説明

金型

【課題】ダイカスト成形における生産性および作業性の向上を図るべく、見切りリブを備える金型であって、入子を交換する際に、入子と本体の間の段差を解消するための加工作業を必要としない金型を提供する。
【解決手段】本体部である金型本体2と入子3を備え、金型本体2と入子3を組み合わせた状態において、金型本体2と入子3の境界部1aに連続する部位に、見切りリブ9を形成するための見切りリブ用凹部8が形成される金型1であって、境界部1aを、見切りリブ用凹部8の幅方向における中心位置(線X)に対して、金型本体2側にオフセットさせて設定するとともに、入子3にのみ、見切りリブ用凹部8を構成する凹曲面たる第二曲面部3cが形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交換可能な入子を備える金型の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイカスト成形を行う場合、製品形状を転写するための型である金型が使用される。
金型においては、保全性や加工性を確保するために、金型の一部を交換可能とした本体(母子)と入子を備える構成が一般的に採用されている。
このような本体と入子を備える金型は、使用回数の増大に伴って、金型(特に入子)が摩耗し、本体と入子の境界部に隙間が発生する。
そして、このような隙間が発生した金型を使用してダイカスト成形を行った場合、当該隙間にも溶湯が入り込むため、成形された製品にはバリが生じる。
このようなバリは、離型時や機械加工時にむしれることがあり、ダイカスト製品に欠陥が生じる原因となっている。
【0003】
そこで、離型時や機械加工時にバリがむしれても、ダイカスト製品に欠陥が生じないようにするための技術が検討されており、例えば、以下に示す特許文献1にその技術が開示され公知となっている。
【0004】
特許文献1に開示された従来技術では、バリの基部(ダイカスト製品とバリの見切り部)に見切りリブを形成することによって、離型時や機械加工時にバリがむしれた場合に、見切りリブは欠損するが、ダイカスト製品を構成する部位には欠損が生じないようにして、ダイカスト製品に欠陥が生じることを防止するようにしている。
【0005】
ここで、見切りリブについて、図5〜図7を用いてさらに詳細に説明をする。
図5(a)に示す如く、従来の金型21においては、金型本体22と、入子23を組み合わせることにより、製品形状を成す凹部24・24を形成する構成としている。
尚、以下では、従来の金型21であって、改良前のもの(見切りリブを形成する構成ではないもの)を、金型21Xと呼ぶものとする。
【0006】
このような金型21Xでは、使用回数の増大に伴って、各部22・23(特に、入子23)が摩耗等することにより、各部22・23の境界部に隙間25が生じてくるのが一般的である。
そして、このような隙間25が生じている金型21Xを用いてダイカスト成形を行った場合、図5(b)に示すような、バリ27が生じた製品26が成形される。
このようなバリ27が、離型時や機械加工時にむしれると、製品26を構成する部位までむしれてしまい、製品26の強度低下等を招く原因となる欠損部である欠陥26aが生じる。
【0007】
そこで、このような欠陥26aが生じることを防止するために、従来は、製品26とバリ27の間に、図6(a)に示すような見切りリブ29を形成するようにしている。
見切りリブ29を設けることによって、バリ27が離型時や機械加工時にむしれても、見切りリブ29が欠損するだけで、製品26には欠陥26aが生じないようにしている。
また、見切りリブ29は、製品26としては本来必要のない部位であるため、図6(a)に示すように切削工具30等によって、バリ27と共に切除される。
【0008】
図6(b)に示す如く、製品26に見切りリブ29を形成することのできる改良した金型21では、凹部24において、金型本体22と入子23の分割ラインSLに対して左右対称となる態様で見切りリブ用凹部28を形成している。
尚、以下では、従来の金型21であって、改良後のもの(見切りリブ29を形成するための見切りリブ用凹部28を備えるもの)を、金型21Yと呼ぶものとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−006371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
金型21Yでは、入子23を交換したときに、見切りリブ用凹部28における入子23と金型本体22の境界部に図7に示すような段差(ぐいち)28aが生じる。
金型21Yに形成される見切りリブ用凹部28は、それによって形成される見切りリブ29が離型時の障害とならないようにするため、曲面が連続的に形成されていることが要求される。
このため、金型21Yを使用する場合には、入子23の交換を行う度に、この段差28aを解消するための加工作業(ぐいち合わせ)を行う必要が生じていた。
【0011】
段差28aを解消するための加工作業は、連続的な曲面を形成するために、例えば、切削工具の刃先の径を変えつつ、切削工具の刃先の接触角度を変えながら、複数の工程を経て行なわれる。
【0012】
また、見切りリブ29が形成可能な幅には上限がある。
例えば、図6(b)に示すように見切りリブ29の上限幅が2rである場合の見切りリブ用凹部28の加工においては、凹曲面の半径は、r以下とする必要がある。
このような微小な曲面形状(R形状)を形成するためには、先端部の曲面形状が異なる複数の切削工具を取り換えながら加工を行わなければならない。
【0013】
このように、段差28aを解消するための加工作業は、微細な加工が要求されるとともに、複数の工程を経て行われるため、加工に要する時間が多大となっていた。
このため、ダイカスト成形を行う場合において、金型の保全に要する時間が長くなり、生産性の向上を阻害する要因となっていた。
【0014】
さらに、この段差28aを解消するための加工作業(ぐいち合わせ)では、金型21Yをダイカストマシン(図示せず)に配置した状態で行う必要があるため、作業者に負担の掛かる姿勢での作業を伴うものとなっており、金型21Yの保全作業における作業性の改善が望まれていた。
【0015】
本発明は、斯かる現状の課題を鑑みてなされたものであり、ダイカスト成形における生産性および作業性の向上を図るべく、見切りリブを備える金型であって、入子を交換する際に、入子と本体の間の段差を解消するための加工作業を必要としない金型を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0017】
即ち、請求項1においては、本体部と入子を備え、前記本体部と前記入子を組み合わせた状態において、前記本体部と前記入子の境界部に連続する部位に、見切りリブを形成するための凹部が形成される金型であって、前記境界部を、前記凹部の幅方向における中心位置に対して、前記本体部側にオフセットさせて設定するとともに、前記入子にのみ、前記凹部を構成する凹曲面が形成されるものである。
【0018】
請求項2においては、前記凹曲面の前記境界部に至る直前の部位には、前記境界部において前記本体部に形成される境界面に対して、90度以上の角度を成す平面部が形成されるものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0020】
請求項1においては、入子の交換を行う度に、段差を解消するための加工作業(ぐいち合わせ)を行う必要がなく、入子の交換に要する時間を短縮することができる。
【0021】
請求項2においては、製品に、鋭角を成す角部が生じることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る金型の説明図、(a)本発明の一実施形態に係る金型を示す断面部分模式図、(b)本発明の一実施形態に係る金型により成形した製品を示す模式図。
【図2】本発明の一実施形態に係る金型を示す斜視断面模式図。
【図3】本発明の一実施形態に係る金型の構成部品を示す模式図、(a)金型本体を示す断面模式図、(b)入子を示す断面模式図。
【図4】本発明の一実施形態に係る金型を構成する入子に形成される平面部の説明図、(a)平面部を有する入子を示す模式図、(b)平面部を有しない入子を示す模式図。
【図5】従来の金型を示す模式図、(a)従来の金型の全体構成を示す断面模式図、(b)従来の金型により成形した製品を示す模式図。
【図6】改良した従来の金型を示す図、(a)改良した従来の金型により成形した製品を示す模式図、(b)改良した従来の金型を示す模式図。
【図7】入子の交換時において従来の金型に生じる段差を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、発明の実施の形態を説明する。
まず始めに、本発明の一実施形態に係る金型について、図1〜図3を用いて説明をする。
図1(a)および図2に示す如く、本発明の一実施形態に係る金型1は、ダイカスト成形に用いられる金型であり、金型本体2、入子3等からなる構成としている。
また、本実施形態に示す金型1を用いてダイカスト成形を行うことによって、図1(b)に示すような製品6が成形される。
【0024】
図1(a)に示す如く、金型1は、分割ラインSLを境界として金型本体2と入子3の各部位に分割できる構成としており、金型本体2と入子3を組み合わせた状態において、製品6を成形するための凹部4が形成され、また、見切りリブ9を形成するため凹部である見切りリブ用凹部8が形成されている。
【0025】
金型本体2は、図示しないダイカストマシンに固定される型部材であり、図3(a)に示すように第一曲面部2a、第二曲面部2b等が形成されている。
また、金型本体2には、入子3を保持するための凹部である保持部2eが形成されている。
保持部2eの離型方向視における外形(即ち、保持部2eの側面)は分割ラインSLと一致しており、保持部2eの側面には、入子3が当接する部位である境界面2fが形成されている。
【0026】
第一曲面部2aは、金型本体2と入子3を組み合わせた状態において、凹部4の一部を構成する凹状の曲面である。
第二曲面部2bは、見切りリブ用凹部8の一部を構成する凸状の曲面であり、境界面2fと凹状である第一曲面部2aとを滑らかに連続させるための曲面である。
【0027】
入子3は、金型本体2の保持部2eに嵌め込んで使用されることにより、金型本体2と一体で金型1を形成する型部材であり、図3(b)に示すように第一曲面部3a、平面部3b、第二曲面部3c、第三曲面部3d、等が形成されている。
また、入子3には、保持部2eに嵌挿される部位である嵌挿部3eが形成されている。
嵌挿部3eの離型方向視における外形(即ち、嵌挿部3eの側面)は分割ラインSLと一致しており、嵌挿部3eの側面には、金型本体2が当接する部位である境界面3fが形成されている。
【0028】
第一曲面部3aは、金型本体2と入子3を組み合わせた状態において、凹部4の一部を構成する凹状の曲面である。
平面部3bは、見切りリブ用凹部8の一部を構成する平面であり、境界面3fに対して垂直であり、かつ、境界面3fに連続して形成された平面である。
第二曲面部3cは、見切りリブ用凹部8の一部を構成する凹状の曲面であり、幅方向にける一側の端部は平面部3bと連続し、他側の端部は第三曲面部3dと連続している。
第三曲面部3dは、見切りリブ用凹部8の一部を構成する凸状の曲面であり、それぞれ凹状である第二曲面部3cと第一曲面部3aとを滑らかに連続させるための凸状の曲面である。
【0029】
そして、金型1(即ち、金型本体2と入子3が組み合わされている状態)において、各境界面2f・3fが当接している分割ラインSL上の部位を境界部1aとして規定しており、凹部4の境界部1aに連続する部位において、見切りリブ9を形成するため凹部である見切りリブ用凹部8を形成している。
見切りリブ用凹部8の分割ラインSLを境界として金型本体2側の部位(金型本体側凹部8aと呼ぶ)は、金型本体2の第二曲面部2bと境界面2fによって構成される。
また、見切りリブ用凹部8の分割ラインSLを境界として入子3側の部位(入子側凹部8bと呼ぶ)は、入子3の平面部3b、第二曲面部3c、第三曲面部3dによって構成される。
【0030】
従来の金型21では、金型21によって成形される製品26の幅方向における中心位置と、金型21における分割ラインSLを一致させていた(図6(a)(b)参照)。
尚、ここでいう「幅方向」とは、分割ラインSLによって生成される面に対して垂直な方向を意味している(以下同じ)。
【0031】
一方、本発明の一実施形態に係る金型1では、図1(a)に示すように、金型1によって成形される製品6の幅方向における中心位置は、図1中に示す線Xであり、金型1における分割ラインSLは、線Xに比して、金型本体2側に寄せた位置に設定するようにしている。
【0032】
このように、金型1における分割ラインSLを、線Xに比して、金型本体2側に寄せることによって、分割ラインSLを、見切りリブ用凹部8の幅方向における金型本体2側の端部に設定することを可能にしている。
【0033】
このような構成とした金型1により成形した製品6には、図1(b)に示すように見切りリブ9が形成される。
また本実施形態では、金型1の境界部1aに、図1(a)に示すような隙間10が生じており、製品6に、図1(b)に示すようなバリ7が生じている場合を例示している。
【0034】
図3(a)(b)に示す如く、見切りリブ用凹部8は、複数の面2b・2f・3b・3c・3dにより構成されているが、このうち、見切りリブ9の成形に係る凹曲面は、入子3の第二曲面部3cのみであり、その他の各面部2b・3b・3cは、第二曲面部3cを隣接する各部位に連続させるための面となっている。
即ち、本発明の一実施形態に係る金型1では、入子3の交換時において調整加工が必要となる部位である凹曲面は、主に第二曲面部3cのみであり、それに隣接する各部3b・3dは微調整をする程度でよい。
【0035】
また、金型1において、第二曲面部3cは、片R(1/4R)の形状としているため、例えば、見切りリブ9の上限幅が図6(b)と同様の幅2rであれば、図1(a)に示すように、第二曲面部3cを半径2rの凹状の曲面として形成することができる。
即ち、第二曲面部3cの加工においては、半径2rまでの加工が許容されるため、従来の加工において要求されていた半径r以下の加工に比して許容される曲率が大きく、加工性がよい。
【0036】
従来の金型21Yでは、段差28aを解消するために、金型本体22および入子23の双方を研削したり、あるいは、段差28aの摺り合わせ等をしたりして段差を解消する必要があった。
しかし、本発明の一実施形態に係る金型1では、金型本体2の第二曲面部2bと入子3の平面部3bおよび第二曲面部3cを略垂直に当接させて、両凹部8a・8bを連続させるようにしているため、金型本体2と入子3の離型方向に対する相対位置が多少変化しても、段差が生じることがない。
【0037】
また、金型本体2と入子3の離型方向に対する相対位置が多少変化しても、両凹部8a・8bの連続性も確保できるため、平面部3bおよび第二曲面部3cの調整加工において、確保すべき加工精度を低く設定することができる。
【0038】
さらに、金型本体2における金型本体側凹部8aの調整加工は不要であり、取り外し可能な入子3における入子側凹部8bのみ第二曲面部3cの調整加工をすればよいため、金型1をダイカストマシンに設置した状態での加工作業をする必要がない。
【0039】
このように、本発明の一実施形態に係る金型1では、入子3の交換時において、段差を解消するための加工作業を省略可能にして、保全時間の短縮を図るとともに、保全作業における作業性(作業姿勢等の問題)の改善を図ることができる。
【0040】
即ち、本発明の一実施形態に係る金型1は、本体部である金型本体2と入子3を備え、金型本体2と入子3を組み合わせた状態において、金型本体2と入子3の境界部1aに連続する部位に、見切りリブ9を形成するための見切りリブ用凹部8が形成されるものであって、境界部1aを、見切りリブ用凹部8の幅方向における中心位置(線X)に対して、金型本体2側にオフセットさせて設定するとともに、入子3にのみ、見切りリブ用凹部8を構成する凹曲面たる第二曲面部3cが形成されるものである。
このような構成により、入子3の交換を行う度に、段差を解消するための加工作業(ぐいち合わせ)を行う必要がなく、入子3の交換に要する時間を短縮することができる。
【0041】
また、入子3における入子側凹部8bの境界面3fに連続する端部には、平面状の部位である平面部3bを形成している。
例えば、金型1において、仮に平面部3bがないとした場合には、図4(b)に示すように、境界部1aにおいて金型本体2と入子3が成す角度θ2は、必ず90°未満(鋭角)になる。
このため、このような金型1によって成形された見切りリブ9には、尖端の角度が必ず90°未満(鋭角)となる角部が形成されることとなる。
【0042】
一方、本発明の一実施形態に係る金型1を構成する入子3のように、幅方向における寸法がLである平面部3bを有する場合には、図4(a)に示すように、境界部1aにおいて金型本体2と入子3が成す角度θ1は、必ず90°以上(直角か鈍角)になる。
このため、このような金型1によって成形された見切りリブ9に形成される角部の尖端の角度が必ず90°以上(直角か鈍角)となり、製品6に鋭角な角部が形成されることが防止できる。
尚、平面部3bの幅方向の寸法Lは、L>0であればよい。
【0043】
即ち、本発明の一実施形態に係る金型1において、第二曲面部3cの境界部1aに至る直前の部位には、境界部1aにおいて金型本体2に形成される境界面2fに対して、90度以上の角度を成す平面部3bが形成されるものである。
このような構成により、製品6に、鋭角を成す角部が生じることを防止できる。
【符号の説明】
【0044】
1 金型
1a 境界部
2 金型本体
3 入子
4 凹部
8 見切りリブ用凹部
9 見切りリブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体部と入子を備え、
前記本体部と前記入子を組み合わせた状態において、
前記本体部と前記入子の境界部に連続する部位に、見切りリブを形成するための凹部が形成される金型であって、
前記境界部を、
前記凹部の幅方向における中心位置に対して、前記本体部側にオフセットさせて設定するとともに、
前記入子にのみ、前記凹部を構成する凹曲面が形成される、
ことを特徴とする金型。
【請求項2】
前記凹曲面の前記境界部に至る直前の部位には、
前記境界部において前記本体部に形成される境界面に対して、90度以上の角度を成す平面部が形成される、
ことを特徴とする請求項1に記載の金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−130956(P2012−130956A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286500(P2010−286500)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】