説明

金属ファイバー含有耐火れんがおよびこれを使用したライニング構造

【課題】せり割れの発生を抑制できる金属ファイバー含有耐火れんがとそのライニング構造を提供すること。
【解決手段】対向する3組の側面を有する六面体形状を有し、溶融金属に接触する稼働面とこの稼働面に対向する背面とを除く4つの側面のうち、その表面から深さ1mmまでに含まれる金属ファイバーの平均含有量が最も多い側面の金属ファイバーの平均含有量をa質量%、最も少ない側面の金属ファイバーの平均含有量をb質量%としたときに、b/a≦0.9および0.5≦a≦30を満足する金属ファイバー含有耐火れんがである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属の保持容器または処理装置の内面側や外面側に環状にライニングするために使用される耐火れんがおよびこれを使用したライニング構造に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融金属の保持容器または処理装置、例えば製鉄所の転炉、真空脱ガス装置、二次精錬炉、取鍋、混銑車などには耐火れんがが使用されている。耐火れんがは六面体形状を有し、これを保持容器または処理装置の内面側に(真空脱ガス装置の浸漬管などでは外面側にも)ライニングすることで溶融金属を保持あるいは処理することを可能としている。すなわち、耐火れんがは、環状構造体を形成する。
【0003】
耐火れんがのライニングの際には必ず耐火れんが間に目地が形成される。目地にはモルタルを充填する場合、膨張代を確保するためボール紙等の可燃消失物を挟む場合、何も挟まないいわゆる空目地の場合がある。モルタルは耐火れんがと比較して気孔率が大きいため耐食性に劣るという欠点がある。また、ライニング後予熱される際にはモルタルが焼結するまでは通気率が高いため、カーボン含有耐火れんがの場合は酸化されるという問題が発生する。
【0004】
可燃消失物を挟んだ場合にも同様に、ライニング後予熱される際に酸化されるという問題が生じるほか、目地部に地金やスラグが侵入する場合があり各部位の目地部の最適な厚みを設計することは容易ではない。
【0005】
空目地の場合はライニングする際に耐火れんが同士が滑りやすいため、耐火れんがの拘束が緩む場合があり、このようになると予熱中の酸化や地金の侵入、局所的な溶損等の問題が生じる。
【0006】
これらの問題の解決手段の一つとして、特許文献1に開示されているような金属ファイバーの添加がある。耐火れんが中に金属ファイバーを添加すると、耐火れんがの表面に露出したファイバーによってライニング時の耐火れんが間の滑りを抑制することができる。また、金属ファイバーの添加によって亀裂の進展が抑制されるという効果も奏する。
【0007】
さらに、金属ファイバーを添加した耐火れんがは、受鋼して高温になると耐火れんが間の目地部において隣接した耐火れんが中の金属ファイバー同士あるいは金属ファイバーと耐火れんがの間で反応して強固な結合を形成する。この結合によって目地部は強化され、地金やスラグの侵入を抑制することが可能となり、さらにはライニングの緩みを防止することができる。
【0008】
しかしながら、このような強固な結合によって耐火れんがは、溶融金属に接触する稼働面およびこの稼働面に対向する背面を除く4つの側面(以下、単に「4つの側面」という。)によって強固に拘束されるため、せり割れが生じて表面が剥離するため耐用性が低下する場合があった。なお、せり割れとは、受鋼時に耐火れんがの熱膨張によって周囲が拘束され、これによって稼働面と平行に亀裂が発生する現象のことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭54−130608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、せり割れの発生を抑制できる金属ファイバー含有耐火れんがとそのライニング構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記特許文献1では金属ファイバーを稼働面に垂直に配向させている。そのため、環状構造体を形成する耐火れんがの4つの側面には、それぞれほぼ同量の金属ファイバーが露出していると推定される。このため耐火れんがは各方向から同程度の力で拘束されることになり、これがせり割れの原因になっていることを本発明者は見いだした。そして、本発明者は、耐火れんがの拘束力に異方性を付与することで、せり割れを抑制することが可能になることを見いだし本発明に至った。
【0012】
すなわち、本発明の金属ファイバー含有耐火れんがは、溶融金属の保持容器または処理装置の内面側および/または外面側に環状にライニングするために使用される、金属ファイバーを含有する耐火れんがであって、対向する3組の側面を有する六面体形状を有し、溶融金属に接触する稼働面とこの稼働面に対向する背面とを除く4つの側面のうち、その表面から深さ1mmまでに含まれる金属ファイバーの平均含有量が最も多い側面の金属ファイバーの平均含有量をa質量%、最も少ない側面の金属ファイバーの平均含有量をb質量%としたときに、(1)式および(2)式を満足することを特徴とするものである。
b/a≦0.9 (1)
0.5≦a≦30 (2)
【0013】
本発明の金属ファイバー含有耐火れんが(以下、単に「耐火れんが」という。)は六面体形状を有し、その稼働面とは溶融金属に接触する面、背面とは稼働面に対向する面で鉄皮や芯金側の面である。なお、耐火れんがには切り欠き、溝、面取り等が設けられることがあり、厳密な六面体でない場合もあるが、本発明では対向する3組の側面を有していれば、切り欠き、溝、面取り等が設けられていても「六面体形状」というものとする。
【0014】
本発明の耐火れんがにおいて金属ファイバーの含有量を特定するのは、稼働面と背面を除く4つの側面である。これらの4つの側面は環状にライニングされる際に、上下左右に隣接した耐火れんがと同種の側面にて接触している。
【0015】
また、本発明において金属ファイバーの含有量は、4つの側面の表面から深さ1mmまでの平均含有量によって規定する。耐火れんが間の目地部においては、表面に露出している金属ファイバーの作用が最も大きいが、金属ファイバーは受熱によって溶融あるいは拡散するため、深さ1mm程度までであれば表面に露出した金属ファイバーと同様の作用をもたらす。したがって、金属ファイバーの含有量は、表面から深さ1mmまでの平均含有量によって規定する。なお、ライニングの際の滑り防止対策として、少なくとも一部のファイバーは4つの側面の表面に露出していることが好ましい。
【0016】
この金属ファーバーの含有量は、4つの側面の表面からそれぞれ1mmを削りだし、JIS−R2216に準拠して分析することによって特定することができる。本発明では、4つの側面の金属ファイバー含有量の中で最も多い含有量をa質量%、最も少ない含有量をb質量%と定義する。
【0017】
a質量%とb質量%の比は、上記(1)式に示すようにb/a≦0.9を満たす必要がある。b/aが0.9を超えると拘束力の異方性が小さくなり、せり割れによる剥離が生じやすくなる。拘束力の異方性は大きい方が好ましいので、好ましくはb/aは0.8以下、より好ましくは0.5以下である。また、b/a=0、すなわち、ある側面に金属ファイバーが存在しない場合であってもとくに問題はない。
【0018】
最も金属ファイバー含有量の多い側面の金属ファイバー含有量であるa質量%は、上記(2)式に示すように0.5≦a≦30を満足する必要がある。0.5質量%未満では金属ファイバーによる耐火れんが間の強固な結合を形成することが難しくなり、一方、30質量%を超えると目地部の耐食性の低下が著しくなり好ましくない。aの範囲については、好ましくは1質量%以上20質量%以下、より好ましくは2質量%以上10質量%以下である。
【0019】
4つの側面の金属ファイバーの含有量を制御する方法はとくに限定されないが、例えば次のような方法が挙げられる。
1.プレス成形時に他の部分とは金属ファイバー含有量が異なる坏土を下部ライナーと接触する面および/または上部ライナーと接触する面に少量投入してならした後にプレスする
2.金属ファイバーを均一に分散させた坏土をプレス成形する際に坏土中の金属ファイバーが加圧面と平行に配向しやすいように、配合投入後のならし作業や加圧速度を制御する。
3.耐火れんが製造後に金属ファイバーを含有する塗料等を塗布する。
【0020】
本発明の耐火れんがをライニングする場合、その目地は空目地が最も好ましいが、目地部に金属ファイバーを含有させることもできる。すなわち、目地材としてモルタルあるいは可燃消失物(ボール紙など)に金属ファイバーを混合し、これをライニングの際に目地部に使用することもできる。このように目地部に金属ファイバーが含有されている場合は、耐火れんがの4つの側面の表面から目地部の厚さ1mmまでおよび耐火れんがの深さ1mmまでに含まれる金属ファイバーの平均含有量によってa質量%およびb質量%を規定し、上記(1)式および(2)式を満足するようにすることで本発明の効果を得ることができる。なお、目地部の厚みが平均して1mm以下の場合は目地部全体と耐火れんがの深さ1mmまでに含まれる金属ファイバーの平均含有量によってa質量%およびb質量%を規定する。なお、目地部に金属ファイバーが含有されている場合は、耐火れんがの4つの側面の表面には必ずしも金属ファイバーは必要ない。
【0021】
金属ファイバーの種類はとくに限定されるものではなく、耐火物に添加されている公知の種類を適用することが可能で、例えば低炭素鋼、ステンレス、アルミウムなどのファイバーである。金属ファイバーの大きさもとくに限定されず、例えば直径0.1〜1mm、長さ1〜50mm程度のものが使用可能である。形状についてもストレート、ウエーブ、インデント、ドッグボーンなど各種形状の適用が可能である。
【0022】
本発明の耐火れんがの金属ファイバー以外の原料はとくに限定されるものではなく、一般的に耐火れんがとして使用されている原料で問題ない。主原料としては、例えば、マグネシア、アルミナ、シリカ、ジルコニア、ジルコン、スピネル、ムライト、クロミア、ろう石、黒鉛、炭化珪素から1種もしくは2種以上が選択される。また、副原料として、アルミニウム、アルミニウム合金、シリコン、ホウ素化合物、ピッチ、コークス、セラミックファイバー、カーボンファイバー、ガラス類などを適宜添加することが可能である。これらの主原料、副原料及び所定量の金属ファイバーに結合剤としてフェノール樹脂、フラン樹脂、ピッチ、タール、CMC、MC、PVAなどの有機結合剤、または珪酸ソーダ、硫酸アルミニウム、リグニンスルフォン酸塩、硫酸マグネシウム、リン酸塩などの無機結合剤と溶剤を適量添加した配合物を混練、成形、加熱処理することによって本発明の耐火れんがが製造できる。
【0023】
本発明の耐火れんがは、溶融金属の保持容器または処理装置の内面側や外面側に環状にライニングされる耐火れんが全体に適用しても良いが、一部に適用しても構わない。実際にこれらの保持容器および処理装置のライニングは、ゾーンライニングと呼ばれる必要特性に応じて異なる材質を部位別にライニングする手法が一般的であることから、使用条件や使用結果に応じて本発明を適用する部位を適宜選択することが重要である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、金属ファイバーを含有する耐火れんがをライニングした環状構造体におけるせり割れを大幅に抑制することができ、耐火れんがの耐用性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】耐火れんがのせり割れの評価方法を示す。
【図2】図1におけるピン貫通部の断面を示す
【図3】せり割れの形態を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を実施例に基づいて説明する。
【実施例】
【0027】
表1に示すように、4つの側面の金属ファイバー含有量の最大値(a質量%)と最小値(b質量%)の比が異なる耐火れんがを作製してせり割れの評価を行った。耐火れんがの作製にあたっては、マグネシアクリンカーが94質量%、鱗状黒鉛が5質量%、アルミニウム粉末が1質量%からなる耐火原料粉末に直径0.4mm、長さ10mmのステンレス製ファイバー(以下、単に「ファイバー」という。)を所定量添加し、フェノール樹脂と溶剤を適量添加して均一に混練して坏土を得た。ファイバーの添加量は耐火れんが内の平均含有量が表1に示すb質量%となるように調整した。この坏土とは別に、ファイバーの平均含有量がa質量%となるように調整した坏土を同様に作製した。成形は図1に示す供試れんが1の周方向の側面が成形時に上下方向となる方向で成形した。成形時には、最初に下部ライナー上にファイバーの平均含有量がa質量%である坏土を厚さ3mm程度になるように投入して平滑にならした後に、平均含有量がb質量%である坏土を投入して所定の形状に成形し、この成形体を250℃で乾燥して供試れんがとした。供試れんがの4つの側面の表層から1mmを削り取ってファイバーの含有量を化学分析した結果、坏土中のファイバーの平均含有量とほぼ同じであることを確認した。そこで、上記の坏土におけるa質量%またはb質量%を変化させることで、表1に示すようなb/a比の異なる供試れんがを作製した。
【0028】
せり割れの評価方法を図1に示す。供試れんが1を図1のように12分割×3段の空目地で環状に組み上げた。内径300mm、高さ300mmの円筒状の鉄パイプ2と上段および下段の供試れんが1との間の上下方向の拘束力を強固にするために、鉄パイプ2と同材質のピン3を供試れんが1の途中まで貫通させ、供試れんが1と鉄パイプ2との間にキャスタブル4を流し込んで供試れんが全体を鉄パイプ2に拘束した。このようにして供試れんが1による環状構造体を構築した。
【0029】
図2にピン貫通部の断面を示す。せり割れの評価にあたっては、環状構造体の内孔部分を酸素−プロパンバーナーにて加熱して供試れんが1の内面(稼働面)が1600℃になるまで昇温させた。冷却後、中段部の供試れんが1の外観異常(ライニングの緩みによる目地開き)を調査し、その後、解体してせり割れによる稼働面に平行な亀裂と目地部の溶損について調査を行った。その結果を表1に示す。せり割れでは、図3に模式的に示すように稼働面付近に稼働面にほぼ平行に亀裂1aが発生するが、図3とは異なって亀裂が上下方向には貫通していない場合や、周方向に貫通している場合もあり、これらの亀裂の大きさでせり割れを評価した。
【0030】
表1に示すように、b/aが0.9以下である本発明の実施例は比較例と比較してせり割れによる亀裂が小さく良好であることが明らかである。ただし、実施例1は微小な亀裂が発生しており、b/aは0.8以下であることがより好ましいことが分かる。b/aが0.9を超えている比較例1と比較例2は亀裂の発生程度が大きく不適当である。
【0031】
次に、表2に示すように、b/aを0.5で一定とし、a質量%を変化させて同様の評価を行った。供試れんがの作製方法は前述の方法と同一である。aが0.3質量%である比較例3はライニングの緩みによる目地開きが大きく不適当であった。また、aが40質量%である比較例4は目地部の溶損が激しく不適当であった。本発明の実施例であるaが0.5質量%以上、30質量%以下の範囲では外観異常または目地部の溶損が比較例と比べて小さく良好である。ただし、実施例7と実施例12は外観異常または目地部の溶損の兆候が見られることから、aは1質量%以上20質量%以下がより好ましいことが分かる。
【0032】
次に、目地部にファイバー入りのモルタルを適用して評価を行った。表3は、実施例3および8から11と比較例2から4に使用した供試れんがを使用し、供試れんがの側面間の目地部にマグネシアを主原料としてファイバーを添加したモルタルを厚さ2mmで施工した場合の評価結果を示す。モルタル中のファイバーの添加量は、供試れんがの側面のファイバー含有量に準じた量とし、均一に混練してモルタルを作製し、このモルタルを供試れんがの側面間の目地部に適用した。表3に示した実施例13から17から明らかなように、目地部に金属ファイバー入りのモルタルを適用した場合も、表1や表2に示した実施例と同様の良好な結果が得られている。一方、比較例5から比較例7では比較例2から4と同様の問題が生じており不適当である。
【0033】
なお、表3に示したa質量%、b質量%は、供試れんがの4つの側面の表面から目地部の厚さ1mmまでおよび供試れんがの深さ1mmまでに含まれるファイバーの平均含有量によって規定したものである。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

【符号の説明】
【0037】
1 供試れんが(耐火れんが)
1a 亀裂
2 鉄パイプ
3 ピン
4 キャスタブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属の保持容器または処理装置の内面側および/または外面側に環状にライニングするために使用される、金属ファイバーを含有する耐火れんがであって、対向する3組の側面を有する六面体形状を有し、溶融金属に接触する稼働面とこの稼働面に対向する背面とを除く4つの側面のうち、その表面から深さ1mmまでに含まれる金属ファイバーの平均含有量が最も多い側面の金属ファイバーの平均含有量をa質量%、最も少ない側面の金属ファイバーの平均含有量をb質量%としたときに、(1)式および(2)式を満足する金属ファイバー含有耐火れんが。
b/a≦0.9 (1)
0.5≦a≦30 (2)
【請求項2】
金属ファイバーの少なくとも一部が前記4つの側面の表面に露出している請求項1に記載の金属ファイバー含有耐火れんが。
【請求項3】
溶融金属の保持容器または処理装置の内面側および/または外面側に耐火れんがが環状に配置される部分の少なくとも一部に、請求項1に記載の金属ファイバー含有耐火れんがを配置してなるライニング構造。
【請求項4】
金属ファイバー含有耐火れんが間の目地が空目地である請求項3に記載のライニング構造。
【請求項5】
金属ファイバー含有耐火れんが間の目地部の少なくとも一部が金属ファイバーを含有する場合において、金属ファイバー含有耐火れんがの前記4つの側面の表面から目地部の厚さ1mmまでおよび金属ファイバー含有耐火れんがの深さ1mmまでに含まれる金属ファイバーの平均含有量によってa質量%およびb質量%を規定し、このときに(1)式および(2)式を満足する請求項3に記載のライニング構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−196578(P2011−196578A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61194(P2010−61194)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【Fターム(参考)】