説明

金属−有機骨格構造体の製造方法

【課題】高純度であり、このために水素ガスの吸着量が大きな金属−有機骨格構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】先ず、溶媒中に金属イオンと有機配位子とが存在する溶液を調製する。この溶液を室温よりも高温に保持して核を生成させた後、この際の保持温度よりも低温に保持して核から結晶を成長させる。さらに、温度をより高温にして保持し、結晶成長速度を向上させる。このようにして合成された金属−有機骨格構造体のX線回折測定を行ったとき、該金属−有機骨格構造体の結晶構造因子に基づいて10°未満で且つ10°に最近接する回折角に出現する理論ピークの実測強度を1とすると、不純物が存在することに起因して5°〜20°に出現する不純物ピークの実測強度は、最大のものでも1/2未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属原子又は金属イオンを有機分子又は有機イオンが囲繞するようにして配位結合した金属−有機骨格構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年における環境保護への関心の高まりから、H2Oが排出されるのみで、炭化水素ガスやNOx、SOx等を排出することのない燃料電池が着目されている。
【0003】
燃料電池を運転するに際しては、水素を含有する燃料ガスを供給する必要がある。このため、水素貯蔵タンクが付設される。この水素貯蔵タンクにおける水素貯蔵量が多いほど、燃料電池の運転時間が長くなる。そこで、容器内に水素吸着材を収容して水素貯蔵タンクを構成することが検討されている(例えば、特許文献1参照)。この場合、水素吸着材が水素を吸着保持するので、水素吸着材が収容されていない場合に比して多くの水素を貯留することができる。
【0004】
この種の水素吸着材としては、錯体、活性炭、カーボンナノチューブ、アモルファスカーボン、グラファイト、ゼオライト又はメソポーラスシリケート等が例示される。この中、錯体の1種である、金属原子又は金属イオンを有機分子又は有機イオンが囲繞するように配位結合した構造の金属−有機骨格構造体が特に着目されている。金属−有機骨格構造体は、ゲスト分子が存在しない場合であっても安定な多孔性骨格構造を維持するからである。なお、水素ガスは、この多孔性骨格構造内に吸着される。
【0005】
金属−有機骨格構造体は、例えば、特許文献1に記載されているようにして得ることができる。すなわち、先ず、金属塩と、二座配位可能なカルボキシレート等の有機配位子を、N,N’−ジエチルフォルムアミド、ジメチルフォルムアミド、N−メチルピロリドン等の有機溶媒に溶解して溶液を調製する。
【0006】
この溶液を、室温で数日〜数週間の間静置するか、85〜105℃で20〜72時間保持する。これにより、結晶化が進行する。
【0007】
結晶化が終了した時点では、前記有機溶媒の分子が金属−有機骨格構造体の多孔性骨格構造内に物理的に吸着されている。そこで、次に、この溶媒分子が除去される。具体的には、例えば、得られた金属−有機骨格構造体をクロロフォルムに浸漬して溶媒分子をCH3Cl分子に置換する。その後、真空引きや加熱保持によってこのCH3Cl分子を除去することにより、金属−有機骨格構造体を得るようにしている。
【0008】
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/0004364号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、室温で数日〜数週間静置した場合、十分な量の結晶が得られないことがあるという不具合がある。
【0010】
一方、加熱保持する場合には、結晶が得られるはするものの、純度が低く、このために比表面積が小さく、水素ガスの吸着量が小さくなるものが存在することがある。このような事態が生じると、容器に充填して水素貯蔵タンクを構成したとしても、水素貯蔵量が少なくなってしまう。
【0011】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、高純度であり、このために水素ガスの吸着量が大きな金属−有機骨格構造体を得ることが可能な金属−有機骨格構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するために、本発明は、金属原子又は金属イオンを有機分子又は有機イオンが囲繞して配位結合した金属−有機骨格構造体の製造方法において、
溶媒中に金属イオンと有機配位子とが存在する溶液を調製する第1工程と、
前記溶液を室温よりも高温に保持する第2工程と、
前記溶液を前記第2工程の保持温度よりも低温に保持する第3工程と、
前記溶液を前記第3工程の保持温度よりも高温に保持する第4工程と、
を有することを特徴とする。
【0013】
第2工程において核が生成し、第3工程において核が結晶に成長する。この第3工程を低温で行うことにより結晶が緩やかに成長し、このため、歪みが少なく第2相等の不純物相も少ない金属−有機骨格構造体を得ることができる。
【0014】
このような金属−有機骨格構造体は比表面積が大きく、結局、水素吸着サイトが多いので、多量の水素ガスを吸着することができる。
【0015】
すなわち、本発明によれば、核からの結晶成長を緩やかにすることで、水素ガスの吸着量が大きい金属−有機骨格構造体を得ることができる。
【0016】
なお、この製造方法によって得られた金属−有機骨格構造体につきX線回折測定を行うと、当該金属−有機骨格構造体の結晶構造因子に基づいて10°未満で且つ10°に最近接する回折角に出現する理論ピークの実測強度を1としたとき、不純物が存在することに起因して5°〜20°に出現する不純物ピークの実測強度が1/2未満であるものが大多数である。すなわち、本発明に係る金属−有機骨格構造体には、第2相等の不純物がほとんど存在しない。このため、高純度で比表面積が大きく、従って、水素吸着サイトが多くなるので、水素を多量に吸着することが可能となる。
【0017】
具体的には、この金属−有機骨格構造体は、容積型水素圧力組成等温線図測定装置で水素ガスの吸着平衡圧力から水素吸着量を算出したとき、当該金属−有機骨格構造体1g当たりの水素吸着量が3MPaで15ccを超えるものがほとんどである。
【0018】
なお、第2工程における好適な保持条件は、80〜110℃、4〜15時間である。また、第3工程における好適な保持条件は、10〜40℃で1〜7日間であり、第4工程における好適な保持条件は、80〜110℃で4〜15時間である。このような条件に設定することにより、比表面積が大きく高純度な金属−有機骨格構造体を高収率で且つ効率よく製造することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、核からの結晶成長を緩やかにして、歪みが少ない高純度の金属−有機骨格構造体を得るようにしている。このような金属−有機骨格構造体は比表面積が大きく、従って、水素ガス吸着サイトが多いので、多量の水素ガスを吸着することができる。
【0020】
この金属−有機骨格構造体を容器に充填すれば、多量の水素ガスを貯蔵可能な水素貯蔵タンクを構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係る金属−有機骨格構造体の製造方法につき好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0022】
本実施の形態に係る製造方法をフローチャートにして図1に示す。この製造方法は、溶液を調製する第1工程S1と、該溶液を所定温度・時間保持する第2工程S2〜第4工程S4とを有する。
【0023】
先ず、第1工程S1において、例えば、金属塩と有機配位子を溶媒に溶解し、溶液を調製する。
【0024】
ここで、最終的に得られる金属−有機骨格構造体としては、M2(4,4’−ビピリジン)3(NO34](ただし、MはCo、Ni、Znのいずれか)、[M2(1,4−ベンゼンジカルボキシレートアニオン)2](ただし、MはCu、Znのいずれか)、[Fe2(トランス−4,4’−アゾピリジン)4(NCS)4]等が挙げられる。
【0025】
又は、その一般式がM4O(芳香族ジカルボキシレートアニオン)3で表されるものであってもよい。Mの好適な例としては、Zn、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Al、Ru、Rh、Pd、Ag、Ptが挙げられる。また、芳香族ジカルボキシレートアニオンに代替して芳香族ジカルボキシレートアニオン誘導体で構成されたものであってもよい。
【0026】
芳香族ジカルボキシレートアニオン又はその誘導体の好適な例としては、1,4−ベンゼンジカルボキシレートアニオン、2−ブロモ−1,4−ベンゼンジカルボキシレートアニオン、2−アミノ−1,4−ベンゼンジカルボキシレートアニオン、2,5−プロピル−1,4−ベンゼンジカルボキシレートアニオン、2,5−ペンチル−1,4−ベンゼンジカルボキシレートアニオン、シクロブテン−1,4−ベンゼンジカルボキシレートアニオン、1,4−ナフタレンジカルボキシレートアニオン、2,6−ナフタレンジカルボキシレートアニオン、4,4’−ビフェニルジカルボキシレートアニオン、4,5,9,10−テトラヒドロピレン−2,7−ジカルボキシレートアニオン、ピレン−2,7−ジカルボキシレートアニオン、4,4”−テルフェニルジカルボキシレートアニオン等が挙げられる。各々の構造式は、下記の通りである。
【0027】
【化1】

【0028】
【化2】

【0029】
【化3】

【0030】
【化4】

【0031】
【化5】

【0032】
【化6】

【0033】
【化7】

【0034】
【化8】

【0035】
【化9】

【0036】
【化10】

【0037】
【化11】

【0038】
【化12】

【0039】
金属塩としては、金属−有機骨格構造体の中心に位置する金属イオン又は金属原子を供給可能な物質が選定される。すなわち、[M2(4,4’−ビピリジン)3(NO34]を合成する場合にはCo塩、Ni塩、Zn塩のいずれか、[M2(1,4−ベンゼンジカルボキシレートアニオン)2]を合成する場合にはCu塩、Zn塩のいずれか、[Fe2(トランス−4,4’−アゾピリジン)4(NCS)4]を合成する場合にはFe塩が選定され、M4O(芳香族ジカルボキシレートアニオン)3を合成する場合には、Zn塩、Sc塩、Ti塩、V塩、Cr塩、Mn塩、Fe塩、Co塩、Ni塩、Cu塩、Al塩、Ru塩、Rh塩、Pd塩、Ag塩、Pt塩が選定される。
【0040】
一方の有機配位子としては、例えば、芳香族ジカルボキシレートアニオン又は芳香族ジカルボキシレートアニオン誘導体を供給可能な酸化合物が挙げられる。
【0041】
これらの金属塩及び有機配位子を、溶媒に溶解する。溶媒は、両者を溶解可能な液体であれば特に限定されるものではないが、N,N’−ジエチルフォルムアミド、ジメチルフォルムアミド、N−メチルピロリドン等の有機溶媒を好適な例として挙げることができる。
【0042】
このようにして調製した溶媒を、次に、第2工程S2において、室温よりも高温に保持する。この保持により、金属−有機骨格構造体の結晶の核が生成する。なお、第2工程S2以降は、溶液を密閉容器に貯留して行うことが好ましい。
【0043】
保持温度は、80〜110℃とすることが好ましい。80℃以下では結晶の核生成速度が遅くなる傾向があり、このため、保持時間が短いと十分な量の結晶を得ることが容易でなくなる。また、保持時間を長くすると、金属−有機骨格構造体の生産効率が低下する。一方、110℃を超えると、核が十分に生成する前に結晶成長が進行するので、十分な量の結晶を得ることが容易でなくなる。
【0044】
溶液の温度を80〜110℃とした場合、保持時間は4〜15時間とすれば十分である。15時間を超えて保持を行うと、金属−有機骨格構造体の結晶構造に歪みが生じることがある。
【0045】
次いで、第3工程S3において、第2工程S2よりも低温で溶液を保持する。
【0046】
第2工程S2を続行した場合、すなわち、15時間を超える高温保持を行った場合、結晶成長が急速且つ不均一に進行する。このため、最終製品である金属−有機骨格構造体の結晶構造に歪みが生じることがあり、その結果、該金属−有機骨格構造体の結晶度が低くなる。この場合、金属−有機骨格構造体の細孔の孔径が不均一となったり、結晶構造が異なる第2相が生成したりする。いずれの場合においても、金属−有機骨格構造体の比表面積が低下して水素吸着サイトが減少し、このために水素吸着量が小さくなる。
【0047】
これに対し、本実施の形態においては、第2工程S2よりも低温で溶液を保持する第3工程S3を設けている。従って、核からの結晶の成長速度が緩やかとなり、このため、ほとんど歪みがなく、結晶度及び純度が高い金属−有機骨格構造体を得ることができる。このような金属−有機骨格構造体では、水素吸着サイトが多く存在するので、水素吸着量が大きくなる。
【0048】
なお、第3工程S3の保持温度・時間は、例えば、10〜40℃、1〜7日間とすればよい。
【0049】
このようにして核から結晶を十分に成長させた後、第4工程S4において、第3工程S3よりも高温で溶液を保持する。これにより、結晶成長速度が上昇する。溶液が高温で保持されているので、結晶成長は迅速に進行する。従って、比較的短時間で金属−有機骨格構造体を高収率で得ることができる。第4工程S4の保持温度・時間は、例えば、80〜110℃、4〜15時間とすればよい。
【0050】
この金属−有機骨格構造体は、上記した第2工程S2において核を十分に生成させるとともに、第3工程S3において核から結晶を緩やかに成長させて得られたものであるので、歪みが少なく、第2相も少ない。すなわち、結晶度及び純度が高い。
【0051】
具体的には、得られた結晶につきX線回折測定を行えば、金属−有機骨格構造体の結晶構造因子に基づいて所定の回折角(2θ)でピークが出現する。以下の説明においては、金属−有機骨格構造体の結晶構造因子に基づく本来のピークを「理論ピーク」と表記する。
【0052】
この理論ピーク以外にピークが出現した場合、該ピークは不純物の結晶構造因子に基づいて出現したものである。以下、このピークを「不純物ピーク」と表記する。
【0053】
理論ピークは、回折角が5°〜10°の間にも出現する。前記特許文献1(米国特許出願公開第2003/0004364号明細書)に記載されたように製造した金属−有機骨格構造体のX線回折測定において、5°〜10°の間に出現して且つ10°に最近接する理論ピークの実測強度を1としたとき、出現する不純物ピークの中には実測強度が略1であるものも存在し、中には1を超えるものも存在する。
【0054】
これに対し、上記した第1工程S1〜第4工程S4を経て合成された金属−有機骨格構造体の大多数では、5°〜10°の間に出現して且つ10°に最近接する理論ピークの実測強度を1としたとき、不純物ピークの実測強度はほとんど1/3未満であり、最大でも1/2未満である。
【0055】
また、各金属−有機骨格構造体につき、容積型水素圧力組成等温線図測定装置で水素ガスの吸着平衡圧力から1g当たりの水素吸着量を算出すると、3MPaにおいて、特許文献1記載の方法で得られた金属−有機骨格構造体では10ccを超えることがないのに対し、本実施の形態に係る製造方法で得られた金属−有機骨格構造体では、15ccを超える。
【0056】
以上の結果から、本実施の形態に係る金属−有機骨格構造体が高純度であり、このために比表面積が大きく、換言すれば、水素吸着サイトが多く、従って、水素吸着量が多いことが明らかである。
【0057】
なお、上記した実施の形態においては、第3工程S3で核から結晶に成長させるとともに、第4工程S4で結晶成長速度を向上させるようにしているが、一部であれば、核が第4工程S4で結晶となって成長してもよい。
【実施例1】
【0058】
2.0gの1,4−ベンゼンジカルボン酸と、9.7gのZn(NO32・4H2Oとを、内部温度が測定可能な熱電対が付設された密閉容器中で、311mlのN,N’−ジエチルフォルムアミド(DEF)に溶解した。その後、該密閉容器を密閉状態に保ちながら、雰囲気温度100℃の炉中に静置した。1時間後に溶液が100℃に達し、それから14時間保持した。
【0059】
次に、密閉容器を炉から取り出し、室温(25℃)で2日間静置した。さらに、該密閉容器を雰囲気温度110℃の炉中に静置し、1時間後に溶液が110℃に達してから14時間保持した。
【0060】
その後、炉を室温まで10時間かけて降温して密閉容器を炉から取り出し、得られた反応生成物をデカンテーションによって溶媒と分離し、残留物をDEFで洗浄して、Zn4O(1,4−ベンゼンジカルボキシレートアニオン)3・(DEF)6を得た。
【0061】
得られたZn4O(1,4−ベンゼンジカルボキシレートアニオン)3・(DEF)6をクロロフォルムに室温で24時間浸漬し、多孔性骨格構造に物理吸着したDEF分子をCHCl3分子に置換した。これをデカンテーションでクロロフォルムと分離した後、さらに、真空引き装置内に静置して真空引きを12時間行い、多孔性骨格構造からCHCl3分子を脱離させて、2.4gの粉末状のZn4O(1,4−ベンゼンジカルボキシレートアニオン)3を得た。これを実施例1とする。
【0062】
比較のため、以下の手順でZn4O(1,4−ベンゼンジカルボキシレートアニオン)3を合成した。すなわち、先ず、実施例1と同一条件下で溶液を調製した後、該溶液を貯留した上記と同一構成の密閉容器を、雰囲気温度105℃の炉中に静置した。1時間後に溶液が105℃に達し、それから20時間保持した。
【0063】
次に、密閉容器を炉から取り出し、得られた反応生成物をデカンテーションによって溶媒と分離し、残留物をDEFで洗浄して、Zn4O(1,4−ベンゼンジカルボキシレートアニオン)3・(DEF)6を得た。
【0064】
以下、実施例1と同様にして、2.4gの粉末状のZn4O(1,4−ベンゼンジカルボキシレートアニオン)3を得た。これを比較例1とする。
【0065】
これら実施例1、比較例1の各Zn4O(1,4−ベンゼンジカルボキシレートアニオン)3につき、窒素ガスを使用してラングミュアの単層吸着理論から比表面積を求めたところ、それぞれ、3616m2/g、3000m2/gであった。すなわち、実施例1のZn4O(1,4−ベンゼンジカルボキシレートアニオン)3が比表面積が大きいこと、換言すれば、水素吸着サイトが多いことを示した。
【0066】
また、2種の粉末につきX線回折測定を行った。実際に出現したピークを、理論ピークと併せて図2(実施例1)、図3(比較例1)にそれぞれ示す。なお、図2及び図3中、理論ピークが下方で実際のピークが上方である。
【0067】
図2から、実施例1においては、実際のピークが理論ピークに略一致し、また、不純物ピークが出現していないことが明らかである。このことは、得られたZn4O(1,4−ベンゼンジカルボキシレートアニオン)3が高純度であることを意味する。
【0068】
これに対し、比較例1では、図3中に●で示すように、不純物ピークが出現しており、しかも、その強度は、5°〜10°に出現する理論ピークと略同等であった。
【0069】
さらに、得られた各粉末の0.31gを容積型水素圧力組成等温線図測定装置のサンプルセルにセットし、該サンプルセル内を100℃に加熱保持して24時間真空引きを行った。その後、サンプルセル内に水素ガスを導入して加圧し、吸着平衡圧から水素吸着量を算出した。その後、約9MPaまで段階的に加圧、吸着量算出を繰り返した。
【0070】
実施例1、比較例1の各粉末1g当たりにおける吸着平衡圧と水素吸着量との関係を、グラフにして図4に併せて示す。この図4から、実施例1の粉末における水素吸着量が比較例1に対して大きいことが明らかである。
【0071】
また、図4から、実施例1において、吸着平衡圧が3MPaのとき、水素吸着量がおよそ20ccであることが諒解される。
【実施例2】
【0072】
1.2gの2,6−ナフタレンジカルボン酸と、11gのZn(NO32・4H2Oとを、実施例1と同一構成の密閉容器中で、1000mlのDEFに溶解した。その後、該密閉容器を密閉状態に保ちながら、雰囲気温度110℃の炉中に静置した。1時間後に溶液が110℃に達し、それから4時間保持した。
【0073】
その後、密閉容器を炉から取り出し、室温(25℃)で3日間静置した。さらに、該密閉容器を雰囲気温度110℃の炉中に静置し、1時間後に溶液が110℃に達してから4時間保持した。
【0074】
以降の操作を実施例1に準拠して行い、2.4gの粉末状Zn4O(2,6−ナフタレンジカルボキシレートアニオン)3を得た。これを実施例2とする。
【0075】
比較のため、比較例2と同様の手順で2gのZn4O(2,6−ナフタレンジカルボキシレートアニオン)3を合成した。これを比較例2とする。なお、この場合、実施例2と同一条件下で溶液を調製した後、該溶液を貯留した上記と同一構成の密閉容器を、雰囲気温度95℃の炉中に静置した。1時間後に溶液が95℃に達してから20時間保持した。
【0076】
これら実施例2、比較例2の各Zn4O(2,6−ナフタレンジカルボキシレートアニオン)3につき上記と同様にして比表面積を求めたところ、それぞれ、1812m2/g、921m2/gであった。すなわち、この場合においても、実施例2の方が比表面積が大きく、水素吸着サイトが多いことを示した。
【0077】
また、実施例2、比較例2の各粉末のX線回折測定において実際に出現したピーク(上方)を、理論ピーク(下方)と併せて図5、図6にそれぞれ示す。図5と図6を対比すれば、比較例2においては不純物ピーク(●)が5°〜10°に出現しており、その強度が10°未満であって且つ10°に最近接する理論ピークと略同等であるのに対し、実施例2においては、不純物ピークが出現してはいるものの、その強度は前記理論ピークに比して小さく、1/2未満であることが分かる。
【0078】
さらに、得られた各粉末の0.31gにつき上記と同様にして吸着平衡圧から水素吸着量を算出した結果を、各粉末1g当たりにおける吸着平衡圧と水素吸着量との関係のグラフとして、図7に併せて示す。この図7から、実施例2の粉末における水素吸着量が比較例2に対して大きいことが明らかである。
【0079】
なお、実施例2の粉末では、吸着平衡圧が3MPaのとき、水素吸着量はおよそ15ccであった。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本実施の形態に係る金属−有機骨格構造体の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】実施例1の粉末についてのX線回折測定結果及び理論ピークである。
【図3】比較例1の粉末についてのX線回折測定結果及び理論ピークである。
【図4】実施例1及び比較例1の各粉末1g当たりにおける吸着平衡圧と水素吸着量との関係を示すグラフである。
【図5】実施例2の粉末についてのX線回折測定結果及び理論ピークである。
【図6】比較例2の粉末についてのX線回折測定結果及び理論ピークである。
【図7】実施例2及び比較例2の各粉末1g当たりにおける吸着平衡圧と水素吸着量との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属原子又は金属イオンを有機分子又は有機イオンが囲繞して配位結合した金属−有機骨格構造体の製造方法において、
溶媒中に金属イオンと有機配位子とが存在する溶液を調製する第1工程と、
前記溶液を室温よりも高温に保持する第2工程と、
前記溶液を前記第2工程の保持温度よりも低温に保持する第3工程と、
前記溶液を前記第3工程の保持温度よりも高温に保持する第4工程と、
を有することを特徴とする金属−有機骨格構造体の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の製造方法において、前記第2工程で、前記溶液を80〜110℃で4〜15時間保持することを特徴とする金属−有機骨格構造体の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の製造方法において、前記第3工程で、前記溶液を10〜40℃で1〜7日間保持することを特徴とする金属−有機骨格構造体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法において、前記第4工程で、前記溶液を80〜110℃で4〜15時間保持することを特徴とする金属−有機骨格構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−290774(P2006−290774A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−111741(P2005−111741)
【出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】