説明

金属ドープシリカ系ガラス発泡体及びその製造方法並びに浄化装置

【課題】 高い機械的強度を有するとともに、紫外光のみならず可視光も含めて光触媒作用を効率良く発揮させることができる光触媒体としても機能する金属ドープシリカ系ガラス発泡体及びこれの製造方法並びにこのような金属ドープシリカ系ガラス発泡体を用いた浄化装置を提供する。
【解決手段】 シリカを主成分とするシリカ系ガラスの発泡体であって、チタンの含有量が1〜20wt.%であり、窒素の含有量が100〜10000wt.ppmであり、チタン以外の遷移金属元素の合計含有量が10〜5000wt.ppmであり、かさ密度が0.05〜1.2g/cmであることを特徴とする金属ドープシリカ系ガラス発泡体及びこのようなシリカ系ガラス発泡体を具備する浄化装置並びにこのようなシリカ系ガラス発泡体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカを主成分とするシリカ系ガラス発泡体及びこれの製造方法、並びにこれを具備する浄化装置に関し、特には、金属元素をドープしたシリカ系ガラス発泡体及びこれの製造方法、並びにこれを具備する浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紫外光照射下の光触媒により水や空気を浄化する技術が知られている。光触媒としては、酸化物半導体、特に酸化チタン(TiO)は優れた触媒作用があり化学的に安定であり、溶出して環境汚染する可能性の低い安全な化合物であることが知られている。
【0003】
酸化チタンの光触媒作用を利用して各種の環境汚染物質の分解除去が行われている。例えば、水の浄化、又は水中のアンモニア、アルデヒド類、アミン類等の悪臭物質の分解、更に菌類の殺菌、藻類の殺藻等に利用されている。空気やガスの処理については、例えば、トイレの尿臭、ペットの臭い、煙草の臭い等の悪臭物質の分解、又は焼却炉から排出される窒素化合物、硫化化合物、ダイオキシン等の環境汚染物質の分解除去においても酸化チタンの光触媒作用が使われている。
【0004】
酸化チタンを各種用途の光触媒として使用する場合、他の無機材料を担体として、それに担持させた光触媒を用いることが一般的である。
【0005】
その中で、光触媒体を多孔質形状とし、光触媒材料が被処理物と接触できる比表面積を大きくすることにより、光触媒作用を効率良く発揮させるための試みが多々なされている。
例えば特許文献1には、陶磁器、セメント、発泡コンクリート、レンガ、シリカ、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、チタン酸バリウム等を主体とするセラミックス多孔体が担体として好ましいことが開示されている。この公報において多孔体と記述されているものは、上記各種無機材料をジョークラッシャー等の粉砕機により破砕し数mm〜数十mm、典型的には1〜100mmの細片状若しくは粒状にしたものである。
【0006】
また、別の例として、特許文献2において活性炭、ゼオライト、シリカゲル、アルミナ、パーライト、多孔質ガラスが担体として用いられており、特に活性炭が好ましい旨が開示されている。活性炭の製造方法として、椰子殻を乾燥して微粉を除いた活性炭原料をロータリーキルン(550〜650℃)中に投入し、赤熱した状態で水蒸気、炭酸ガス(燃焼ガス中のCO)及び酸素(燃焼空気中のO)の混合雰囲気にて、温度850〜950℃で活性化処理することにより、粒状の活性炭としている。
【0007】
また、特許文献3では、炭化ケイ素、シリカガラス、活性炭、ゼオライト、セピオライトを主成分とする無機紙を担体としその上に薄膜状酸化チタンを形成する例が示されている。
また、特許文献4及び5では、活性炭、活性アルミナ、シリカゲル、多孔質ガラスが担体として用いられている光触媒を用いた水浄化装置の例、及び排気ガス浄化装置の例が示されている。
【0008】
また、特許文献6では、ニッケルカドミウム、ステンレス、バーマロイ、アルミニウム合金、銅の多孔質金属担体、及び活性炭、活性アルミナ、シリカゲル、多孔質ガラス粒状セラミックス、粘土の多孔質セラミック担体の例が示されている。
また、特許文献7では、活性炭、活性アルミナ、シリカゲル、多孔質ガラスが担体として用いられる光触媒を用いた排気ガス処理装置の例が示されている。
【0009】
しかしながら、これらのような従来の多孔質光触媒体は、比表面積を大きくするために多孔質としているにも関わらず、担体が紫外光に対して不透明であること等の理由から、その大きな比表面積から期待されるほどの処理能力が得られていなかった。また、これらのような従来の多孔質光触媒体は、一般に、耐熱性、耐薬品性、化学的安定性等が低く、また、機械的強度が弱い等の問題があり、長期間の使用や、特には、過酷な条件下での使用には耐えられなかった。
【0010】
また、不純物が多く含まれる場合、例えば水の浄化においては、担体の不純物元素含有量が多くまた化学安定性が低いために、浄化した水にこれら担体に含有される不純物元素が溶出して混入することが多々起こる。あるいは空気の浄化においては、担体の不純物元素含有量が多くまた担体が破砕された粉体であるために、浄化した空気にこれら担体に含有される不純物元素含有微粉末が混入することが多々起こる。特に、処理する気体が高温で腐蝕性ガスを含んでいる場合には、担体が劣化することにより2次的不純物が発生してしまう。
【0011】
また酸化チタンは、高いエネルギーバンド構造(3.2eV)を持つため、波長が短い紫外光しか吸収せず、可視光による触媒反応がほとんどおこらない。室内灯や太陽光の大部分を占める可視光を有効利用できる可視光応答型の酸化チタン光触媒の開発とその応用が現在の重要な研究課題である。
【0012】
このような可視光応答型の酸化チタン粉末の製造方法が種々提案されている。例えば、特許文献8、9には、二酸化チタン等の光触媒にバナジウム、クロム、マンガン等の金属イオンを化学的にドーピングする製造方法が記載されている。しかしながら、前述のバナジウム等の金属陽イオンを化学的にドーピングした光触媒では、可視光における光触媒活性は認められるものの、ドーピング前の光触媒が本来保有していた紫外光における光触媒活性の低下が見られる場合が多い。これは、新たに導入した金属イオンが光触媒表面に凝集することにより新たな不純物エネルギー順位を形成し、これが紫外光照射により生じる正孔と電子の再結合中心となり、光触媒活性の低下をもたらすからだと推定されている。
【0013】
特許文献10では、二酸化チタンの光触媒にバナジウム、クロム、マンガン等の遷移金属をイオン注入する製造方法が示されている。遷移金属イオンを注入した光触媒では注入された遷移金属イオンは、二酸化チタンの表面構造を劣化させることなく内部の適切な深さに均一に注入されるため、注入前に備えていた紫外光における固有の光触媒活性を維持しながら可視光においても光触媒活性が発現する。しかし、イオン注入する製造方法は大規模な製造装置や厳密な製造工程管理等を必要とし、生産性及びコストの両面で問題がある。
【0014】
特許文献11では、可視光にも応答する光触媒材料として窒素を含む金属酸化物と酸化チタンの複合微粒子を高収率で得ることが示されている。また特許文献12では、この類似発明として窒素を含む酸化チタン微粒子を高収率で得ることが示されている。しかしながら、これらの文献に示された酸化チタンから成る光触媒は微粒子形状であるため、そのまま光触媒反応装置(ユニット)に搭載して、排気ガス処理や排水処理に使用できるものではなかった。
【0015】
【特許文献1】特開2004−230301号公報
【特許文献2】特開2006−110470号公報
【特許文献3】特開2004−305883号公報
【特許文献4】特開2003−181475号公報
【特許文献5】特開2002−35551号公報
【特許文献6】特開2001−232206号公報
【特許文献7】特開2001−170453号公報
【特許文献8】特開平9−192496号公報
【特許文献9】特開2000−237598号公報
【特許文献10】特開平9−262482号公報
【特許文献11】特開2005−138008号公報
【特許文献12】特開2005−139020号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は前述のような問題に鑑みてなされたもので、高い機械的強度を有するとともに、紫外光のみならず可視光も含めて光触媒作用を効率良く発揮させることができる光触媒体としても機能する金属ドープシリカ系ガラス発泡体及びこれの製造方法並びにこのような金属ドープシリカ系ガラス発泡体を用いた浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、シリカを主成分とするシリカ系ガラスの発泡体を製造する方法であって、少なくとも、ケイ素化合物及びチタン化合物を原料として、火炎加水分解法により、シリカ系ガラス微粒子を基材に堆積させ、OH基を含有する多孔質白色シリカ系ガラス体を形成する工程と、前記多孔質白色シリカ系ガラス体を、少なくともチタン以外の遷移金属元素の化合物を含有する溶液に浸漬した後に加熱乾燥することにより金属ドープ処理する工程と、前記金属ドープ処理した多孔質白色シリカ系ガラス体をアンモニアガス含有雰囲気中にて加熱することによりアンモニア処理する工程と、前記アンモニア処理した多孔質白色シリカ系ガラス体を加熱する事により溶融発泡させて金属ドープシリカ系ガラス発泡体とする溶融発泡工程とを含むことを特徴とする金属ドープシリカ系ガラス発泡体の製造方法を提供する(請求項1)。
【0018】
このような工程を有する金属ドープシリカ系ガラス発泡体の製造方法であれば、チタン、窒素、チタン以外の遷移金属元素を目的に合わせて所定の濃度で含有し、酸化チタンが光触媒体として機能し、特に可視光応答性が高い金属ドープシリカ系ガラス発泡体を製造することができる。
【0019】
この場合、前記金属ドープ処理工程においてドープする金属元素を、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、パラジウム、銀、白金、セリウム、ネオジムの少なくともいずれか一種とすることが好ましい(請求項2)。
このように、金属ドープ処理工程においてドープする金属元素を、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、パラジウム、銀、白金、セリウム、ネオジムの少なくともいずれか一種とすれば、より効果的に可視光応答型光触媒体として作用する金属ドープシリカ系ガラス発泡体を製造することができる。
【0020】
また、前記金属ドープ処理工程において、さらに、アルミニウムをドープすることができる(請求項3)。
このように、金属ドープ処理工程において、さらに、アルミニウムを同時にドープすれば、チタン以外の遷移金属元素のドープ量を比較的高濃度に設定する場合であっても、均一で透明度が適度に高い金属ドープシリカ系ガラス発泡体とすることができる。
【0021】
また、前記金属ドープ処理工程において、さらに、チタンをドープすることができる(請求項4)。
このように、金属ドープ処理工程において、チタン以外の遷移金属元素に加え、チタンをドープすることもできる。
【0022】
また、前記アンモニア処理を400〜1000℃にて行うことが好ましい(請求項5)。また、前記溶融発泡を1000〜1700℃にて行うことが好ましい(請求項6)。
このように、アンモニア処理を400〜1000℃にて行ったり、溶融発泡を1000〜1700℃にて行ったりすれば、より確実に、かつ高い生産性で上記金属ドープシリカ系ガラス発泡体を製造することができる。
【0023】
また、本発明に係る金属ドープシリカ系ガラス発泡体の製造方法では、少なくとも前記溶融発泡工程よりも後に、前記金属ドープシリカ系ガラス発泡体中に残存する独立気泡を溶液中にて浸食処理することにより連続気泡に改質させる工程を有することが好ましい(請求項7)。
このように、少なくとも溶融発泡工程よりも後に、金属ドープシリカ系ガラス発泡体中に残存する独立気泡を溶液中にて浸食処理することにより連続気泡に改質させる工程を有する金属ドープシリカ系ガラス発泡体の製造方法であれば、より通気性、通水性が高く、表面積の大きい金属ドープシリカ系ガラス発泡体を製造することができる。
【0024】
また、本発明に係る金属ドープシリカ系ガラス発泡体の製造方法では、上記のいずれかの方法によって製造された金属ドープシリカ系ガラス発泡体に対し、さらに、表面に光触媒材料の被膜を形成する処理を行うことができる(請求項8)。
このように、さらに、金属ドープシリカ系ガラス発泡体の表面に光触媒材料の被膜を形成する処理を行えば、より高効率な光触媒体として利用することができる金属ドープシリカ系ガラス発泡体を製造することもできる。
【0025】
また、本発明は、シリカを主成分とするシリカ系ガラスの発泡体であって、チタンの含有量が1〜20wt.%であり、窒素の含有量が100〜10000wt.ppmであり、チタン以外の遷移金属元素の合計含有量が10〜5000wt.ppmであり、かさ密度が0.05〜1.2g/cmであることを特徴とする金属ドープシリカ系ガラス発泡体を提供する(請求項9)。
そして、このような金属ドープシリカ系ガラス発泡体は、光触媒作用を有する光触媒体として機能するものとすることができる(請求項10)。
【0026】
このような、シリカを主成分とするシリカ系ガラスの発泡体であって、チタンの含有量が1〜20wt.%であり、窒素の含有量が100〜10000wt.ppmであり、チタン以外の遷移金属元素の合計含有量が10〜5000wt.ppmであり、かさ密度が0.05〜1.2g/cmである金属ドープシリカ系ガラス発泡体であれば、光触媒作用を有する光触媒体として機能するものとして使用することができる。また、紫外光の吸収のみならず約800nm以下の可視光も吸収することにより、より大きな光触媒作用を発現させることができる。
また、金属ドープシリカ系ガラス発泡体そのものを光触媒体とすることができるので、光触媒体中の通気性及び通水性が高く、光触媒体表面と被処理物とが接触することができる比表面積を大きいものとすることができ、光触媒作用を効率よく発揮させることができる。
【0027】
この場合、前記金属ドープシリカ系ガラス発泡体に含有される、チタン以外の遷移金属元素が、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、パラジウム、銀、白金、セリウム、ネオジムの少なくともいずれか一種であることが好ましい(請求項11)。
このように、金属ドープシリカ系ガラス発泡体に含有される、チタン以外の遷移金属元素が、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、パラジウム、銀、白金、セリウム、ネオジムの少なくともいずれか一種であれば、より効果的に光触媒作用を効率よく発揮させることができる金属ドープシリカ系ガラス発泡体とすることができる。
【0028】
また、前記金属ドープシリカ系ガラス発泡体は、さらに、アルミニウムを含有することができる(請求項12)。
このように、さらに、アルミニウムを同時に含有すれば、チタン以外の遷移金属元素のドープ量を比較的高濃度に設定する場合であっても、均一で透明度が適度に高い金属ドープシリカ系ガラス発泡体とすることができる。
【0029】
また、前記金属ドープシリカ系ガラス発泡体の圧縮強度が5kg/cm以上であることが好ましい(請求項13)。
このように、金属ドープシリカ系ガラス発泡体の圧縮強度が5kg/cm以上であれば、十分な強度を有する金属ドープシリカ系ガラス発泡体とすることができる。その結果、様々な条件下での利用が可能な光触媒体として使用することができる。
【0030】
また、前記金属ドープシリカ系ガラス発泡体のOH基含有量が1〜100wt.ppmであることが好ましい(請求項14)。
このように、金属ドープシリカ系ガラス発泡体のOH基含有量が1〜100wt.ppmであれば、紫外線の照射による、金属ドープシリカ系ガラス発泡体の強度劣化や、紫外線ダメージに起因する光吸収を効果的に防止することができる。
【0031】
また、上記のいずれかの金属ドープシリカ系ガラス発泡体の表面に、さらに、光触媒材料の被膜が形成されたものとすることができる(請求項15)。
このように、上記のいずれかの金属ドープシリカ系ガラス発泡体の表面に、さらに、光触媒材料の被膜が形成された金属ドープシリカ系ガラス発泡体であれば、より高効率な光触媒体とすることもできる。
【0032】
また、本発明は、少なくとも、光触媒反応器と、該光触媒反応器内に収容された上記いずれかの金属ドープシリカ系ガラス発泡体と、紫外光及び可視光を含む光線を発する光源とを具備し、前記光源で前記金属ドープシリカ系ガラス発泡体に前記光線を照射しながら、前記光触媒反応器に被処理物を通過させ、光触媒作用によって被処理物を浄化処理する浄化装置を提供する(請求項16)。
【0033】
このような、本発明に係る金属ドープシリカ系ガラス発泡体を具備する浄化装置であれば、高い機械的強度を有するとともに、紫外光のみならず可視光も利用した光触媒作用を効率よく発揮させることができる光触媒体としての金属ドープシリカ系ガラス発泡体を具備する浄化装置であるので、高耐久性と高い処理能力を併せ持つ浄化装置とすることができる。
【発明の効果】
【0034】
以上のように、本発明に従う金属ドープシリカ系ガラス発泡体であれば、金属ドープシリカ系ガラス発泡体そのものを、光触媒作用を有する光触媒体として機能するものとして使用することができる。また、紫外光の吸収のみならず約800nm以下の可視光も吸収することにより、より大きな光触媒作用を発現させることができる。また、金属ドープシリカ系ガラス発泡体そのものを光触媒体とすることができるので、光触媒体中の通気性及び通水性が高く、光触媒体表面と被処理物とが接触することができる比表面積を大きいものとすることができ、光触媒作用を効率よく発揮させることができる。
また、本発明に従う金属ドープシリカ系ガラス発泡体の製造方法であれば、チタン、窒素、チタン以外の遷移金属元素を目的に合わせて所定の濃度で含有し、酸化チタンが光触媒体として機能する金属ドープシリカ系ガラス発泡体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
本発明に係る金属ドープシリカ系ガラス発泡体は、シリカを主成分とし、含有される元素の含有量は、チタン(Ti)の含有量が1〜20wt.%であり、窒素(N)の含有量が100〜10000wt.ppmであり、チタン以外の遷移金属元素の合計含有量が10〜5000wt.ppmであり、かつ、かさ密度が0.05〜1.2g/cmである金属ドープシリカ系ガラス発泡体である。そして、この金属ドープシリカ系ガラス発泡体は光触媒作用を有する光触媒体として機能する。
【0037】
このような本発明の金属ドープシリカ系ガラス発泡体から成る可視光応答型光触媒体は、紫外光のみならず可視光照射によっても光触媒作用を発生させることができる。例えば太陽光に含まれる紫外光は全光エネルギーに比較すると少量であるが光触媒作用は可視光に比べると大きなものである。従って酸化チタン(TiO)に固有な紫外光触媒作用を維持しつつ可視光においても高い応答性を有する光触媒体の開発は重要である。また例えば各種水銀ランプでは、紫外光の他に多量の可視光が発生しており、紫外光のみならず可視光においても高い応答性を発揮する光触媒体の開発は大変重要である。
【0038】
また本発明の金属ドープシリカ系ガラス発泡体の特徴は、発泡体表面に照射される紫外光や可視光が内部まで透過、散乱することである。このことにより大きな体積を有する光触媒であっても、表面のみならず内部において光触媒反応を効率よく生じさせることができる。このようなことは従来の不透明なセラミックスを担体とし酸化チタンを担持させた光触媒では達成できないほどの光反応効率の向上をもたらす。
【0039】
従来の、高純度シリカガラスの紫外から可視域における光透過性としては、波長約150nm〜約800nm以上で高い透過率を示す。
また、チタン(Ti)をドープ(添加)したシリカ系ガラス、すなわち、酸化チタン(TiO)構造を一部に有するシリカ系ガラスでは、ドープ濃度にも依存するが、波長約150nm〜400nmの領域の光の吸収を示す。
さらに、窒素(N)元素をドープしたシリカ系ガラスでは、約600nm〜約800nmの波長の光では依然透過率が高いが、約150nm〜約600nmの波長では、ある程度の光を吸収する。すなわち、可視領域の光をも吸収する。
さらに、チタン以外の遷移金属元素をドープしたシリカ系ガラスでは、チタン以外の遷移金属元素の種類、濃度にも依存するが、少なくとも約150nm〜約800nmの広い波長範囲で適量の光を吸収するようになる。
【0040】
酸化チタンを高濃度でドープしたシリカ系ガラスは、波長約400nm以下の短波長紫外光を吸収することにより光触媒作用を発生する。酸化チタンは半導体の一種であり半導体は通常電気を通さない不導体であるが光を照射すると電気を通すようになる。しかしどの様な光でも良いわけではなく、一定以上のエネルギーを持つ光が必要である。そのエネルギーをバンドギャップエネルギーと呼び、半導体の種類によって異なっている。バンドギャップエネルギー以上の紫外光を酸化チタンに照射すると価電子帯の電子がエネルギー準位の高い伝導帯に移動し、動けるようになる。伝導帯に電子が移動すると価電子帯には電子の抜けた孔ができ、この孔は正の電荷を持っており正孔と呼ばれる。電子と正孔は同時に生成し、電子は強い還元力を持ち正孔は強い酸化力を持つ。これが光触媒作用の基本メカニズムである。
【0041】
酸化チタンを高濃度でドープしたシリカ系ガラスに、更に窒素と、チタン以外の遷移金属元素をドープしたシリカ系ガラスでは、400nm以下の紫外光の吸収のみならず約800nm以下の可視光も吸収することにより、より大きな光触媒作用が発生するようになる。なお、窒素とチタン以外の遷移金属元素を光触媒体として機能するシリカ系ガラスにドープすることによる可視光応答性の発生の詳細なメカニズムは完全には解明されていないが、いずれにしても、窒素とチタン以外の遷移金属元素をドープすることにより可視光応答性が生じる。
【0042】
以下、本発明について図面を参照しながらさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0043】
本発明の金属ドープシリカ系ガラス発泡体は、シリカを主成分とし、チタン(Ti)の含有量が1〜20wt.%であり、窒素(N)の含有量が100〜10000wt.ppmであり、チタン以外の遷移金属元素の合計含有量が10〜5000wt.ppmであり、かつ、かさ密度が0.05〜1.2g/cmである金属ドープシリカ系ガラス発泡体である。
なお、上記各元素の含有量は、好ましくは、チタンが5〜15wt.%であり、窒素が1000〜5000wt.ppmであり、チタン以外の遷移金属元素の合計含有量が100〜1000wt.ppmである。
【0044】
なお、上記のチタン以外の遷移金属元素としては、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、白金(Pt)、セリウム(Ce)、ネオジム(Nd)とすることが好ましく、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅とすることがさらに好ましく、特に実用上好ましいものとしては、バナジウム、クロム、マンガンの3元素である。
【0045】
図1(a)に、本発明に係る金属ドープシリカ系ガラス発泡体の一般的な構造を、模式的な断面図として示した。
金属ドープシリカ系ガラス発泡体10は、シリカを主成分とし、その他の元素としてチタン、窒素、及びチタン以外の遷移金属元素を含有し、非晶質であるシリカ系ガラスからなるシリカ系ガラス領域11と、気泡領域として連続気泡12や独立気泡13を含む。
【0046】
このような金属ドープシリカ系ガラス発泡体を製造するためには、以下に述べるような、多孔質白色シリカ系ガラス体の形成工程、金属ドープ処理工程、アンモニア処理工程、溶融発泡工程を経る製造方法を用いることができる。
【0047】
(工程a、多孔質白色シリカ系ガラス体の形成工程)
まず、ケイ素(Si)化合物及びチタン(Ti)化合物を原料として、火炎加水分解法により、シリカ系ガラス微粒子を基材に堆積させ、OH基を含有する多孔質白色シリカ系ガラス体(以下、スート体と呼ぶことがある)を形成する。
【0048】
ガラス形成原料としてのケイ素化合物及びチタン化合物は、ガス化可能なものであれば特に限定されないが、ケイ素化合物としてはSiCl、SiHCl、SiHCl、SiHClなどの塩化物、SiF、SiHF、SiHなどのフッ化物、RSi(OR)4−n(ただしRは炭素数1〜4のアルキル基を示し、nは0〜3の整数を示す)で示されるアルコキシシラン等を使用することができる。また、チタン化合物としてはTiCl、TiBrなどのハロゲン化チタンや、RTi(OR)4−n(ただしRは炭素数1〜4のアルキル基、nは0〜3の整数を示す)で示されるアルコキシチタン等を使用することができる。
【0049】
火炎加水分解に用いる方法は、形成する多孔質白色シリカ系ガラス体にOH基を含有するようにできるものであれば特に限定されず、酸水素火炎加水分解法又やプロパン酸素火炎加水分解法等を適宜選択することができる。
基材としては、棒状シリカガラス、円板状シリカガラス、その他耐熱性セラミックス等を使用することができる。
【0050】
この工程において形成される多孔質白色シリカ系ガラス体に含有されるOH基は、後述する工程bのアンモニア処理工程にてアンモニアガスとの反応基とされるものであり、少なくとも100wt.ppm以上含ませることが好ましく、500wt.ppm以上含ませることが特に好ましい。
【0051】
(工程b、金属ドープ処理工程)
次に、上記で形成した多孔質白色シリカ系ガラス体を、少なくともチタン以外の遷移金属元素の化合物を含有する溶液に浸漬した後に加熱乾燥することにより金属ドープ処理する。
なお、この工程の目的は、少なくともチタン以外の遷移金属元素を多孔質白色シリカ系ガラス発泡体にドープすることであるが、同時にチタンをドープしても構わない。
【0052】
具体的には、まず、多孔質白色シリカ系ガラス体を、少なくともチタン以外の遷移金属元素の化合物の水溶液又はアルコール溶液等に浸漬させ、該多孔質白色シリカ系ガラス体が有する層状構造の間隙の毛細管現象により該遷移金属元素の化合物溶液を内部まで拡散導入させる。
このとき、例えば、クロム化合物としては、塩化クロム(II)(CrCl)や硝酸クロム(III)(Cr(NO)が、マンガン化合物としては、塩化マンガン(II)(MnCl)、塩化マンガン(III)(MnCl)、硝酸マンガン(II)(Mn(NO)、バナジウム化合物としては、塩化バナジウム(II)(VCl)、塩化バナジウム(III)(VCl)等を使用した水溶液とすることができる。その他の金属元素に関しても、塩化物や硝酸塩等とこれらの化合物を溶解することができる溶媒の組合せを使用することができる。
【0053】
次いで、該遷移金属元素の化合物の溶液を浸漬させた多孔質白色シリカ系ガラス体を大気ないし減圧雰囲気にて100℃〜300℃加熱下において水又はアルコールを蒸発させて乾燥させる。
【0054】
チタン以外の遷移金属元素の合計含有量は10wt.ppm〜5000wt.ppmの範囲であり、50wt.ppm〜500wt.ppmが好ましい。これは、10wt.ppm未満では濃度が低すぎて可視光の吸収が少なく光触媒作用の向上があまり期待できず、5000wt.ppm超では光触媒体表面部分での紫外から可視光の吸収が大きくなりすぎるため光触媒全体での光触媒作用の低下をもたらす可能性があるからである。
なお、上記したように、このチタン以外の遷移金属元素のドープ処理の際に、チタン化合物を他の遷移金属元素の化合物と同時に追加して含ませて、チタンをドープしても構わない。
【0055】
このとき、チタン以外の遷移金属元素のドープ量を比較的高濃度(例えば、100wt.ppm以上)に設定する場合、同時にアルミニウム(Al)を該チタン以外の遷移金属元素の濃度に対して同濃度から半量濃度程度ドープすることにより、後述する工程dにおける溶融発泡処理後の金属ドープシリカ系ガラス発泡体を、均一で透明度が適度に高い(微細な気泡の含有量が少なく、可視域で透過率が高い)金属ドープシリカ系ガラス発泡体とすることができる。
例えば、クロム、マンガン、バナジウムの合計ドープ濃度を100wt.ppmに設定する場合には、同時にアルミニウムを50wt.ppm程度ドープすることが好ましい。
【0056】
(工程c、アンモニア処理工程)
次に、上記の金属ドープ処理を行った多孔質白色シリカ系ガラス体をアンモニア(NH)ガス含有雰囲気中にて加熱することによりアンモニア処理する。
【0057】
このアンモニア処理により、多孔質白色シリカ系ガラス体の中にアンモニアをドープ(添加)する。このアンモニア処理によってアンモニアがドープされるメカニズムは、多孔質白色シリカ系ガラス体中の≡Si−OH基がNHと置換反応して≡Si−NH基になるものと推定される。この反応は、温度が400℃以上であれば、反応速度が遅すぎることがなく、実用的な反応速度で進行させることができ、1000℃以下であれば一度生成した≡Si−NH基の熱分解による離脱を抑制することができる。従って、このアンモニア処理の温度域は400〜1000℃の範囲とすることが好ましく、500〜800℃の範囲とすることが特に好ましい。
【0058】
(工程d、溶融発泡工程)
次に、上記でアンモニア処理を行った多孔質白色シリカ系ガラス体を、加熱することにより溶融発泡させて金属ドープシリカ系ガラス発泡体とする。
【0059】
この溶融発泡工程の際の処理温度は、チタン含有量にも依存するが、1000℃以上であれば、ガラス粘性度が高すぎることもなく、溶融発泡をより適切に行うことができる。また、≡Si−NH基のガス離脱反応を十分に行うことができるのみならず、窒素をガラス構造中に固定できるのでより実用的である。
一方、溶融発泡工程の際の処理温度が1700℃以下であれば、ガラス粘性度が低くなりすぎることもなく、溶融発泡をより適切に行うことができる。また、ケイ酸化合物(SiO、SiO等)やチタン化合物(TiO、TiO等)の蒸発を抑制することもできる。
従って、この溶融発泡処理の温度域は1000〜1700℃とすることが好ましく、1400〜1600℃とすることがより好ましい。チタン含有量が高濃度になるほど、高温下のガラス粘性度は低くなる傾向になることから、発泡処理温度はチタン濃度に依存して調整する必要がある。
なお、この溶融発泡処理中の雰囲気は大気中や窒素ガス雰囲気下等でも可能であるが減圧下でも良い。発泡処理時間は60分以内程度が好ましく、必要以上に長くしない方が良い。
【0060】
なお、工程aの、多孔質白色シリカ系ガラス体の形成方法は、一般に火炎加水分解法によるスート法と呼ばれているものである。
従って、多孔質白色シリカ系ガラス体の内部はスートが層状構造に分布しており、これを溶融発泡処理したものは気泡が特定方向に発達分布しており大部分が連通したものとなる。ただし上記溶融発泡処理した金属ドープシリカ系ガラス発泡体の表面は加熱溶融により内部の気泡や空隙が表面部分で密閉された状態となっているものもある。また溶融発泡処理を行っても必ずしも全気泡が連通していない場合もある。
この状態でも光触媒体として用いることもできるが、より光触媒体としての機能を発揮させるためには、独立気泡を連通させ、連続気泡とし、気泡を外部と連通させることが好ましい。
【0061】
このため、この金属ドープシリカ系ガラス発泡体を溶解することが可能な組成の溶液中に浸漬して侵食処理(エッチング処理)を行い、独立気泡を連通させることが好ましい。このための溶液は一般にフッ化水素酸水溶液が使えるが、その他の酸やアルカリ溶液を使用することも可能である。
【0062】
金属ドープシリカ系ガラス発泡体のかさ密度は主として溶融発泡処理における昇温速度、最高温度、温度保持時間、雰囲気ガスの種類、雰囲気ガス圧力等を各種設定することにより制御することができる。かさ密度範囲としては0.05〜1.2g/cm、好ましくは0.2〜1.0g/cmである。金属ドープシリカ系ガラス発泡体の圧縮強度としては、5kg/cm以上が好ましい。光触媒体としての用途にもよるが、光触媒反応を促進する目的からも圧縮強度を保ちつつ、かさ密度を低くし、比表面積を高く設定することが好ましい。
【0063】
また金属ドープシリカ系ガラス発泡体のOH基含有量は1〜100wt.ppm、好ましくは1〜10wt.ppm含有させておく方が耐紫外線性、特に紫外線ダメージに起因する光透過率低下による光触媒反応効率の低下防止と、強度劣化による光触媒体の破損防止の点から好ましい。
【0064】
本発明の金属ドープシリカ系ガラス発泡体は、金属ドープシリカ系ガラス発泡体中に高濃度で酸化チタン(TiO)を含有することにより紫外光吸収が起こり光触媒作用を発生するのみならず、同時に窒素とチタン以外の遷移金属元素も含有することにより可視光吸収が起こり光触媒作用を増幅させて発生させるものである。
また、このような可視光応答型金属ドープシリカ系ガラス発泡体であれば、高い通気性及び通水性、光透過性、機械的強度を有すると同時に、光触媒体と被処理物とが接触することができる比表面積を大きいものとする事ができ、紫外可視光照射下における光触媒作用を効率よく発揮させることができる。
【0065】
また、前述した通り、チタン以外の遷移金属元素のドープ量を比較的高濃度(例えば、100wt.ppm以上)に設定する場合には、同時にアルミニウム(Al)をチタン以外の遷移金属元素の濃度に対して同濃度から半量濃度程度ドープさせてあれば、均一で透明度が適度に高い(微細な気泡の含有量が少なく、可視域で透過率が高い)金属ドープシリカ系ガラス発泡体とすることができる。その結果、紫外可視光を適度に透過し、また吸収する、光触媒反応効率の高い金属ドープシリカ系ガラス発泡体とすることができる。すなわち、入射光が、微細な気泡とシリカ系ガラス領域との界面で反射され、シリカ系ガラス領域内に十分に透過、散乱しないことによる、光触媒反応効率の低下を防止することができる。
【0066】
更に、図1(b)のように、上記の金属ドープシリカ系ガラス発泡体の表面に光触媒材料の被膜14を形成することにより光触媒効率を高めることができる場合がある。なお、「金属ドープシリカ系ガラス発泡体の表面」とは、図1(b)に示すように、シリカ系ガラス領域11の表面のことであり、光触媒材料の被膜14は、外部に連通する連続気泡12との境に形成される。
この被膜とする光触媒材料としては、例えば酸化チタン(TiO)、酸化スズ(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)が考えられるが、その中では特に酸化チタンの被膜が好ましく、光触媒活性の高いアナターゼ型結晶構造の酸化チタン(アナターゼ型酸化チタン)が特に好ましい。
【0067】
以下では好適な例として、酸化チタン被膜を形成する2つの手法について説明する。
この光触媒材料の被膜は、例えば、以下のような方法により形成することができるが、大きくわけて乾式法と湿式法が挙げられる。
【0068】
第1の方法は金属ドープシリカ系ガラス発泡体の表面への酸化チタンの蒸着である(乾式法)。蒸着法としては、酸化チタン(TiO)を高濃度でドープしたシリカ系ガラス(TiO+SiO)、また必要に応じて更に酸化チタンの触媒活性を向上させるためにバナジウム、クロム、マンガン等の元素を少量ドープさせたチタン化合物をスパッタリング法、グロー放電法、熱蒸着法、真空蒸着法、化学蒸着法(CVD法)、イオンプレーティング法等の膜付け技術により蒸着することができる。技術的な手軽さやコスト面からは特に熱蒸着法が好ましい。被膜として形成される主成分の酸化チタンは二酸化チタン(TiO)が好ましく、構造としてはアナターゼ型酸化チタンが好ましい。
【0069】
第2の方法は、光触媒材料の前駆体となる有機金属化合物の溶液、又は光触媒材料の前駆体となる化合物からなる微粒子の分散液(酸化チタンの場合は、有機チタン化合物の溶液又は酸化チタン分散液等)に金属ドープシリカ系ガラス発泡体を含浸させた後、加熱乾燥処理することにより行うものである。(湿式法、ディップコーティング法)。
【0070】
例えば有機チタン化合物を酸触媒下で加水分解によって調整した酸化チタン(TiO)のゾル溶液に金属ドープシリカ系ガラス発泡体を浸漬して含浸させ、次いで一定速度で引き上げて乾燥、200〜700℃程度で加熱焼成する。均一で高品質の酸化チタン(光触媒材料)の被膜を作成するためには、前述の浸漬・含浸・乾燥・焼成の各工程を複数回繰り返すのが好ましい。有機チタン化合物としては、チタンエトキシド[Ti(OC]、チタンプロキシド[Ti(OC]、チタンブロキシド[Ti(OC]等のチタンアルコキシドが利用できる。酸触媒としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、などの無機酸、又は蓚酸、乳酸、酢酸などの有機酸を使用することができる。また必要に応じて更に酸化チタンの触媒活性を向上させるためにバナジウム、クロム、マンガン等の化合物を少量複合含有させても良い。
【0071】
金属ドープシリカ系ガラス発泡体の表面部に形成、担持させる酸化チタン光触媒の量は特に限定されるものではなく、その用途や目的、被処理体の気体又は液体かの物質形態等に応じて適宜選択することができる。一般的には金属ドープシリカ系ガラス発泡体100wt.%に対して、光触媒材料0.1〜3wt.%程度を被膜として担持させることが好ましい。
【0072】
そしてこのような本発明の金属ドープシリカ系ガラス発泡体から成る光触媒体を反応器内に収容し、紫外可視光源(紫外光及び可視光を含む光線を発する光源)により光触媒体に紫外可視光を照射しながら、光触媒体に被処理物を通過させれば、光触媒作用によって被処理物を浄化処理する浄化装置として使用することができる。
【0073】
このような浄化装置の構成は、様々な態様とすることができる。
図4に金属ドープシリカ系ガラス発泡体と紫外可視光源とを具備する汚染ガス浄化装置の一例を示した。なお、図4(a)は光触媒反応ユニットの側面方向から見た概略断面図であり、図4(b)は、図4(a)中のA−A’面の概略断面図である。この汚染ガス浄化装置は、金属製の光触媒反応ユニットカバー40に覆われた、反応器としてのシリカガラス製光触媒反応チャンバー43と、複数の紫外可視光源41及び該紫外可視光源からの紫外可視光を反射するための反射板42が配置されている。その他、光触媒反応チャンバー43のための耐圧補強フィン44を具備している。そして、シリカガラス製の光触媒反応チャンバー43内に本発明に係る金属ドープシリカ系ガラス発泡体(光触媒体)45が配置されている。紫外可視光源41によりシリカガラス製の光触媒反応チャンバー43内の光触媒体45に紫外可視光を照射しながら汚染ガス導入口46から汚染ガスを導入し、光触媒体45を通過させることにより汚染ガスを浄化し、浄化ガス出口47から浄化されたガスを排出させる。なお、紫外可視光源41は少なくとも紫外光を含む可視光を照射できるものであれば良いが、効率よく光を照射するために、水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、エキシマランプ、発光ダイオード、レーザーダイオード等を用いることが可能である。
【0074】
図5に金属ドープシリカ系ガラス発泡体と紫外可視光源とを具備する汚染ガス浄化装置の別の一例を示した。なお、図5(a)は光触媒反応ユニットの上方から見た概略断面図であり、図5(b)は、図5(a)中のB−B’面の概略断面図である。この汚染ガス浄化装置は、特に車両等の排気ガス浄化処理ユニットに用いることができる。
この汚染ガス浄化装置は、楕円断面形状の筒型アルミニウム製排気ガス処理ユニットカバー50の内部に光触媒反応器としてシリカガラス製光触媒反応チャンバー51が配置されている。また、上記の楕円断面形状の焦点に相当する2箇所に紫外可視光源53a、53bが配置されている。また、シリカガラス製光触媒反応チャンバー51の内部に金属ドープシリカ系ガラス発泡体から成る光触媒体52が配置されている。
また、車両のエンジンから排出される排気ガスは排気ガス導入口54に入り光触媒反応により浄化された後、浄化ガス排出口55から外部へ出される。排気ガスは高温であるため、光源を保護する目的から、冷却用空気が冷却空気入口56から入り冷却空気出口57から外部へ出る構造となっている。
【0075】
そして、車両排気ガス処理の際には、紫外可視光源53a、53bにより、シリカガラス製光触媒チャンバー51内の光触媒体52に紫外可視光を照射しながら排気ガス導入口54から汚染ガスを導入し、光触媒体52を通過させることにより排気ガスを浄化し、浄化ガス出口55から浄化されたガスを排出させる。また、排気ガスによる熱を冷却するため、冷却空気入口56及び冷却空気出口57によって排気ガス処理ユニットカバー50と光触媒反応チャンバー51との間の空間に冷却空気を流通させる。
なお、紫外可視光源53a、53bは高効率で紫外可視光を発光するものであれば良いが、水銀ランプ、エキシマランプ、メタルハライドランプ、発光ダイオード、レーザーダイオード等を用いることが可能である。
【0076】
これらのような、光触媒を具備する浄化装置であれば、高い機械的強度を有すると共に、光触媒作用を効率よく発揮させることができる光触媒を具備する浄化装置であるので、高耐久性と高い処理能力を併せ持つ浄化装置とすることができる。従って、悪臭や空気中の有害物質を除去する浄化装置として利用でき、特に、熱反応装置から排出される高温燃焼ガス中の環境汚染物質分解除去等の過酷な環境下においても使用できる。例えば廃棄物の焼却炉、火力発電所、自動車等のエンジンからの排気ガスの処理に用いることができる。更に光触媒反応を高効率化し装置を大型化させることにより、太陽光を光源とし、金属ドープシリカ系ガラス発泡体から成る電極と白金電極とを組み合わせることにより、水を光触媒分解反応させて水素燃料を取り出すことも可能となる。
【実施例】
【0077】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
本発明の金属ドープシリカ系ガラス発泡体の製造方法に従い、以下のように、金属ドープシリカ系ガラス発泡体を製造した。
【0078】
まず、工程aとして、以下のように、酸化チタン(TiO)を高濃度で含有するシリカ(SiO)系ガラスを形成する原料として、高純度四塩化ケイ素(SiCl)と高純度四塩化チタン(TiCl)を準備し、酸水素火炎加水分解法により多孔質白色シリカ系ガラス体(スート体)を合成した。すなわち、四塩化ケイ素と四塩化チタンを各々蒸留精製して高純度化した原料をバブラーにて気化させ、これらのガス状原料と水素ガスと酸素ガスとをシリカガラスバーナーに供給し、酸水素火炎中で加水分解反応させつつ、回転する円板状高純度グラファイトターゲット上に層状かつ回転軸対称にチタン含有シリカスート(シリカ系ガラス微粒子)を堆積させた。
得られた多孔質白色シリカ系ガラス体(スート体)の寸法は直径約200mm厚さ約50mmの円柱体形状であり、スート堆積に伴って層状構造を示すものであった。スート体のOH基濃度を赤外線吸収分光法により測定したところ約1000wt.ppm含有するものであった。
【0079】
次に、工程bの金属ドープ処理工程として、上記工程aで得られた多孔質白色シリカ系ガラス体をバナジウム(V)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)のそれぞれの塩化物3種混合水溶液に浸漬させ、多孔質白色シリカ系ガラス体が有する層状構造の間隙の毛細管現象によりバナジウム、マンガン、クロムのそれぞれ元素を多孔質白色シリカ系ガラス体内部まで均一濃度で導入した。なお、上記金属元素の塩化物としては、塩化クロム(II)(CrCl)、塩化バナジウム(III)(VCl)、塩化マンガン(II)(MnCl)を使用した。次いで3元素の塩化物混合水溶液を含浸させた多孔質白色シリカ系ガラス体を大気炉中にて200℃で24時間の加熱処理を行い乾燥させた。
【0080】
次に、工程cとして、上記の金属ドープ処理を行った多孔質白色シリカ系ガラス体を電気炉内の直径500mm高さ500mm円筒ドーム形シリカガラスチャンバー内に設置し、10Pa以下の減圧にしつつ500℃に昇温、1時間保持し、次いで窒素(N)をキャリアーガスとして300ml/min、アンモニアガス(NH)を300ml/minで混合して流しつつ10Pa(760Torrのほぼ大気圧)の圧力条件下にて、600℃昇温後一定温度に保持し5時間のアンモニア処理を行った。
【0081】
次に、工程dとして、上記のアンモニア処理を行った多孔質白色シリカ系ガラス体を高純度アルミナボードを保温材とし、高純度二ケイ化モリブデンをヒータとする電気炉内に設置し、窒素ガスを60ml/min流しつつ20℃/minの昇温速度にて1450℃まで昇温し30分間保持することにより溶融発泡させ、その後室温まで冷却した。溶融発泡処理されたシリカ系ガラス体を電気炉から取り出した後、切断機及び外周研削機等により加工・成型し、直径250mm高さ70mmの円柱状の光触媒体としての金属ドープシリカ系ガラス発泡体を得た。
【0082】
得られた金属ドープシリカ系ガラス発泡体の各種物性分析方法と評価方法を以下に示す。
【0083】
(チタン濃度分析)
蛍光X線分析法によりチタン元素濃度の分析を行った。絶対濃度値を正確に求めるため、事前にチタン(Ti)を1〜20wt.%の範囲で所定量含有させたシリカ系ガラスサンプルを複数個溶融して作成し、Tiの蛍光X線強度により検量線を作成して定量分析に利用した。
【0084】
(チタン以外の金属元素濃度分析)
誘導結合プラズマを用いた原子発光分光法(Inductively Coupled Plasma − Atomic Emission Spectrometry(略称ICP−AES))により濃度分析を行った。
【0085】
(窒素濃度分析)
X線照射によるX線光電子分光法(X−Ray Photoelectron Spectroscopy(略称XPS))により窒素元素の濃度分析を行った。
【0086】
(OH基濃度分析)
赤外線吸収分光法により濃度分析を行った。吸収係数値からの濃度換算は以下の文献に従った。
D.M.Dodd and D.B.Fraser, Optical determination of OH in fused silica, Journal of Applied Physics Vol.37 (1966) p.3911
【0087】
(かさ密度)
金属ドープシリカ系ガラス発泡体の実測重量(g)と、外形寸法から計算される体積(cm)との関係からかさ密度(g/cm)を算出した。
【0088】
(連続気泡率)
金属ドープシリカ系ガラス発泡体の全気泡空間のうち連続している気泡が占める体積比率(%)を求めた。金属ドープシリカ系ガラス発泡体中の気泡比率は、シリカ系ガラス体の密度とかさ密度との関係から算出できる。なお、チタンや各種ドープ元素が高濃度で含有されるシリカ系ガラスの密度は、チタンや各種ドープ元素の濃度に依存するが、同一組成からなるガラス体から実測することができ、各元素の濃度から算出することもできる。
独立気泡の比率は、金属ドープシリカ系ガラス発泡体に、金属ドープシリカ系ガラス発泡体と同じ比重の重液を圧入した後にかさ密度を測定することにより算出できる。金属ドープシリカ系ガラス発泡体の全気泡率から、独立気泡率を差し引いて連続気泡率を算出できる。
(圧縮強度)
金属ドープシリカ系ガラス発泡体から直径20mm高さ40mmの円柱状供試体に加工成型し、毎秒100g/cmの昇圧速度で圧縮力を加えて圧縮強度(kg/cm)を求めた。供試体は10個作成し、各々で測定を行い10回の値の算術平均値を求めた。
【0089】
(光触媒作用の性能評価(浄化試験))
作製した金属ドープシリカ系ガラス発泡体を、アセトアルデヒド光分解反応を用いて、光触媒作用の性能評価を行った。
先ず、金属ドープシリカ系ガラス発泡体を、切断機により寸法100mm×100mm×10mmの板状に切断成形して準備した。
図2に示した金属ドープシリカ系ガラス発泡体とアセトアルデヒドの反応装置は、閉鎖系装置であり、供試体である金属ドープシリカ系ガラス発泡体27を設置する高純度合成シリカガラス製の内容量5Lの反応容器(チャンバー)25と光源(ランプ)26aから構成される。反応ガスは、アセトアルデヒドボンベ21から供給される、660Torr(約88kPa)のCHCHO(1000vol.ppm)及び希釈ガスとしてのHeと、酸素ガスボンベ22から供給される100Torr(約13kPa)Oの計760Torr(約101kPa)(ほぼ大気圧と同一)混合ガスとした。光源26aとしては、紫外〜可視光を照射することができる中圧水銀ランプを用いた。その他、ガス供給側にはガス圧力調整器23、マスフローコントローラ24等を具備する。また、ガス排出側には、ガス分析器(ガスクロマトグラフ装置)28、排気ファン29等を具備し、排出されたガスを分析する。
【0090】
(浄化試験1)
以下のような手順にて、紫外〜可視光の照射による光触媒作用を評価した。
【0091】
(1) 光触媒反応用チャンバーの中に供試体(金属ドープシリカ系ガラス発泡体の光触媒体)寸法100mm×100mm×10mm、1個を設置し、内部を25℃空気雰囲気とし、波長400nm以下の紫外線強度10mW/cm程度の出力で中圧水銀ランプ光を照射しつつ6時間保持する。
【0092】
(2) 反応チャンバー内を一度10Pa以下の真空にして排気した後、アセトアルデヒド混合ガス(660Torr(約88kPa)分圧のCHCHO、1000vol.ppm He希釈ガスと100Torr(約13kPa)分圧Oガス)を、10Pa(ほぼ大気圧)にて導入し、300ml/minの流量で流しつつ室温25℃で6時間放置した。この時ランプ光源は点灯していない。
【0093】
(3) アセトアルデヒド混合ガスのガスフローを停止し反応チャンバー内(内容量5L)を封じ切り、中圧水銀ランプ照射を開始する。中圧水銀ランプの分光スペクトル分布を図3に、ランプ仕様を表1に示す。供試体の表面における波長400nm以下の紫外線強度は10mW/cmに設定する。
【0094】
【表1】

【0095】
(4) 反応チャンバーの温度を25℃に保ち中圧水銀ランプ光を連続照射し、6時間後の混合ガスのアセトアルデヒド濃度をガスクロマトグラフィーで測定を行う。
【0096】
この浄化試験における浄化率は、以下の計算式(1)によって求めた。
浄化率(%)=100×{(CHCHO初期濃度)−(CHCHO最終濃度)}/(CHCHO初期濃度)・・・(1)
【0097】
浄化率の評価は、浄化率が100〜90%の場合は◎(極めて良好)、90〜70%の場合は○(良好)、70〜40%の場合は△(やや不良)、40〜0%の場合は×(不良)とした。
【0098】
(浄化試験2)
可視光のみの照射による光触媒作用を評価した。
具体的には、浄化試験1と同様に、ただし、(3)(4)において、390nm以下の紫外線を吸収するランプ光源調整用フィルター26bを付けて供試体表面における400nm以上の可視光強度を5mW/cmに調整して中圧水銀ランプ照射を開始し、温度25℃、6時間照射試験を行った。
浄化試験2の浄化率の計算及び評価は浄化試験1と同様とした。
【0099】
(耐候性試験)
金属ドープシリカ系ガラス発泡体に対して、同様な中圧水銀ランプを用い100mW/cmの紫外線照射エネルギー密度にて温度80℃、湿度90%以上、1000時間の条件下において耐候性試験を行った。
その後そのガラス体表面の目視観察、実体顕微鏡観察を行い、表面状態の変化の有無、色変化の有無を調べた。変化が認められたときは×(不良)、認められない時は○(良好)と評価した。
【0100】
金属ドープシリカ系ガラス発泡体の各種物性分析結果と評価結果は、以下の実施例2、3、比較例1、2とともに後掲の表2に示す。
【0101】
(実施例2)
実施例1と同様に、ただし、工程aの酸水素火炎加水分解時に、四塩化チタン(TiCl)の供給比率を2倍とし、チタン含有量の多い多孔質白色シリカ系ガラス体(スート体)とした。工程b、工程c及び工程dの処理条件は同一とした。
【0102】
(実施例3)
工程aは実施例2と同様、工程b、工程c及び工程dは実施例1、2と同様とした。
【0103】
引き続いて、金属ドープシリカ系ガラス発泡体の表面に、光触媒材料の被膜として酸化チタン被膜を、チタン含有溶液を用いてデッィプコーティング法により形成した。酸化チタン源となるチタンアルコキシドと溶媒となるエチルアルコール、安定化剤となるジエチレングリコールモノエチルエーテル、ポリエチレングリコールの4種の試薬を混合して、ディップコーティング液として調整した。次いで、耐圧性のグローブボックス内に、先に作られた連続気泡を有する金属ドープシリカ系ガラス発泡体と容器入りのディップコーティング液を入れ、次いでグローブボックス内を10Pa以下の減圧にしつつ金属ドープシリカ系ガラス発泡体内部を脱ガスして、次いで常圧に戻しつつこのガラス体をディップコーティング液に入れてディップコーティング液に浸漬させた。このディップコーティング操作を2回繰り返し、均一な酸化チタン被膜が表面に形成された金属ドープシリカ系ガラス発泡体とした。
【0104】
その後、グローブボックスより取り出し、電気炉内に設置し、大気雰囲気下450℃1時間で焼成を行い透明の被膜を得た。その後この透明被膜をX線回析分析法等により調べたところ、アナターゼ型の酸化チタン(TiO)であることが確認され、また走査型電子顕微鏡(SEM)等により観察したところ被膜表面は粒径10〜20nm程度の酸化チタンの超微粒子から成り、3〜5nm程度の細孔を有していた。次いで酸化チタン被膜が形成された後の金属ドープシリカ系ガラス発泡体の重量(g)を測定することにより、金属ドープシリカ系ガラス発泡体の重量に対する酸化チタン被膜の、重量比率(%)を求めた。
【0105】
(比較例1)
まず、ガラス形成原料として高純度四塩化ケイ素(SiCl)のみを準備し、酸水素火炎加水分解法により多孔質白色ガラス体(スート体)を合成した。得られた多孔質白色ガラス体の寸法は直径約200mm厚さ約50mmの円柱体形状であり、スート堆積に伴って層状構造を示すものであった。多孔質白色ガラス体のOH基濃度は約1500wt.ppmであった。
【0106】
次いで、この多孔質白色ガラス体を電気炉内のシリカガラス製チャンバー内に設置し、一度チャンバー内を圧力10Pa以下の真空として窒素(N)ガスと置換し、その後10Pa(ほぼ大気圧)の窒素ガスで希釈した50vol.%アンモニアガスを600ml/minで流しつつ1000℃2時間のアンモニア処理を行った。
【0107】
次いでアンモニア処理済の多孔質白色ガラス体を電気炉内に設置し、大気雰囲気下、1550℃、30分間の条件で、溶融発泡処理を行った。溶融発泡処理されたシリカガラス体を電気炉から取り出した後、加工・成型して直径250mm厚さ70mmの円柱状のシリカガラス発泡体を得た。
【0108】
(比較例2)
比較例1と同様に多孔質白色ガラス体を合成、アンモニア処理、溶融発泡処理を行った。
次いで実施例3と同様の条件でシリカガラス発泡体の表面にアナターゼ型酸化チタンの被膜処理を行った。
【0109】
【表2】

【0110】
表2に示した浄化試験の結果からわかるように、本発明に係る金属ドープシリカ系ガラス発泡体は、光触媒作用を有する光触媒体として機能することが確認できた。その光触媒作用は、酸化チタンを含有しないシリカガラスの表面に酸化チタン被膜が形成された、比較例2のシリカガラス発泡体と同等程度以上の光触媒作用であった。
また、本発明に係る金属ドープシリカ系ガラス発泡体は、可視光による光触媒作用も認められた。
また、金属ドープシリカ系ガラス発泡体の表面に酸化チタンの被膜を形成した実施例3の場合は、より良好な結果が得られた。
【0111】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は単なる例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】本発明の金属ドープシリカ系ガラス発泡体を示した模式的な断面図であり、(a)はその一例を示した図であり、(b)は別の一例を示した図である。
【図2】金属ドープシリカ系ガラス発泡体の処理能力を評価する装置の一例として、実施例のアセトアルデヒド浄化試験装置を示した概略図である。
【図3】中圧水銀ランプの相対分光強度スペクトル(波長365nmを相対強度100とする)を示すグラフである。
【図4】本発明に係る金属ドープシリカ系ガラス発泡体と光源とを具備する浄化装置の一例を示した概略断面図である。
【図5】本発明に係る金属ドープシリカ系ガラス発泡体と光源とを具備する浄化装置の別の一例を示した概略断面図である。
【符号の説明】
【0113】
10…金属ドープシリカ系ガラス発泡体、 11…シリカ系ガラス領域、
12…連続気泡、 13…独立気泡、 14…光触媒材料被膜、
21…アセトアルデヒドガスボンベ、 22…酸素ガスボンベ、
23…ガス圧力調整器、 24…マスフローコントローラ、
25…反応容器、
26a…光源(中圧水銀ランプ)、 26b…ランプ光源調整用フィルター、
27…金属ドープシリカ系ガラス発泡体、
28…ガス分析器(ガスクロマトグラフ装置)、
29…排気ファン、
40…光触媒反応ユニットカバー、 41…紫外可視光源、
42…紫外可視光反射板、 43…光触媒反応チャンバー、
44…耐圧補強フィン、 45…光触媒体(金属ドープシリカ系ガラス発泡体)、
46…汚染ガス導入口、 47…浄化ガス出口、
50…排気ガス処理ユニットカバー、 51…光触媒反応チャンバー、
52…光触媒体(金属ドープシリカ系ガラス発泡体)、
53a、53b…紫外可視光源、
54…排気ガス導入口、 55…浄化ガス排出口、
56…冷却空気入口、 57…冷却空気出口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカを主成分とするシリカ系ガラスの発泡体を製造する方法であって、少なくとも、
ケイ素化合物及びチタン化合物を原料として、火炎加水分解法により、シリカ系ガラス微粒子を基材に堆積させ、OH基を含有する多孔質白色シリカ系ガラス体を形成する工程と、
前記多孔質白色シリカ系ガラス体を、少なくともチタン以外の遷移金属元素の化合物を含有する溶液に浸漬した後に加熱乾燥することにより金属ドープ処理する工程と、
前記金属ドープ処理した多孔質白色シリカ系ガラス体をアンモニアガス含有雰囲気中にて加熱することによりアンモニア処理する工程と、
前記アンモニア処理した多孔質白色シリカ系ガラス体を加熱する事により溶融発泡させて金属ドープシリカ系ガラス発泡体とする溶融発泡工程と
を含むことを特徴とする金属ドープシリカ系ガラス発泡体の製造方法。
【請求項2】
前記金属ドープ処理工程においてドープする金属元素を、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、パラジウム、銀、白金、セリウム、ネオジムの少なくともいずれか一種とすることを特徴とする請求項1に記載の金属ドープシリカ系ガラス発泡体の製造方法。
【請求項3】
前記金属ドープ処理工程において、さらに、アルミニウムをドープすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の金属ドープシリカ系ガラス発泡体の製造方法。
【請求項4】
前記金属ドープ処理工程において、さらに、チタンをドープすることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の金属ドープシリカ系ガラス発泡体の製造方法。
【請求項5】
前記アンモニア処理を400〜1000℃にて行うことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の金属ドープシリカ系ガラス発泡体の製造方法。
【請求項6】
前記溶融発泡を1000〜1700℃にて行うことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の金属ドープシリカ系ガラス発泡体の製造方法。
【請求項7】
少なくとも前記溶融発泡工程よりも後に、前記金属ドープシリカ系ガラス発泡体中に残存する独立気泡を溶液中にて浸食処理することにより連続気泡に改質させる工程を有することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の金属ドープシリカ系ガラス発泡体の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の金属ドープシリカ系ガラス発泡体の製造方法によって製造された金属ドープシリカ系ガラス発泡体に対し、さらに、該金属ドープシリカ系ガラス発泡体の表面に光触媒材料の被膜を形成する処理を行うことを特徴とする金属ドープシリカ系ガラス発泡体の製造方法。
【請求項9】
シリカを主成分とするシリカ系ガラスの発泡体であって、チタンの含有量が1〜20wt.%であり、窒素の含有量が100〜10000wt.ppmであり、チタン以外の遷移金属元素の合計含有量が10〜5000wt.ppmであり、かさ密度が0.05〜1.2g/cmであることを特徴とする金属ドープシリカ系ガラス発泡体。
【請求項10】
前記金属ドープシリカ系ガラス発泡体が、光触媒作用を有する光触媒体として機能するものであることを特徴とする請求項9に記載の金属ドープシリカ系ガラス発泡体。
【請求項11】
前記金属ドープシリカ系ガラス発泡体に含有される、チタン以外の遷移金属元素が、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、パラジウム、銀、白金、セリウム、ネオジムの少なくともいずれか一種であることを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の金属ドープシリカ系ガラス発泡体。
【請求項12】
前記金属ドープシリカ系ガラス発泡体は、さらに、アルミニウムを含有することを特徴とする請求項9ないし請求項11のいずれか一項に記載の金属ドープシリカ系ガラス発泡体。
【請求項13】
前記金属ドープシリカ系ガラス発泡体の圧縮強度が5kg/cm以上であることを特徴とする請求項9ないし請求項12のいずれか一項に記載の金属ドープシリカ系ガラス発泡体。
【請求項14】
前記金属ドープシリカ系ガラス発泡体のOH基含有量が1〜100wt.ppmであることを特徴とする請求項9ないし請求項13のいずれか一項に記載の金属ドープシリカ系ガラス発泡体。
【請求項15】
請求項9ないし請求項14のいずれか一項に記載の金属ドープシリカ系ガラス発泡体の表面に、さらに、光触媒材料の被膜が形成されたものであることを特徴とする金属ドープシリカ系ガラス発泡体。
【請求項16】
少なくとも、
光触媒反応器と、
該光触媒反応器内に収容された、請求項9ないし請求項15のいずれか一項に記載の金属ドープシリカ系ガラス発泡体と、
少なくとも紫外光及び可視光を含む光線を発する光源と
を具備し、前記光源で前記金属ドープシリカ系ガラス発泡体に前記光線を照射しながら、前記金属ドープシリカ系ガラス発泡体を収容した前記光触媒反応器に被処理物を通過させ、光触媒作用によって被処理物を浄化処理するものであることを特徴とする浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−279491(P2009−279491A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−132276(P2008−132276)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【出願人】(000190138)信越石英株式会社 (183)
【Fターム(参考)】