説明

金属微粒子の製造方法、金属微粒子分散液ならびに焼結体

【課題】硫黄、窒素を含有せず、さらに金属微粒子を極性溶媒に安定に分散可能な金属微粒子の製造方法、金属微粒子分散液ならびに焼結体を提供する。
【解決手段】下記式(I):


(式中、X1は(CH2)nOHを示し(n=0〜3)、mは1〜5の整数を示す。)で表されるジアゾニウム塩と、金化合物とを、還元剤の存在下に極性溶媒中で反応させて、下記式(II):


で表される共有結合および配位結合から選ばれるいずれかの相互作用を有する金属微粒子を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属微粒子の製造方法、金属微粒子分散液ならびに焼結体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属微粒子分散液を得る方法として、物理的方法、気相法や液相法等の化学的方法等が知られている。液相法では、チオール、アミン、アルコール、カルボン酸、PVA等の高分子等を保護剤に用いて金属微粒子を得る方法、長鎖アルキル基を有するジアゾニウム塩を原料に用いて金属微粒子を得る方法(非特許文献1参照)、2,4,6-トリクロロベンゼンジアゾニウムクロライド等を分散剤に用いて吸着もしくは塩構造を有する金属微粒子を得る方法(特許文献1参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−83605号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc., 2006, 128, 7400-7401
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、物理的方法では一般に均一な粒径の金属微粒子を大量に合成するのは難しく、気相法では一般にコストが高くなる。また、従来の液相法に用いられる保護剤、換言すれば配位子は孤立電子対を持つ基を有しており、この基が金属と配位結合し、錯体を形成する。配位する基としてはチオール基、アミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、フォスフィノ基等があり、その配位原子は硫黄、窒素、酸素、リンであるが、チオールを保護剤に用いた方法では銀微粒子の焼結時にAg2SやSOxが発生し、アミンを用いた方法では焼結時にNOxが発生する。アルコールやカルボン酸を保護剤に用いた方法では、得られる金属微粒子分散液の安定性においてさらに改善の余地がある。PVA等の高分子を保護剤に用いた方法では、有機含有量が多く、また単分子膜とすることができない。長鎖アルキル基を有するジアゾニウム塩を原料に用いた方法では、微粒子製造時に溶剤を用いることを必須とし、水に分散しない。
【0006】
そして特許文献1に記載の金属微粒子を得る方法では、還元剤により金属塩のみを還元して、還元された金属と光感受性分散剤とが吸着もしくは塩として相互作用する構造の金属微粒子を含有するパターン形成用の金属微粒子分散液を得ているが、この金属微粒子分散液は光感受性分散剤が感光すると吸着能力を失い金属微粒子から光感受性分散剤が遊離し、分散状態が解除される。また、感光性が高いため自然光下でも分散剤が解離する虞があり、金属微粒子の安定性に問題がある。さらに、金属微粒子分散液を焼結体の原料として用いる場合の焼結時発生ガスに対する配慮がなされていない。例えば2,4,6-トリクロロベンゼンジアゾニウムクロライドを光感受性分散剤として用いた場合では、グルコースにより塩化金酸のみが還元され、還元析出した金微粒子表面は2,4,6-トリクロロベンゼンジアゾニウムクロライドが吸着もしくは塩を形成し保護されるため分散状態となるが、この保護金属微粒子にはCl原子およびN原子が含有しているため、焼結時に塩素系ガスおよびNOxが発生する虞がある。
【0007】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、硫黄、窒素を含有せず、さらに金属微粒子を極性溶媒に安定に分散可能な金属微粒子の製造方法、金属微粒子分散液ならびに焼結体を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0009】
第1:下記式(I):
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、X1は(CH2)nOHを示し(n=0〜3)、mは1〜5の整数を示す。)で表されるジアゾニウム塩と、金化合物とを、還元剤の存在下に極性溶媒中で反応させて、下記式(II):
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、X2は(CH2)nOHまたはその塩、あるいは対応するアルコキシドイオンを示し(n=0〜3)、mは1〜5の整数を示す。Mは金を示す。)で表される共有結合および配位結合から選ばれるいずれかの相互作用を有する金属微粒子を得ることを特徴とする金属微粒子の製造方法。
【0014】
第2:下記式(II):
【0015】
【化3】

【0016】
(式中、X2は(CH2)nOHまたはその塩、あるいは対応するアルコキシドイオンを示し(n=0〜3)、mは1〜5の整数を示す。Mは金を示す。)で表される共有結合および配位結合から選ばれるいずれかの相互作用を有する金属微粒子が極性溶媒に分散されていることを特徴とする金属微粒子分散液。
【0017】
第3:上記第2の金属微粒子分散液を基材に塗布し焼結してなることを特徴とする焼結体。
【発明の効果】
【0018】
上記第1の発明の金属微粒子の製造方法によれば、硫黄、窒素を含有せず、さらに金属微粒子を極性溶媒に安定に分散可能なコスト、環境面に優れた金属微粒子を得ることができる。
【0019】
上記第2の発明の金属微粒子分散液によれば、硫黄、窒素を含有せず、さらに金属微粒子を極性溶媒に安定に分散可能である。
【0020】
上記第3の発明の焼結体によれば、上記第2の発明の金属微粒子分散液を用いているので、焼結時にNOx、SOx等の酸性ガス、ハロゲン系ガスを発生せず、各種の用途に応用できる良好な焼結体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0022】
本発明に用いられる式(I)で表されるジアゾニウム塩は、例えば、テトラフルオロほう酸水溶液に、対応するアミノフェニルアルコールを添加、攪拌し、亜硝酸ナトリウム水溶液を滴下し熟成した後、ろ別、溶剤洗浄、再結晶等の精製を行うことにより得ることができる。
【0023】
本発明では、ジアゾニウム塩として、水酸基を有する式(I)の官能基X1を導入したものを用いたことを特徴としているが、これは経済性、極性溶剤への溶解性、合成の簡便性、および安定性を考慮したものである。しかも、このような官能基X1を有する構造の式(I)で表されるジアゾニウム塩は、非常に安定であり、例えば、遮光、5℃以下、不活性ガス雰囲気下等で酸素、水を除外した環境にて保存した場合、1ヶ月以上の保存が可能である。さらに製造時の仕込み時等においては、空気雰囲気下での取り扱いも可能である。
【0024】
本発明において、式(I)で表されるジアゾニウム塩と反応させる金化合物としては、金塩、金錯体等を用いることができ、極性溶媒に溶解できるものであれば特に限定されない。例えば、テトラクロロ金(III)酸(H(AuCl4))、テトラクロロ金(III)酸ナトリウム(Na(AuCl4))、ジエチルアミン金(III)三塩化物((C2H5)2NH(AuCl3))、ジシアノ金(I)酸カリウム(KAu(CN)2)、シアン化金(I)(AuCN)等を用いることができる。中でも、テトラクロロ金(III)酸が好ましい。
【0025】
本発明では、式(I)で表されるジアゾニウム塩と、金化合物とを、還元剤の存在下に極性溶媒中で反応させて、式(II)で表される共有結合および配位結合から選ばれるいずれかの相互作用(式(II)中の点線で示される(アルキル)アルコキシフェニル基と、金Mとの相互作用)を有する金属微粒子を合成する。反応は、100℃未満、好ましくは30℃以下の温度で行うことができる。
【0026】
より具体的には、例えば、式(I)で表されるジアゾニウム塩、および金化合物を極性溶媒に溶解、攪拌する。次いで還元剤を滴下し、これにより金化合物と式(I)で表されるジアゾニウム塩とを同時に還元し、熟成を行うことにより、式(II)で表される、フェニル基と金属とが直接に相互作用する金属微粒子が合成される。その後、必要に応じて水洗、溶剤洗浄、遠心分離、ろ過、電気透析等で精製を行い、窒素化合物、ハロゲン化合物等を除去し、式(II)で表される金属微粒子を得る。
【0027】
なお、式(II)においてX2は(CH2)nOHまたはその塩、あるいは対応するアルコキシドイオンを示し、塩としてはナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アミン塩等が挙げられる。なお、金属微粒子は、X2として(CH2)nOHとその塩との両方が混在するものであってもよい。また、金属微粒子がX2としてアルコキシドイオンを有する場合としては、金属微粒子が分散液の状態である場合が挙げられる。
【0028】
反応溶媒、分散溶媒として用いる極性溶媒としては、水、THF(テトラヒドロフラン)、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等のアルコールが挙げられる。中でも、水、メタノールが好ましい。還元剤は、ジアゾニウム塩と、金化合物(金塩、金錯体)とを同時に効率よく還元できるものを選択する必要がある。例えば、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(NaBH3CN)、水素化トリエチルホウ素リチウム(LiBH(C2H5)3)、水素化ホウ素リチウム(LiBH4)、水素化ホウ素カリウム(KBH4)、水素化ホウ素テトラブチルアンモニウム((CH3(CH2)3)4NBH4)、水素化ホウ素テトラメチルアンモニウム((CH3)4NBH4)等の水素化ホウ素塩系還元剤、ジボラン(B2H6)、アンモニアボラン(NH3-BH3)、トリメチルアンモニアボラン((CH3)3N-BH3)等のボラン系還元剤を用いることができるが、中でも水素化ホウ素ナトリウムが好ましく用いられる。
【0029】
本発明によれば、金微粒子の製造時の反応溶媒、また分散溶媒として極性溶媒を用いることができる。特に反応溶媒、分散溶媒として水を用いることができることから環境、コスト面において優れている。また、金微粒子は、硫黄、窒素を含有せず、焼結時のSOx、NOx発生を抑制できる。さらに、金微粒子の分散状態を長期間安定に維持することができる。
【0030】
本発明の金属微粒子分散液は、例えば、導電性薄膜、導電性細線、電極、プリント配線等への導電性材料、電顕用染色材料、生体センシング材料等の用途に好適に用いることができる。特に、この金属微粒子分散液を金属基板等の基材に塗布して焼結し、焼結体として導電性材料に関わる各種の分野において用いることができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
<参考例1>
下記式で表される化合物1を合成した。
【0032】
【化4】

【0033】
42%テトラフルオロほう酸水溶液(16.98g、0.081mol)に、2-アミノベンジルアルコール(5.00g、0.041mol)を添加、攪拌した。40%亜硝酸ナトリウム水溶液(7.00g、0.041mol)を10〜15℃下、30分で滴下し、10分間熟成した後、ろ別、溶剤洗浄、再結晶を行うことにより、薄赤色粉末を得た。
赤外線吸収スペクトル 2278cm-1:N≡N+伸縮振動、3329cm-1:O−H伸縮振動、768cm-1:C−H面外変角振動
<参考例2>
下記式で表される化合物2を合成した。
【0034】
【化5】

【0035】
42%テトラフルオロほう酸水溶液(16.98g、0.081mol)に、3-アミノベンジルアルコール(5.00g、0.041mol)を添加、攪拌した。40%亜硝酸ナトリウム水溶液(7.00g、0.041mol)を10〜15℃下、30分で滴下し、10分間熟成した後、ろ別、溶剤洗浄、再結晶等の精製を行うことにより、薄赤色粉末を得た。
赤外線吸収スペクトル 2274cm-1:N≡N+伸縮振動、3377cm-1:O−H伸縮振動、797cm-1:C−H面外変角振動
<参考例3>
下記式で表される化合物3を合成した。
【0036】
【化6】

【0037】
42%テトラフルオロほう酸水溶液(15.24g、0.073mol)に、4-アミノフェネチルアルコール(5.01g、0.037mol)を添加、攪拌した。40%亜硝酸ナトリウム水溶液(6.28g、0.037mol)を10〜15℃下、30分で滴下し、10分間熟成した後、ろ別、溶剤洗浄、再結晶等の精製を行うことにより、赤色粉末を得た。
赤外線吸収スペクトル 2262cm-1:N≡N+伸縮振動、3431cm-1:O−H伸縮振動、824cm-1:C−H面外変角振動
<実施例1>
テトラクロロ金(III)酸(0.1030g、0.2501mmol)をイオン交換水(25g)に溶解させ、N2を15分間フローし、脱気した。N2雰囲気下、化合物1(0.0555g、0.2501mmol)を加え、1分間攪拌させた後、イオン交換水7.5gで溶解させた水素化ホウ素ナトリウム(0.0095g、0.2511mmol)を室温下、2時間で滴下した。滴下後、2時間熟成し、黒紫色分散液が得られた。得られた分散液を遠心分離、水洗等で精製し、金含有量29.67ppmの黒紫色分散液が得られた。
紫外−可視吸収スペクトル 560nm
<実施例2>
テトラクロロ金(III)酸(0.1997g、0.4849mmol)をイオン交換水(45g)に溶解させ、N2を15分間フローし、脱気した。N2雰囲気下、化合物2(0.1076g、0.4848mmol)を加え、1分間攪拌させた後、イオン交換水15gで溶解させた水素化ホウ素ナトリウム(0.0183g、0.4837mmol)を室温下、2時間で滴下した。滴下後、2時間熟成し、青紫色分散液が得られた。得られた分散液を遠心分離、水洗等で精製し、金含有量785ppmの黒紫色分散液が得られた。
紫外−可視吸収スペクトル 578nm
<実施例3>
テトラクロロ金(III)酸(0.1545g、0.3751mmol)をイオン交換水(37.5g)に溶解させ、N2を15分間フローし、脱気した。N2雰囲気下、化合物3(0.0885g、0.3750mmol)を加え、1分間攪拌させた後、イオン交換水11.3gで溶解させた水素化ホウ素ナトリウム(0.0142g、0.3753mmol)を室温下、2時間で滴下した。滴下後、2時間熟成し、黒紫色分散液が得られた。得られた分散液を遠心分離、水洗等で精製し、金含有量704ppmの黒紫色分散液が得られた。
紫外−可視吸収スペクトル 583nm
なお、実施例1〜3の金微粒子について赤外線吸収スペクトルを測定した結果、ジアゾニウム基由来の吸収ピークが消失し、3645cm-1、3210cm-1付近にO−H伸縮振動、770〜860 cm-1の範囲に芳香環のC−H面外変角振動が認められた。
【0038】
また、実施例1〜3の金微粒子は、1ヶ月以上、室温、自然光下にて安定に分散状態を維持した。
<実施例4>
実施例3で得られた分散液を4%に濃縮し、アルミナ基板に塗布した。空気雰囲気下、150℃または200℃で1時間焼結した結果、金属光沢のある膜が得られ、導電性が確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】

(式中、X1は(CH2)nOHを示し(n=0〜3)、mは1〜5の整数を示す。)で表されるジアゾニウム塩と、金化合物とを、還元剤の存在下に極性溶媒中で反応させて、下記式(II):
【化2】

(式中、X2は(CH2)nOHまたはその塩、あるいは対応するアルコキシドイオンを示し(n=0〜3)、mは1〜5の整数を示す。Mは金を示す。)で表される共有結合および配位結合から選ばれるいずれかの相互作用を有する金属微粒子を得ることを特徴とする金属微粒子の製造方法。
【請求項2】
下記式(II):

(式中、X2は(CH2)nOHまたはその塩、あるいは対応するアルコキシドイオンを示し(n=0〜3)、mは1〜5の整数を示す。Mは金を示す。)で表される共有結合および配位結合から選ばれるいずれかの相互作用を有する金属微粒子が極性溶媒に分散されていることを特徴とする金属微粒子分散液。
【請求項3】
請求項2に記載の金属微粒子分散液を基材に塗布し焼結してなることを特徴とする焼結体。

【公開番号】特開2010−196120(P2010−196120A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−42862(P2009−42862)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(000114318)ミヨシ油脂株式会社 (120)
【Fターム(参考)】