説明

金属担持触媒の製造方法

【課題】水素化処理触媒としての品質を維持しつつ、エネルギーの消費が削減され、低公害で使用水量をも削減し、環境負荷の小さな金属担持触媒の簡易な製造方法の提供。
【解決手段】水和物粒子を合成する(A)合成工程と、これを水洗する(B1)洗浄工程と、(D)成形工程で成形に求められる水分含有量となるように脱水する(B2)脱水工程と、触媒成分溶液を接触させることで触媒成分を担持させる(C1)接触担持工程と、(D)成形工程で成形に求められる水分含有率になるように、担持済み触媒成分溶液をろ過する(C2)ろ過工程と、ろ過後の水和物粒子を成形して成形物を得る(D)成形工程と、これを乾燥する(E)乾燥工程と、排出された前記担持済み触媒成分溶液に前記触媒成分を添加して再生触媒成分溶液を調製する(C3)触媒成分溶解工程を含み、前記再生触媒成分溶液を(C1)接触担持工程の触媒成分溶液として用いる金属担持触媒の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素化処理触媒として有用な金属担持触媒の製造方法に関し、詳しくは、軽油の超深度脱硫触媒を可能な限り省エネルギー、低公害でかつ簡易に製造することができる金属担持触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軽油等の脱硫触媒として利用可能な水素化処理触媒である金属担持触媒は、一般に、アルミニウムを含む化合物を中和または加水分解し、水酸化アルミニウムを沈殿させ、不純物を洗浄除去・脱水する。その後、乾燥、粉砕あるいは噴霧乾燥し乾燥粉末を得る。この乾燥粉末に水を加え含水量を調整しながら十分に混練する。その混練物を成形、乾燥、焼成して得たアルミナ担体に、モリブデン、タングステン、コバルト、ニッケル、リン、ホウ素などの各種化合物を溶解した触媒成分溶液を含浸し、乾燥・焼成して製造される。これらの触媒製造過程では、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、アンモニア、窒素酸化物のような環境に対して負荷のかかる物質が排水あるいは排ガスとして放出される。加えて、担体や触媒の乾燥・焼成工程では、エネルギーが大量に消費される。
【0003】
図2は、従来の金属担持触媒の製造方法における製造工程の代表的な一例を示すフロー図である。まず、アルミニウム原料等の水和物粒子合成原料から水和物粒子を合成し(合成工程)、これを十分に洗浄し(洗浄工程)、ろ過脱水(ろ過脱水工程)後、乾燥および粉砕あるいは噴霧乾燥する(第一乾燥・粉砕/噴霧乾燥工程)ことで、水和物粒子キセロゲルの乾燥粉末が得られる。この乾燥粉末に水分等を添加し含水率を調整しながら、十分に混練し(混練工程)た後に、所定の形状に成形(成形工程)後、乾燥(第二乾燥工程)、焼成(第一焼成工程)し、金属担持用の触媒担体が製造される。
【0004】
一方、触媒成分は、別途水やアンモニア水等に溶解されて含浸用の触媒成分溶液(接触溶液)が調製される(触媒成分溶解工程)。この触媒成分溶液を前記触媒担体に含浸し(含浸担持工程)た後、乾燥し(第三乾燥工程)、焼成する(第二焼成工程)ことにより目的の金属担持触媒が製造される。
【0005】
このように従来の製造方法においては、水和物粒子合成原料に塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、四塩化チタン、硫酸チタンをアンモニア、水酸化ナトリウムなどで中和する組み合わせで使用した場合には排水中に塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウムなどが排出される。また、乾燥および焼成操作を複数回実施しており、大量にエネルギーが使用されている。
【0006】
加えて、触媒成分にモリブデン酸アンモニウム、タングステン酸アンモニウム、硝酸コバルト、塩化コバルト、硝酸ニッケル、塩化ニッケルなどを用いた場合やこれらをアンモニア性溶液にした場合には、乾燥および焼成操作によって排出される排ガス中には、塩化アンモニウム、アンモニア、窒素酸化物等の環境負荷の大きな成分が含まれており、排ガス処理に大きな負荷が掛かっている。
また、複数回(図2に示される例においては3回)にわたる乾燥工程により多くの使用水が系外に排ガスとして放出され、それに見合った給水量が必要になることから使用水量も多くなっており、その削減も望まれる。
【0007】
【非特許文献1】触媒学会編、「2.3.5 重質油脱硫触媒」、“触媒講座第5巻(工学編1)触媒設計”、講談社サイエンティフィク編集、株式会社講談社発行、1985年12月10日、p.62−64
【非特許文献2】ズードケミー触媒株式会社編、「触媒製造フロー」、総合カタログ、2001年12月、見開き1頁目
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって本発明は、水素化処理触媒としての品質を維持しつつ、エネルギーの消費が削減され、低公害で使用水量をも削減し、従来よりも環境負荷の小さな金属担持触媒の簡易な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、軽油の超深度脱硫触媒の性能を維持しつつ、環境に対して負荷の少ない原料を使用し、工業的に製造するための容易な方法やリサイクル工程を採用し、かつ、エネルギーを大量に消費する工程を変更または省くことによって本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の金属担持触媒の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」という場合がある。)は、金属担持触媒の担体となる水和物粒子を合成する(A)合成工程と、
得られた水和物粒子を水洗する(B1)洗浄工程と、
得られたゲル状の水和物粒子を、(D)成形工程で成形に求められる水分含有量となるように脱水する(B2)脱水工程と、
脱水された水和物粒子に触媒成分溶液を接触させることで触媒成分を担持させる(C1)接触担持工程と、
(D)成形工程で成形に求められる水分含有率になるように、前記触媒成分を担持した水和物粒子から担持済み触媒成分溶液をろ過する(C2)ろ過工程と、
前記触媒成分を担持したろ過済みの水和物粒子ゲルを所定の形状に成形して成形物を得る(D)成形工程と、
得られた成形物を乾燥する(E)乾燥工程と、
前記各工程のフローとは別に、(C2)ろ過工程で排出された担持済み触媒成分溶液を回収し、当該溶液に前記触媒成分を添加し溶解させて再生触媒成分溶液を調製する(C3)触媒成分溶解工程を含み、かつ、
(C3)触媒成分溶解工程で得られた再生触媒成分溶液を(C1)接触担持工程の触媒成分溶液として用いることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、触媒成分を担持した水和物粒子のゲル状物を乾燥せずに直接成形するので、乾燥粉末を製造する第一乾燥工程(図2の例で言う「第一乾燥・粉砕/噴霧乾燥工程」)が不要になり、大幅にエネルギーの使用が削減される。また、乾燥粉末に水等を添加し含水率を調整しながら、十分に混練する工程(図2の例で言う「混練工程」)も不要となり添加水が必要無くなると共に製造工程が簡素化される。加えて(B2)脱水工程において脱水する程度が、(D)成形工程で成形に求められる水分含有量になるまでで足りるので、低含水率で成形可能な形式の成形を適切に選択することで、乾燥工程(図2の例においては第二乾燥工程に相当)で乾燥すべき水分量も大幅に削減され、使用するエネルギーを削減することができる。
【0012】
また、(C2)ろ過工程で排出される担持済みの触媒成分溶液を回収してこれを(C3)触媒成分溶解工程で用いる触媒成分溶液を調製する溶媒として用いており、触媒成分を溶解して得られた再生触媒成分溶液は(C1)接触担持工程で触媒成分を担持させるために用いているため、(C2)ろ過工程での担持済みの触媒成分溶液がリサイクルされる。しかも(B2)脱水工程後の水分量と(C2)ろ過工程後の水分量が等しいことから、リサイクルされる水分は(C1)→(C2)→(C3)→(C1)と循環するため系外に排出されることが無い。
従って、本発明は環境負荷の少ない金属担持触媒の製造方法である。
【0013】
ここで、(B2)脱水工程後の水分量と(C2)ろ過工程後の水分量が等しいとは、長期間での収支が等しいと言うことであり、短期間では工業的な計測の誤差範囲で変動する程度は「等しい」の概念に含まれる。その他、触媒成分の試薬からある程度の水分量が持ち込まれたり、作業工程の進行による蒸発やその他のロス等によって計測誤差以外にも厳密には水分量の変動が生じ得るが、上記「等しい」は、そのような変動を許容する範疇での同一を意味するものである。
【0014】
すなわち本発明は、(C2)ろ過工程後において(D)成形工程で成形に求められる水分含有率になるように、水分が(C1)→(C2)→(C3)→(C1)と循環して系外に排出されることが無い工程を間に挟んで、前段階である(B2)脱水工程において、予め水分含有量を調整しておくことが重要なポイントであり、その目的を達成するための水分量の変動を許容した上で(B2)脱水工程後の水分量と(C2)ろ過工程後の水分量が等しくなるように調整する。
【0015】
したがって、例えば、(B2)脱水工程終了後における水分含有量が、(D)成形工程で成形に求められる水分含有量の範囲から僅かに(例えば±5%程度の範囲内で)外れていても、実際に(D)成形工程の段階で成形に求められる水分含有率の範囲に含まれていれば、本発明の技術的範囲に属するものである。
【0016】
また、本発明によれば、(C1)接触担持工程では触媒成分を水和物粒子にゾル状態で接触させるため、触媒成分を容易に高度に分散させることができる。加えてゾル状態での攪拌操作なので作業性および生産性にも優れている。特に、生産量を大きくしたい場合には、装置負荷を軽減できる。
【0017】
(C1)接触担持工程における水分/固形分比(すなわち、水分÷固形分)としては、質量基準で5〜20の範囲であることが好ましい。水分/固形分比が5未満では、ゾル状態での攪拌操作が難しくなり、擂潰あるいは混練のような接触操作が必要になるためエネルギー的に好ましいものではない。また、水分/固形分比が20を超える接触操作はゾル状態で行われるので、触媒成分の均一分散坦持という面では好ましいが、不必要に多くの触媒成分溶液を攪拌させることやリサイクルさせることはエネルギー的に好ましいものではない。
【0018】
本発明においては、(E)乾燥工程に引き続き、乾燥後の成形物を焼成する(F)焼成工程を含むことも好ましい。これは、焼成することにより、金属担持触媒の、水素化処理触媒としての品質向上を図ることができる場合もあるからである。
【0019】
本発明において、(A)合成工程で合成される水和物粒子としては、チタニア、アルミナ、および、チタニアとアルミナとを混合あるいは複合化したもの(本発明において、単に「チタニア・アルミナ」と称する。)からなる群より選ばれるいずれかの水和物粒子であることが例示される。また、その合成原料としては、チタニウムまたはアルミニウムの水酸化物、塩化物、硫酸塩化合物およびナトリウム塩化合物からなる群より選ばれる少なくともいずれかの化合物と、該選ばれた化合物と反応して水和物粒子を生成させる水酸化ナトリウム、塩酸および硫酸からなる群より選ばれる少なくともいずれかとの組み合わせを本発明の好ましい例として挙げることができる。チタンやアルミニウムの金属アルコキシド類、硝酸塩類等も使用することができるが、環境汚染物質の放出の懸念があり、それを処理するための浄化施設の負荷が増す点では好ましくない。
【0020】
本発明において、(D)成形工程に供する段階で成形に求められる水分含有率としては、45〜85質量%の範囲であることが好ましい。かかる水分含有率の範囲であれば、ピストン型押出成形機、スクリュー型押出成形機、ディスクペレッターなど通常工業的に用いられる成形機を使用して容易に大量の成形物を製造することができる。
【0021】
本発明において、(C1)接触担持工程に供する触媒成分としては、モリブデン(Mo)またはタングステン(W)と、コバルト(Co)および/またはニッケル(Ni)と、を含むものが挙げられ、またさらにリン(P)および/またはホウ素(B)を含むものが挙げることができる。
【0022】
本発明において、(C1)接触担持工程に供する具体的な触媒成分化合物として好ましくは、
三酸化モリブデン、モリブドリン酸、モリブデン酸、三酸化タングステン、タングステン酸およびタングストリン酸からなる群より選ばれる少なくともいずれかの化合物と、
酸化コバルト、炭酸コバルト、塩基性炭酸コバルト、水酸化コバルト、蓚酸コバルト、クエン酸コバルト、酢酸コバルト、酸化ニッケル、炭酸ニッケル、塩基性炭酸ニッケル、水酸化ニッケル、蓚酸ニッケル、クエン酸ニッケル、酢酸ニッケルおよびオキシ水酸化ニッケルからなる群より選ばれる少なくともいずれかの化合物と、
を含むものが挙げられ、さらにリン酸および/またはホウ酸からなるものも挙げることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の金属担持触媒の製造方法によれば、乾燥や加熱に消費されるエネルギーを削減することができると共に使用水量も削減される。さらに、環境負荷の大きな成分を排ガス乃至排液として系外に排出しなくても済むため、環境負荷を低減することができ、かつ、製造工程を簡素化したため簡易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を図面に則して詳細に説明する。
図1は、本発明の金属担持触媒の製造方法の製造工程を示すフロー図である。本発明の製造方法は、水和物粒子合成原料および触媒成分を原料として、フロー順に操作が為される(A)合成工程、(B1)洗浄工程、(B2)脱水工程、(C1)接触担持工程、(C2)ろ過工程が配され、(D)成形工程および(E)乾燥工程、並びに必要に応じて(F)焼成工程と、当該フローとは別に、(C3)触媒成分溶解工程の各工程により成り立っている。また、(C3)触媒成分溶解工程と(C1)接触担持工程と(C2)ろ過工程との間に循環回路が組まれている。
以下、各工程毎に詳細に説明する。
【0025】
<(A)合成工程>
(A)合成工程は、金属担持触媒の担体となる水和物粒子を合成する工程である。本工程で合成される水和物粒子とは、焼成前の酸化物前駆体であって、最終的に触媒金属の担体になり得るものであればよく、例えば、無定形の水酸化アルミニウム、擬ベーマイト、ベーマイト、ジブサイト、バイヤライト、ノルドンストンライト等の含水酸化物を含む水酸化アルミニウム;無定形の水酸化チタン、αチタン酸、βチタン酸、γチタン酸、アナターゼなどを含む水酸化チタン;アルミナ水和物粒子とチタニア水和物粒子とが混合あるいは複合化した含水酸化物等が挙げられる。ここでいう「複合化」とは、アルミナとチタニアの水和物粒子を共沈させたものや、アルミナ水和物粒子にチタニア水和物粒子をコーティング(積層)したものまたはその逆のもの等をいう。
【0026】
チタニア、アルミナおよびチタニア・アルミナからなる群より選ばれるいずれかの水和物粒子を合成する場合の好ましい合成原料としては、例えば、水酸化チタン、塩化チタン、硫酸チタン、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウムおよび水酸化ナトリウム、塩酸、硫酸が挙げられる。これらのうち、水酸化チタンおよび水酸化アルミニウムはそのまま酸化物前駆体(水和物粒子)であり、焼成により水のみが放出される。また、他の酸性物質とアルカリ性物質は、両者の中和反応によって酸化物前駆体が生成されるが、副生される塩類は塩化ナトリウム(食塩)あるいは硫酸ナトリウム(ぼう硝)であり、環境に放出されても非常に安全な物質である。
【0027】
本工程において、これらの原料を用いて酸化物前駆体(水和物粒子)を製造する方法は特に制限は無く、通常の連続添加法、水熱合成法、pHスイング法、ゾルゲル法、均一沈殿法などを採用することができる。
本工程の合成条件としては、各種合成法における従来公知の条件で問題なく、特に制限されるものではない。
【0028】
<(B1)洗浄工程>
(B1)洗浄工程は、(A)合成工程で得られた水和物粒子を水洗する工程である。(A)合成工程で得られた水和物粒子は、副生した塩類や未反応の原料、その他の不純物が混在しており、まず、本工程でこれを水洗して取り除く洗浄操作が為される。実際には、副生した塩類が所定量以下に除去されまで洗浄が行われる。
【0029】
本工程の洗浄操作としては、小規模なバッチ操作としては、具体的には(A)合成工程で得られた水和物粒子を一旦ろ過して、これに過剰の水を添加して必要に応じて攪拌し、再度ろ過して脱水する操作を繰り返す方法が挙げられる。
また、工業的な本工程の連続洗浄操作としては、オリバーフィルター、ベルトフィルター、ディスクフィルター、ドラムフィルター、遠心ろ過機、真空ろ過器、加圧ろ過器(フィルタープレス)等各種形式のものを適宜使用して実施することができる。なかでも加圧ろ過機は、洗浄と水分量を調整する脱水の操作とを連続して行えるので本発明においては特に好ましい。
【0030】
<(B2)脱水工程>
本発明においては、(B1)洗浄工程の後に、(D)成形工程で成形に求められる水分含有量となるように前記水和物粒子ゲルを脱水する(B2)脱水工程の操作が為される。本工程の操作は、(B1)洗浄工程で用いた装置と同様の物をそのまま使用して実施することができる。
【0031】
ところで、本工程で要求されるのは、(D)成形工程で成形に求められる前記水和物粒子ゲルの水分含有量であって、水分含有率ではない。すなわち、(D)成形工程で成形に求められる前記水和物粒子ゲルの水分含有率となるような水分の絶対量にすることが、本工程では要求される。つまり、後述する(C1)接触担持工程において触媒成分が添加されるため、(D)成形工程で成形する際には触媒成分の増加量分だけ水分含有率が変化するので、それを踏まえた水分含有量にするのである。
【0032】
なお、本発明において、「水分含有量」や「水分の絶対量」と言うときの「量」は、前記水和物粒子に対する量(質量基準)を意味するものとする。また、本発明において、「水分含有量」(「水分含有率」を計算する上で基となる水分含有量を含む。)は、空気中で400℃(チタニアの場合)または500℃(アルミナおよびチタニア・アルミナの場合)にて3時間焼成した時の減少量(すなわち、加熱によって揮発した水分の量、言い換えれば加熱前の質量から加熱により残った固形分量を差し引いた量を意味する。)である。
【0033】
具体的な前記水和物粒子ゲルの水分含有量は、後述する(C1)接触担持工程において触媒成分を添加した場合に、(D)成形工程で成形に求められる水分含有率になる量であり、触媒成分の添加量および成形に求められる水分含有率によって簡単に求められる。これらについては(C1)接触担持工程および(D)成形工程において説明する。
このとき、前記水和物粒子ゲルの水分含有率としては、(D)成形工程で成形に求められる水分含有量に調整するために、約45〜85質量%の範囲であることが好ましい。
【0034】
<(C1)接触担持工程>
(C1)接触担持工程は、脱水された水和物粒子ゲルに触媒成分溶液を接触させることで触媒成分を担持させる工程である。
本工程に供する触媒成分としては、モリブデン(Mo)またはタングステン(W)と、コバルト(Co)および/またはニッケル(Ni)と、を含むものが好ましく、リン(P)および/またはホウ素(B)を含むものがさらに好ましい。モリブデン(Mo)およびタングステン(W)は水素化能を有する主成分であり、コバルト(Co)およびニッケル(Ni)はその水素化能を高めるための助触媒成分である。また、リン(P)およびホウ素(B)は触媒の酸性度を調整する成分である。
【0035】
触媒成分の組成としては、酸化物基準で、モリブデン(Mo)またはタングステン(W)の量が15質量%〜35質量%の範囲が好ましく、また、コバルト(Co)および/またはニッケル(Ni)の量が1質量%〜10質量%の範囲が好ましい。リン(P)および/またはホウ素(B)を含む場合には、これらの量が1質量%〜10質量%の範囲が好ましい。
【0036】
これらの触媒成分は、化合物の状態であるいは金属の状態で用いられる。具体的に好ましい化合物乃至単体は以下の通りである。
・モリブデン(Mo):モリブデン単体、酸化モリブデン、モリブドリン酸、モリブデン酸
・タングステン(W):タングステン単体、酸化タングステン、タングステン酸、タングストリン酸
・コバルト(Co):コバルト単体、酸化コバルト、炭酸コバルト、塩基性炭酸コバルト、水酸化コバルト、蓚酸コバルト、クエン酸コバルト、酢酸コバルト
・ニッケル(Ni):ニッケル単体、酸化ニッケル、炭酸ニッケル、塩基性炭酸ニッケル、水酸化ニッケル、蓚酸ニッケル、クエン酸ニッケル、酢酸ニッケル、オキシ水酸化ニッケル
・リン(P):無水リン酸、リン酸、メタリン酸、ピロリン酸
・ホウ素(B):無水ホウ酸、ホウ酸、メタホウ酸
【0037】
本発明において、これら触媒成分を前記水和物粒子ゲルに添加し接触させる際に、(D)成形工程で成形に求められる水分含有量の前記水和物粒子ゲルに溶液状態の触媒成分溶液を添加するので、当該溶液の量を適宜調整することによって、所望の水分量にした状態で接触担持させることができる。すなわち、本発明においては、接触担持に最適な水分/固形分比を任意に選択することができる。
【0038】
本発明において本工程に供する装置としては、一般的に攪拌に用いる各種装置、例えば攪拌羽式攪拌機、攪拌ポンプ、ジューサーミキサー、パドルミキサー、リボンミキサー、コロイドミル等を挙げることができる。
本発明における本工程のその他の条件としては、温度は常温で、接触時間は1分〜1時間程度で十分である。
【0039】
<(C2)ろ過工程>
(C2)ろ過工程は、(C1)接触担持工程と(D)成形工程との間に行われ、(D)成形工程における成形に求められる水分含有率になるように、前記触媒成分を担持した水和物粒子ゲルを最終的に脱水する工程である。
既述のように、本発明においては、(C1)接触担持に好適なゾル状態にすべく接触担持工程で前記水和物粒子ゲルに溶液状態の触媒成分溶液を添加するので、水分含有量が大幅に増加しており、本工程が必須の工程となる。
【0040】
本工程では、(D)成形工程における成形に求められる水分含有率になるように脱水しているため、その水分量の絶対量は(B2)脱水工程後の水和物粒子ゲルと同一となっている(厳密には、触媒成分の試薬から持ち込まれる水分量分、例えば、純度85質量%のリン酸の場合は約15質量%分の水分、ホウ酸の場合は2分子のホウ酸に対して3分子の水分だけ増加しているが、既述の通りその分の水分量の相違は「同一」「等しい」の範疇に含まれる。)。換言すれば、(C1)接触担持工程で前記触媒成分溶液の添加により増加した分から触媒成分の試薬から持ち込まれる水分量を除いた分だけの水分が脱水される。
【0041】
なお、脱水され排出された水分(担持済み触媒成分溶液)は廃棄されること無く、後述する(C3)触媒成分溶解工程に供されるために全量が回収され再使用される。
本工程においても、脱水操作は、(B2)脱水工程の場合と同様、真空ろ過器、加圧ろ過器(フィルタープレス)等によって行えばよい。
【0042】
<(C3)触媒成分溶解工程>
(C3)触媒成分溶解工程は、その他の各工程のフロー(図1における(A)合成工程から(E)乾燥工程まで縦に連なるフロー)とは別に、(C2)ろ過工程で排出された担持済み触媒成分溶液を回収し、当該溶液に前記触媒成分を添加し溶解させて再生触媒成分溶液を調製する工程である。また、本工程で得られた再生触媒成分溶液は、(C1)接触担持工程の触媒成分溶液として再び用いられる。
【0043】
当該再生触媒成分溶液は、前記触媒成分を(C2)ろ過工程で排出された担持済み触媒成分溶液に添加し溶解させて調製するが、その濃度としては、(C1)接触担持工程に供された際に既述の水分/固形分比を一定にすることによって自動的に定まってくるので、特に調整する必要はない。
【0044】
前記再生触媒成分溶液は、(C2)ろ過工程から回収された担持済み触媒成分溶液に所定量の前記触媒成分を添加し、これを攪拌して溶解(乃至分散)させることで調製される。(C2)ろ過工程から回収された担持済み触媒成分溶液には、触媒成分のうち未浸漬(未担持)のものが含まれているが、その分を考慮して上記各成分を添加する必要が無いため、非常に簡便な操作となることが特徴的である。
【0045】
添加後の攪拌方法としては、添加される成分が十分に溶解あるいは混合分散される方法であれば何ら制限は無く、(C1)接触担持工程に供する装置として例示した攪拌装置は問題なく使用することができる。
なお、(C2)ろ過工程から担持済み触媒成分溶液が回収されない最初の段階では、前記触媒成分溶液は、別途水を用いて上各成分の担持必要量の105質量%〜300質量%程度の量を溶解し調製する。
【0046】
<(D)成形工程>
(D)成形工程は、(C2)ろ過工程後に得られた、前記触媒成分を担持した水和物粒子ゲルを所定の形状に成形して成形物を得る工程である。
本工程において成形には、通常用いられるピストン型成形機、スクリュー型成形機、ディスクペレッターなどが問題なく使用可能であり、最終的に得られる金属担持触媒の使用目的に合わせ適切な形状、例えば、通常は円柱形、三つ葉形、四つ葉形、円筒形、ハニカム形などに成形される。
【0047】
成形に求められる水分含有率としては、用いる成形機やその条件、前記触媒成分を担持した水和物粒子ゲルの組成、粒子の大きさや形状および使用する成形機などにより一概には言えないが、45〜85質量%の範囲であることが好ましい。また、ピストン型成形機では60〜85質量%の範囲であることがより好ましく、スクリュー型成形機では55〜75質量%の範囲であることがより好ましく、ディスクペレッターでは45〜60質量%の範囲であることが好ましい。この水分含有率が上限の85質量%を上回ると、水分量が多いため或いはゲルのチキソトロピー性等のため成形が困難になる。一方、下限の45質量%を下回ると、成形に多くのエネルギーを消費し生産性の劣る打錠成形機(タブレットマシン)などを使用する必要があり、それぞれ好ましくない。
その他、本工程の条件としては、一般的な金属担持触媒製造における成形工程と同様の操作や条件で行えば問題ない。
【0048】
<(E)乾燥工程>
(E)乾燥工程は、(D)成形工程で得られた成形物を乾燥する工程である。本工程の乾燥を最終工程として目的の金属担持触媒を得てもよいし、次工程として(F)焼成工程の操作を行っても構わない。(E)乾燥工程を最終工程とする場合には、担体および添加した触媒成分が酸化物状態に変換されていないので、実際の水素化処理反応器の中で担体は酸化物の状態へ、触媒成分は硫化物の状態へ変換されて水素化処理性能を発揮する。
【0049】
本工程の乾燥には、一般的な乾燥炉や焼成炉を用いればよい。また、焼成する程度まで加熱を進行させなければ、焼成炉を用いても(F)焼成工程を経ない((E)乾燥工程を最終工程とする)金属担持触媒を製造することができる。
本工程は、一般的な金属担持触媒製造における乾燥工程と同様の操作や条件で行えば問題ないが、例えば工業的には、120〜200℃の温度範囲で15時間〜30分程度熱風乾燥すればよい。
【0050】
<(F)焼成工程>
(F)焼成工程は、(E)乾燥工程に引き続き、乾燥後の成形物を焼成する工程である。(F)焼成工程を最終工程とする場合には、担体および触媒成分が安定化された酸化物状態になっているので触媒強度が大きく、加えて実際の水素化処理で水分の流出も無く取り扱いが容易である。さらに、触媒の水素化処理活性が大きくなることもある。
【0051】
本工程の焼成には、一般的な焼成炉を用いればよい。なお、(E)乾燥工程で焼成炉を用いた場合には、そのまま加熱を続けて本工程の操作とすればよい。すなわち、本工程を含む場合には、本工程が(E)乾燥工程と明確に区別できない一連の操作であっても何ら問題無い。
【0052】
本工程は、一般的な金属担持触媒製造における焼成工程と同様の操作や条件で行えば問題ないが、例えば、チタニア系触媒の場合、300〜500℃の温度範囲で4時間〜30分間程度焼成すればよい。また、アルミナ系触媒およびアルミナ・チタニア系触媒の場合は400〜600℃の温度範囲で4時間〜30分間程度焼成すればよい。
【0053】
以上の各工程の操作を順次かつ適宜施すことによって、本発明の製造方法による金属担持触媒を製造することができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
<実施例1>
[1回目のバッチ処理]
〔四塩化チタン水溶液原料の調製〕
99.9質量%の四塩化チタン(TiCl4)10.5kgを氷で冷却した水中に徐々に添加し、酸化チタン換算濃度210g/リットルの四塩化チタン水溶液を21リットル調製した。
【0055】
〔水酸化ナトリウム水溶液原料の調製〕
99.8質量%の水酸化ナトリウム9.3kgを水に溶解し、422g/リットルの水酸化ナトリウム水溶液を22リットル調製した。
【0056】
〔チタン水和物粒子の合成と洗浄・脱水〕
フッ素樹脂コーティングした35リットルの加熱・攪拌機付き容器に60℃の温水20リットルを入れ、攪拌しながら前記四塩化チタン水溶液を0.75リットル添加し5分間保持した。続いて前記水酸化ナトリウム水溶液を0.75リットル添加し、pH値をチタン水和物粒子の沈殿領域である7にした。その後、温度を60℃に保ちながら5分間保持した。さらに、前記四塩化チタン水溶液と前記水酸化ナトリウム水溶液を同量添加し、温度を保ちながら5分間保持する同様の操作をもう1回繰り返し、担体原料となるチタン水和物粒子のヒドロゾルを得た((A)合成工程)。
【0057】
得られたヒドロゾルをろ過し、未洗浄ろ過ケーキを得た。この未洗浄ろ過ケーキを25リットルの水に良く分散・ろ過する洗浄操作を3回行い、洗浄チタン水和物粒子のヒドロゲルを得た。ヒドロゲルを得るこれら一連の操作をさらに4回繰り返し(以上、(B1)洗浄工程)、最後のろ過操作において水分含有量を調整して、洗浄チタン水和物粒子ヒドロゲルを約9kg得た((B2)脱水工程)。このヒドロゲルの400℃、3時間焼成後の固形分濃度は16.7質量%であった。
【0058】
〔最初の触媒成分溶液の調製〕
蛇管式冷却器を取り付けた1リットルの三角フラスコに水300ml、純度99質量%の酸化モリブデン28.3g、純度85質量%のリン酸4.1g、酸化コバルトの純度63質量%の炭酸コバルト6.9gを加え、撹拌しながら加熱、溶解し、最初の触媒成分溶液を得た。
【0059】
〔触媒成分の接触担持と脱水〕
容量1.8リットル、回転数10000rpmのジューサーミキサーに、前記洗浄チタン水和物粒子ヒドロゲル431gと、前記最初の触媒成分溶液の全量および水400mlを入れ、5分間激しく攪拌しゾル状態にした((C1)接触担持工程)。この触媒成分を含むチタン水和物粒子ゾルを真空ろ過し、成形に適した水分含有率に脱水した触媒成分担持チタン水和物粒子ゲル(以下、「脱水ケーキ」と云う。)と触媒成分の未浸漬部分を含む担持済み触媒成分溶液とに分離した((C2)ろ過工程)。回収された担持済み触媒成分溶液は、後述する通り新たに触媒成分が添加され、再生触媒成分溶液として全量が再使用される。
【0060】
〔成形・乾燥〕
脱水ケーキをピストン型の押し出し成型機を用い、1.5mmの円柱状に成形した((D)成形工程)。その後、120℃にて5時間乾燥し((E)乾燥工程)、水素化処理用のチタニア系金属担持触媒T1−1を得た。
【0061】
[2回目以降のバッチ処理]
〔触媒成分溶液の再調製〕
蛇管式冷却気を取り付けた1リットルの三角フラスコに、〔触媒成分の接触担持と脱水〕の操作((C2)ろ過工程)で回収された担持済み触媒成分溶液の全量と、純度99質量%の酸化モリブデン22.6g、純度85質量%のリン酸3.2g、酸化コバルトの純度63質量%の炭酸コバルト5.6gを加え、撹拌しながら加熱、溶解し、2回目のバッチ処理に用いる再生触媒成分溶液を得た。なお、3回目のバッチ処理には2回目の等、その前回のバッチ処理における〔触媒成分の接触担持と脱水〕の操作((C2)ろ過工程)で回収した担持済み触媒成分溶液を用いて、それぞれの再生触媒成分溶液を得た。
【0062】
〔全工程の処理〕
以上のように再調製された再生触媒成分溶液を用いて触媒成分の浸漬の操作((C1)接触担持工程の操作)を行うこと以外は、〔四塩化チタン水溶液原料の調製〕から〔成形・乾燥〕までの操作を全て1回目のバッチ処理と同様に5回バッチ処理を行い(合計6回のバッチ処理)、水素化処理用のチタニア系金属担持触媒T1−2〜T1−6を得た。
【0063】
以上のようにして得られた実施例1のチタニア系金属担持触媒T1−1〜T1−6を400℃にて3時間焼成した物の比表面積および細孔容積、並びに各工程における各種条件、接触担持工程の溶液中の触媒成分濃度、回収接触溶液の再使用回数、接触担持工程における水分/固形分比、回収された担持済み触媒成分溶液の再使用回数、接触担持工程における水分/固形分比、回収された担持済み触媒成分溶液の量、脱水ケーキの量、脱水ケーキの水分含有率などのデータを下記表1にまとめて示す。また、最後のバッチ処理によるチタニア系金属担持触媒T1−6のみ、後述する方法による軽油脱硫活性評価を行っており、下記表1にはその結果も併せて記載している。
【0064】
【表1】

【0065】
<実施例2>
[1回目のバッチ処理]
実施例1の1回目のバッチ処理の工程操作中、
〔最初の触媒成分溶液の調製〕において純度99質量%の酸化モリブデンの量を35.9g、純度85質量%のリン酸の量を8.3g、酸化コバルトの純度63質量%の炭酸コバルトの量を8.8gにし、さらに酸化ニッケルの純度63質量%の炭酸ニッケル2gと、ホウ酸4.5gとを加えて触媒成分溶液を調製したこと、
〔触媒成分の接触担持と脱水〕において、洗浄チタン水和物粒子ヒドロゲルの量を369gにしたこと、および、ジューサーミキサーに代えてBrawn製のハンドミキサーを用い、水400mlを加えずに、十分に攪拌混合したこと、
〔成形・乾燥〕において、120℃にて5時間乾燥後400℃にて3時間焼成した((F)焼成工程)こと、
以外は全て実施例1と同様の操作を行い、水素化処理用のチタニア系金属担持触媒T2−1を得た。
【0066】
[2回目以降のバッチ処理]
実施例1の2回目以降のバッチ処理の工程操作中、
〔触媒成分溶液の再調製〕において、本実施例における回収された担持済み触媒成分溶液の全量に、純度99質量%の酸化モリブデン28.5g、純度85質量%のリン酸6.6g、酸化コバルトの純度63質量%の炭酸コバルト7.1g、酸化ニッケルの純度63質量%の炭酸ニッケル1.6g、ホウ酸3.6gを加えたこと、
〔全工程の処理〕において、2回目以降のバッチ処理の回数を3回にした(合計4回のバッチ処理)こと、
以外は全て実施例1と同様の操作を行い、水素化処理用のチタニア系金属担持触媒T2−2〜T2−4を得た。
【0067】
以上のようにして得られた実施例2のチタニア系金属担持触媒T2−1〜T2−4について、実施例1と同様の比表面積および細孔容積、並びに各工程における各種条件、接触担持工程の溶液中の触媒成分濃度、回収接触溶液の再使用回数、接触担持工程における水分/固形分比、回収された担持済み触媒成分溶液の再使用回数、接触担持工程における水分/固形分比、回収された担持済み触媒成分溶液の量、脱水ケーキの量、脱水ケーキの水分含有率などのデータ、さらに最後のバッチ処理によるチタニア系金属担持触媒T2−4の軽油脱硫活性評価の結果を下記表2にまとめて示す。
【0068】
【表2】

【0069】
<実施例3>
[1回目のバッチ処理]
〔塩化アルミニウム水溶液原料の調製〕
塩化アルミニウム(AlCl3・6H2O)2900gを水に溶解し、483g/リットルの塩化アルミニウム水溶液を6リットル調製した。
【0070】
〔水酸化ナトリウム水溶液原料の調製〕
水酸化ナトリウム1602gを水に溶解し、243g/リットルの水酸化ナトリウム水溶液を6.6リットル調製した。
【0071】
〔アルミナ水和物粒子の合成と洗浄・脱水〕
フッ素樹脂コーティングした35リットルの加熱・攪拌機付き容器に90℃の温水20リットルを入れ、加熱・攪拌しながら前記塩化アルミニウム水溶液を1.5リットル添加し5分間保持した。続いて前記水酸化ナトリウム水溶液を1.55リットル添加し、pH値をアルミナ水和物粒子の沈殿領域である9にし、温度を80℃以上に保ちながら5分間保持した。さらに、前記塩化アルミニウム水溶液1.5リットルと前記水酸化ナトリウム水溶液1.5リットルを添加し、温度を80℃以上に保ちながら5分間保持する同様の操作を3回繰り返し、担体原料となるアルミナ水和物粒子のヒドロゾルを得た((A)合成工程)。
【0072】
得られたヒドロゾルをろ過し、未洗浄ろ過ケーキを得た。この未洗浄ろ過ケーキを30リットルの水に良く分散・ろ過する洗浄操作を3回行い(以上、(B1)洗浄工程)、最後のろ過操作において水分含有量を調整して、洗浄アルミナ水和物粒子のヒドロゲル約3.5kgを得た。このヒドロゲルの500℃、3時間焼成後の固形分濃度は17.3質量%であった((B2)脱水工程)。
【0073】
〔最初の触媒成分溶液の調製〕
蛇管式冷却気を取り付けた1リットルの三角フラスコに水300ml、純度99質量%の酸化モリブデン28.6g、純度85質量%のリン酸4.1g、酸化コバルトの純度63質量%の炭酸コバルト7g、酸化ニッケルの純度63質量%の炭酸ニッケル2gを加え、撹拌しながら加熱、溶解し、最初の触媒成分溶液を得た。
【0074】
〔触媒成分の接触担持と脱水〕
本工程は、前記洗浄アルミナ水和物粒子のヒドロゲル347gと上記最初の触媒成分溶液を用いたこと以外は、実施例2の〔触媒成分の接触担持と脱水〕と同様の操作を行った。
【0075】
〔成形・乾燥〕
実施例2の〔成形・乾燥〕において、焼成温度を500℃に変えたこと以外は実施例2と同様の操作を行い、水素化処理用のアルミナ系金属担持触媒A−1を得た。
【0076】
[2回目以降のバッチ処理]
実施例2の2回目以降のバッチ処理の工程操作中、〔触媒成分溶液の再調製〕において、本実施例における回収された担持済み触媒成分溶液の全量に、純度99質量%の酸化モリブデン18.9g、純度(質量基準)85質量%のリン酸2.7g、酸化コバルトの純度63質量%の炭酸コバルト4.7g、酸化ニッケルの純度63質量%の炭酸ニッケル1.3gをそれぞれ加えたこと以外は全て実施例2と同様の操作を行い、水素化処理用のアルミナ系金属担持触媒A−2〜A−4を得た。
【0077】
以上のようにして得られた実施例3のアルミナ系金属担持触媒A−1〜A−4について、実施例1と同様の比表面積および細孔容積、並びに各工程における各種条件、接触担持工程の溶液中の触媒成分濃度、回収接触溶液の再使用回数、接触担持工程における水分/固形分比、回収された担持済み触媒成分溶液の再使用回数、接触担持工程における水分/固形分比、回収された担持済み触媒成分溶液の量、脱水ケーキの量、脱水ケーキの水分含有率などのデータ、さらに最後のバッチ処理によるアルミナ系金属担持触媒A−4の軽油脱硫活性評価の結果を下記表3にまとめて示す。
【0078】
【表3】

【0079】
<実施例4>
[1回目のバッチ処理]
〔塩化アルミニウム水溶液原料および水酸化ナトリウム水溶液原料の調製〕
実施例3の1回目のバッチ処理の工程操作中の〔塩化アルミニウム水溶液原料の調製〕および〔水酸化ナトリウム水溶液原料の調製〕と同様にして、それぞれ半量調製した。
【0080】
〔アルミナ水和物粒子の合成〕
フッ素樹脂コーティングした35リットルの加熱・攪拌機付き容器に90℃の温水20リットルを入れ、加熱・攪拌しながら前記塩化アルミニウム水溶液を1.5リットル添加し5分間保持した。続いて前記水酸化ナトリウム水溶液を1.55リットル添加し、pH値をアルミナ水和物粒子の沈殿領域である9にし、温度を80℃以上に保ちながら5分間保持した。さらに、前記塩化アルミニウム水溶液1.5リットルと前記水酸化ナトリウム水溶液1.5リットルを添加し、温度を80℃以上に保ちながら5分間保持する同様の操作を1回繰り返した。その後、容器温度を60℃まで放冷し保持した。
【0081】
〔四塩化チタン水溶液原料および水酸化ナトリウム水溶液原料の調製〕
実施例1の1回目のバッチ処理の工程操作中の〔四塩化チタン水溶液原料の調製〕および〔水酸化ナトリウム水溶液原料の調製〕と同様にして、それぞれ1リットル調製した。
【0082】
〔チタニア積層アルミナ水和物粒子の合成〕
前記四塩化チタン水溶液および前記水酸化ナトリウム水溶液をそれぞれ612ml採取し、さらにそれぞれを水で3リットルにメークアップし、前記アルミナ水和物粒子にチタンを積層するための原料溶液を調製した。
【0083】
最初に前記四塩化チタン水溶液を、〔アルミナ水和物粒子の合成〕で得た溶液を収容する容器に徐々(ドロップワイズ)に添加することによって、容器内のpHを5にし、次いで、水酸化ナトリウム水溶液も徐々に添加することによって、容器内のpHを5±0.1に保ちながら、2時間かけて四塩化チタン水溶液の全量を添加した。その後も、水酸化ナトリウム水溶液の添加を続けpH7にて添加操作を終了し、担体原料となるチタニア積層アルミナ水和物粒子のヒドロゾルを得た((A)合成工程)。
【0084】
得られたヒドロゾルをろ過し、未洗浄ろ過ケーキを得た。この未洗浄ろ過ケーキを30リットルの水に良く分散・ろ過する洗浄操作を3回行い(以上、(B1)洗浄工程)、最後のろ過操作において水分含有量を調整して、洗浄チタニア積層アルミナ水和物粒子のヒドロゲルを得た。このヒドロゲルの500℃、3時間焼成後の固形分濃度は14.7質量%であった((B2)脱水工程)。
【0085】
〔最初の触媒成分溶液の調製〕
蛇管式冷却気を取り付けた1リットルの三角フラスコに水650ml、純度99質量%の酸化モリブデン41.3g、純度85質量%のリン酸7.2g、酸化コバルトの純度63質量%の炭酸コバルト10.2g、酸化ニッケルの純度63質量%の炭酸ニッケル2.3gを加え、撹拌しながら加熱、溶解し、最初の触媒成分溶液(接触溶液)を得た。
【0086】
〔成形・乾燥〕
本工程は、前記洗浄チタニア積層アルミナ水和物粒子のヒドロゲル427gと上記最初の触媒成分溶液を用い、乾燥時間を12時間としたこと以外は、実施例3の〔成形・乾燥〕と同様の操作を行い、水素化処理用のチタニアを積層したアルミナ系金属担持触媒AT−1を得た。
【0087】
[2回目以降のバッチ処理]
実施例2の2回目以降のバッチ処理の工程操作中、
〔触媒成分溶液の再調製〕において、本実施例における回収された担持済み触媒成分溶液の全量に、純度99質量%の酸化モリブデン27.6g、純度85質量%のリン酸4.8g、酸化コバルトの純度63質量%の炭酸コバルト6.8g、酸化ニッケルの純度63質量%の炭酸ニッケル1.6gをそれぞれ加えたこと、
〔全工程の処理〕において、2回目以降のバッチ処理の回数を5回にした(合計6回のバッチ処理)こと、
以外は全て実施例2と同様の操作を行い、水素化処理用のチタニアを積層したアルミナ系金属担持触媒AT−2〜AT−6を得た。
【0088】
以上のようにして得られた実施例4のチタニアを積層したアルミナ系金属担持触媒AT−1〜AT−6について、実施例1と同様の比表面積および細孔容積、並びに各工程における各種条件、接触担持工程の溶液中の触媒成分濃度、回収接触溶液の再使用回数、接触担持工程における水分/固形分比、回収された担持済み触媒成分溶液の再使用回数、接触担持工程における水分/固形分比、回収された担持済み触媒成分溶液の量、脱水ケーキの量、脱水ケーキの水分含有率などのデータ、さらに最後のバッチ処理によるチタニアを積層したアルミナ系金属担持触媒AT−6の軽油脱硫活性評価の結果を下記表4にまとめて示す。
【0089】
【表4】

【0090】
<軽油脱硫活性評価>
各実施例において製造した水素化処理用触媒(最後のバッチ処理による触媒のみ)について、その性能を評価すべく、以下の軽油脱硫活性評価試験を行った。結果は各実施例の表に既に記載したとおりである。
【0091】
硫黄分11539質量ppm、比重(15/4℃)0.85の中東産軽油を原料として、反応温度350(℃)、反応圧力(水素分圧)5(MPa)、液空間速度1.5(1/hr)、水素/油比250(Nl/l)の反応条件で、141時間反応させた後の水素化脱硫活性で評価した。脱硫反応を1.2次として反応速度定数を求めた。
【0092】
<結果の考察>
以上の結果より、本発明の例示的態様である実施例1〜4のいずれにおいても、良好な水素化脱硫活性を示す高品質な金属担持触媒を、省エネルギーかつ低公害(特に排ガス)で、さらに使用水量も少なく環境負荷を抑制し得る簡便な方法で、製造することができた。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の金属担持触媒の製造方法の製造工程を示すフロー図である。
【図2】従来の金属担持触媒の製造方法における製造工程の代表的な一例を示すフロー図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属担持触媒の担体となる水和物粒子を合成する(A)合成工程と、
得られた水和物粒子を水洗する(B1)洗浄工程と、
得られたゲル状の水和物粒子を、(D)成形工程で成形に求められる水分含有量となるように脱水する(B2)脱水工程と、
脱水された水和物粒子に触媒成分溶液を接触させることで触媒成分を担持させる(C1)接触担持工程と、
(D)成形工程で成形に求められる水分含有率になるように、前記触媒成分を担持した水和物粒子から担持済み触媒成分溶液をろ過する(C2)ろ過工程と、
前記触媒成分を担持したろ過済みの水和物粒子ゲルを所定の形状に成形して成形物を得る(D)成形工程と、
得られた成形物を乾燥する(E)乾燥工程と、
前記各工程のフローとは別に、(C2)ろ過工程で排出された担持済み触媒成分溶液を回収し、当該溶液に前記触媒成分を添加し溶解させて再生触媒成分溶液を調製する(C3)触媒成分溶解工程を含み、かつ、
(C3)触媒成分溶解工程で得られた再生触媒成分溶液を(C1)接触担持工程の触媒成分溶液として用いることを特徴とする金属担持触媒の製造方法。
【請求項2】
(E)乾燥工程に引き続き、乾燥後の成形物を焼成する(F)焼成工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の金属担持触媒の製造方法。
【請求項3】
(C1)接触担持工程における水分/固形分比が、質量基準で5〜20の範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載の金属担持触媒の製造方法。
【請求項4】
(A)合成工程で合成される水和物粒子が、チタニア、アルミナおよびチタニア・アルミナからなる群より選ばれるいずれかの水和物粒子であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の金属担持触媒の製造方法。
【請求項5】
(A)合成工程で合成される水和物粒子の合成原料が、チタニウムまたはアルミニウムの水酸化物、塩化物、硫酸塩化合物およびナトリウム塩化合物からなる群より選ばれる少なくともいずれかの化合物と、該選ばれた化合物と反応して水和物粒子を生成させる水酸化ナトリウム、塩酸および硫酸からなる群より選ばれる少なくともいずれかとの組み合わせのいずれかであることを特徴とする請求項4に記載の金属担持触媒の製造方法。
【請求項6】
(D)成形工程に供する段階で成形に求められる水分含有率が、45〜85質量%の範囲であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の金属担持触媒の製造方法。
【請求項7】
(C1)接触担持工程に供する触媒成分が、モリブデンまたはタングステンと、コバルトおよび/またはニッケルと、を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の金属担持触媒の製造方法。
【請求項8】
(C1)接触担持工程に供する触媒成分が、さらにリンおよび/またはホウ素を含むことを特徴とする請求項7に記載の金属担持触媒の製造方法。
【請求項9】
(C1)接触担持工程に供する触媒成分が、
三酸化モリブデン、モリブドリン酸、モリブデン酸、三酸化タングステン、タングステン酸およびタングストリン酸からなる群より選ばれる少なくともいずれかの化合物と、
酸化コバルト、炭酸コバルト、塩基性炭酸コバルト、水酸化コバルト、蓚酸コバルト、クエン酸コバルト、酢酸コバルト、酸化ニッケル、炭酸ニッケル、塩基性炭酸ニッケル、水酸化ニッケル、蓚酸ニッケル、クエン酸ニッケル、酢酸ニッケルおよびオキシ水酸化ニッケルからなる群より選ばれる少なくともいずれかの化合物と、
を含むことを特徴とする請求項7に記載の金属担持触媒の製造方法。
【請求項10】
(C1)接触担持工程に供する触媒成分が、さらにリン酸および/または硼酸からなることを特徴とする請求項9に記載の金属担持触媒の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−142607(P2008−142607A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−331324(P2006−331324)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【出願人】(000003285)千代田化工建設株式会社 (162)
【Fターム(参考)】