説明

金属合金の洗浄および研磨方法、ならびにそれにより洗浄または研磨された製品

少なくとも一種の貴金属と、少なくとも一種の非貴金属とを含む合金の洗浄または研磨方法であって、硫黄を含む少なくとも一種の錯化剤を含む電解性酸浴に前記合金を浸漬する工程と、多重パルス波形を受けさせることにより製品を洗浄または研磨する工程とを含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属、詳細には異種金属で構成された合金のスケール除去および電解研磨の分野、その方法、ならびにそれを用いた装置に関する。本発明は、医療機器、特にステントのスケール除去および電解研磨に特に有用である。
【背景技術】
【0002】
ステントは、閉塞または部分的に閉塞した動脈の血流を確保するバルーン血管形成術として知られる医療処置に関連して用いられる。血管形成処置では、バルーンカテーテルが小さな切開部から動脈に挿入され、動脈病変の部位に進められる。次に、バルーンカテーテルが膨張され、動脈壁に蓄積した粥状斑が圧迫されることによって血管の血流が確保される。場合により、拡張した動脈は、バルーンカテーテルが縮小された後につぶれるか、または当該技術分野で再狭窄と呼ばれる過程で、時間の経過とともに緩やかに狭められる。
【0003】
ステントは小さな管状構造であり、血管に埋め込まれて血管壁を機械的に支持する。ステントの使用によって、再狭窄の傾向が低下することが示され、その結果、血管疾患の処置においてステントがより広範に使用されることとなった。
【0004】
ステントは、数ある材料のうちでは、例えばステンレス鋼、最も一般的には316Lステンレス鋼、およびニッケル−チタン合金、例えばニチノールを含む様々な金属で構成されている。ステントの材料は、機械的性質、耐食性および血管適合性に基づいて選択される。
【0005】
通常、ステントの製造は、特別に設計されたステントパターンを所望の金属の薄壁管または平面シートに機械加工する工程を含む。切断は、レーザ加工機(LBM)、放電加工機(EDM)、または化学溶解(化学切削)を利用して実施される。平面シートの場合、次いで加工部分が丸められて管形状に溶接される。
【0006】
LBM技術は、集束高エネルギー光ビームを用いて材料を切断する。EDM技術は、電気火花放電を利用して、同様の手法で切断する。化学切削技術は、化学耐性材料により金属をマスキングする工程と、次いで暴露された金属を化学溶液で溶解する工程とからなる。その後、マスキングが外され、加工されたステントが得られる。
【0007】
LBMおよびEDMの技術は両者とも加工部分を局所的に加熱することから、切断表面に沿って溶融および酸化した金属副生物が生じる。加えて、3種の加工技術では全て、表面が粗くエッジが鋭利になる。生成された副生物を機械操作によって除去する方法(スケール除去または洗浄)が多く開発されている。別の方法を用いてステント表面が研磨され、粗く鋭利なエッジが丸められる(電解研磨)。
【0008】
スケール除去法は、多くの金属に関して当該技術分野で公知である。一例は、フッ化水素酸と硝酸との加熱混合物中でのステンレス鋼またはニチノール合金の浸漬である。他の例は、硫酸溶液中でのステンレス鋼の電解処理である。これらの操作では、切断操作から生じた残留屑を含まない清浄な部分を残しながら加工副生物が除去される。あるいは機械的グリットブラストを利用して、チタン合金から酸化物が除去される場合もある。スケール除去のための他の処理は当業者に周知である。
【0009】
特にステンレス鋼合金に関する電解研磨の原理も、当該技術分野で公知である。電解研磨は通常、電解により金属表面を溶解および平滑化する工程を含む。この方法を用いると、電解研磨される製品は通常、導電性酸性溶液を含む電極に浸漬される。反対電極も溶液に浸漬され、通常は負の末端に連結される(陰極の生成)。通常、電源の正の末端が製品に結合され、それにより電子回路が完成する。適切な電位が加工物と陰極との間に加えられて電流が流れる。
【0010】
電解液を通して電流が通れる際、金属が陽極表面から溶解して、加工物の表面に抵抗性の膜を生成させる。陽極の表面が突出していると、くぼみよりも速く溶解して、より滑らかな表面が生成される。電解研磨法の例としては、リン酸および硫酸へのステンレス鋼の溶解、過塩素酸およびメタノールへのチタン(または合金)の溶解、ならびにグリセロールおよび硫酸へのステンレス鋼の溶解が挙げられる。また、金は、シアン化カリウム、酒石酸カリウム、フェロシアン化カリウム、リン酸水素二ナトリウムおよび水酸化アンモニウムで構成された溶液に溶解することにより、電解研磨され得る。
【0011】
現在では、研磨製品は通常、硝酸に浸漬される。硝酸は、特定の金属酸化物、塩または他の不純物、例えば混合された鉄もしくは他の反応性酸化物、または粒状物を除去するのに効果的である。その目的は、高いCr/Fe比、および電解研磨操作の際に形成される残留金属化合物を含まない均質な表面化学を確保することであり、それにより表面を生物学的適合性に妥当なものにしてもよい。その結果、清浄であり、生物学的適合性および耐食性のある表面が得られる。
【0012】
多くの金属製医療用インプラントは活性遷移金属を含有し、そのため不動態の酸化物表面が形成される。安定な金属酸化物は耐食性である。これらの合金をスケール除去および電解研磨する方法は、当該技術分野で公知である。
【0013】
しかしながら、より近年では、医療的処置および追跡調査の両方の際にステントを視覚化させるX線透視検査を利用してステントを観察するために、他の性質、例えば材料の放射線不透過性、即ちX線吸収性が考慮されるようになった。そのため、ステントの放射線不透過性を向上させるために、新しい金属合金が現れている。そのような合金の例としては、例えばコバルト、クロム、およびタングステン、例えばL−605が挙げられる。
【0014】
放射線不透過性を向上させ得る更に別の方法は、本発明の譲渡人に譲渡された同時継続米国特許出願第10/113,391号明細書(全体の内容が本願に参考として援用される)に見出されるように、貴金属を既存の合金に添加すること、例えば白金を316Lステンレス鋼に添加することである。
【0015】
このアプローチによって、ステントのX線透視検査による視覚化が著しく改善された。しかし、ステント材料に貴金属が添加されると、貴金属が化学的に不活性であることから製造方法が複雑になる。このため現行のスケール除去および研磨操作は、貴金属を含む合金を不均質に溶解するのに効率的ではなく、または効果的でもない。そのため、当該技術分野では、合金組成物の一部として貴金属を含む合金をスケール除去および電解研磨する改善された方法が依然として求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
広義では、本発明は、金属、詳細には異種金属からなる合金、例えば貴金属および活性遷移金属の両方で構成された合金をスケール除去および電解研磨する方法に関する。
本発明は、貴金属および活性遷移金属の両方で構成された医療装置、例えばステントをスケール除去および電解研磨するための特定の有用性を見出した。
【課題を解決するための手段】
【0017】
一つの態様において、本発明は、貴金属含量の高い合金、詳細には活性遷移金属によって合金にされた白金族金属、より詳細には白金含量の高いステンレス鋼合金で形成されたステントを洗浄および/または電解研磨することに関する。本発明において用いられ得る他の金属の例としては、例えば白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、レニウム、金、銀、銅、オスミウムなどが挙げられ、それらの金属の混合物が従来法の化学物質に比較して特異な化学活性を有する限り、それらの金属が用いられ得る。それらの金属が貴金属の分類に含まれ得るかについての議論が存在するが、本発明の目的のために、そのような金属は以後、貴金属または白金族金属(PGM)と呼ばれる。
【0018】
既存の合金に貴金属が添加されると、金属の機械的性質に負の影響を与えることなく放射線不透過性が増強されることが見出された。
本発明により、様々な活性遷移金属、および少なくとも一種の貴金属含量の高い活性遷移金属含有合金の化学加工が促された。有用な金属の例としては、例えばステンレス鋼、コバルト−クロム合金、ニッケル−チタン合金、例えばニチノール、ならびにクロム、ニオブ、タンタル、ハフニウム、チタン、モリブデン、タングステン、ジルコニウムなどを含む他の金属、およびそれらの合金が挙げられる。
【0019】
洗浄または電解研磨工程は、任意のステント製造方法に組み入れられてもよい。通常の方法は、管状部材を準備する工程と、管状部材をステントパターンに切断する工程と、管状部材を洗浄する工程と、管状部材を研磨する工程と、管状部材の表面を不動態化する工程と、形成されたステントをすすぎおよび乾燥させる工程とを含む。
【0020】
ステントの製造方法は、上記工程の組合せを任意の順序で組み入れてもよい。更に、各洗浄および/または研磨工程の間にすすぎが実施されてもよく、複数回の洗浄および/または研磨工程が存在してもよい。また、平面シートの原材料からステントが形成されてもよく、その場合、次いで、丸められて環形状に溶接される。
【0021】
本発明は、リン酸、塩酸、ハロゲン化塩、および化学結合に利用可能な少なくとも一つの硫黄原子を有する錯化剤を含む電気化学的洗浄または研磨法に用いられる酸性組成物にも関する。適切な錯化剤の例としては、非限定的に、チオ尿素(CH42S)またはチオ尿素の誘導体、チオウロニウム塩、チオカルボン酸またはその塩などが挙げられる。そのような組成物は、貴金属含量の高い合金を電解研磨またはスケール除去するための有用性を見出した。
【0022】
より安定な金属酸化物、例えばチタン、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、ハフニウムなどの酸化物を破壊するために、フッ化塩、フッ化水素酸、または他のフッ化物含有化合物が必要とされてもよい。
【0023】
適切には周期的な電流または電圧波形が金属部分に印加される。幾つかの実施形態において、波形はパルス化された交番極性波形(pulsed alternating polarity waveform)である。
【0024】
他の実施形態において、いずれかの形状の正弦波、方形波もしくはパルス列、または波形の無極性もしくは交互極性の組合せが用いられる。
ゼロもしくはゼロに近い電圧、またはゼロもしくはゼロに近い電流の「休止」期間が電流/電圧波形に含められ、研磨フィルムの拡散要件のバランスがとられてもよい。「休止」時に製品の電荷が損失されるように、一定電流または一定電圧モードのいずれかで「休止」期間の応答電流または電圧が限定されてもよいし、されなくてもよい。
【0025】
幾つかの実施形態において、白金含量の高いステンレス鋼合金から形成されたステントを洗浄または電解研磨するのに使用するために、電解質溶液が用いられる。
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明から明白となろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明は多くの異なる形態で具体化されてもよいが、本明細書では、本発明の特定の実施形態が詳細に記載される。この説明は本発明の原理の例示であり、本発明を説明された特定の実施形態に限定するものではない。
【0027】
本発明に係る洗浄または電解研磨法は、貴金属および活性遷移金属の両方を含むそれらの合金を洗浄または電解研磨するための特定の有用性を見出す。該方法は室温で効果的に使用されることができ、撹拌をほとんど、または全く必要とせず、ステンレス鋼または類似の合金を研磨するための他の現行法を上回る利点を示す。洗浄度の見地から特定の幾何学的形態では撹拌が有効になる場合が認められるが、ステント表面の幾何学が複雑であることから、表面全体に厳密な同一表面溶液の流動力学(same surface solution flow dynamics)を付与することは非常に困難である。これに関連して、表面幾何学の性質および浴の調節条件に応じて、撹拌が有効になる場合もあるし、ならない場合もある。
【0028】
本発明に係る方法は、貴金属および活性遷移金属の両方を含む合金から形成された医療装置に特に有用である。これらの合金は、例えば高い放射線不透過性、高級鋼と同等の機械的性質、触媒表面、低い表面抵抗および高い酸化環境への耐性など、他の合金を上回る利点を示す。
【0029】
幾つかの実施形態において、製品は、貴金属含量の高いステンレス鋼合金から形成されたステントである。ステントは一般に、血管に挿入される大きさである第1の位置から、ステントの外表面の少なくとも一部が血管壁に接触する第2の位置まで拡張する管状の拡張性構造である。ステントの拡張は一般に、管状構造を通る内部連絡されたストラットを屈曲させることによって適応される。
【0030】
本発明に係るステントは、貴金属含量の高い合金から製造されてもよい。一つの特定の実施形態において、ステントは、ステンレス鋼合金、例えば316Lステンレス鋼合金と白金との合金から製造される(例えば、316Lをほとんど白金で希釈する)。そのようなステントは、体腔に設置される際または設置された後に放射線不透過になるように十分な放射線不透過性を保持しながら、壁厚が約0.013センチメートル(約0.005インチ)未満になるように製造され得る。そのような合金から製造されたステントは、ステンレス鋼合金と類似の機械的性質および構造的性質を保持しながら、高い放射線不透過性および耐食性を示す。
【0031】
貴金属を約2重量%〜約70重量%、より適切には貴金属を約5重量%〜約50重量%、最も適切には貴金属を約12重量%〜約30重量%含むステントが製造されてもよい。
一つの実施形態において、合金は、ステンレス鋼、白金、クロムおよびニッケルを含む。クロムは、約10重量%〜約20重量%で存在し、ニッケルは、約5重量%〜約15重量%で存在する。合金は更に、鉄を約10〜約40重量%含んでもよい。
【0032】
一つの実施形態において、合金は、鉄を約39重量%、白金を約30重量%、クロムを約18重量%、ニッケルを約9重量%、モリブデンを約3重量%、マンガンを約1重量%含む。
【0033】
本発明は、米国特許2840468号明細書「新規な金合金およびそれらから製造される電位差計の線(Novel Gold Alloys and Potentiometer wires Produced From Them)」(全体の内容が本願に参考として援用される)に記載されたものなどの合金の洗浄または研磨においても有用性を見出す。それに記載された合金は、シグムンド・コーン社(Sigmund Cohn Corporation)から商品名LTC(登録商標)として入手可能である。
【0034】
本発明は、シグムンド・コーン社から入手可能な94Pt−6Wなどの合金を洗浄または研磨するための有用性も見出す。
本発明は、本発明の譲渡人に譲渡された同時継続米国特許出願第10/112,391号明細書(全体の内容が本願に参考として援用される)に記載されたものなどの合金の洗浄または研磨における有用性も見出す。
【0035】
本発明のステントは、管状部材を準備する工程、管状部材をステントパターンに切断する工程、管状部材を酸浸漬またはスケール除去する工程、管状部材を電解洗浄する工程、管状部材を研磨する工程、管状部材の表面を不動態化する工程、ならびに管状部材をすすぎおよび乾燥させる工程を含む方法によって形成されるが、必ずしもこの順序ではない。
【0036】
これは、本発明に係るステントの形成に含まれる工程の一般的な案内として示している。方法は、これらの工程を任意の組合せで含んでもよく、幾つかの工程は、必ずしも必要ではない。当業者は、ステントなどの医療装置の化学切削において本願に記載されて請求された方法の有用性を認識するであろう。しかし、本発明は医療装置に限定されることを意図しているのではなく、貴金属および活性遷移金属の両方を含む合金から形成された任意の製品を研磨または洗浄するための有用性を見出してもよい。
【0037】
更に、方法に複数の洗浄または研磨工程が存在してもよく、すすぎが、各洗浄または研磨工程後に実施されてもよい。
図1は、一般的なステントの製造方法を示す流れ図である。白金含量の高いステンレス鋼が、例示の目的のために用いられている。
【0038】
ステントの製造方法は、図1の最初のボックスに示された鋼片または予備成型物を用いて出発する。
方法における第二の工程は、管の延伸である。管の延伸は、管の一端をつかみ、管の口径よりも小さいダイを通して引張り、口径を小さくする縮小方法である。所望の寸法を得るために、一連の連続的縮小または通過が実施されてもよい。加えて、所望の機械的性質、粒度および付随する耐食性を得るために、焼き鈍し工程が実施されてもよい。
【0039】
管を延伸するとすぐに、貴金属含量の高い合金をステントパターンに切断してもよい。そのようなステントパターンに切断する方法は当業者に公知であり、レーザ加工、放電加工、および化学切削が挙げられる。しかし、当業者に公知の任意の方法が用いられてもよい。
【0040】
レーザが用いられる場合、レーザのタイプは、ステントを形成する基材に部分的に依存する。例えばステントの基材がステンレス鋼またはニチノールなどの金属である場合、Nd:YAGレーザ、CO2レーザ、二倍波YAGレーザ、ダイオードレーザなどが用いられてもよい。
【0041】
図1に示された3番目のボックスは、ステントパターンを当該技術分野で一般に「ハイポチューブ」と呼ばれる薄壁の金属管に切断する管切断工程を表す。レーザ切断は通常、アシストガス、例えば酸素、窒素、アルゴンまたは他の不活性ガスを用いて実施される。本発明の幾つかの実施形態において、切断屑を除去するのに、LBM後のアプローチに応じてアシストガスとして100%酸素を用いることが有利であることが見出された。
【0042】
このレーザ切断操作はプラズマを発生させ、管の所定の部分を除去してステントパターンを形成させる。除去される材料は、高気流条件下、高酸素環境で気化または溶融される。従って、合金材料の新しい相および誘導体組成物が、ステントの切断面および内径に観察される。切断面の溶融金属が深さおよび他の因子に応じて異なる速度で冷却されることから、金属は、高濃度の貴金属の相と、低濃度の貴金属の相とに分離する傾向がある。高温での酸素暴露は、材料内の金属酸化物の形成を促進する。切断工程で形成される再溶融材料および酸化物は、総称的に「ドロス」として知られる。例えば、ドロスは、切断液(方法で用いられる場合)、遷移金属、遷移金属混合酸化物、貴金属、貴金属混合酸化物、およびそれらの混合物から供与される炭素を含有する可能性がある。
【0043】
白金含量の高いステンレス鋼の場合、ドロスは、主に炭素、白金、クロム、酸素および鉄で構成されている。ドロスは、ストラットの切断されたエッジに薄膜を形成し、内径のストラット面に節を形成する。また、主に白金、鉄およびニッケルからなる球状粒子が、内径のドロスと混合される。多くの場合、利用されるレーザパラメータに応じて、切断面のドロスの下に白金の薄層が見出される。
【0044】
例えばクロム、鉄およびニッケルなどの活性遷移金属は、酸化物を容易に形成し、電流または電圧が印加されると酸浴に溶解する。しかし、貴金属は酸化物を容易に形成せず、電流が印加されても従来の酸浴中では容易に反応もしくは溶解しない。
【0045】
図1に表された方法の4番目のボックスは、ステントを酸浴に浸漬させるレーザ後洗浄工程を示す。酸浴は通常、強有機酸もしくは無機酸、またはその混合物で構成されている。そのような酸の例としては、非限定的に、フッ化水素酸もしくはその誘導体、四フッ化ホウ酸、硝酸、塩酸、硫酸、リン酸、またはそれらの混合物が挙げられる。用いられる酸に応じて、この浸漬は、形成された金属/金属酸化物の溶解を促進して、ドロスの除去を向上させることができる。
【0046】
ドロス粒子が、加工物に比較して有意に高い表面積で構成されており、そのため基材に存在する正常な不動態の表面酸化物よりも急速に反応することに留意されたい。これは、ドロス粒子を効率的に除去させながら、加工物をほとんど溶解させない一つのメカニズムである。従って、表面積の高いドロスが切断操作用に設計されてもよい。また、切断操作を設計して、ドロスに「化学的選択」を付与してもよい。これに関連して、混合物の不可欠な部分である未反応の白金を全て効率的に濃縮して残留させることについて、鉄、ニッケル、クロム、モリブデンおよび混合金属、ならびにそれらの酸化物を除去するのに用いられる任意の化学的操作が用いられてもよい。この白金は、ここでは特別な目的の反応でそれを除去するのに利用され、多量の加工物を溶解するリスクがない。これに関して、統合した方法の骨組みによって、以下に記載したとおり電解洗浄工程の効果が向上され得る。
【0047】
約室温〜約90℃の温度での約0.1M〜約5Mの四フッ化ホウ酸および約2M〜約5Mの硝酸を含む酸浸漬が効果的であることが見出された。必要となる時間の間隔は、用いられる温度および酸濃度に依存する。より適切には、約70℃の温度で30分間での約1M〜約1.5Mの四フッ化酸および約3M〜約3.7Mの硝酸を含む酸浸漬溶液が、本願での使用に効果的であることが見出された。
【0048】
電解工程が用いられてより優れた洗浄が実施され、基材の除去を少なくすることができる。効率的な電解洗浄溶液は、溶解される各材料のための導電率、錯化剤、および特異的なドロス組成物を選択的に溶解する所望の反応を生じ得ることができる波形を有し、ベースの金属(例えばステント)を溶解しない。
そのような工程が、他の洗浄工程に加えられてもよいし、他の洗浄工程の代わりに行われてもよい。
【0049】
本発明は、本発明に係る錯化剤と組み合わせて多重パルス波形を利用することにより、貴金属および活性遷移金属で製造された合金の効率的なスケール除去および電解研磨が可能になることを見出した。
【0050】
適切には、錯化剤は、共有結合に利用可能な少なくとも一つの硫黄原子を有している。しかし、錯化剤は、炭素、窒素、リン、ヒ素、塩素、臭素などを含んでもよい。
歴史的に、シアン化物の化合物は貴金属を錯化するのに用いられている。しかし、シアン化物は効率的な錯化剤ではあるが、酸と混合されると毒性の高いシアン化水素ガスを生じ、それにより使用の際に特別な予防措置が必要となるという欠点を有している。そのため、シアン化物錯化剤の使用には、健康、安全および規定の問題が存在する。
【0051】
適切な硫黄含有錯化剤の例としては、非限定的に、チオ尿素およびその誘導体、チオウロニウム塩、チオカルボン酸などが挙げられる。チオ尿素錯化剤を使用することの大きな利点は、酸性溶液に溶解した場合に適合性/安定性が高レベルになることである。
【0052】
適切なチオ尿素化合物のより具体的な例としては、例えばN−メチルチオ尿素、N,N’−ジメチルチオ尿素、N,N,N’,N’−テトラメチルチオ尿素、N−エチルチオ尿素、N,N'−ジエチルチオ尿素、N,N,N’,N’−テトラエチルチオ尿素、N−フェニルチオ尿素、N,N’−ジフェニルチオ尿素、N−フェニル−N−メチルチオ尿素、N−フェニル、N’−メチルチオ尿素、N,N’−ジブチルチオ尿素、N−ベンジルチオ尿素、N−アリルチオ尿素、またはN,N’−ジシクロヘキシルチオ尿素が挙げられる。
【0053】
幾つかのチオウロニウム塩は、本願に全体が参考として援用された米国特許第5560814号明細書に記載されている。例えば、そのような塩がチオ尿素とともに用いられてもよい。
【0054】
電解研磨工程での使用に適した酸の例としては、非限定的に、リン酸、塩酸、フッ化水素酸、四フッ化ホウ酸(チタン、タングステンおよび他の正電荷の遷移金属用として)、他のハロゲン化水素などが挙げられる。硫酸は、均一性およびエッチングを促進し、このため洗浄工程により有用であることから有利である。
【0055】
酸は、容易に酸化物を形成する活性遷移金属を含む電解工程にとって有利である。酸は、表面酸化物の安定性を低下させ、電解スケール除去および電解研磨を可能にする。有利なことに、ハロゲン化酸またはその塩も、電解浴中で用いられてもよい。そのような酸またはその塩の例としては、非限定的に、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属ハロゲン化物、遷移金属ハロゲン化物を含む金属ハロゲン化物、水溶液中でハロゲン化水素酸と呼ばれるハロゲン化水素などが挙げられる。具体的な例としては、非限定的に、塩化水素(HCl)(水中で塩酸)、塩化ナトリウム(NaCl)、フッ化ナトリウム(NaF)、塩化カルシウム(CaCl2)、塩化カリウム(KCl)、塩化マグネシウム(MgCl2)、塩化第二鉄(FeCl2)などが挙げられる。
【0056】
塩化物などのハロゲン化物とともに用いられる陽イオンを変更することによって、溶液の導電率および粘度が変更されてもよい。ハロゲン化物の添加により、研磨フィルムの均一性が上昇するか、またはその性質のバランスが保たれ、表面仕上げ(平滑度)が改善されることが見出された。ハロゲン化物は、電荷キャリアおよび錯化剤の両方として作用することができ、用いられたハロゲン化物に応じて、様々な金属を効果的に錯化することができる。例えば塩化物は、様々な金属を効果的に錯化することが見出されており、フッ化物は、チタンまたはタングステンなどのより陽電性の金属を効果的に錯化することが見出されている。臭化物およびヨウ化物は、金または白金などの貴金属を効果的に錯化することが見出されている。塩化物は公知のピッチング剤(pitting agent)であるが、他の溶液成分によって注意深くバランスをとり、これらの局所的腐食反応を防ぐことができる。
【0057】
電解工程、スケール除去(洗浄)または電解研磨のいずれかの際、ステントは、電解浴に配置されて電源に接続される。一つの実施形態において、電圧は、一定電圧モードのケプコ5アンプ(Kepco 5amp)バイポラー電源によって供給される。電源は、フルーク(Fluke)モデル39A波形発生器によって制御される。製品の電気的接続は、浴および取付け具の形状に応じて、様々な方法で実行され得る。一つの実施形態において、製品は、逆動作型のステンレス鋼ピンセット(テクニツール(Techni−Tool)モデル5AX−SA、パートナンバー758TW605)でしっかりとつかまれて浴に浸漬される。
【0058】
本願における使用がより望ましくなり得る他の接触材料としては、波形および浴の化学的組成物に対して不活性または無反応であるが、製品に効率的に電圧を供給するものが挙げられる。例としては、非限定的に、チタンおよびその合金、またはコーティングとの物理的接触によって電流を流すことができるか、あるいは加工物または他の取付け成分と物理的に接触していない領域の溶液に不活性である導電材料の薄い不動態コーティングが挙げられる。
【0059】
Pt−Nb、ステンレス鋼メッシュまたはグラファイトで構成された対極は通常、電解浴に耐性(resident)がある。対極が電源に接続されて回路が完成する。従って、電流は、電源から取付け具、ステント、電解浴、対極へと流れて電源に戻る。
【0060】
電圧制御または電流制御のいずれかを利用して、所望の波形を維持することができる。好ましくは、電源が電圧制御を利用し、その場合、反応は電圧の小さな変化にも敏感になる。電流制御によって、電解研磨フィルムの変動が大きくなることが観察された。適切には、正電圧は、(飽和カロメル電極に対して)約+3.5〜約4.2ボルトSCEであってもよい。負電圧は、約−0.6〜約−0.8ボルトSCEであってもよい。陽極パルスと陰極パルスとの間の休止または遅延パルスにバイアスをかけて、研磨フィルム(即ち製品の平滑度)を最適化するためにシステムのバランスを保ってもよい。休止または遅延パルスで小さなバイアスを−300mVsce〜+300Vsceの範囲内でかけてもよい。スケール除去工程、研磨工程、またはその両方のいずれかの際に、多重パルス波形が施されてもよい。多重パルス波形は、周期的反転多重パルス波形(periodic reverse multiple pulse waveform)であってもよい。製品に、陰極パルスと、その後の陽極パルスとを施してもよい。理論的には、陰極パルスは表面酸化物を金属に還元する。
【0061】
次いで、陽極パルスがエネルギーを与え、錯化剤の存在下で金属を溶解する。続いて、パルスの組合せが繰り返されて活性表面が維持される。正極パルス後に休止期間(電圧を加えない)が加えられると、製品の自然な放電が起こる追加の拡散時間が可能になることにより、電解研磨のフィルム特性が制御されることが有利となることが見出された。エッチングは一般に拡散を限定しないことから、そのような休止期間はエッチングの際にほとんど、または全く利点を与えない。同じ負の形態、次いで、正の形態を帯びた反復パルスの組合せが複数回加えられると、製品のエッチングまたは研磨が成功することは当業者に認識されよう。これらのパルスのバランスを保ち、適切な研磨フィルム属性が生じることによって、表面仕上げの最適化が実現される。多重負パルスまたは多重正パルスの存在は、記載された技術に含まれる。
【0062】
適切には、電流は、約2ミリ秒〜約1秒の時間の間隔で約−130amp/平方フィート(ASF)〜約−390ASFの陰極性であり、次いで、電流は、約4ミリ秒〜約10秒で約+130ASF〜約+775ASFの陽極性となる。
【0063】
適切には、波形は、陽極性−陰極性−陽極性、または陰極性−陽極性−陰極性などになるが、このパターンは様々であってもよい。
波形の各サイクルの周期は、約5ミリ秒〜10秒の範囲内であってもよい。洗浄では例えば500ミリ秒の周期で十分であり、研磨では20ミリ秒の周期で十分であろう。一つの実施形態において、−390ASF 50ミリ秒、+390ASF 450ミリ秒の波形によって、より効果的に酸化物が除去されることが見出され、−130ASF 4ミリ秒、+390ASF 6ミリ秒、オフ10ミリ秒の波形が、エッジ丸め処理および表面の平滑化にとってより効果的であった。しかし、より複雑な波形では、陽極および陰極電流のパルスを含む完全に非周期的な波形を制限するものがないことから、周期が増加する可能性がある。
【0064】
電気洗浄のための2パルスの別の例は、陽極パルス+550ASF/450ミリ秒および陽極パルス−800ASF/50ミリ秒を含む。
明白であろうが、パルスの数および電流の規模は様々であってもよい。
【0065】
各陽極パルスの電流は、約+200〜約+1000ASFの範囲内であってもよく、各陰極パルスの電流は、約−400ASF〜約1200ASFの範囲内であってもよいが、これらの範囲は例示目的のものに過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【0066】
図2は、本発明に係る洗浄および電解研磨法において用いられ得る3パルス波形の例を示す。図は、入力電圧および応答電流の両方を示している。
上述のように、休止期間は、電圧または電流の各印加の間に含まれてもよい。適切な休止期間は、この印加では約0〜約100ミリ秒であってもよく、より適切には約0〜約10ミリ秒であってもよい。上述したのように、そのような休止期間は任意であるが、電解研磨の際の使用が有利となることが見出されている。しかし、より長期間になると加工時間が増加する傾向があり、研磨の性能は有意に向上されない。また、研磨時間が過度に長いと、適切な研磨を全体的に行うことが妨げられる可能性がある。
【0067】
陽極および陰極パルス、その他の休止期間の様々な組合せなど、本発明で用いられ得る多重パルス波形は非常に様々である。
適切なスケール除去(洗浄)の組合せの例が、以下の表1〜3に見出される。
【0068】
【表1】

AC波形を利用すると、1300ASF(アンプ/平方フィート)で十分に洗浄された。製品のガス洗浄が、得られた洗浄度の重要な因子であった。シアン化物および塩化物は貴金属を効果的に錯化させ、水は活性遷移金属を効果的に錯化する。塩は導電率を付与する。
【0069】
【表2】

本発明に従って、周期的反転電流波形を、上記の表2に示したそれらの組成物と組み合わせて利用した。一つの実施形態において、周期的反転電流波形は、−390ASF(約−0.8ボルトSCE)で陰極の50ミリ秒パルスと、その後の+390ASF(約+3.8ボルトSCE)で陽極の450ミリ秒パルスとを含んでいた。この方法を用いて、撹拌を行うことなく室温で効果的に洗浄を行うことができたが、温度を上昇させることができ、そして/または撹拌を行うことができる。チオ尿素および塩化物は、貴金属に加えて遷移金属も効果的に錯化することができ、水、硫酸塩およびリン酸塩は、活性遷移金属を効果的に錯化することができる。
【0070】
【表3】

本発明に従って、周期的反転パルス電流波形を、上記の組成物と組み合わせて利用してもよい。一つの実施形態において、波形は、5ミリ秒の+170ASFと、その後の1ミリ秒の−140ASFとを含んでいた。例えば硫酸などの酸を添加して、電流をより均一に分布させてもよい。
【0071】
製品または製品の成分の付着酸化物、または他の非導電性材料および貴金属フィルム、ならびに沈殿物を洗浄した後に、電解研磨することができる。この工程は、図1のボックス6に対応する。
【0072】
適切な電解研磨浴の例と、適切な成分範囲の例は、以下の表4〜7に見出される。
【0073】
【表4】

上記の組成物は、固形物除去(mass removal)が均一であり、エッジ丸め処理と研磨とが良好に行われ、撹拌の必要がないことを示しており、室温で効果的であり、且つ短いサイクル時間で効果的であった。
【0074】
一つの実施形態において、−0.8ボルトSCEで4ミリ秒、+3.8ボルトSCEで6m、そして0ボルトで10ミリ秒の休止期間を、上記の組成物と組み合わせて利用した。上述のように、貴金属の錯化用のチオ尿素および塩化物と、活性遷移金属の錯化用のリン酸塩のおよび水とは、貴金属および活性遷移金属の両方を含む合金の電解研磨に効果的な組合せであることが見出された。質量に応じて溶解した金属(例えばステンレス鋼)を添加すると、浴が溶解した製品から金属を拾い上げることから、浴の安定性が促進され、固形物除去率および他のパラメータの変動が減少する。
【0075】
【表5】

本発明に係る一つの実施形態において、1300ASFのACを利用して研磨を実施した。上記組成物を利用すれば、貴金属の錯化用のシアン化物および塩化物が存在し、活性遷移金属の錯化用の硫酸塩および水が添加される。グリセロールを添加して、組成物の粘度を上昇させてもよい。NaClなどのハロゲン化塩の添加が、電解研磨の均一性を向上させることが見出された。
【0076】
【表6】

低濃度の貴金属を含む組成物、例えば約13%以下の貴金属を含む組成物のために、上記溶液が用いられてもよい。表6に見出された組成物は効果的ではあるが、上記の幾つかの組成物よりもわずかに長いサイクル時間、例えば30分以上を必要としてもよい。例えば、チオ尿素を含む組成物では、短時間で効果的な研磨が得られるようである(研磨時間は約30分間)。同様に、貴金属の錯化のために塩化物が添加され、活性遷移金属の錯化のために水およびリン酸塩が添加される。本発明に係る一つの実施形態において、パルス型周期的反転極性電流波形を、+450ASFで5ミリ秒および−150ASFで1ミリ秒利用した。休止期間は任意である。
【0077】
【表7】

一つの実施形態において、−0.8ボルトSCEで4ミリ秒、+3.8ボルトSCEで6ミリ秒の波形と、0ボルトで10ミリ秒の休止期間とを加えた。
【0078】
選択された個々の化学的性質、波形および材料に応じて、総研磨時間は、約45秒〜約60分で変動してもよい。これよりも短時間では、エッジ丸め処理および表面平滑化が粗悪になる傾向があり、より長時間では、更に重要な利益を付与することなく製造工程の効率が低下する傾向がある。製品の幾何学に応じて、固定されるか、または研磨が複数の工程に分けられることによって、研磨時に接触点を変動させることが有利となり得る。
【0079】
スケール除去および電解研磨工程後に、表面の不動態化工程が行われてもよい。ステンレス鋼用のそのような表面不動態化は、強酸、例えば硝酸(HNO3)、クエン酸または専用の混合物を用いて実行されてもよい。この工程を、図1の7番目のボックスに表す。
【0080】
不動態化工程後にすすぎ工程(図1の8番目のボックス)が行われ、その後にステントが乾燥されてもよい(図1の9番目のボックス)。更に、各工程に伴って任意にすすぎ工程を行うことで、次の浴への浸漬前に、前の工程で用いられた化学品を除去してもよい。これにより、各工程で用いられた組成物の交差汚染が予防される。このことは、シアン化物の化学的性質が利用される場合に特に重要である。2種の溶液が化学的に類似しているか、または適合性があるなら、このリスクは最小限に抑えられる。
【0081】
本発明の方法は、過去に用いられた方法を上回る複数の利点を示す。一つとして、より少ない工程で研磨または洗浄において類似かそれ以上の結果が得られることから、方法が簡便化され得る。撹拌の必要がなく、加工が室温で効果的である。本発明に係る方法は、比較的低毒性の化学物質を使用し、そのため、例えばシアン化物系組成物よりも使用の危険性が少ない。本発明に係る方法はまた、これまで利用された方法で処理不可能な合金をスケール除去および電解研磨するのに効果的である。
【0082】
図3は、ステント10の代表的な実施形態を示しているが、ステント10は、少なくとも一種の貴金属と、少なくとも一種の活性遷移金属とを含む合金を用いて形成されてもよく、本発明に従って製造されてもよい。本願に記載された合金および製造方法を用いれば、任意のステント構造が形成され得ることが認識される。記載された白金−ステンレス鋼剛合金で形成されたステントは、2002年3月28日に出願されて本発明の譲渡人に譲渡された同時継続米国特許出願第10/112,391号明細書に記載されている。
【0083】
本発明に従って形成されたステントは、明るく輝きがあり、表面の外観が滑らかであり、エッジ(角)の丸め処理および表面仕上げも良好であり、製品の長さに沿って、そして支柱の幅と壁厚との間で固形物の除去が比較的均一になされている。更に、全体の固形物の除去が約30%〜40%以下で仕上げられ得る。固形物の除去率が低いことから、貴金属を再利用する必要性が明らかに低くなる。固形物の除去率が低いことは、寸法の変動がより小さくなることにもつながり得る。
【0084】
図4および5は、本発明に係る研磨前および研磨後の、スケール除去されたステントの走査電子顕微鏡写真である。
本発明は、貴金属および活性遷移金属の両方を含む本願に記載のものなどの合金から形成された任意の製品または製品の成分を洗浄または研磨する際の使用に有用性を見出し得る。本発明は、例えばステントなどの医療装置の研磨または洗浄への特定の有用性を見出す。
【0085】
上記開示は、例示であって包括的なものではない。説明は、多くの改良および変更を当業者に示唆するであろう。これらの変更および改良は全て、添付の特許請求の範囲に含まれるものとする。当業者は、本願に記載された具体的な実施形態と同等の別の形態を認識することができ、その同等物もまた添付の特許請求の範囲に含まれるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明に係るステントの製造方法を示す流れ図である。
【図2】本発明に係る洗浄および電解研磨法において用いられ得る波形を示す。
【図3】本願に記載された新規な方法に従って製造され得る、少なくとも一種の貴金属と、少なくとも一種の非貴金属とを含む合金で形成され得るステントの斜視図である。
【図4】研磨前の、スケール除去されたステントの走査電子顕微鏡写真である。
【図5】研磨後の、スケール除去されたステントの走査電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一種の貴金属と、少なくとも一種の活性金属とを含む合金で形成されたステントであって、少なくとも一つの硫黄イオンを有する少なくとも一種の溶媒和剤を含むとともに電源に接続された電解性酸浴に前記ステントを浸漬する工程と、前記ステントに多重パルス波形を受けさせる工程とを含む方法により形成されたステント。
【請求項2】
前記錯化剤が、チオ尿素またはその誘導体、チオカルボン酸、チオウロニウム塩およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも一種を含む請求項1に記載のステント。
【請求項3】
前記酸浴が、塩または酸の形態の少なくとも一種のハロゲン化物を更に含む請求項1に記載のステント。
【請求項4】
前記ハロゲン化物が、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属ハロゲン化物、遷移金属ハロゲン化物、ハロゲン化水素またはそれらの混合物である請求項3に記載のステント。
【請求項5】
前記ハロゲン化物が、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化水素、塩化第二鉄およびそれらの混合物からなる群から選択される請求項3に記載のステント。
【請求項6】
前記酸浴が、リン酸、硫酸、塩酸、フッ化水素酸、四フッ化ホウ酸、またはそれらの混合物を含む請求項1に記載のステント。
【請求項7】
前記少なくとも一種の貴金属が、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、レニウム、金、銀、銅、オスミウム、白金、またはそれらの混合物である請求項1に記載のステント。
【請求項8】
前記貴金属が白金である請求項1に記載のステント。
【請求項9】
前記少なくとも一種の活性金属が遷移金属である請求項1に記載のステント。
【請求項10】
前記少なくとも一種の活性遷移金属が、クロム、チタン、タンタル、タングステン、ニオブ、ジルコニウム、またはそれらの混合物である請求項9に記載のステント。
【請求項11】
前記少なくとも一種の活性金属がクロムである請求項9に記載のステント。
【請求項12】
前記合金が約2重量%〜約70重量%の白金を含む請求項8に記載のステント。
【請求項13】
前記合金が約5重量%〜約50重量%の白金を含む請求項8に記載のステント。
【請求項14】
前記合金が約10重量%〜約20重量%のクロムを更に含む請求項8に記載のステント。
【請求項15】
前記合金が約5重量%〜約15重量%のニッケルを更に含む請求項8に記載のステント。
【請求項16】
前記合金が約10重量%〜約40重量%の鉄を更に含む請求項8に記載のステント。
【請求項17】
a)約2重量%〜約70重量%の白金と、
b)約10重量%〜約40重量%の鉄と、
c)約10重量%〜約20重量%のクロムと、
d)約5重量%〜約15重量%のニッケルとを含む合金から形成される請求項1に記載のステント。
【請求項18】
a)約11重量%〜約18重量%のクロムと、
b)少なくとも約15重量%の鉄と、
c)約5重量%〜約12重量%のニッケルと、
d)約2重量%〜約50重量%の白金とを含む合金から形成される請求項1に記載のステント。
【請求項19】
前記多重パルス波形が周期的反転多重パルス波形である請求項1に記載のステント。
【請求項20】
前記多重パルス波形が、約+3.5〜約4.0ボルトSCEの正電圧を含む少なくとも一回の第1の周期と、約−0.6〜約−0.8ボルトSCEの負電圧を含む少なくとも一回の第2の周期とを含む請求項1に記載のステント。
【請求項21】
前記少なくとも一回の第1の周期が約1ミリ秒〜約1秒であり、前記少なくとも一回の第2の周期が約4ミリ秒〜約10秒である請求項20に記載のステント。
【請求項22】
前記多重パルス波形が少なくとも一回の休止期間を更に含む請求項20に記載のステント。
【請求項23】
前記休止期間が、負電圧を含む少なくとも一周期の後および正電圧を含む少なくとも一周期の前であるか、または正電圧を含む少なくとも一周期の後および負電圧を含む少なくとも一周期の前である請求項22に記載のステント。
【請求項24】
前記休止期間が約100ミリ秒以下である請求項22に記載のステント。
【請求項25】
前記休止期間が約10ミリ秒以下である請求項22に記載のステント。
【請求項26】
前記多重パルス波形が、約3.5〜約5.0ボルトSCEの正電圧を含む少なくとも二周期と、約−0.6〜約−0.8ボルトSCEの負電圧を含む少なくとも二周期とを含む請求項20に記載のステント。
【請求項27】
前記多重パルス波形が、負電圧を含む少なくとも一周期の後および正電圧を含む少なくとも一周期の前であるか、または正電圧を含む少なくとも一周期の後および負電圧を含む少なくとも一周期の前である少なくとも一回の休止期間を更に含む請求項26に記載のステント。
【請求項28】
前記少なくとも一回の休止期間が約10ミリ秒以下である請求項27に記載のステント。
【請求項29】
前記多重パルス波形が、約400mAMp〜約600mAmpの陽極電流を含む少なくとも一周期と、約200mAmp〜約600mAmpの陰極電流を含む少なくとも一周期とを含む請求項20に記載のステント。
【請求項30】
前記多重パルス波形が、約400mAmp〜約600mAmpの陽極電流を含む少なくとも二周期と、約200mAmp〜約600mAmpの陰極電流を含む少なくとも二周期とを含む請求項20に記載のステント。
【請求項31】
前記多重パルス波形が少なくとも一回の休止期間を更に含む請求項29に記載のステント。
【請求項32】
前記多重パルス波形が少なくとも二回の休止期間を含む請求項30に記載のステント。
【請求項33】
前記多重パルス波形の周波数が約2Hz〜約50Hzである請求項1に記載のステント。
【請求項34】
前記電源が一定の電流で動作される請求項1に記載のステント。
【請求項35】
前記電源が一定の電圧を出力している請求項34に記載のステント。
【請求項36】
ステントの洗浄または電解研磨方法であって、少なくとも一つの硫黄原子を有する少なくとも一種のキレート化剤または錯化剤を含むとともに電源に接続された電解浴に前記ステントを浸漬する工程と、前記浴に多重パルス波形を受けさせる工程とを含む方法。
【請求項37】
前記キレート化剤または錯化剤が、チオ尿素またはその誘導体、チオカルボン酸、チオウロニウム塩およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも一種を含む請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記多重パルス波形が周期的反転多重パルス波形である請求項36に記載の方法。
【請求項39】
前記酸浴が、硫酸、リン酸、塩酸、フッ化水素酸、四フッ化ホウ酸、またはそれらの混合物を含む請求項36に記載の方法。
【請求項40】
前記酸浴が、少なくとも一種のアルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属ハロゲン化物、遷移金属ハロゲン化物、ハロゲン化水素またはそれらの混合物を更に含む請求項36に記載の方法。
【請求項41】
前記ハロゲン化物が、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化水素、塩化第二鉄およびそれらの混合物からなる群から選択される請求項40に記載の方法。
【請求項42】
洗浄工程または電解研磨工程の前に、硝酸、フッ化ホウ酸もしくはその誘導体、またはそれらの混合物を含む水性混合物中に前記ステントを浸漬する工程を更に含む請求項36に記載の方法。
【請求項43】
前記多重パルス波形が、約3.5ボルトSCE〜約4.0ボルトSCEの正電圧を含む少なくとも一回の第1の周期と、約−0.6ボルトSCE〜約−0.8ボルトSCEの負電圧を含む少なくとも一回の第2の周期とを含む請求項36に記載の方法。
【請求項44】
前記第1の周期が約2ミリ秒〜約1秒であり、前記第2の周期が約4ミリ秒〜約10秒である請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記多重パルス波形が少なくとも一回の休止期間を更に含む請求項43に記載の方法。
【請求項46】
前記少なくとも一回の休止期間が約100ミリ秒以下である請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記少なくとも一回の休止期間が約10ミリ秒以下である請求項45に記載の方法。
【請求項48】
前記少なくとも一回の休止期間が、負電圧を含む少なくとも一周期の後および正電圧を含む少なくとも一周期の前であるか、または正電圧を含む少なくとも一周期の後および負電圧を含む少なくとも一周期の前である請求項45に記載の方法。
【請求項49】
前記多重パルス波形が、約3.5ボルトSCE〜約4.0ボルトSCEの正電圧を含む少なくとも二周期と、約−0.6ボルトSCE〜約−0.8ボルトSCEの負電圧を含む少なくとも二周期とを含む請求項36に記載の方法。
【請求項50】
正電圧を含む前記少なくとも二周期のそれぞれが約2ミリ秒〜約1秒であり、負電圧を含む前記少なくとも二周期のそれぞれが約4ミリ秒〜約10秒である請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記多重パルス波形が少なくとも一回の休止期間を更に含む請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記多重パルス波形が少なくとも二回の休止期間を更に含む請求項50に記載の方法。
【請求項53】
前記少なくとも一回の休止期間が約100ミリ秒以下である請求項51に記載の方法。
【請求項54】
前記少なくとも一回の休止期間が約10ミリ秒以下である請求項51に記載の方法。
【請求項55】
前記少なくとも一回の休止期間が、負電圧を含む一周期の後および正電圧を含む一周期の前であるか、または正電圧を含む一周期の後および負電圧を含む一周期の前である請求項51に記載の方法。
【請求項56】
前記多重パルス波形が、約400mAMp〜約600mAmpの陽極電流を含む少なくとも一周期と、約200mAmp〜約600mAmpの陰極電流を含む少なくとも一周期とを含む請求項36に記載の方法。
【請求項57】
前記多重パルス波形が、約400mAmp〜約600mAmpの陽極電流を含む少なくとも二周期と、約200mAmp〜約600mAmpの陰極電流を含む少なくとも二周期とを含む請求項36に記載の方法。
【請求項58】
少なくとも一回の休止期間を更に含む請求項56に記載の方法。
【請求項59】
少なくとも一種の貴金属と、少なくとも一種の非貴金属とを含む合金から形成されたステントの洗浄または電解研磨方法であって、
a)管状部材を準備する工程と、
b)前記管状部材をステントパターンにレーザ切断してステントを形成する工程と、
c)少なくとも一種のキレート化剤または錯化剤を含む水性酸混合物中で前記ステントを電解研磨する工程と、
d)前記酸浴に多重パルス波形を受けさせる工程とを含む方法。
【請求項60】
前記キレート化剤が少なくとも一つの硫黄原子を含む請求項59に記載の方法。
【請求項61】
フッ化ホウ酸と硝酸との酸混合物中に前記ステントを浸漬する工程を更に含む請求項59に記載の方法。
【請求項62】
前記電解研磨工程の前に、少なくとも一つの硫黄イオンを有する少なくとも一種のキレート化剤または錯化剤を含む電解性酸浴中で前記ステントをエッチングする工程を更に含む請求項59に記載の方法。
【請求項63】
前記多重パルス波形が周期的反転多重パルス波形である請求項59に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−516772(P2007−516772A)
【公表日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−547008(P2006−547008)
【出願日】平成16年11月24日(2004.11.24)
【国際出願番号】PCT/US2004/039462
【国際公開番号】WO2005/066395
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(500332814)ボストン サイエンティフィック リミテッド (627)
【Fターム(参考)】