説明

金属回収方法

【課題】金属含有排水中の有価金属を、キレート樹脂塔に通水して金属イオンを吸着させた後、キレート樹脂に吸着された金属イオンを溶離させて回収するに際して、金属イオンの溶離に用いる薬品の使用量を低減すると共に、金属イオンを高濃度で含む回収液を得る。
【解決手段】金属含有排水をキレート樹脂塔2に通水する吸着工程と、キレート樹脂塔に鉱酸を含む溶離液を通液する回収工程とを交互に繰り返し行う。回収工程では、前回の回収工程で回収された塔流出液に鉱酸を添加してキレート樹脂塔2に上向流で通液する溶離工程と、その後、キレート樹脂塔2に水を下向流で通水する押出工程とを行い、溶離工程の塔流出液と押出工程の塔流出液とを回収して次回の溶離液として再利用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属含有排水から有価金属を回収する方法に係り、特に、キレート樹脂法による金属の回収に際して、キレート樹脂に吸着した金属イオンの溶離に用いる薬品量を削減すると共に、金属イオンを高濃度に含む液を回収する金属回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、メッキ洗浄廃水の処理方法としては、一般的には、中和凝集沈殿法(水酸化物沈殿法)が援用されている。この方法は、排水のpHをアルカリ性とし、金属イオンを水酸化物として沈殿させて分離除去するものである。この方法で、ニッケルや亜鉛といった有価金属を回収する場合、これらを鉄と分離して回収するためには、pH条件を変えて凝集沈殿する方法がとられる。すなわち、pH3〜6でFe2+を酸化剤等の存在下でFe3+に酸化した後、水酸化物として沈殿除去し、その後、pH7〜10でニッケル、亜鉛を沈殿分離する方法である。さらに水を回収する場合には、ニッケル、亜鉛を沈殿分離した後、回収水の要求水質に合わせて、さらに砂濾過、限外濾過膜等の固液分離、または逆浸透(RO)膜処理を行う。
【0003】
その他、金属含有排水の処理法として、硫化物沈殿法、イオン交換法、キレート樹脂法、膜分離法などがある。
【0004】
硫化物沈殿法は、硫化ソーダ添加により金属を硫化物として沈殿させる方法である。この方法では、水酸化物沈殿法に比べて金属硫化物の溶解度積が低いことから、廃水処理の観点からは、より低濃度に金属類を処理することができる。
【0005】
イオン交換法は、排水中の金属イオンをイオン交換樹脂に吸着させて除去するものであり、イオン交換樹脂の吸着容量の範囲内で使用すれば、確実に金属イオンを除去することが可能である。
【0006】
キレート樹脂法は特定の金属に対して選択性を有するキレート樹脂を使用して金属を吸着除去するものである。イオン交換樹脂と同様、確実に金属イオンを除去することが可能であるが、キレート樹脂は金属に対して選択性を有し、吸着除去できる金属が特定される。
【0007】
膜分離法はRO膜を使用して金属イオンを除去するものであり、良好な処理水質が得られる。
【0008】
しかし、いずれの方法も、金属含有排水から水と有価金属との両方を回収する場合にはそれぞれ以下のような課題がある。
【0009】
(1)中和凝集沈殿法
水酸化物は、フロックが微細で、沈殿池での分離性が不安定であるため、安定運転のためには高分子凝集剤などの沈殿補助剤が必要である。また、水酸化物スラッジは含水率70〜80%程度であり、発生した大量のスラッジの処理が問題となる。
また、この方法で、鉄とニッケルや亜鉛とを分離回収するためには、中和時のpHを2段階にする必要があり、沈殿池を2段階に設けることとなり、大きな設置スペースが必要である。
更に、水回収のために、後段でRO膜処理を行う場合、中和処理によりイオンが増加するため、RO膜へのイオン負荷が増加してしまう。
【0010】
(2)硫化物沈殿法
硫化物は溶解度積が低く、金属イオン濃度を低下させることができるが、硫化物の沈殿物は微細であるため、沈殿分離性が悪い。また、硫化物は酸性条件で硫化水素を発生するため、安全性の問題がある。
【0011】
(3)イオン交換法
イオン交換樹脂はほとんどすべてのイオンを吸着するため、排水処理では金属イオン以外のイオン吸着量が大きく、金属イオン除去を目的とした場合には効率が悪い。また、その分、再生薬剤を多く必要とし、しかも、再生液中にはこれらのイオンが混合された状態で含まれるため、有価金属の回収が困難である。
【0012】
(4)キレート樹脂法
イオン交換樹脂に比べて金属イオンに対する選択性は高いが、共存イオンの挙動に注意が必要である。また、金属の溶離には通常、硫酸や塩酸を使用するが、溶離のために使用する薬品量が膨大であるという問題がある。キレート樹脂塔に溶離液を通液して金属を溶離させる場合、回収される溶離液(塔流出液)中の金属濃度は、溶離液の通液量に対して徐々に増加し、さらに通液を継続すると金属濃度が徐々に低下する。金属イオン濃度がピークとなった流出画分のみを回収する方法もあるが、この場合でも金属イオン濃度は数千mg/L〜2重量%程度であり、しかも、溶離に使用する薬品量が多いという問題は解決されない。
【0013】
(5)膜分離法
RO膜の使用により良好な処理水質を得ることができるが、RO濃縮水側に濃縮される金属イオンは排水中の10倍程度にしかならないため、RO膜単独では金属の回収に適さない。
【0014】
従来、キレート樹脂の再生に必要な薬品の使用量を削減するため、特開昭61−110800号公報に記載される方法が提案されている。この方法は、銅電解液中の不純物除去にキレート樹脂を使用し、キレート樹脂からの不純物の溶離に対して使用される鉱酸量の削減を目的として、不純物の溶離操作において、溶離に利用されなかった鉱酸を回収して再利用することにより、鉱酸の利用効率を上げる方法である。
【0015】
しかしながら、この方法は、不純物に対する鉱酸の利用効率向上を図るにとどまり、対象とする金属イオンを十分に濃縮して効率的に回収する方法としては十分ではない。
【0016】
また、特公昭46−43883号公報には、イオン交換法において、流出する溶離液をフラクションに分けて、再利用する方法が提案されているが、装置構造が複雑になるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開昭61−110800号公報
【特許文献2】特公昭46−43883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上記従来の問題点を解決し、金属含有排水から有価金属を効率的に回収する方法を提供することを目的とする。
【0019】
より具体的には、本発明は、金属含有排水中の有価金属を、キレート樹脂塔に通水して金属イオンを吸着させた後、キレート樹脂に吸着された金属イオンを溶離させて回収するに際して、金属イオンの溶離に用いる薬品の使用量を低減すると共に、金属イオンを高濃度で含む回収液を得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明(請求項1)の金属回収方法は、金属含有排水をキレート樹脂塔に通水して排水中の金属イオンをキレート樹脂に吸着させる吸着工程と、金属イオンが吸着したキレート樹脂に鉱酸を含む溶離液を接触させて、キレート樹脂から金属イオンを溶離させて回収する回収工程とを有し、該吸着工程と該回収工程とを交互に繰り返し行う金属回収方法において、該回収工程は、前回の回収工程で回収された塔流出液に鉱酸を添加してキレート樹脂塔に上向流で通液する溶離工程と、該溶離工程後、キレート樹脂塔に水を下向流で通水する押出工程を有し、該溶離工程における塔流出液と該押出工程における塔流出液とを回収することを特徴とする。
【0021】
請求項2の金属回収方法は、請求項1において、前記溶離工程において、溶離開始から0.5〜2.5BVの塔流出液を回収することを特徴とする。
【0022】
請求項3の金属回収方法は、請求項1又は2において、前記押出工程において、鉱酸0.05〜0.2BVを下向流で通液した後水を通水し、押出開始から1.5BVまでの塔流出液を回収することを特徴とする。
【0023】
請求項4の金属回収方法は、請求項1ないし3のいずれか1項において、2回目以降の回収工程で回収された、溶離工程の溶離開始から1.5〜2.0BVの塔流出液から任意の液量を金属回収液として抜き出すことを特徴とする。
【0024】
請求項5の金属回収方法は、請求項1ないし4のいずれか1項において、前記回収工程と吸着工程との間にキレート樹脂の再生工程を有することを特徴とする。
【0025】
請求項6の金属回収方法は、請求項1ないし5のいずれか1項において、金属がニッケル、亜鉛、コバルト、銅又はカドミウムであることを特徴とする。
【0026】
請求項7の金属回収方法は、請求項1ないし6のいずれか1項において、鉱酸が硫酸又は塩酸であることを特徴とする。
【0027】
請求項8の金属回収方法は、請求項1ないし7のいずれか1項において、前記金属含有排水がメッキ洗浄排水であることを特徴とする。
【0028】
請求項9の金属回収方法は、請求項8において、回収された金属をメッキ浴で再利用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、前回の回収工程で回収された塔流出液に鉱酸を添加して溶離液として再利用することにより、金属イオンの溶離に使用する鉱酸量を削減することができる。また、溶離工程において、溶離液をキレート樹脂塔に上向流で通液することにより、次のような効果が奏される。
【0030】
すなわち、溶離操作前に水で満たされたキレート樹脂層内を比重の大きな溶離液が上昇すると、比重差により、水層と溶離液層との界面が保持されやすく、溶離液の上昇流が押出流れとなり、キレート樹脂層内で液乱れによる金属イオン濃度の低下が著しく低減され、効率的な溶離を行える。
【0031】
また、上向流による溶離操作が終了した時点で、キレート樹脂層内には、高濃度の金属イオンを含有する液体が残留しているため、溶離工程後にキレート樹脂塔に水を下向流で通水して洗い流す押出工程を行うが、この場合にも同様の効果が得られる。
【0032】
溶離工程で、溶離液の通液開始から初期の段階で流出する塔流出液には、金属イオンが含まれておらず、塔流出液の金属イオン濃度は、溶離液の通液に従って、徐々に増加し、再び低減してゆく。従って、本発明では、溶離工程における溶離開始から0.5〜2.5BVの、金属イオンを比較的多く含む塔流出液を回収し、その前後の塔流出液は系外へ排出するか、原水の金属含有排水と共に吸着工程に送給することが好ましい(請求項2)。
【0033】
また、押出工程においては、キレート樹脂層内に残留している金属イオンの再吸着を防止するために少量の鉱酸を通液した後水を通液することが好ましく、この工程では、鉱酸0.05〜0.2BVを通液した後水を通水し、押出開始から1.5BVまでの塔流出液を回収することが好ましい(請求項3)。
【0034】
また、2回目以降の回収工程における溶離工程で回収された、溶離開始から1.5〜2.0BVの塔流出液は、十分に金属イオン濃度の高いものとなるため、これを金属回収液として抜き出すことが好ましい(請求項4)。
【0035】
本発明において、回収工程と吸着工程との間にはキレート樹脂の再生工程を有していても良い(請求項5)。
【0036】
また、本発明において、回収する金属としてはニッケル、亜鉛、コバルト、銅又はカドミウムが挙げられ(請求項6)、溶離のための鉱酸としては硫酸又は塩酸が挙げられる(請求項7)。
【0037】
本発明の方法は、特に、メッキ洗浄排水からの金属の回収に有効であり(請求項8)、この場合、回収された金属をメッキ浴で有効に再利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1a】本発明の金属回収方法の実施の形態を示す金属回収装置の系統図であり、吸着工程を示す。
【図1b】本発明の金属回収方法の実施の形態を示す金属回収装置の系統図であり、溶離工程を示す。
【図1c】本発明の金属回収方法の実施の形態を示す金属回収装置の系統図であり、溶離工程を示す。
【図1d】本発明の金属回収方法の実施の形態を示す金属回収装置の系統図であり、溶離工程を示す。
【図1e】本発明の金属回収方法の実施の形態を示す金属回収装置の系統図であり、溶離工程を示す。
【図1f】本発明の金属回収方法の実施の形態を示す金属回収装置の系統図であり、押出工程を示す。
【図1g】本発明の金属回収方法の実施の形態を示す金属回収装置の系統図であり、押出工程を示す。
【図1h】本発明の金属回収方法の実施の形態を示す金属回収装置の系統図であり、押出工程を示す。
【図1i】本発明の金属回収方法の実施の形態を示す金属回収装置の系統図であり、再生工程を示す。
【図1j】本発明の金属回収方法の実施の形態を示す金属回収装置の系統図であり、再生工程を示す。
【図2】本発明における溶離工程及び押出工程の塔流出液の金属イオン濃度の推移を示すグラフである。
【図3】実施例1における回収液槽内のニッケル濃度の推移を示すグラフである。
【図4】比較例1における塔流出液のニッケル濃度の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に図面を参照して本発明の金属回収方法の実施の形態を詳細に説明する。図1a〜図1jは、本発明の金属回収方法の実施の形態を示す金属回収装置の系統図であり、これらの図において、1は原水(金属含有排水)槽、2はキレート樹脂塔、3は第1の溶離液槽、4は第2の溶離液槽、5は回収液槽、Pは原水ポンプ、Pは溶離液ポンプである。V〜V14は開閉バルブである。
【0040】
図1a〜図1jの各図は、本発明における各処理工程を説明するものであり、流体の流れている配管は流れていない配管よりも太い実線で示してあり、また、流体の流れているバルブは黒で、流体の流れていないバルブは白で示してある。
【0041】
[吸着工程]
本発明においては、金属含有排水をキレート樹脂塔に通水し、排水中の金属イオンをキレート樹脂に吸着させる。
【0042】
キレート樹脂としては回収目的とする金属イオンを選択的に吸着できるものであれば良く、特に限定されるものではない。例えば、イミノジ酢酸基、ポリアミン基等をキレート基とするキレート樹脂を使用することができる。
【0043】
キレート樹脂に通水する金属含有排水は、用いるキレート樹脂に必要な前処理を実施する。また、回収目的としない金属イオンが含まれる場合(例えばFe3+等)、これを予め除去しておく。吸着時のpHは特に限定しないが、金属イオンの水酸化物が生成しない程度のpHが望ましく、また、過度に酸性が強いとキレート樹脂への吸着量が下がるため、キレート樹脂に接触させる金属含有排水のpHは4〜6程度である事が好ましい。
【0044】
この吸着工程は、具体的には、図1aに示す如く、原水ポンプPを作動させてバルブV11を開とし(他のバルブは閉、溶離液ポンプは停止)、原水槽1内の金属含有排水をキレート樹脂塔2に下向流で通水し、排水中の金属イオンとをキレート樹脂塔2に充填されたキレート樹脂に吸着させ、金属イオンが吸着除去された処理水をバルブV11を経て系外へ排出する。所定量の金属含有排水を通水した後は、原水ポンプPを停止して吸着工程を終了する。
【0045】
なお、キレート樹脂塔2への金属含有排水の通水方向には特に制限はなく、下向流であっても上向流であっても良いが、通常は通水速度が大きくとれることにより下向流通水とされる。
【0046】
[溶離工程]
吸着工程終了後は、鉱酸を含む溶離液をキレート樹脂塔に通液して金属イオンを溶離させる。まず、図1bに示す如く、バルブV,V,Vを開(他のバルブは閉)として第1溶離液槽3に、鉱酸と純水を投入して所定の濃度の溶離液を調製する。第1溶離液槽3に前回の回収工程で回収した塔流出液が投入されている場合には、バルブVのみを開として、鉱酸のみを添加して溶離液を調製する。
【0047】
金属イオンの溶離に用いる溶離液の鉱酸濃度やpHは、溶離させる金属イオンやキレート樹脂の種類に応じて異なるが、例えば、5〜15重量%程度の硫酸又は塩酸水溶液が挙げられ、前回の回収工程で回収した塔流出液を溶離液として再利用する場合には、鉱酸を補充添加することにより、pH0.5〜1程度に調整することが好ましい。
【0048】
溶離液の通液に際しては、バルブVを開として、溶離液ポンプPを作動させて、第1溶離液槽3内の溶離液をキレート樹脂塔2の下部から上向流で通液し、塔2の上部から塔流出液を得るが、溶離液の通液開始初期の塔流出液中には金属イオンが含まれていないため、図1cに示す如く、バルブVとV12のみを開(他のバルブは閉)として、この溶離開始初期の塔流出液を系外へ排出する。
【0049】
溶離液の通液に従って、金属イオンが溶離し始めるため、初期塔流出液を排出した後は、図1dに示す如く、バルブV,Vを開(他のバルブは閉)として、金属イオンを含む塔流出液を第2溶離液槽4に回収する。この第2溶離液槽4に回収された塔流出液は、次回の溶離工程の溶離液として再利用される。
【0050】
この溶離工程において、溶離液をキレート樹脂塔2に上向流で通液することにより、前述の如く、効率的な溶離を行える。即ち、本発明では、塔流出液を溶離液として繰り返し使用することにより、溶離液中の金属イオン濃度は上昇し、溶離液中の金属イオン濃度を5〜20重量%程度にまで高めることが可能となる。溶離液は金属イオン濃度の上昇とともに、液比重が大きくなるため、キレート樹脂から金属イオンを溶離する場合、キレート樹脂塔2の下部から通液すると、溶離操作前に水で満たされた樹脂層内を比重の大きな溶離液が上昇することで、比重差により、水層と溶離液層との界面が保持されやすく、溶離液の上昇が押出流れとなり、キレート樹脂層内での液乱れによる金属イオン濃度の低下が防止される。
【0051】
この溶離工程における溶離液の上向流速は特に制限はないが、通常、SV0.5〜3hr−1、例えば2hr−1程度とすることが好ましい。
【0052】
また、前述の如く、溶離工程の初期塔流出液は系外へ排出するが、通常、金属イオンが溶離し、塔流出液中に金属イオンが流出するようになるまでの通液量は0.3〜0.8BV、例えば0.5BV程度である。従って、溶離工程の溶離開始から0.3〜0.8V、例えば0.5V程度までの塔流出液を排出し、それ以降の塔流出液を回収することが好ましい。
【0053】
前述の如く、塔流出液中の金属イオン濃度は、溶離開始から徐々に上昇し、そのピーク濃度は、溶離液中の鉱酸濃度によっても異なるが、金属イオン濃度として数千mg/L〜3重量%程度にまで上昇する。この金属イオンの溶離は、例えば2.5BV程度の溶離液通液でほぼ終了するため、本発明では、溶離開始から、0.3〜0.8BVと2〜3BVの間の塔流出液、例えば0.5〜2.5BVの塔流出液を回収して次の溶離工程の溶離液として用いることが好ましい。
【0054】
溶離工程終了後は、溶離液ポンプPを停止して、次の押出工程に移行する。
【0055】
<押出工程>
溶離工程終了後、キレート樹脂塔のキレート樹脂の間隙には、鉱酸が残留しているため、これを下向流の純水で洗い流し、塔流出液を回収する押出工程を行う。
【0056】
2回目以降の押出工程では、キレート樹脂塔のキレート樹脂の間隙には、鉱酸と少量の金属イオンとが残留しているので、塔内に残留する金属イオンのキレート樹脂への再吸着を防止するために、まず少量の鉱酸を下向流で流し、その後純水を通水することが好ましい。
【0057】
即ち、まず、図1fに示す如く、バルブV,V10、Vを開(その他のバルブ閉)として、少量の鉱酸をキレート樹脂塔2に下向流で通液し、塔下部からの塔流出液を第2溶離液槽4に回収する。この鉱酸通液量は0.05〜0.2BV程度で十分である。次いで、図1gに示す如く、バルブV,V10,Vを開(その他のバルブ閉)として、純水をキレート樹脂塔2に下向流で通水し、塔下部からの塔流出液を第2溶離液槽4に回収する。この押出工程で回収する塔流出液量は、開始から0.5〜1.5BV程度が適当であり、それ以降の塔流出液は、図1hに示す如く、バルブV,V11開(その他のバルブ閉)として系外へ排出する。
【0058】
この押出工程においても、下向流通液とすることにより、前述の溶離工程における下向流通液と同様に比重の重い鉱酸ないし金属イオン含有液が下方に押し出されることにより、キレート樹脂層内の液乱れが防止され、良好な押し出し洗浄を行うことができる。
【0059】
[再生工程]
押出工程終了後は必要に応じてキレート樹脂の再生を行う。
【0060】
例えば、図1iに示す如く、バルブV13を開(その他のバルブは閉)としてNaOH等の再生剤をキレート樹脂塔2の下部から注入した後、塔2内を撹拌し、その後、図1jに示す如く、バルブV,V11を開(その他のバルブを閉)として、純水でキレート樹脂塔2内に残留する再生剤を押し出し洗浄する。
【0061】
前述の押出工程後、必要に応じて上記再生工程を行った後は、次の吸着工程を再開する。
【0062】
次回の吸着工程後の回収工程では、前回の回収工程で第2溶離液槽4に回収した塔流出液を溶離液として用いるが、この塔流出液は、前回の回収工程で用いた溶離液中に金属イオンが溶出し、鉱酸が金属イオンとの反応で消費されているため(例えば、ニッケルイオンの溶離に硫酸を用いた場合は硫酸ニッケルが生成する。)、前述の如く、不足する鉱酸を補充してpH調整した後使用する。図1a〜jの装置では、回収工程の塔流出液を第1溶離液槽3と第2溶離液槽4とに交互に回収し、また、溶離工程における溶離液として、第1溶離液槽3内の液と第2溶離液槽4内の液とを交互に用いることにより、吸着と回収の処理を継続して行うことができる。
【0063】
[回収液の抜き出し]
本発明に従って、塔流出液を回収して溶離液として再利用することにより、溶離液中の金属イオン濃度が高められるため、本発明では、溶離工程における塔流出液のうち、金属イオン濃度の高い流分を金属回収液としてキレート樹脂塔と溶離液槽との循環系から抜き出して回収する。
【0064】
即ち、第1回目の溶離工程において、金属イオンを含まない鉱酸水溶液で溶離を行い、その後押出を行うと、図2(a)に示すような溶出曲線となる。図2(a)において、塔流出液のうち、溶離工程の初期及び押出工程の終期の流分は系外へ排出し、それ以外のドットを付した塔流出液流分が回収される。この第1回目の溶離工程において、塔流出液中の金属イオン溶出濃度(図2(a)のX)は、高々3重量%程度である。
【0065】
そして、この第1回目の溶離工程で回収された塔流出液を用いて、次の溶離工程を行った場合、前回の溶離工程で溶出した金属イオンを含む液を用いることにより、第2回目の溶離工程では、図2(b)にハッチを付した分だけ、金属イオンが更に溶出して塔流出液の金属イオン濃度が高められる。このように塔流出液を繰り返し使用することにより、金属イオン濃度の最も高い流分の金属イオン濃度は数十重量%、例えば5〜20重量%にまで高めることが可能となる。
【0066】
本発明においては、2回目以降の溶離工程において、図3(c)において、ハッチを付したこの金属イオン濃度の高い塔流出液流分を金属回収液として抜き出して回収金属の再利用工程へ移送する。
【0067】
具体的には、図1dの溶離工程からバルブVを閉、バルブVを開として、図1eに示す如く、塔流出液を回収液槽5に回収し、更に再利用工程へ移送する。
【0068】
この塔流出液を金属回収液として抜き出す塔流出液は、通常、溶離工程における溶離液の通液開始から1.5〜2.0BVの流分とすることが好ましい。
【0069】
このように、溶離、押出、回収を行って、金属回収液として抜き出した液中の金属イオン量が当該溶離工程の溶離操作によってキレート樹脂から溶離させた金属イオン量とほぼ同等となるように条件を調整することにより、安定かつ効率的に高濃度の金属イオン含有液を金属回収液として回収することができるようになる。従って、溶離工程と押出工程で溶離液槽に回収して次回の溶離工程の溶離液として用いる塔流出液量は、ほぼ次回の溶離工程で用いる溶離液量と等しくなるように、より厳密には、鉱酸添加によるpH調整後に次回の溶離工程で用いる溶離液量と等しくなるようにすることが有利である。
【0070】
なお、溶離工程の初期及び押出工程の終期において系外に排出する塔流出液は、廃棄しても良く、また、原水槽に戻して再度吸着処理に供してもよい。これらの塔流出液を廃棄した場合、溶離操作開始及び押出操作終了時点での塔流出液を系外へ排出することにより、金属イオンのロスが発生するが、前述のように、上向流溶離と下向流押出とを組み合わせることにより、この金属イオンのロスを最小限に抑えることができる。
【0071】
このような本発明の金属回収方法の回収対象とする金属としては、ニッケル、亜鉛、クロム、コバルト、銅、カドミウムなどの有価金属が挙げられるが、これらの有価金属に限らず、本発明は、溶離薬剤使用量の削減において、あらゆる金属の回収に適用することができる。
【0072】
特に、本発明は、メッキ洗浄排水からの金属イオンの回収に有効であり、本発明に従って、メッキ洗浄排水からの金属イオン回収を行う場合、前述のように金属回収液として、5〜20重量%程度の高濃度金属イオン含有液を得ることができるため、金属イオン濃度数%以上で調整されるメッキ浴に対して、本発明で得られた金属回収液はそのまま投入して再利用することができる。
【実施例】
【0073】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0074】
実施例1
図1a〜図1jに示す手順で、本発明に従って、金属の回収を行った。
【0075】
キレート樹脂(三菱化学(株)製、イミノジ酢酸型CR11)200mL充填したキレート樹脂塔2に2L/hrでニッケルイオン300mg/Lを含む溶液(pH5)を通水し、ニッケルが吸着飽和した時点で、ニッケルを溶離する操作を行った。
【0076】
まず、8重量%硫酸水溶液を第1溶離液槽3に投入し、キレート樹脂塔2にSV2hr−1で上向流で通液した。溶離開始から0.7BV通液までのキレート樹脂塔2上部からの流出液は排出し、0.7〜2.5BVまでの流出液を第2溶離液槽4に受けた。2.5BV通液終了時点で、キレート樹脂塔2に残留する溶離液を洗い出すために98重量%硫酸0.05BV、次いで純水をキレート樹脂塔2の上部から下向流で通水し、塔下部からの流出液を第2溶離液槽4に第2溶離液槽4内の全液量が2.5BVになるまで受けた。その後、第2溶離液槽4の溶離液に98重量%硫酸を添加して、溶離液pH0.7に調整した。
【0077】
次に、キレート樹脂塔2に2NaOHをSV2hr−1で塔下部から1BV通液し、キレート樹脂をNa型に再生した。キレート樹脂塔2内を撹拌混合した後、キレート樹脂塔2内に残留したNaOHを純水2BVを下向流で通水して洗い流した。
【0078】
その後、上記と同様にしてニッケル溶液を通水して吸着処理した後、ニッケルが飽和吸着した時点で、第2溶離液槽4内の溶離液を用いて、前回と同様にニッケルの溶離及び押出操作を行い、塔流出液を第1溶離液槽3に受けた。
【0079】
このように吸着→溶離→押出→再生を繰り返し、第1溶離液槽3及び第2溶離液槽4を交互に使用した。
【0080】
2回目の溶離工程以降は、溶離液を上向流で通液したときの溶離開始から1.5〜1.7BVの塔流出液を回収液槽5に回収した。
【0081】
回収液槽5のニッケル濃度の変化を図3に示した。
【0082】
図3より明らかなように、吸着→溶離→押出→再生の繰り返しにより、回収液槽5内の液のニッケル濃度は上昇し、80g/Lまで高濃縮された。
【0083】
比較例1
実施例1と同様にしてキレート樹脂による吸着を行った後、8重量%硫酸水溶液を用いて、溶離操作のみ行い、塔流出液の再利用は行わなかった。このときの塔流出液のニッケル濃度変化を図4に示した。図4より明らかなように、塔流出液のうち、ニッケル濃度の比較的高かった1〜2BVを回収するとすると、回収液のニッケル濃度は平均で2.5重量%となった。
【0084】
上記実施例1と比較例1において、定常状態における溶離に使用した硫酸使用量(ニッケル溶液処理量あたり)を表1に示した。
【0085】
【表1】

【0086】
表1より、本発明による実施例1のほうが硫酸使用量が極めて少なく、効率的に金属イオンを回収できることが分かる。
【符号の説明】
【0087】
1 原水槽
2 キレート樹脂塔
3 第1溶離液槽
4 第2溶離液槽
5 回収液槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属含有排水をキレート樹脂塔に通水して排水中の金属イオンをキレート樹脂に吸着させる吸着工程と、
金属イオンが吸着したキレート樹脂に鉱酸を含む溶離液を接触させて、キレート樹脂から金属イオンを溶離させて回収する回収工程とを有し、
該吸着工程と該回収工程とを交互に繰り返し行う金属回収方法において、
該回収工程は、
前回の回収工程で回収された塔流出液に鉱酸を添加してキレート樹脂塔に上向流で通液する溶離工程と、
該溶離工程後、キレート樹脂塔に水を下向流で通水する押出工程
とを有し、
該溶離工程における塔流出液と該押出工程における塔流出液とを回収することを特徴とする金属回収方法。
【請求項2】
請求項1において、前記溶離工程において、溶離開始から0.5〜2.5BVの塔流出液を回収することを特徴とする金属回収方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記押出工程において、鉱酸0.05〜0.2BVを下向流で通液した後水を通水し、押出開始から1.5BVまでの塔流出液を回収することを特徴とする金属回収方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、2回目以降の回収工程における溶離工程で回収された、溶離開始から1.5〜2.0BVの塔流出液から任意の液量を金属回収液として抜き出すことを特徴とする金属回収方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記回収工程と吸着工程との間にキレート樹脂の再生工程を有することを特徴とする金属回収方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、金属がニッケル、亜鉛、コバルト、クロム、銅又はカドミウムであることを特徴とする金属回収方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、鉱酸が硫酸又は塩酸である。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項において、前記金属含有排水がメッキ洗浄排水であることを特徴とする金属回収方法。
【請求項9】
請求項8において、回収された金属をメッキ浴で再利用することを特徴とする金属回収方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図1d】
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【図1e】
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【図1f】
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【図1g】
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【図1h】
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【図1i】
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【図1j】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−285655(P2010−285655A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−140336(P2009−140336)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】