説明

金型

【課題】キャビティ面が複雑な形状であっても、媒体流路からキャビティ面方向への伝熱効率が良好な金型を提供する。
【解決手段】分割型20は、ラピッドプロトタイピングで製造されており、キャビティ面21に沿って、冷却用媒体が流れる冷却路11及び加熱用媒体が流れる加熱路12と、内部に空気が存在する断熱路13とが形成されている。断熱路13は、冷却路11及び加熱路12に対してキャビティ面21とは反対側に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型、特に温度調整用媒体が流れる媒体流路を備えた金型に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳造においては、高品質の成型品を得るため、キャビティ面の温度分布を均一にする必要がある。そこで、一般には、媒体流路を金型の内部に形成し、この媒体流路に温度調節された水などの温度調整用媒体を流すことにより、キャビティ面の温度分布を調整している。
【0003】
例えば、特許文献1には、温水を流す温水回路、冷水を流す冷水回路、及び温風や冷風を流風する送風路を備えた樹脂射出成形用金型が記載されている。この金型は、金属光造形によって製造され、焼結密度が小さな低密度造形部が樹脂成形部(キャビティ部)に接して設けられている。そして、送風路及び低密度造形部を介して温風又は冷風を樹脂成形部に送風することにより、加熱、冷却を迅速化している。
【0004】
特許文献2には、水などの冷却流体が供給循環される冷却通路が形成され、ラッピドプロトタイピングで製造された射出成形用金型が記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、媒体流路を流れる加熱又は冷却用の媒体によって伝熱が行われる金型において、伝熱される金型部位に空隙からなる複数の断熱部を設けることが記載されている。この断熱部は、2つの金型材料間に挟み込まれて接合された多数の球状物又はパンチングメタルから構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−233980号公報
【特許文献2】特開2005−219384号公報
【特許文献3】特開2006−198816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1,2に記載された金型では、冷却や加熱のキャビティ面方向への伝熱効率が良好でないため、成形サイクルが長く、捨て打ち数が多くなるので、生産性に劣るという問題があった。
【0008】
例えば、加熱の場合を考えると、キャビティ面に沿って媒体流路を形成しても、金型の熱伝導率が非常に高いので、加熱が必要なキャビティ面方向だけでなく、加熱が不要な金型の内部方向にも多量の熱が伝達される。そのため、キャビティ面の加熱を迅速に行うためには、多量の入熱が必要となり、加熱用媒体の温度、流量、圧力などを上げる必要が生じていた。
【0009】
また、特許文献3に記載された金型では、断熱部を設けることが可能な部位が非常に限定され、複雑な形状のキャビティ面に沿って断熱部を設けることはできないという問題があった。
【0010】
本発明は、以上の点に鑑み、キャビティ面が複雑な形状であっても、媒体流路からキャビティ面方向への伝熱効率が良好な金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、成型品を形成するためのキャビティ部と、該キャビティ部に沿って温度調整用媒体が流れる媒体流路とを有し、ラピッドプロトタイピングで製造された金型であって、内部に空気が存在する断熱路が形成されていることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、媒体流路を流れる温度調整用媒体からの伝熱が、断熱路の内部に存在する断熱効果の大きい空気によって抑制される。そのため、断熱路を適宜な位置に形成することにより、媒体流路を流れる温度調整用媒体からの伝熱によって、キャビティ面を迅速且つ均一に冷却、加熱することが可能となる。これにより、成型品の生産サイクルが短縮化し、品質が向上する。
【0013】
また、金型がラピッドプロトタイピングで製造されているので、媒体流路及び断熱路が複雑な3次元形状を有していても、これらを金型を製造する工程で同時に形成することができ、製造効率が優れている。
【0014】
本発明において、前記断熱路は、前記媒体流路に対して前記キャビティ部とは反対側に形成されていることが好ましい。
【0015】
この場合、媒体流路を流れる温度調整用媒体からキャビティ部とは反対側方向への伝熱が断熱路によって抑制される。よって、媒体流路からキャビティ部方向への伝熱効率が向上し、キャビティ面を迅速に冷却、加熱することが可能となり、成型品の生産サイクルが短縮化する。
【0016】
本発明において、前記断熱路は、前記媒体流路の延びる方向から傾斜する方向に延びるように形成されていることも好ましい。
【0017】
この場合、断熱路と媒体流路とがなす角度に応じて、断熱路による断熱効果が相違することになる。例えば、断熱路と媒体流路とが直交していれば、断熱効果は少なく、平行に近付くについて断熱効果が増加する。
【0018】
よって、断熱路と媒体流路との角度を適宜な設定することにより、媒体流路を流れる温度調整用媒体からの伝熱によって、キャビティ面を均一に冷却、加熱することが可能となり、成型品の品質が向上する。また、これにより、金型内部の局所過熱を抑制することが可能となり、金型は、変形が抑制され、寿命が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る金型を説明する図であり、(a)は正面図、(b)は(a)のB−B線断面図。
【図2】実施形態の変形に係る金型を説明する断面図であり、(a)は加熱路がキャビティ面の近傍に形成されている場合を、(b)は冷却路及び加熱路と他のキャビティ面との間に断熱路が形成されている場合をそれぞれ示す。
【図3】実施形態の別の変形に係る金型を説明する図であり、(a)は断熱路が加熱路と直交して形成されている場合の正面図を、(b)は断熱路が加熱路から傾斜して形成されている場合の断面図を、(c)は断熱路が加熱路からずれて形成されている場合の正面図をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態に係る金型について説明する。
【0021】
本実施形態に係る金型の基本的構成は、周知のものと同様であるので、本発明の特徴以外の詳しい説明は省略する。
【0022】
図示しないが、金型は、2つに分割された金型、すなわち分割金型から構成されている。一方の分割金型が固定金型であり、他方の分割金型が可動金型である。固定金型は支持台に固定され、可動金型は固定金型に対して近接、離間可能に設けられており、固定金型に対して可動金型が型締め及び型開きされる。そして、これら固定金型及び可動金型の合わせ面(パーティング面)に、キャビティ部、注湯部、湯逃し部などが形成されている。鋳造成型品は、キャビティ部の形状に成形される。キャビティ部の表面がキャビティ面である。
【0023】
さらに、金型の下部には、注湯部を介してキャビティ部に溶湯を供給する溶湯供給装置が設けられている。溶湯供給装置は、プランジャ等からなり、アルミニウム合金、マグネシウム合金、亜鉛合金、合成樹脂等の溶湯を供給する。
【0024】
次に、本発明の特徴である金型の温度調整機構について説明する。本実施形態では、2つの分割金型、すなわち固定金型、可動金型の少なくも一方に温度調整機構10が設けられている。ここでは、図1(a)及び図1(b)に示すように、温度調整機構10が分割金型20に設けられているとして説明する。
【0025】
温度調整機構10は、冷却用媒体が流れる冷却路11と、加熱用媒体が流れる加熱路12と、内部に空気が存在する断熱路13とを備えている。冷却用媒体、加熱用媒体は、例えば、水や油などの流体、又は空気などの気体である。なお、冷却用媒体及び加熱用媒体が本発明の温度調整用媒体に相当し、冷却路11及び加熱路12が本発明の媒体流路に相当する。
【0026】
分離型20は、ラピッドプロトタイピング(近年では、アディティブマニュファクチャリングともいう)を用いて製造されている。具体的には、分離型20は、素材金属粉末を層状に敷き詰め、高出力のレーザービームなどで直接焼結する粉末焼結積層法で製造されている。そのため、冷却路11、加熱路12及び断熱路13が複雑な3次元形状であっても、これらは分離型20を製造する工程で同時に形成され、製造効率が優れている。
【0027】
ここでは、冷却路11は、キャビティ面21に沿って、キャビティ面21の近傍に形成された3本の平行な穴である。そして、加熱路12は、冷却路11に沿ってそれぞれの冷却路11と平行に、且つ冷却路11に対してキャビティ面21とは反対側に形成された3本の平行な穴である。そして、断熱路13は、加熱路12に沿ってそれぞれの加熱路12と平行に加熱路12に対してキャビティ面21とは反対側に形成された3本の平行な穴である。
【0028】
なお、冷却路11、加熱路12及び断熱路13の構成や配置はこれに限定されない。例えば、キャビティ面21に沿って、キャビティ面21の近傍に冷却路11と加熱路12とを交互に形成してもよい。また、場所によって、加熱路12及び断熱路13の配置関係が変化するものであってもよい。
【0029】
ただし、断熱路13は、少なくともその一部が、冷却路11及び加熱路12に対してキャビティ面21とは反対側に形成されていることが好ましい。なお、必要に応じて、冷却路11や加熱路12に沿わない部位に断熱路13を形成してもよい。
【0030】
ここでは、冷却路11、加熱路12及び断熱路13の断面形状は、円状で互いに略同一で、全長に亘って一定である。ただし、断面形状は、円状に限定されず、楕円状、卵状、矩形状などの多角形状など任意の形状であってもよい。また、冷却路11、加熱路12及び断熱路13の断面形状は、互いに略同一でなくともよく、例えば、3本の断熱路13の断面形状が互いに異なっていてもよい。また、例えば、1本の断熱路13の断面形状が場所によって異なっていてもよい。
【0031】
なお、図示しないが、冷却路11の入口端部は、冷却装置に接続されている。冷却装置は、制御装置から指令された温度に冷却用媒体を冷却し、これを入口端部から冷却路11内に供給する。そして、冷却路11を流れた冷却用媒体は、出口端部から外部に放出される。
【0032】
加熱路12も、同様に、入口端部に加熱装置が接続され、出口端部から加熱用媒体が外部に放出される。なお、冷却用媒体や加熱用媒体は、出口端部から再び冷却装置や加熱装置に戻り、循環してもよい。
【0033】
断熱路13は、単なる貫通穴であり、その両端部が分割型20の端面で外部に開放されている。ただし、断熱路13は、必ず両端部が外部に開放されていなくともよく、盲穴や外部と連通しない穴であってもよい。なお、ラピッドプロトタイピングによる製造時に、金属粉末が穴内に残存するので、これを排出するために、断熱路13は外部と連通しているほうが好ましい。
【0034】
このようにして、断熱路13の内部に断熱効果の大きい空気が存在するので、断熱路13の内部に空気からなる断熱層が設けられたことになる。
【0035】
以上のように、冷却路11及び加熱路12に沿って、これらに対してキャビティ面21と反対側に断熱路13内部に存在する空気からなる断熱層が設けられている。よって、冷却路11や加熱路12を流れる媒体から分割型20の内部方向への不必要な伝熱を抑制することが可能となる。そのため、冷却路11や加熱路12を流れる媒体からキャビティ面21方向への伝熱量が多くなり、キャビティ面21方向への伝熱効率が向上し、伝熱速度が速くなる。
【0036】
従って、キャビティ面21を迅速に冷却、加熱することが可能となる。そして、キャビティ面21が迅速に冷却されることにより、成形サイクルが短縮化される。また、キャビティ面21が迅速に加熱されることにより、捨て打ち数が少なくなり、立ち上がり時間が短縮化される。これらによって、生産性が優れたものとなる。
【0037】
特に、冷却路11及び加熱路12に平行に重なって断熱路13が形成されているので、キャビティ面21とは反対側方向への伝熱が効率良く防止され、冷却路11及び加熱路12内を流れる媒体によって、キャビティ面21を迅速に冷却、加熱することができる。これにより、成形サイクルを短縮することができ、生産性を向上させることができる。
【0038】
また、例えば、成型品の肉厚部に対向するキャビティ面21からは多量の熱を放出させる必要がある。そのためには、このキャビティ面21の近傍に冷却路11を形成し、冷却路11のキャビティ面21と反対側の近傍に断熱路13を形成すればよい。そして、このとき、断熱路13の断面積を小さくすることが好ましい。
【0039】
一方、成型品の薄肉部や突出部に対向するキャビティ面21から急速に熱を放出させると、この部分が他の部分と比較して温度が低下し過ぎるおそれがある。そこで、このようなキャビティ面21からある程度離間させて冷却路11を形成し、冷却路11のキャビティ面21と反対側にある程度離間させて断熱路13を設ければよい。そして、このとき、断熱路13の断面積を大きくすることが好ましい。
【0040】
このように、加熱路11、冷却路12及び断熱路13の配置や断面形状などを適切に設定することにより、キャビティ面21を均一に冷却、加熱することが可能となる。これにより、成型品の外観、内部品質が向上し、寸法精度も優れたものとなる。また、分割型20の内部の局部過熱を抑制することも可能となり、分割型20の変形が抑制され、寿命が向上する。
【0041】
そして、キャビティ面21が迅速且つ均一に冷却、加熱され、且つ分割型20の局部過熱が抑制されるよう、強度面も考慮して、シュミレーションや実験を行うことによって、加熱路11、冷却路12及び断熱路13の配置や断面形状などを適切なものに設定することが可能である。
【0042】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、冷却路11を加熱路12よりもキャビティ面21に近接して形成したが、これは、キャビティ面21を迅速に冷却することを重視したためである。キャビティ面21を迅速に加熱することを重視する場合には、図2(a)に示すように、加熱路12を冷却路11よりもキャビティ面21に近接して形成すればよい。
【0043】
さらに、キャビティ面21を局部的に迅速に冷却、加熱する場合には、図2(b)に示すように、冷却路11及び加熱路12とキャビティ面21の他の部分との間に断熱路13を形成すればよい。
【0044】
また、冷却路11や加熱路12に沿ってこれらと平行に断熱路13を形成したが、これは、断熱効果を重視したためである。例えば、一時停止(チョコ停)が短く、緩やかに加熱したい場合など、断熱効果を抑制したい場合には、図3(a)に示すように、冷却路11や加熱路12の延びる方向と直交する方向に延びるように断熱路13を形成すればよい。
【0045】
また、この場合、図3(b)に示すように、冷却路11や加熱路12とずらせて断熱路13を形成してもよい。すなわち、キャビティ面21から分割型20の内部方向において、冷却路11や加熱路12と重ならないように、又は重なる面積が少なくなるように、断熱路13を形成してもよい。これによっても、断熱効果を抑制することができる。
【0046】
さらに、分割型20の内部の伝熱に方向性を与えたい場合には、図3(c)に示すように、冷却路11や加熱路12の延びる方向から傾斜する方向に延びるように断熱路13を形成すればよい。
【0047】
また、図示しないが、冷却路11又は加熱路12の何れか一方のみが形成されたものであってもよい。さらに、冷却用兼加熱用媒体が同じ媒体流路を流れるものであってもよい。また、鋳造用の金型について説明したが、これに限定されず、射出形成用などの金型に適用してもよい。
【符号の説明】
【0048】
10…温度調整機構、 11…冷却路(媒体流路)、 12…加熱路(媒体流路)、 13…断熱路、 20…分割型(金型)、 21…キャビティ面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成型品を形成するためのキャビティ部と、該キャビティ部に沿って温度調整用媒体が流れる媒体流路とを有し、ラピッドプロトタイピングで製造された金型であって、
内部に空気が存在する断熱路が形成されていることを特徴とする金型。
【請求項2】
前記断熱路は、前記媒体流路に対して前記キャビティ部とは反対側に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の金型。
【請求項3】
前記断熱路は、前記媒体流路の延びる方向から傾斜する方向に延びるように形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−35204(P2013−35204A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172897(P2011−172897)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】