説明

金属多孔体およびその製造方法、それを用いた電池

【課題】電池用電極として用いることが可能な、特に、ナトリウムを用いた溶融塩電池の負極電極として用いることが可能な金属多孔体を得ることを主な目的とする。
【解決手段】ニッケルまたは銅を主成分とする金属層からなる中空の金属骨格と、金属骨格の少なくとも外表面を覆うアルミニウム被覆層とを備えた金属多孔体とした。さらにアルミニウム被覆層を覆う錫被覆層を設け、電池用電極として用いる。かかる骨格は三次元網目構造を構成する骨格により連続気孔が形成されてなり、気孔率が90%以上であるとよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムめっきにより表面にアルミニウム層を備えた金属多孔体およびそれを電極に用いた電池に関し、特に電池用電極として好適に用いることができるアルミニウム多孔体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
三次元網目構造を有する金属多孔体は、各種濾過フィルタ、触媒担体、電池用電極など多方面に用いられている。例えばニッケルからなるセルメット(住友電気工業(株)製:登録商標:以下この構造の金属多孔体を単にセルメットと呼ぶ)がニッケル水素電池やニッケルカドミウム電池等の電池の電極材料として使用されている。セルメットは連通気孔を有する金属多孔体であり、金属不織布など他の多孔体に比べて気孔率が高い(90%以上)という特徴がある。これは発泡ウレタン等の連通気孔を有する多孔体樹脂の骨格表面にニッケル層を形成した後、熱処理して発泡樹脂成形体を分解し、さらにニッケルを還元処理することで得られる。ニッケル層の形成は、発泡樹脂成形体の骨格表面にカーボン粉末等を塗布して導電化処理した後、電気めっきによってニッケルを析出させることで行われる。
【0003】
一方、電池の種類によってはアルミニウムが電極材料として用いられる。例えば、リチウムイオン電池の正極として、アルミニウム箔の表面にコバルト酸リチウム等の活物質を塗布したものが使用されている。アルミニウムを多孔体にして表面積を大きくし、アルミニウム内部にも活物質を充填することで単位面積当たりの活物質利用率を向上することも可能であるが、実用可能なアルミニウム多孔体は知られていなかった。
【0004】
アルミニウム多孔体の製造方法として、特許文献1には、内部連通空間を有する三次元網状のプラスチック基体にアークイオンプレーティング法によりアルミニウムの蒸着処理を施して、2〜20μmの金属アルミニウム層を形成する方法が記載されている。また、特許文献2には、三次元網目状構造を有する発泡樹脂成形体の骨格にアルミニウムの融点以下で共晶合金を形成する金属(銅等)による皮膜を形成した後、アルミニウムペーストを塗布し、非酸化性雰囲気下で550℃以上750℃以下の温度で熱処理をすることで有機成分(発泡樹脂)の消失及びアルミニウム粉末の焼結を行い、金属多孔体を得る方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3413662号公報
【特許文献2】特開平8−170126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の方法によれば、2〜20μmの厚さのアルミニウム多孔体が得られるとされているが、気相法によるため大面積での製造は困難であり、基体の厚さや気孔率によっては内部まで均一な層の形成が難しい。またアルミニウム層の形成速度が遅い、設備が高価などにより製造コストが増大するなどの問題点がある。特許文献2の方法によればアルミニウムと共晶合金を形成する層が出来てしまい、純度の高いアルミニウム層が形成できない。
【0007】
本願発明者らは、電池用電極として利用可能なアルミニウム多孔体の製造方法を検討している。その過程で従来ニッケル等でのセルメットの製造方法をアルミニウムに適用した場合の課題を見いだした。従来のセルメットの製造方法では、多孔体樹脂表面に金属層をめっきした後に、高温で焙焼することで多孔体樹脂を除去し、金属のみを骨格とする金属多孔体を得ている。この過程で金属表面は酸化されるが、焙焼の後に酸化された表面の還元処理を行うことで金属表面を形成していた。しかしアルミニウムを金属として用いた場合に同様の工程を経た場合、アルミニウム表面は一旦酸化されると容易に還元出来ないために、電池等の電極材料としては用いることができない。本願発明は、このような焙焼工程を経ることの課題を解決する手段として想到したものである。
【0008】
また、本願発明者らは、用途となる電池として、ナトリウムを活物質に含む溶融塩電池を検討している。かかる電池においては、従来知られたニッケルや銅のセルメットを負極電極に用いることができない。ニッケル等の金属がナトリウムと合金を形成し、あるいは溶融塩中に溶け出すことで電池性能の低下を招くためである。このためにも表面のアルミニウム純度が高い金属多孔体が求められる。
【0009】
このように本発明は、電池用電極として用いることが可能な、特に、ナトリウムを用いた溶融塩電池の負極電極として用いることに好適な金属多孔体を得ることを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様は、ニッケルまたは銅を主成分とし厚さが4.0μm以上の金属層からなる中空の金属骨格と、該金属骨格の少なくとも外表面を覆うアルミニウム被覆層と、を備えた金属多孔体である(請求項1)。前記金属多孔体は、三次元網目構造を構成する骨格により連続気孔が形成されてなり、気孔率が90%以上であるものが好ましい(請求項2)。さらに、前記アルミニウム被覆層を前記金属骨格の中空内表面にも備えると好ましい(請求項3)。
【0011】
このような金属多孔体はニッケルまたは銅による比較的強固な骨格構造を備えた上で、その表面がアルミニウムで覆われているという特有の構造を備える。このため、アルミニウム特有の性質を、例えば表面に酸化被膜を形成して劣化が少ないことや、表面の導電性が高いことなどを活かした用途に用いられる。さらに、ニッケルや銅の露出が好ましくない用途にも適用できる。ニッケルを骨格に備えると、その磁性体としての特性を活かすことが可能であり、銅を骨格に備えると、導電率が非常に高い多孔体とすることができる。
【0012】
かかる金属多孔体を、電池用電極材として用いる場合は、アルミニウム被覆層の厚さが1.0μm以上3.0μm以下であると好ましい(請求項4)。アルミニウムで覆われることでニッケルまたは銅が電解質中に溶け出すことによる電池性能の低下を防止することが出来る。さらに1.0μm以上あれば例えば電解質としてナトリウムを用いる電池においてニッケルや銅がナトリウムと合金化してしまうことを効果的に防止することができる。かかる観点での厚さの上限は特にないが、多孔体の気孔率を出来るだけ大きく確保し、またコストを抑制する観点から3.0μm以下であることが好ましい。
【0013】
本発明の別な態様は、さらに前記アルミニウム被覆層の表面の少なくとも一部を覆う錫被覆層を有する金属多孔体である(請求項5)。ここで、錫被覆層の厚さは1.5μm以上9.0μm以下であると好ましい(請求項6)。
【0014】
本発明の金属多孔体を電池用電極として用いた電池(請求項7)を構成することで、表面積の極めて大きな電極を得ることができ、また三次元網目構造により電池活物質を多量に保持することが可能な電極を得ることができる。特に、表面に錫被覆層を備えることで、ナトリウム溶融塩電池の負極電極に用いた場合に、錫をナトリウムと合金化することで活物質として用いることができ、負極容量の大きな電池を得ることが可能となる(請求項8)。この場合、錫とナトリウムの合金化はナトリウムを含む溶融塩電池中で充電することで可能である。ナトリウムと合金化して用いることができる金属としては、シリコン、錫、インジウム等が利用可能である。よって、錫に代えてシリコン被覆層、インジウム被覆層を形成することでも同種の効果が得られる。中でも錫は取り扱いの容易さから好ましい。錫被覆層を薄く形成することにより、充放電特性に優れた電池を得ることが出来る。錫被覆層の厚さは1.5μmから9.0μmが好ましい。厚さが1.5μm未満では、活物質としての錫の量が不足して十分な電池容量を得ることが難しく、9.0μmを超えると、錫被覆層の深部までナトリウムとの合金化が進むために充放電の速度が遅くなるなど電池性能の低下を招く。
【0015】
本発明の金属多孔体は、ニッケルまたは銅を主成分とする金属層からなる中空の金属骨格で形成された三次元網目構造をなす骨格体を準備する工程と、該骨格体を溶融塩中にてめっきすることで、前記金属骨格の少なくとも外表面にアルミニウム被覆層を形成する工程とにより製造することができる(請求項9)。
【0016】
このような骨格体は、従来知られているセルメットや金属不織布として得ることが出来る。このため、アルミニウム多孔体を低コストで安定して製造することが可能となる。さらに、セルメットの製造工程に必要な、金属めっきの後の樹脂の焙焼工程が、アルミニウム被覆層を形成した後には必要とされないため、アルミニウム表面の酸化を伴わない。よって、電池等の電極としても用いることが可能なアルミニウム表面を持つ金属多孔体を得ることができる。
【0017】
前記アルミニウム被覆層を形成する工程の後に、前記アルミニウム被覆層の表面の少なくとも一部に錫被覆層を形成する工程を備えると、表面に錫被覆層を備えた金属多孔体が得られる(請求項10)。錫被覆層は、めっきや蒸着、スパッタ、ペースト塗布等の既知の方法で形成することができる。アルミニウム被覆層の表面に亜鉛置換めっきを行った後、錫めっきを行って錫被覆層を形成すると密着性が向上し好ましい。
【0018】
ここで、骨格体は従来のニッケルまたは銅のセルメットの製造方法と同じく、三次元網目構造を有する樹脂多孔体の表面を導電化し、導電化された樹脂多孔体表面にニッケルまたは銅をめっきし、該めっき後に前記樹脂多孔体を焙焼または溶解により除去する工程、を経て製造すれば良い(請求項11)。
【発明の効果】
【0019】
以上の通り本発明によれば、電池用電極として用いることが可能な、特に、ナトリウムを用いた溶融塩電池の負極電極として用いることが可能な金属多孔体を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明にかかる金属多孔体の製造工程を示すフロー図である。
【図2】金属骨格体の製造工程の代表例としてニッケル多孔体の製造工程を示すフロー図である。
【図3】本発明にかかる金属多孔体の断面構造の一例を示す模式図である。
【図4】金属多孔体を溶融塩電池に適用した構造例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を錫被覆層を形成する工程まで含めて代表例として説明する。以下で参照する図面で同じ番号が付されている部分は同一またはそれに相当する部分である。なお本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0022】
(金属多孔体の製造工程)
図1は本発明にかかる金属多孔体の製造工程を示すフロー図である。工程は、金属骨格体の準備100,準備した金属骨格体表面へのアルミニウムめっき110、めっきされたアルミニウム表面への錫被覆層の形成120の順に行われる。
【0023】
図2は、図1における金属骨格体の製造工程の代表例として、三次元骨格構造を有するニッケル多孔体の製造工程を示すフロー図である。ニッケルを銅に置き換えることで銅多孔体を得ることが出来る。工程は、発泡ウレタンやメラミン等の樹脂多孔体の準備工程101,樹脂表面へのカーボン塗布や無電解めっき等による表面の導電化102,導電化された樹脂表面へのニッケルの電解めっき103,そして、高温焙焼等の方法による樹脂の除去、さらに焙焼の場合に酸化された表面の還元処理の順に行うことができる。
【0024】
以下、上記図1で示した工程を順に詳述する。骨格体としてニッケルの場合を以下では示すが銅を用いる場合も材料を置き換えることで同様の手順が可能である。
【0025】
(金属骨格体の準備)
アルミニウムをめっきする骨格体となる金属多孔体として、ニッケルセルメットを用いる。ニッケルセルメットは芯部が中空となった筒状のニッケル骨格が三次元網目構造をなす金属多孔体である。ニッケル層の厚さは4.0から6.0μm程度、気孔率は90から98%、気孔径は50μm以上100μm以下が好ましい。
【0026】
なお、多孔体の気孔率は、次式で定義される。
気孔率=(1−(多孔質材の重量[g]/(多孔質材の体積[cm]×素材密度)))×100[%]
また、気孔径は、樹脂成形体表面を顕微鏡写真等で拡大し、1インチ(25.4mm)あたりの気孔数をセル数として計数して、平均孔径=25.4mm/セル数として平均的な値を求める。
【0027】
(アルミニウム被覆層の形成:溶融塩めっき)
次に準備した骨格体を溶融塩中に浸漬して電解めっきを行い、ニッケル骨格の表面にアルミニウムめっき層を形成する。ニッケル骨格を陰極、純度99.99%のアルミニウム板を陽極として溶融塩中で直流電流を印加する。アルミニウムめっき層の厚みは1μm以上あればよく、好ましくは1.0μm以上3.0μm以下である。溶融塩としては、有機系ハロゲン化物とアルミニウムハロゲン化物の共晶塩である有機溶融塩、アルカリ金属のハロゲン化物とアルミニウムハロゲン化物の共晶塩である無機溶融塩を使用することができる。有機系ハロゲン化物としてはイミダゾリウム塩、ピリジニウム塩等が使用できる。なかでも1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド(EMIC)、ブチルピリジニウムクロライド(BPC)が好ましい。イミダゾリウム塩として、1,3位にアルキル基を持つイミダゾリウムカチオンを含む塩が好ましく用いられ、特に塩化アルミニウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド(AlCl−EMIC)系溶融塩が、安定性が高く分解し難いことから最も好ましく用いられる。
【0028】
溶融塩中に水分や酸素が混入すると溶融塩が劣化するため、めっきは窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で、かつ密閉した環境下で行うことが好ましい。有機溶融塩浴としてEMIC浴を用いた場合、めっき浴の温度は10℃から60℃、好ましくは25℃から45℃である。
【0029】
溶融塩浴としてイミダゾリウム塩浴を用いる場合、溶融塩浴に有機溶媒を添加することが好ましい。有機溶媒としてはキシレンが特に好ましく用いられる。有機溶媒、中でもキシレンの添加によりアルミニウム被覆層の形成に特有の効果が得られる。すなわち、多孔体を形成するアルミニウム骨格表面が滑らかという第1の特徴と、多孔体の表面部と内部とのめっき厚さの差が小さい均一なめっきが可能であるという第2の特徴が得られる。第1の特徴は、有機溶媒の添加によって骨格表面のめっきが粒状(凹凸が大きく表面観察で粒のように見える)から平坦な形状に改善されることにより、厚さが薄く細い骨格が強固になるものである。第2の特徴は溶融塩浴に有機溶媒を添加することにより、溶融塩浴の粘度が下がり、細かい網目構造の内部へめっき浴が流通しやすくなることによるものである。すなわち、粘度が高いと多孔体表面には新たなめっき浴が供給されやすく、逆に内部には供給されにくいところ、粘度を下げることによって内部にもめっき浴が供給されやすくなることにより、均一な厚さのめっきを行うことが可能となる。
【0030】
これら2つの特徴により、完成した金属多孔体をプレスする場合などに、骨格表面のアルミニウム被覆層が全体に割れにくく均等にプレスされた多孔体を得ることができる。金属多孔体を電池等の電極材料として用いる場合に、電極に電極活物質を充填してプレスにより密度を上げることが行われ、活物質の充填工程やプレス時に骨格が折れやすいため、このような用途では極めて有効である。
【0031】
上記の特徴を得るため、めっき浴への有機溶媒の添加量は、25〜57mol%が好ましい。25mol%以下では表層と内部の厚み差を小さくする効果が得られ難い。また57mol%以上ではめっき浴が不安定となり部分的にめっき液とキシレンが分離してしまう。
【0032】
さらに、前記の有機溶媒を添加した溶融塩浴によりめっきする工程に次いで、前記有機溶媒を洗浄液として用いる洗浄工程をさらに有することが好ましい。めっきされた樹脂の表面はめっき液を洗い流すために洗浄が必要となる。このようなめっき後の洗浄は通常は水で行われる。しかし、イミダゾリウム塩浴は水分を避けることが必須であるところ、洗浄を水で行うと水蒸気などでめっき液に水が持ち込まれることになる。そこで、有機溶媒による洗浄が効果的である。さらに上記のようにめっき浴に有機溶媒を添加する場合、めっき浴に添加した有機溶媒で洗浄を行うことによりさらなる有利な効果が得られる。すなわち、洗浄されためっき液の回収、再利用を比較的容易に行うことができ、コスト低減が可能となる。たとえば、溶融塩AlCl−EMICにキシレンを添加した浴が付着しためっき体をキシレンで洗浄する場合を考える。洗浄された液体は、使用しためっき浴に比較してキシレンが多く含まれた液体となる。ここで溶融塩AlCl−EMICはキシレン中に一定量以上は混ざり合わず、上側にキシレン、下側に約57mol%のキシレンを含む溶融塩AlCl−EMICと分離するため、分離した下側の液を汲み取ることで溶融液を回収することができる。さらにキシレンの沸点は144℃と低いので、熱を加えることで回収溶融塩中のキシレン濃度をめっき液中濃度にまで調整し、再利用することが可能となる。なお、有機溶媒での洗浄の後に、めっき浴とは離れた別の場所において水でさらに洗浄することも好ましく用いられる。
【0033】
(錫被覆層の形成)
さらにナトリウム溶融塩電池の負極として適した多孔体を得るために、表面に錫被覆層を形成する。代表的な例として錫めっき工程を説明する。
【0034】
錫めっきは、骨格体のアルミニウム被覆層表面に錫を電気化学的に析出させる電気めっき、又は錫を化学的に還元析出させる無電解めっきにより行うことができる。
まず、前処理として、アルミニウム被覆層が有する酸化膜をアルカリ性のエッチング処理液により除去するソフトエッチング処理を行う。次に、硝酸を用いて溶解残渣除去処理を行う。水洗した後、酸化膜が除去されたアルミニウム被覆層の表面に対し、ジンケート処理液を用いてジンケート処理(亜鉛置換めっき)を行い、亜鉛皮膜を形成する。ここで、一度亜鉛皮膜の剥離処理を行い、ジンケート処理を再度行うことにしてもよい。この場合、より緻密で薄い亜鉛皮膜を形成することができ、アルミニウム被覆層との密着性が向上し、亜鉛の溶出を抑制することができる。
【0035】
次に、亜鉛皮膜が形成された骨格体をめっき液が注入されためっき浴に浸漬して錫めっきを行い、錫めっき皮膜を形成する。めっき浴の一例を示す。
・めっき液の組成
SnSO:40g/dm
SO:100g/dm
クレゾールスルホン酸:50g/dm
ホルムアルデヒド(37%):5ml/dm
光沢剤
・pH:4.8
・温度:20〜30℃
・電流密度:2A/dm
・アノード:Sn
【0036】
錫めっき皮膜を形成する前に、亜鉛皮膜上にニッケルめっき皮膜を形成することにしてもよい。以下に、ニッケルめっき皮膜を形成する場合のめっき浴の一例を示す。
・めっき液の組成
硫酸ニッケル:240g/L
塩化ニッケル:45g/L
ホウ酸:30g/L
・pH:4.5
・温度:50℃
・電流密度:3A/dm
このニッケルめっき皮膜を中間層として形成することにより、錫めっきを行う際に、酸性又はアルカリ性のめっき液を用いることができる。ニッケルめっき皮膜を形成しない場合に酸性又はアルカリ性のめっき液を用いると、亜鉛がめっき液に溶出する。
【0037】
当該多孔体をナトリウム溶融塩電池の電極として用いる場合には、以下の考慮をすることが好ましい。
まず、上述の錫めっき工程において、0.5μm以上600μm以下のいずれかの膜厚になるように錫めっき皮膜を形成するのが好ましい。膜厚は、めっき液への浸漬時間等を制御することにより調製される。前記膜厚が0.5μm以上600μm以下である場合、負極として用いた場合に所望の電極容量が得られ、体積変化による膨張により錫めっき皮膜が破断して短絡すること等が抑制される。破断がより抑制されるので、膜厚は0.5μm以上400μm以下であるのがより好ましく、充放電の容量維持率向上の点から0.5μm以上100μm以下であるのがさらに好ましい。さらに放電電圧の低下が抑制でき、容量維持率の向上、表面硬度上昇効果を考慮すると、膜厚は1.5μm以上9μm以下であるのが特に好ましい。
【0038】
また、錫めっき工程において、錫めっき皮膜を結晶粒子径が1μm以下になるように形成するのが好ましい。結晶粒子径は、めっき液の組成、温度等の条件を制御することにより調整する。前記結晶粒子径が1μm以下である場合、錫めっき皮膜がナトリウムイオンを吸蔵したときの体積変化が大きくなって充放電サイクル寿命が短くなるのが抑制される。
【0039】
さらに、めっき工程において、錫めっき皮膜を膜厚の最大値又は最小値の平均値との差の、平均値に対する比率が20%以内になるように形成するのが好ましい。前記比率が20%以内である場合、負極の平面面積を大きくした場合に充放電深度のばらつきが大きくなって充放電サイクル寿命が悪くなるのが抑制される。また、局部的に深度が深くなった部分にナトリウムのデンドライトが発生して短絡するのも抑制される。例えば錫めっき皮膜の膜厚の平均値が10μmの場合、膜厚は10μm±2μmであるのが好ましく、膜厚の平均値が600μmの場合、膜厚は600μm±30μmであるのが好ましい。
【0040】
追加の処理として、亜鉛をアルミニウム被覆層側に拡散させる亜鉛拡散工程を有するのが好ましい。この亜鉛拡散工程として、温度200℃以上400℃以下で30秒乃至5分程度、熱処理を行うものが挙げられる。なお、亜鉛皮膜の厚みに応じて、処理温度を400℃以上に上げてもよい。また、負極前駆体材料のアルミニウム被覆層側と表面側とに電位差を与えて、亜鉛をアルミニウム被覆層側に拡散させることにしてもよい。この亜鉛拡散工程は無くてもよいが、熱処理を行った場合、亜鉛を基材側へ拡散させることができるので、亜鉛に基づく充放電を抑制して電池の充放電サイクル特性を向上させ、デンドライトの発生を抑制して安全性を向上させることができる。
【0041】
このようにして製造される金属多孔体の骨格断面例を模式的に図3に示す。金属骨格となるニッケル層3の外表面および内側表面の双方にアルミニウム被覆層2が形成され、さらにその表面に錫被覆層1が形成されている。内部は空洞の中空骨格体を成しており、かかる骨格が三次元網目構造を構成して連続気孔を有する金属多孔体を形成する。
【0042】
(溶融塩電池)
本発明の金属多孔体を、溶融塩電池用の電極材料として用いる構成を説明する。アルミニウム多孔体を正極材料として使用する場合は、活物質としてクロム酸ナトリウム(NaCrO)、二硫化チタン(TiO)等、電解質となる溶融塩のカチオンをインターカレーションすることができる金属化合物を使用する。活物質は導電助剤及びバインダーと組み合わせて使用する。導電助剤としてはアセチレンブラック等が使用できる。またバインダーとしてはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を使用できる。活物質としてクロム酸ナトリウムを使用し、導電助剤としてアセチレンブラックを使用する場合には、PTFEはこの両者をより強固に固着することができ好ましい。
【0043】
本発明の金属多孔体は、溶融塩電池用の負極材料として用いることができる。活物質としてナトリウム単体やナトリウムと他の金属との合金、カーボン等を使用できる。ナトリウムの融点は約98℃であり、また温度が上がるにつれて金属が軟化するため、ナトリウムと他の金属(Si、Sn、In等)とを合金化すると好ましい。このなかでも特にナトリウムと錫とを合金化したものは扱いやすいため好ましい。このため、金属多孔体としてアルミニウムの表面に錫被覆層を設けたものを適用するのが好ましい。錫被覆層を備えた負極電極を溶融塩電池中で充電することで、錫とナトリウムを合金させ、活物質として利用することができる。特に、錫被覆層を金属骨格の外表面および内表面の双方に備えた金属多孔体であれば、外表面だけに錫被覆層を備える場合に比べて活物質の量および表面積を多くすることができ、大容量の電池を構成することに寄与できる。
【0044】
図4は上記の電池用電極材料を用いた溶融塩電池の一例を示す断面模式図である。溶融塩電池は、アルミニウムを表面層とする金属多孔体の表面に正極用活物質を担持した正極121と、錫被覆層を表面にさらに備えた金属多孔体を用いた負極122と、電解質である溶融塩を含浸させたセパレータ123とをケース127内に収納したものである。ケース127の上面と負極との間には、押え板124と押え板を押圧するバネ125とからなる押圧部材126が配置されている。押圧部材を設けることで、正極121、負極122、セパレータ123の体積変化があった場合でも均等押圧してそれぞれの部材を接触させることができる。正極121の集電体、負極122の集電体はそれぞれ、正極端子128、負極端子129に、リード線130で接続されている。ここで、金属多孔体の骨格主体としてニッケルや銅を用いていることで骨格強度を高く保つことが可能であり、中でも銅を骨格とする場合は、電極の電気抵抗を極めて低くすることができるために、より高い電池特性を得ることが可能となる。
【0045】
電解質としての溶融塩としては、動作温度で溶融する各種の無機塩又は有機塩を使用することができる。溶融塩のカチオンとしては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)及びセシウム(Cs)等のアルカリ金属、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)及びバリウム(Ba)等のアルカリ土類金属から選択した1種以上を用いることができる。溶融塩の融点を低下させるために、2種以上の塩を混合して使用することが好ましい。例えばKFSAとNaFSAとを組み合わせて使用すると、電池の動作温度を90℃以下とすることができる。溶融塩はセパレータに含浸させて使用する。セパレータは正極と負極とが接触するのを防ぐためのものであり、ガラス不織布や、多孔質樹脂等を使用できる。上記の正極、負極、溶融塩を含浸させたセパレータを積層してケース内に収納し、電池として使用する。
【0046】
(実施例)
以下、アルミニウム多孔体の製造例を具体的に説明する。骨格体としてのセルメットとして、厚み1mm、気孔率95%、1インチ当たりの気孔数(セル数)約50個のニッケルセルメットを準備し、140mm×340mmに切断した。
【0047】
(アルミニウム被覆層の形成)
ニッケルセルメットを、給電機能を有する治具にセットした後、温度40℃の溶融塩アルミめっき浴(17mol%EMIC−34mol%AlCl−49mol%キシレン)に浸漬した。ウレタン発泡体をセットした治具を整流器の陰極側に接続し、対極のアルミニウム板(純度99.99%)を陽極側に接続した。電流密度3.6A/dmの直流電流を60分間印加してアルミニウムをめっきした。攪拌はテフロン(登録商標)製の回転子を用いてスターラーにて行った。なお電流密度の計算ではアルミニウム多孔体の見かけの面積を使用している(ウレタン発泡体の実表面積は見かけの面積の約8倍)。この結果、120g/mの重量のアルミめっき皮膜を膜厚5.0μmのほぼ均一に形成することができた。
【0048】
(錫被覆層の形成)
前処理として、アルミニウム被覆層表面の酸化膜をアルカリ性のエッチング処理液により除去するソフトエッチング処理を行い、次に、硝酸を用いて溶解残渣除去処理を行った。水洗した後、ジンケート処理液を用いてジンケート処理(亜鉛置換めっき)を行い、亜鉛皮膜を形成した。さらに、一度亜鉛皮膜の剥離処理を行い、ジンケート処理を再度行った。
次に、亜鉛皮膜上にニッケルめっき皮膜を次の条件でめっきにより形成した。
・めっき液の組成
硫酸ニッケル:240g/L
塩化ニッケル:45g/L
ホウ酸:30g/L
・pH:4.5
・温度:50℃
・電流密度:3A/dm
・処理時間:330秒(膜厚略3μmの場合)
【0049】
前処理済みの骨格体をめっき浴に浸漬して錫めっきを行い、膜厚3.5μmのほぼ均一な錫めっき皮膜を形成した。条件は以下の通りである。
・めっき液の組成
SnSO:40g/dm
SO:100g/dm
クレゾールスルホン酸:50g/dm
ホルムアルデヒド(37%):5ml/dm
光沢剤
・pH:4.8
・温度:20〜30℃
・電流密度:2A/dm
・アノード:Sn
・処理時間:300秒
【符号の説明】
【0050】
1 錫被覆層、 2 アルミニウム被覆層、 3 ニッケル層、
121 正極、 122 負極、 123セパレータ、 124 押え板、
125 バネ、 126 押圧部材、 127 ケース、 128 正極端子、
129 負極端子、 130 リード線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルまたは銅を主成分とし厚さが4.0μm以上の金属層からなる中空の金属骨格と、該金属骨格の少なくとも外表面を覆うアルミニウム被覆層とを備えた金属多孔体。
【請求項2】
三次元網目構造を構成する骨格により連続気孔が形成されてなり、気孔率が90%以上である、請求項1に記載の金属多孔体。
【請求項3】
前記アルミニウム被覆層を前記金属骨格の中空内表面にも備えた、請求項1または2に記載の金属多孔体。
【請求項4】
前記アルミニウム被覆層の厚さが1.0μm以上3.0μm以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属多孔体。
【請求項5】
さらに前記アルミニウム被覆層の表面の少なくとも一部を覆う錫被覆層を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属多孔体。
【請求項6】
前記錫被覆層の厚さが1.5μm以上9.0μm以下である、請求項5に記載の金属多孔体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の金属多孔体を電極に用いた電池。
【請求項8】
請求項5または6に記載の金属多孔体を負極として用いたナトリウム溶融塩電池。
【請求項9】
ニッケルまたは銅を主成分とする金属層からなる中空の金属骨格で形成された三次元網目構造をなす骨格体を準備する工程と、該骨格体を溶融塩中にてめっきすることで、前記金属骨格の少なくとも外表面にアルミニウム被覆層を形成する工程とを備えた金属多孔体の製造方法。
【請求項10】
前記アルミニウム被覆層を形成する工程の後に、前記アルミニウム被覆層の表面の少なくとも一部に錫被覆層を形成する工程をさらに有する、請求項9に記載の金属多孔体の製造方法。
【請求項11】
前記骨格体は、三次元網目構造を有する樹脂多孔体の表面を導電化し、導電化された樹脂多孔体表面にニッケルまたは銅をめっきし、該めっき後に前記樹脂多孔体を焙焼または溶解により除去する工程を経て製造される、請求項9または10に記載の金属多孔体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−33423(P2012−33423A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173322(P2010−173322)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】