説明

金属微粒子担持光触媒

【課題】複雑な装置などを用いることなく、光触媒を構成する酸化物粒子の励起波長(バンドギャップ幅に相当する波長)以下の光を用いて前記酸化物粒子を励起し、前記酸化物粒子に対して光触媒作用を付加する。
【解決手段】酸化物粒子と、前記酸化物粒子の表面に担持された金属微粒子とを具え、前記酸化物粒子のバンドギャップに相当するエネルギー以下の波長領域にピーク波長を有し、単独で前記酸化物粒子を励起しないような伝搬光を前記金属微粒子に照射して前記金属微粒子の近傍に近接場光を生ぜしめ、この近接場光を用いて前記酸化物粒子を励起し光触媒作用を生ぜしめる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本来的な光触媒としての機能を有する酸化物粒子の表面に金属微粒子を担持させてなる光触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物半導体を中心とした材料を光触媒に利用しようとすることが行われている。この場合、光触媒のバンドギャップエネルギー以上の光を照射して励起することで、光触媒の価電子帯に生ずる正孔と伝導帯に励起された電子とを有機物に移動させることによって、前記光触媒に対して触媒活性を付与し、それぞれ還元分解や酸化分解などの(光)触媒作用を生ぜしめている。
【0003】
上記酸化物半導体としては、一般的にはTiOが用いられているが、この材料は比較的大きなバンドギャップを有するために、上述した光励起を行うためにはUV光を照射しなければならない。一方、このようなUV光は取り扱いが煩雑であるとともに、使用できる光源も限定されるため、より長い波長の低エネルギーの光を用いて触媒活性を付与すべく、TiO内に窒素や炭素をドープすることによってバンドギャップを低減させ、光励起に使用する光の波長を可視光側にシフトさせようとする試みも行われている。
【0004】
また、照明用途の光触媒は、照明スペクトルを光の吸収で妨害しないことが望まれている。しかしながら、アクリルセードのようなアクリル樹脂からなる照明カバーの外側に光触媒をコートした場合には、前記アクリル樹脂が紫外線を吸収してしまうために、紫外光で励起する光触媒は使用することができない。
【0005】
一方、可視光応答光触媒は、アクリルセードを透過する可視光で励起することができるが、照明光の一部を吸収してしまうために、本来の照明スペクトルからのずれを生じてしまう欠点があった。これは、蛍光ランプや白熱電球、HIDのようなランプ表面にコートした場合でも全く同様な問題があった。また最近照明光源として使用されるに至っている白色LEDでも同様である。
【0006】
さらに、特許文献1には、TiOなどの酸化物粒子の表面に金属微粒子を担持させて、量子サイズ効果を生ぜしめ、光触媒効率を向上することが試みられている。また、特許文献2には、TiOなどの酸化物粒子の表面に吸着水を水和させ、光触媒効率を向上させることが試みられている。さらに、特許文献3には、光触媒の表面にプリズムを形成し、表面プラズマポラリトンを利用して前記光触媒の効率を向上せしめることが開示されている。
【0007】
しかしながら、これらの技術では、光触媒効率を向上させることに主眼が置かれており、本来の光触媒活性を付与せしめるためには、TiOなどの酸化物粒子のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光を用いなければならず、結果的に上述したようなUV光を用いた場合の問題が依然として残存している。
【0008】
また、特許文献4には、近接場光を利用してUV光よりも長波長の光で光触媒を活性化させることが開示されている。しかしながら、この方法では、近接場光生成のために近接場光生成装置のような特殊な装置を使用しなければならず、取り扱いが煩雑であるとともに、装置自体の構造も複雑となり、再現性に問題があるなど実用面でかなりの問題がある。
【0009】
さらに、特許文献5には、金属微粒子を担持した酸化タングステン粒子と、バインダーとを含む光触媒膜組成物を用い、この組成物を用いて基体上に光触媒膜を形成することが開示されている。しかしながら、特許文献5に記載の技術では、酸化タングステン粒子の表面に金属微粒子を担持させることによって、前記酸化タングステン粒子と金属微粒子との間にショットキー結合を生ぜしめ、キャリアの消失による触媒活性の消失を抑制することを目的としている。したがって、かかる技術においても、依然として上記のようなUV光を用いた場合の問題が残存する。
【0010】
【特許文献1】特開平10−146531号
【特許文献2】特開2003−33660号
【特許文献3】特開平10−5597号
【特許文献4】特開2005−144225号
【特許文献5】特開2001−70800号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題に鑑み、複雑な装置などを用いることなく、光触媒を構成する酸化物粒子の励起波長(バンドギャップ幅に相当する波長)以下の光を用いて前記酸化物粒子を励起し、前記酸化物粒子に対して光触媒作用を付加することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成すべく、本発明の一態様は、酸化物粒子と、前記酸化物粒子の表面に担持された金属微粒子とを具え、前記酸化物粒子のバンドギャップに相当するエネルギー以下の波長領域にピーク波長を有し、単独で前記酸化物粒子を励起しないような伝搬光を前記金属微粒子に照射して前記金属微粒子の近傍に近接場光を生ぜしめ、この近接場光を用いて前記酸化物粒子を励起し光触媒作用を生ぜしめたことを特徴とする、光触媒に関する。
【0013】
本発明の上記態様においては、上述した特開2005−144225号公報に記載された発明と同様に、伝搬光に加えて近接場光を用いて酸化物粒子を励起し触媒作用を付加せしめるものである。しかしながら、上記公報においては、近接場光を生成するに際して近接場光生成装置なる構成要素を準備し、近接場光の生成に対して装置の面から工夫を加えている。したがって、上記公報に記載の技術においては近接場光生成装置なる特殊な構成要素の存在が不可欠であり、汎用の光源、例えばLEDのみで近接場光を生成することができない。
【0014】
一方、本発明では、本来的な光触媒として機能する酸化物粒子の表面に金属微粒子を担持させ、この金属微粒子を利用して伝搬光から近接場光を生ぜしめるものである。すなわち、本発明では、上記酸化物粒子に対して所定の大きさの金属微粒子を担持させることにより、前記金属微粒子に伝搬光を照射するのみで、驚くべきことに、特殊な装置などを用いることなく、前記金属微粒子の近傍に近接場光を生成することができることを見出した。
【0015】
結果として、特殊な装置を用いずに上記伝搬光を生成せしめる汎用の光源を用いるのみで近接場光を生成でき、この近接場光を用いることによって、前記伝搬光が前記酸化物粒子のエネルギーバンドギャップに相当するエネルギー以下の波長領域に属する場合であっても、前記酸化物粒子を励起することができ、光触媒作用を付加せしめることができるものである。
【0016】
なお、上述のように酸化物粒子の表面に金属微粒子が担持したことによる近接場光の生成原理は以下のようにして説明することができる。
【0017】
金属中の自由電子と入射光の電場とが相互作用すると、前記金属中には前記自由電子の振動に起因した表面プラズモンが生じる。この自由電子の振動は縦波であって、電子密度の振動が平面波の形で伝播する。この電子密度の振動は電子の粗密状態であることから、縦波振動である。
【0018】
金属に代表される自由電子モデルでは、プラズマ周波数ωpが定義される。金属中の電子の有効質量をm*、平均散乱時間をτとして、光の電場Eが存在する場合、前記電子は摩擦を受けながら運動を行う。これはドルーデモデルと呼ばれている。このモデルにおいては、誘電関数ε(ω)はε(ω)=1−{ωp/ω(ω+iγ)}で与えられる。この式中のωpをプラズマ周波数とよんでいる。なおγは1/τであり、ωpは(4πNe/m*}1/2である。
【0019】
具体的にプラズマ周波数ωp以上の光が金属に照射された場合には、この光は金属の自由電子によって遮蔽されることなく透過できる。逆の場合が一般的な金属で見られる金属の反射現象であり、光は金属中に侵入できない。このプラズマ周波数ωpは、金属における縦波の自由振動モードの周波数にも相当している。これは具体的なイメージとすれば、自由電子の分極によって反電場が発生して、光の侵入を抑制しようとする事が生じる。またこの反電場は分極の復元力として働く。このため、金属の自由電子による分極と反電場とが結合している状態とみなすことができる。金属中の自由電子密度が高いほどこの復元力が大きくなり、プラズマ周波数ωpが高くなる。
【0020】
一方、表面プラズモンは表面に局在している。また、金属表面に伝搬光を照射しただけでは表面プラズモンは励起できない。励起できないことは、伝搬光は表面プラズモンとのエネルギーのやり取りができないことを意味している。上述した励起を可能ならしめるためには、伝搬光が透過できない間隔で金属粒子を配置し、これらの金属粒子に対して回折格子としての機能を付加して伝搬光を照射することにより近接場光が発生し、金属の表面プラズモンを励起することができる。
【0021】
これと同様な効果を粒子状の光触媒に求めようとする場合は、光触媒として機能する酸化物粒子の表面に金属の微粒子を析出または付着させることによって、回折格子と類似の効果を持たせることで達成できる。金属微粒子が光触媒表面に島状に存在していると、その間隔を例えば励起波長以下とすることで、その金属粒子間に近接場光を生成することができ、この近接場光を用いて前記酸化物粒子を励起し、触媒作用を生ぜしめることができる。
【0022】
この場合、励起するための入射光の波長をλとすると、金属表面での入射光の波数k(=2π/λ)が表面プラズモンの波数kspと一致する必要がある。回折格子の周期をaとし、入射光が回折格子表面で回折すると、そのときの回折光のx方向の波数をkdxとした場合、kdx=kix+n・(2π/a)となる。ここで入射光のx方向の成分をkixとした。また回折格子は波数と同じ次元として逆格子(2π/a)で与えられる。ここでnはゼロから±1、±2、・・・で与えられる。これは高調波成分の寄与を意味している。このkdxの大きさが金属表面プラズモンの波数の大きさと一致すると表面プラズモンを励起することができる。実際には、回折格子の周期a、光の入射角度、入射光の波長を適宜選択することによって、表面プラズモンを励起することができる。
【0023】
したがって、酸化物粒子表面に金属微粒子が島状に付着してこれらの集合体が平面をなしていると、様々な周期をもった金属の回折格子が光触媒表面に形成されているものとみなすことができる。したがってこのような表面では連続的に変化する波数成分が存在できるため、波長や入射角度を選択することなく、このような金属微粒子が島状になっている光触媒表面に光をあてることで容易に表面プラズモンを励起することができ、すなわち近接場光を生成することができる。
【0024】
なお、近接場光とは、振動しない電気双極子から発生する電磁場であり、一般の光(伝搬光)が電気双極子から離れて遠方まで到達することのできる性質をもっていることに対して、電気双極子の極近傍にだけ存在する成分である。これまでに述べた金属微粒子間が入射光の波長よりも小さい場合には伝搬光はこの間を透過することはできないが、近接場光だけがその開口近傍に存在できる。つまり、金属微粒子間隔が入射光の波長よりも大きい場合には、伝搬光がそのまま透過できる。
【0025】
また、近接場光は、金属微粒子間ではなく、金属微粒子の表面近傍にだけ発生しているが、その効果は伝搬光に隠れて検出することはできない。近接場光は、普通の光のように遠方まで届かず、光触媒の反応が表面でのみ進行する。したがって、近接場光が本来的な光触媒である酸化物粒子表面に局在していることはかえってそのエネルギーを空間中で消耗することなく、必要とされる光触媒表面で利用できることを意味している。
【0026】
さらに、近接場光は、金属の表面プラズモンを励起した状態も含んでいる。この意味では、屈折率が空気よりも大きなプリズムに全反射を満足する入射角度で光を入射させてプリズム底面に発生するエバネッセント波も遠方まで伝わらない性質をもっているので、近接場光の仲間であるとみなされる。なお、近接場光という場合には金属の表面プラズモンを励起する最適な条件でなくとも広く伝搬光とは異なり、局在する性質をもった光をさしている。このような意味で、光触媒を塗布する基板も、目的に応じてプリズムであってもかまわない。このときは全反射条件を満足するように入射角度を選択することで、プリズム底面にエバネッセント波が生じて、このプリズム底面に光触媒を塗布しておくことで、光触媒をエバネッセント光のエネルギーで励起することができる。
【0027】
なお、本発明の他の態様においては、前記金属微粒子の平均粒子径は1nm以上であって、前記酸化物粒子の径の1/5以下とすることができる。前記金属微粒子の平均粒子径が1nm未満であると上述した近接場光を有効に生成することができない場合がある。また、前記金属微粒子の平均粒子径が前記酸化物粒子の径の1/5を超えると、近接場光の生成に際し、伝搬光を有効利用することができない。また、同様の理由から、前記金属微粒子の、前記酸化物粒子に対する質量比は0.1質量%〜0.3質量%とすることができる。
【0028】
また、本発明のその他の態様において、前記金属微粒子は、Ag,Pt,Au,Cu,Rh,Pd,Ru及びIrからなる群より選ばれた少なくとも一種の金属、又はこれら金属の合金とすることができる。このような金属あるいは合金は非常に酸化しにくく、その金属本来の性質を安定して有することができる。したがって、上記伝搬光照射による表面プラズモン、すなわち近接場光を効率良く確実に生成することができる。
【0029】
さらに、本発明の他の態様では、前記金属微粒子同士の距離は、前記伝搬光の波長以下の長さとすることができる。この場合、これら金属微粒子は上述したように、近接場光生成のための擬似的な回折格子として機能するようになり、上記近接場光を確実に生成することができるようになる。
【0030】
また、本発明のさらに他の態様においては、前記酸化物粒子は、前記伝搬光によってバンド間遷移を呈するものから構成することができる。これによって、目的とする光触媒を構成する前記酸化物粒子は、上述した近接場光による励起のみならず、伝搬光によってもバンド間遷移を引き起こし、これによっても励起されるようになる。すなわち、近接場光と前記伝搬光との双方によって励起されることになり、前記酸化物粒子の触媒活性をより向上させることができるようになる。
【0031】
したがって、前記酸化物粒子は、TiO、WO、Fe及びZnOなどの粒子から構成することが好ましく、特にはWO粒子から構成することが好ましい。
【0032】
また、上記伝搬光は、近接場光を生ぜしめて酸化物粒子に光触媒作用を付与せしめるものであれば、所定のLED光源から発せられた伝搬光とすることができ、また、室内照明背景光が存在する環境で照射してもよい。
【発明の効果】
【0033】
以上説明したように、本発明によれば、複雑な装置などを用いることなく、LEDなどの汎用の光源からの伝搬光から近接場光を生成することができるので、この近接場光を用いることにより、室内照明背景光が存在する環境でも、前記伝搬光の波長が光触媒を構成する酸化物粒子の励起波長(バンドギャップ幅に相当する波長)よりも長い(エネルギー的にバンドギャップよりも小さい)場合において、前記酸化物粒子を励起し、前記酸化物粒子に対して光触媒作用を付加することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明のその他の特徴及び利点などについて、発明を実施するための最良の形態に基づいて説明する。
【0035】
(第1の実施形態)
本実施形態においては、光触媒を構成する酸化物粒子としてTiOを用い、これに金属微粒子を担持させた場合において、前記TiOのバンドギャップ以下のエネルギーに相当する波長の伝搬光を用い、前記TiOに光触媒作用が付加されることを説明する。
【0036】
TiOは結晶相に応じてそのバンドギャップが3eVから3.2eVの間で変化するが、このようなTiO粒子を伝搬光のみで励起し、触媒機能を生ぜせしめるためには、UV光が必要である。また、図1に示すように、アナターゼ型TiOではほぼ400nm以上の光は吸収できない。
【0037】
このようなTiO粒子に対してPt微粒子を担持させて、3eV以下の光のエネルギーである赤色LED光を照射させた場合のアセトアルデヒド分解特性を図2及び図3に示した。なお、図2では、暗所中で赤色LED光を照射して励起した場合の結果を示し、図3では、室内光が存在する場合に赤色LED光を重畳して照射した場合の結果を示している。いずれの場合でも赤色LED光を照射することにより、時間の経過とともにアセトアルデヒドの残存率が減少しており、前記TiO粒子において光触媒作用が生じていることが分かる。
【0038】
すなわち、本実施形態においても、伝搬光を照射すると同時にPt微粒子の近傍に近接場光が発生し、室内照明背景光が存在する環境でも、前記TiO粒子のバンドギャップ以下のエネルギー(本来的に要求されるUV光よりも長波長)の赤色LEDからの光を伝搬光として用いた場合でも、TiO粒子を励起することができ、光触媒作用を生ぜしめることができる。
【0039】
次に、本実施形態において、赤色LED光を用いた場合のTiO粒子の励起による光触媒作用発現の原理について説明する。
【0040】
赤色のエネルギーは波長633nmで1.96eVのエネルギーであるので、この赤色伝搬光自身ではTiO粒子を直接励起して価電子帯に正孔と伝導帯に電子をそれぞれ分離生成することはできない。しかし、TiO粒子では伝導帯のエッジの下0.5eVにドナー性の欠陥レベルが存在する。この場合、1.96eVの近接場光でドナーレベルに存在する電子が伝導帯に励起される。このとき生成した電子を有機物の還元反応に利用することができる。
【0041】
一方、室温をエネルギーに換算すると約0.03eVで室温では伝導帯には励起できないが、この赤色近接場光のエネルギーによって伝導帯に励起できる。また価電子帯の上1eVのところにアクセプターレベルが存在するが、このレベルに電子が移動することで、価電子帯に正孔が生成する。この正孔を有機物の分解に利用することができる。以上の説明は、直接的に励起できるエネルギーをもった伝搬光によっても全く同じ説明が可能であるが、近接場光は表面にだけ局在するために光のエネルギー密度を高めることによって分解効率を高めることができるのである。
【0042】
また、上述した633nmの赤色光は633nm以下の領域に局在させることができないが、本実施態様におけるように、TiO粒子表面にPt微粒子を生成させておけば、Pt微粒子近傍の数nmから数十nmの領域に近接場光を局在させることができるためにエネルギー密度を向上させることができる。したがって、このような近接場光を利用することによって、バンドギャップ中に存在するドナー性のレベルやアクセプター性のレベルからの電子移動を効率良く行わせることができ光触媒反応を行うことができる。
【0043】
なお、近接場光のエネルギーだけでバンドギャップを直接励起することについては、金属微粒子の存在とこの金属微粒子間隔が入射光の波長よりも小さくなって金属微粒子間に近接場光を発生させる条件が必要である。この場合、入射光の波数は波長をλとするとk=2π/λであるが、さらに金属微粒子間隔をΛとすると入射光はkd=2π/Λとして、k+kdの増加した波数を持つ事ができる。
【0044】
回折格子のように規則性を持たなくとも、金属微粒子が散在していてもその周期は種々の周期関数の和として近似(フーリエ級数としての展開に相当)されるため、金属微粒子がまばらに散在していてもそれを種々の周期関数に分割して得られる周期間隔Λ‘(kd’=2π/Λ‘)で与えられる。結果として入射光は自らの波長に相当する波数kに光触媒表面に散在する金属微粒子の周期で決定される波数k+kdあるいはk+kd’をもつ。これをエネルギーで表現すれば、E=h(c/λ)よりE=(chk/2π)で与えられるので、表面で発生する近接場光のエネルギーを加えたエネルギーは、E=(chkd/2π)だけエネルギーが増加する。したがって、このエネルギーの寄与が光触媒のバンドギャップエネルギー以上となった場合に光触媒としての作用が認められると考えられる。なお式中、cは光速、hはプランクの定数、λは入射光の波長である。
【0045】
なお、TiO粒子表面に担持させる金属微粒子としては、Ptに加え、Ag,Au,Cu,Rh,Pd,Ru及びIrなどの金属、又はこれらの合金を用いることができる。さらに、上述した伝搬光から近接場光を確実に生成するためには、前記金属微粒子の平均粒子径は1nm以上であって、前記TiO粒子の径の1/5以下であることが好ましい。さらに、前記Pt微粒子の、前記TiO粒子に対する質量比は0.1質量%〜0.3質量%であることが好ましい。
【0046】
なお、TiO粒子表面では、上述したPt微粒子は、複数個がより固まって島状に存在し、コロニーを形成していると考えられる。また、Pt微粒子が分散して担持しているよりも、上述のようにコロニー状に存在している方がより確実に近接場光を生成することができ、TiO粒子を励起して触媒機能を付加せしめることができる。
【0047】
(第2の実施形態)
本実施形態においては、光触媒を構成する酸化物粒子としてWOを用い、これに金属微粒子を担持させた場合において、前記WOのバンドギャップ以下のエネルギーに相当する波長の伝搬光を用い、前記WOに光触媒作用が付加されることを説明する。
【0048】
<第1の光触媒作用>
WOのバンドギャップは2.5eVであるので、原則として伝搬光のみで前記バンドギャップを超えて光学的に励起して電子と正孔を生成するためには、前記バンドギャップ以上のエネルギーに相当する波長の伝搬光を用いる必要がある。従って、このような伝搬光としては、496nm以下の波長のものが必要となる。
【0049】
これに対して、WO粒子表面にAgをはじめとする金属微粒子を存在させた場合、以下のような現象が生じる。すなわち、WOがバンドギャップ光以上のエネルギーで励起された場合に、WO内に電子と正孔が生成する。有機物の分解に正孔が消費された場合、電子がWO内に残ることになり、化学反応速度論の観点から見ると、この電子を正孔と同じように消費しないと、片方のキャリアだけが残るために、電子が正孔と再結合する確率が非常に高くなる。この結果として光触媒による分解反応が進まないことになる。これを改善するためにWO表面に電子を消費する反応サイトを形成させることが知られており、一般に貴金属のナノ粒子が光触媒表面に分散されて用いられる。
【0050】
一方、光触媒の活性とは、光触媒の表面に吸着している吸着水が正孔によって酸化されて生成するOHラジカルが有機物と反応して分解する機構で説明されている。したがって分解反応に寄与しない電子は光触媒内に残存する。この電子は一般には水の還元反応で消費されるため、水素発生反応が速やかに進行する金属を用いることが望ましい。水素発生反応のしやすさは、これまで電気化学で知られている「水素過電圧」の低い金属がこれに相当する。具体的には最も良いのはPtであり、一般に貴金属類はこの水素過電圧が低く本発明の目的に適用できるものである。
【0051】
ところで、貴金属のナノ粒子に光が照射されるとこの粒子近傍には伝搬しない近接場光が発生する。近接場光とは、空間を伝搬しないために、これまでに光の応用としてはほとんど用いられてこなかった。
【0052】
しかしながら、前記近接場光は、貴金属粒子表面の極近傍に強い電界を生成し、所定のエネルギーをもっているので、WO表面に貴金属ナノ粒子が存在すると、照射した従来の光(伝搬光)に加えて、近接場光のエネルギーが局所的に重畳することになる。つまり伝搬光のエネルギー自身がWOのバンドギャップエネルギー以下であっても、表面近傍にはバンドギャップエネルギー以上の光のエネルギーが重畳するために、近接場光によってWOを励起することが可能である。しかも、正孔や電子をやり取りする光触媒反応は表面で進むために、近接場光が粒子の内部まで励起する必要はなく表面だけでよい。
【0053】
したがって、WO表面にAgなどの金属微粒子を担持させた場合、伝搬光のエネルギーが前記WOのバンドギャップ以下であっても、上述した近接場光を用いることによってWOを励起することが可能となり、光触媒作用を付加せしめることができる。
【0054】
なお、WO表面にAgなどの金属微粒子を担持させた場合においては、伝搬光を照射すると同時に金属微粒子の近傍に近接場光が発生するため、通常は伝搬光のために近接場光の効果はまったくわからない。しかしながら、金属微粒子が存在することで、室内照明背景光が存在する環境で、このような背景光のみでは光触媒の効果が認められない場合でも、例えば赤色LEDからの光を励起光としての伝搬光として用いた場合でも、WOを励起することができ、光触媒作用を生ぜしめることができる。
【0055】
また、WO粒子表面に担持させる金属微粒子としては、Agに加え、Pt,Au,Cu,Rh,Pd,Ru及びIrなどの金属、又はこれらの合金を用いることができる。さらに、上述した伝搬光から近接場光を確実に生成するためには、前記金属微粒子の平均粒子径は1nm以上であって、前記WO粒子の径の1/5以下であることが好ましい。さらに、前記金属微粒子の、前記WO粒子に対する質量比は0.1質量%〜0.3質量%であることが好ましい。また、前記金属微粒子同士の距離は、前記伝搬光の波長以下の長さであることが好ましい。
【0056】
なお、WO粒子表面へのAg微粒子の担持は、めっきのようなウエットプロセスと真空蒸着のようなドライプロセスを用いることができる。めっきでは、WO粒子を硝酸銀(AgNO)水溶液(濃度0.1%)に分散させて、紫外線を含む光を照射して前記WO粒子表面に析出させることができる。
【0057】
また、最初に紫外線を含む光で硝酸銀を含む溶液中でめっき反応を起こさせて、一旦Agの微粒子を生成させ、次いで、バンドギャップ光以下の光を照射させてAg微粒子の近傍に発生する近接場光によってさらにAg微粒子を析出させることも可能である。この方法によれば、Ag微粒子の析出密度を任意に変えることができる。一般にAg微粒子が生成してからそのまま紫外線を含む光を照射すると、析出Ag密度が高くなりすぎるため、光の強度を落とすことが必要である。
【0058】
なお、WO粒子表面では、上述したAg微粒子は、複数個がより固まって島状に存在し、コロニーを形成していると考えられる。また、Ag微粒子が分散して担持しているよりも、上述のようにコロニー状に存在している方がより確実に近接場光を生成することができ、WO粒子を励起して触媒機能を付加せしめることができる。
【0059】
<第2の光触媒作用>
一方、WO粒子を用いた場合は、励起光によって一般的な価電子帯から伝導帯への電子励起と正孔の価電子帯中での生成が可能となるほかに、不純物の前記不純物レベルからの光励起が可能となる。
【0060】
さらに時間的には、前記不純物レベルの電子が伝導帯に励起されるとドナーレベルにはちょうど正孔のような空のレベルが存在できる。したがって、この空のレベルに価電子帯から電子が励起することも可能となる。このことは、WOのバンドギャップよりも小さいエネルギーでの光励起が可能となることを示しており、より効果的な可視光応答光触媒の効果が得られることを意味している。換言すれば、上述したような近接場光を用いなくとも、WO粒子自体が不純物レベルを介したバンド間遷移を呈することによって励起され、光触媒作用を呈することが分かる。
【0061】
したがって、WO粒子を酸化物粒子として用い、これにAg微粒子などの貴金属を担持させた場合においては、上記のような近接場光に起因した第1の光触媒作用と、WO粒子の本来的な性質に起因した第2の光触媒作用とを示し、高い触媒活性を呈するようになる。
【0062】
なお、前記不純物レベルは、WO粒子の表面酸素欠陥によるものと推測される。しかしながら、このことは、WO粒子全体にわたって酸素欠陥が存在することを意味するものではないことは、図1に示すX線回折パターンからも明らかである。これは、X線回折は試料、すなわちWO粒子に対して深さ数ミリのオーダまで進入して結晶性を評価するのに対し、XPSでは、WO粒子の表面数nmしか進入しないことからも明らかである。
【0063】
<WO粒子の製造>
上述のような特徴を有するWO粒子は、例えば以下のようにして製造することができる。
【0064】
[第1の製造方法]
図4は、上記WO粒子を製造する際に使用する装置の概略図を示す。図中の符番1は、金属タングステンワイヤー2を送り出すタングステンワイヤースプール(以下、スプールと呼ぶ)を示す。金属タングステンワイヤー2は、酸素を含む雰囲気中、例えば大気中でガスバーナ3により加熱、燃焼されて酸化タングステン微粒子のヒューム4となる。このヒューム4は、回収装置としての電気集塵機5に設けられたヒューム吸引管6により回収される。ヒューム吸引管6の一部は、電気炉7内に配置されている。
【0065】
まず、金属タングステンワイヤーを、バーナーにより1000〜1700℃程度で短時間(1cmあたり5〜15秒)加熱する。これにより金属タングステンが燃焼することで昇華し、急激に酸化されることによって三酸化タングステン(WO)微粒子のヒュームが大気に放出される。次に、このヒュームを電気集塵機により採取し、WO微粒子を得る。次いで、600〜1000℃の酸化雰囲気の電気炉内に前記ヒュームを導入し、短時間で熱処理を行い、目的とするWO粒子を得る。
【0066】
なお、WO微粒子のヒュームを電気集塵法によって回収する場合には、HEPAフィルタ等を用いて回収する場合に比べて、フィルタの目詰まりやフィルタ成分の混入がないので、純度の高い微粒子を容易に回収することができ、また回収装置の吸引条件、速度、量の調節が容易になり、安定した活性を持った所望のWO超微粒子を得ることができる。
【0067】
[第2の製造方法]
上記WOは、以下のような方法によっても得ることができる。すなわち、パラタングステンアンモニウム塩(APT)ビーズミルや遊星ミル等で粉砕し、遠心分離により分級する。次いて、得られた微粒子を、酸素を含む雰囲気、例えば大気中で400〜600℃で熱処理することにより、目的とするWO粒子を得る。
【0068】
<光触媒の評価>
次に、本実施形態の光触媒の評価を実施した。かかる評価は、アセトアルデヒドガスの分解試験により実施した。
【0069】
図5は、アセトアルデヒドガス分解試験の測定装置の概略図を示す。図中の符番8は、容量3000ccの測定容器を示し、内部に光触媒粉(WO粒子にAg微粒子を担持、質量:0.1g)入り時計皿9が配置され、その下部にファン10が配置されている。また、測定容器8の上部には、光源11としての白色LED(NSPW500BS使用)が配置されている。測定容器8には、測定器としてのマルチガスモニタ12が配管13を介して接続されている。なお、導入ガスとしては、アセトアルデヒド10ppmが用いられた。
【0070】
図5の測定装置を用いて、本実施形態の光触媒についてアセトアルデヒドガスの分解試験を行ったところ、図6に示す特性図が得られた。図5から明らかなように、測定容器8内に光触媒粉が存在する場合は、白色LEDからの光照射、及び白色LEDと赤色LEDとを用い、白色光に対して赤色光を重畳して光照射を行った場合のいずれにおいても、時間の経過とともにアセトアルデヒドガスの残存率が低下することが分かる(図中の曲線(a)及び(b))。一方、測定容器8内に可視光応答光触媒を配置しない場合は、白色LEDから光照射を行っても時間の経過とともにアセトアルデヒドガスの残存率がほとんど変化しないことが分かる(図中の曲線(c))。
【0071】
したがって、本実施形態の光触媒は、アセトアルデヒドガスの分解に対して高い光活性を呈することが判明した。
【0072】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいて、あらゆる変形や変更が可能である。
【0073】
例えば、上記TiO粒子においても、その製造に起因してWO粒子同様に、バンド間遷移に起因した光触媒作用を生ぜしめることができ、高い光触媒活性を得ることができる。
【0074】
また、上記具体例では、WO粒子及びTiO粒子を中心に述べているが、その他の酸化物粒子、例えばFe及びZnOなどについても同様の光触媒作用を呈することを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】アナターゼ型TiOの拡散反射率スペクトルを示すグラフである。
【図2】暗所中で赤色LED光を照射させた場合のアセトアルデヒド分解特性を示すグラフである。
【図3】室内光が存在する場合に、赤色LED光を照射させた場合のアセトアルデヒド分解特性を示すグラフである。
【図4】本発明の可視光応答光触媒を構成する酸化タングステンを合成する装置の一例を示す概略図である。
【図5】アセトアルデヒドガス分解試験の測定装置の概略図である。
【図6】図5に示す測定装置を用いたアセトアルデヒドガス分解の特性を示す図である。
【符号の説明】
【0076】
1 タングステンワイヤースプール
2 金属タングステンワイヤー
3 ガスバーナ
4 酸化タングステン微粒子のヒューム
5 電気集塵機
6 ヒューム吸引管
7 電気炉
8 測定容器
9 時計皿
10 ファン
11 光源(白色LED)
12 マルチガスモニタ
13 配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物粒子と、前記酸化物粒子の表面に担持された金属微粒子とを具え、
前記酸化物粒子のバンドギャップに相当するエネルギー以下の波長領域にピーク波長を有し、単独で前記酸化物粒子を励起しないような伝搬光を前記金属微粒子に照射して前記金属微粒子の近傍に近接場光を生ぜしめ、この近接場光を用いて前記酸化物粒子を励起し光触媒作用を生ぜしめたことを特徴とする、光触媒。
【請求項2】
前記金属微粒子の平均粒子径は1nm以上であって、前記酸化物粒子の径の1/5以下であることを特徴とする、請求項1に記載の光触媒。
【請求項3】
前記金属微粒子は、Ag,Pt,Au,Cu,Rh,Pd,Ru及びIrからなる群より選ばれた少なくとも一種の金属、又はこれら金属の合金であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の光触媒。
【請求項4】
前記金属微粒子同士の距離は、前記伝搬光の波長以下の長さであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載の光触媒。
【請求項5】
前記酸化物粒子は、前記伝搬光によってバンド間遷移を呈することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一に記載の光触媒。
【請求項6】
前記酸化物粒子は、WO粒子であることを特徴とする、請求項5に記載の光触媒。
【請求項7】
前記伝搬光は、所定のLED光源から発せられた伝搬光であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一に記載の光触媒。
【請求項8】
前記伝搬光は、室内照明背景光が存在する環境で照射することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一に記載の光触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−100221(P2008−100221A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−247769(P2007−247769)
【出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【出願人】(000003757)東芝ライテック株式会社 (2,710)
【Fターム(参考)】