説明

金属体の厚さ測定方法及び装置

【課題】 電磁波の浸透深さを超える範囲でも金属体の厚さを測定できる方法及び装置を提供すること。
【解決手段】 測定装置1を、金属製の測定対象Sに発生させた渦電流を検出する相互誘導型の検出コイル2と、渦電流を所定の位相で検波する位相検波回路3と、検波出力から測定対象Sの厚さを求める演算回路4とで構成する。検出コイル2は、測定対象Sを励磁コイルにより励磁周波数10Hz程度で励磁し、誘導コイルにより渦電流に対応する誘導出力を検出する。位相検波回路3は位相回路3aと検波回路3bとから構成され、交流発振器13の出力を位相回路3aに通して得た130°程度の位相の交流信号で、誘導コイルに発生する誘導出力の差分を検波する。演算回路4は、測定対象Sに対して予め測定されて記憶された金属の厚さと検波出力との相関関係に基づき、位相検波回路の出力から厚さを求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製の測定対象に発生させた所定周波数の渦電流を検出し、所定の検波位相で検波して、金属固有の検波出力に基づいて測定対象物の厚さを求める厚さ測定方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属体の厚さは、ノギスや超音波厚さ計により直接測定することが行われている。
また、アルサス電車線におけるステンレス鋼製のしゅう動部の残存厚さを測定する方法がある(特許文献1参照)。この方法では、アルサス電車線のしゅう動部から、500Hz〜20kHzの特定の励磁周波数の渦電流を検出コイルで検出し、ステンレス鋼についてその励磁周波数での最大の検波出力が得られる位相で検波し、予め測定されたしゅう動部の残存厚さと検波出力の関係に基づき、検波によって得た出力の大きさからしゅう動部の残存厚さを求めている。
【特許文献1】特開2002−181508号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来の方法のうちノギスや超音波厚さ計による厚さの測定は、測定作業者がノギスや専用のセンサを測定対象にあてがい、目盛りや数値を読み取るものであるから、例えば長尺物の厚さを長手方向に連続的に測定したり、大量生産される金属製の成型物の厚さを流れ作業の中で一つずつチェックする手段に適さず、多大な人手と手間を必要とし、作業負担が非常に大きく、作業コストに反映される。特に、超音波厚さ計による測定は、しゅう動部と導電部の境界面からの反射を捉えることにより、しゅう動部の厚さを測定するものであるが、専用のセンサを必要とするし、測定対象に例えばセンサとの間に空気が入らないように油等を介在させるなどの前処理を必要とする。
【0004】
一方、特許文献1に記載の方法のように、渦電流を用いるものも考えられるが、鉄鋼の浸透深さが、励磁周波数を10Hzとすると、6mmとされるので、これを越える厚さを測定することができない。
【0005】
そこで、本発明は、連続的に測定可能で、作業労力を軽減し、作業コストの低廉化を図れ、測定対象に特別な処理を施すこともなく、電磁波の浸透深さを超える金属体の厚さも測定できる方法及び装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明においては、金属製の測定対象Sから励磁周波数約10Hzの渦電流を検出コイル2で検出し、検波回路3によりこの渦電流を約135°の検波位相で検波し、測定対象Sの金属に対して予め記録された厚さと検波出力との相関関係に基づいて演算回路4により測定対象の厚さを求める方法を採用した。
また、測定対象Sにおける渦電流の検出面と反対側の面に測定対象と異種の金属体Tを接触させることとした。
【発明の効果】
【0007】
本発明においては、検出コイルを測定対象に臨ませるだけで測定でき、例えば大量生産される金属製の成型物の流れ作業の中に装置を組み込んで厚さを一つずつチェックすることが可能になるし、長尺物を連続的に自動で測定することもでき、作業負担を軽減できるし、高価な専用のセンサを必要とすることなく、測定対象に前処理も必要としないので、作業コストの低廉化を図ることができる。しかも、例えば鉄鋼などのように浸透深さが6mm程度であっても、これを越える厚さを測定することができるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の実施の一態様を図面を参照して説明する。
図1において、測定装置1は例えば鉄鋼などの金属製の測定対象Sに発生させた渦電流を検出する相互誘導型コイルを用いた検出コイル2と、渦電流を所定の位相で検波する位相検波回路3と、検波出力から測定対象Sの厚さを求める演算回路4と、所定の厚さと比較を行う判定回路5と、測定結果等を記録する記録手段6とを備えている。
【0009】
検出コイル2は、図2に示すように、測定対象Sに対向する励磁コイル7及び誘導コイル8と、空心状態で用いる励磁コイル9及び誘導コイル10とを組み合わせたものである。誘導コイル8,10には可変抵抗器11,12がブリッジ接続され、誘導出力の差分を出力端子a,b間に取り出すことができる。可変抵抗器11,12は、測定対象Sに励磁コイル7及び誘導コイル8が対向していないときに、ブリッジの出力が0となるように零点調整される。直列接続された励磁コイル7,9に、励磁電流を流すと、その誘導磁界に伴い測定対象Sに渦電流が流れるので、この渦電流に対応する誘導出力が出力端子a,b間に現れる。
【0010】
位相検波回路3は位相回路3aと検波回路3bとから構成され、交流発振器13の出力を位相回路3aに通して得た所定の位相の交流信号で、誘導コイル8,10に発生する誘導出力の差分を検波する。この検波位相は、使用する励磁周波数において、測定対象Sに対して大きな検波出力が得られる位相とすることが好ましい。
【0011】
演算回路4は、測定対象Sに対して予め測定されて記憶された金属の厚さと検波出力との相関関係に基づき、位相検波回路の出力から厚さを求める。
【0012】
判定回路5は、測定された厚さに対して、予め設定された特定値に達したこと、またはその値に近いことを判定し、その結果を出力する。この判定結果は例えば位置などを特定するデータと共に、記録手段6に記録される。記録手段6は、測定した厚さや必要に応じて判定回路5による判定結果を図示しない記憶手段にデータを保存したり、モニター表示したり、印刷出力する。
【0013】
この測定装置1における金属体の厚さと検波出力との相関関係について説明する。
図3,図4に、測定対象Sの厚さに対する検出コイル4の出力電圧の変化を示し、8種の異なる検波位相及び5種の異なる励磁周波数について変化を比較する。これらのグラフから、特に検波位相を変えても、励磁周波数が高いほど、出力電圧の絶対値が高くなることがわかる。
【0014】
図5,図6に、厚さに対する出力電圧の変化を、厚さ3mmの出力電圧値を基準とする出力比として対数で示し、先と同様に、異なる検波位相及び異なる励磁周波数について比較する。これらのグラフから、特に図5(D)における検波位相135°、励磁周波数10Hzの場合と、図6(A)における位相180°、励磁周波数10Hzの場合に厚さと出力比に強い相関関係が現れ、厚さ9mmでも出力比の漸増傾向を維持することがわかる。
【0015】
図7に、周波数10Hzにおける検波位相に対する出力変化を示し、異なる厚さについて比較する。このグラフから、検波位相45°の場合にどの厚さでも最も高い出力が得られ、それより90°ずれた135°及び315°では0に近い小さな出力となることがわかる。
【0016】
図8に、励磁周波数に対する出力比の変化を示し、異なる厚さについて検波位相を45°、135°に変えて比較する。このグラフから、同図(B)における検波位相を135°での周波数10Hzの付近で厚さと出力比とに強い相関関係があることがわかる。
【0017】
図9に、測定対象物Sの検出コイル4と反対側の面に測定対象物Sと異なる導体金属Tを当て、厚さに対する出力比の変化を示し、導体金属Tの有無について比較する。このとき、検波位相を135°とし、励磁周波数を5Hz、10Hz、20Hzとする。特に同図(B)における周波数10Hzで導体金属Tがある場合に出力比が高い傾向になることがわかる。
【0018】
以上の結果から、励磁周波数10Hz、検波位相135°で検出コイル2及び位相検波回路3を動作させれば、浸透深さ6mmの鉄鋼であっても、それ以上の厚さを測定できる。これは磁界が飽和しないためと推測される。なお、検出コイルの巻き数や形状によって、誘導される電圧が変わるので、測定機器ごとに検波出力が若干変動することがあり、適用できる励磁周波数及び検波位相は上記特定値の前後±5Hz、±5°程度の許容範囲を有するものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、金属体の厚さを測定するのに適し、特に電磁波の浸透深さを越えた範囲も有効でもある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る金属体の厚さ測定装置の構成図である。
【図2】検出コイルの回路図である。
【図3】測定対象の厚さに対する検出コイルの出力電圧の変化を示し、励磁周波数及び検波位相を変えた各場合を比較するグラフである。
【図4】同じく測定対象の厚さに対する検出コイルの出力電圧の変化を示すグラフである。
【図5】厚さに対する出力比の変化を示し、励磁周波数及び検波位相をそれぞれた変えた各場合を比較するグラフである。
【図6】同じく厚さに対する出力比の変化を示すグラフである。
【図7】検波位相に対する出力変化を示し、励磁周波数10Hzで厚さを変えた場合を比較するグラフである。
【図8】励磁周波数に対する出力比の変化を示し、検波位相45°,135°で厚さを変えた場合を比較するグラフである。
【図9】検波位相135°、励磁周波数5Hz,10Hz,20Hzでの厚さに対する出力比の変化を示し、測定対象物に異種金属を当てた場合と当てない場合とを比較するグラフである。
【符号の説明】
【0021】
1 測定装置
2 検出コイル
3 位相検波回路
3a 位相回路
3b 検波回路
4 演算回路
5 判定回路
6 記録手段
S 測定対象
T 異種金属体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の測定対象から約10Hzの励磁周波数の渦電流を検出し、この渦電流を約135°の検波位相で検波し、測定対象の金属に対して予め記録された厚さと検波出力との相関関係に基づいて測定対象の厚さを求めることを特徴とする金属体の厚さ測定方法。
【請求項2】
金属製の測定対象から約10Hzの励磁周波数の渦電流を検出する検出コイルと、
渦電流による検出コイルの出力を約135°の検波位相で検波する検波回路と、
測定対象の金属に対して予め記録された厚さと検波出力との相関関係に基づき、予め記録された測定対象である金属の厚さと検波出力の関係に基づき、位相検波回路の出力から厚さを求める演算回路とを具備することを特徴とする金属体の厚さ測定装置。
【請求項3】
前記測定対象における渦電流の検出面と反対側の面に測定対象と異種の金属体を接触させることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属体の厚さ測定方法及び装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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