説明

金属ガスケットおよび調節弁

【課題】シール性に不安がなく、調節弁でも使用可能な金属ガスケットを提供する。
【解決手段】リング部2の上面2aに同心円状にリップ部2a1〜2a5を形成する。リング部2の下面2bに同心円状にリップ部2b1〜2b5を形成する。リップ部2a1〜2a5,2b1〜2b5はリング部2の外周方向に傾斜させてリング部2の周方向に沿って環状に形成された薄肉の帯とする。リップ部2a1〜2a5,2b1〜2b5は、リング部2の上面2a,2bに切削加工によって形成するようにしてもよいし、別部材としてリング部2の上面2a,2bに溶接によって接合するようにしてもよい。また、リップ部をリング部の内周方向に傾斜させた帯としてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、部材間の隙間を密封する金属ガスケットおよびこの金属ガスケットを用いた調節弁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、部材間に浸入する流体のシール部材として、ガスケットが用いられている。例えば、流体の流量を調節する調節弁では、ガスケットとして渦巻形ガスケットが最もよく利用されている。
【0003】
渦巻形ガスケットは、特許文献1にも示されているように、フープと呼ばれる断面波形の金属製薄帯板と、フィラと呼ばれる非金属材料のクッション材とを互いに重合させた状態で多数回渦巻状に巻回して構成されたものである。
【0004】
【特許文献1】特開2007−182950号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、渦巻形ガスケットは、シール性が良い反面、フープとフィラで異なる材料を使用しなければならない。また、フィラが外部にはみ出す虞があるので、ガスケットの幅を小さくすることが困難である。更に、密着性を確保するための最小締め付け圧力が高く、この締め付け力を発生させるボルト、ネジ等の締結部材のサイズも大きいものを使用しなければならない。このような渦巻形ガスケットの短所が調節弁の小型化・低コスト化を妨げる要因となっている。また、弁本体の流体通路面積の確保、調節弁の高容量化、流量特性など、調節弁の性能の向上を妨げる要因ともなっている。
【0006】
なお、圧力や温度などの各種の制約に対して使用範囲が広く、締付力が小さくて済むガスケットとして、自封形(セルフシール形)の金属ガスケットがある。この自封形の金属ガスケットの一例を図18に示す。図18(a)は平面図、図18(b)は側断面図である。この金属ガスケット100は、環状に形成されたステンレスなどの金属材料からなるリング部1の外周面に、断面「コ」字状の溝1aを形成したものである。なお、溝1aの断面形状を「C」字状としたり、「く」字状とするようなタイプもある。
【0007】
この金属ガスケット100は、図19に示すように、部材101と部材102との間に、溝1aの開口部をシール対象の流体に向けて装着する。なお、図19において、一点鎖線は、部材101,102間に締付力を与える締め付けボルトの軸線を示す。この場合、流体圧がリング部1の溝1aの内面に働き、初期締付力+流体圧による反力がリング部1の上下のリング面(シール面)1b,1cに作用し、面圧が増加して、シール性が高められる。
【0008】
この自封形の金属ガスケット100は、締付力が小さくて済むという長所があるが、金属製なので、リング面1b,1cに凹凸が少しでも生じるとシール性が極端に落ちるという短所がある。このような理由から、調節弁では、シール性を重視して多くの場合、渦巻形ガスケットが使用されている。すなわち、シール性に不安のある金属ガスケットの使用が避けられ、シール性に不安のない渦巻形ガスケットが使用されている。このため、上述したような問題が発生している。
【0009】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、シール性に不安がなく、調節弁でも使用可能な金属ガスケットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的を達成するために、本発明に係る金属ガスケット(第1発明)は、リング部の外周方向に傾斜させてリング部の周方向に沿って環状に形成された薄肉の帯をリップ部とし、このリップ部をリング部の上面および下面に同心円状に複数設けたものである。
【0011】
この金属ガスケットを使用する場合、リング部の外周面側をシール対象の流体に向けて、部材間に装着する。この場合、リング部の外周面側からの流体圧がリップ部の傾斜面の内面に働き、初期締付力+流体圧による反力がリップ部に作用し、面圧が増加して、シール性が高められる。
【0012】
また、外周側のリップ部が疲労して凹凸が発生し、シール性が低下しても、内周側のリップ部がバックアップしてシール性を確保する。すなわち、外周側のリップ部が疲労してシール性が落ちて、流体が内周側に浸入しても、次のリップ部との間に位置する溝で受け止められ、この溝に溜まった流体がソフトシール材の役目を果たし、次のリップ部の傾斜面の内面に流体圧が働き、シール性を確保する。
【0013】
この金属ガスケットにおいて、リング部の上面および下面に同心円状に複数設けるリップ部は、その肉厚を全て同じとしてもよいが、リングの外周側に設けられたリップ部から内周側に設けられたリップ部に向かうにしたがって徐々に厚くするようにしてもよい。このようにすると、最も外周側のリップ部を低圧流体用とし、内周側に向かって段階的に高圧流体に適したリップ部とし、シール対象の流体の様々な流体圧に対して、1種類の金属ガスケットで幅広く対応することが可能となる。
【0014】
また、本発明に係る金属ガスケット(第2発明)は、リング部の内周方向に傾斜させてリング部の周方向に沿って環状に形成された薄肉の帯をリップ部とし、このリップ部をリング部の上面および下面に同心円状に複数設けたものである。
【0015】
この金属ガスケットを使用する場合、リングの内周面側をシール対象の流体に向けて、部材間に装着する。この場合、リングの内周面側からの流体圧がリップ部の傾斜面の内面に働き、初期締付力+流体圧による反力がリップ部に作用し、面圧が増加して、シール性が高められる。
【0016】
また、内周側のリップ部が疲労して凹凸が発生し、シール性が低下しても、外周側のリップ部がバックアップしてシール性を確保する。すなわち、内周側のリップ部が疲労してシール性が落ちて、流体が外周側に浸入しても、次のリップ部との間に位置する溝で受け止められ、この溝に溜まった流体がソフトシール材の役目を果たし、次のリップ部の傾斜面の内面に流体圧が働き、シール性を確保する。
【0017】
この金属ガスケットにおいて、リング部の上面および下面に同心円状に複数設けるリップ部は、その肉厚を全て同じとしてもよいが、リングの内周側に設けられたリップ部から外周側に設けられたリップ部に向かうにしたがって徐々に厚くするようにしてもよい。このようにすると、最も内周側のリップ部を低圧流体用とし、外周側に向かって段階的に高圧流体に適したリップ部とし、シール対象の流体の様々な流体圧に対して、1種類の金属ガスケットで幅広く対応することが可能となる。
【0018】
本発明の金属ガスケット(第1、第2発明)において、リップ部は、リング部の上面および下面に切削加工によって一体的に形成されていてもよいし、リング部の上面および下面に別部材として溶接によって接合されていてもよい。リング部の上面および下面に別部材としてリップ部を溶接によって接合する方法とした場合、リング部の上面および下面に切削加工によってリップ部を一体的に形成する方法と比べ、金属ガスケットの製作が容易となる。
【0019】
本発明の金属ガスケット(第1、第2発明)は、自封形であり、締付力が小さくて済む。また、リング部の上面および下面に同心円状にリップ部が複数設けられており、次々にリップ部がバックアップしてシール性を確保するので、シール性に不安がなくなり、長寿命となる。これにより、本発明の金属ガスケットは、調節弁でも使用することが可能となり、従来の渦巻形ガスケットに代えて金属ガスケットを使用することにより、調節弁の小型化・低コスト化を図ることができるようになる。また、弁本体の流体通路面積の確保、調節弁の高容量化、流量特性など、調節弁の性能の向上を図ることができるようになる。
【0020】
例えば、調節弁として、入口流路および出口流路ならびに弁室を備える弁本体と、弁室内に形成される弁座と、弁室内を弁座に対して接離する方向に移動可能とされる弁体とを有し、弁室が少なくとも第1の部材と第2の部材との分割構造とされた調節弁がある。この調節弁において、弁室を構成する第1の部材と第2の部材との間に、この間に浸入する流体のシール部材として、第1発明の金属ガスケットを装着する。
【0021】
例えば、調節弁として、入口流路および出口流路ならびに弁室を備える弁本体と、この弁本体の弁室の上面を覆う上蓋と、弁室内に形成される弁座と、弁室内を弁座に対して接離する方向に移動可能とされる弁体とを有する調節弁がある。この調節弁において、弁室を構成する部材の上端面と上蓋の下端面との間に、この間に浸入する流体のシール部材として、第2発明の金属ガスケットを装着する。
【0022】
例えば、調節弁として、入口流路および出口流路ならびに弁室を備える弁本体と、弁室内に形成される弁座と、弁室内を弁座に対して接離する方向に移動可能とされる弁体と、弁室を構成する部材の下端面を支持する内段面とを有する調節弁がある。この調節弁において、弁室を構成する部材の下端面と内断面との間に、この間に浸入する流体のシール部材として、第2発明の金属ガスケットを装着する。
【0023】
なお、本発明の金属ガスケットは、調節弁に限らず、配管フランジのガスケットや各種圧力容器のシール部分へのガスケットとして使用することができる。また、配管フランジやシール部分が装着や圧力で変形を伴うような場合は、これらの変形に合わせた形のガスケット形状とすることで、より高いシール性を確保することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の金属ガスケットによれば、リング部の外周方向に傾斜させてリング部の周方向に沿って環状に形成された薄肉の帯をリップ部とし、このリップ部をリング部の上面および下面に同心円状に複数設けるようにしたので、また、リング部の内周方向に傾斜させてリング部の周方向に沿って環状に形成された薄肉の帯をリップ部とし、このリップ部をリング部の上面および下面に同心円状に複数設けるようにしたので、次々にリップ部がバックアップしてシール性を確保するものとなり、シール性に不安がなくなり、長寿命となる。また、本発明の金属ガスケットを従来の渦巻形ガスケットに代えて使用することにより、調節弁の小型化・低コスト化・性能の向上を図ることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を図面に基づいて詳細に説明する。
〔実施の形態1〕
図1はこの発明に係る金属ガスケットの一実施の形態(実施の形態1)を示す図であり、図1(a)は平面図、図1(b)は側断面図である。図2に図1(b)におけるA部を拡大して示す。
【0026】
この金属ガスケット200は、ステンレスなどの金属材料からなる平板状のリング部2を備え、このリング部2上下のリング面2aおよび2bには、リング部2の周方向に沿って環状にリップ部2a1〜2a5および2b1〜2b5が一体的に形成されている。
【0027】
この金属ガスケット200において、リップ部2a1〜2a5は、リング部2の外周方向に傾斜させた薄肉の帯とされ、切削加工によってリング面2aに同心円状に形成されている。同様にして、リップ部2b1〜2b5も、リング部2の外周方向に傾斜させた薄肉の帯とされ、切削加工によってリング面2bに同心円状に形成されている。
【0028】
また、この金属ガスケット200において、リング面2aには、リップ部2a1〜2a5の切削加工によって、リング部2の周方向に沿った環状の溝2Ga1〜2Ga5が残されている。また、リング面2bにも、リップ部2b1〜2b5の切削加工によって、リング部2の周方向に沿った環状の溝2Gb1〜2Gb5が残されている。
【0029】
また、この金属ガスケット200において、リップ部2a1〜2a5および2b1〜2b5は、リング部2の上下面に対称に形成されており、その肉厚tは全て同じとされている。また、リング部2の幅は、内周側の幅(内周幅)をW1、リップ部2a1〜2a5の上端面からリップ部2b1〜2b5の下端面までの幅(外周幅)をW2とした場合、外周幅W2が内周幅W1よりも若干大きくされている。
【0030】
なお、この実施の形態では、リップ部2a1〜2a5および2b1〜2b5のリング部1の外周方向への傾斜角度θを60゜とし、リング部2の内周幅W1を5mm、リング部2の外周幅W2を5.2mmとしている。また、リング部2の内径φ1を220.5mm、リング部2の外径φ2を245mmとしている。また、リップ部2a1〜2a5および2b1〜2b5の肉厚tを0.5mm、リップ部2a1〜2a5および2b1〜2b5の隣接するリップ部間の間隔Hを2mm、溝2Ga1〜2Ga5および2Gb1〜2Gb5の深さDを2.5mmとしている。これらの寸法はあくまでも一例であり、リップ部2a1〜2a5および2b1〜2b5の傾斜角度θは、0゜<θ<90゜の範囲内の値であればよい。
【0031】
この金属ガスケット200は、図3に示すように、部材101と部材102との間に、リング部2の外周面側をシール対象の流体に向けて装着する。なお、図3において、一点鎖線は、部材101,102間に締付力を与える締め付けボルトの軸線を示す。
【0032】
この場合、リング部2の外周面側からの流体圧がリップ部2a1,2b1の傾斜面の内面に働き、初期締付力+流体圧による反力がリップ部2a1,2b1に作用し、面圧が増加して、シール性が高められる。これにより、自封形として、締付力が小さくて済む。
【0033】
また、外周側のリップ部2a1,2b1が疲労して凹凸が発生し、シール性が低下しても、内周側のリップ部2a2,2b2がバックアップしてシール性を確保する。すなわち、外周側のリップ部2a1,2b1が疲労してシール性が落ちて、流体が内周側に浸入しても、次のリップ部2a2,2b2との間に位置する溝2Ga1,2Gb1で受け止められ、この溝2Ga1,2Gb1に溜まった流体がソフトシール材の役目を果たし、次のリップ部2a2,2b2の傾斜面の内面に流体圧が働き、シール性を確保する。
【0034】
同様にして、外周側のリップ部2a2,2b2が疲労して凹凸が発生し、シール性が低下した場合、内周側のリップ部2a3,2b3がバックアップしてシール性を確保し、外周側のリップ部2a3,2b3が疲労して凹凸が発生し、シール性が低下した場合、内周側のリップ部2a4,2b4がバックアップしてシール性を確保する。
【0035】
このようにして、本実施の形態の金属ガスケット200では、次々にリップ部がバックアップしてシール性を確保するので、シール性に不安がなくなり、長寿命となる。また、複数の溝2Ga,2Gbに流体が入り込み、この溝2Ga,2Gbに溜まった流体がソフトシール材の役割を果たすので、シール部のうねりや傾きに対しての密封性も高いものとなる。
【0036】
これにより、本実施の形態の金属ガスケット200は、シール性が重視される調節弁でもを使用することが可能となる。この金属ガスケット200を従来の渦巻形ガスケットに代えて使用することにより、調節弁の小型化・低コスト化を図ることができるようになる。また、弁本体の流体通路面積の確保、調節弁の高容量化、流量特性など、調節弁の性能の向上を図ることができるようになる。また、金属ガスケット200の寿命が長いので、メンテナンスの機会を削減することができる。
【0037】
〔実施の形態2〕
上述した金属ガスケット200では、リップ部2a1〜2a5および2b1〜2b5をリング部2の上下面に対称に形成するようにしたが、図4に示すように、リップ部2a1〜2a4および2b1〜2b4をリング部2の上下面に非対称に形成するようにしてもよい。
【0038】
〔実施の形態3〕
上述した金属ガスケット200では、リップ部2a1〜2a5および2b1〜2b5の肉厚tを均一としたが、図5に示すように、リング部2の外周側に設けられたリップ部2a1,2b1から内周側に設けられたリップ部2a5,2b4に向かうにしたがって肉厚tを徐々に厚くするようにしてもよい。
【0039】
このようにすると、最も外周側のリップ部2a1,2b1を低圧流体用とし、リップ部2a2,2b2、2a3,2b3、2a4,2b4、2a5,2b5の順(内周に向かう順)に段階的に高圧流体に適したリップ部とし、シール対象の流体の様々な流体圧に対して、1種類の金属ガスケットで幅広く対応することができるようになる。
【0040】
〔実施の形態4〕
また、上述した金属ガスケット200では、リング部2の上面2aおよび下面2bに切削加工によってリップ部2a1〜2a5および2b1〜2b5を一体的に形成するようにしたが、図6に示すように、リップ部2a1’〜2a5’および2b1’〜2b5’を別部材として形成し、リング部2の上面2aおよび下面2bに溶接によって接合するようにしてもよい。
【0041】
図6に示した例では、リング部2と同一の金属材料からなる薄板をプレス加工して断面V字状のリングを形成し、この断面V字状のリングをリップ部2a1’〜2a5’および2b1’〜2b5’として、リング部2の上面2aおよび下面2bに溶接によってシームレスに接合している。
【0042】
このような方法でリング部2にリップ部2a1’〜2a5’および2b1’〜2b5’を形成することにより、切削加工によってリップ部2a1〜2a5および2b1〜2b5を形成する方法と比べ、金属ガスケットの製作が容易となり、コストダウンを図ることができる。
【0043】
〔実施の形態5〕
図7はこの発明に係る金属ガスケットの別の実施の形態(実施の形態5)を示す図であり、図7(a)は平面図、図7(b)は側断面図である。図8に図7(b)におけるB部を拡大して示す。
【0044】
この金属ガスケット300は、ステンレスなどの金属材料からなる平板状のリング部3を備え、このリング部3の上下のリング面3aおよび3bには、リング部3の周方向に沿って環状にリップ部3a1〜3a5および3b1〜3b5が一体的に形成されている。
【0045】
この金属ガスケット200において、リップ部3a1〜3a5は、リング部3の内周方向に傾斜させた薄肉の帯とされ、切削加工によってリング面3aに同心円状に形成されている。同様にして、リップ部3b1〜3b5も、リング部3の内周方向に傾斜させた薄肉の帯とされ、切削加工によってリング面3bに同心円状に形成されている。
【0046】
また、この金属ガスケット300において、リング面3aには、リップ部3a1〜3a5の切削加工によって、リング部3の周方向に沿った環状の溝3Ga1〜3Ga5が残されている。同様にして、リング面3bにも、リップ部3b1〜3b5の切削加工後によって、リング部3の周方向に沿った環状の溝3Gb1〜3Gb5が残されている。
【0047】
また、この金属ガスケット300において、リップ部3a1〜3a5および3b1〜3b5は、リング部3の上下面に対称に形成されており、その肉厚tは全て同じとされている。また、リング部3の幅は、内周側の幅(内周幅)をW1、リップ部3a1〜3a5の上端面からリップ部3b1〜3b5の下端面までの幅(外周幅)をW2とした場合、外周幅W2が内周幅W1よりも若干大きくされている。
【0048】
なお、この実施の形態では、リップ部3a1〜3a5および3b1〜3b5のリング部1の内周方向への傾斜角度θを60゜とし、リング部3の内周幅W1を5mm、リング部3の外周幅W2を5.2mmとしている。また、リング部3の内径φ1を220.5mm、リング部3の外径φ2を245mmとしている。また、リップ部3a1〜3a5および3b1〜3b5の肉厚tを0.5mm、リップ部3a1〜3a5および3b1〜3b5の隣接するリップ部間の間隔Hを2mm、溝3Ga1〜3Ga5および3Gb1〜3Gb5の深さDを2.5mmとしている。これらの寸法はあくまでも一例であり、リップ部3a1〜3a5および3b1〜3b5の傾斜角度θは、0゜<θ<90゜の範囲内の値であればよい。
【0049】
この金属ガスケット300は、図9に示すように、部材101と部材102との間に、リング部3の内周面側をシール対象の流体に向けて装着する。なお、図9において、一点鎖線は、部材101,102間に締付力を与える締め付けボルトの軸線を示す。
【0050】
この場合、リング部3の内周面側からの流体圧がリップ部3a1,3b1の傾斜面の内面に働き、初期締付力+流体圧による反力がリップ部3a1,3b1に作用し、面圧が増加して、シール性が高められる。これにより、自封形として、締付力が小さくて済む。
【0051】
また、内周側のリップ部3a1,3b1が疲労して凹凸が発生し、シール性が低下しても、外周側のリップ部3a2,3b2がバックアップしてシール性を確保する。すなわち、内周側のリップ部3a1,3b1が疲労してシール性が落ちて、流体が外周側に浸入しても、次のリップ部3a2,3b2との間に位置する溝3Ga2,3Gb2で受け止められ、この溝3Ga2,3Gb2に溜まった流体がソフトシール材の役目を果たし、次のリップ部3a2,3b2の傾斜面の内面に流体圧が働き、シール性を確保する。
【0052】
同様にして、内周側のリップ部3a2,3b2が疲労して凹凸が発生し、シール性が低下した場合、外周側のリップ部3a3,3b3がバックアップしてシール性を確保し、内周側のリップ部3a3,3b3が疲労して凹凸が発生し、シール性が低下した場合、外周側のリップ部3a4,3b4がバックアップしてシール性を確保する。
【0053】
このようにして、本実施の形態の金属ガスケット300では、次々にリップ部がバックアップしてシール性を確保するので、シール性に不安がなくなり、長寿命となる。また、複数の溝3Ga,3Gbに流体が入り込み、この溝3Ga,3Gbに溜まった流体がソフトシール材の役割を果たすので、シール部のうねりや傾きに対しての密封性も高いものとなる。
【0054】
これにより、本実施の形態の金属ガスケット300は、シール性が重視される調節弁でもを使用することが可能となる。この金属ガスケット300を従来の渦巻形ガスケットに代えて使用することにより、調節弁の小型化・低コスト化を図ることができるようになる。また、弁本体の流体通路面積の確保、調節弁の高容量化、流量特性など、調節弁の性能の向上を図ることができるようになる。また、金属ガスケット300の寿命が長いので、メンテナンスの機会を削減することができる。
【0055】
〔実施の形態6〕
上述した金属ガスケット300では、リップ部3a1〜3a5および3b1〜3b5をリング部3の上下面に対称に形成するようにしたが、図10に示すように、リップ部3a1〜3a4および3b1〜3b4をリング部3の上下面に非対称に形成するようにしてもよい。
【0056】
〔実施の形態7〕
また、上述した金属ガスケット300では、リップ部3a1〜3a5および3b1〜3b5の肉厚tを均一としたが、図11に示すように、リング部3の内周側に設けられたリップ部3a1,3b1から外周側に設けられたリップ部3a5,3b4に向かうにしたがって肉厚tを徐々に厚くするようにしてもよい。
【0057】
このようにすると、最も内周側のリップ部3a1,3b1を低圧流体用とし、リップ部3a2,3b2、3a3,3b3、3a4,3b4、3a5,3b5の順(外周に向かう順)に段階的に高圧流体に適したリップ部とし、シール対象の流体の様々な流体圧に対して、1種類の金属ガスケットで幅広く対応することができるようになる。
【0058】
〔実施の形態8〕
また、上述した金属ガスケット300では、リング部3の上面3aおよび下面3bに切削加工によってリップ部3a1〜3a5および3b1〜3b5を一体的に形成するようにしたが、図12に示すように、リップ部3a1’〜3a5’および3b1’〜3b5’を別部材として形成し、リング部3の上面3aおよび下面3bに溶接によって接合するようにしてもよい。
【0059】
図12に示した例では、リング部3と同一の金属材料からなる薄板をプレス加工して断面V字状のリングを形成し、この断面V字状のリングをリップ部3a1’〜3a5’および3b1’〜3b5’として、リング部3の上面3aおよび下面3bに溶接によってシームレスに接合している。
【0060】
このような方法でリング部3にリップ部3a1’〜3a5’および3b1’〜3b5’を形成することにより、切削加工によってリップ部3a1〜3a5および3b1〜3b5を形成する方法と比べ、金属ガスケットの製作が容易となり、コストダウンを図ることができる。
【0061】
〔調節弁における使用例〕
図13に上述した金属ガスケット200および300の調節弁における使用例を示す。この調節弁400は、入口流路4および出口流路5ならびに弁室(ケージ)6を備える弁本体(ケーシング)7と、弁本体7の弁室6の上面を覆う上蓋8と、弁室6内に形成される弁座9と、弁室6内を弁座9に対して接離する方向に移動可能とされる弁体10とを有している。弁体10には弁軸11が設けられている。
【0062】
この調節弁400において、弁室6は、下ケージ6−1と上ケージ6−2との分割構造とされている。下ケージ6−1は弁本体7内の内段面12にねじ込み構造で固定されている。上ケージ6−2は下ケージ6−1の上部に嵌め込まれ、ボルトナットで上蓋8と下ケージ6−1との間に組み付けられている。下ケージ6−1には流体の流入口13および流出口14が形成されている。
【0063】
この調節弁400において、下ケージ6−1と上ケージ6−2との間に、すなわち下ケージ6−1の上端面と上ケージ6−2の下端面との間に、この間に浸入する流体のシール部材として、金属ガスケット200が設けられている。また、上ケージ6−1と上蓋8との間に、すなわち上ケージ6−2の上端面と上蓋8の下端面との間に、この間に浸入するシール部材として、金属ガスケット300が設けられている。また、下ケージ6−1と内段面12との間に、すなわち下ケージ6−1の下端面と内段面12との間に、この間に浸入するシール部材として、金属ガスケット300が設けられている。
【0064】
この調節弁400において、下ケージ6−1と上ケージ6−2との間に設けられた金属ガスケット200は、弁室6内に流入しようとする流体の流れを阻止する。上ケージ6−2と上蓋8との間に設けられた金属ガスケット300は、弁室6内から外部へ流出しようとする流体の流れを阻止する。下ケージ6−1と内段面12との間に設けられた金属ガスケット300は、弁体10が閉じられたときに弁室6側内に流入しようとする流体の流れを阻止する。
【0065】
〔配管フランジにおける使用例〕
図14に配管フランジにおける使用例を示す。図14において、15は第1の配管、16は第2の配管であり、配管15,16にはフランジ17,18が溶接されている。この配管15と配管16とを接続する場合、フランジ17とフランジ18との間に金属ガスケット300を装着し、フランジ17とフランジ18とをボルト19とナット20で締め付け、金属ガスケット300に圧縮力を発生させる。
【0066】
この使用例において、金属ガスケット300に配管15,16内の圧力以上の圧縮力が働くようにボルト19とナット20を締め付ければ、配管15,16内の圧力は外部へ漏れなくなる。この使用例において、金属ガスケット300は、配管15,16内から流出しようとする流体の流れを阻止する。
【0067】
図14に示した配管フランジにおける使用例において、ボルト19とナット20を強固に締め付けた時、図15にデフォルメして示すように、フランジ17とフランジ18が内側に変形することがある。この場合、フランジ17,18間に挟まれた金属ガスケット300は、その外周幅W2を全てのリップ部において同一としているので、外周部側が大きく変形して狭くなり、フランジ17とフランジ18との間に均一なガスケット幅が得られない。
【0068】
これに対して、図16に示すように、金属ガスケット300の外周幅W2を内周側のリップ部3a1,3b1から外周側のリップ部3a5,3b5に向かうにつれて大きくするようにれば、フランジ17とフランジ18が内側に変形しても、外周側の幅の広いリップ部を圧縮することになり、フランジ17とフランジ18との間に均一なガスケット幅を得ることが可能となる(図17参照)。
【0069】
この金属ガスケット300と同様にして、金属ガスケット200についても、その外周幅W2をリップ部3a5,3b5からリップ部3a1,3b1に向かうにつれて大きくするような形としてもよい。
【0070】
また、上述した金属ガスケット200,300において、リング部2,3はステンレスなどの単一の金属材料から形成されているものとしたが、耐食性・耐熱性のある合金(例えば、インコネル)を金属材料として形成されているものとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明に係る金属ガスケットの一実施の形態(実施の形態1)を示す平面図および側断面図である。
【図2】図1(b)におけるA部を拡大して示した図である。
【図3】この金属ガスケットをリング部の外周面側をシール対象の流体に向けて部材間に装着した状態を示す図である。
【図4】リング部の上下面に非対称にリップ部を形成するようにした例(実施の形態2)を示す図である。
【図5】リング部の外周側に設けられたリップ部から内周側に設けられたリップ部に向かうにしたがって肉厚を徐々に厚くするようにした例(実施の形態3)を示す図である。
【図6】別部材として形成したリップ部をリング部の上面および下面に溶接によって接合するようにした例(実施の形態4)を示す図である。
【図7】本発明に係る金属ガスケットの別の実施の形態(実施の形態5)を示す平面図および側断面図である。
【図8】図7(b)におけるB部を拡大して示した図である。
【図9】この金属ガスケットをリング部の内周面側をシール対象の流体に向けて部材間に装着した状態を示す図である。
【図10】リング部の上下面に非対称にリップ部を形成するようにした例(実施の形態6)を示す図である。
【図11】リング部の内周側に設けられたリップ部から外周側に設けられたリップ部に向かうにしたがって肉厚を徐々に厚くするようにした例(実施の形態7)を示す図である。
【図12】別部材として形成したリップ部をリング部の上面および下面に溶接によって接合するようにした例(実施の形態8)を示す図である。
【図13】本発明に係る金属ガスケットの調節弁における使用例を示す図である。
【図14】本発明に係る金属ガスケットの配管フランジにおける使用例を示す図である。
【図15】この配管フランジにおける使用例においてボルトとナットを強固に締め付けた時の状態をデフォルメして示した図である。
【図16】金属ガスケットの外周幅を内周側のリップ部から外周側のリップ部に向かうにつれて大きくするようにした例を示す図である。
【図17】外周幅を内周側のリップ部から外周側のリップ部に向かうにつれて大きくするようにした金属ガスケットを使用した場合のボルトとナットを強固に締め付けた時の状態をデフォルメして示した図である。
【図18】従来の自封形の金属ガスケットの一例を示す平面図および側断面図である。
【図19】従来の自封形の金属ガスケットを外周面に形成された溝の開口部をシール対象の流体に向けて部材間に装着した状態を示す図である。
【符号の説明】
【0072】
2…リング部、2a,2b…リング面、2a1〜2a5,2b1〜2b5…リップ部、2Ga1〜2Ga5,2Gb1〜2Gb5…溝、2a1’〜2a5’,2b1’〜2b5’…リップ部(別部材)、3…リング部、3a,3b…リング面、3a1〜3a5,3b1〜3b5…リップ部、3Ga1〜3Ga5,3Gb1〜3Gb5…溝、3a1’〜3a5’,3b1’〜3b5’…リップ部(別部材)、200,300…金属ガスケット、101…第1の部材、102…第2の部材、400…調節弁、4…入口流路、5…出口流路、6…弁室(ケージ)、6−1…下ケージ、6−2…上ケージ、7…弁本体(ケーシング)、8…上蓋、9…弁座、10…弁体、11…弁軸、12…内段面、13…流入口、14…流出口、15…第1の配管、16…第2の配管、17,18…フランジ、19…ボルト、20…ナット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料からなる環状のリング部を備え、
前記リング部は、
当該リング部の外周方向に傾斜させて当該リング部の周方向に沿って環状に形成された薄肉の帯をリップ部として有し、
前記リップ部は、
前記リング部の上面および下面に同心円状に複数設けられている
ことを特徴とする金属ガスケット。
【請求項2】
請求項1に記載された金属ガスケットにおいて、
前記リップ部は、
前記リング部の外周側に設けられたリップ部から内周側に設けられたリップ部に向かうにしたがってその肉厚が徐々に厚くされている
ことを特徴とする金属ガスケット。
【請求項3】
金属材料からなる環状のリング部を備え、
前記リング部は、
当該リング部の内周方向に傾斜させて当該リング部の周方向に沿って環状に形成された薄肉の帯をリップ部として有し、
前記リップ部は、
前記リング部の上面および下面に同心円状に複数設けられている
ことを特徴とする金属ガスケット。
【請求項4】
請求項3に記載された金属ガスケットにおいて、
前記リップ部は、
前記リング部の内周側に設けられたリップ部から外周側に設けられたリップ部に向かうにしたがってその肉厚が徐々に厚くされている
ことを特徴とする金属ガスケット。
【請求項5】
請求項1又は3に記載された金属ガスケットにおいて、
前記リング部は、
隣接する前記リップ部間に溝部を有する
ことを特徴とする金属ガスケット。
【請求項6】
請求項1又は3に記載された金属ガスケットにおいて、
前記リップ部は、
前記リング部の上面および下面に切削加工によって一体的に形成されている
ことを特徴とする金属ガスケット。
【請求項7】
請求項1又は3に記載された金属ガスケットにおいて、
前記リップ部は、
前記リング部の上面および下面に別部材として溶接によって接合されている
ことを特徴とする金属ガスケット。
【請求項8】
入口流路および出口流路ならびに弁室を備える弁本体と、前記弁室内に形成される弁座と、前記弁室内を前記弁座に対して接離する方向に移動可能とされる弁体とを有し、前記弁室が少なくとも第1の部材と第2の部材との分割構造とされた調節弁において、
前記弁室を構成する第1の部材と第2の部材との間に、この間に浸入する流体のシール部材として、請求項1又は2に記載された金属ガスケットが装着されている
ことを特徴とする調節弁。
【請求項9】
入口流路および出口流路ならびに弁室を備える弁本体と、この弁本体の弁室の上面を覆う上蓋と、前記弁室内に形成される弁座と、前記弁室内を前記弁座に対して接離する方向に移動可能とされる弁体とを有する調節弁において、
前記弁室を構成する部材の上端面と前記上蓋の下端面との間に、この間に浸入する流体のシール部材として、請求項3又は4に記載された金属ガスケットが装着されている
ことを特徴とする調節弁。
【請求項10】
入口流路および出口流路ならびに弁室を備える弁本体と、前記弁室内に形成される弁座と、前記弁室内を前記弁座に対して接離する方向に移動可能とされる弁体と、前記弁室を構成する部材の下端面を支持する内段面とを有する調節弁において、
前記弁室を構成する部材の下端面と前記内段面との間に、この間に浸入する流体のシール部材として、請求項3又は4に記載された金属ガスケットが装着されている
ことを特徴とする調節弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2010−19366(P2010−19366A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−181378(P2008−181378)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(000006666)株式会社山武 (1,808)
【Fターム(参考)】