説明

金属ガスケット

【課題】副板とスペーサ板との互いの結合部の板厚方向への出っ張りを逃がすことができない状況下でも両者を互いに確実に結合可能とする。
【解決手段】副板30に、スペーサ板40の先細形状の部分44の両側面に接触するように副板外周縁から互いに対向して張り出した張出部34を形成し、スペーサ板40の先細形状の部分44を副板30の両張出部34に接触させた状態で、両張出部34に板厚方向両面から叩き荷重を加えて両張出部34の縁部を塑性変形させることにより、副板30の両張出部34をスペーサ板40の先細形状の部分44に強く嵌合させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルトで締結することにより互いに圧接させて固定されるシリンダヘッドとシリンダブロックとの接合面間をシールするべく当該接合面間に設けられる金属ガスケットに関し、より詳細には、両ビード基板間に挟まれた状態で設けられる副板と、両ビード基板間における副板の外部領域に設けられるスペーサ板との相互結合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンの燃焼室用の金属ガスケットには、シリンダヘッドとシリンダブロックとの接合面間に互いに重ね合わせて介装される一対のビード基板と、両ビード基板に挟まれ両ビード基板の燃焼室孔を囲むようにして設けられる副板と、両ビード基板間における副板の外部領域に設けられるスペーサ板(中間板)とを備えたものがある。副板は、金属ガスケットの燃焼室孔周りの厚みを増大させて、ボルト締結時における燃焼室孔周りの面圧を増大させるための部材である。スペーサ板は、両ビード基板のシール材同士の接触を防止し且つ金属ガスケットの厚さ調整を行うための部材であり、両ビード基板の冷却水孔用シールビード間およびオイル通路用シールビード間に挟持される。
【0003】
副板は何らかの方法でビード基板または中間板に結合させる必要がある。オープンデッキ型エンジンの金属ガスケットの場合は、レーザ溶接等により副板と中間板とを付き合わせ溶接するか、または両者の爪部同士をかしめ結合する方法がとられる。この場合、溶接部あるいはかしめ結合部を燃焼室近傍の冷却水通路内に配置することにより、溶接あるいはかしめ結合により発生する出張部を逃がすことができる。これに対し、クローズドデッキ型エンジンの金属ガスケットの場合は、副板と中間板との付き合わせ溶接部を逃がす余地がないため、副板と中間板の外縁部に遠く離れた位置にあるシリンダブロックの冷却水孔まで延びる耳状の張出部(爪部)を設け、その冷却水孔上にて両者の張出部を付き合わせて、かしめ結合等により接続する方法がとられてきた(特許文献1)。
【0004】
しかし、燃焼室から遠く離れた位置に冷却水孔があったとしても、ビード基板の冷却水孔が小さ過ぎて、かしめのためのスペースが取れない場合や、冷却水孔を取り囲むようにしてビードが形成されている場合、副板とスペーサ板の外縁部に冷却水孔上に延びる張出部を設けて、冷却水孔上で副板とスペーサ板とを互いに結合することが不可能になってしまう。
【特許文献1】特開2004−251370(図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、シリンダヘッドとシリンダブロックとの接合面間に互いに重ね合わせて介装される一対のビード基板と、両ビード基板間に挟まれた状態で設けられる金属製の副板と、両ビード基板間における副板の外部領域に設けられるスペーサ板とを備えた金属ガスケットにおいて、副板とスペーサ板との互いの結合部の板厚方向への出っ張りを逃がすことができない状況下でも両者を互いに確実に結合できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の金属ガスケットは、シリンダヘッドとシリンダブロックとの接合面間をシールすべく当該接合面間に設けられる金属積層型ガスケットであって、燃焼室孔および当該燃焼室孔を取り囲むようにして形成された環状のビードを有し且つ互いの燃焼室孔同士および互いの環状のビード同士を対向させた状態で前記接合面間に設けられる金属製の一対のビード基板と、前記一対のビード基板間に挟まれ且つ前記燃焼室孔を取り囲むようにして設けられる金属製の副板と、前記一対のビード基板間における前記副板の外部領域に設けられた前記副板よりも薄く且つ剛性が同一か又は高いスペーサ板と、を備え、前記副板に、前記スペーサ板の先細形状の部分の両側面に接触するように副板外周縁から互いに対向して張り出した張出部を形成し、前記スペーサ板の先細形状の部分を前記副板の両張出部に接触させた状態で、両張出部に板厚方向両面から叩き荷重を加えて両張出部の縁部を塑性変形させることにより、前記副板の両張出部を前記スペーサ板の先細形状の部分に嵌合させたことを特徴とする。
【0007】
この金属ガスケットは、スペーサ板の先細形状の部分を副板の両張出部に接触させた状態で、両張出部に板厚方向両面から叩き荷重を加えて両張出部の縁部を塑性変形させることにより、副板の両張出部をスペーサ板の先細形状の部分に嵌合させたので、副板とスペーサ板との結合部を板厚方向に出っ張らせることなく、両者を互いに確実に固定することが可能である。
【0008】
前記副板は、前記ビード基板の複数の燃焼室孔を縁取る複数の円環部を有し、前記スペーサ板の先細形状の部分は、前記副板の相隣接する円環部間に形成された奥細形状の空間に嵌る部分であることが望ましい。スペーサ板の先細形状の部分を副板の奥細形状の空間に嵌合させた状態で、副板の奥細形状の空間に形成された両張出部に板厚方向両面から叩き荷重を加えて両張出部の縁部を塑性変形させ、副板の両張出部をスペーサ板の先細形状の部分に嵌合させることにより、副板とスペーサ板との結合部を板厚方向に出っ張らせることなく、両者が板圧方向に対して直交する方向に互いに離脱するのを防止できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、副板とスペーサ板との結合部を板厚方向に出っ張らせることなく、両者を互いに確実に固定することができるので、副板とスペーサ板との互いの結合部の板厚方向への出っ張りを逃がすことができない状況下でも両者を互いに確実に結合でき、シリンダヘッドとシリンダブロックとの接合面間を気密にシールすることができる耐久性に優れた金属ガスケットを実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0011】
図1は本発明にかかる金属ガスケットの一部を示す分解斜視図である。図2は図1に示す金属ガスケットの部分断面図である。図3(a)は図1に示す金属ガスケットの結合部を示す部分平面図である。図3(b)は図3(a)のA−A線断面図である。
【0012】
金属ガスケット1は、シリンダヘッド側ビード基板10と、シリンダブロック側ビード基板20と、両ビード基板10、20間に配置された副板30と、両ビード基板10間における副板30の外部領域に設けられたスペーサ板40とからなり、これらを重ね合わせた状態で、図示しないシリンダヘッドとクローズドデッキシリンダブロック(以下、単にシリンダブロックと記す。)との接合面間に介装される。シリンダブロックには、燃焼室から遠く離れた所々に、独立した冷却水孔が設けられている。
【0013】
シリンダヘッド側ビード基板10には、シリンダヘッドの構造に応じて、燃焼室孔11、ボルト12および冷却水孔13が形成されている。シリンダブロック側ビード基板20には、シリンダブロックの構造に応じて、燃焼室孔21、ボルト孔22および冷却水孔23が形成されている。
【0014】
両ビード基板10、20には、各燃焼室孔11、21を取り囲むようにして環状のビード(ボアービード)15、25が各々形成されている。また、両ビード基板10、20のボルト孔12、22および冷却水孔13、23の部分にもビードが各々形成されている。各燃焼室孔11、21を取り囲むようにして形成された環状のビード15、25は、互いの頂部同士が対向状態となるように形成されている。ボルト孔12、22および冷却水孔13、23の部分のビードは、互いの頂部同士が対向状態または反対向状態となるように形成されている。
【0015】
両ビード基板10、20は、シリンダヘッドおよびシリンダブロックの接合面の形状・寸法に合わせて形成された、弾性を有する硬質の金属(たとえばステンレス)からなる略長方形の板状部材である。各ビード基板10、20の厚さは、たとえば0.2mmである。両ビード基板10、20には、各々両面にシール材が塗布されている。シール材は、ニトリルまたはフッ素形ゴムからなる。
【0016】
副板30は、両ビード基板10、20間に挟まれた状態で設けられる金属製の一枚板であり、両ビード基板10、20の燃焼室孔11、21に対応させて形成された燃焼室孔31を有する複数の円環状の部分(円環部)32を連結した形状を有している。副板30の相隣接する円環部32間には奥細形状の空間33が形成されており、この空間33にスペーサ板40の先細形状の部分44が嵌合している。副板30には、スペーサ板40の先細形状の部分44の両側面に接触するように副板外周縁から互いに対向して張り出した張出部34が形成されている。副板30の硬度は、両ビード基板10、20の硬度と同一か又は小さく選定されている。副板30の厚さは、たとえば0.3mmである。
【0017】
スペーサ板40は、副板30よりも薄く且つ剛性は同一か又は大きく選定された金属(たとえばステンレス)からなる略長方形の板状部材であり、張出部34との接触箇所を除いて、副板30の外周に若干の隙間C(図3(a)参照)を持って嵌合又は全周溶接するように形成されている。スペーサ板40には、両ビード基板10、20の燃焼室孔11、21、ボルト12、22および冷却水孔13、23の位置および形状に合わせて、ボルト孔42および冷却水孔43が形成されている。スペーサ板40の剛性は、副板30の剛性と同等かそれ以上に選定されている。スペーサ板40の厚さは、たとえば0.25mm(副板の厚さが0.3mmの場合)である。
【0018】
副板30とスペーサ板40とは、スペーサ板40の先細形状の部分44を副板30の奥細形状の部分33に形成された両張出部34に接触させた状態で、両張出部34に板厚方向両面から叩き荷重を加えて両張出部34の縁部を塑性変形させることにより、副板30の両張出部34をスペーサ板40の先細形状の部分に嵌合させて互いに結合されている。両張出部34に板厚方向両面から叩き荷重を加えるための工具としては、公知のパンチ工具を使用することができる。
【0019】
図3(a)、(b)において、Dはパンチ工具のハンマ部材(両張出部を実際に叩く部材)の直径を、dはスペーサ板40の先細形状の部分44の幅(副板との結合部の幅)をそれぞれ示している。図示するように、ハンマ部材の直径Dは、ハンマ部材の両端(図3(a)において左右両端)が両張出部34の奥側(図3(a)において下側)の縁に同時に若干重なるように選定される。各張出部34における重なり幅は、D−dで表される。このパンチ工具を用いて副板30の両張出部34を叩くと、両張出部34の縁部が同時に潰れる。すなわち図3(b)に示すように、両張出部34の縁部の厚さが当初の厚さTからt(t<T)に減少する。その潰れによる肉厚減少量分だけ、両張出部34の縁部が内側に張り出す。その結果、両張出部34の縁部がスペーサ板40の先細形状の部分44に両側から強く圧接し、両張出部34の潰れて張り出した部分の上下両端縁部がスペーサ板40の先細形状の部分44に若干重なるように変形する。すなわち、副板30の両張出部34は、剛性がスペーサ板40と同等か又は小さいため、張り出した部分のうちのスペーサ板40と板厚方向において接触していない部分がスペーサ板40の上下両面上に逃げるように塑性変形して重なる。図3(b)中のSは、この若干重なった部分の重なり幅を示している。
【0020】
このように、副板30の両張出部34をパンチ工具で同時に叩き潰して、スペーサ板40の先細形状の部分44に強く嵌合させることにより、副板30とスペーサ板40との結合部を板厚方向に出っ張らせることなく、両者を互いに確実に固定することができる。
【0021】
上記のようにして副板30の奥細形状の部分33とスペーサ板40の先細形状の部分44とをすべて結合させた後、これらを両ビード基板10、20間に挟み、両ビード基板10、20とスペーサ板40とが重なっている箇所を複数箇所リベット50(図2参照)で結合あるいはかしめ結合することにより金属ガスケット1が完成する。副板30は、両ビード基板10、20に固定されたスペーサ板40によって金属ガスケット1内の定位置に保持される。すなわち、スペーサ板40は、副板30に対し外方(図3(a)中の矢印B方向)への抜け止め(位置固定部材)として働く。
【0022】
この金属ガスケット1の副板30とスペーサ板40との結合構造によれば、副板30とスペーサ板40との結合部を板厚方向に出っ張らせることなく、両者を互いに確実に固定することができるので、副板30とスペーサ板40との互いの結合部の板厚方向への出っ張りを逃がすことができない状況下でも両者を互いに確実に結合でき、シリンダヘッドとシリンダブロックとの接合面間を気密にシールすることができる耐久性に優れた金属ガスケットを実現できる。
【0023】
なお、上記の例では、クローズドデッキ型エンジン用の金属ガスケットについて説明したが、本発明はオープンデッキ型エンジン用の金属ガスケットにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明にかかる金属ガスケットの一部を示す分解斜視図
【図2】図1に示す金属ガスケットの部分断面図
【図3】(a)は図1に示す金属ガスケットの結合部(P)を示す部分平面図、(b)は(a)のA−A線断面図
【符号の説明】
【0025】
1 金属ガスケット
10 シリンダヘッド側ビード基板
11 燃焼室孔
13 冷却水孔
20 シリンダブロック側ビード基板
21 燃焼室孔
23 冷却水孔
30 副板
32 円環部
33 奥細形状の空間
34 張出部
40 スペーサ板
43 冷却水孔
44 先細形状の部分
P 副板とスペーサ板との相互結合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッドとシリンダブロックとの接合面間をシールすべく当該接合面間に設けられる金属積層型ガスケットであって、
燃焼室孔および当該燃焼室孔を取り囲むようにして形成された環状のビードを有し且つ互いの燃焼室孔同士および互いの環状のビード同士を対向させた状態で前記接合面間に設けられる金属性の一対のビード基板と、
前記一対のビード基板に挟まれ且つ前記燃焼室孔を取り囲むようにして設けられる金属製の副板と、
前記一対のビード基板間における前記副板の外部領域に設けられた前記副板よりも薄く且つ剛性が同一か又は高いスペーサ板と、を備え、
前記副板に、前記スペーサ板の先細形状の部分の両側面に接触するように副板外周縁から互いに対向して張り出した張出部を形成し、
前記スペーサ板の先細形状の部分を前記副板の両張出部に接触させた状態で、両張出部に板厚方向両面から叩き荷重を加えて両張出部の縁部を塑性変形させることにより、前記副板の両張出部を前記スペーサ板の先細形状の部分に嵌合させたことを特徴とする金属ガスケット。
【請求項2】
前記副板は、前記ビード基板の複数の燃焼室孔を縁取る複数の円環部を有し、
前記スペーサ板の先細形状の部分は、前記副板の相隣接する円環部間に形成された奥細形状の空間に嵌る部分であることを特徴とする請求項1記載の金属ガスケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−77896(P2006−77896A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−262957(P2004−262957)
【出願日】平成16年9月9日(2004.9.9)
【出願人】(391003185)株式会社ケットアンドケット (8)
【Fターム(参考)】