説明

金属の接合方法

【課題】ロウ付けやはんだ付けの接合強度や信頼性の向上を、金属部材の表面形状を制御することで実現する。
【解決手段】金属101の表面に電子ビーム111を照射することで、金属101の表面形状を加工し、ビーム照射領域123で、ロウ付け又ははんだ付けにより他の金属と接合する。上記加工では、例えば、金属101の表面粗さの値を減少させる、または、金属101の表面に、直径及び深さが500μm以下の複数のディンプルを形成する、または、上記金属の表面に、幅及び深さが500μm以下の互いに平行な複数の溝を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の接合方法に関し、例えば、ロウ付けやはんだ付けによる金属の接合に使用されるものである。
【背景技術】
【0002】
ロウ材やはんだ等の接合材料を用いた金属の接合は、タービン発電機のコイルの接続や超伝導機器の超伝導線の接続等に広く利用されている。
【0003】
ロウ付けの一般的な処理手順では、金属基材の表面を酸洗して、汚れや酸化膜等を除去した後、表面の酸化防止やロウ材の濡れ性の向上のために、フラックスと呼ばれる薬品を接合面に塗布する。続いて、ロウ材を接合面に置いて接合面を加熱する、又は、基材を加熱してから接合面にロウ材を押し当てることにより、接合面全体にロウ材を溶かす。最後に、接合面全体を冷却して、ロウ材を再び固相状態に戻し、接合を完了する。
【0004】
一方、はんだ付けでは、接合面の油分等を除去し、フラックスを接合面に塗布した後、加熱した接合部にはんだを流し込むのが通常である。
【0005】
ロウ付けやはんだ付けのように、接合時に溶融する接合材料を用いた接合では、基材表面と接合材料との濡れ性が、接合強度等の信頼性に著しく影響を及ぼす。基材表面と接合材料との濡れ性は、基材表面と接合材料との組合せによって異なる。一般には、濡れ性が高く、濡れ広がりやすい組合せの方が、勘合部に浸透しやすく、良好な接合を得られることが知られている。
【0006】
濡れ性は、接合材料を構成する原子と基材を構成する原子との間の本質的な親和性や、表面の酸化の程度や、表面粗さ等により変化する。従来のロウ付けやはんだ付けでは、この濡れ性を積極的に制御することは困難であった。
【0007】
また、近年の環境問題や、フラックスの残渣による接合部の電気的特性の低下の問題等から、フラックスを用いない接合へのニーズが高まりつつある。例えば、プラズマを利用する方法(特許文献1,2を参照)や、接合面に金メッキを施しておく方法(特許文献3を参照)等が提案されているが、広範な適用には至っていないのが現状である。
【0008】
ところで近年、パルス電子ビームを用いた金属表面の処理に関する技術が進展しつつある(非特許文献1,2を参照)。この処理では、パルス幅1ms以下のパルス電子ビームを発生させ、この電子ビームでパルス的に金属表面を照射することで、金属の表面形状を任意の形状に加工する。これまで、この処理は、金型の表面仕上げ用の鏡面処理を中心に用いられてきた。しかしながら、この技術の積極的な用途展開は、他には特に検討されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−500026号公報
【特許文献2】特開平9−235686号公報
【特許文献3】特開2006−68772号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】宇野義幸、外4名「大面積パルス電子ビームによる金型の仕上げと表面改質」電気加工技術、社団法人電気加工学会、平成15年6月、第27巻、第86号、p.12−17
【非特許文献2】藪下法康、外4名「大面積電子ビームによる金型加工面仕上げに関する研究(第2報)」−傾斜面平滑化特性と表面改質効果−電気加工学会全国大会(2003)講演論文集、社団法人電気加工学会、平成15年12月、p.47−50
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
例えば、タービン発電機のロータやステータのコイルは、その端部がロウ付けによって接合される。この際、ロウ材が狭隘部まで入り込まないと、電気抵抗が大きくなるだけでなく、良好な接合強度を得ることができない。また、コイルを水冷する場合には、水漏れが生じるなど、発電機の信頼性に大きな影響が及ぶ。
【0012】
また例えば、超伝導機器における超伝導線の接合などは、一般には、はんだ付けによってなされている。よって、はんだの濡れ性が悪いと、やはり超伝導線の導電性やはんだの接合強度等に問題が生じる。
【0013】
更に、ロウ材やはんだが溶融後に広がる領域や方向を制御することができれば、ロウ材やはんだに起因する基材の電気的、機械的特性の劣化を抑制することができるため、より信頼性の高い接合処理が可能となる。
【0014】
本発明は、以上の問題を踏まえ、ロウ付けやはんだ付けの接合強度や信頼性の向上を、金属部材の表面形状を制御することで実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一の態様は、例えば、金属の表面に電子ビームを照射することで、前記金属の表面形状を加工し、前記金属を、前記電子ビームが照射された領域であるビーム照射領域で、ロウ付け又ははんだ付けにより他の金属と接合する金属の接合方法である。前記加工では、例えば、前記金属の表面粗さの値を減少させる、または、前記金属の表面に、直径及び深さが500μm以下の複数のディンプルを形成する、または、前記金属の表面に、幅及び深さが500μm以下の互いに平行な複数の溝を形成する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ロウ付けやはんだ付けの接合強度や信頼性の向上を、金属部材の表面形状を制御することで実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1実施形態における金属の表面形状の加工方法の例(表面粗さを減少させた場合)について説明するための平面図である。
【図2】第1実施形態における金属の表面形状の加工方法の例(ディンプルを形成した場合)について説明するための平面図である。
【図3】第1実施形態における金属の表面形状の加工方法の例(溝を形成した場合)について説明するための平面図である。
【図4】例1〜例3及び比較例1におけるロウ材の濡れ広がり面積の比を示したグラフである。
【図5】例1〜例3及び比較例1におけるロウ材の濡れ広がり部分の短径/長径の値の比を示したグラフである。
【図6】ビーム照射領域を帯状に形成した試験片の平面図である。
【図7】継ぎ手の作製手順を説明するための斜視図である。
【図8】例1〜例3及び比較例1に相当する試験片から作製した継ぎ手の引っ張り強度の比を示したグラフである。
【図9】例2、例4、及び比較例1に相当する試験片から作製した継ぎ手の引っ張り強度の比を示したグラフである。
【図10】例5、比較例1、及び比較例2に相当する試験片から作製した継ぎ手の引っ張り強度の比を示したグラフである。
【図11】第1実施形態の金属の接合方法のフローを示したフローチャート図である。
【図12】第2実施形態におけるタービン発電機のコイルの接続方法の例について説明するための斜視図である。
【図13】図12に示すコイルの拡大断面図である。
【図14】第3実施形態における超伝導線の接続方法の例について説明するための斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、ロウ付けやはんだ付け等の接合処理と、その前処理とを含む本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。以下の実施形態では、ロウ付け処理について説明するが、以下の説明は、はんだ付け処理にも適用可能である。ロウ付け処理とはんだ付け処理は、接合材料を溶かして接合するという観点では、溶融温度の違いはあるものの、実質的には同様のプロセスである。従って、以下に示す前処理の方法や前処理用の装置は、はんだ付けにもそのまま利用可能である。
【0019】
(第1実施形態)
図1から図3は、第1実施形態における金属101の表面形状の加工方法の例について説明するための平面図である。
【0020】
金属101は、金属基材であり、詳細には、面積が30×30mmで厚さが5mmの純銅基材である。本実施形態では、金属101の表面に、パルス幅が1ms以下のパルス電子ビーム111を照射することで、金属101の表面形状を加工した。更には、JIS Z 3191の硬ろうの広がり試験方法に準じた方法で、金属101の濡れ性を評価した。なお、電子ビーム111の周波数及びビーム出力は、0.5kHz及び10mAとした。
【0021】
図1から図3には、電子ビーム111の1パルス当たりの照射範囲121と、電子ビーム111の走査軌跡122が示されている。図1から図3には更に、電子ビーム111が照射された領域であるビーム照射領域123が示されている。
【0022】
図1に示す例1では、ビーム照射領域123のほぼ全面を走査するビーム照射により、ビーム照射領域123における金属101の表面粗さの値(Ry)が、3μmから1μmに減少している。例1の処理は、金属101の表面を鏡面化する鏡面処理に相当する。
【0023】
また、図2に示す例2では、ランダムなビーム照射により、金属101の表面に、直径約10μm、深さ約5μmのディンプルが複数形成されている。例2では、ディンプルの密度は、約250個/mmとなっている。
【0024】
また、図3に示す例3では、照射範囲121の重なりを大きく取りつつビーム照射領域123を一方向に走査するビーム照射により、幅約10μm、深さ約5μmの互いに平行な溝が複数形成されている。例3では、各溝の長さは、50mmとなっている。
【0025】
図4は、例1から例3における金属101の濡れ性の評価結果を示したグラフである。図4では更に、機械加工のままの純銅基材の濡れ性の評価結果が、比較例1として示されている。
【0026】
図4の評価結果を得る際にはまず、例1〜例3及び比較例1に相当する4種類の試験片を用意し、これら試験片を酸洗した。次に、50gのロウ材BAg−8(JIS Z 3261)を各試験片に乗せ、各試験片にフラックスを塗布し、10℃/秒の速度で加熱した。次に、各試験片をロウ付け温度830℃で30秒間保持し、その後冷却し、ロウ材の濡れ広がり面積を測定した。この濡れ広がり面積の大きさが、濡れ性に相当する。
【0027】
図4は、例1〜例3及び比較例1におけるロウ材の濡れ広がり面積の比を示している。ただし、図4では、比較例1における濡れ広がり面積を1としている。
【0028】
図4によれば、例1〜例3では、比較例1に比べ、広がり面積が拡大しており、濡れ性が向上していることが解る。特に、ランダムにディンプルを形成した例2が優れた効果を持っているが、この傾向は、ロウ材と基材との組合せによって異なるものと考えられる。例1〜例3のうちのどれか最も優れているかは、ロウ材と基材との組合せによって異なるものと考えられる。
【0029】
次に、ロウ材が濡れ広がった部分を楕円とみなし、短い方向の直径(短径)を長い方向の直径(短径)で割った値を算出した。図5は、例1〜例3及び比較例1におけるロウ材の濡れ広がり方向の異方性を示したグラフである。図5は、ロウ材の濡れ広がり部分における短径/長径の値の比を示している。ただし、図5では、比較例1における短径/長径の値を1としている。
【0030】
図5によれば、短径/長径の値は、例3と比較例との間で、特に大きな差異が生じることが解る。例3に相当する試験片上のロウ材を観察したところ、当該試験片上では、溝に沿ってロウ材が広がっていた。
【0031】
そこで、図6に示すように、ビーム照射領域123を帯状に形成した試験片を用意し、この試験片について濡れ性の評価を行った。なお、このビーム照射領域123には、例2と同様に、多数のディンプルを形成した。
【0032】
図6に示す試験片について、ロウ材の濡れ広がり部分における短径/長径の値を算出したところ、例3と同様に、濡れ広がり方向に異方性が認められた。このことから、本実施形態における前処理、即ち、電子ビーム111の照射により金属101の表面形状を加工する処理によれば、濡れ広がり方向を制御できることが理解される。
【0033】
続いて、前処理を行った金属101から継ぎ手を作製する処理について説明する。図7は、継ぎ手の作製手順を説明するための斜視図である。
【0034】
図7(A)に示す金属101は、ビーム照射領域123が形成されている。本実施形態ではまず、金属101のビーム照射領域123上に、ロウ材131を置く。次に、金属101のビーム照射領域123上に、ロウ材131を介して、他の金属102を置く。金属102は例えば、金属101と同一組成の金属基材である。次に、金属101と金属102の接合面を加熱して、ロウ材131を溶かし、その後、接合面を冷却して、ロウ材131を再び固相状態に戻す。これにより、図7(B)のように、金属101と金属102とが、ビーム照射領域123で、ロウ付けにより接合される。これにより、継ぎ手が完成する。
【0035】
なお、金属102側の接合面は、ビーム照射領域が形成されていても、ビーム照射領域が形成されていなくても構わない。即ち、本実施形態では、2つの金属を接合する場合、両方の金属の接合面がビーム照射領域となっていてもよいし、片方の金属の接合面のみがビーム照射領域となっていてもよい。
【0036】
次に、例1〜例3及び比較例1に相当する4種類の試験片から、4種類の継ぎ手を作製した。次に、これら4種類の継ぎ手について、引っ張り試験を行った。図8は、この引っ張り試験の試験結果を示したグラフである。図8は、純銅及び上記4種類の継ぎ手の引っ張り強度の比を示している。ただし、図8では、純銅の引っ張り強度を1としている。
【0037】
基材材料である純銅の引張強度を1とした場合、比較例1の継ぎ手はその約7割の強度を有している。一方、例1〜例3の継ぎ手は、ほぼ純銅に近い強度を有しており、特に、例2では、破断は基材内部で生じている。このことから、本実施形態の前処理が、接合強度を高めるのに効果的であることが解る。
【0038】
次に、非連続的な電子ビーム(パルス電子ビーム)により前処理を行う例2と、連続的な電子ビームにより前処理を行う例4と、比較例1との比較を行った。この比較に際し、例2、例4、及び比較例1に相当する3種類の試験片から、3種類の継ぎ手を作製した。次に、これら3種類の継ぎ手について、引っ張り試験を行った。なお、例2及び例4では共に、試験片の表面に、直径約10μm、深さ約5μmのディンプルを複数形成した。
【0039】
図9は、この引っ張り試験の試験結果を示したグラフで、純銅及び上記3種類の継ぎ手の引っ張り強度の比を示している。ただし、純銅の引っ張り強度を1としている。
【0040】
図9によれば、例2の継ぎ手の方が、例4の継ぎ手よりも接合強度が高いことが解る。これは、パルス電子ビームの方が基材への熱影響が少ないことや、表面の不純物が基材内部に取り込まれることなく瞬間的に蒸発、消滅することに起因すると考えられる。
【0041】
また、図9によれば、例2の継ぎ手と例4の継ぎ手は、いずれも比較例1の継ぎ手よりも接合強度が高いことが解る。よって、本実施形態では、電子ビームはパルス状でも連続的でもよい。しかしながら、例2の継ぎ手の方が例4の継ぎ手よりも接合強度が高いことを鑑みれば、本実施形態では、電子ビームはパルス状とする方がより望ましい。
【0042】
続いて、接合処理と真空チャンバとの関係について説明する。
【0043】
本実施形態では、電子ビームによる前処理を、真空チャンバ内で行う。そして、本実施形態では、ロウ付けによる接合処理を、前処理後を行った後、金属101を大気中に取り出さずに、当該真空チャンバ内で行う。理由は、前処理済みの金属101を大気中に取り出すと、ビーム照射領域123の酸化や汚染が生じる可能性があるからである。本実施形態によれば、このような酸化や汚染を回避することができる。
【0044】
次に、前処理済みの試験片を、真空チャンバから取り出さずに、フラックスを用いずにロウ付け接合を行った例5を、前処理済みの試験片を、真空チャンバから取り出して、フラックスを用いずにロウ付け接合を行った比較例2と比較した。更には、前処理なしの試験片を、フラックスを用いてロウ付け接合を行った比較例1を、例5及び比較例2と比較した。
【0045】
この比較に際し、例5、比較例1、及び比較例2に相当する3種類の試験片から、3種類の継ぎ手を作製した。次に、これら3種類の継ぎ手について、引っ張り試験を行った。なお、例5、比較例1、及び比較例2では共に、試験片の表面に、直径約10μm、深さ約5μmのディンプルを複数形成した。
【0046】
図10は、この引っ張り試験の試験結果を示したグラフで、上記3種類の継ぎ手の引っ張り強度の比を示している。ただし、比較例1の引っ張り強度を1としている。
【0047】
図10によれば、例5の継ぎ手は、比較例1の継ぎ手とほぼ同等の接合強度を有していることが解る。このことから、前処理とロウ付け処理とを同一真空チャンバ内で行うプロセスは、フラックスレスのロウ付けプロセスとして好適であることが理解される。
【0048】
なお、前処理とロウ付け処理は、互いに連結された別々の真空チャンバ内で行っても構わない。これによっても、前処理済みの金属101を大気中に取り出さないことで、ビーム照射領域123の酸化や汚染を回避することができるからである。
【0049】
ここで、図7に戻り説明を続ける。
【0050】
図7では、金属101と金属102を1箇所(即ちビーム照射領域123のみ)で接合している。しかしながら、本実施形態では、金属101と金属102を、ビーム照射領域123を含む複数箇所で接合してもよい。本実施形態では、金属101をロウ付けにより金属102と接合する接合処理を複数回行って、金属101と金属102とを複数箇所で接合する。
【0051】
通常、近接した複数箇所のロウ付けを行なう際には、1箇所目は、ロウ付け温度の高いロウ材を用いて接合を行い、2箇所目以降は、ロウ付け温度の低いロウ材を用いて接合を行う。即ち、2回目以降の接合処理の際には、1回目の接合処理の際に比べ、ロウ付け温度の低いロウ材を使用する。このようなロウ付け処理では、後工程となる低温側のロウ材の接合強度が特に問題となることが多い。
【0052】
そこで、本実施形態では、低温側のロウ付け処理にのみ、上述の前処理プロセスを採用する。即ち、2回目以降の一部又は全ての接合処理において、金属101と金属102をビーム照射領域123で接合する。これにより、本実施形態では、低温側のロウ材の接合強度や信頼性を向上することができる。その結果、本実施形態によれば、ロウ付け処理を複数箇所で行う場合に、より裕度のあるロウ付けプロセスを実現することが可能となる。
【0053】
以下、本実施形態の金属の接合方法のフローについて説明する。図11は、該接合方法のフローを示したフローチャート図である。図11の説明では、図1〜図3や図7に記載した符号を適宜使用する。
【0054】
該接合方法でまず、金属101の表面に電子ビーム111を照射して、金属101の表面形状を加工する(ステップS1)。次に、ビーム照射領域123の酸洗と、ビーム照射領域123へのフラックスの塗布を行う(ステップS2,S3)。ただし、S1の処理の済んだ金属101を真空チャンバから大気中に取り出さない場合や、酸化が生じにくい金属を用いた場合などには、S2,S3の処理は不要である。
【0055】
次に、金属101のビーム照射領域123上に、ロウ材131を置く(ステップS4)。次に、金属101のビーム照射領域123上に、ロウ材131を介して、他の金属102を置く(ステップS5)。次に、金属101と金属102の接合面を加熱し、その後、接合面を冷却する(ステップS6)。これにより、金属101と金属102が、ビーム照射領域123で、ロウ付けにより接合される。
【0056】
以上のように、本実施形態では、金属101の表面に電子ビーム111を照射することで、金属101の表面形状を加工し、金属101を、電子ビーム111が照射された領域であるビーム照射領域123で、ロウ付け又ははんだ付けにより他の金属102と接合する。これにより、本実施形態では、ロウ付けやはんだ付けの接合強度や信頼性の向上を実現することができる。本実施形態によれば、通常は接合材料が入り込まないような勘合部の深部まで接合材料を入り込ませることや、接合材料の広がり方に異方性を持たせることや、接合面の部位によって接合材料の広がり方の温度特性を変えることが可能となる。
【0057】
なお、金属101及び102は、純銅基材以外の金属であっても構わない。
【0058】
また、例2(図2)において、各ディンプルの直径及び深さはそれぞれ、10μm及び5μm以外でも構わない。本実施形態では、各ディンプルの直径及び深さは、500μm以下とすることが望ましい。これにより、本実施形態では、ロウ付けやはんだ付けの接合強度や信頼性の向上を図ることができる。なお、各ディンプルの直径や深さが500μmよりも大きいと、ロウ材やはんだ材がディンプルを充填しきれず、接合後にディンプル内部に欠陥が残存する可能性がある。
【0059】
また、例3(図3)において、各溝の幅及び深さはそれぞれ、10μm及び5μm以外でも構わない。本実施形態では、各溝の幅及び深さは、500μm以下とすることが望ましい。これにより、本実施形態では、ロウ付けやはんだ付けの接合強度や信頼性の向上を図ることができる。なお、各溝の幅や深さが500μmよりも大きいと、前述したディンプルと同様、ロウ材やはんだ材が溝を充填しきれず、接合後に溝内部に欠陥が残存する可能性がある。
【0060】
以下、本発明の第2及び第3実施形態について説明する。これらの実施形態は、第1実施形態の変形例であり、これらの実施形態については、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
(第2実施形態)
図12は、第2実施形態におけるタービン発電機のコイルの接続方法の例について説明するための斜視図である。図13は、図12に示すコイルの拡大断面図である。
【0061】
図12には、複数のコイル素線201と、個々のコイル素線201に囲まれた冷却水路202が示されている。本実施形態では、図13に示すように、コイル素線201の側面203やR部204にパルス電子ビームを照射し、これらの領域にビーム照射領域205を形成する。本実施形態では、ビーム照射領域205に複数のディンプルを形成する。
【0062】
図12には更に、クロップ部を構成するクリップ211と、クリップカバー212が示されている。本実施形態では、コイル素線201同士や、コイル素線201とクリップ211や、コイル素線211とクリップカバー212が、ビーム照射領域205で、ロウ材221により接合される。
【0063】
本実施形態によれば、素線同士や素線とクリップ部を良好に接合できると共に、素線の電気的な特性を損なうことなく、素線内を流れる冷却水の水漏れを抑制できる。よって、本実施形態の前処理を、タービン発電機のコイル素線の接続に用いることは効果的であると言える。
【0064】
(第3実施形態)
図14は、第3実施形態における超伝導線の接続方法の例について説明するための斜視図である。
【0065】
図14には、金属導体301及び302の表面に超伝導薄膜303及び304が形成された超伝導線の接続方法が示されている。本実施形態では、図14に示すように、金属導体301の側面にパルス電子ビームを照射し、この領域にビーム照射領域305を形成する。そして、本実施形態では、図14に示すように、金属導体301と金属導体302が、ビーム照射領域305で、はんだ材311により接合される。
【0066】
本実施形態によれば、超伝導線の性能を低下させることなく、良好な接続が実現される。
【0067】
以上、本発明の具体的な態様の例を、第1から第3実施形態により説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0068】
101 金属
102 他の金属
111 パルス電子ビーム
121 照射範囲
122 走査軌跡
123 ビーム照射領域
131 ロウ材
201 コイル素線
202 冷却水路
203 側面
204 R部
205 ビーム照射領域
211 クリップ
212 クリップカバー
221 ロウ材
301 金属導体
302 金属導体
303 超伝導薄膜
304 超伝導薄膜
305 ビーム照射領域
311 はんだ材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属の表面に電子ビームを照射することで、前記金属の表面形状を加工し、
前記金属を、前記電子ビームが照射された領域であるビーム照射領域で、ロウ付け又ははんだ付けにより他の金属と接合する、
ことを特徴とする金属の接合方法。
【請求項2】
前記加工では、前記金属の表面粗さの値を減少させることを特徴とする請求項1に記載の金属の接合方法。
【請求項3】
前記加工では、前記金属の表面に、直径及び深さが500μm以下の複数のディンプルを形成することを特徴とする請求項1に記載の金属の接合方法。
【請求項4】
前記加工では、前記金属の表面に、幅及び深さが500μm以下の互いに平行な複数の溝を形成することを特徴とする請求項1に記載の金属の接合方法。
【請求項5】
前記電子ビームは、パルス状の電子ビームであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の金属の接合方法。
【請求項6】
前記電子ビームは、パルス幅が1ms以下の電子ビームであることを特徴とする請求項5に記載の金属の接合方法。
【請求項7】
前記金属をロウ付け又ははんだ付けにより前記他の金属と接合する接合処理、を複数回行って、前記金属と前記他の金属とを複数箇所で接合する場合、
2回目以降の前記接合処理の際に、前記金属と前記他の金属とを、前記ビーム照射領域にて接合することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の金属の接合方法。
【請求項8】
2回目以降の前記接合処理の際には、1回目の前記接合処理の際に比べ、ロウ付け温度の低いロウ材、又ははんだ付け温度の低いはんだを使用することを特徴とする請求項7に記載の金属の接合方法。
【請求項9】
前記電子ビームの照射及び前記ロウ付け又ははんだ付けは、同一の真空チャンバ内で行うことを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の金属の接合方法。
【請求項10】
前記電子ビームの照射及び前記ロウ付け又ははんだ付けは、互いに連結された別々の真空チャンバ内でそれぞれ行うことを特徴とする請求項9に記載の金属の接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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