説明

金属成分の組成に勾配を有するリチウム遷移金属酸化物

本発明は初期物質、前駆物質及び最終物質とこれらの物質を製造する方法に関する。前記最終物質は混合リチウム遷移金属酸化物であって、充電可能なリチウム電池用として使われる、作動性が最適化した正極物質に有用である。前記遷移金属は、マンガン、ニッケル及びコバルトの固溶体混合物であって、M=(Mn1−uNi1−u−yCoであり、0.2である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は不均一な組成を有する粉末状物質と前記物質の製造方法及び前記物質を含む電気化学電池に関する。本発明の目的は、遷移金属酸化物、リチウム遷移金属酸化物、遷移金属水酸化物、オキソヒドロキシド、カーボネートなどの遷移金属と酸素を少なくとも85重量%含み、内部バルクと外部バルクにおける遷移金属の組成がかなり異なることを特徴とする粉末状の物質を提供するところにある。
【0002】
本発明の前記不均一なリチウム遷移金属酸化物の典型的な適用例は、リチウム充電池の正極活物質である。これは、高効率の動作性及び高いエネルギー密度など進んだ電気化学的な特性を提供することができ、安価で高い安定性を提供することができる。
【0003】
前記不均一な遷移金属水酸化物、カーボネート、オキソハイドライドなどは、主として前記分均一なリチウム遷移金属酸化物を製造するための初期物質または前駆物質として適用される。
【0004】
前記初期物質を製造する工程は共沈殿による。ここで、沈殿物がシード(種)粒子を被覆するが、沈殿物の遷移金属組成は、シード粒子の組成とかなりの差異がある。
【0005】
本発明の物質としてはリチウム金属酸化物、金属酸化物、金属オキソハイドライド、金属カーボネートなどであり、これらの金属は主として少なくとも90〜95%までは、例えば、マンガン、ニッケル及びコバルトを含む遷移金属の固相の混合固溶体である。好ましくは、前記遷移金属の平均組成M=(MnNi1−u1−yCoであり、ここで、0.20.7及び0.1<y<0.9である。本発明による粒子において、前記遷移金属の組成は不均一である。内部バルク(粒子の中心側)と外部バルク(粒子の表面側)における遷移金属の化学量論は、かなり異なる。マンガンとニッケル及びコバルトの間の化学量論には少なくとも10%、好ましくは、15%以上の差異がある。
【0006】
不均一な粉末状物質の第1の例としてリチウム遷移金属酸化物があるが、好ましくは、前記リチウム遷移金属酸化物は層状に配列された岩塩状の結晶構造を有する。これらは充電可能なリチウム電池において正極として適用可能である。不均一なリチウム遷移金属酸化物は内部バルク、外部バルク及び表面において相異なる特性を要求する場合に最適化されて良好な動作特性を示すことができる。好ましくは、遷移金属の化学量論は表面と内部バルク間の粒子空間において緩やかに変わる。
【0007】
不均一な粉末状物質の第2の例としては、遷移金属のカーボネート、酸化物またはオキソヒドロキシドなどの前駆物質がある。不均一な組成を有し、動作特性に最適化されたリチウム遷移金属酸化物は、リチウム供給源との固相反応により前記前駆物質から製造可能である。前記前駆物質は、外部バルクと内部バルクにおけるマンガンとニッケル及びコバルト間の化学量論にかなりの差異がある。前記前駆物質は硫黄酸塩、塩化物、フッ化物、ナトリウムまたはカリウムなどのイオンをさらに含むことができる。前記反応を行う間に前記イオンが変形されて焼結助剤を形成することができる。
【0008】
不均一な粉末状の物質の第3の例としては、遷移金属水酸化物またはカーボネートなどの初期物質がある。前記初期物質は負イオンまたは正イオンをさらに含むことができる。前記前駆物質は前記初期物質から得られるが、乾燥または加熱、あるいは負イオンを変形または除去するための適宜なイオン交換工程後の乾燥や加熱により前記初期物質から得られる。前記初期物質と前記前駆物質は両方とも、不均一な遷移金属の組成を有する。
【0009】
前記初期物質は沈殿反応により得られるが、このとき、沈殿物に含まれる遷移金属がシードとして働く粒子の表面に沈殿される。前記シード粒子と沈殿物において遷移金属となるマンガン、ニッケル及びコバルトの組成はかなりの差異があるが、少なくとも10%、好ましくは、少なくとも15%の差異がある。前記工程により粉末状の初期物質を含むスラリーが供給される。
【背景技術】
【0010】
充電可能なリチウム電池(リチウム充電池)の正極物質としては層状結晶構造、[r−3m]を有する遷移金属酸化物が使われるが、その例として、LiCoO,LiNiO,LiCoNi1−x,ドープLiCoNi1−x(ここで、Al,Mn,Mn1/2Ni1/2,Mg,Ti1/2Mg1/2などのドーパントを使用する。)、LiNi1/3Mn1/3Co1/3,Li(Ni1/2Mn1/21−xCo,Li1+x1−x(M=Mn1−yNi),LiCo1−x(Ni1/2Mn1/2などがある。通常、これらの物質は粉末である。これらの物質は相異なる特性を有するが、通常、粒子の表面近くである外部バルクの組成は、粒子の中心近くである内部バルクの組成と同じである。前記正極物質の組成とモルフォロジを最適化させるために多くの努力が注がれてきている。このようなアプローチは“均一性のアプローチ”であるといえる。このような“均一な”正極物質は外部と内部バルクにおいて同じ組成を有する。均一な組成としては、LiCoOのCoの組成のように単純なものがあれば、複雑なものもある。最近には、複合金属組成を有するリチウム遷移金属酸化物が進んだ特性を有するという発表もなされている。複合リチウム遷移金属酸化物は各種の特許に開示されているが、詳しい説明は省き、いくつかの点のみ記述する。
【0011】
優先日が1999年12月3日となっているPCT−WO01/41238 A1 (Paul Scherrer Institute,Swizterland)には、沈殿された前駆体から得られるドープLiNi1/2Mn1/2に基づく複合物質が開示されている。
【0012】
USP5626635(Matsushita)には、MnまたはCoによりドープされたLiNiOが開示されている。
【0013】
USP6040090(Sanyo)には、特定のX線回折特性を有する物質が開示されている。この文献には、さまざまな範囲のドープLiNiOが開示されているが、ここで、ドーパントは、Mn,Co,Alなどである。前記特許の請求項にもまた、組成がLiMOであり、ここで、Mは(Ni1/2Mn1/21−xCoである複合物質が開示されている。
【0014】
優先日が2001年3月9日となっているEP1 189 296 A2(Ilion)には、大量のリチウムを含む物質であるLi1+x1−x[ここで、M=(Mn1−uNi1−yCoであり、u≡0.5,x>0及びy<1/3]が開示されている。
【0015】
優先日が2001年8月7日及び4月27日となっているUS20030108793及びUS20030027048(3M)には、4要素システムであるLiCoO−LiNi1/2Mn1/2−Li[Li1/2Mn2/3]O−LiNi1/2Mn1/2内で極めて広い範囲を有する固溶体が記載されているが、ここでも、実質的に、Li[Li1/2Mn2/3]OとLiNi1/2Mn1/2の固溶体またはLiCoO−とLiNi1/2Mn1/2の固溶体のみ記述されている。
【0016】
複合正極物質に対する優れた結果も報告されている。このような物質の例としては、Li[Li1−x]O(ここで、x≡0.05であり、M=(Mn1/2Ni1/25/6Co1/6)(Paulsen & Ammundsen,11th International Meeting on Lithium Batteries (IMLB 11),Cathodes II,Ilion/Pacific Lithium),オズク(Ohzuku)らにより立証されたLiNi1/3Mn1/3Co1/3(Makimura & Ohzuku,Proceedings of the 41st battery symposium on 2D20 and 2D21,Nagoya,Japan 2000 or N. Yabuuchi,T. Ohzuku,J. of Power sources 2003,(in print))またはダン教授群(Prof. Dahn’s group)により立証されたドープLiCoO(S. Jouanneau et al.,J. Electrochem. Soc. 150,A1299,2003)などがある。
【0017】
通常、均一な組成における最適な要件は、各種の要求条件、たとえば、コスト、作業工程及び動作性/特性間の折衷値に決められる。ところが、これらの条件が同時に満足されるわけではない。これは、粒子の内部バルク、外部バルク及び表面における要求条件が相異なるためである。このため、均一な化学量論を有する従来の物質はコスト、製造工程及び特性を考慮するときに最適の要件を提示できず、その結果、ほとんどの場合、均一な組成を有する物質は完全に最適化できなかった。
【0018】
従来、通常“表面コート”と呼ばれていた、いつくかの作業が正極活物質に対して行われた。前記コート法は、例えば、Y. J. Kim et al.,J. Electrochem. Soc. 149 A1337,J. Cho et al.,J. Electrochem. Soc. 149 A127,J. Cho et al.,J. Electrochem. Soc. 149 A288,Z. Chen et al.,J. Electrochem. Soc. 149 A1604,Z. Chen,J. Dahn,Electrochem. and solid−state letters,5,A213 (2002),Z. Chen,J. Dahn,Electrochem. and solid−state letters,6,A221 (2003),J. Cho et al.,Electrochem. and solid−state letters,2,607 (1999),J. Cho and G. Kim,Electrochem. and solid−state letters,2,253 (1999),J. Cho et al.,J. Electrochem. Soc. 148 A1110 (2001),J. Cho et al.,Electrochem. and solid−state letters,3,362,(2000),J. Cho et all.,Electrochem. and solid−state letters,4,A159,(2001),Z. Whang et al.,J. Electrochem. Soc. 149,A466 (2002),J. Cho,Solid State Ionics,160 (2003),241−245などに記載されている。
【0019】
表面コートに関わる文献によれば、少量の化合物M2がM1組成を有する粒子の表面にコートされ、次いで熱処理される。M2及びM1の選択に応じて、そして製造条件に応じて2種類の極端的な場合が存在する。一つ(ケース1)は、粒子を取り囲んでいる超薄膜層が粒子バルクとは化学量論的に極めて異なる場合である。もう一つ(ケース2)は、粒子の外側に拡大された領域において化学量論的に僅かな差異がある場合である。
【0020】
しかしながら、動作性が最適化された物質を得るためには、化学量論の変化が極めて激しいこと、及び他の化学量論を有する領域が拡張されることが必要となる。
【0021】
主として層状結晶構造(好ましくは、LiCoO)を有する正極物質は他の種類の金属を含んでいるゲルによりコートされ、次いで、弱い熱処理過程を経る。前記選択可能な金属としては、Al,Sn,Zr,Mg,Mn,Coなどがある。ほとんどの場合、前記LiCoOと前記金属との間には固溶体が存在せず、前記表面は局部的な第2の相により部分的にまたは全体的にコートされ、相の境界が存在し、前記相の境界を中心として化学量論が急激に変わる。内部バルクと外部バルクにおける組成は一定である。場合によっては、LiMO正極と前記コート金属との間に固溶体が存在する。この場合、コートされた金属の組成における緩やかな変化(勾配)が得られる。しかし、一般に、1モルのLiMO正極に対して0.03モルを超えない極めて少量のコート金属がコートされるだけである。その結果、内部バルクと外部バルクにおけるM1,M2の組成はコート金属の組成にのみ差異があり、バルク遷移金属には大差ない(<10%)。
通常、コートされた正極物質は薄く、または、金属酸化物相が不完全な表面により塗布され、急激な境界を有する。文献によれば、前記コートが電解質が正極と接触することを遮断し、その結果、好ましくない副反応を抑えるという。充放電中に、LiCoOなどの正極は膨張及び収縮をする。“硬い”表面は前記膨張および収縮を力学的に制限でき、バルク内のストレインを抑え、その結果、より良好な繰り返し使用の安定性を提供できると考えられる。この場合、バルクとコート層との間で比較的に急激な界面を有するコート薄層はかなりの局部ストレインを経ることが予想される。薄い表面はこのようなストレインに耐えず、亀裂または機械的な接触損失を招き、その結果、コート層の効率が下がる。また、前記コート物質は電気化学的に不活性であるため、前記正極物質の充電容量に寄与しない。コートされた正極粉末の表面層は、通常、独立的な“濡れた”ゾル−ゲル段階と適宜な熱処理により形成される。ゾル−ゲル法はコストがかかり、その消耗コストが上がる。
【0022】
前記コートの効率が重要な問題であるということを認知する必要がある。J. Dahns group(Z. Chen, J. Dahn, Electrochem. and solid−state letters, 6, A221 (2003) and Z. Chen, J. Dahn, Abs 329, 204th ECS Meeting, Orlando)の最近の発表によれば、コートではなく、LiCoOの熱処理が前記動作性の向上と関わっていると言う。
【0023】
一般的な観点から見るとき、コートされた正極物質は完全に最適化されない。完全な最適化のためには、バルクと表面から要される相異なる特性を区別するだけでは不足感があり、内部バルク、外部バルク及び表面から要される相異なる特性のために正極を最適化させることも必要となる。
【0024】
本発明においては、内部バルク、外部バルク及び表面において遷移金属の化学量論がかなり異なる物質にフォーカスを合わせている。本発明の正極物質において、遷移金属の化学量論は粒子の拡張された領域に亘って緩やかに変わる。本発明の正極物質において、外部バルクは内部バルクとほぼ同じ程度に拡張、または収縮する。このため、力学的な完全性が取られる。また、前記変形された層は電気化学的に活性があるため、正極の容量に損失がない。
【0025】
アメリカ特許USP6,555,269号(J.Cho et al,サムスン)には、Al,Mg,Sn,Ca,Ti,Mnから選ばれた金属によりコートされたLiCoOが開示されている。前記コートはゾル−ゲル法と後続する150−500℃の比較的に厳しくない条件における熱処理により形成される。Coに対する金属の最大量は6%である。最終的に得られた正極はニッケルを含んでいない。また、Ca及びSn(及び、好ましくは、Mg)はLiCoOと固溶体を形成しない。マンガンとチタンだけがLiTiOとLiMnOに完全にリチウム化する場合にのみ固溶体を形成する。このような方法は本発明に開示されているように、外部バルクと内部バルクにおいてマンガンの組成とコバルトの組成及びニッケルの組成が激しく変わるMn−Ni−Co系の物質を形成することができない。特に、層状結晶構造を有し、空間上において緩やかでかつ激しい化学量論の変化を有する粒子が得られない。
【0026】
アメリカ特許USP6,274,273号(J.Cho et al,サムスン)には、リチウムマンガンスピネル構造を有し、コバルトによりコートされてコバルトの濃度勾配(濃度の緩やかな変化)を形成する活物質が開示されている。前記正極物質は前記スピネルをゾル−ゲル法によりコートした後、これを850℃以下で熱処理して得られる。Coの量(Mnに対する)は5%以下に制限される。基本物質であるマンガンにおいてごく僅かな化学量論的な変化があるだけである。例えば、図5Aによれば、マンガンの化学量論は粒子の表面で0.963であり、中心で0.973であって、約1%の差異がある。出発物質であるリチウムマンガン酸化物とコート用金属は共にニッケルを含んでいない。前記発明は、本発明でのようにマンガン、ニッケル及びコバルトの化学量論の変化が激しいMn−Co−Ni物質を提供しない。
【0027】
J.Cho,Solid State Ionics, 160(2003)241−245には、Li−Mnスピネル粒子によるLiCoOのコートについて開示されている。基本的に、ボールミル済みマイクロ寸法のスピネルを含むスラリーがLiCoOを含むスラリーに加えられる。前記最終的な生産物はニッケルを含んでいない。この方法により全体的に厚いコートが行えるかどうかには疑問がある。最初には、前記スピネルがLiCoOの表面にコートされる。しかし、前記表面が前記スピネルにより塗布され、これにスピネルのコートをさらに行うためには、前記スピネル粒子がLiCoOの表面に塗布されているスピネルに結合される必要がある。しかしながら、前記結合はLiCoOの表面に限定されず、スピネル粒子の集塊形成の原因になりうる。その結果、表面が極めて薄く形成されるか、部分的にのみコートされるか、あるいは、LiCoOの核は存在せず、スピネルの集塊が多数形成される。実際に、図1は相異なるタイプの粒子を示しているが、粒子中のかなりの部分はLiCoOの核を形成せずにスピネルの集塊を形成している。
【0028】
いくつかの特許には、不均一な組成を有する正極物質が開示されている。例えば、LiNi1−xCoとリチウムマンガンスピネル間の混合物では、高い電気化学的な特性が得られるということが報告されている。しかし、これらの正極は、粒子が内部バルクと外部バルクにおいて同じ組成を有しているため、本発明の観点からみたとき、均一な(つまり、不均一ではない)組成であるといえる。
【発明の開示】
【0029】
本発明は金属の組成が緩やかに変わる(金属組成の勾配を有する)リチウム遷移金属酸化物に関し、前記従来の技術における制限や欠点による不具合を解決するために講じられたものである。
【0030】
本発明は、不均一な粉末状の物質と前記物質の製造方法を提供すること、及び前記物質を含む電気化学電池を提供することを目的とする。
【0031】
本発明はまた、外部バルクと内部バルクにかなりの差異がある遷移金属組成を有する粉末状の物質を提供することを目的とする。
【0032】
前記目的及びこの明細書中に広範に説明され、かつ、具現された本発明の目的に合う他の長所を達成するために、本発明では、少なくとも85重量%の遷移金属と酸素を含む粉末状遷移金属化合物を提供するが、ここで、前記粉末は遷移金属の化学量論が空間内においてかなりの差異がある粒子よりなり、外部バルクにおける平均遷移金属の組成は内部バルクにおける遷移金属の組成と比べて少なくとも10%以上の差異がある。ここで、前記内部バルクは、前記粒子の全体的な遷移金属原子数の約50%を含んでいる粒子の中心近くの領域に特定される。
【0033】
また、本発明は、粉末状のリチウム金属酸化物を提供するが、ここで、前記金属の90%は平均組成がM=(Mn1−uNi1−y−zCoであり、ここで、0.4<u<0.65及び0.2<y<0.9であり、前記粉末は粒子よりなるが、前記粒子のうち典型的な粒子は、バルク内の全ての個所において同様にr−3m空間群の層状結晶構造を有し、遷移金属の化学量論が空間上においてかなりの差異を示すが、外部バルクにおける遷移金属、例えば、コバルトとマンガン及びニッケルの平均組成は、内部バルクにおける遷移金属の平均組成と少なくとも10%の差異を有する。ここで、前記内部バルクは、前記粒子の全体的なコバルト、ニッケル及びマンガン原子数の約50%を含んでいる粒子の中心近くの領域に特定される。
【0034】
一方、本発明は少なくとも一つの沈殿反応を含む粉末状の遷移金属化合物の製造方法を提供するが、この方法は、遷移金属塩が溶解されている少なくとも一つの溶液及びカーボネート塩または水酸化物が溶解されている少なくとも一つの溶液をシードとして働く粒子に加える段階と、前記溶解された遷移金属の正イオンと前記溶解された水酸化物またはカーボネートの負イオンが固相の沈殿物を形成する段階、及び前記沈殿物により前記シード粒子を塗布する層を形成する段階を含み、ここで、前記沈殿物は遷移金属組成M2を有するが、これは、前記シード粒子の組成であるM1と少なくとも10%の差異を有する。
【0035】
さらに、本発明は粉末状のリチウム遷移金属化合物の製造方法を提供するが、この方法は本願請求項9ないし14による少なくとも一つの沈殿反応段階、前記沈殿物を変形させるための110−350℃間における熱処理段階、及び前記変形された沈殿物とリチウム供給源間の固相反応段階を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明は、前述した制限事項が解決可能な正極物質を提供する。前記正極物質は表面、外部バルク(表面近くの)及び内部バルク(粒子の内側部)における相異なる要求条件を考慮したものであるため、より最適化されたものである。
【0037】
LiCoOは、駆動効率及び電力密度の点から良好な正極物質である。これは、高い固相のLiイオン拡散定数を有する。前記Liイオン拡散定数は、濃厚な初期粒子の最大のサイズを決める。もし、これらが大き過ぎると、拡散経路が増し、これに伴い、通常の拡散時間も延びる。LiCoOは高い拡散定数及び十分な電気伝導性を有する。これにより、より大きくて濃厚な初期粒子及び十分な駆動効率が得られる。より大きくて濃厚な初期粒子による場合、高い充填密度を有する粉末を得ることができ、これにより、高いエネルギー密度を得る上で必要な高い電極密度を得ることができる。しかしながら、LiCoOは、高い電圧への充電時に低い繰り返し安定性を示す。
【0038】
LiCoOと比較するとき、Li[(Ni1/2Mn1/21−xCo]Oなどの正極物質は、特にCoの含量が低い場合、固相で拡散によるリチウムの輸送速度が落ちる傾向があり、低い電子伝導性を有する。低いBET表面積(0.2m/g以下;<0.2m/g)を有するLiCoOは、依然として高速であるが、低い表面積を有するLiNi1/2Mn1/2系物質は必ずしもそうではない。このような現象は、低いリチウム拡散速度と明らかな関連性がある。従来のLiNi1/2Mn1/2系物質を最適化させるための試みは、主として広いBET表面積を提供するために行われ、その結果、短い拡散距離と優れた動作性が得られた。しかし、このような試みにより十分に高い圧力密度を有する物質が得られ難く、その結果、電極密度が不十分である。さらに、リチウム拡散速度を高めるためにコバルトの化学量論を高めるための試みがなされている。ところが、前記物質は、例えば、コバルトの化学量論を減らすことにより、安価に保持されることが好ましい。Coの含量が低くて最適化された正極物質は遷移金属の勾配(緩やかな含量変化)を有するが、後述するように、粒子の外側にいくほどコバルトの組成が増す。このような物質は、表面、外部バルク及び内部バルクにおいて相異なる遷移金属の組成M1,M2及びM3を有する。内部バルクと外部バルクにおいて前記コバルトとマンガン及びニッケルの化学量論は少なくとも10%、好ましくは、少なくとも15%の差異がある。
【0039】
粒子の外側では、リチウムの輸送速度が良好であることが好ましい。粒子の内部ではLiイオンの流動密度が低いため、粒子の内部では輸送速度が低くても別に問題にならない(繰り返し使用(充放電)中にリチウムの輸送速度は表面から内部に入るほど低くなり、中心点では0となる)。もし、コバルトの含量を低く保持したいならば、コバルトの組成に勾配(緩やかな含量変化)を持たせることが好ましい。このとき、外部バルクでは、リチウムの移動性を高めるためにコバルトを大量とし、内部バルクではコバルトを少量とする。このような粒子は、低い平均コバルトの化学量論と高い効率のリチウムの輸送速度の要求との間で最適化されて折衷されたものであるといえる。このような物質において粒子の有効な拡散定数は、同じ平均組成を有する均一な粒子の拡散定数よりも大きい。
LiNi1/2Mn1/2系物質はLiCoOよりも低い電子伝導性を有する。電池中で優れた効率を保持し、且つ、極性を低い状態に保持するためには、電極を横切って電子伝導性が良好である必要がある。電極の伝導性は、電極にカーボンブラックなどの導電性添加剤を加えることにより高められる。工程上のコストを下げ、高い体積密度を取得可能にし、多孔性の構造に電解質を十分に充填するために(液体上で電極を横切ってリチウムを早く輸送するために)、前記カーボン添加剤の量はできる限り低く抑えることが好ましい。伝導性が低いためにLiNi1/2Mn1/2系物質は大量の伝導性添加剤を必要とし、最適化されていない電極の製造過程に対してより敏感である。前記電子伝導性は、前記コバルトの化学量論を高めることにより高められる。
【0040】
粒子の外部バルクは、良好な電子伝導性を有することが好ましい。内部バルクでは、電子伝導性が低くても問題にならない。もし、コバルトの含量を低く保持したいならば、コバルトの含量に勾配(緩やかな含量変化)を持たせることが好ましい。このとき、外部バルクではコバルトの量を増やし、内部バルクではコバルトの量を減らす。このような物質は低い平均コバルトの化学量論と高い効率の電子伝導性との間の最適化された折衷方法であるといえる。
【0041】
最適の正極物質は等方性の2次粒子よりなる。これは、コートの段階で粉末の工程を単純化させ、等方性の粒子は高密度でかつ多孔性の配列に優れた電極を提供する。その結果、電極を横切って液体上においてリチウムを早く輸送可能となる(電解質におけるリチウムの輸送速度は、固相における速度より一層高速である)。低いコバルト含量を有する正極物質は、好ましくは、リチウムを粒子の内部に早く輸送できる開放された空隙を有する。一方、多孔性が高い場合には、体積エネルギー密度を下げるために好ましくない。
【0042】
密度が高い初期微粒子が焼成された集塊よりなる多孔性の2次粒子の場合、それが多孔性に勾配(緩やかな変化)を有するが、外部では多孔性が高く、内部では多孔性が低いことが好ましい。開放された空隙は、細孔を満たしている液体において、リチウムの粒子への早い拡散を可能にする。外部から内部に進むほどリチウムの伝送速度が落ちるため、外部では最大の多孔性が要求され、内部では最少の多孔性が要求される。本発明者は、混合されたNi1/2Mn1/2水酸化物の共沈殿は低い多孔性の水酸化物を提供するのに対し、コバルト含有混合(Ni1/2Mn1/21−xCo水酸化物は高い多孔性を有する粒子を提供するということを知見した。このため、密度がより高くてコバルトの化学量論が少ない粒子をシードとして働かせ、これを高い多孔性を有すると共にコバルトの化学量論がより大きな層により塗布する沈殿反応によって、多孔性においていも所望の勾配(緩やかな変化)が得られる。通常、焼成を行う間に前記勾配は減るが、基本的には前記勾配が保持される。
【0043】
リチウムの移動性、電子伝導性及び多孔性は遷移金属の組成にあまり影響されない。このため、内部バルクと外部バルクにおいてマンガンとニッケル及びコバルトの化学量論が少なくとも10%、好ましくは、少なくとも15%の変化により完全に最適化された正極を得ることができる。
【0044】
LiCoOは、リチウムイオンの移動性が高いというメリットがある。大きくて高密度の粒子よりなる粉末も十分な動作性及び高い粉末密度を示し、Li/Liに対する高電位においてLiCoOは安全性に乏しく、繰り返し使用による安定性が落ちるのに対し、LiNi1/2Mn1/2系物質はより安全である。安全性は、様々な発熱反応が関与された極めて複雑な問題である。酷い場合、連鎖的な発熱反応は熱を放出する原因となって電池の爆発を招く可能性がある。重要な発熱反応の一つは、電解質の酸化である。これは、温度が僅かに上がった状態で正極物質の表面で発生する。発熱反応のうち重要な他の一つは、高温で起こる脱リチウム化正極の崩壊である。
【0045】
動作性が最適化されたコバルトに富む正極物質は、コバルトの化学量論において勾配(緩やかな変化)を有する。高速の作動効率を得るためには、内部バルクにおける高いCoの化学量論が求められる。バルクの組成は、100%のLiCoOまたはドープLiCoO(例えば、LiCo0.9Mn0.05Ni0.05)が可能である。ドープLiCoOは、前記崩壊反応に対する安定性が要される場合に好ましい。外部バルクではコバルトの組成が低いが、これは、電解質の酸化反応に対する安定性の点から好ましく、高い安全性が得られる。また、外部バルクが崩壊に対する安定性に優れている場合、電解質の酸化が始まった後、発熱反応が粒子のバルク内部に連続的に進む速度は低くなる。
【0046】
コバルトの化学量論が減るに伴い、安全性が高まる。このため、完全に最適化された正極を得るために、内部バルクと外部バルクにおいてマンガンとニッケル及びコバルトの化学量論が少なくとも10%、好ましくは、少なくとも15%ほどに変わる必要がある。
【0047】
外部バルクと内部バルクにおける化学量論の差異に加えて、粒子の表面もまた変形可能であるが、たとえば、従来公知のコート方法によりAl,Cr3+,MgTi,Mnなどのさらなるドーパントを表面近くの領域に導入することにより表面が変形可能である。このような方法により電解質の酸化反応に対するより低い触媒活性が得られ、その結果、安全性と繰り返し安定性を一層高められる。
【0048】
本発明はさらなる最適化特性を提供する。繰り返し使用中に電解質の分解産物によりインピーダンス層が形成できる。このインピーダンス層の形成は、表面積が小さいときに一層激しくなる。このため、内部バルクに多孔性を導入せず、表面近くのモルフォロジを変えることにより広い表面を得ることが好ましい。より好ましい典型的な粒子は、LiCoOの組成に近い高密度の内部バルクを有することができる。外部バルクはコバルトの勾配を有するが、外部バルクの外部領域は低いコバルトの化学量論を有し、またこれは、かなり粗い表面を有する。
【0049】
内部バルクと外部バルクとの間に遷移金属の組成が異なる物質を得ることはしばしば他のメリットをもたらすが、これは、均一な組成の物質によりは得られないものである。バルクにおける組成が結晶格子定数の組み合わせであるahex及びchexに対応し、外部バルクの組成が上記とは異なる定数a’hex及びc’hexに対応していれば、結晶学的なストレインの放射状場が生じる。焼成中にこのようなストレインは外部バルクにおいて好適な偏向や配向の原因になることがある。前記結晶の構造が層状であれば、前記層は表面に直交する方向に配向でき、これにより、良好な動作性及び粒子の崩れに対する対応力が得られる。前記層が依然として等方性に配列されていても、前記ストレインは層間距離をやや広げることができ、リチウムイオンを高速にて拡散できるため、動作性を高める原因となる。
【0050】
以下、内部バルクと外部バルクにおけるコバルト、ニッケル及びマンガンの化学量論の“激しい変化”について定義する。粒子は、バルクと表面よりなる。表面は粒子の最外郭領域であって、最大の厚さが約10−20nmである。本発明におけるバルクは、外部バルクと内部バルクに分けられる。内部バルクは典型的な粒子の内部領域であり、外部バルクは前記内部バルクを取り囲んでいる領域であって、表面まで延びる部分である。内部バルクは、バルク内部のコバルト、マンガン及びニッケル正イオンの総数の50%を含んでおり、外部バルクは、前記コバルト、マンガン及びニッケル正イオン数の残りの50%を含んでいると定義することが好ましい。
本発明における化学量論の激しい変化とは、外部バルクと内部バルクにおけるマンガン、ニッケル及びコバルトの平均化学量論が異なるということを表わす。より正確には、空間上における化学量論の変化が激しいことを意味するが、外部バルクと内部バルクにおけるマンガン、ニッケル及びコバルトの平均化学量論の差異をバルク全体の平均化学量論で割ったとき、10%を超えるか、好ましくは、15%を超えることを意味する。
【0051】
外部バルクにおける遷移金属の平均組成が、例えば、Ni1/3Mn1/3Co1/3であり、内部バルクにおける遷移金属の平均組成が、例えば、Ni0.4Mn0.4Co0.2であれば、化学量論にかなりの差異があると言える。前記コバルトの化学量論には50%の差異がある。つまり、(1/3−0.2)/(0.5(1/3+0.2))=0.5である。そして、前記ニッケルとマンガンの化学量論には18%の差異がある。つまり、(0.4−1/3)/(0.5(0.4+1/3))=2/11=0.181である。
例えば、もし、Mn1/2Ni1/2を含む沈殿物がLiCoO粒子の表面に沈殿され、全ての沈殿物が外部バルク内にのみ存在する場合、コバルトの化学量論を十分に変化させるためには、1モルのコバルトに対して少なくとも1/9モルのMn1/2Ni1/2が沈殿される必要がなる:(内部では5/9モル以上(5/9モル)のコバルトを含み、外部では1/18モル以上(1/18モル)のマンガン、1/18モル以上(1/18モル)のニッケル及び4/9モル以下(4/9)のコバルトを含む。コバルトの平均濃度(化学量論)は、0.9以下(0.9)である。このため、N1/9であり、A0.9である。この場合、コバルトに対するN/A値は(1/9)/0.90.1である。マンガンとニッケルに対する前記値は0.1よりもはるかに高い。)
バルクを内部バルクと外部バルクに分けることは類似しているが、次の方式により規定可能である。内部バルクと外部バルクは、それぞれ全体的な遷移金属(マンガン、ニッケル及びコバルト)正イオンの数の1/2ずつを含む。内部バルクは、粒子と同じ形状を有する。多孔性粒子の場合、粒子の形状は適宜な平均表面により定められる。また、内部バルクと粒子の質量中心は一致する。
【0052】
全体的な化学量論の差異が10%、好ましくは、15%を超えるようにする要件は、下記のように公式化できる:正数Nは、それぞれの構成成分iに対する内部バルクと外部バルクのそれぞれの領域における平均区域濃度Cの差異を表わす。Aは、各構成成分iの全体バルクにおける平均濃度を示す。{Co,Mn,Ni}から選ばれた全てのiに対して前記N/A値が0.1を超えるとき、化学量論に激しい変化があると言われる。
【数1】

ここで、全てのi={Co,Mn,Ni}である。
【0053】
遷移金属の化学量論が空間上において変わる動作性が最適化された本発明の正極物質を製造するに当たり、相異なる単一の正イオン含有前駆体から単純な固相反応により正極物質を得る方法は、通常、空間上における遷移金属の組成変化を所望のままに達成できないために好ましくない。
【0054】
その代わりに、3段階反応を経て前記物質を得ることができる。沈殿反応により遷移金属の化学量論が空間上において変わる初期物質を含むスラリーを得ることができる。この物質は第2反応中に前駆体として使われるが、化学量論の空間的な変化がほぼ類似している前駆物質を得るために、実質的なイオン交換反応後に乾燥を行う。第3反応はリチウム供給源と前記前駆体物質の固相反応であって、焼成に続く。
【0055】
最終的なリチウム遷移金属酸化物は、好ましくは、遷移金属の化学量論が緩やかに変わる。前駆物質では、遷移金属の化学量論が放射状に緩やかに変わる必要はない。外部バルクと内部バルクの遷移金属の組成間に固溶体が存在すれば良い。好適な焼成温度の選択により遷移金属の化学量論は緩和され、化学量論において目的とする十分でかつ緩やかな変化が得られる。
【0056】
ここで、好適な前駆体としては、混合水酸化物、混合オキソヒドロキシド、混合カーボネート、混合カーボネート水酸化物、または混合遷移金属酸化物がある。これらは内部バルクと外部バルクにおいて遷移金属となるマンガン、ニッケル及びコバルトの組成にかなりの差異があるという特徴がある。
【0057】
前駆体物質を得るために使われる初期物質の粒子は、遷移金属の化学量論の空間的な変化面で前駆体物質とまったく同じであるか、ほぼ同じである。初期物質には混合された水酸化物、オキソヒドロキシド、カーボネート、またはカーボネート水酸化物がある。これらはまた複合物質でありうるが、例えば、粒子の中心は混合酸化物よりなり、その周りは混合水酸化物または混合カーボネートの厚膜層により取り囲まれている可能性がある。これらは内部バルクと外部バルクにおいて遷移金属となるマンガン、ニッケル及びコバルトの組成にかなりの差異があるという特徴がある。前記初期物質は硫黄酸塩、塩化物、フッ化物、ナトリウムまたはカリウムのイオンをさらに含みうる。
【0058】
前記初期物質は沈殿反応により得られる。従来の文献に記載の公知のゾル−ゲル過程によるコート方法を適用することは好ましくない。これは、かなりのコストがかかるためである。ゲルにおける遷移金属の濃度は、沈殿された水酸化物またはカーボネートの場合よりも低い。水酸化物またはカーボネートにより形成されたコンパクトな厚膜層は、遷移金属の化学量論の空間上における激しい変化を引き起こすことができる。同じ厚さのゲル層による場合に比べて少量の遷移金属がコートされ、元の粒子の遷移金属に対して外部バルクと内部バルクにおける平均化学量論の差異は、10−15% 未満である。一方、十分な厚さを有すると共に、力学的に安定的なゲル層が得られ難い。
【0059】
共沈殿反応により、遷移金属の組成が空間的に激しい変化を有する初期物質が得られる。典型的な初期物質は3−30μmの範囲で狭いか広い粒径分布を有する粒子よりなる。前記組成及び形状は沈殿条件を正確に調節することにより可変にできるが、例えば、pH、温度、流速、濃度、組成、複合体形成添加剤、イオン添加剤、還元添加剤、厚膜化、反応器の体積、または反応器の設計により可変にできる。
【0060】
沈殿反応中に、遷移金属の組成がM2である溶解された遷移金属の塩(例えば、 金属硫黄物)を含む少なくとも一つの流れ及び溶解された負イオン(例えば、 OHまたはCO2−)を含む流れが反応器に流入する。前記反応器は、平均遷移金属の組成がM1である粒子よりなるスラリーを含む。立派に設計されている沈殿反応中には、過飽和度があまり高くない。既存のM1組成を有する粒子はシードとして働いて徐々に成長する。実際には、新規な粒子が形成されることはない。前記粒子は遷移金属の組成がM2である沈殿物層により塗布される。好ましくない新規シードの形成を避けながらも厚いコート層を形成することは、前記沈殿反応が少なくとも約10分間徐々に行われるときに可能になる。約1分以内に終わる短時間の反応によりは沈殿物層が厚く成長できず、シード粒子の表面にのみ沈殿物層が生成されてしまう。初期物質の化学量論の空間的な変化は、反応器に供給される遷移金属の組成M2がシード粒子の遷移金属平均組成であるM1と大差あるときに可能となる。
【0061】
前記反応器は単一の反応容器よりなるが、互いに接続されている1以上の反応容器よりなっても良い。前記沈殿反応は30℃未満(<30℃)の実温で行われるが、より高温である30−60℃または60℃を超(> 60℃)える温度で行われても良い。低温では、SO,Cl,F,NaまたはKなどのイオン含量が多い初期物質が得られる。前記沈殿反応は1段階よりなるが、いくつかの段階よりなっても良い。好ましくは、“厚膜化”段階(きれいなアルカリ塩溶液を例えば、ろ過により除去する)を含むいくつかの沈殿段階を含む。一方、前記沈殿は半連続的にまたは溶液を厚くすると共に連続して行われうる。
【0062】
沈殿反応後に、実質的に初期物質に存在するさらなる負イオンの量または組成を調整することが好ましい。これは、イオン交換反応により行われる。混合水酸化物では、例えば、SO2−負イオンの一部または全部はClまたはF負イオン、またはCO2−イオンまたはOH負イオンに置換可能である。初期物質を溶液から分離した後、洗浄及び乾燥を行うことが好ましい。前記乾燥は、熱処理と共に行っても良い。その結果、前記初期物質は前駆物質に変わる。典型的な前駆物質は遷移金属のオキソヒドロキシド、カーボネート、オキソカーボネートまたは酸化物である。これらは硫黄物、塩化物、フルオロ化物、ナトリウムまたはカリウムのイオンなどさらなるイオンを含むことができる。前記前駆体物質は前記初期物質と同じモルフォロジ及び同じ遷移金属組成の勾配(緩やかな変化)を有する。
【0063】
最後に、リチウム供給源物質を前記前駆物質と反応させ、正極物質を高密度化させるための焼成によりリチウム遷移金属酸化物が得られる。焼成中に前記前駆物質の形状はやや変わる。前記焼成温度は、遷移金属の化学量論の空間的な変化が保持可能に十分に低い必要がある。前記温度が高過ぎて焼成時間が長過ぎると、遷移金属の化学量論の勾配はなくなる。
【0064】
焼成による高密度化は、高い圧力密度を有する正極粉末を得る上で必須である。前記密度が十分でなければ、電池は体積エネルギー密度が低くなる。前記高密度化は、表面張力の差異により引き起こされる正イオンと負イオンの拡散性移動により起こる。リチウム(及び酸素と予想される)は早く拡散され、遷移金属などの正イオン及びAlまたはMnなどの他のドーパントの拡散は遅い。また、金属の化学量論の勾配(緩やかな変化)を緩和させる拡散は遅く行われる。後者の場合、2次粒子の半径に相当する拡散距離分の拡散(移動)が必要である。これに対し、粒子の高密度化を引き起こす工程では、空隙の直径に相当する拡散距離を有する。第1拡散距離は、第2拡散距離の少なくとも10倍に該当するため、前記第1工程の典型的な緩和時間は(同じ駆動力を想定したとき)100倍ほど遅い。これにより、金属の化学量論の勾配は部分的に僅かに減らしつつ、粒子を高密度化させることが可能になる。
【0065】
溶融塩を焼成剤(好ましくは、その場で形成されたもの)として用いることは、焼成過程中に勾配の緩和をさらに促す。焼成補助剤(好ましくは、溶融可能な塩)は、溶融塩と固体との間の境界面に平行な領域近くで早い拡散を可能にする上で有効である。しかしながら、これは、高密度化は誘導するとはいえ、バルクの拡散を促さないため、化学量論の緩やかな変化(勾配)を保持できる。これはまた焼成温度を下げることができ、その結果、コストが下がる。
【0066】
焼成剤として働く溶融可能な塩は、反応段階前にさらなる塩を加えることにより得られる。前記塩は、最終的なリチウム遷移金属酸化物と接触して共存するために高い熱力学的な安定性が望まれる。一方、溶融可能な塩の組成及び濃度は、前駆物質に存在するイオンにより変形可能である。負イオン性または正イオン性不純物(硫黄物またはナトリウムなど)が化学反応を起こして熱力学的に安定した塩に変わる場合があり、これらは焼成補助剤として働く。このような方法により前記さらなる負イオンまたは正イオンは溶融可能に変わり、焼成後の洗浄により除去可能となる。焼成は前記塩の溶融点近くの温度またはそれ以上の温度で行われる。
【0067】
前記最終的な物質は、好ましくは、リチウム充電池の正極物質として使われる動作性が最適化されたリチウム遷移金属酸化物に適用可能である。しかし、適用例がこれらに限定されることはない。適用可能なさらなる例としては、アルカライン充電池の正極として使われる混合水酸化物、スーパーキャパシタの電極として適用可能な混合酸化物またはカーボネート、触媒などがある。適用可能な例について説明する。アルカライン充電池は、Ni(OH)系の正極を使用する。マンガンは安価で、且つ、原則的にMn−Ni系の水酸化物は動作性に優れているが、pHが高い場合に電解質に溶解される傾向がある。そのため、例えば、内部バルクの組成をM(OH)(M=Mn1/2Ni1/2)とし、表面をM(OH)[ここで、MはCo]により保護して前記マンガンが溶解されることを防止することにより、最適化された正極が得られる。
【0068】
スーパーキャパシタ及び触媒では、表面積が広い電極が要される。極めて広い表面積を有する多孔性の遷移金属酸化物は、比較的に緩やかな熱処理を施すことにより混合水酸化物またはカーボネートから得られる。リチウム電池の正極と同様に、スーパーキャパシタの電極物質粒子においても、内部バルク、外部バルク及び表面から要される多孔性と電気伝導性が相異なる。動作性が最適化された正極物質は極めて微細な開放性多孔を有する混合酸化物またはリチウム金属酸化物でありうるが、これは50−100 m/gの表面積を有し、内部バルクと外部バルクにおいてかなり異なる遷移金属組成を有する。
【0069】
以下、実施例を挙げて本発明を一層詳細に説明する。
【0070】
0.シードの製造
実施例0.1:
沈殿反応が行われた。
NaOH及びMSO(M=Mn1/2Ni1/2)を攪拌しつつ沈殿容器に流し込んだ。温度は90℃であった。pHは約9.2−9.4に保持された(50℃で測定)。50分後に反応器が満たされた。
15分後に固体粒子ときれいな液体が分離された。約60%のNaSO溶液が除去され、第2の沈殿反応が行われた。
前記得られたスラリーは次の沈殿反応時にシードとして使用可能である。一方、このスラリーはろ過、乾燥及び変形を順次に経て今後の沈殿反応時にシードとして使用可能なMOOH, MOまたはLiMOとなりうる。
前記沈殿された混合水酸化物を調べるために、スラリーの一部はろ過され、水により洗浄された後、LiOH溶液において平衡(約1%のSOを除去するために)にした。次いで、ろ過及び洗浄された後に180℃で乾燥された。
図1は、前記得られたシードのFESEMマイクロ写真である。前記粒子はコンパクトであり、所定の気孔を有する。
【0071】
実施例0.2:
沈殿反応が行われた。
2モルのNaCO及び2モルのMSO(M=(Mn1/2Ni1/25/6Co1/6)を攪拌しつつ沈殿容器に流し込んだ。NaCOの流速がMSOの流速よりも10%高かった。温度は180℃であった。30分後に反応器が満たされた。
15分後に固体粒子ときれいな液体が分離された。約70%のNaSO溶液が除去され、次いで、第2の沈殿反応が行われた。
前記得られたスラリーは 次の沈殿反応時にシードとして使用可能である。一方、このスラリーはろ過、乾燥及び変形を順次に経て今後の沈殿反応時にシードとして使用可能なMCO, MOまたはLiMOとなりうる。
前記沈殿された混合カーボネートを調べるために、スラリーの一部はろ過され、水により洗浄された後、ろ過され、180℃で乾燥された。
図2は、前記得られたシードのSEMマイクロ写真である。前記粒子はコンパクトであり、低い気孔性を有する。
【0072】
実施例0.3:
商用LiCoOの試料を用意した。これらの試料は高密度の単一粒子よりなり、初期物質の集塊よりなるものではない。図3は、前記商用粉末のFESEMマイクロ写真である。
2gの試料を40mlのHOに入れた後のpHは10.8であった。
【0073】
実施例0.4:
商用LiMO(M=Mn0.4Ni0.4Co0.2)を用意した。
【0074】
実施例0.5:
前記実施例0.1の方法と同様に、混合水酸化物を沈殿させることによりLi(Co0.8Mn0.1Ni0.1)O及びLi[Co2/3(Mn1/2Ni1/21/3]Oを製造し、LiOH溶液において平衡を行った。洗浄及び乾燥した後、前記水酸化物粉末をLiCOと混合し、固相反応を行った。
【0075】
1.初期物質の製造
実施例1.1
前記実施例0.1の方法と同様に、厚くなった実施例0.1のスラリーを沈殿反応時にシードとして使用した。但し、ここでは、遷移金属の流入はMSO[ここで、M=(Mn1/2Ni1/25/6Co1/6]による。厚膜化過程(NaSOの除去)を経た後、第2の沈殿を行った。
厚膜化過程後に第3及び第4の沈殿が同じ方法により行われた。但し、前記遷移金属の流入はMSO[ここで、M=(Mn1/3Ni1/3Co1/3)]に変わった。それぞれの第2の沈殿段階を経た後、少量の試料が試験のために除去された。これを洗浄して乾燥した後、その形状をSEMにより測定した。粒径の分布はレーザ回折により得られた。タップ密度を測定した。
EDSは、前記水酸化物が約1%の硫黄物を含んでいることを示す。前記SEM及びレーザ回折試験では、前記粒径が継続して成長されることが確認できる。多孔性の減少によりタップ密度が高くなる。実質的に新規な粒子の形成は見られない。
その結果、負イオンを含む混合遷移金属水酸化物の初期物質が得られたが、これは、バルクの内部と外部における遷移金属の化学量論にかなりの差異がある。
【0076】
実施例1.2
前記実施例0.2の方法と同様に、厚くなった実施例0.2のスラリーを沈殿反応に使用した。但し、ここでは、遷移金属の流入はMSO[ここで、M=(Mn1/2Ni1/25/6Co1/6]により行った。厚膜化過程(NaSOの除去)を経た後、第2の沈殿を行った。
次いで、厚膜化過程後に第3及び第4の沈殿が同じ方法により行われた。但し、遷移金属の流入はMSO[ここで、M=(Mn3/8Ni3/8Co1/4)に変わった。
厚膜化過程後に第5及び第6の沈殿が同様な方法により行われた。但し、遷移金属の流入はMSO[ここで、M=(Mn1/3Ni1/3Co1/3)に変わった。
最後に、第7の沈殿が同様な方法により行われた。但し、遷移金属の流入はCoSOに変わり、前記沈殿は5分間行われた。
それぞれの第2の製造段階を経た後、調査のために少量の試料が除去された。これを洗浄且つ乾燥した後、そのモルフォロジーをSEMにより測定した。粒径の分布はレーザ回折により得られた。タップ密度を測定した。
前記SEM及びレーザ回折試験より、前記粒径が継続して成長されることがわかった。実質的に新規な粒子の形成は見られなかった。前記初期の3回の沈殿により粒子における空隙が急減し、その結果、前記タップ密度が急増した。それ以降には、ほとんどそのまま保持された。ICPは混合カーボネートが約8%のナトリウムを含んでいることを示す。
その結果、正イオンを含む混合遷移金属水酸化物の初期物質が得られたが、これは、内部バルクと外部バルクとの間の遷移金属の化学量論にかなりの差異がある。
【0077】
実施例1.3.1
実施例0.3のLiCoOを沈殿反応中にシードとして用い、前記実施例0.1における方法と同様にして実施を行った。但し、NaOHに代えて4モルのLiOHを使用し、且つ、遷移金属の流入をMSO[ここで、M=(Mn1/2Ni1/25/6Co1/6]により行った。温度は60℃であった。
合計で2回の沈殿反応が行われ、途中で厚膜化過程が行われた。 沈殿されたM(OH)の全体的な化学量論量は、シードとして使われたLiCoOの20%である。その結果、初期物質が得られたとき、通常の粒子はLiCoOを核として有するが、これは、M(OH)[ここで、M=(Mn1/2Ni1/25/6Co1/6]による厚膜層により完全に塗布された。EDS及びICPはM(OH)が5%の硫黄酸塩を含んでいることを示す。
【0078】
実施例1.3.2
前記実施例0.1と同様に実施例0.3のLiCoOを沈殿反応中にシードとして使用した。但し、硫黄酸塩の流入時に遷移金属の組成はM=Mn1/2Ni1/2であった。
合計で2回の沈殿反応が行われ、途中で厚膜化過程が行われた。沈殿されたM(OH)の全体的な化学量論量はシードとして使われたLiCoOの25%である。その結果、初期物質が得られたとき、通常の粒子はLiCoOを核として有するが、これは、M(OH)[ここで、M=Mn1/2Ni1/2]による厚膜層により完全に塗布された。
【0079】
実施例1.3.3
前記実施例0.1と同様に実施例0.3のLiCoOを沈殿反応中にシードとして使用した。但し、遷移金属の流入はMSO[ここで、M=(Mn1/2Ni1/25/6Co1/6]により行った。温度は80℃であった。
合計で2回の沈殿反応が行われ、途中で厚膜化過程が行われた。沈殿されたMCOの全体的な化学量論量はシードとして使われたLiCoOの20%である。
その結果、初期物質が得られたとき、通常の粒子はLiCoOを核として有し、これは、混合遷移金属カーボネート系物質による厚膜層により完全に塗布された。ICPはカーボネート上には沈殿された遷移金属に対して8原子%のナトリウムを含んでいることを示す。
【0080】
実施例1.3.4
前記実施例0.1と同様に実施例0.3のLiCoOを沈殿反応中にシードとして使用した。但し、遷移金属の流入はMSO[ここで、M=(Mn5/8Ni3/8)]により行った。温度は950℃であった。
一回の沈殿反応が行われた。沈殿されたMCOの全体的な化学量論量は、シードとして使われたLiCoOの11%である。
その結果、初期物質が得られたとき、通常の粒子はLiCoOを核として有し、これは、混合遷移金属カーボネート系物質による厚膜層により完全に塗布された。
【0081】
実施例1.4.1
前記実施例0.1と同様に実施例0.4のLiMOを沈殿反応中にシードとして使用した。但し、ここで、pHは11であり、温度は約60℃であり、遷移金属の流入はCoSOにより行った。また、1モルの沈殿されたM(OH)に対して1モルの硫黄酸アンモニウムが加えられた。
合計で2回の沈殿反応が行われ、途中で厚膜化過程が行われた。 沈殿されたCo(OH)の全体的な化学量論量はシードとして使われたLiMOの20%である。
その結果、初期物質が得られたとき、通常の粒子はLiMO[ここで、M=(Mn1/2Ni1/25/6Co1/6]を核として有するが、これは、コバルト水酸化物の厚膜層により完全に塗布された。
【0082】
実施例1.4.2
前記実施例0.1に記載と同様に実施例0.4のLiMOを沈殿反応中のシードとして使用した。但し、ここで、遷移金属の流入はCo2/3Mn1/6Ni1/6SOにより行った。また、硫黄酸アンモニウムは使用されなかった。
【0083】
実施例1.5
LiCoOに代えて実施例0.5のLiMO粉末を使用した以外は、実施例1.3.2の方法と同様にして実施を行った。
その結果、初期物質が得られたとき、通常の粒子はそれぞれLi[Co0.8Mn0.1Ni0.1]OとLi[Co2/3(Mn1/2Ni1/21/3]Oを核として有するが、これらは、遷移金属水酸化物M(OH)[ここで、M=Mn1/2Ni1/2]による厚膜層により完全に塗布された。
【0084】
実施例1.6
負イオンまたは正イオンをさらに含む流量を沈殿反応が行われる間に沈殿器に注入することにより初期物質の組成を調整することができる。
水酸化物の沈殿物にClまたはFを加えることによりClまたはFを含む混合水酸化物を得ることができる。
水酸化物沈殿物の温度を下げることにより、前記SOの含量が高くなる。
カーボネート沈殿物の流速を変えることにより初期物質中のナトリウムの含量を減らすことができ、硫黄酸塩の含量を高めることができる。
【0085】
2.前駆物質の製造
実施例2.1
実施例1.1による初期物質は、イオン交換により変形される。NaOH溶液におけるイオン交換により硫黄酸塩不純物が除去される。前記イオン交換反応は、NaOH:SOの割合が10:1である条件下で50℃で3時間行われた。イオン交換反応後に前記初期物質を洗浄し、ろ過し、且つ180℃で乾燥した。
このような処理後に、主組成がMOOHである混合オキソヒドロキシド前駆物質を得た。ここで、内部バルクと外部バルクとの間の遷移金属の組成は大きくなる。
【0086】
実施例2.2
実施例1.2による初期物質を洗浄し、ろ過し、且つ180℃で乾燥した。その結果、遷移金属カーボネート系の前駆物質が得られた。ここで、内部バルクと外部バルクとの間の遷移金属の組成は大きくなる。
【0087】
実施例2.3.1
実施例1.3.1による初期物質をLiOH溶液中でイオン交換反応させて硫黄酸塩不純物を除去した。これを洗浄し、ろ過し、且つ、180℃で乾燥した。
SEM+EDS、ICP、粒径の分析、FESEMによる分析試験の結果、得られた前駆物質はLiCoOを核として有するが、これは、MOOH[ここで、M=(Mn1/2Ni1/25/6Co1/6]による厚膜層により完全に塗布された。
図4は、典型的な粒子のFESEMマイクロ写真を示す。
【0088】
実施例2.3.2
実施例1.3.2による初期物質を、LiOH溶液中でイオン交換反応させて硫黄酸塩不純物を除去した。これを洗浄し、ろ過し、且つ、180℃で乾燥した。
SEM+EDS、粒径の分析、FESEMによる分析試験を行った結果、得られた前駆物質はLiCoOを核として有するが、これはMOOH[ここで、M=Mn1/2Ni1/2]による厚膜層により完全に塗布された。
図5は、典型的な粒子のFESEMマイクロ写真を示す。
【0089】
実施例2.3.3
実施例1.3.3による初期物質を洗浄し、ろ過し、且つ180℃で乾燥した。
SEM+EDS、粒径の分析、FESEMによる分析試験を行った結果、得られた前駆物質はLiCoOを核として有するが、これは、MCO系物質による厚膜層により完全に塗布された。前記MCO系物質は、沈殿された遷移金属に対して約8%のナトリウムを含む。
図6は、典型的なFESEMマイクロ写真を示す。
【0090】
実施例2.3.4
実施例1.3.2による初期物質をLiOH溶液中でイオン交換反応させて硫黄酸塩不純物を除去した。これを洗浄し、ろ過し、且つ、180℃で乾燥した。
SEM+EDS、粒径の分析、FESEMによる分析試験の結果、得られた前駆物質はLiCoOを核として有するが、これは、MOOH[ここで、M=Mn1/2Ni1/2]による厚膜層により完全に塗布された。前記得られた層は前記実施例2.3.1に従い得られたものより一層高密度である。
図7は、典型的な粒子のFESEMマイクロ写真を示す。
【0091】
実施例2.4.1
実施例1.4.1による初期物質を洗浄した後、ろ過し、180℃で乾燥した。その結果、前駆物質が得られたが、LiMO[ここで、M=Mn0.4Ni0.4Co0.2]を核として有する。これは、コバルトオキソハイドライドによる多孔性層により塗布された。
【0092】
実施例2.4.2
実施例1.4.2による初期物質を洗浄した後、ろ過し、180℃で乾燥した。その結果、前駆物質が得られたが、これは、LiMO[ここで、M=Mn0.4Ni0.4Co0.2]を核として有し、M’=Co2/3Mn1/6Ni1/6であるオキソハイドライドによる多孔性層により塗布された。
【0093】
実施例2.5
実施例1.3.1による初期物質をLiOH溶液中でイオン交換反応させて硫黄酸塩不純物を除去した。これを洗浄し、ろ過し、且つ、180℃で乾燥した。
その結果、前駆物質が得られたが、これは、それぞれLi[Co0.8Mn0.1Ni0.1]O及びLi[Co2/3(Mn1/2Ni1/21/3]Oの組成を有する核を有し、これらは遷移金属の組成がM=Mn1/2Ni1/2であるオキソハイドライドの厚膜層により完全に塗布された。
【0094】
3.リチウム遷移金属酸化物正極物質の製造
実施例3.1
実施例2.1の前駆物質をLiCOとLi:M=1.15:1の割合で混合し、焼成に続く固相反応を850℃で15時間行った。より高い焼成温度では遷移金属の化学量論の空間的な変化が激しくて緩和されると見込まれる。
その結果、層状結晶構造を有し、遷移金属の化学量論が空間的に変わるリチウム遷移金属酸化物が得られた。
【0095】
実施例3.2
実施例2.2の前駆物質をLiCOと混合(Li:M=1.05:1の割合)し、さらに1モルのNa不純物に対して0.6モルのLiSOを加えた。900℃で12時間固相反応を行った後に洗浄し、さらに800℃で第2次熱処理を行った。
前記固相反応を行う間に、前記LiSOは前記ナトリウム不純物と反応する。X線回折によれば、前記得られる結果物は、LiNaSOであることが分かる。前記塩は焼成剤として働くが、これは、洗浄により除去可能である。
その結果、層状結晶構造を有し、結晶が極めて大きく、遷移金属の化学量論が空間的に変わるリチウム遷移金属酸化物が得られた。
【0096】
実施例3.3.1
実施例2.3.1の前駆物質をLiCOと混合(50gの前駆体当たり2.7gのLiCO)した。12時間固相反応を行ったが、焼成温度はそれぞれ900℃(試料3.3.1A)及び850℃(試料3.3.1B)であった。
その結果、層状結晶構造を有し、遷移金属の化学量論が空間的に変わるリチウム遷移金属酸化物が得られた。より低温で焼成された試料Bは化学量論の変化だけではなく、外部バルクのモルフォロジ(低い多孔性を示す)は内部バルクのモルフォロジ(高密度の構造)と差異があった。図8A及び8Bは、前記試料3.3.1A及び3.3.1Bの典型的な粒子に対するFESEMマイクロ写真を示す。
EDS定量元素分析が行われた。X線回折パターンが得られた。リートベルト精製が行われた。格子定数と単位セル体積が計算された。Li[Li(Mn1/2Ni1/21−yCo]Oにおいて組成に対する関数としての単位細胞体積に関するデータは、前記遷移金属の化学量論を評価するために使われた。結晶構造の分析結果は、定量的なEDS元素分析の結果と一致している。構造分析の結果、LiMOが得られ、ここで、内部バルクにおける遷移金属の化学量論は、外部バルクにおける遷移金属の化学量論と大差あるということが分かる。
前記外部バルクは主としてLiMO[ここで、M=(Mn1/2Ni1/21−yCo]を含んでいるが、前記yの分布は平均的に約y≡0.4(試料3.3.1A)及び約y≡0.6(試料3.3.2)と同じである。内部バルクはLiCoOが主相である。
2gの試料を40mlのHOに浸漬したときのpHは9.2である。
図9は、正極物質3.3.1Bの電気化学的な充放電を繰り返した結果を示す。負極としてLi−金属が使われた。その結果、優れた電気化学的な特性が得られた。
【0097】
実施例3.3.2
実施例2.3.2の前駆物質をLiCOと混合(33.3gの前駆体当たり2.35gのLiCO)した。12時間固相反応を行ったが、焼成温度は試料3.3.2Aでは900℃、試料3.3.2Bでは850℃であった。
その結果、層状結晶構造を有し、遷移金属の化学量論が空間的に変わるリチウム遷移金属酸化物が得られた。図10A及び10Bは、前記粒子の典型的なFESEMマイクロ写真を示す。950℃ではコンパクトな粒子が得られ、850℃では外部バルクが所定の多孔性特性を示す。
EDS定量元素分析が行われた。その結果、外部バルクにおける遷移金属の組成は内部バルクにおける遷移金属の組成と大差あることが確認された。
【0098】
実施例3.3.3
実施例2.3.3の前駆物質をLiCO3及びLiSOと混合(50gの前駆体当たり3.88gのLiCO及び0.37gのLiSO)した。10時間固相反応を行ったが、焼成温度は850℃であった。X線試験を行った結果、前記反応中に存在するLi−Na−SOが焼成剤として働くということが分かった。試料を洗浄してナトリウムと硫黄酸塩不純物を除去した。次いで、850℃で3時間第2次熱処理を行った。
図11は、前記粒子の典型的なFESEMマイクロ写真を示す。粒子はぎっしりな構造のコンパクト状であり、粉末の密度が高かった。図12は、電気化学的な試験結果を示す。EDS定量元素分析が行われた。その結果、外部バルクにおける遷移金属の組成は内部バルクにおける遷移金属の組成と大差あることが確認された。
【0099】
実施例3.3.5
実施例2.3.4の前駆物質をLiCOと混合した。10gの前駆体に5.2gのLiCOが加えられた。10時間固相反応を行い、このときの焼成温度は900℃であった。
【0100】
実施例3.4.1
実施例2.4.1の前駆物質をLiCOと混合(1モルの沈殿済みCo当たり0.53モルのLiCO)した。12時間固相反応を行い、このときの焼成温度は900℃であった。その結果、層状結晶構造を有し、遷移金属の化学量論が空間的に変わるリチウム遷移金属酸化物が得られた。
【0101】
実施例3.4.2
実施例2.4.2の前駆物質をLiCOと混合(1モルの沈殿済みCo当たり0.53モルのLiCO)した。12時間固相反応を行い、このときの焼成温度は900℃であった。その結果、層状結晶構造を有し、遷移金属の化学量論が空間的に変わるリチウム遷移金属酸化物が得られた。
【0102】
実施例3.5
実施例2.5の前駆物質をLiCOと混合(33.3gの前駆体当たり2.0gのLiCO)した。12時間固相反応を行い、このときの焼成温度は900℃であった。
その結果、層状結晶構造を有し、遷移金属の化学量論が空間的に変わるリチウム遷移金属酸化物が得られた。
【0103】
以上、本発明の実施例を挙げて詳細に説明したが、これらの実施例は単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を制限するためのものではない。すなわち、このような本発明の説明は具体的な例示を示すためのものであり、特許請求の範囲の原理範囲を限定するためのものではない。他の多数の例示、変形及び改良は本発明の技術分野において通常の知識を有するものにとって自明である。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明による、金属成分の組成が空間上において緩やかに変わるリチウム遷移金属酸化物は、リチウム充電池の電極物質として使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】図1は、実施例0.1による、MSOとNaOHの共沈殿により製造されたMOOH(M=Mn1/2Ni1/2)シード粒子のFESEMマイクロ写真を示す。
【図2】図2は、実施例0.2による、MSO とNaCOの共沈殿により製造されたMCO(M=(Mn1/2Ni1/25/6Co1/6)シード粒子のSEMマイクロ写真を示す。
【図3】図3は、商用LiCoOシードのFESEMマイクロ写真を示す。
【図4】図4は、実施例2.3.1の試料に対するFESEMであって、ここで、粒子は多孔性のMOOH[ここで、M=(Mn1/2Ni1/25/6Co1/6]の厚膜層によりコートされたLiCoOである。また、合計で0.2モルのMOOHが1モルのLiCoO表面にコートされている。
【図5】図5は、実施例2.3.2の試料に対するFESEMであって、ここで、粒子は多孔性のMOOH[ここで、M=Mn1/2Ni1/2]の厚膜層によりコートされたLiCoOである。また、合計で25%のMOOHがLiCoO表面にコートされている。
【図6】図6は、実施例2.3.3に従い製造されたMCOコート済みLiCoOのFESEMである。
【図7】図7は、実施例2.3.4に従い製造されたMOOH(M=Mn5/8Ni3/8)コート済みLiCoOのFESEM。
【図8】図8Aは、実施例3.3.1の典型的な粒子(試料 3.3.1A,850℃で焼成される)のFESEMマイクロ写真を示し、図8Bは、実施例3.3.1の典型的な粒子(試料3.3.1B、900℃で焼成される)のFESEMマイクロ写真を示す。
【図9】図9は、正極物質3.3.1Bの電気化学的な繰り返し試験(4.4−3V)結果を示すグラフである。
【図10】図10Aは、950℃で焼成された実施例3.3.2の典型的な粒子のFESEMマイクロ写真を示し、図10Bは、850℃で焼成された実施例3.3.2の典型的な粒子のFESEMマイクロ写真を示す。
【図11】図11は、850℃で焼成された実施例3.3.3の典型的な正極粒子のFESEMである。
【図12】図12は、実施例3.3.3の正極物質の電気化学的な繰り返し実験(4.4−3V)結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも85重量%の遷移金属と酸素とを含んでなる粉末状遷移金属化合物であって、
前記粉末が、遷移金属の化学量論の相当量の空間変化を有する粒子からなり、前記粒子の外部バルクにおける遷移金属の平均組成が、前記粒子の内部バルクにおける遷移金属の平均組成と少なくとも10%の差異を有してなり、
前記内部バルクが、前記粒子の遷移金属の総原子数の約50%を含有する前記粒子の中心周辺領域とされてなる、粉末状遷移金属化合物。
【請求項2】
遷移金属の平均組成がM=(Mn1−uNi1−y−zCo(上記式中、0.2<u<0.7及び0.1<y<0.9)であり、
前記外部バルクにおけるコバルト、マンガン及びニッケルとしての前記遷移金属の平均組成が、前記内部バルクにおける前記遷移金属の平均組成と少なくとも10%以上の差異があり、
前記内部バルクが、前記粒子のコバルト、マンガン及びニッケルの総原子数の約50%を含有する前記粒子の中心周辺領域とされてなる、請求項1に記載の粉末状遷移金属化合物。
【請求項3】
遷移金属の平均組成がM=(Mn1−uNi1−y−zCo(上記式中、0.4<u<0.65及び0.2<y<0.9)であり、
前記外部バルクにおけるコバルト、マンガン及びニッケルとしての前記遷移金属の平均組成が、前記内部バルクにおける前記遷移金属の平均組成と少なくとも15%以上の差異がある、請求項2に記載の粉末状遷移金属化合物。
【請求項4】
遷移金属の平均組成がM=(Mn1−uNi1−y−zCo(上記式中、0.4<u<0.65及び0.2<y<0.9)であり、
前記粉末が、前記粒子の前記バルク内のいずれにおいて、同じ結晶構造を有する粒子からなる、請求項2に記載の粉末状遷移金属化合物。
【請求項5】
遷移金属の平均組成がM=(Mn1−uNi1−y−zCo(上記式中、0.4<u<0.65及び0.2<y<0.9)であり、
内部バルクが、r−3mの空間群を有する層状結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物である、請求項2に記載の粉末状遷移金属化合物。
【請求項6】
粉末状リチウム金属酸化物であって、
少なくとも90重量%の金属が、平均組成がM=(Mn1−uNi1−y−zCo(上記式中、0.4<u<0.65及び0.2<y<0.9)である前記遷移金属であり、
前記粉末が、
典型粒子の前記バルクのいずれにおいて、r−3mの空間群を有する前記同じ層状結晶構造と、
相当量の遷移金属の化学量論の空間変化とを有してなる粒子からなり、ここで、前記外部バルクにおけるコバルト、マンガン及びニッケルとしての前記遷移金属の平均組成が、前記内部バルクにおける前記遷移金属の平均組成と少なくとも10%以上の差異を有してなり、
前記内部バルクが、前記粒子のコバルト、マンガン及びニッケルの総原子数の約50%を含有する前記粒子の中心周辺領域とされてなる、粉末状リチウム金属酸合物。
【請求項7】
前記金属の少なくとも95%が、遷移金属の平均組成がM=(Mn1−uNi1−y−zCo(上記式中、0.4<u<0.65及び0.25<y<0.34または0.65<y<0.85)である前記遷移金属であり、
前記粉末が、遷移金属の化学量論の連続的な空間変化を有する粒子からなる、請求項6に記載の粉末状リチウム金属酸合物。
【請求項8】
遷移金属の平均組成がM=(Mn1−uNi1−y−zCo(上記式中、0.4<u<0.65及び0.2<y<0.85)であり、
前記内部バルクが、遷移金属の平均組成がM=(Mn1−uNi1−y−zCo(上記式中、01及び0.751)である、請求項7に記載の粉末状リチウム金属酸合物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の粉末状遷移金属化合物の製造方法であって、
少なくとも一つの沈殿反応を含んでなるものであり、
ここで、遷移金属塩が溶解されていた少なくとも一つの溶液と、カーボネート塩の水酸化物が溶解された少なくとも一つの溶液とがシードとして作用する粒子に加えてなり、
溶解された遷移金属正イオンと溶解された水酸化物またはカーボネートの負イオンとが固体沈殿物を形成してなり、および
前記沈殿物が前記シード粒子を覆う層を形成してなるものであり、
前記沈殿物が、前記シード粒子の組成M1と少なくとも10%以上の差異を有する、遷移金属の組成M2を有してなる、方法。
【請求項10】
前記沈殿物が、遷移金属の組成がM2=Mn1−a−bNiCoを有してなり、前記シード粒子の組成M1=Mn1−a’−b’Nia’Cob’と相当量の差異を有してなり、全ての数N=(a’−a)/a’,N=(b’−b)/b’及びN=(c’−c)/c’に対する絶対値Niが|N|>0.1であると実質的に定義されてなる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記シード粒子が、リチウム金属酸化物であり、
前記金属のうち少なくとも95%が、平均組成がM=(Mn1−uNi1−y−zCo(上記式中、0.4<u<0.65及び01.0)であり、r−3mの空間群を有する層状結晶構造を有する遷移金属である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記シード粒子が、リチウム金属酸化物であり、
前記金属のうち少なくとも95%が、平均組成がM=(Mn1−uNi1−y−zCo(上記式中、0.4<u<0.65及び0.751.0)であり、r−3mの空間群を有する層状結晶構造を有する遷移金属である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記沈殿物が、SO2−,Cl及びFから選択された負イオンおよび/またはNa,K及びLiから選択された正イオンをさらに含有し、前記負イオンと正イオンの全濃度が、前記沈殿物の遷移金属1モルに対して0.01モル超過とされてなる、請求項9〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記沈殿物における負イオン及び/または正イオンの追加成分が、沈殿反応後に行われるイオン交換反応により改変されてなる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の粉末状リチウム遷移金属化合物を製造する方法であって、
請求項9〜14のいずれか一項に記載の少なくとも一つの沈殿反応と、
110℃〜350℃の温度における熱処理により前記沈殿物を改変することと、
リチウム供給源と前記改変された沈殿物の固相反応とを含んでなる、方法。
【請求項16】
請求項6〜8のいずれか一項に記載された粉末状リチウム遷移金属化合物を製造するための請求項15に記載の方法であって、
前記沈殿反応後のイオン交換反応または前記固相反応後の洗浄により、前記正イオン及び/または負イオンを除去し、前記リチウム遷移金属化合物がCl,SO2−,Na及び/またはKを包含する追加の負イオンまたは正イオンが基本的に含まれないものとされてなる、方法。
【請求項17】
請求項6〜8のいずれか一項に記載の粉末状リチウム遷移金属酸化物を含有してなる、充電可能なリチウム電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2006−503789(P2006−503789A)
【公表日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−548141(P2004−548141)
【出願日】平成15年10月30日(2003.10.30)
【国際出願番号】PCT/KR2003/002304
【国際公開番号】WO2004/040677
【国際公開日】平成16年5月13日(2004.5.13)
【出願人】(502202007)エルジー・ケム・リミテッド (224)
【Fターム(参考)】