説明

金属ナノ粒子の製造方法、並びに金属細線及び金属膜及びその形成方法

【課題】金属の高濃度化を実現しつつ、低温焼成によって実用的な導電率を達成できる、安定した金属ナノ粒子の製造方法、並びに金属細線及び金属膜及びその形成方法の提供。
【解決手段】脂肪酸の有機金属化合物、直鎖若しくは分枝構造を有する脂肪族アミンの金属錯体、又は有機金属化合物と金属錯体との混合物の1種を非極性溶媒に溶解せしめ、この液に還元剤を添加して還元処理し、金属ナノ粒子を得る金属ナノ粒子の製造方法であって、さらに、還元処理を、還元剤を添加し、水素ガス、一酸化炭素ガス、水素含有ガス、又は一酸化炭素含有ガスを液中に導入しながら行い、還元処理の後、液中に脱イオン水を添加し、得られた混合物を攪拌し、次いで静置して液中に存在する不純物を極性溶媒に移行させ、非極性溶媒中の不純物濃度を低減させて金属ナノ粒子を得る。金属ナノ粒子の分散液を基材に塗布し、乾燥後低温焼成して導電性を有する金属細線又は金属膜を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノ粒子の製造方法、並びに金属細線及び金属膜及びその形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、100nm以下の金属ナノ粒子からなる導電性金属ナノ粒子の製造方法としては、貴金属又は銅のイオンを還元することにより、貴金属又は銅のコロイドを得る方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、アミノ基とカルボキシル基を少なくとも1個有する化合物を含有する金属コロイド液が知られている(例えば、特許文献2参照)。しかし、いずれの場合も、高濃度で安定した金属コロイドを作製することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−319538号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2002−245854号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気電子工業の分野で用いられる配線の形成法では、近年、低温化が進んでいる。また、金属ナノ粒子を塗布・乾燥・焼成する基材としては、ガラス、ポリイミド等の種々のものが使用されており、これらの基材以外にも、最近では、ガラス上にTFT(薄膜トランジスタ)が搭載されている基板に対しても金属ナノ粒子を適用することがあり、成膜温度の低温化が要求されている。焼成温度は、その基材の性質にもよるが、低いものは200℃での焼成が要求されている。
【0005】
こうした状況の中、低温焼成で、しかもできるだけ塗布回数或いは成膜回数を少なくして所望の厚さを有する配線を形成したいという要求は強い。そのためには、低温焼成でも抵抗率が低い配線が得られ、しかも金属濃度が高い分散金属ナノ粒子を得ることが望まれている。従来、このような用途に用いられる金属ナノ粒子からなる膜を形成するには、低抵抗を実現できるが高温焼成が必要であったり、低温処理が可能であるが塗布回数が多くなる等の問題があった。また、塗布回数を少なくするために、塗布液の固形分濃度を何らかの方法で濃くしたとしも、得られた液が不安定になり、2次凝集を起こして金属粒子が沈降するという問題もあった。
【0006】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解決することにあり、塗布回数或いは成膜回数を低減できるように金属固形分の高濃度化を実現しつつ、しかも低温焼成処理によって十分な導電率を達成できる、安定した金属ナノ粒子の製造方法、並びに金属ナノ粒子分散液を用いて得られた金属細線及び金属膜及びその形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の金属ナノ粒子の製造方法は、脂肪酸の有機金属化合物、直鎖若しくは分枝構造を有する脂肪族アミンの金属錯体、又は該有機金属化合物と該金属錯体との混合物の1種を非極性溶媒に溶解せしめ、この液に還元剤を添加して還元処理し、金属ナノ粒子を得る金属ナノ粒子の製造方法であって、さらに、該還元処理を、該還元剤を添加し、水素ガス、一酸化炭素ガス、水素含有ガス、又は一酸化炭素含有ガスを該液中に導入しながら行い、該還元処理の後、該液中に脱イオン水を添加し、得られた混合物を攪拌し、次いで静置して該液中に存在する不純物を極性溶媒に移行させ、該非極性溶媒中の不純物濃度を低減させることを特徴とする。
【0008】
前記金属ナノ粒子の大きさが、1nm以上100nm以下であることを特徴とする。
【0009】
前記得られた金属ナノ粒子を含む混合物を濃縮し、次いで該金属ナノ粒子を再分散して、金属ナノ粒子の濃度を5wt%以上90wt%以下にコントロールすることを特徴とする。
【0010】
前記有機金属化合物が、分散剤として、各金属ナノ粒子の周囲に付着していること、そして該有機金属化合物が、脂肪酸の有機金属化合物、アミンの金属錯体、又は該脂肪酸の有機金属化合物と該アミンの金属錯体との混合物であることを特徴とする。
【0011】
前記脂肪酸が、直鎖又は分枝構造を有するC〜C22の飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸から選ばれた少なくとも1種の脂肪酸であることを特徴とする。
【0012】
前記脂肪酸が、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、エイコサン酸、ドコサン酸、2−エチルヘキサン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸から選ばれた少なくとも1種の脂肪酸であることを特徴とする。
【0013】
前記アミンが、直鎖又は分枝構造を有する脂肪族アミンであることを特徴とする。
【0014】
前記アミンが、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、2−エチルヘキシルアミン、1,3−ジメチル−n−ブチルアミン、1−アミノウンデカン、1−アミノトリデカンから選ばれた少なくとも1種のアミンであることを特徴とする。
【0015】
本発明の金属細線又は金属膜の形成方法は、直鎖若しくは分枝構造を有するC〜C22の飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸から選ばれた少なくとも1種の脂肪酸の有機金属化合物、直鎖若しくは分枝構造を有する脂肪族アミンの金属錯体、又は該有機金属化合物と該金属錯体との混合物を非極性溶媒に溶解せしめ、この液に還元剤を添加して還元処理し、金属ナノ粒子を得る際に、さらに、該還元処理を、該還元剤を添加し、水素ガス、一酸化炭素ガス、水素含有ガス、又は一酸化炭素含有ガスを該液中に導入しながら行い、該還元処理の後、該液中に脱イオン水を添加し、得られた混合物を攪拌し、次いで静置して該液中に存在する不純物を極性溶媒に移行させ、該非極性溶媒中の不純物濃度を低減させることによって製造された金属ナノ粒子含有分散液を基材表面に塗布し、次いで乾燥後に分散液の被覆層を焼成して導電性を有する金属細線又は金属膜を形成することを特徴とする。本発明の金属細線は、この金属細線の形成方法によって得られ、また、金属膜は前記金属膜の形成方法によって得られたものである。前記焼成の温度が、140〜300℃、好ましくは140〜220℃であることを特徴とする。
【0016】
本発明の金属細線又は金属膜の形成方法は、直鎖若しくは分枝構造を有するC〜C22の飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸から選ばれた少なくとも1種の脂肪酸の有機金属化合物、直鎖若しくは分枝構造を有する脂肪族アミンの金属錯体、又は該有機金属化合物と該金属錯体との混合物の1種を非極性溶媒に溶解せしめ、この液に還元剤を添加して還元処理し、金属ナノ粒子を得、次いでこの金属ナノ粒子を再分散して、金属ナノ粒子の濃度を5wt%以上90wt%以下にコントロールして金属ナノ粒子を得る際に、さらに、該還元処理を、還元剤を添加し、水素ガス、一酸化炭素ガス、水素含有ガス、又は一酸化炭素含有ガスを該液中に導入しながら行い、該還元処理の後、該液中に脱イオン水を添加し、得られた混合物を攪拌し、次いで静置して該液中に存在する不純物を極性溶媒に移行させ、該非極性溶媒中の不純物濃度を低減させることによって製造された金属ナノ粒子含有分散液を基材表面に塗布し、次いで乾燥後に分散液の被覆層を焼成して導電性を有する金属細線又は金属膜を形成することを特徴とする。本発明の金属細線は、この金属細線の形成方法によって得られ、また、金属膜はこの金属膜の形成方法によって得られたものである。前記焼成の温度が、140〜300℃、好ましくは140〜220℃であることを特徴とする。
【0017】
本発明の金属細線又は金属膜の形成方法はさらに、直鎖若しくは分枝構造を有するC〜C22の飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸から選ばれた少なくとも1種の脂肪酸の有機金属化合物、直鎖若しくは分枝構造を有する脂肪族アミンの金属錯体、又は該有機金属化合物と該金属錯体との混合物の1種を非極性溶媒に溶解せしめ、この液に還元剤を添加して還元処理し、金属ナノ粒子を得、次いで濃縮して得られた金属ナノ粒子を再度分散せしめて、5wt%以上90wt%以下の金属ナノ粒子濃度を有する金属ナノ粒子分散液を得る際に、さらに、該還元処理を、還元剤を添加し、水素ガス、一酸化炭素ガス、水素含有ガス、又は一酸化炭素含有ガスを該液中に導入しながら行い、該還元処理の後、該液中に脱イオン水を添加し、得られた混合物を攪拌し、次いで静置して該液中に存在する不純物を極性溶媒に移行させ、該非極性溶媒中の不純物濃度を低減させることによって製造された金属ナノ粒子含有分散液を基材表面に塗布し、次いで乾燥後に分散液の被覆層を焼成して導電性を有する金属細線又は金属膜を形成することを特徴とする。本発明の金属細線は、この金属細線の形成方法によって得られ、また、金属膜はこの金属膜の形成方法によって得られたものである。前記焼成の温度が、140〜300℃、好ましくは140〜220℃であることを特徴とする。
【0018】
前記金属ナノ粒子の製造方法により、各金属の周りに分散剤として有機金属化合物が付着している金属ナノ粒子が得られる。この有機金属化合物は、貴金属及び遷移金属から選ばれた少なくとも1種の金属又はこれらの金属の少なくとも2種からなる合金を含むものであり、有機金属化合物は、脂肪酸の有機金属化合物、アミンの金属錯体、脂肪酸の有機金属化合物とアミンの金属錯体との混合物であり、脂肪酸は、直鎖又は分枝構造を有するC〜C22の飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸から選ばれた少なくとも1種の脂肪酸であり、例えば、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、エイコサン酸、ドコサン酸、2−エチルヘキサン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸から選ばれた少なくとも1種の脂肪酸である。また、アミンは、直鎖又は分枝構造を有するC〜C13の脂肪族アミンであり、例えば、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、2−エチルヘキシルアミン、1,3−ジメチル−n−ブチルアミン、1−アミノウンデカン、1−アミノトリデカンから選ばれた少なくとも1種のアミンである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高濃度の安定した金属ナノ粒子分散液を提供できるので、その塗布回数、成膜回数を低減できると共に、しかも220℃程度の低温での焼成処理によっても十分実用的な導電率を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例5で作製した本発明の銀ナノ粒子のTOF−SIMS分析の結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明における金属ナノ粒子の構成金属は、Ag、Au、Cu、Pt、Pd、W、Ni、Ta、In、Sn、Zn、Cr、Fe、Co、及びSi等からなる群から選ばれた1種若しくは2種以上の金属又はこれら金属の少なくとも2種からなる合金であり、目的・用途に合わせて適宜選定すれば良く、これらの金属のうち、Ag、Au等の貴金属、及びCuから選ばれた少なくとも1種の金属、又はこれらの金属の少なくとも2種からなる合金が好ましい。還元剤由来のB、N、P等が混在してもかまわない。上記金属で構成された金属ナノ粒子は、この金属の周りに分散剤として有機金属化合物が付着している構造を有する。ここで言う「付着」とは、有機酸金属塩 、金属アミン錯体が金属イオンを介して金属粒子の表面に吸着することをいい、金属粒子が有機分散体に安定に分散するのを助けている状態にある。
【0022】
上記有機金属化合物としての脂肪酸の有機金属化合物を構成する脂肪酸は、C〜C22の飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸から選ばれた少なくとも1種の脂肪酸であり、好ましくは、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、エイコサン酸、ドコサン酸、2−エチルヘキサン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸から選ばれた少なくとも1種の脂肪酸である。
また、有機金属化合物としてのアミンの金属錯体を構成するアミンは、例えばアルキルアミンから選ばれた少なくとも1種であればよい。
【0023】
本発明で使用することのできるアルキルアミンとしては、特に限定されるわけではなく、第1〜3級アミンであっても、モノアミン、ジアミン、トリアミン等の多価アミンであっても良い。特に、炭素数4〜20の主骨格を持つアルキルアミンが好ましく、炭素数8〜18の主骨格を持つアルキルアミンが安定性、ハンドリング性の点からはさらに好ましい。また、全ての級数のアルキルアミンが分散剤として有効に働くが、第1級のアルキルアミンが安定性、ハンドリング性の点からは好適に用いられる。アルキルアミンの主鎖の炭素数が4より短いと、アミンの塩基性が強過ぎて金属ナノ粒子を腐食する傾向があり、最終的にはこのナノ粒子を溶かしてしまうという問題がある。また、アルキルアミンの主鎖の炭素数が20よりも長いと、金属ナノ分散液の濃度を高くしたときに、分散液の粘度が上昇してハンドリング性がやや劣るようになり、また、焼成後の金属細線や膜中に炭素が残留しやすくなって、比抵抗値が上昇するという問題がある。
【0024】
本発明で使用することができるアルキルアミンの具体例としては、例えば、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、ドデシルアミン、ヘクサドデシルアミン、オクタデシルアミン、ココアミン、タロウアミン、水素化タロウアミン、オレイルアミン、ラウリルアミン、及びステアリルアミンなどのような第1級アミン、ジココアミン、ジ水素化タロウアミン、及びジステアリルアミンなどのような第2級アミン、並びにドデシルジメチルアミン、ジドデシルモノメチルアミン、テトラデシルジメチルアミン、オクタデシルジメチルアミン、ココジメチルアミン、ドデシルテトラデシルジメチルアミン、及びトリオクチルアミンなどのような第3級アミンや、その他に、ナフタレンジアミン、ステアリルプロピレンジアミン、オクタメチレンジアミン、及びノナンジアミンなどのようなジアミンがある。これらのアミン中、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、2−エチルヘキシルアミン、1,3−ジメチル−n−ブチルアミン、1−アミノウンデカン、1−アミノトリデカンが好ましい。
【0025】
本発明によれば、金属ナノ粒子を含んだ分散液中のアルキルアミンの含有量は、金属ナノ粒子金属重量基準で、0.1重量%以上10重量%以下、望ましくは1重量%以上5重量%以下である。0.1重量%未満では、脂肪酸金属化合物同士が結合しあい増粘作用が現れ、還元後の分散性が悪くなり、一方10重量%を超えると、窒素と金属との強固な結合による効果が出始め、焼成熱分解過程においても窒素が取りきれずに低温焼成特性の妨げになる。
【0026】
本発明によれば、上記有機金属化合物はまた、任意の割合の脂肪酸の有機金属化合物とアミン金属錯体との混合物であってもよい。
本発明の金属ナノ粒子の製造方法によれば、脂肪酸の有機金属化合物及び/又はアミンの金属錯体を非極性溶媒に溶解せしめ、この液に還元剤を添加して還元処理し、金属ナノ粒子を得る。
【0027】
上記還元剤としては、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、ジメチルアミンボラン、ターシャリーブチルアミンボラン等を用いることが好ましい。還元剤としては、これらに限定されるわけではなく、同じ還元作用を有するものであれば、公知の他の還元剤を用いてもよい。この還元反応は、反応系にさらに水素ガス、一酸化炭素ガス、水素含有ガス、一酸化炭素含有ガスを導入することにより行われることが好ましい。
上記還元処理は、攪拌処理中にバブリングを行い、室温或いは加熱還流下のような条件下で行われる。
【0028】
上記したように、非極性溶媒中で還元処理して金属コロイドを形成するが、反応液中には不純物(例えば、還元剤中のホウ素等)が存在する。そのため、反応液に脱イオン水を添加、攪拌した後、所定の時間静置して上澄みを回収する。このとき、反応液中に存在する不純物のうち親水性の不純物は、水層の方に移動するので、不純物の低減下が可能になる。脱イオン水の代わりに炭素数の短い極性溶媒を使用してもよい。さらに、過剰な脂肪酸や脂肪酸エステルやアミン等を取り除き、純度及び金属濃度を上げるため、限外濾過等の濾過により濃縮することができ、その結果、5wt%以上90wt%以下の金属ナノ粒子を含んだ分散液を得ることができる。
【0029】
本発明によれば、以上のように製造された金属ナノ粒子分散液の場合、90重量%の高濃度であってもナノ粒子同士が凝集を起こさず、また、分散液の流動性が失われることもない。90重量%の金属ナノ粒子分散液を、例えば、IC基板などに用いられる多層配線やICの内部配線に用いる場合、この分散液は流動性を失うこともなく、また、金属ナノ粒子が凝集を起こすことも無いため、電導性が均一な欠損の無い微細な配線パターンを形成することができる。
【0030】
本発明において用いる非極性溶媒は、例えば、極性の弱い溶媒であって、主鎖の炭素数が6〜18である有機溶媒を用いることが好ましい。炭素数が6未満であると、溶媒極性が強くて分散しないか、または乾燥が早すぎて分散液製品のハンドリング上で問題がある。炭素数が18を超えると、粘度の上昇や焼成時に炭素が残留し易いという問題がある。これらの溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、トリメチルペンタンなどの長鎖アルカンや、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどの環状アルカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、ドデシルベンゼンなどの芳香族炭化水素、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、デカノール、シクロヘキサノール、テルピネオールなどのアルコールを用いることができる。これらの溶媒は、単独で用いても、混合溶媒の形で用いても良い。例えば、長鎖アルカンの混合物であるミネラルスピリットであっても良い。
また、極性溶媒は、炭素数の短い溶媒であり、例えば、メタノール、エタノール、アセトン等が好ましい。
【0031】
本発明により提供できる金属ナノ粒子の大きさは100nm以下である。IC基板等の多層配線や半導体の内部配線等の場合、近年ますますファイン化が進み、1μm以下の配線が要求されてきているので、金属ナノ粒子の大きさは、要求される線幅の1/10以下、すなわち1nm以上100nm以下、好ましくは1nm以上10nm以下であることが要望されるが、本発明の金属ナノ粒子は、この要望を充分に満足する。また、100nmより大きい粒子は自重により沈降現象を生じ、良好な分散特性が得られなくなる。
本発明の導電性を有する金属細線又は金属膜の形成方法によれば、上記金属ナノ粒子分散液を各種基材に、例えば、スピンコート法等の塗布法を用いて塗布し、乾燥後焼成する。この際の乾燥温度は、塗布液が流れない程度であれば良く、例えば、50〜100℃で充分である。また、焼成温度は、例えば、140〜300℃、好ましくは、140〜220℃で、充分実用的な導電率を達成できる。
【実施例1】
【0032】
有機酸塩としてオレイン酸銀、アミン錯体としてオクチルアミンの銀錯体を選定した。始めにオレイン酸銀28g、オクチルアミンの銀錯体12gを非極性溶媒に加え、均一な液とした。この後、ジメチルアミンボランを10%となるようにメタノールに溶解させた還元剤溶液0.1gを上記オレイン酸銀とオクチルアミン銀錯体との溶液に添加し、反応させた。還元剤溶液添加直後に、液の色は透明から茶色に変化し、金属コロイドの形成が確認された。このままではボロン等の不純物が存在するため、この反応液に脱イオン水を加え、激しく攪拌した後一晩静置し、上澄みだけを回収した。さらに、熱分解に影響を与える過剰なオレイン酸やオクチルアミンを取り除くため、限外濾過にて濃縮し、非極性溶媒としてトルエンを用いて濃度調整を行い、濃度35wt%のAg分散液を調製した。このAgナノ粒子の粒径は5nmであった。
この分散液をスピンコート法により、基板(ガラス)上に塗布し、100℃乾燥、250℃焼成により銀の薄膜を作製した。この薄膜の表面抵抗を測定したところ、膜厚0.3μmで比抵抗3.6×10−6Ω・cmが得られた。
【実施例2】
【0033】
有機酸としてリノール酸銀、また、アミン錯体としてオクチルアミンの銀錯体を使用した以外は、実施例1と同様な方法で銀ナノ粒子の合成、成膜、評価を行った。このときの抵抗値は、膜厚0.3μmで比抵抗3.6×10−6Ω・cmであった。
【0034】
以下の表1に示す原料を用いて実施例1と同様な方法で金属ナノ粒子の合成、成膜、評価を行った。
【0035】
【表1】

【0036】
実施例5に示したオレイン酸Ag、ドデシルアミンAg錯体を用いて作製した銀ナノ粒子のTOF−SIMS分析を行った結果を図1に示す。この結果から、金属表面に、オレイン酸銀(Oleic acid+Ag)又はドデシルアミン銀(Dodecylamine+Ag)が付着していることが確認された。
【0037】
(比較例1)
10%硝酸銀水溶液に対し、分散剤として高分子系のソルスパース24000(商品名:ゼネカ社製)を使用し、還元剤としてジエタノールアミンを使用し、実施例1と同様な方法で銀ナノ粒子分散液を調製した。反応後に、最終濃度を35%に調整した。
この分散液をスピンコート法により、基板上に塗布し、100℃乾燥、250℃焼成により銀の薄膜を作製した。この薄膜の表面抵抗を測定したところ、膜厚0.3μで比抵抗7×10−2Ω・cmであった。
【0038】
(比較例2)
合成グリシン0.44gと硫酸第一鉄七水和物3.2gとを90mLのイオン交換水に溶解し、水酸化ナトリウム水溶液(和光純薬工業(株)製、試薬特級をイオン交換水で適当な濃度に調整したもの)でpH7に調整した後、イオン交換水を添加して全量を128mLにした。次に、室温下にマグネティックスターラーで攪拌しながら、これに1gの硝酸銀を含む水溶液2mLを滴下させて金属含有量約5g/Lの銀コロイド液を作製した。このとき、銀1gに対するグリシンの量は0.69gとなる。
上記銀コロイド液の濃度が低いため、限外濾過により高濃度化を行ったが、途中で凝集を起こした。また、十分な導電性を得るためには膜厚を稼がなければならないが、この濃度では10回以上の塗布が必要であった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明において、金属ナノ粒子を含む分散液は、金属濃度が非常に高いので成膜回数を低減できると共に、低温焼成処理によって十分実用的な導電率を達成できる。この金属ナノ粒子分散液は、例えば、電気電子工業等の分野でフラットパネルディスプレー等のディスプレー機器やプリント配線の分野で金属配線等の作製に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸の有機金属化合物、直鎖若しくは分枝構造を有する脂肪族アミンの金属錯体、又は該有機金属化合物と該金属錯体との混合物の1種を非極性溶媒に溶解せしめ、この液に還元剤を添加して還元処理し、金属ナノ粒子を得る金属ナノ粒子の製造方法であって、さらに、該還元処理を、該還元剤を添加し、水素ガス、一酸化炭素ガス、水素含有ガス、又は一酸化炭素含有ガスを該液中に導入しながら行い、該還元処理の後、該液中に脱イオン水を添加し、得られた混合物を攪拌し、次いで静置して該液中に存在する不純物を極性溶媒に移行させ、該非極性溶媒中の不純物濃度を低減させることを特徴とする金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記金属ナノ粒子の大きさが、1nm以上100nm以下であることを特徴とする請求項1記載の金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記得られた金属ナノ粒子を含む混合物を濃縮し、次いで該金属ナノ粒子を再分散して、金属ナノ粒子の濃度を5wt%以上90wt%以下にコントロールすることを特徴とする請求項1又は2記載の金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記有機金属化合物が、分散剤として、各金属ナノ粒子の周囲に付着していること、そして該有機金属化合物が、脂肪酸の有機金属化合物、アミンの金属錯体、又は該脂肪酸の有機金属化合物と該アミンの金属錯体との混合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
前記脂肪酸が、直鎖又は分枝構造を有するC〜C22の飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸から選ばれた少なくとも1種の脂肪酸であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
前記脂肪酸が、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、エイコサン酸、ドコサン酸、2−エチルヘキサン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸から選ばれた少なくとも1種の脂肪酸であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
前記アミンが、直鎖又は分枝構造を有する脂肪族アミンであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項8】
前記アミンが、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、2−エチルヘキシルアミン、1,3−ジメチル−n−ブチルアミン、1−アミノウンデカン、1−アミノトリデカンから選ばれた少なくとも1種のアミンであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項9】
直鎖若しくは分枝構造を有するC〜C22の飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸から選ばれた少なくとも1種の脂肪酸の有機金属化合物、直鎖若しくは分枝構造を有する脂肪族アミンの金属錯体、又は該有機金属化合物と該金属錯体との混合物を非極性溶媒に溶解せしめ、この液に還元剤を添加して還元処理し、金属ナノ粒子を得る際に、さらに、該還元処理を、該還元剤を添加し、水素ガス、一酸化炭素ガス、水素含有ガス、又は一酸化炭素含有ガスを該液中に導入しながら行い、該還元処理の後、該液中に脱イオン水を添加し、得られた混合物を攪拌し、次いで静置して該液中に存在する不純物を極性溶媒に移行させ、該非極性溶媒中の不純物濃度を低減させることによって製造された金属ナノ粒子含有分散液を基材表面に塗布し、次いで乾燥後に分散液の被覆層を焼成して導電性を有する金属細線又は金属膜を形成することを特徴とする金属細線又は金属膜の形成方法。
【請求項10】
前記焼成の温度が、140〜300℃であることを特徴とする請求項9記載の金属細線又は金属膜の形成方法。
【請求項11】
請求項9又は10記載の形成方法によって得られた金属細線。
【請求項12】
請求項9又は10記載の形成方法によって得られた金属膜。
【請求項13】
直鎖若しくは分枝構造を有するC〜C22の飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸から選ばれた少なくとも1種の脂肪酸の有機金属化合物、直鎖若しくは分枝構造を有する脂肪族アミンの金属錯体、又は該有機金属化合物と該金属錯体との混合物の1種を非極性溶媒に溶解せしめ、この液に還元剤を添加して還元処理し、金属ナノ粒子を得、次いでこの金属ナノ粒子を再分散して、金属ナノ粒子の濃度を5wt%以上90wt%以下にコントロールして金属ナノ粒子を得る際に、さらに、該還元処理を、還元剤を添加し、水素ガス、一酸化炭素ガス、水素含有ガス、又は一酸化炭素含有ガスを該液中に導入しながら行い、該還元処理の後、該液中に脱イオン水を添加し、得られた混合物を攪拌し、次いで静置して該液中に存在する不純物を極性溶媒に移行させ、該非極性溶媒中の不純物濃度を低減させることによって製造された金属ナノ粒子含有分散液を基材表面に塗布し、次いで乾燥後に分散液の被覆層を焼成して導電性を有する金属細線又は金属膜を形成することを特徴とする金属細線又は金属膜の形成方法。
【請求項14】
前記焼成の温度が、140〜300℃であることを特徴とする請求項13記載の金属細線又は金属膜の形成方法。
【請求項15】
請求項13又は14記載の形成方法によって得られた金属細線。
【請求項16】
請求項13又は14記載の形成方法によって得られた金属膜。
【請求項17】
直鎖若しくは分枝構造を有するC〜C22の飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸から選ばれた少なくとも1種の脂肪酸の有機金属化合物、直鎖若しくは分枝構造を有する脂肪族アミンの金属錯体、又は該有機金属化合物と該金属錯体との混合物の1種を非極性溶媒に溶解せしめ、この液に還元剤を添加して還元処理し、金属ナノ粒子を得、次いで濃縮して得られた金属ナノ粒子を再度分散せしめて、5wt%以上90wt%以下の金属ナノ粒子濃度を有する金属ナノ粒子分散液を得る際に、さらに、該還元処理を、還元剤を添加し、水素ガス、一酸化炭素ガス、水素含有ガス、又は一酸化炭素含有ガスを該液中に導入しながら行い、該還元処理の後、該液中に脱イオン水を添加し、得られた混合物を攪拌し、次いで静置して該液中に存在する不純物を極性溶媒に移行させ、該非極性溶媒中の不純物濃度を低減させることによって製造された金属ナノ粒子含有分散液を基材表面に塗布し、次いで乾燥後に分散液の被覆層を焼成して導電性を有する金属細線又は金属膜を形成することを特徴とする金属細線又は金属膜の形成方法。
【請求項18】
前記焼成の温度が、140〜300℃であることを特徴とする請求項17記載の金属細線又は金属膜の形成方法。
【請求項19】
請求項17又は18記載の形成方法によって得られた金属細線。
【請求項20】
請求項17又は18記載の形成方法によって得られた金属膜。

【図1】
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【公開番号】特開2009−185390(P2009−185390A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115043(P2009−115043)
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【分割の表示】特願2003−317161(P2003−317161)の分割
【原出願日】平成15年9月9日(2003.9.9)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【出願人】(597065282)三菱マテリアル電子化成株式会社 (151)
【Fターム(参考)】