(A)の矢印「F」における溶融樹脂の温度分布状態を模式的に示す図である。
【0041】
主ランナ21の中央部(中心部)を流動する溶融樹脂の温度は、剪断に起因して、主ランナ21の周辺部を流動する溶融樹脂の温度よりも低い(図1の(B)における「A」参照)。ここで、図1の(B)あるいは後述する図6の(B)にあっては、主ランナ21及び副ランナ23において、相対的に高温の溶融樹脂の部分を右上から左下への斜線で示し、記号「H」を付し、相対的に低温の溶融樹脂の部分を左上から右下への斜線で示し、記号「L」を付す。そして、主ランナ21において−X方向に流動した溶融樹脂は、分岐部22においてY方向あるいは−Y方向に流動方向が変えられ、副ランナ23内をキャビティ28に向かって流動する。分岐部22に衝突した溶融樹脂は、流動方向が変えられると同時に、流動断面における温度分布も変えられる。即ち、副ランナ23における副ランナ第1部分24を流動する溶融樹脂にあっては、副ランナ第1部分24の主ランナ側を流動する溶融樹脂の温度は、副ランナ第1部分24の反主ランナ側を流動する溶融樹脂の温度よりも、相対的に高い(図1の(B)における「B」、及び、図11参照)。云い換えれば、分岐部22を通過するとき、流動する距離の短い溶融樹脂の部分は、流動する距離の長い溶融樹脂の部分よりも、温度は高い。
【0042】
副ランナ第1部分24に流入し、副ランナ第1部分24を第1方向(Y方向)に沿って流動した溶融樹脂は、副ランナ第1部分24の終端部において型合わせ面から離れる第3方向(Z方向)に流動方向を変えて屈曲部25に流入する(図1の(B)の「C」,「D」、及び、図12参照)。副ランナ第1部分24を流動し、屈曲部25に流入し、屈曲部25を第1方向(Y方向)に沿って流動する溶融樹脂における温度分布は、実質的に変化していない。
【0043】
そして、溶融樹脂は、屈曲部25の終端部において、型合わせ面に近づく第3方向(−Z方向)に流動方向を変えて副ランナ第2部分26に流入する。ここで、屈曲部25と副ランナ第2部分26とは、空間的に「捩れ」の関係にある。従って、図1の(B)の「F」及び図13に示すように、副ランナ第1部分24及び屈曲部25における溶融樹脂の温度分布と、副ランナ第2部分26における溶融樹脂の温度分布とは、恰も、位相が略90度(場合によっては90度)、ずれた関係となる。即ち、副ランナ第1部分24における溶融樹脂の温度分布が副ランナ第1部分断面左右において非対称である場合、副ランナ第2部分26における溶融樹脂の温度分布は副ランナ第2部分断面上下において非対称となる。
【0044】
そして、副ランナ第2部分26に流入し、副ランナ第2部分26を第2方向(X方向)に沿って流動した溶融樹脂は、溶融樹脂射出部27からキャビティ28に射出される。ここで、キャビティ28内における溶融樹脂30の温度分布は、副ランナ第2部分26を流動する溶融樹脂の温度分布を反映した分布となる。云い換えれば、図15の(A)にキャビティ28を含む金型組立体の模式的な断面図を示すように、キャビティ28内における溶融樹脂の温度分布は、図面における左右で対称となり、図面における上下で非対称となる。尚、相対的に温度の高い溶融樹脂の部分を参照番号30Hで示し、相対的に温度の低い溶融樹脂の部分を参照番号30Lで示す。
【0045】
それ故、得られた射出成形品の模式的な断面図を図15の(B)に示すように、射出成形品に残されたパーティングラインPLを含む仮想平面に対する法線方向をz軸方向、射出成形品の軸線をx軸とし、射出成形品を所定のyz平面で切断したとき、射出成形品は、その外形断面形状が、xz平面に対して対称であり、且つ、xy平面に対して対称である部分を有し、この所定のyz平面で射出成形品を切断したとき、中空部31は、その断面形状が、xz平面に対して対称であり、且つ、xy平面に対して非対称である。
【0046】
実施例1にあっては、樹脂(具体的には、熱可塑性樹脂)として、ポリカーボネート樹脂を使用し、以下の表1に示す成形条件にて射出成形品を成形した。尚、キャビティ28の体積は80cm3であり、図面に示した外形形状とは異なり、射出成形品は丸みを帯びた棒状の外形形状を有する。キャビティ28内へ導入する溶融樹脂の量は、キャビティ内を溶融樹脂で完全に充填するには不十分な量、具体的には、60cm3である。また、圧力15MPaの窒素ガスを加圧流体として用いて、キャビティ28への溶融樹脂30の射出完了と同時に(図5の(A)参照)、キャビティ28内の溶融樹脂30への加圧流体の注入を開始し、キャビティ28内の樹脂(熱可塑性樹脂)の内部に中空部31を形成した(図5の(B)参照)。
【0047】
[表1]
樹脂温度 :280゜C
金型温度 : 80゜C
射出・保圧時間:30秒
冷却時間 :50秒
【0048】
比較例1として、屈曲部25を設けない副ランナを有する金型組立体を用いて、実施例1と同様の成形条件にて射出成形品を得た。尚、図21に、金型組立体における主ランナ、屈曲部、副ランナを斜めから眺めたときの部分的な模式図を示す。比較例1にて得られた射出成形品の模式的な断面図は、図20の(B)に示したと同様であった。
【0049】
実施例1及び比較例1にて得られた射出成形品の同じ箇所における断面形状、即ち、射出成形品の肉厚(射出成形品の外面と中空部との間の距離)L1,L2,L3,L4を測定した。尚、L1,L2,L3,L4については、図15の(B)及び図20の(B)を参照のこと。
【0050】
その結果、ΔL12=|L1−L2|及びΔL34=|L3−L4|の最大値は、実施例1及び比較例1にあっては、以下のとおりであった。即ち、実施例1にあっては、或る箇所における射出成形品の断面形状は、xz平面に対して対称であり、且つ、xy平面に対して非対称であった。そして、図15の(B)の矢印「A」で示す部分の射出成形品の外観と、矢印「B」で示す部分の射出成形品の外観に差異が生じることが無く、外観に秀でた射出成形品を得ることができた。一方、比較例1にあっては、射出成形品の同じ箇所における断面形状は、xz平面に対して非対称であり、且つ、xy平面に対しても非対称であった。そして、中空部が偏在していたが故に、図20の(B)の矢印「A」で示す部分の射出成形品の外観と、矢印「B」で示す部分の射出成形品の外観に差異が生じていた。即ち、矢印「B」で示す部分にヒケが発生していた。
【0051】
実施例1 比較例1
ΔL12 0.1mm 15mm
ΔL34 1.0mm 0.6mm
【実施例2】
【0052】
実施例2は、実施例1の変形である。実施例1にあっては、屈曲部25を流動する溶融樹脂(溶融熱可塑性樹脂)の方向を第1方向とした。一方、実施例2にあっては、屈曲部25を流動する溶融樹脂の方向は第2方向である。実施例2の金型組立体を構成する第1金型部を第2金型部側から眺めたときの概念図を図9、図10の(A)、図10の(B)に示す。尚、図10の(A)は、キャビティ28への溶融樹脂30の射出が完了した時点の状態を示し、図10の(B)は、キャビティ28内の樹脂(熱可塑性樹脂)の内部に中空部31を形成した時点の状態を示す。また、実施例2の金型組立体における主ランナ、屈曲部、副ランナを、図6の(A)における一点鎖線、及び、二点鎖線を含むXY平面で切断したときに得られる模式的な断面図を図7の(A)及び図7の(B)に示し、図6の(A)における三点鎖線を含むYZ平面で切断したときに得られる模式的な断面図を図8に示す。
【0053】
実施例2にあっては、図6の(A)に示すように、副ランナ第1部分24に流入し、副ランナ第1部分24を第1方向(例えば、Y方向)に沿って流動した溶融樹脂は、副ランナ第1部分24の終端部において型合わせ面から離れる第3方向(Z方向)に流動方向を変えて屈曲部25に流入する。更には、実施例2にあっては、屈曲部25に流入した溶融樹脂は、方向を変え、第2方向(X方向)に沿って流動し、屈曲部25の終端部において型合わせ面に近づく第3方向(−Z方向)に流動方向を変えて副ランナ第2部分26に流入する。そして、副ランナ第2部分26に流入し、副ランナ第2部分26を第2方向(X方向)に沿って流動した溶融樹脂は、溶融樹脂射出部27からキャビティ28に射出される。
【0054】
以下、図6の(B)、及び、図11〜図13を参照して、実施例2において、主ランナから分岐部を経由して副ランナへと流動する溶融樹脂の温度分布を説明する。尚、図6の(B)の「A」は、図6の(A)の矢印「A」における溶融樹脂の温度分布状態を模式的に示す図であり、図6の(B)の「B」は、図6の(A)の矢印「B」における溶融樹脂の温度分布状態を模式的に示す図であり、図6の(B)の「D」は、図6の(A)の矢印「D」における溶融樹脂の温度分布状態を模式的に示す図であり、図6の(B)の「E」は、図6の(A)の矢印「E」における溶融樹脂の温度分布状態を模式的に示す図であり、図6の(B)の「F」は、図6の(A)の矢印「F」における溶融樹脂の温度分布状態を模式的に示す図である。
【0055】
主ランナ21の中央部(中心部)を流動する溶融樹脂の温度は、剪断に起因して、主ランナ21の周辺部を流動する溶融樹脂の温度よりも低い(図6の(B)における「A」参照)。そして、主ランナ21において−X方向に流動した溶融樹脂は、分岐部22においてY方向あるいは−Y方向に流動方向が変えられ、副ランナ23内をキャビティ28に向かって流動する。分岐部22に衝突した溶融樹脂は、実施例1と同様に、流動方向が変えられると同時に、流動断面における温度分布も変えられる。即ち、副ランナ23における副ランナ第1部分24を流動する溶融樹脂にあっては、副ランナ第1部分24の主ランナ側を流動する溶融樹脂の温度は、副ランナ第1部分24の反主ランナ側を流動する溶融樹脂の温度よりも、相対的に高い(図6の(B)における「B」、及び、図11参照)。
【0056】
副ランナ第1部分24に流入し、副ランナ第1部分24を第1方向(Y方向)に沿って流動した溶融樹脂は、副ランナ第1部分24の終端部において型合わせ面から離れる第3方向(Z方向)に流動方向を変えて屈曲部25に流入する。屈曲部25にあっては、溶融樹脂は、流動方向を変えられ、第2方向に流動する。ここで、副ランナ第1部分24と屈曲部25とは、空間的に「捩れ」の関係にある。従って、図6の(B)の「D」及び図13に示すように、副ランナ第1部分24及び屈曲部25における溶融樹脂の温度分布と、副ランナ第2部分26における溶融樹脂の温度分布とは、恰も、位相が略90度(場合によっては90度)、ずれた関係となる。即ち、副ランナ第1部分24における溶融樹脂の温度分布が副ランナ第1部分断面左右において非対称である場合、副ランナ第2部分26における溶融樹脂の温度分布は副ランナ第2部分断面上下において非対称となる。
【0057】
そして、溶融樹脂は、屈曲部25の終端部において型合わせ面に近づく第3方向(−Z方向)に流動方向を変えて副ランナ第2部分26に流入する。このときの溶融樹脂における温度分布は、実質的に変化していない。
【0058】
更には、副ランナ第2部分26に流入し、副ランナ第2部分26を第2方向(X方向)に沿って流動した溶融樹脂は、溶融樹脂射出部27からキャビティ28に射出される。ここで、キャビティ28内における溶融樹脂30の温度分布は、実施例1にて説明したと同様に、副ランナ第2部分26を流動する溶融樹脂の温度分布を反映した分布となる。
【0059】
それ故、実施例1と同様に、射出成形品に残されたパーティングラインPLを含む仮想平面に対する法線方向をz軸方向、射出成形品の軸線をx軸とし、射出成形品を所定のyz平面で切断したとき、射出成形品は、その外形断面形状が、xz平面に対して対称であり、且つ、xy平面に対して対称である部分を有し、この所定のyz平面で射出成形品を切断したとき、中空部は、その断面形状が、xz平面に対して対称であり、且つ、xy平面に対して非対称である。従って、実施例1と同様に、外観に秀でた射出成形品を得ることができる。
【0060】
実施例2にあっては、実施例1と同じ樹脂(熱可塑性樹脂)を使用し、表1に示した成形条件にて射出成形品を成形した。尚、キャビティ28の体積、射出成形品の形状は,実施例1と同様であるし、導入する溶融樹脂の量、使用加圧流体、加圧流体の導入時期も実施例1と同様とした。(図5の(A)及び(B)参照)。
【0061】
実施例2及び比較例1にて得られた射出成形品の同じ箇所における断面形状、即ち、射出成形品の肉厚(射出成形品の外面と中空部との間の距離)L1、L2、L3及びL4を測定した。尚、L1、L2、L3及びL4については、図16の(B)及び図20の(B)を参照のこと。
【0062】
その結果、ΔL12=|L1−L2|及びΔL34=|L3−L4|の最大値は、実施例2及び比較例1にあっては、以下のとおりであった。即ち、実施例2にあっては、或る箇所における射出成形品の断面形状は、xz平面に対して対称であり、且つ、xy平面に対して非対称であった。そして、図16の(B)の矢印「A」で示す部分の射出成形品の外観と、矢印「B」で示す部分の射出成形品の外観に差異が生じることが無く、外観に秀でた射出成形品を得ることができた。一方、比較例1にあっては、射出成形品の同じ箇所における断面形状は、xz平面に対して非対称であり、且つ、xy平面に対しても非対称であった。そして、中空部が偏在していたが故に、図20の(B)の矢印「A」で示す部分の射出成形品の外観と、矢印「B」で示す部分の射出成形品の外観に差異が生じていた。即ち、矢印「B」で示す部分にヒケが発生していた。
【0063】
実施例2 比較例1
ΔL12 0.1mm 15mm
ΔL34 1.0mm 0.6mm
【0064】
以上、本発明を好ましい実施例に基づき説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例にて説明した金型組立体の構造、主ランナ、屈曲部を含む副ランナの構造、射出成形品の形状、使用した材料、成形条件等は例示であり、適宜、変更することができる。実施例においては、金型組立体の構成を、射出成形品を2個取りとしたが、4個取り、8個取り等とすることもできる。
【符号の説明】
【0065】
11・・・第1金型部、12・・・第2金型部、20・・・スプル、21・・・主ランナ、22・・・分岐部、23・・・副ランナ、24・・・副ランナ第1部分、25・・・屈曲部、26・・・副ランナ第2部分、27・・・溶融樹脂射出部、28・・・キャビティ、29・・・加圧流体導入部、30・・・溶融樹脂、30H・・・相対的に温度の高い溶融樹脂の部分、30L・・・相対的に温度の低い溶融樹脂の部分、31・・・中空部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)第1金型部、
(B)第2金型部、
(C)第1金型部と第2金型部とを型締めすることで形成され、N個(但し、N≧2)の成形品を成形するためのN個のキャビティ、
(D)主ランナ、
(E)主ランナから分岐し、主ランナと各キャビティとを結ぶN本の副ランナ、
(F)副ランナに連通し、キャビティに開口した溶融樹脂射出部、及び、
(G)加圧流体導入部、
を備えており、
主ランナは、第1金型部と第2金型部との型合わせ面内に位置し、
各副ランナは、
(イ)型合わせ面内に位置し、主ランナから分岐し、型合わせ面と平行な第1方向に延びる副ランナ第1部分、
(ロ)型合わせ面内に位置し、溶融樹脂射出部に連通し、型合わせ面と平行であって、第1方向とは異なる第2方向に延びる副ランナ第2部分、及び、
(ハ)型合わせ面から離れて位置し、副ランナ第1部分と副ランナ第2部分とを結ぶ屈曲部、
から構成されており、
副ランナ第1部分に流入し、副ランナ第1部分を第1方向に沿って流動した溶融樹脂は、副ランナ第1部分の終端部において型合わせ面から離れる第3方向に流動方向を変えて屈曲部に流入し、
屈曲部に流入した溶融樹脂は、第1方向又は第2方向に沿って流動し、屈曲部の終端部において型合わせ面に近づく第3方向に流動方向を変えて副ランナ第2部分に流入し、
副ランナ第2部分に流入し、副ランナ第2部分を第2方向に沿って流動した溶融樹脂は、溶融樹脂射出部からキャビティに射出される金型組立体を用い、中空部を有する射出成形品をN個取りする射出成形方法であって、
主ランナから副ランナ、溶融樹脂射出部を介してキャビティ内に射出された溶融樹脂の内部に、加圧流体源から加圧流体導入部を介して加圧流体を導入し、以て、キャビティ内の樹脂の内部に中空部を形成することを特徴とする射出成形方法。
【請求項2】
第1方向と第2方向との成す角度は、70度乃至110度であることを特徴とする請求項1に記載の射出成形方法。
【請求項3】
第1方向と第3方向との成す角度は、70度乃至110度であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の射出成形方法。
【請求項4】
主ランナは第4方向に延び、
第1方向と第4方向との成す角度は、70度乃至110度であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の射出成形方法。
【請求項5】
射出成形品に残されたパーティングラインを含む仮想平面に対する法線方向をz軸方向、射出成形品の軸線をx軸とし、射出成形品を所定のyz平面で切断したとき、射出成形品は、その外形断面形状が、xz平面に対して対称であり、且つ、xy平面に対して対称である部分を有し、
該所定のyz平面で射出成形品を切断したとき、中空部は、その断面形状が、xz平面に対して対称であり、且つ、xy平面に対して非対称であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の射出成形方法。
【請求項6】
(A)第1金型部、
(B)第2金型部、
(C)第1金型部と第2金型部とを型締めすることで形成され、N個(但し、N≧2)の成形品を成形するためのN個のキャビティ、
(D)主ランナ、
(E)主ランナから分岐し、主ランナと各キャビティとを結ぶN本の副ランナ、
(F)副ランナに連通し、キャビティに開口した溶融樹脂射出部、及び、
(G)加圧流体導入部、
を備えており、
主ランナは、第1金型部と第2金型部との型合わせ面内に位置し、
各副ランナは、
(イ)型合わせ面内に位置し、主ランナから分岐し、型合わせ面と平行な第1方向に延びる副ランナ第1部分、
(ロ)型合わせ面内に位置し、溶融樹脂射出部に連通し、型合わせ面と平行であって、第1方向とは異なる第2方向に延びる副ランナ第2部分、及び、
(ハ)型合わせ面から離れて位置し、副ランナ第1部分と副ランナ第2部分とを結ぶ屈曲部、
から構成されており、
副ランナ第1部分に流入し、副ランナ第1部分を第1方向に沿って流動した溶融樹脂は、副ランナ第1部分の終端部において型合わせ面から離れる第3方向に流動方向を変えて屈曲部に流入し、
屈曲部に流入した溶融樹脂は、第1方向又は第2方向に沿って流動し、屈曲部の終端部において型合わせ面に近づく第3方向に流動方向を変えて副ランナ第2部分に流入し、
副ランナ第2部分に流入し、副ランナ第2部分を第2方向に沿って流動した溶融樹脂は、溶融樹脂射出部からキャビティに射出されることを特徴とする金型組立体。
【請求項7】
第1方向と第2方向との成す角度は、70度乃至110度であることを特徴とする請求項6に記載の金型組立体。
【請求項8】
第1方向と第3方向との成す角度は、70度乃至110度であることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の金型組立体。
【請求項9】
主ランナは第4方向に延び、
第1方向と第4方向との成す角度は、70度乃至110度であることを特徴とする請求項6乃至請求項8のいずれか1項に記載の金型組立体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2011−143558(P2011−143558A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−4166(P2010−4166)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】