説明

金属セレン粉の製造方法

【課題】セレン含有液から還元剤として二酸化イオウを用いて生成させたセレン沈殿を回収して金属セレン粉を製造する方法において、嵩密度及び結晶粒径のバラツキが小さく一定で、荷造りや充填時のハンドリング性に優れた金属セレン粉を、高収率で製造する方法を提供する。
【解決手段】反応槽内で、セレン含有液に亜硫酸ガスを吹込んで還元反応に付し、生成されるセレン沈殿を回収して金属セレン粉を得る際、下記の(1)〜(4)の要件を満足することを特徴とする。
(1)前記セレン含有液の塩酸濃度を、2〜2.5mol/Lに調整する。
(2)前記反応槽内へ、該反応槽内に供給するセレン含有液から生成するセレン質量の3〜5倍に当たるセレン沈殿を繰り返す。
(3)前記還元反応の液温度を、60〜80℃に制御する。
(4)前記還元反応の酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)を、460〜520mVに制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属セレン粉の製造方法に関し、さらに詳しくは、セレン含有液から還元剤として二酸化イオウを用いて生成させたセレン沈殿を回収して金属セレン粉を製造する方法において、嵩密度及び結晶粒径のバラツキが少なく一定で、荷造りや充填時のハンドリング性に優れた金属セレン粉を、高収率で製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セレンは、主として非鉄金属製錬の副産物として、銅等の主金属から分離回収することにより製造されていた。
例えば、銅製錬においては、粗銅から電気銅を製造する電解工程で産出する銅電解スライムから、他の有価金属とともに、セレンの分離回収が行なわれている。この銅電解スライムの製錬方法としては、まず、銅電解スライムから湿式法により脱銅し、次いで、乾式法によりセレン、アンチモン、鉛、スズ、ビスマス、テルルなどを分離し、最後に金、銀、白金族元素の合金を得て、この合金を、電解法を中心とした湿式法により処理することにより、個々の貴金属を分離回収していた。しかしながら、この方法では、貴金属を回収するまでに長期間を要するため製錬系内での滞留期間中の金利負担が大きいこと、かつエネルギーの消費量が大きいことのほか、工程毎に固形物の運搬作業があるために自動化が困難であること、排ガスによる作業環境の汚染があること、銅電解スライムの組成及び化合物形態の変動への対応力が低いことなどの問題点があった。
【0003】
そのため、これらの解決策として、近年、湿式法を主とする製錬方法が多数提案され、徐々に採用されている。このような銅電解スライムの製錬方法として、例えば、セレンの分離方法として湿式還元法を採用し、次の(a)〜(d)の工程を含む銅電解スライムからの有価金属の回収方法(例えば、特許文献1参照。)が提案されている。
(a)銅電解スライムのスラリーを、塩素で処理することにより、金、白金族元素、セレン及びテルルを浸出する。
(b)得られた浸出液に、ビス(2−ブトキシエチル)エーテルを混合して金を有機相に抽出し、この有機相を塩酸で洗浄した後、蓚酸で還元することにより、金を単体として回収する。
(c)金を抽出した後の抽残液に、塩化トリオクチルメチルアンモニウムと燐酸トリブチルとからなる混合物を混合して白金族元素を有機相に抽出し、この有機相を塩酸で洗浄した後、ヒドラジン及び水酸化ナトリウムで還元することにより、白金族元素を単体として集合分離する。
(d)白金族元素を抽出した後の抽残液を、二酸化イオウ(SO)により還元し、セレン及びテルルを順次単体として回収する。)
【0004】
上記方法によれば、銅電解スライムを塩素浸出に付し、得られた浸出液から、簡単な湿式操作のみによって、金、白金族元素、セレン及びテルルをそれぞれ選択的に、かつ高収率で回収することができる。したがって、上記方法は、工業的に極めて有用な方法であり、しかも、銅電解スライムの組成が変動しても金抽出工程以降に支障を来たさないこと、金の回収が完全に行なわれなくとも金属セレンへの混入を防止することができること、さらに、セレンと共沈しやすい白金族元素の金属セレンへの混入を防止することができるとともに、白金、パラジウム及びロジウムに加えて、イリジウム及びルテニウムも回収することができること等の利点があるとしている。
【0005】
ここで、上記方法の(d)の工程としては、具体的には、白金族元素を抽出した後の抽残液を二酸化イオウで還元する際に、反応容器内の液の酸化還元電位を400〜500mVに維持し、かつ液温度を50〜80℃に維持するとともに、還元開始前に、反応容器内に供給した抽残液に予め金属セレン粉を懸濁させ、その後抽残液を連続的に給液しながら、二酸化イオウで連続還元する方法が提案されている。このとき、還元開始時の液中のセレン濃度と連続還元時の液中のセレン濃度との差を極力小さく、例えば5g/L以下に保持するものである。
【0006】
ここで、反応槽への給液を連続的に行なうことと、反応槽内の初期セレン濃度と連続還元反応時のセレン濃度の差を極力小さく保つこととにより、単位時間当たり新規発生するゴム状セレンの割合を低く抑えることができる。同時に、還元初期に少量の(実施例では、10g/L相当である。)金属セレン粉を懸濁することにより、新規発生するセレンが金属セレン粉の表面に析出し、ゴム状セレンが析出しても相互の融着を防止することが可能であるとしている。また、上記セレンの濃度変化が大きいほど、ゴム状セレンが多く析出するが、変動幅が5g/L以下であればゴム状セレンの析出が抑えられるとしている。
【0007】
しかしながら、このような工程では、セレンの還元反応を完全には進めるのは難しく、セレン沈澱として得られる金属セレン粉の収率は95%程度と不十分であった。しかも、セレンの収率の問題だけでなく、排水処理工程では、セレン酸(HSeO)の形態で残留する高濃度のセレンを処理することがさらに困難であるため、処理コストの増大を招くことが問題となっていた。さらに、金属セレン粉としては、反応槽への付着防止のため結晶状のものが取り扱い易いが、得られた金属セレン粉は、結晶粒子径が小さく、嵩密度が安定しない、などの問題点があった。
【0008】
【特許文献1】特開2001−207223号公報(第1頁、第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、セレン含有液から還元剤として二酸化イオウを用いて生成させたセレン沈殿を回収して金属セレン粉を製造する方法において、嵩密度及び結晶粒径のバラツキが少なく一定で、荷造りや充填時のハンドリング性に優れた金属セレン粉を、高収率で製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために、セレン含有液から還元剤として二酸化イオウを用いて生成させたセレン沈殿を回収する方法について、鋭意研究を重ねた結果、反応槽内で、セレン含有液に亜硫酸(SO)ガスを吹込んで還元反応に付し、生成されたセレン沈殿を回収して金属セレン粉を得る際、該セレン含有液の塩酸濃度を特定値に調整し、該反応槽内へ特定量のセレン沈殿を繰り返したうえ、該還元反応の液温度と酸化還元電位とを特定値に制御したところ、嵩密度及び結晶粒径のバラツキが少なく一定で、ハンドリング性に優れた金属セレン粉を、高収率で製造することができることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、反応槽内で、セレン含有液に亜硫酸ガスを吹込んで還元反応に付し、生成されるセレン沈殿を回収して金属セレン粉を得る際、下記の(1)〜(4)の要件を満足することを特徴とする金属セレン粉の製造方法が提供される。
(1)前記セレン含有液の塩酸濃度を、2〜2.5mol/Lに調整する。
(2)前記反応槽内へ、該反応槽内に供給するセレン含有液から生成するセレン質量の3〜5倍に当たるセレン沈殿を繰り返す。
(3)前記還元反応の液温度を、60〜80℃に制御する。
(4)前記還元反応の酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)を、460〜520mVに制御する。
【0012】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、さらに、下記の(5)の要件を満足することを特徴とする金属セレン粉の製造方法が提供される。
(5)前記反応槽内での滞留時間を、少なくとも16時間に設定する。
【0013】
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、さらに、下記の(6)の要件を満足することを特徴とする金属セレン粉の製造方法が提供される。
(6)前記反応槽内に備えた攪拌機の撹拌動力を、該反応槽内の単位液量当たり1.5〜2.0kw/mに調整する。
【0014】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3いずれかの発明において、前記セレン含有液は、非鉄金属製錬の湿式工程から産出する亜セレン酸及びセレン酸を含む酸性水溶液であることを特徴とする金属セレン粉の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の金属セレン粉の製造方法は、還元剤として二酸化イオウを用いて生成させたセレン沈殿を回収するセレン含有液から金属セレン粉を製造する方法において、嵩密度及び結晶粒径のバラツキが少なく一定で、荷造りや充填時のハンドリング性に優れた金属セレン粉を、98%以上の高収率で製造することができるので、その工業的価値は極めて大きい。しかも、収率の向上により、金属セレン粉を回収後の液中のセレン濃度としては、0.5mg/L以下が安定して得られるようになり、排水の高次水処理設備へのセレン負荷量の大幅な低減につながる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の金属セレン粉の製造方法を詳細に説明する。
本発明の金属セレン粉の製造方法は、反応槽内で、セレン含有液に亜硫酸ガスを吹込んで還元反応に付し、生成されるセレン沈殿を回収して金属セレン粉を得る際、下記の(1)〜(4)の要件を満足することを特徴とする。
(1)前記セレン含有液の塩酸濃度を、2〜2.5mol/Lに調整する。
(2)前記反応槽内へ、該反応槽内に供給するセレン含有液から生成するセレン質量の3〜5倍に当たるセレン沈殿を繰り返す。
(3)前記還元反応の液温度を、60〜80℃に制御する。
(4)前記還元反応の酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)を、460〜520mVに制御する。
【0017】
本発明において、反応槽内へ、該反応槽内に供給するセレン含有液から生成するセレン質量の3〜5倍に当たるセレン沈殿を繰り返すこと((2)の要件)が重要な技術的意義を持つ。すなわち、このように多量のセレン沈殿の存在下に、所定の塩酸濃度に調整したセレン含有液に、所定の液温度と酸化還元電位の条件下に、亜硫酸ガスを吹込んで還元反応を行なうことにより、嵩密度及び結晶粒径のバラツキが少なく一定でハンドリング性に優れた金属セレン粉を98%以上の高収率で製造することができる。
これに対して、従来の方法、例えば、前述した銅電解スライムからの有価金属の回収方法において、具体策として採用された、反応槽内の初期セレン濃度と連続還元反応時のセレン濃度の差を極力小さく保つこと、還元初期に少量の金属セレン粉を懸濁すること等を特徴とする方法では、セレン収率が95%程度であった。
【0018】
ここで、上記製造方法では、(2)の要件は、還元反応後に得られるセレン沈殿を含むスラリーの一部を該反応槽に繰り返すことにより達成される。ここで、繰り返しスラリー中のセレン沈殿は、セレンの還元析出の種晶として作用し、液中のセレンをより多く析出させるとともに、生成される金属セレン粉の粒径を大きくし、かつバラツキの少ない一定の大きさに均一化する効果を発揮する。これは、嵩密度をバラツキの少ない一定の値に均一化するための一助としての効果をも有する。
【0019】
上記製造方法でセレン沈殿の繰り返し量としては、反応槽内に供給するセレン含有液から生成するセレン質量の3〜5倍に当たる量である。すなわち、セレン沈殿の繰り返し量が前記セレン質量の3倍未満では、種晶としての効果不足からセレン沈殿の収率が低下する。一方、セレン沈殿の繰り返し量が前記セレン質量の5倍を超えると、それ以上、セレン沈殿の収率向上の効果は見られない。また、繰り返しスラリーは、通常の場合冷却されるので、繰り返し量が多くなりすぎると、反応槽の温度を維持するため反応槽に設けた加温設備の負荷が大きくなる。このとき、撹拌機の運転動力の損失も大きくなる。
なお、ここで、必要に応じて、スラリーを濃縮し、循環する液量を減少させることができる。
因みに、反応槽へ供給するセレン含有液中のセレン濃度が18.5g/L程度の場合であれば、還元反応後、単位液量当たりのセレン沈殿の含有割合を表すスラリー濃度(単位:g/L)は、これとほぼ同じとなる。このとき、例えば、給液流量が30L/minの場合では、100〜150L/minの流量(3.3〜5.0倍に相当する。)で繰り返しスラリーを反応槽に循環すればよいことになる。
【0020】
上記製造方法に用いるセレン含有液としては、特に限定されるものではなく、セレンを含有する鉱石、中間物、スクラップ等の原料の処理過程において、湿式工程から産出するセレン、或いはセレンと他の金属元素を含有する水溶液が挙げられるが、この中で、特に非鉄金属製錬の湿式工程から産出する亜セレン酸(HSeO)及びセレン酸(HSeO)を含む酸性水溶液が好ましく用いられる。
前記酸性水溶液としては、前述した銅電解スライムからの有価金属の回収方法において、銅電解スライムを塩素浸出して得られる浸出液から、金及び白金族元素を溶媒抽出法で分離した際の抽残液が挙げられる。すなわち、本発明の方法は、前述した銅電解スライムからの有価金属の回収方法のセレンを回収する工程((d)の工程)として効果的に利用することができる。
【0021】
上記製造方法において、セレン含有液の塩酸濃度を、2〜2.5mol/Lに調整する。
すなわち、前記塩酸濃度が2mol/L未満では、得られる金属セレン粉中に、液中に共存する不純物元素の共沈量が上昇する。一方、塩酸濃度が2.5mol/Lを超えると、セレン沈殿の収率のさらなる向上もなく、後工程の中和処理で使用する中和剤を増加させる。
ここで、塩酸濃度の調整方法としては、特に限定されるものではなく、反応槽内のセレン含有液の塩酸濃度に応じて直接塩酸を添加するか、或いは、セレン含有液の塩酸濃度の調整槽を設置して、セレン含有液を反応槽に供給する前に塩酸を添加する方法が用いられる。
【0022】
上記製造方法において、還元反応の液温度を、60〜80℃に制御する。
すなわち、一般的に、亜セレン酸水溶液の亜硫酸ガスによる還元においては、高温度ほど結晶性が向上し、例えば、80〜100℃の温度が六方晶形の金属セレン粉を得るため最適である。ところが、一般的にゴム状セレンが析出しやすい60〜80℃の温度範囲においても、上記製造方法において、反応槽を連続運転しながら、還元反応の液温度をこの範囲の温度に制御することにより、粒子径が大きく、ろ過性が良好である金属セレン粉が得られる。なお、前記液温度が60℃未満では、生成するセレン沈殿は、無定形のアモルファス状セレン(赤色セレン)となり、反応槽内への付着が増加するので好ましくない。
ここで、液温度の制御としては、特に限定されるものではなく、蒸気、電熱ヒーターなどによる加温装置を液中に浸漬して行なうことができる。この加温装置の材質としては、塩酸に対し耐食性のあるものとすることが望ましい。
【0023】
上記製造方法において、還元反応の酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)を、460〜520mVに制御する。これにより、セレン含有液中にテルル、白金属元素などが共存する場合にも、これらの共沈を防止しながら、セレン沈殿を生成することができる。ここで、前記酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)が460mV未満では、セレン沈殿の収率は向上するが、テルル等が不純物元素として混入する。一方、前記酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)が520mVを超えると、亜硫酸ガスによる還元反応が進みにくくなるので、液中に残留するセレンの濃度が上昇する。
ここで、前記酸化還元電位の制御としては、特に限定されるものではなく、所定の酸化還元電位の範囲内になるように自動制御で亜硫酸ガスの吹き込み量を調整することが好ましい。また、上記製造方法で用いる亜硫酸ガスとしては、SO濃度が10体積%以上を含有する精製した製錬排ガスが用いられるが、通常の工業用亜硫酸ガスがより好ましい。
【0024】
上記製造方法において、反応槽内での滞留時間としては、特に限定されるものではないが、液中のセレンの還元反応を完結させるためには、還元反応を上記した(1)〜(4)の要件を満足する条件下に行なう際、少なくとも16時間に設定することが好ましい。これにより、98%以上のセレン収率を得ることができる。
【0025】
上記製造方法において、反応槽内に備えた攪拌機の撹拌動力としては、特に限定されるものではないが、該反応槽内の単位液量当たり1.5〜2.0kw/mに調整することが好ましい。すなわち、反応槽内のスラリーを攪拌する攪拌機の動力は、得られる金属セレン粉の嵩密度のバラツキに関係するものである。ここで、前記攪拌動力が1.5kw/m未満では、得られる金属セレン粉の嵩密度のバラツキにより均一化の効果がやや低い。一方、前記攪拌動力が2.0kw/cmを超えると、嵩密度の均一化のさらなる向上効果は得られず、電力消費量が大きくなり、しかも操業の安全面からの問題が生じる。
【0026】
上記製造方法に用いるセレン還元設備としては、特に限定されるものではなく、連続式のほかバッチ式のものが採用されるが、例えば、還元反応の制御のため、撹拌機と加熱装置を備えた反応槽が用いられる。ここで、前記反応槽としては、例えば2槽を連結し、第1反応槽に、所定の塩酸濃度に調整したセレン含有液を、所定の流量で供給する。なお、第1反応槽から第2反応槽へのスラリーの移動手段としては、オーバーフローによるものが簡便であり、かつ各反応槽に邪魔板を設けてスラリーのショートパスを防止する。
【0027】
前記セレン還元設備の操業において、各反応槽の攪拌機を所定の撹拌動力で運転し、所定の液温度に制御しながら、酸化還元電位を亜硫酸ガスの吹き込み量で自動制御する。また、第2反応槽から排出されたスラリーの取り扱いのため、必要に応じて、冷却槽を備えることができる。ここで、第2反応槽から排出されたスラリーは、その後の排水処理工程などでの取り扱いを容易とするため、室温程度まで冷却する。次いで冷却されたセレン沈殿を含むスラリーを所定割合で、第1反応槽に繰り返す。その後、冷却槽に一定以上の液量が貯まったときに、固液分離装置にて分離して金属セレン粉を回収する。
【実施例】
【0028】
以下に、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いた金属の分析、嵩密度及び平均粒径の評価方法は、次の通りである。
(1)金属の分析:ICP発光分析法で行った。
(2)嵩密度の測定:容積既知の容器を用いて、金属セレン粉の重量を測定する方法で求めた。
(3)平均粒径の測定:MICROTRACK HRA(MODEL:9320−X100)を使用して測定した。
【0029】
(実施例1)
セレン還元設備として、攪拌機と蒸気加熱装置付きの容量15mの反応槽2槽(第1反応槽、第2反応槽)を連結し、さらに第2反応槽を出たスラリーの冷却槽を備えたものを使用した。なお、第1反応槽から第2反応槽へのスラリーの移動は、オーバーフロー方式であり、各反応槽に邪魔板を設け、ショートパスを防止した。
ここで、第1反応槽に、塩酸濃度を2.3mol/Lに調整した塩酸水溶液(セレン濃度:18.5g/L)を、約30L/minの流量で供給した。このときの液温度は60℃に制御した。また、還元反応の酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)は、500mVを維持するように、液中にSO濃度10体積%の精製した製錬排ガスを吹き込むことにより自動制御された。なお、各槽の攪拌機は、単位液量当たり1.5kw/mの撹拌動力で運転された。
また、第2反応槽から排出されたセレン沈殿を含むスラリーは、冷却槽にて室温程度まで冷却された。冷却されたスラリーを、100L/minの流量で第1反応槽に繰り返した。なお、このときのセレン沈殿の繰り返し量は、反応槽内に供給するセレン含有液から生成するセレン質量に対し、繰返し沈殿比(返送/生成)は、3.3倍であった。さらに、冷却槽に一定以上の液量が貯まったとき、固液分離装置にて分離して金属セレン粉を回収した。
【0030】
上記条件下に3ヶ月間の操業を行なった。この間、金属セレン粉回収後の液中のセレン濃度及びセレン収率を求めた。結果を、それぞれ図1、2に示す。また、得られた金属セレン粉の嵩密度と平均粒径を求めた。結果を表1に示す。
なお、図1より、金属セレン粉回収後の液中のセレン濃度は、0.18〜0.23mg/Lであった。また、図2より、セレン収率は98.8〜99.3%であった。
【0031】
(実施例2)
各槽の攪拌機を、単位液量当たり1.0kw/mの撹拌動力で運転したこと以外は実施例1と同様にして8ヶ月間の操業を行った。この間、金属セレン粉回収後の液中のセレン濃度及びセレン収率を求めた。結果を、それぞれ図1、2に示す。また、得られた金属セレン粉の嵩密度と平均粒径を求めた。結果を表1に示す。
なお、図1より、金属セレン粉回収後の液中のセレン濃度は、0.16〜0.38mg/Lであり、実施例1と比べると、液中のセレン濃度のバラツキが大きくなっており、この違いは、撹拌動力に起因するものである。また、図2より、セレン収率は98.0〜98.8%であった。
【0032】
(比較例1)
各槽の攪拌機を、単位液量当たり1.0kw/mの撹拌動力で運転したこと、及びセレン沈殿を含むスラリーの繰り返しを行なわなかったこと以外は実施例1と同様にして3ヶ月間の操業を行った。この間、金属セレン粉回収後の液中のセレン濃度及びセレン収率を求めた。結果を、それぞれ図1、2に示す。また、得られた金属セレン粉の嵩密度と平均粒径を求めた。結果を表1に示す。
なお、図1より、金属セレン粉回収後の液中のセレン濃度は、0.64〜0.76mg/Lであった。また、図2より、セレン収率は95.3〜97.2%であった。
【0033】
(比較例2、3)
反応温度を、それぞれ59℃(比較例2)、57℃(比較例3)としたこと以外は実施例1と同様にして操業を行った。得られた金属セレン粉の平均粒径を求めた。結果を表1に示す。なお、比較例2で得られた金属セレン粉は、結晶セレンとアモルファスセレンの中間の性状を持つものであり、また、比較例3で得られた金属セレン粉は、結晶同士が2次凝集を起こし粗大化したものであった。
【0034】
【表1】

【0035】
表1より、実施例1、2では、セレン含有液の塩酸濃度を所定値に調整し、反応槽内へ、該反応槽内に供給するセレン含有液から生成するセレン質量の所定の倍数に当たるセレン沈殿を繰り返し、還元反応の液温度及び還元反応の酸化還元電位を所定値に制御し、本発明の方法に従って行われたので、結晶粒径のバラツキが小さく、同時に嵩密度が高く均一化された金属セレン粉が98%以上の高収率で得られることが分かる。なお、実施例1と比べて実施例2の嵩密度のバラツキがやや大きいが、この違いは、撹拌動力の差による。
これに対して、比較例1〜3では、セレン沈殿の繰り返し、或いは液温度がこれらの条件に合わないので、セレン収率又は金属セレン粉の析出状態において満足すべき結果が得られないことが分かる。
なお、図3は、得られた金属セレン粉の嵩密度の変化を示すが、図3より、撹拌動力の適正化により、実施例1では、嵩密度のバラツキが大きく改善されることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
以上より明らかなように、本発明の金属セレン粉の製造方法は、セレンを含有する液から、セレンを効率的に、かつ高収率で回収し、しかも排水のセレン負荷を低減することができるので、特に銅製錬を始め、非鉄金属製錬分野で産出するセレンを含有する酸性水溶液からのセレンの回収方法として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】金属セレン粉回収後の液中セレン濃度の変化を示す図である。(実施例1、実施例2、比較例1)
【図2】セレン収率(沈殿回収率)の変化を示す図である。(実施例1、実施例2、比較例1)
【図3】金属セレン粉の嵩密度の変化を示す図である。(実施例1、実施例2、比較例1)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応槽内で、セレン含有液に亜硫酸ガスを吹込んで還元反応に付し、生成されるセレン沈殿を回収して金属セレン粉を得る際、下記の(1)〜(4)の要件を満足することを特徴とする金属セレン粉の製造方法。
(1)前記セレン含有液の塩酸濃度を、2〜2.5mol/Lに調整する。
(2)前記反応槽内へ、該反応槽内に供給するセレン含有液から生成するセレン質量の3〜5倍に当たるセレン沈殿を繰り返す。
(3)前記還元反応の液温度を、60〜80℃に制御する。
(4)前記還元反応の酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)を、460〜520mVに制御する。
【請求項2】
さらに、下記の(5)の要件を満足することを特徴とする請求項1に記載の金属セレン粉の製造方法。
(5)前記反応槽内での滞留時間を、少なくとも16時間に設定する。
【請求項3】
さらに、下記の(6)の要件を満足することを特徴とする請求項1又は2に記載の金属セレン粉の製造方法。
(6)前記反応槽内に備えた攪拌機の撹拌動力を、該反応槽内の単位液量当たり1.5〜2.0kw/mに調整する。
【請求項4】
前記セレン含有液は、非鉄金属製錬の湿式工程から産出する亜セレン酸及びはセレン酸を含む酸性水溶液であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の金属セレン粉の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−292660(P2009−292660A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−145447(P2008−145447)
【出願日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】