説明

金属帯巻取り張力の低下検出方法および装置

【課題】スリップ発生に伴う正確な張力低下判定を行なうことができる、金属帯巻取り張力の低下検出方法および装置を提供することを課題とする。
【解決手段】ペイオフリールの無負荷運転時の無負荷トルクを演算する無負荷トルク演算部と、ペイオフリールの加減速運転時の加減速トルクを演算する加減速トルク演算部と、ペイオフリールのトルクフィードバック値から、前記加減速トルクおよび/または前記無負荷トルクを減算した値の正負の変化から張力低下の判定を行なう張力低下判定部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属帯を巻取るテンションリールの駆動を調節して、金属帯を払出すペイオフリールとの間の金属帯に付与する張力を制御するラインを対象に、前記テンションリールでの金属帯巻取り張力の低下を検出する、金属帯巻取り張力の低下検出方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
張力をかけて連続的に搬送される金属帯とロールとの間にスリップが発生すると、金属帯に疵が入り、歩留りの低下や生産効率の低下を招くことになる。
【0003】
このため、ロールと金属帯とのスリップによる金属帯の張力低下を検知する方法として、例えば、特許文献1に開示された技術がある。この技術は、帯状材を巻き付けて拘束するためのブライドルロールとの間に発生するスリップを検出する、ブライドルロールのスリップ検出方法に関するものである。監視対象であるブライドルロールの駆動モータートルクを監視し、発生すべきモータートルクと比較することによってブライドルロール自身のスリップを検出する。
【特許文献1】特開2001−252711号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
張力測定器(テンションメーターロールなど)を有するラインでは、特許文献1に開示の技術を適用して、測定している張力実績から、張力低下を検出することが可能である。
【0005】
しかしながら、張力測定器を持たないラインでは、テンションリールのトルクから張力実績値を算出しているため、テンションリール自身の内径スリップ時には、金属帯とテンションリール間の摩擦係数という不明量をもった状態にあるテンションリールのトルク値から張力実績を算出していることとなり、正確な張力低下判定ができないという問題がある。
【0006】
スリップが生じ張力低下してるにもかかわらず、誤判定によりライン停止が遅れると、金属帯が蛇行してライン設備に接触する、いわゆる、せりこみや、金属帯が張力の弛みからループを作り重なって折れ込む、いわゆる、ダブり込みによりライン設備での金属帯の絞り、破断などが発生するという事態にも至る。これにより、製品の品質が不適合となるばかりでなく、不適合部分の分割処理や破断板の処理等により、稼働率が低下してしまう。
【0007】
本発明は、これら従来技術の問題点に鑑み、スリップ発生に伴う正確な張力低下判定を行なうことができる、金属帯巻取り張力の低下検出方法および装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に係る発明は、金属帯を巻取るテンションリールの駆動を調節して、金属帯を払出すペイオフリールとの間の金属帯に付与する張力を制御するラインを対象に、前記テンションリールでの金属帯巻取り張力の低下を検出する、金属帯巻取り張力の低下検出方法であって、前記ペイオフリールのトルクフィードバック値に基づいて、前記金属帯巻取り張力の低下を検出することを特徴とする金属帯巻取り張力の低下検出方法である。
【0009】
また本発明の請求項2に係る発明は、請求項1に記載の金属帯巻取り張力の低下検出方法において、前記トルクフィードバック値から、加減速トルクおよび/または無負荷トルクを減算した値の正負の変化から前記金属帯巻取り張力の低下を検出することを特徴とする金属帯巻取り張力の低下検出方法である。
【0010】
さらに本発明の請求項3に係る発明は、金属帯を巻取るテンションリールの駆動を調節して、金属帯を払出すペイオフリールとの間の金属帯に付与する張力を制御するラインを対象に、前記テンションリールでの金属帯巻取り張力の低下を検出する、金属帯巻取り張力の低下検出装置であって、前記ペイオフリールの無負荷運転時の無負荷トルクを演算する無負荷トルク演算部と、前記ペイオフリールの加減速運転時の加減速トルクを演算する加減速トルク演算部と、前記ペイオフリールのトルクフィードバック値から、前記加減速トルクおよび/または前記無負荷トルクを減算した値の正負の変化から張力低下の判定を行なう張力低下判定部とを備えることを特徴とする金属帯巻取り張力の低下検出装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、金属帯を巻取るテンションリールの駆動を調節して、金属帯を払出すペイオフリールとの間の金属帯に付与する張力を制御するラインを対象に、テンションリールでのスリップによる金属帯巻取り張力の低下を正確に検出するようにしたので、ライン設備でのせりこみ、ダブり込みによる絞り、破断といったトラブルの未然防止、および製品の品質維持、さらに不適合部分の分割処理や破断板の処理等による稼働率低下の防止が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、鋼帯などの金属帯を巻取るテンションリールの駆動を調節して、金属帯を払出すペイオフリールとの間の金属帯に付与する張力を制御するラインを対象に、張力制御を行なっているテンションリールでのスリップ検知を、ライン張力の張力制御を行っているテンションリールではなく、金属帯の張力で引き合っているペイオフリールのトルクを監視することによって行うものである。
【0013】
テンションリールでのスリップによる金属帯巻取り張力の低下を正確に検出することにより、ライン停止を確実に行い、ライン設備でのせりこみ、ダブり込みによる絞り、破断といったトラブルを未然に防止し、後処理によるライン稼働率の低下を防止する。
【0014】
図1は、本発明に係る金属帯巻取り張力の低下検出装置の構成例を示す図である。図中、1は金属帯、2はペイオフリール(POR)、3はテンションリール(TR)、4は速度検出ロール、5は速度計、6はモータ、7はドライブ装置、8は無負荷トルク演算部、9は加減速トルク演算部、10はデータベース(DB)、および11は張力低下判定部をそれぞれ表す。
【0015】
ペイオフリール(POR)2から払出された金属帯1は、テンションリール(TR)3で巻き取られる。途中に設置の速度検出ロール4には、PLGなどの速度計1が設置されてライン速度が計測されている。図示した、ペイオフリール(POR)2の+方向の回転による払出しをPOR上出し時と称し、反対に−方向の回転による払出しをPOR下出し時と称する。
【0016】
通常は、テンションリール(TR)3をライン目標速度よりも早い目標速度で制御し、張力を金属帯1にかけている。このため、ペイオフリール(POR)2は速度をライン目標速度に制御するために、ペイオフリール(POR)2を駆動するモータ6は逆向き回転方向のトルクを発生させ、テンションリール張力とつりあって運転している。
【0017】
テンションリールの内径がスリップすることにより、金属帯の張力が無くなり、ペイオフリールを正方向に回転させる力が無くなるため、ペイオフリールはライン速度を保つために、回転方向と同じ方向のトルクを発生させる。このペイオフリールの発生トルクの変化を検出し、テンションリールの張力低下を検出する。
【0018】
具体的には、ドライブ装置7から得られるトルクフィードバック値から、加減速トルク演算部9で演算される加減速トルク値と無負荷トルク演算部8で演算される無負荷トルク値を減算して得られる、減算後トルク値に基いて張力低下判定部11で張力低下が生じているかどうかを判定する。
【0019】
すなわち、減算後トルク値が、前述のPOR上出し時には、負の値から正の値になったことによって、POR下出し時には、逆に正の値から負の値になったことによって、それぞれ張力低下が生じたと判定するものである。張力低下が生じたと判定した場合には、張力低下検知信号を出力し、ライン停止など必要な処理に迅速につなげる。
【0020】
加減速トルクの演算には、DB10から加減速トルク演算部9に、加減速レート、板幅、POR内・外径、モータGDなどのデータが送られ演算される。また、無負荷運転時の発生トルクを表す無負荷トルクの演算は、モータメーカなどの試験データに基き、モータ速度フィードバック値の関数または表から無負荷トルク演算部8で行なわれる。
【実施例】
【0021】
本発明の一実施例を以下に説明する。図2は、本発明を適用したリコイリングライン概要を示す図である。図3は、実施例における適用結果例を示す図である。図中の符合は、図1と同じであり、本発明に係る金属帯巻取り張力の低下検出装置の構成は、図1下部に示す構成と同じである。
【0022】
図3の時系列データは、ペイオフリール(POR) からPOR上出し状態で払出された金属帯1を、テンションリール(TR)3で−方向の回転により反転巻き取りおこなっている時に、テンションリール(TR)3でスリップが発生し、本発明によりスリップを検知し、オペレーターがライン停止の操作(検知後約2.5秒後に)を行なった一連のラインデータを示すものである。ここで、MRHとは、マスターレオスタットの略で、ライン全体の速度指令値である主幹速度指令値のことである。この例では、MRHは150mpm一定という速度指令値で運転されている。通常、テンションリールとペイオフリールは、この主幹速度指令値MRHになるように制御されている。
【0023】
TRスリップにより、TRの速度が速度指令150mpmに速度バイアス5mpmを加えた155mpmとなり、TRのトルクは、ゼロ付近で不安定な値となっている。PORは、回転方向と逆向きの負のトルクを発生したものが、TRスリップにより金属帯の張力が低下したため、速度制御により、PORは払い出し方向に正のトルクを発生する。
【0024】
このように、本発明はPORトルクの値の符号反転により、TRのスリップを検知することにより、この例の様にすばやくライン停止の処置をとることができる。これにより、ライン設備でのせりこみ、ダブり込みによる絞り、破断といったトラブルの未然防止、および製品の品質維持、さらに不適合部分の分割処理や破断板の処理等による稼働率低下の防止が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る金属帯巻取り張力の低下検出装置の構成例を示す図である。
【図2】本発明を適用したリコイリングライン概要を示す図である。
【図3】実施例における適用結果例を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1 金属帯
2 ペイオフリール(POR)
3 テンションリール(TR)
4 速度検出ロール
5 速度計
6 モータ
7 ドライブ装置
8 無負荷トルク演算部
9 加減速トルク演算部
10 データベース(DB)
11 張力低下判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属帯を巻取るテンションリールの駆動を調節して、金属帯を払出すペイオフリールとの間の金属帯に付与する張力を制御するラインを対象に、前記テンションリールでの金属帯巻取り張力の低下を検出する、金属帯巻取り張力の低下検出方法であって、
前記ペイオフリールのトルクフィードバック値に基づいて、前記金属帯巻取り張力の低下を検出することを特徴とする金属帯巻取り張力の低下検出方法。
【請求項2】
請求項1に記載の金属帯巻取り張力の低下検出方法において、
前記トルクフィードバック値から、加減速トルクおよび/または無負荷トルクを減算した値の正負の変化から前記金属帯巻取り張力の低下を検出することを特徴とする金属帯巻取り張力の低下検出方法。
【請求項3】
金属帯を巻取るテンションリールの駆動を調節して、金属帯を払出すペイオフリールとの間の金属帯に付与する張力を制御するラインを対象に、前記テンションリールでの金属帯巻取り張力の低下を検出する、金属帯巻取り張力の低下検出装置であって、
前記ペイオフリールの無負荷運転時の無負荷トルクを演算する無負荷トルク演算部と、
前記ペイオフリールの加減速運転時の加減速トルクを演算する加減速トルク演算部と、
前記ペイオフリールのトルクフィードバック値から、前記加減速トルクおよび/または前記無負荷トルクを減算した値の正負の変化から張力低下の判定を行なう張力低下判定部とを備えることを特徴とする金属帯巻取り張力の低下検出装置。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−58149(P2010−58149A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−226564(P2008−226564)
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】