説明

金属微粉の分級方法

【課題】平均粒径が1.0μm以下の金属微粉中に含まれる粗大粒子を効率良く除去することが可能な金属微粉の分級方法を提供する。
【解決手段】金属微粉を溶媒に分散させた金属粒子スラリーを湿式解砕装置にて湿式解砕し、その後、この解砕された金属粒子スラリーを湿式分級機にて湿式分級する。この際、金属微粉を分散させる溶媒としてヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を用いることにより、金属微粉の分散状態を向上させる。金属微粉の分散状態が向上した金属粒子スラリーを湿式解砕装置にて湿式解砕することで、凝集した金属粒子同士が解砕されて良好な分散状態となり、その後、液体サイクロンにて湿式分級することにより、分級性能を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属微粉の分級方法に関するものであり、詳しくは、電子部品等の材料に用いられる金属微粉から粗大粒子を効率良く除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、粒子径が1.0μm以下の金属微粉は、積層セラミックコンデンサ等の電子部品の導電体形成用材料として広く用いられている。金属微粉を積層型の導電体形成材料として使用する場合、導電体形成材料の性能を向上させるためには、その積層数を増加させることが有効な手段となる。
【0003】
しかしながら、導電体形成材料の積層数を増加させると、電子部品の大型化の原因となる。このため、一層当たりの厚みを薄くする必要があるが、電極層を薄層化する場合、その材料となる金属微粉としては、粒子径が小さいとともに金属微粉中に粗大粒子が少ないことが要求される。
【0004】
仮に、粗大粒子を多く含む金属微粉を用いて導電体形成材料を製造した場合、粗大粒子がグリーンシート層を突き抜け、これにより電極が短絡した不良品となってしまう。また、たとえこのような突き抜けが起こらない場合でも、電極間距離が短くなることで、部分的に電流集中が発生し、積層セラミックコンデンサの寿命を短縮させるおそれがある。このような理由から、電子部品材料用の金属微粉を製造する上では、金属微粉中に粗大粒子が少ないこととすることが重要となる。
【0005】
粒子径が小さく粗大粒子が少ない金属微粉を製造する方法としては、例えば、湿式還元法、気相粒子合成法等が挙げられる。
【0006】
湿式還元法による金属微粉の製造方法は、粒子径が微細で分散性に優れた粒子の製造方法として適している。しかしながら、この湿式還元法による金属微粉の製造方法では、通常、多量の還元剤を用いるとともに、金属表面に分散剤等を吸着させるため、不純物品位の増加や製造時に発生する廃液の処理コストが増大する等の問題がある。また、一般的に、湿式還元法により得られた金属微粉は、気相粒子合成法により得られた金属微粉に比べて結晶性が低いために収縮開始温度が低くなりやすく、積層型の導電体形成材料として使用した場合には、グリーンシートとの焼結ミスマッチが生じるといった問題が起こる可能性がある。
【0007】
一方、気相還元法、噴霧熱分解法、蒸発凝集法に代表される気相粒子合成法においては、微細な金属粒子を製造するために金属粒子の生成密度を小さくする制御を行う必要があり、製造コストが増大するといった問題がある。一方で、生産性を重視した場合には、連結粒子や粗大粒子が発生しやすくなり、この粗大粒子を除去するためには分散や分級の操作を繰り返す必要が生じる。このため、同じく製造コストが増大するといった問題が生じてしまう。
【0008】
そこで、金属微粉に含まれる粗大粒子の除去を目的とした分級方法として、例えば特許文献1〜3に示すように、様々な技術が提案されている。
【0009】
例えば、特許文献1に記載の金属超微粉の分級方法では、金属超微粉として一次粒子の平均粒径が0.05〜0.6μmの金属超微粉を採用し、その金属粉末を水中に分散させた水スラリーのpH、電解質濃度の少なくとも一方を調整してからガラス又はセラミックスのチューブを通過させる。そして、この金属粉末の粒子とチューブ壁間との引力を利用してこのチューブ内壁に粗大粒子を吸着させて除去し、この粗大粒子を除去した水スラリーを回収する。
【0010】
しかしながら、この特許文献1に記載の方法では、ガラス又はセラミックスのチューブ径が増加した場合には、チューブ内壁との距離が長くなり、そのチューブ中央部を通過する粗大粒子は、チューブ内壁への吸着が困難になると考えられる。また、水スラリーの注入速度を速くした場合にも、粗大粒子がチューブ内壁に吸着する際の吸着効率が悪化すると考えられる。このことから、大量の金属粉末を効率良く分級することは困難である。一方、分級性能を優先させるために、小さな規模で分級を行えば、作業効率が悪化し、製造コストが増大する。
【0011】
また、例えば特許文献2に記載の粗大金属粒子の除去方法では、金属粒子を主たる固形分として含有するスラリー(以下「金属粒子スラリー」)をフィルターにて濾過し、これにより所定の粒子径以上の粗大金属粒子を除去する。この粗大金属粒子の除去装置には、フィルターを通過させるべき金属粒子スラリーが供給されるフィルター前室として機能するスラリーチャンバーから金属粒子スラリーを抜き出し所定の経路で循環させて再びスラリーチャンバーに戻す循環ラインが設けられている。そして、この循環ラインに金属粒子スラリーを循環させながら、スラリーチャンバー内の金属粒子スラリーを所定の目開きのフィルターにより濾過して、粗大金属粒子を除去する。
【0012】
しかしながら、この特許文献2に記載の方法において、フィルターを用いた濾過により粒子径が1.0μm以上の金属粒子を除去するためには、目開きが1.0μm以下のフィルターを使用する必要があり、フィルターの目開きが1.0μm程度にまで小さくなると、濾過速度の低下やフィルターの目詰まりが生じるおそれがある。
【0013】
このため、フィルターの目詰まりを防止するためには、金属粒子スラリーの濃度を薄くすることが効果的であるが、金属粒子スラリーの濃度を薄くした場合には、処理効率が悪化し、製造コストが増大する。
【0014】
また、例えば特許文献3に記載のニッケル微粉の分級方法では、液体混合液中の粉体を少なくとも粗粒と細粒に分級する液体サイクロンに、平均粒径が0.1〜1.0μmのニッケル微粉を5〜25wt%含有させたスラリーを供給する。液体サイクロンは、遠心力を利用して粗大粒子を分離及び除去する分級装置であるが、液体サイクロン内部での液体の流れは、乱流であり、粗粒側の粒子が細粒側の粒子に混入しやすい。このような粗大粒子を完全に分離及び除去するためには、繰り返し分級する必要があるが、繰り返し分級すると収率が低下し、製造コストが増大する。
【0015】
このように、従来の分級方法では、上述したような様々な要因から、平均粒径が1.0μm以下の金属微粉中に含まれる粗大粒子を効率良く除去することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2005−342581号公報
【特許文献2】特開2002−177743号公報
【特許文献3】特開2001−62332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、平均粒径が1.0μm以下の金属微粉中に含まれる粗大粒子を効率良く除去することが可能な金属微粉の分級方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本件発明者らは、平均粒径が1.0μm以下の金属微粉中に含まれる粗大粒子を効率良く除去することが可能な分級方法について鋭意検討した。その結果、湿式分級機を用いて金属微粉の分級を行う際に、金属微粉の分散性を向上させることにより分級性能が向上することを見出し、本発明を完成した。
【0019】
すなわち、本発明に係る金属微粉の分級方法は、湿式分級にて金属微粉の分級を行う金属微粉の分級方法であって、ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液中に分散させた金属微粉を湿式解砕する湿式解砕工程と、前記湿式解砕工程で解砕された前記金属微粉を湿式分級する湿式分級工程とを有することを特徴とする。
【0020】
本発明に係る金属微粉の分級方法において、金属微粉は、ニッケル微粉であることが好ましい。
【0021】
また、本発明に係る金属微粉の分級方法において、金属微粉は、熱プラズマを用いて製造した金属微粉であることが好ましい。
【0022】
また、本発明に係る金属微粉の分級方法において、湿式分級工程では、液体サイクロンを用いて金属微粉の湿式分級を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る金属微粉の分級方法によれば、平均粒径が1.0μm以下の金属微粉中に含まれる粗大粒子を効率良く除去できる。これにより、得られた金属微粉は、電子部品材料として好適であり、特に、配線材料、電極材料等として好適であり、ペーストとしても安定して用いることができることから、その工業的価値は極めて大きい。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を適用した金属微粉の分級方法の具体的な実施の形態(以下、「本実施の形態」と記す。)について、図面を参照しながら詳細に説明する。本実施の形態における金属微粉の分級方法は、平均粒径(例えば、比表面積径)が1.0μm以下の金属微粉に含まれる粗大粒子を効率良く除去することを目的として金属微粉を湿式分級するものである。なお、平均粒径は、比表面積径でなく、他の算出方法によって定義される平均粒径を用いるようにしてもよい。
【0025】
本実施の形態では、金属微粉から粗大粒子を除去するために、金属微粉を溶媒に分散させた金属粒子スラリーを湿式解砕装置にて湿式解砕し、その後、この解砕された金属粒子スラリーを湿式分級機にて湿式分級する。
【0026】
湿式解砕は、例えば、ホモジナイザー等の湿式解砕装置を用いて行うことができる。ホモジナイザーは、高い衝撃力と瞬間的な高圧を伴うキャビテーション現象を発現することで、金属微粉の凝集体を解砕し、さらには再凝集を抑制することで、金属粒子を安定化させる。
【0027】
ホモジナイザーとしては、超音波ホモジナイザー、圧力式ホモジナイザー等が挙げられる。超音波ホモジナイザーを使用する場合は、真空引き、脱泡、脱気を行ってから分散処理することが望ましい。また、投入する分散エネルギーの使用効率の観点から、圧力式ホモジナイザーがより好ましい。
【0028】
湿式解砕装置として圧力式ホモジナイザーを用いる場合、装置内部を所定の高圧状態とし、この高圧状態で相互に向かい合ったノズルから金属粒子スラリーを放出し、金属粒子同士が衝突し合うことにより、凝集した金属微粉を解砕する。このような解砕処理における圧力は、例えば200MPaとすることができる。
【0029】
湿式分級は、例えば湿式分級機の一種である液体サイクロンを用いて行うことができる。液体サイクロンの構成としては、例えば、細粒を液体サイクロンの上部(トップ部)から排出し、粗粒を液体サイクロンの底部(ボトム部)から排出する2液分離型や、細粒より細かな微細粒を液体サイクロンの上部(トップ部)から排出し、細粒を液体サイクロンの中間部(ミドル部)から排出し、粗粒を液体サイクロンの底部(ボトム部)から排出する3液分離型等を挙げることができる。
【0030】
2液分離型の液体サイクロンは、処理流量が多い場合、粒子径範囲において細粒と粗粒とを分離し、粗粒の除去を目的とする場合等に有効である。一方、3液分離型の液体サイクロンは、分級精度がより厳しく求められ、微粒の除去又は捕集を目的とする場合等に有効である。
【0031】
液体サイクロンは、金属粒子スラリーが液体サイクロンのスラリー注入口から注入された後、回転運動を起こして遠心力を働かせ、金属微粉をその粒子径に応じて分級する。この遠心力により、金属粒子は、液体サイクロン内部の周壁部へ行く程、比重及び粒子径の大きいものに配列され、また、中心部へ行く程、比重及び粒子径の小さいものに配列される。
【0032】
周壁部には、液体サイクロンのテーパーに沿い下降流が発生しており、この流れに乗って比重及び粒子径の大きいものは底部へ導かれて排出される。逆に、中心部は、上昇流が発生しており、比重及び粒子径の小さいものはこの流れに乗って上部に導かれて排出される。この回転運動の際に円周方向に生じる重力加速度は、数万Gにまでに達し、これにより、急速に金属粉を沈降分離濃縮することができる。
【0033】
液体サイクロンは、回転運動の後、金属微粉の細粒を、上部から排出し、粗粒を底部から排出する。この液体サイクロンにおいて、金属粒子スラリーの供給速度(供給圧力、供給流量)、出口部分の流量比等を変化させることで分離濃度を制御することができる。
【0034】
このような液体サイクロンは、一基のみを稼動させても、複数基を同時に稼動させてもよい。複数基の液体サイクロンを同時に稼動させた場合には、効率的に金属微粉を分級することができ、生産性を向上させることが可能となる。
【0035】
液体サイクロンの材質としては、耐食性及び耐摩耗性を備えたものが好ましく、その観点から例えばナイロン、セラミック等であることが好ましい。セラミックとしては、アルミナ、窒化ケイ素であることが好ましい。
【0036】
液体サイクロンを用いて分級する際には、溶媒中での金属微粉の分散状態が良好であることが重要となる。しかしながら、通常、微細な金属粒子は、比表面積が大きいために凝集が起こりやすく、金属微粉の乾燥粉末を溶媒中に混合させただけでは、金属微粉は、十分に分散されない。
【0037】
金属微粉が凝集した状態で分級すると、液体サイクロン内部での流れが乱れやすくなり、粗大粒子が微粒側へ混入しやすくなる。また、凝集した粒子は、粗大粒子と同様に粗粒側へ分級されやすいために、微粒側で得られる金属微粉の回収率も低下しやすくなる。
【0038】
そこで、本実施の形態では、金属微粉を分散させる溶媒として、ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を用いることにより、金属微粉の分散状態を向上させることができる。
【0039】
金属微粉を分散させる溶媒としてヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を用いることにより、分散状態が向上された金属微粉の金属粒子スラリーを湿式解砕装置にて湿式解砕する。この湿式解砕により、凝集した金属粒子同士が解砕されて良好な分散状態となった後に、液体サイクロンにて湿式分級することにより、分級性能を向上させることが可能となる。
【0040】
仮に、金属微粉を分散させる溶媒として、水やグルタミン酸水溶液を用いた場合には、金属微粉が凝集しやすくなる。金属微粉の凝集が多い状態で湿式分級すると、液体サイクロン内部での流れに乱れが生じやすくなり、粗大粒子が細粒側へ混入しやすくなる。また、凝集した金属粒子は、粗大粒子と同様に粗粒側へ分級されやすいために、微粒側で得られるニッケル微粉の回収率も低下しやすくなる。これに対し、ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液は、このような金属微粉の凝集を防止し、金属微粉の分散性を向上させることができる。
【0041】
水溶液中のヘキサメタリン酸ナトリウム濃度は、0.01質量%〜2.0質量%とすることが好ましく、0.05質量%〜1.0質量%とすることがより好ましい。水溶液中のヘキサメタリン酸ナトリウム濃度を2.0質量%よりも大きい値とした場合には粒子表面への分散剤の吸着量が多くなりすぎて金属微粉が凝集しやすくなる。また、水溶液中のヘキサメタリン酸ナトリウム濃度を0.01質量%未満とした場合には粒子表面への分散剤の吸着量が少なすぎるために十分な分散効果が得られない。
【0042】
金属粒子スラリー中の金属含有率(以下、「スラリー濃度」と記す。)は、1.0質量%〜30.0質量%とすることが好ましく、5.0質量%〜15.0質量%とすることがより好ましい。スラリー濃度を30.0質量%よりも大きい値とした場合には、スラリー濃度が濃すぎるために粒子同士が衝突しやすくなる。そのため、液体サイクロン内部での流れに乱れが生じやすくなり、粗大粒子が細粒側へ混入しやすくなる。また、スラリー濃度を1.0質量%未満とした場合には、スラリー量が多くなりすぎるために処理時間が大幅に増加してしまい処理効率が悪化する。さらに、廃液量も増加するために廃水処理コストも増加する。
【0043】
金属微粉としては、熱プラズマを用いて製造した金属微粉であることが好ましい。熱プラズマを用いて製造した金属微粉は、真球状の形状を有しており、また、粒子表面が非常に平滑であることから、溶媒中での動きに乱れが生じにくく、高い分級性能を得ることができる。仮に、金属粒子の粒子形状が球状以外である場合や、金属粒子の表面が平滑でない場合には、金属粒子の動きが乱れやすくなるために分級性能が低下しやすくなる。このように、熱プラズマを用いることにより、平均粒径が1.0μm以下の粒子形状が球状の金属微粉を得ることができる。
【0044】
金属微粉としては、ニッケル、銅、銀等の金属微粉が、積層セラミックコンデンサ等の導電体形成材料として有用であり、特にニッケル微粉は安価な点で好ましい。
【0045】
本実施の形態では、このように、金属微粉を溶媒に分散させた金属粒子スラリーを湿式解砕装置にて湿式解砕し、その後、この解砕された金属粒子スラリーを湿式分級機にて湿式分級する。この際、金属微粉を分散させる溶媒としてヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を用いることにより、金属微粉の分散状態を向上させることができる。
【0046】
そして、分散状態が向上された金属粒子スラリーを湿式解砕装置にて湿式解砕することで、凝集した金属粒子同士が解砕されて良好な分散状態となり、その後に液体サイクロンにて湿式分級することにより、分級性能を向上させることが可能となり、粗大粒子の少ない金属微粉を効率良く得ることができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0048】
なお、実施例1及び比較例1、2にそれぞれ示す粗大粒子数は、走査電子顕微鏡(JSM−6360LA(日本電子株式会社製)、以下、「SEM」と記載する。)を用いて視野全面がニッケル粒子で埋め尽くされるように10000倍のSEM像を80視野で撮影し、この撮影した80枚のSEM像中に存在する0.8μm以上1.0μm未満、1.0μm以上の粒子数を調査した結果、得られたものである。
【0049】
(実施例1)
先ず、0.1質量%のヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液4.5L中に、熱プラズマを用いて製造した比表面積径が0.13μmのニッケル微粉を500g加えてニッケル微粉スラリーとした。なお、熱プラズマを用いて製造したニッケル微粉は、一次粒子で構成されており、SEM観察による平均粒径と比表面積径とは近似の値となる。このニッケル微粉スラリー中のニッケル含有率(以下、「スラリー濃度」と記す。)を10.0質量%に調整した。
【0050】
次に、このニッケル微粉スラリーを超音波発信機(U0300FB(国際電機エルテック製))にて10分間分散化処理した。続いて、分散化処理後のニッケル微粉スラリーを圧力式ホモジナイザー(連続式微粒化装置アルティマイザーシステムHJP−25005(株式会社スギノマシン製))を用いて200MPaの圧力で湿式解砕した。
【0051】
そして、解砕処理後のニッケル微粉スラリー5.3Lに、0.1質量%のグルタミン酸水溶液3.9Lを加えてスラリー濃度を5.0質量%に調整した。続いて、スラリー濃度を5.0質量%に調整したニッケル微粉スラリーを2液分離型の液体サイクロン装置(ハイドロサイクロンNHC−1(日本化学機械製造株式会社製))に0.9MPaの圧力で供給して湿式分級した。
【0052】
その後、軽液(細粒)側で得られたニッケル微粉スラリーを濾過及び乾燥してニッケル微粉を得た。得られたニッケル微粉のSEM像を撮影し、そのSEM像を基に粗大粒子数を調査した。
【0053】
(比較例1)
先ず、純水9.0Lの中に、熱プラズマを用いて製造した比表面積径が0.13μmのニッケル微粉を1kg加えてニッケル微粉スラリーとした。このニッケル微粉スラリー中のニッケル含有率(以下、「スラリー濃度」と記す。)を10.0質量%に調整した。次に、このニッケル微粉スラリーを超音波発信機(U0300FB(国際電機エルテック製))にて10分間分散化処理した。続いて、分散化処理後のニッケル微粉スラリーを、圧力式ホモジナイザー(連続式微粒化装置アルティマイザーシステムHJP−25005(株式会社スギノマシン製))を用いて200MPaの圧力で湿式解砕した。
【0054】
そして、解砕処理後のニッケル微粉スラリー9.7Lに純水8.9Lを加えてニッケル微粉スラリーのスラリー濃度を5.0質量%に調整した。続いて、スラリー濃度を5.0質量%に調整したニッケル微粉スラリーを2液分離型の液体サイクロン装置(ハイドロサイクロンNHC−1(日本化学機械製造株式会社製))に0.9MPaの圧力で供給して湿式分級した。
【0055】
その後、軽液(細粒)側で得られたニッケル微粉スラリーをろ過及び乾燥させてニッケル微粉を得た。得られたニッケル微粉のSEM像を撮影し、そのSEM像を基に粗大粒子数を調査した。
【0056】
(比較例2)
溶媒を0.1質量%のグルタミン酸水溶液に変更する以外は、実施例1と同様に、ハイドロサイクロンNHC−1(日本化学機械製造株式会社製)を用いて湿式分級した。得られたニッケル微粉のSEM像を撮影し、そのSEM像を基に粗大粒子数を調査した。
【0057】
[表1]に、実施例1、及び比較例1、2において得られた粗大粒子数(個)を示す。なお、実施例1、及び比較例1、2をそれぞれ行う前に、原料となるニッケル微粉中に含まれる粗大粒子数を調査したところ、粒子径が0.8μm以上1.0μm未満の粗大粒子は129個含まれており、また、粒子径が1.0μm以上の粗大粒子は83個含まれていた。
【0058】
【表1】

【0059】
[表1]に示すように、ニッケル微粉を分散させる溶媒として0.1%ヘキサメタリン酸ナトリウムを用いた実施例1では、粒子径が0.8μm以上、1.0μm未満の粗大粒子は20個に、粒子径が1.0μm以上の粗大粒子は5個にまで減少していた。
【0060】
一方、比較例1では、粒子径が0.8μm以上、1.0μm未満の粗大粒子は47個であり、粒子径が1.0μm以上の粗大粒子は8個であった。また、比較例2では、粒子径が0.8μm以上、1.0μm未満の粗大粒子は34個であり、粒子径が1.0μm以上の粗大粒子は13個であった。
【0061】
このように、比較例1、2は、何れも、粒子径が0.8μm以上、1.0μm未満の粗大粒子、及び、粒子径が1.0μm以上の粗大粒子において、実施例1よりも多く含まれていた。
【0062】
この[表1]に示す結果より、ニッケル微粉をヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液中に分散させることにより、ニッケル微粉の分散状態を向上させることができ、さらには、分散状態が向上されたニッケル微粉スラリーを湿式解砕装置である圧力式ホモジナイザーにて湿式解砕することで、凝集したニッケル粒子同士が解砕されて良好な分散状態となったと考えられる。そして、このニッケル粒子同士が解砕されたニッケル微粉スラリーを液体サイクロンに注入して湿式分級することにより、分級性能を向上させることができ、その結果、粗大粒子の少ないニッケル微粉が得られたと考えられる。
【0063】
また、[表2]は、実施例1、及び比較例1、2における、分級時に上部(トップ部)から排出されたニッケル微粉スラリー中のニッケル微粉の細粒の1分間あたりの排出量(g/分)とそのニッケル微粉の細粒の質量による排出比率(%)、及び、分級時に底部(ボトム部)から排出されたニッケル微粉スラリー中のニッケル微粉の粗粒の1分間あたりの排出量(g/分)とそのニッケル微粉の粗粒の排出比率(%)を示す。
【0064】
【表2】

【0065】
この[表2]に示すように、ニッケル微粉を分散させる溶媒としてヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を用いた実施例1では、上部から排出されるニッケル微粉の細粒の排出比率(%)は比較例1、2よりも高い値となり、底部から排出されるニッケル微粉の粗粒の排出比率(%)は比較例1、2よりも低い値となった。
【0066】
この[表2]に示す結果より、ニッケル微粉をヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液中に分散させることにより、ニッケル微粉の分散状態を向上させることができ、さらには、この分散状態が向上されたニッケル微粉スラリーを湿式解砕装置にて湿式解砕することで、凝集したニッケル粒子同士が解砕されて良好な分散状態となったと考えられる。そして、このように、良好な分散状態となったニッケル微粉スラリーを液体サイクロンにて湿式分級することにより、分級性能を向上させることができ、その結果、ニッケル微粉の細粒が多く得られ、ニッケル微粉が凝集してなる粗大粒子を減少させることができたためであると考えられる。
【0067】
これに対し、ニッケル微粉を分散させる溶媒として純水を用いた比較例1、又は、この溶媒としてグルタミン酸水溶液を用いた比較例2においては、本来、上部から排出されるべき粒子径のニッケル微粉の粉末が、一部凝集した状態であるため、これにより粒子径の大きいニッケル微粉の凝集体が底部から排出されてしまい、これにより上部からのニッケル微粉の細粒の排出比率(%)が低くなったと考えられる。
【0068】
このような[表1]及び[表2]の結果から、ニッケル微粉をヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液中に分散させることにより、ニッケル微粉の分散状態を向上させ、このニッケル微粉スラリーを湿式解砕装置にて湿式解砕することで、凝集したニッケル粒子同士が解砕されて良好な分散状態となった。そして、この分散状態が良好となったニッケル微粉スラリーを液体サイクロンにて湿式分級することにより、粗粒の排出比率(%)を減少させ、細粒の排出比率(%)を増加させることができた。このような処理を行うことにより、湿式分級の分級性能を向上させることができ、その結果、粗大粒子の少ないニッケル微粉を効率良く得ることができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の金属微粉の分級方法により、平均粒径が1.0μm以下の金属微粉中に含まれる粗大粒子を効率良く除去することができる。得られた金属微粉は、電子部品材料として好適であり、特に配線材料、電極材料等として好適であり、さらにはペーストとしても安定的に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式分級にて金属微粉を分級する金属微粉の分級方法であって、
ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液中に分散させた金属微粉を湿式解砕する湿式解砕工程と、
前記湿式解砕工程で解砕された前記金属微粉を湿式分級する湿式分級工程と
を有することを特徴とする金属微粉の分級方法。
【請求項2】
前記金属微粉は、ニッケル微粉であることを特徴とする請求項1に記載の金属微粉の分級方法。
【請求項3】
前記金属微粉は、熱プラズマを用いて製造した金属微粉であることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属微粉の分級方法。
【請求項4】
前記湿式分級工程では、液体サイクロンを用いて前記金属微粉を湿式分級することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の金属微粉の分級方法。

【公開番号】特開2011−156520(P2011−156520A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−22772(P2010−22772)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】