説明

金属の欠陥検出方法及び欠陥検出装置

【課題】金属試料の検査面をエッチング処理して欠陥を現出させ、撮像装置によって検査面を撮像することにより欠陥を検出するに際し、検査面撮像画像における非欠陥部の明度を均一かつ明るくすることにより、欠陥部を明瞭に検出することのできる金属の欠陥検出方法及び欠陥検出装置を提供する。
【解決手段】検査面2に対面するように反射板3を配置し、反射板3の検査面2に面する側(反射面4)については拡散反射率kが70%以上であり、検査面2を撮像する撮像装置6を配置し、照明用の光源5を配置して光源5から反射面4に光を照射しつつ、撮像装置6によって検査面2を撮像する。反射面4の大きさを十分な大きさとすることにより、検査面に幅広い方向から光が均等に入射するので、検査面2の非欠陥部9のいずれの部位についても十分な明度が確保される。そのため、欠陥部8を十分なコントラストで撮像することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属試料の検査面に現出する欠陥の検出方法及び欠陥検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属材料、特に鋼片や鋳片内部の割れや偏析といった欠陥部の検出と評価は、鋳片の品質管理及び鋳片の製造プロセスの適正化と操業管理を行う上で不可欠である。金属材料内部の品質評価方法として、従来はサルファプリント法やエッチプリント法が用いられてきた。いずれも、金属材料から試料を切り出し、金属材料の断面を検査面として研磨し、評価を行う。
【0003】
サルファプリント法は、臭化銀を含む転写用印画紙に硫酸水溶液を浸して検査面に貼りつけ、試料中の硫黄の偏析状況を印画紙上に現出するものである。鋳片の中心偏析部や割れ部に硫黄が偏析する性質を利用し、鋳片の中心偏析や内部割れの評価を行う。金属材料中の硫黄濃度が高い材料に対して用いられるものであり、硫黄濃度が低い極低硫鋼などではサルファプリント法を適用することができない。
【0004】
エッチプリント法は、検査面の中心偏析部や割れ部に元素が偏析する性質を利用し、検査面をエッチングして元素の偏析部を現出し、試料にワセリンを塗り込んだ上で再研磨することにより、偏析、割れを可視化する技術であり、硫黄濃度が低い材料に対しても用いることができる。
【0005】
近年の金属材料の高品質化、高純度化にともない、金属材料の欠陥検出のさらなる高精度化が求められている。サルファプリント法については、使用する印画紙の安定供給に問題が生じており、そもそも極低硫鋼にはサルファプリント法が適用できない。エッチプリント法については、作業全体に数時間を要し、欠陥検出の迅速化が求められている。
【0006】
金属材料の検査面にエッチングを施した上で、検査面を直接カメラ等の撮像装置で撮像して画像として記録する方法が知られている。検査面をエッチング(マクロ腐食)し、検査面を撮像装置で撮像するに際し、照明として自然光やライト照明で撮像したのでは、無欠陥部の明度が低いために欠陥部と無欠陥部との明度コントラストが小さいという問題がある。これに対し特許文献1においては、検査面の撮像位置に対して両側から、入射角50°〜70°で照明用光を照射して撮像する方法が開示されている。「図1(b)に示すように、反射鏡5、6の設置方向に研磨目が平行になるようにセットし」と記載されていることから、検査面において研磨方向を1方向とし、撮像位置に対して研磨方向の両側から照明用光を照射している(図1(b))。これにより、金属材料の偏析部の大きさや程度が明瞭に判定できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−306161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に具体的に開示された方法において、撮像装置としてCCDリニアセンサ等を用いたカメラが採用され、図1によると撮像範囲は研磨方向に直角な方向に長い線状範囲であり、この線状の撮像範囲の両側から反射鏡を用いて照明用光が照射されている。従って、検査面全体を撮像するためには、線状の撮像範囲を移動させつつ撮像を行う必要がある。もし特許文献1に記載の方法を拡張し、検査面全体を1回で撮像しようとすると、照明用光を検査面から離れた位置から照射する必要がある。この場合、検査面上の非欠陥部から撮像装置方向に反射する光が場所によって均一ではなく、非欠陥部からの反射光が少ない部分においては、欠陥部と非欠陥部との明度コントラストが少なすぎて欠陥検出精度が不充分であるという問題があった。
【0009】
本発明は、金属試料の検査面をエッチング処理して欠陥を現出させ、撮像装置によって検査面を撮像することにより欠陥を検出するに際し、検査面撮像画像における非欠陥部の明度を均一かつ明るくすることにより、欠陥部を明瞭に検出することのできる金属の欠陥検出方法及び欠陥検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
(1)金属試料1の検査面2を研磨し、金属試料1にエッチング処理を行って金属試料中の欠陥を現出させ、
検査面2に対面するように反射板3を配置し、反射板3の検査面2に面する側(以下「反射面4」という。)についてはJIS Z 8722に規定される色調測定での拡散反射率kが70%以上であり、検査面上のいずれの位置においても、当該位置と反射面上の任意の点を結んだ線が検査面の法線となす角度の最小値θ2minが15°以下であり、検査面上の中心点Pcと反射面の縁上の任意の点Peを結んだ線が検査面の法線となす角度の最小値θ4minが14°以上であり、
検査面2を撮像する撮像装置6を配置し、
照明用の光源5を配置して光源5から反射面4に光を照射しつつ、撮像装置6によって検査面2を撮像することを特徴とする金属の欠陥検出方法。
(2)金属試料1の検査面2を研磨し、金属試料1にエッチング処理を行って金属試料中の欠陥を現出させ、検査面2の欠陥を検出するための金属の欠陥検出装置であって、
金属試料載置台7、反射板3、照明用の光源5と撮像装置6とを有し、
金属試料載置台7に金属試料1を載置したときに金属試料の検査面2に対面するように反射板3が配置され、反射板3の検査面2に面する側(以下「反射面4」という。)についてはJIS Z 8722に規定される色調測定での拡散反射率kが70%以上であり、検査面上のいずれの位置においても、当該位置と反射面上の任意の点を結んだ線が検査面の法線となす角度の最小値θ2minが15°以下であり、検査面上の中心点Pcと反射面の縁上の任意の点Peを結んだ線が検査面の法線となす角度の最小値θ4minが14°以上であり、
照明用の光源5は反射板3の反射面4に光を照射することができ、
撮像装置6は金属試料載置台7に金属試料1を載置したときに金属試料の検査面3を撮像可能であることを特徴とする金属の欠陥検出装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、金属試料の検査面をエッチング処理して欠陥を現出させ、撮像装置によって検査面を撮像することにより欠陥を検出するに際し、拡散反射率が高い反射面を有する反射板を準備し、光源からの光を反射面で反射させた上で金属試料の検査面に照射することにより、検査面撮像画像における非欠陥部の明度を均一かつ明るくすることが可能となり、欠陥部を明瞭に検出する金属の欠陥検出方法及び欠陥検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明を示す一例であり、(a)は斜視図、(b)は側面図である。
【図2】本発明におけるθ2minを説明するための側面図である。
【図3】本発明におけるθ4minを説明するための斜視図である。
【図4】本発明におけるθ0を説明するための側面図である。
【図5】本発明におけるθ3を説明するための斜視図である。
【図6】本発明の実施例を示す斜視図である。
【図7】(a)は照射光が反射する状況を示す断面図であり、(b)は検査面における研磨目の状況を示す図である。
【図8】照射光の反射状況を示す斜視図であり、(a)は研磨方向に平行な方向から照射した場合、(b)は研磨方向に直角の方向から照射した場合である。
【図9】光源から直接検査面を照射する状況を示す斜視概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
検査面を研磨した後にエッチングを行い、欠陥部を現出させる。欠陥部については、例えば割れ部は凹部を形成し、偏析部については腐食による凹部の形成もしくは偏析部の濃色化(例えば黒色化)を生じさせる。図7(a)に示すようにこの検査面2に照明光12を照射すると、欠陥部8については凹部又は濃色部であるために上方への反射光13が少なくなる。欠陥部以外の非欠陥部9から上方への反射光13が多くかつ均一であれば、撮像画像として、欠陥部8が暗部(黒色部)として認識されることとなる。
【0014】
金属材料を切断して金属試料とし、金属試料の検査面である断面を研磨するに際し、研磨方向に平行に研磨目が形成される。即ち、研磨方向に平行な方向に粗度を測定すると粗度が小さく、研磨方向に直角の方向に粗度を測定すると粗度が大きいという状況となる。そして、研磨機が最後に接触した際の研磨方向に平行な研磨目が現れる。鋳片のような大きな金属材料の断面を検査面とする場合、図7(b)に示すように、検査面の小さな領域ごとに研磨方向11が異なり、種々の研磨目の方向を持った小さな領域がモザイクのように配置されている。
【0015】
検査面の斜め上方から検査面に指向性のないスポット照明光を照射する場合について、検査面の研磨方向と照明光の照射方向及び撮像装置位置との関係について説明する。
【0016】
図8(a)に示すように研磨方向11に平行な方角から照射された照射光12は、検査面で反射するに際し、入射角と反射角が等しくなる正反射成分13aが比較的強く、あらゆる方向に反射する乱反射成分13bが比較的少ないという傾向を有する。そのため、検査面上の任意の点のうち、たまたま正反射方向が撮像装置方向と一致する点P1については撮像画像において非欠陥部が明るく輝き、正反射方向が撮像装置方向と一致しない点P2(検査面の大部分の領域)については非欠陥部の明度が低いという、画面全体で明度が不均一な撮像画像が得られる。非欠陥部の明度が低いと、欠陥部とのコントラストが少なく欠陥検出精度が低くなる。
【0017】
一方、図8(b)に示すように研磨方向11に直角な方向から照射された照射光12は、検査面で反射するに際し、正反射成分13aが比較的少なく、乱反射成分13bが比較的多いという傾向を有する。そのため、検査面のいずれの部分についても、非欠陥部は比較的強い乱反射光によって明度が高く、また明度が均一であるという性質を有する。ここで、図9(a)に示すように、光源5と撮像装置6を含み検査面2に垂直な面F1を考える。当該面F1と検査面2とが交差する線21上においては、図8(b)で説明したとおりいずれの部位においても非欠陥部9の明度が高くなる。しかし、検査面上において上記線21から外れる任意の点P3に対して、研磨方向11と直角あるいは直角に近い方向の斜め上方の点光源5から光が照射された場合、乱反射成分が比較的多いとはいえ、当該点P3を通る検査面の法線と点光源5が含まれる面F3に沿った方向に乱反射成分が多くなる傾向があり、当該面F3から離れる方向に向かう乱反射成分が少なくなる。従って点P3のように、撮像装置6方向が当該面F3から離れる方向に配置されていれば、撮像装置6から見たとき、当該点P3付近は非欠陥部の明度が低く観察される。
【0018】
以上のとおり、検査面の斜め上方から検査面に照明光を照射する場合には、撮像装置から観察した検査面の非欠陥部の明度は、明るい部分と暗い部分とが混在する。検査面の欠陥部の明度は暗くなるので、非欠陥部の明度が明るい部位については欠陥部の検出が容易であるが、非欠陥部の明度が暗い部分については、欠陥部と非欠陥部の区別が付きづらいこととなる。図9(b)に示すように光源の数を増やしたとしても、撮像装置から検査面を見たとき、検査面の全体を均一な明度に保つことはできない。
【0019】
本発明においては、検査面に対して直接照明光を照射するのではなく、図1に示すように、検査面2に対面するように反射板3を配置し、反射板3の検査面に面する側(反射面4)についてはJIS Z 8722に規定される色調測定での拡散反射率kが70%以上とする。この場合具体的には波長650nmに対する拡散反射率である。反射面4が拡散反射の高い面となるので、照明用の光源5から反射板の反射面4に光を照射し、反射板の反射面4からの反射板反射光15をもって検査面の照明光とする。反射板の反射面4は拡散反射率が高いので、図1(b)に示すように、照明用の光源5の方向にかかわらず、反射面4からは検査面2のあらゆる方向に対して均等に反射板反射光15を照射することができる。そして、検査面のいずれの位置においても、反射面4のそれぞれの部位からの反射板反射光15が当該検査面の位置に照射光12として照射される。反射面4の大きさを十分な大きさとすることにより、当該検査面の位置においては幅広い方向から光が均等に入射するので、当該部位が非欠陥部であれば、入射した照射光12が反射して撮像装置方向に向かう反射光13が十分に確保されることとなる。このことは撮像装置6から検査面2を観察したときに、検査面2の非欠陥部9のいずれの部位についても十分な明度が確保されていることとなる。欠陥部8は明度が暗いので、検査面のいずれの部位についても欠陥部8と非欠陥部9との明度差が確保され、欠陥部8を十分なコントラストで撮像することが可能となる。
【0020】
以上のとおり、反射面4の大きさを十分な大きさとすることが必要である。本発明においては、図2に示すように、検査面上のいずれの位置においても、当該位置と反射面上の任意の点を結んだ線が検査面の法線となす角度θ2の最小値θ2minが15°以下となるように反射板を配置することにより、この要件を満たすことができる。反射板の大きさが検査面と同じ大きさであり、反射板を検査面と重ねた位置から検査面の法線方向に平行移動した位置に配置すれば、θ2minは検査面上のいずれの位置においても0°となり、本発明の要件を満たすこととなる。図2に示す例では、検査面上の点P2においてはθ2min=0°であり、点P1、P4においてはθ2minが有限の値となっている。
【0021】
本発明においては撮像装置によって検査面を撮像する。検査面と撮像装置との距離が検査面と反射板との距離よりも遠い場合には、反射板に窓を開け、撮像装置から検査面が撮像できるようにする必要がある。この場合においても、窓の大きさは、図2に示すように、撮像装置6から検査面2に垂線を下ろしたときの検査面との交点P3から反射板3を見たときに、θ2minが15°以下となるように定めればいい。検査面と撮像装置との距離が検査面と反射板の距離よりも近い場合には、反射面の一部が撮像装置によって影となるが、影の大きさが、撮像装置から検査面に垂線を下ろしたときの検査面との交点から反射板を見たときに、θ2minが15°以下となるように定めればいい。
【0022】
検査面から見たときの反射面の大きさを十分な大きさとするために本発明はまた、図3に示すように、検査面上の中心点Pcと反射面の縁上の任意の点Peを結んだ線が検査面の法線となす角度の最小値θ4minが14°以上となるように反射板3を配置する。検査面上の中心点Pcとは、検査面を一様厚みの板と考えたときの重心位置と言い換えることもできる。検査面が矩形であれば対角線の交点に等しく、検査面が円形であれば円の中心に等しい。反射面の縁上の任意の点Peとは、反射面の外縁に位置する任意の点を意味する。例えば、検査面が長方形である場合、反射板の形を検査面と同じ形としたら、検査面の短辺方向については反射板も幅が短くなり、反射板の短辺方向については検査面から見たときに十分な広さで光が照射されるとはいえなくなる。また、検査面と同じ形の反射板を用い、検査面と反射板との距離が離れすぎると、やはり検査面から見たときに反射板から十分な広さで光が照射されるとはいえなくなる。これに対し、検査面上の中心点と反射面の縁上の任意の点を結んだ線が検査面の法線となす角度の最小値θ4minが14°以上となるように反射板を配置すれば、検査面から見たときに反射板から十分な広さで光が照射されるので、本発明の効果を十分に発揮することができる。
【0023】
本発明で用いる反射板の反射面を構成する材料としては、通常の白い紙、酸化マグネシウムの煙着面、硫酸バリウムの圧着面などを用いれば、JIS Z 8722に規定される色調測定での拡散反射率kが70%以上となるので好ましい。
【0024】
反射板の反射面4が検査面2に対してなす角度としては、図4(a)に示すように検査面2と平行に配置すれば、検査面上のいずれの場所についても均一に照射光を受けることができるので好ましい。図4(b)に示すように反射面4と検査面2とのなす角度をθ0としたとき、θ0の絶対値が30°以下であれば、問題なく検査面上の各位置に均等に光を照射することができる。θ0の絶対値が30°を超えても、検査面上で若干の照射不均一は生じるものの、欠陥部の認識が損なわれるほどの不均一は生じない。
【0025】
反射板と検査面との距離Lについては、距離Lが遠くなり過ぎると光源の出力を上げなければならず、また欠陥検出装置の全体の寸法が大きくなりすぎるが、反射面と検査面との距離Lが2000mm以下であれば、このような問題が発生することなく、良好に欠陥検出を行うことができる。
【0026】
反射面に光を照射する照明用の光源5については、反射面4の全体に光を照射することができればどのような光源であっても良い。1個の点光源を用いてもよい。本発明において好ましくは、検査面の周囲に2個以上、更に好ましくは4個以上の光源を配置し、反射面を均等に照射することとすると良い。光源からの光が検査面を直接照射しないように遮光を行うと好ましい。また、光源が撮像装置の撮像視野内に入らないような位置に配置すると好ましい。
【0027】
撮像装置6としては、検査面を撮像できる撮像装置であれば、フィルムカメラ、デジタルカメラのいずれも使用可能である。半導体撮像素子などを用いた撮像装置を用いれば、撮像画像データを画像処理装置に取り込んで欠陥部の画像解析を行うことができるので好ましい。
【0028】
撮像装置6は、検査面2の中心直上から検査面に正対して撮像する位置に配置すると好ましい。図5に示すように、検査面上の任意の点と撮像装置を結ぶ線が当該任意の点の法線となす角度をθ3とする。θ3が大きすぎると、線状光源からの照射光による拡散反射成分が十分ではなくなり、検査面の非欠陥部の明度が低下することとなって好ましくない。本発明においては、検査面上のいずれの部位についても、
θ3≦60°
の関係を保持するように撮像装置6を配置すれば、検査面2の非欠陥部の明度が均一に保持されるので好ましい。通常の焦点距離を有するカメラを用いて、検査面の中心直上から検査面に正対して撮像装置を配置すれば、θ3を上記好ましい範囲とすることができる。
【0029】
本発明の金属の欠陥検出装置は、図6に示すように、金属試料載置台7、反射板3、照明用の光源5と撮像装置6とを有する。金属試料載置台7には、金属試料1の検査面2の方向を定めて金属試料1を載置することができる。金属試料載置台7に金属試料1を載置したときに金属試料の検査面2に対面するように反射板3が配置され、反射板3の検査面に面する側(反射面4)についてはJIS Z 8722に規定される色調測定での拡散反射率kが70%以上である。検査面上のいずれの位置においても、当該位置と反射面上の任意の点を結んだ線が検査面の法線となす角度の最小値θ2minが15°以下であり、検査面上の中心点と反射面の縁上の任意の点を結んだ線が検査面の法線となす角度の最小値θ4minが14°以上である。照明用の光源5は反射板3の反射面4に光を照射することができる。撮像装置6は金属試料載置台7に金属試料1を載置したときに金属試料の検査面2を撮像可能である。本発明の金属の欠陥検出装置は、このような構成を具備する結果として、前述のごとく、金属試料の検査面における欠陥部を明確に評価することが可能となる。
【0030】
本発明において、検査面における非欠陥部からの拡散反射(乱反射)成分を大きくし、欠陥部の検出精度を高めるための検査面の研磨方法について説明する。検査面を研磨するに際し、研磨方向に直角な方向における検査面の算術平均粗さRaに好適範囲が存在する。算術平均粗さRaの測定方法は、JIS B0601及びJIS B0633に規定する方法によって行う。当該Raが小さすぎると、非欠陥部における拡散反射(乱反射)成分は小さく、拡散反射(乱反射)成分中の撮像装置方向へ反射する成分も小さいため、欠陥部の検出精度が低くなる。本発明において、前記Raが0.1μm以上であれば、拡散反射(乱反射)成分を十分に大きくすることができる。一方、前記Raが大きすぎると、非欠陥部と欠陥部の識別が難しくなり、欠陥部の検出精度は低い。本発明において、前記Raが50μm以下であれば、非欠陥部と欠陥部の識別を良好に行うことができる。研磨方向に直角な方向における検査面の算術平均粗さRaを0.1μm以上とするためには、検査面をJIS R6252に規定する1000番以下の粗さを有する研磨手段を用いて研磨を行えばよい。また、前記Raを50μm以下とするためには、同100番以上の粗さを有する研磨手段を用いて研磨を行えばよい。研磨手段として、研磨紙、研磨布、研磨材のいずれを用いても良い。
【0031】
金属試料中の欠陥を現出させるためのエッチングに関しては、割れ部における凹凸の現出、もしくは偏析部における腐食による凹凸の生成、もしくは偏析部の濃色化(例えば黒色化)を生じさせる方法として、通常に用いられているエッチング方法を採用することができる。例えば、過硫酸アンモニウム水溶液や、ピクリン酸と塩酸を用いた方法などが好適に用いられる。この他、欠陥部を現出、つまり、割れ部における凹凸の現出、もしくは偏析部における腐食による凹凸の生成、もしくは偏析部の濃色化(例えば黒色化)を生じさせる方法であれば、いずれの方法を用いても良い。
【実施例】
【0032】
中炭アルミキルド鋼の連続鋳造鋳片(幅1200mm、厚み250mm)を、長さ方向に垂直に切断して長さ方向50mmの金属試料1を切り出し、切断面を検査面2とした。検査面についてJIS R6252に規定する300番の研磨紙を用いて研磨を行い、過硫酸アンモニウム水溶液を用いてエッチング処理を行った後、種々の照明条件のもとで検査面の画像撮像を行った。撮像装置としてはデジタル一眼レフカメラ(撮像画面サイズ:36mm×24mm、有効画素:約2110万画素)とレンズ(焦点距離16−35mm)を用いた。
【0033】
反射板の反射面を構成する材料として、熱転写用紙、奉書紙、ケント紙、障子紙を用いた。それぞれのJIS Z 8722に規定される色調測定において、波長650nmでの拡散反射率kを測定した。結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
反射板形状として、表2に示す4種類の形状を用いた。反射板の中心と金属試料の検査面中心とを一致させて配置し、反射板と検査面との距離Lは反射板の中心と検査面の中心間の距離を測定した。大部分の実施例については、反射板の中心部に直径80mmの孔を開け、この孔を通して撮像装置によって検査面の撮像を行った。一部の実施例で、θ3を変化させるに際しては、撮像装置の設置位置を検査面の長辺側に傾転させた。
【0036】
【表2】

【0037】
光源として、定格消費電力500Wの電球を用いた。電球を4個用いる場合には図6に示す位置に電球を配置した。電球を2個用いる場合には、図6に示す4箇所の光源5のうち、右側2箇所の光源5の位置に電球を配置した。
【0038】
各検査水準について撮像装置6で撮像した撮像画像を画像解析し、検査面2における欠陥個数をカウントした。次いで、実施例3で検出した欠陥個数で規格化し、各条件における欠陥個数NNLを算出した。このNNLから、下記判断基準に従って検査状況を評価し、表1に記入した。検査結果が「かなり良い」から「良いが少し劣る」までを合格とし、それ以外を不合格とした。
0.95≦NNL ・・・かなり良い
0.90≦NNL<0.95 ・・・良い
0.85≦NNL<0.90 ・・・良いが少し劣る
0.55≦NNL<0.80 ・・・少し劣る
0.30≦NNL<0.55 ・・・劣る
NL<0.30 ・・・かなり劣る
【0039】
表3に処理条件と評価結果を示す。本発明範囲から外れる数値にアンダーラインを付している。
【0040】
【表3】

【0041】
図6に示す形態を採用した実施例3を本発明例の基準とした。
【0042】
実施例1〜3、比較例1は、反射面の拡散反射率kを変化させた状況を示す。実施例4〜7、比較例2は、反射面と検査面との距離Lを変化させた状況を示す。実施例8、9は、反射面と検査面とのなす角度θ0を変化させた状況を示す。実施例10、比較例3は、角度θ2minを変化させた状況を示す。実施例11、比較例4は、角度θ4minを変化させた状況を示す。実施例12、13は、角度θ3を変化させた状況を示す。実施例14は、光源の数を変化させたときの状況を示す。
【0043】
表3において、基準となる実施例3については、比較を容易にするために各実施例群について重複して掲載している。
【0044】
表3において、本発明例である実施例1〜14はいずれも評価結果が「かなり良い」から「良いが少し劣る」の範囲に入っていることがわかった。
【0045】
なお、本発明は、前述の実施の形態及び実施例に具体的に記載された形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に規定する範囲内での変更は可能であり、例えば、前記したそれぞれの実施の形態、実施例や変形例の一例又は全部を組み合わせて、本発明の金属中、特に鋼片中の欠陥部を、高精度かつ迅速に検出する方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0046】
1 金属試料
2 検査面
3 反射板
4 反射面
5 光源
6 撮像装置
7 金属試料載置台
8 欠陥部
9 非欠陥部
11 研磨方向
12 照射光
13 反射光
13a 正反射成分
13b 乱反射成分
14 光源光
15 反射板反射光
c 検査面上の中心点
e 反射面の縁上の点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属試料の検査面を研磨し、当該金属試料にエッチング処理を行って金属試料中の欠陥を現出させ、
前記検査面に対面するように反射板を配置し、該反射板の検査面に面する側(以下「反射面」という。)についてはJIS Z 8722に規定される色調測定での拡散反射率kが70%以上であり、検査面上のいずれの位置においても、当該位置と反射面上の任意の点を結んだ線が検査面の法線となす角度の最小値θ2minが15°以下であり、検査面上の中心点と反射面の縁上の任意の点を結んだ線が検査面の法線となす角度の最小値θ4minが14°以上であり、
前記検査面を撮像する撮像装置を配置し、
照明用の光源を配置して該光源から反射面に光を照射しつつ、前記撮像装置によって検査面を撮像することを特徴とする金属の欠陥検出方法。
【請求項2】
金属試料の検査面を研磨し、当該金属試料にエッチング処理を行って金属試料中の欠陥を現出させ、当該検査面の欠陥を検出するための金属の欠陥検出装置であって、
金属試料載置台、反射板、照明用の光源と撮像装置とを有し、
前記金属試料載置台に金属試料を載置したときに金属試料の検査面に対面するように反射板が配置され、該反射板の検査面に面する側(以下「反射面」という。)についてはJIS Z 8722に規定される色調測定での拡散反射率kが70%以上であり、検査面上のいずれの位置においても、当該位置と反射面上の任意の点を結んだ線が検査面の法線となす角度の最小値θ2minが15°以下であり、検査面上の中心点と反射面の縁上の任意の点を結んだ線が検査面の法線となす角度の最小値θ4minが14°以上であり、
前記照明用の光源は前記反射板の反射面に光を照射することができ、
前記撮像装置は前記金属試料載置台に金属試料を載置したときに金属試料の前記検査面を撮像可能であることを特徴とする金属の欠陥検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−220810(P2011−220810A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−89714(P2010−89714)
【出願日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】