説明

金属シース二ホウ化マグネシウム超電導線材及びその製造方法

【課題】 金属シースMgB超電導線材において、超電導コア部の高密度化による臨界電流密度向上と長尺線材化を同時に実現する。
【解決手段】 金属シースの内面に拡散硬化層を形成して内面の硬さを外面の硬さよりも高くし、その状態でシース内にMgB超電導体、更に必要に応じてインジウム、銅、錫等の臨界密度向上物質を充填して伸線加工を施し、超電導線材を製造する。金属シースには鋼のように靭性があるものを用いる。長尺化してもシースが断線せず、超電導コア部を高密度化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属シース中に二ホウ化マグネシウム(以下、MgBと略す)よりなる超電導体を内包した超電導線材およびその製造方法に関する。また、金属シースMgB超電導線材の複数本をツイストしてなる超電導多芯線材に関する。
【0002】
本発明の超電導線材は、電流リード、送電ケーブル、大型マグネット、核磁気共鳴分析装置、医療用磁気共鳴診断装置、超電導電力貯蔵装置、磁気分離装置、磁場中単結晶引き上げ装置、冷凍機冷却超電導マグネット装置、超電導エネルギー貯蔵装置、超電導発電機、さらには核融合炉用マグネット等に適用することができる。
【背景技術】
【0003】
従来、超電導材料としては金属系或いは酸化物系のものが知られている。金属系超電導材料の代表的なものにはニオブチタン(NbTi)、ニオブ3錫(Nb3Sn)、ニオブ3ゲルマニウム(Nb3Ge)等がある。しかし、金属系超電導材料は臨界温度が最も高いニオブ3ゲルマニウム(Nb3Ge)でさえも23K(ケルビン)であり、冷却には高価な液体ヘリウムを使用しなければならないという問題がある。
【0004】
酸化物系超電導材料は1986年4月に臨界温度が30Kのランタン(La)酸化物系が発見されて以降、液体窒素の沸点温度(77K)を超える銅酸化物系が相次いで発見された。銅酸化物系超電導材料の代表的なものにはイットリウム(Y)系、ビスマス(Bi)系、タリウム(Tl)系、水銀(Hg)系等がある。しかし、銅酸化物系超電導材料は、いわゆるセラミックスであることから、加工性が悪く、長尺均質性に優れた線材を得ることが難しいという問題がある。また、銅酸化物系超電導材料は磁場異方性が大きく、基板又はシース材と超電導相との結晶の方位を揃える必要がある。この結晶方位を揃える作業は非常に難しく、歩留まりやコストの面でも問題がある。
【0005】
21世紀に入って、MgB2が39Kで超電導を示すことが発見された。MgB2は磁場異方性が極めて小さいので、銅酸化物系超電導材料のように結晶方位を基板又はシース材と同じ方位に揃えなくても高い臨界電流密度が得られる。
【0006】
また、MgB2は金属系超電導材料に較べて臨界温度が20K以上も高い。MgB2の上部臨界磁場は薄膜で約40Tとの報告もある。これらの性質を利用すれば、冷凍機冷却又は強磁場中での応用も現実的なものになる。
【0007】
MgB2はパウダー・イン・チューブ法により線材にすることができ、また機械加工のみでも実用的な臨界電流密度が得られるという実用上極めて有効な特長を持つことが分かってきた(例えば、特許文献1参照)。即ち、熱処理を一切行わなくても高い超電導特性が得られるということである。この特長は、熱処理をしないと超電導現象を発現しない従来の超電導線材とは全く異なる。この特長を利用することにより、製造工程の短縮化、金属シース材の選択幅の拡大、コイル巻線および設計自由度の向上等が実現できるために、従来の超電導材料に比べて、大幅なコスト低減が可能と考えられる。
【0008】
【特許文献1】特開2002-373534号公報(要約、段落番号0028)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
金属シースMgB2超電導線材において、熱処理を行わずに高い臨界電流密度を得るには、超電導コア部であるMgB2超電導体の密度を高める必要がある。これは、MgB2粒同士の結合だけで電流パスを確保していることによる。超電導コア部を高密度化するには、金属シースに高硬度の材料を使用することが望ましい。
【0010】
一方で、MgB2線材の超電導マグネット等への適用を考えると、臨界電流密度の向上と共に長尺線材化が必要になる。
【0011】
金属シースMgB2超電導線材において、金属シースに高硬度材料を用いた場合には長尺化が難しく、低硬度の材料を用いた場合には超電導コア部を高密度化するのが難しいという問題がある。
【0012】
本発明の目的は、金属シースMgB2超電導線材において、高臨界電流密度を実現するための超電導コア部の高密度化と長尺線材化の両方を達成できるようにしたことにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、金属シースMgB2超電導線材において、金属シースの内面の硬さを外面の硬さよりも大きくしたことにある。
【0014】
また、管状の金属シース中にMgBを充填したのち伸線加工を施して線材に加工する金属シースMgB2超電導線材の製造方法において、金属シースに内面の硬さが外面の硬さよりも大きいものを用いるか、あるいは内面の硬さを外面の硬さよりも高めてから、伸線加工を施すようにしたことにある。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、金属シースMgB2超電導線材の高臨界電流密度化と長尺化を同時に達成することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、金属シースの外面を過酷な加工工程に耐えて伸びやすくし、一方で金属シースの内面を硬くすることにより、超電導コア部の高密度化と長尺線材化を可能とし、長尺線材において高臨界電流密度が得られるようにしたものである。
【0017】
金属シースの材料にはクロムモリブデン鋼或いはステンレス鋼のように鋼を用いることが望ましい。また、特にビッカース硬さが400以下の材料を用いることが望ましい。シース材にビッカース硬さが400を超えるものを用いた場合、長尺化が難しいという経験による。
【0018】
金属シースの内面の硬さを外面の硬さにくらべて高くするために、シース材に拡散硬化処理、特に窒化処理または浸炭処理等の表面処理を施してシース内面に拡散硬化層を形成することが望ましい。
【0019】
窒化処理方法としてはラジカル窒化、ガス窒化、イオン窒化、塩浴窒化、ガス軟窒化、塩浴軟窒化などの公知の方法が適用可能である。また浸炭処理方法としては、ガス浸炭、真空浸炭、プラズマ浸炭などの公知の方法が適用可能である。これらの表面処理により、シース内面には窒化物の層或いは炭素の拡散による浸炭層が形成され、シース内面が硬化される。
【0020】
シース内面に硬化層を形成する他の方法としては、メッキ、クラッド等も考えられるが、シース材とメッキ或いはクラッド材との二層構造になり、伸線加工時に接着面にクラックが入りやすく不適である。シース材に拡散硬化層を形成して硬さを次第に変化させることが望ましい。
【0021】
本発明の超電導線材には、銅、インジウム、錫、鉛、鉄、アルミニウム、マグネシウム、チタンおよびタングステンからなる金属から選ばれた少なくとも1種を内包させることができる。また、酸化珪素、炭化珪素および窒化珪素から選ばれたセラミックスの少なくとも1種を内包させることもできる。これらの混合物質の量は0.2〜30体積%とすることが望ましい。これらの混合物質を内包させることにより結晶粒間の接合性が向上し臨界電流密度がさらに高まる。MgBおよび混合物質をナノオーダーの粒径になるまで細かくしてシースに充填すると一層効果的である。
【0022】
本発明の超電導線材は、多芯線材にして使用することも可能である。この場合、本発明による超伝導線材を複数本準備してツイスト加工を施して撚り線材にし、この撚り線材をさらに金属シースに内包することによって多芯化される。撚り線材を内包する金属シースの内面にも拡散硬化層を形成しておくことが望ましい。
【0023】
本発明による超電伝導線材は曲げ特性にも優れており、超電導線材に1.5%の歪みが加わっても、歪みなしの線材に対して90%以上の臨界電流密度が維持することができる。
【0024】
本発明の超電導線材は、熱処理を行わなくても実用的な臨界電流密度を有するが、より高い臨界電流密度を得るには熱処理を施すことが望ましい。この場合、200〜1200℃の範囲内で、必要に応じて窒素ガス、アルゴンガス、水素ガス、酸素ガス等を単独或いは混合した雰囲気、または大気圧以上の圧力下で熱処理を行うようにすると、特に高い臨界電流密度が得られる。熱処理により金属シース材がアニールされるので長尺線材化にも効果的である。
【0025】
MgBおよび混合物質は、細かい粉末にしてシースに充填するのが最も効果的であるが、プレス等により成型した円柱状あるいは角状のロッドで充填することも可能である。例えばMgBと混合物質との混合物を適当なサイズに粉砕或いは焼結して用いることができ、また、MgB粉末と混合物質粉末との成形体を用いることもできる。
【0026】
通常の場合、金属シースの肉厚は線材に加工する前の状態で数mm程度、具体的には4〜5mmである。このようにシースの肉厚はあまり大きくないので、伸線加工によってシース内面よりも超電導コア部を高硬度にすると、シース部と超電導コア部の界面の平滑性が失われ、いわゆるソーセージングが発生し、高い加工度になると超電導コア部が金属シースを突き破って露出する現象が生じる。このため、理想的にはシース材のビッカース硬さをSHv、超電導コア部のビッカース硬さをCHvとしたときに、SHv ≧ CHvの関係が成り立つようにすることが望ましい。
【0027】
線材にするための縮径加工には、ドローベンチ、静水圧押出、スエージャー、カセットローラーダイス或いは溝ロール等を用い、1パス当りの断面減少率が1〜20%程度の伸線加工を繰り返し行うようにするのがよい。また、必要に応じて線材の多芯化を行うが、多芯化する方法は、丸断面形状或いは六角断面形状に伸線加工した線材をパイプに組み込み、上記の加工装置を用いて、1パス当りの断面減少率を1〜20%程度とし、所望の線径になるまで縮径加工するのがよい。
【0028】
これらの縮径加工には、線材を所望の形状にすると同時に、金属シース内に充填された超電導物質を高密度化する作用がある。さらに超電導物質の緻密化を図るには、冷間或いは熱間圧延機で加工するとよい。超電導物質の更なる緻密化は臨界電流密度の著しい向上をもたらす。
【0029】
上記の方法以外にも、例えば溶射法、ドクターブレード法、ディップコート法、スプレーパイロリシス法、或いは、ジェリーロール法等で作製した線材を用いても、同等の超電導特性を得ることが可能である。
【0030】
本発明による超電導線材は、使用目的に応じて、複数本を束ねてコイル状に巻くか、或いはリード線状やケーブル線状等に成形して使用することができる。
【0031】
また、本発明による超電導線材において金属シース材にクロムモリブデン鋼或いはステンレス鋼等のように鋼を用いたものは、高靱性かつ高硬度であるため、線材自身の降伏応力、引張り強さ、ヤング率等の機械強度が高く、強磁場発生時の電磁力に耐え得るマグネットが構成できる。さらに、両端抵抗を十分に小さくすることにより、永久電流マグネットが実現できる。
【0032】
本発明による超電導線材を、例えば液体ヘリウム中で使用する場合、金属系超電導体や酸化物超電導体と組合せることにより、より強い磁場を発生する超電導マグネット等の実用導体が実現できる。このときの金属系超電導体としては、NbTi系合金、Nb3Sn系化合物、Nb3Al系化合物、V3Ga系、シェブレル系化合物等が好ましい。また、酸化物系超電導体としては、Y系、Bi系、Tl系、Hg系、Ag−Pb系の超電導体が望ましい。必要に応じて2種以上のマグネットを配置することもできる。
【0033】
また、本発明による超電導線材を液体水素、液体ネオン中で使用する場合には、酸化物超電導体と組合せることにより、より高性能の超電導マグネット等の実用導体が実現できる。
【0034】
本発明の超電導線材は、超電導マグネットのほかに送電ケーブル、電流リード、MRI装置、NMR装置、SMES装置、超電導発電機、超電導モータ、超電導電磁推進船、超電導変圧器、超電導限流器等に用いることができる。
【0035】
また、超電導線材を所望の形状に加工した導体は、コイル、電流リード、ケーブル等の導体用に変形加工後、各種の利用機器に組込まれる。機器の使用温度が液体水素温度或いは液体ネオン温度以上であれば、一層効果的である。
【0036】
以下、実施例により具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0037】
外径15mm、内径11mm、長さ100mmの管状のSCM415(クロムモリブデン鋼)シースの内面をラジカル窒化法により窒化処理した。窒化処理に際しSCM415シースの端面に、マスキング材として内径11.1mmのステンレス鋼パイプを配置し、ステンレス鋼パイプの内側が窒化処理雰囲気に晒されるようにした。窒化処理後のSCM415シースのビッカース硬さ分布を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
シースの外面は窒化処理されていないため、材料そのもののビッカース硬さであった。シース内面は窒化処理の効果が現れ、ビッカース硬さは750にまで増大した。
【0040】
次いで、シースの内部にMgB粉末を充填した。その後、1パス当たりの断面積の減少率が1〜20%の範囲内となるように伸線加工を繰り返し行って、所定形状まで縮径した。本実施例により厚さ0.4mm、幅2.5mmの超電導線材を得た。この製造方法による製造工程を図1に示す。
【0041】
作製した超電導線材1の断面模式図を図2に示す。金属シース2の内部にMgB2超電導体3が内包されている。本実施例では線材の横断面形状が長方形であるが、これに限定されるものではなく、正方形にしてもよいし、六角形などの多角形状、丸形状、楕円形状、平角形、テープ形状等でもよい。なお、比較のために、窒化処理を施さないSCM415シースを用いて、同様の寸法、形状の超電導線材を作製した。
【0042】
本発明による超電導線材及び比較例による超電導線線材の最終状態でのビッカース硬さ分布を表2に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
本発明による線材は、金属シースのビッカース硬さが外面で440、中央部で810、内面で930であった。これに対して、窒化処理を行わない比較例による線材は、金属シースのビッカース硬さが外面で440、中央部で445、内面で435であった。また、MgB2超電導体のビッカース硬さは、本発明によるものが780であり、比較例によるものは415であった。このように、金属シースの内面を窒化処理して硬化することにより、超電導コア部を高密度化することができる。なお、伸線加工後のシース材のビッカース硬さが伸線加工前のそれに比べて増大しているのは、シース材が加工硬化したためである。
【0045】
図3に、本発明の超電導線材における金属シースのビッカース硬さと、比較例の超電導線材における金属シースのビッカース硬さの分布を示す。比較例によるものは、シース材の外面から内面にかけてほぼ一定の硬さであったが、本発明によるものは外面から内面にかけて大きな硬さ分布を持つことが確認された。
【0046】
本実施例および比較例による超電導線材について、臨界温度を直流四端子法で測定したところ、両者とも37Kで超電導状態になることが分かった。次に、各線材の臨界電流密度を温度4.2K、磁場0.5T中で測定した。その結果、表2に示すように、本発明によるものは2800A/mmが得られたが、比較例によるものは950A/mmであった。
【0047】
さらに、臨界電流密度の磁場依存性について測定した。その結果、図4に示すように窒化処理を施した本発明による超電導線材の方が窒化処理を施さない超電導線材よりも磁場に対する臨界電流密度の低下が小さいことが分かった。これは、超電導コア部が高密度化し、粉末同士の結合力が向上したためと考えられる。これより、結合力の向上は電流パスの増大にもつながっていると推察される。
【0048】
以上のように、シース内面を窒化処理して高硬度化することは、超電導線材の臨界電流密度の向上に効果的であることが明らかにされた。
【0049】
本発明による線材と比較する意味で、ビッカース硬さが900を超える炭化タングステンをシース材に用いて、図1と同じ工程で線材の作製を試みた。しかし、加工度が30%を超えると線材表面に割れやクラックが発生し、加工度が50%を超える径まで伸線すると断線が多発した。破断部の外観を調査したところ、破断面の角度はほぼ45度になっており、一般的な引張り時の破断と考えられた。このことから、材料自体の伸びの限界で破断したと考えられる。これより、シース材には靱性に優れて加工しやすいものを用い、シース材内面を硬化処理することが、長尺化と超電導コア部の高密度化のためには必要であることが分かった。
【実施例2】
【0050】
外径18mm、内径13mm、長さ200mmのSCM415とSUS420J2(13Cr-0.3Cのマルテンサイト系ステンレス鋼、ビッカース硬さ400以下)をそれぞれシース材に用いて、シース内面にラジカル窒化法により窒化処理を施した。マスキングの効果を確認するために、窒化処理はマスキング材を用いたものと用いないものとについて行った。なお、マスキング材にはSUSパイプを使用し、実施例1のときと同様にシース端面にマスキング材を配置して、シース内面のみが窒化雰囲気に晒されるようにした。このようにして窒化処理を施したシース内にMgB2粉末を充填し、断面積の減少率が3〜15%の範囲内となるように伸線加工を繰り返し行った。その結果、表3に示すようにマスキング材ありの場合は、いずれの金属シースでも外径1.0mmになるまで加工できたが、マスキング材なしの金属シースでは加工度がおよそ75%となる径で断線した。
【0051】
以上のように、線材の加工性を維持し長尺化を達成するにはシース内面のみに窒化処理を行うことが望ましいことが分かった。
【0052】
【表3】

【実施例3】
【0053】
外径15mm、内径11mm、長さ100mmのSCM415シースの内面をラジカル窒化、イオン窒化、ガス窒化、塩浴窒化、真空浸炭、プラズマ浸炭およびガス浸炭処理により硬化した。なお、マスキング材には外径15mm、内径11.1mmのSUSパイプを用いた。その結果、実施例1のラジカル窒化のときと同様にシース外面は硬化されず、シース内面のみが硬化されていることが確認された。
【実施例4】
【0054】
外径15mm、内径11mm、長さ100mmの管状SCM415シースの内面をラジカル窒化法により窒化処理した。窒化処理にあたり、シースの端面にマスキング材として外径15mm、内径11.1mmのSUSパイプを置き、シース内面が窒化処理されるようにした。このシースにMgB粉末とインジウム粉末を充填し、伸線加工を施して線材に加工した。表4にインジウム添加量と線材の臨界電流密度を示す。これより、インジウムの添加量が0.1〜32体積%のときに、インジウムを添加しないものに比べて臨界電流密度が高くなることが分かった。特にインジウム添加量は0.2〜30体積%の範囲が好ましい。
【0055】
【表4】

【0056】
また、インジウム金属とMgB粉末をボールミルで粉砕・混合することによって、さらに臨界電流密度が向上することも分かった。
【0057】
また、インジウムだけでなく、銅、錫、鉛、鉄、アルミニウム、マグネシウム、チタン、タングステン、酸化珪素、炭化珪素、窒化珪素等を、単独あるいはそれらを混合して添加した場合についても線材を製造し、臨界電流密度を測定した。その結果、いずれの場合も、0.2〜30体積%の範囲内で混合させた場合に臨界電流密度の改善が見られた。
【実施例5】
【0058】
外径10mm、内径7.5mm、長さ200mmの管状のSUS420J2シースをはじめとする各種ステンレス鋼シースの内面を、種々の条件で窒化処理し、伸線加工を施して、最終的に厚さ0.4mm、幅2.5mmの長方形の横断面を有する超電導線材を作製した。SUS420J2以外のシース材料は、SUS304、SUS304L、SUS310S、SUS316Lである。窒化処理条件は、処理温度400〜700℃、処理時間0.5〜5時間、ガス組成比N/H/Ar=1/1/10、ガス圧力500〜2000Paとし、これらの範囲で条件を変えて、線材加工後のシース材内面のビッカース硬さを450〜1030の範囲で任意に変化させた。
【0059】
SUS420J2シースを用いた場合について、最終加工後のシース内面のビッカース硬さと、線材の温度4.2K、磁場0.5T中における臨界電流密度を表5に示す。
【0060】
最終加工後のシース内面硬さが増大するにしたがって臨界電流密度は向上している。特にシース内面のビッカース硬さが600を超えると臨界電流密度の向上が顕著になることが分かった。
【0061】
シース材の材質を変えても同様の傾向であったことから、高い臨界電流密度を得るためには、最終加工後のシース内面のビッカース硬さを600以上にすることが有効である。
【0062】
【表5】

【実施例6】
【0063】
実施例1で作製した超電導線材におけるMgB超電導体の密度と臨界電流密度の関係を検討した。その結果を表6に示す。なお、MgB超電導体の密度は理論密度に対しての値でありパーセントで表示した。また、MgB超電導体の密度は線材の加工度を調整することにより調整した。本実施例では、粉末充填時の密度を理論密度の50%になるようにしている。臨界電流密度の測定は、温度4.2K、磁場0.5T中で行った。
【0064】
表6から明らかなように、超電導線材中のMgB超電導体の密度が、理論密度に対して90%を超える場合に臨界電流密度が大きく向上した。
【0065】
【表6】

【0066】
また、その後の実験により、粉末の作製条件、インジウム、銅、錫等の如き添加元素の添加条件、線材加工条件、熱処理条件等が異なっても、超電導線材中のMgB超電導体の密度が、理論密度に対して90%を超えていれば臨界電流密度が大きく向上することを確認した。
【0067】
また、走査型電子顕微鏡により各線材の断面観察を行った結果、MgB超電導体の密度が90%を超えたものは、超電導コア部の緻密性が向上し結晶粒間の接合性が改善されていた。これより、MgB超電導体の密度向上が臨界電流密度を向上させる主要因であると考えられる。
【実施例7】
【0068】
実施例1と同様の工程で作製した超電導線材を49本用いて、図5に示す超電導多芯線材6を作製した。この多芯線材の作製にあたって、まず超電導線材を挿入するための孔を7個あけた銅製の丸棒4に、実施例1の方法で作製した超電導線材即ち第一の金属シースにMgBを内包してなる線材を挿入し、7本1組としてツイスト加工を施して撚り線材5を作製した。このときのツイストピッチは25mmとした。次いで、ツイスト加工を施した撚り線材5を第二の金属シースである多芯用金属シース6に組み込んだ。この多芯用金属シースにも、撚り線材5を挿入するための孔が設けてある。多芯用金属シース材はラジカル窒化により内面を硬化処理した。多芯用金属シースへ撚り線材を組込んだ時には両者の間に隙間が生じていたが、その後、伸線加工を行うことで一体化された。
【0069】
本実施例により、断線などの欠陥を生ぜずに、外径1.2mmの49芯構造の超電導多芯線材7を製造できた。
【0070】
超電導多芯線材7の臨界温度を直流四端子法で測定したところ、37Kで超電導状態となることが分かった。49本の超電導線材について臨界電流密度を温度4.2K、磁場0.5T中で測定した結果、いずれも2900A/mm以上が得られた。
【0071】
次に、超電導多芯線材7の交流損失を磁場中にて測定した。比較のために、ツイストしない多芯線材についても同様の測定を行った。このときの印加磁場は0.005〜0.5T、周波数は50Hzである。図6に、その結果を示す。図6から明らかなように、ツイストした超電導多芯線材は、ツイストしない超電導多芯線材に比較して、交流損失がおよそ1/10に低減することが分かった。本実施例では、芯数を49本としたが、この芯数は適宜変更可能である。
【0072】
以上のように、交流応用の場合には、断面コア中で線材の長手方向にツイスト加工された超電導線材を使用することにより、トータルの交流損失が大幅に低減されることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の線材は、広く超電導機器に適用することが可能で、例えば大型マグネット、核磁気共鳴分析装置、医療用磁気共鳴診断装置、超電導電力貯蔵装置、磁気分離装置、磁場中単結晶引上装置、冷凍機冷却超電導マグネット装置、磁気浮上列車等に利用することができ、機器の高効率化を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の超電導線材を製造するための工程の一例を示す図である。
【図2】本発明による超電導線材の断面模式図である。
【図3】本発明による超電導線材及び比較例による線材についてシース厚さ方向のビッカース硬さ分布を示した図である。
【図4】本発明による超電導線材及び比較例による線材について印加磁場と臨界電流密度の関係を示した図である。
【図5】本発明の実施例による超電導多芯線材の断面模式図である。
【図6】ツイスト有りと無しの超電導多芯線材について印加磁場と交流損失の関係を示した図である。
【符号の説明】
【0075】
1…超電導線材、2…金属シース、3…MgB2超電導体、4…銅製の丸棒、5…撚り線材、6…多芯用金属シース、7…超電導多芯線材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属シース中に二ホウ化マグネシウムよりなる超電導体が内包されている超電導線材において、前記金属シースの内面の硬さを外面の硬さよりも大きくしたことを特徴とする金属シースニホウ化マグネシウム超電導線材。
【請求項2】
請求項1において、前記金属シースの内面に拡散硬化層が形成されていることを特徴とする金属シースニホウ化マグネシウム超電導線材。
【請求項3】
請求項2において、前記拡散硬化層が窒化層よりなることを特徴とする金属シースニホウ化マグネシウム超電導線材。
【請求項4】
請求項1において、前記金属シースの材料が、線材に加工する前の段階でビッカース硬さが400以下の材料よりなることを特徴とする金属シースニホウ化マグネシウム超電導線材。
【請求項5】
請求項1において、前記金属シースの材料が鋼よりなることを特徴とする金属シースニホウ化マグネシウム超電導線材。
【請求項6】
請求項5において、前記鋼がクロムモリブデン鋼またはステンレス鋼よりなることを特徴とする金属シースニホウ化マグネシウム超電導線材。
【請求項7】
請求項1において、前記金属シースに前記超電導体とともに銅、インジウム、錫、鉛、鉄、アルミニウム、マグネシウム、チタン、タングステン、酸化珪素、炭化珪素および窒化珪素から選ばれた少なくとも1種が内包されていることを特徴とする金属シースニホウ化マグネシウム超電導線材。
【請求項8】
請求項7において、前記銅、インジウム、錫、鉛、鉄、アルミニウム、マグネシウム、チタン、タングステン、酸化珪素、炭化珪素および窒化珪素から選ばれた少なくとも1種が0.2〜30体積%含まれていることを特徴とする金属シースニホウ化マグネシウム超電導線材。
【請求項9】
第一の金属シース中に二ホウ化マグネシウムよりなる超電導体が内包された超電導線材を複数本ツイストして撚り線材とし、この撚り線材の複数本をさらに第二の金属シース中に内包してなる超電導多芯線材であって、前記第一の金属シースにおける内面の硬さを外面の硬さよりも大きくしたことを特徴とする超電導多芯線材。
【請求項10】
請求項9において、前記第二の金属シースにおける内面の硬さを外面の硬さよりも大きくしたことを特徴とする超電導線多芯線材。
【請求項11】
管状の金属シース中に二ホウ化マグネシウムよりなる超電導体を充填し、伸線加工を施して線材に加工する金属シースニホウ化マグネシウム超電導線材の製造方法において、前記金属シース内面の硬さを外面の硬さよりも大きくし、その状態で伸線加工を施すようにしたことを特徴とする金属シースニホウ化マグネシウム超電導線材の製造方法。
【請求項12】
請求項11において、前記金属シースの内面に窒化処理及び浸炭処理のいずれかの方法によって拡散硬化層を形成して内面の硬さを外面の硬さよりも大きくすることを特徴とする金属シースニホウ化マグネシウム超電導線材の製造方法。
【請求項13】
請求項11において、ビッカース硬さが400以下の材料よりなる前記金属シースの内面に拡散硬化処理を施して内面に拡散硬化層を形成し、その後、伸線加工を施すようにしたことを特徴とする金属シースニホウ化マグネシウム超電導線材の製造方法。
【請求項14】
請求項11において、前記金属シースの材料が鋼よりなることを特徴とする金属シースニホウ化マグネシウム超電導線材の製造方法。
【請求項15】
請求項11において、前記超電導体の密度が理論密度の90%以上になるまで伸線加工を施すことを特徴とする金属シースニホウ化マグネシウム超電導線材の製造方法。
【請求項16】
請求項11において、前記金属シースの内面のビッカース硬さが600以上になるまで伸線加工を施すことを特徴とする金属シースニホウ化マグネシウム超電導線材の製造方法。
【請求項17】
請求項11において、前記金属シース中に前記超電導体とともに銅、インジウム、錫、鉛、鉄、アルミニウム、マグネシウム、チタン、タングステン、酸化珪素、炭化珪素および窒化珪素から選ばれた少なくとも1種を充填することを特徴とする金属シースニホウ化マグネシウム超電導線材の製造方法。
【請求項18】
請求項17において、前記銅、インジウム、錫、鉛、鉄、アルミニウム、マグネシウム、チタン、タングステン、酸化珪素、炭化珪素および窒化珪素から選ばれた少なくとも1種を0.2〜30体積%の範囲内で混合することを特徴とする金属シースニホウ化マグネシウム超電導線材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−216443(P2006−216443A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−29136(P2005−29136)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15年度 文部科学省、長尺線材作製技術の開発に関する委託研究、産業再生法第30条の適用を受けるもの
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】