説明

金属材料及びその製造方法、並びに該金属材料を用いた電子機器用筐体

【課題】塗装膜との密着性を向上できると共に、基材の金属質感を維持できる金属材料、その製造方法、及びこれを用いた金属複合材料、電子機器用筐体を提供する。
【解決手段】マグネシウム、マグネシウム合金、アルミニウム、及びアルミニウム合金からなる群より選択される金属基材、及び該金属基材の表面に埋め込まれた、該金属基材よりも硬度の高い、平均粒径が1μm以上40μm以下の硬質粒子を有する金属材料。前記硬質粒子は、Al、SiO、ZnO、ZrO、及びTiOからなる群より選択される1種以上であると好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装膜の密着性や表面平滑性に優れた金属材料、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシウム合金、アルミニウム合金等の金属材料は、携帯電話やノートパソコンといった携帯用電子機器類の筐体や自動車部品などの部材の材料に利用されてきている。これらの材料は一般に、防食や美感向上を目的として、表面に透明樹脂等の塗装膜を設けて使用される。
【0003】
表面に塗装膜を設けた金属材料において、長期にわたってその美観や防食性を維持するためには、金属材料と塗装膜との密着強度を向上することが課題となる。特許文献1には、密着強度を上げるために、ショットブラスト処理によって表面を粗面化し、所定の表面粗さとした表面処理マグネシウム材が開示されている。
【特許文献1】特許第3440905号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ショットブラスト処理とは、細かい砂や鋼鉄、アルミナ等の粒子(ブラスト粒子)を金属の表面に吹きつけたり打ち当てたりして金属の表面を削り取り表面に凹凸をつける加工法である。このような方法では表面粗さの制御が難しく、表面粗さが大きい箇所では、基材の金属質感(金属光沢)が損なわれたり塗装膜の表面に凹凸がついたりすることで美観を損ねる可能性がある。
【0005】
また、金属基材としてマグネシウムやマグネシウム合金を使用した場合、削り取られたマグネシウム粉末が発火するおそれがある。さらに、加工後のブラスト粒子中にマグネシウム粉末が混入するため、ブラスト粒子の再利用が困難になるという問題もある。
【0006】
本発明はこのような問題に鑑み、塗装膜との密着性を向上できると共に、基材の金属質感を維持できる金属材料、その製造方法、及びこれを用いた金属複合材料、電子機器用筐体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の問題について鋭意検討した結果、基材金属よりも硬度の高い、平均粒径が1μm以上40μm以下の硬質粒子を下地金属基材の表面に吹き付けて、表面に埋め込むことによって、上記の要求特性を満たす金属材料が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明は、マグネシウム、マグネシウム合金、アルミニウム、及びアルミニウム合金からなる群より選択される金属基材、及び該金属基材の表面に埋め込まれた、該金属基材よりも硬度の高い、平均粒径が1μm以上40μm以下の硬質粒子を有する金属材料である(請求項1)。
【0009】
表面に埋め込まれた硬質粒子のアンカー効果によって、金属基材と塗装膜との密着力を向上することができる。また硬質粒子の平均粒径を1μm以上40μm以下の範囲にすることで、金属光沢を損ねることなく密着力を向上することができる。
【0010】
前記硬質粒子は、Al、SiO、ZnO、ZrO、及びTiOからなる群より選択される1種以上とすると好ましい。これらの材料からなる硬質粒子はマグネシウムやアルミニウムとメカノケミカル反応を生じ、機械的に埋め込まれるのみでなく化学的にも結合し、埋め込み強度が向上するため、塗装膜と金属基材との密着強度をより向上することができる。
【0011】
また本発明は、これらの金属材料の表面に塗装膜を有する金属複合材料を提供する(請求項3)。このような金属複合材料は防食性、塗膜密着性が優れている。特に、塗装膜の屈折率に近い屈折率を有する硬質粒子を用いることで、硬質粒子を殆ど見えなくすることができるため、金属光沢を損ねることなく密着性を向上することができる。
【0012】
本発明は、さらに、金属基材を準備する工程、該金属基材よりも硬度の高い、平均粒径が1μm以上40μm以下の硬質粒子を該金属基材の表面に吹き付けて金属基材の表面に埋め込む工程、を有する金属材料の製造方法を提供する(請求項4)。金属基材の表面に硬質粒子を吹き付けることで、金属基材の表面に効率良く硬質粒子を埋め込むことが可能となる。
【0013】
硬質粒子を金属基材の表面に吹き付けて埋め込む工程は、エアロゾルデポジション法により行うことが好ましい(請求項5)。エアロゾルデポジション法とは、微粒子をガスと混合してエアロゾル化し、ノズルを通して基板に噴射して被膜を形成する技術である。エアロゾル化された原料微粒子は、微小開口のノズルを通すことで超音速(数百m/s)までに加速される。加速された原料微粒子は基材表面に衝突し、衝突時に機械的に金属基材に埋め込まれる。更に、硬質粒子が金属基材とメカノケミカル反応を生じる場合は、化学的にも結合するため、埋め込み強度を向上させることができる。このような方法を用いることで、金属基材と硬質粒子とをより強固に結合させることができる。
【0014】
さらに本発明は、上記の金属材料を用いた電子機器用筐体を提供する(請求項6)。このような電子機器用筐体は、基材の金属光沢を維持できると共に塗装膜の密着性に優れており、商品価値を高められる。電子機器としては携帯電話等の携帯機器、パソコン等が例示できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の金属材料は、塗装膜との密着性を向上できると共に、基材の金属質感を維持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に使用する金属基材は、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金から選択する。なかでもマグネシウム及びマグネシウム合金は比重が小さいため、材料の軽量化を行うことができ、好ましい。特に、マグネシウム合金は強度に優れると共に反応性が高いので、硬質粒子との結合性が高く好ましい。金属基材はそのまま使用しても良いが、金属光沢を出すために鏡面研磨加工、ヘアライン加工、ダイヤカット加工等の表面処理をしておくと好ましい。
【0017】
本発明に使用する硬質粒子としては前記基材よりも硬度が高いものであれば種々の粒子を使用できる。金属基材とメカノケミカル反応を生じる硬質粒子を使用すると好ましい。例えばマグネシウム合金に対しては、Al、SiO、ZnO、ZrO、及びTiOからなる群より選択される1種以上とすると好ましい。硬質粒子の平均粒径は1μm以上40μm以下とする。平均粒径が1μm未満の場合はアンカー効果が得られにくく、塗膜の密着強度が低くなる。また40μmを超えると、表面粗さが大きくなり、塗装膜表面に凹凸が生じやすくなる。なお平均粒径はレーザー回折散乱法により測定することができる。
【0018】
硬質粒子の形状は、球状、針状、ウィスカ状等種々の物が使用できるが、径と長さの比(アスペクト比)が5以上のウィスカ状の硬質粒子を用いるとアンカー効果をより発揮でき、密着力を向上することができる。
【0019】
硬質粒子は、金属基材の表面に分散された状態で埋め込まれる。硬質粒子の量を金属基材の表面積全体に対して10%〜90%とすると、金属光沢を損なうことなく密着力を向上でき、好ましい。エアロゾルデポジション法によって硬質粒子を吹き付けて固定する場合は、エアロゾル濃度を調整することで、硬質粒子の量を調整できる。
【0020】
塗装膜としては、透明のアクリル樹脂などを用いた公知の塗料を利用することができ、湿式法(浸漬法、スプレー塗装、電着塗装など)、乾式法(PVD法、CVD法など)の方法で金属材料の表面に塗装膜を形成できる。塗装膜は有色、半透明、透明いずれでも良いが、透明であると基材の金属質感を維持することができ、好ましい。なお透明とは、基材が目視にて確認できる程度を言う。また、硬質粒子の屈折率との差が0.1以内の屈折率を持つ塗装膜を用いると、塗装膜の外側から観察した場合に硬質粒子がほとんど見えなくなるため、下地の金属光沢による金属質感をより維持することができる。
【0021】
図1及び図2は本発明の金属複合材料を模式的に示す断面図である。金属基材1の表面に硬質粒子2(図2では硬質粒子4)が埋め込まれている。硬質粒子の一部は金属基材の表面に埋め込まれており、一部は露出している。この表面に塗装膜3が形成される。このような構成となることで金属基材1と塗装膜3との密着性が向上する。また図2に示すように、ウィスカ状の硬質粒子4は、その形状から、金属基材1の表面に埋め込まれやすく、また塗装膜3の中にもより深く入り込むことができるためアンカー効果をより発揮でき、金属基材1と塗装膜3との密着力を向上できる。
【0022】
次に発明を実施するための最良の形態を実施例により説明する。実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0023】
(実施例1〜4)
金属基材としてマグネシウム合金を用いる。AZ91合金相当の組成を有する、双ロール連続鋳造法により得られた圧延板を準備する。圧延は、加工対象(圧延対象)の加熱温度を200〜400℃、圧延ロールの加熱温度150〜250℃、1パスあたりの圧下率を10〜50%の条件で複数パス行い、厚さが0.5mmの圧延板を作製する。得られた圧延材にレベラー加工、研磨加工を順に施し、所望の大きさに切断した切断片に温間プレス加工(プレス温度200〜400℃)を施して、マグネシウム合金筐体を得る。得られたマグネシウム合金筐体に金属光沢を出すため、表面に鏡面研磨加工を施す。
【0024】
(エアロゾルデポジション法による硬質粒子の埋め込み)
1kPa以下に減圧された真空チャンバ内に設置されたマグネシウム合金基材に対して、1mm以下の微小開口ノズルから、表1に記載の硬質粒子とヘリウムガスからなるエアロゾルを亜音速(流速数百m/sec)で噴射し、硬質粒子をマグネシウム合金基材の表面に埋め込む。
【0025】
(塗装膜の形成)
得られた金属材料の表面に、無色透明なアクリル樹脂塗料をスプレー塗布し、150℃10分焼き付けて塗装膜を形成した後、以下の評価を行う。
【0026】
(透明性評価)
得られた金属酸化物皮膜の透明性を目視により評価する。白濁等が全く無く透明である場合を◎、白濁等が殆ど無く透明である場合を○、白濁等があり透明性が悪い場合を×とする。
【0027】
(表面状態:表面の平滑性)
塗装膜表面に凹凸が生じているかどうかを目視により評価する。凹凸が無い場合を○、凹凸があり表面状態が悪い場合を×とする。
【0028】
(表面状態:金属光沢)
塗装膜を塗布した状態において、下地である金属基材の金属光沢が確認できるかどうかを目視により評価する。金属光沢が確認できる場合を○、金属光沢が無くなり、表面状態が悪い場合を×とする。
【0029】
(塗装膜の密着性評価)
JISK5600−5−6に準じて、クロスカット法により塗装膜の密着性を評価する。すなわち、塗装膜に1mm間隔で縦横に11本ずつ切り込みを入れ、その上に粘着テープを貼り付けて剥離し、マグネシウム合金表面から剥離した塗装膜の個数を数える。100個全てが剥離しないものを◎、剥離する数が10個以下の物を○、11個以上剥離する物を×とする。
【0030】
(比較例1)
表面に鏡面研磨加工を施したマグネシウム合金基材に対して、アルミナ粒子を用いてショットブラスト処理を施す。さらに、脱脂→酸エッチング→脱スマット→表面調整という手順で下地処理を行った後、化成処理を行う。その後、実施例1〜4と同様に塗装膜を形成し、一連の評価を行う。
(比較例2、3)
表2に示す硬質粒子を用いること以外は実施例1〜5と同様にして、マグネシウム合金表面への硬質粒子の埋め込み及び塗装膜の形成を行い、一連の評価を行う。以上の結果を表1及び表2に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
平均粒径が1μm〜40μmの硬質粒子を用いた実施例1〜5では塗装膜の密着性が良く、また透明性、塗装膜の平滑性、金属光沢も優れている。硬質粒子としてSiOを用いた実施例2では、透明性が特に優れている。これは、SiOの屈折率(1.5)がアクリル塗装膜の屈折率(1.5)に近いためと思われる。またウィスカ状の粒子を用いた実施例3では密着性に優れており、ウィスカ状の粒子は特にアンカー効果が高いことがわかる。
【0034】
ブラスト処理を行った比較例1は透明性は良好であったが、塗装膜の平滑性、金属光沢、密着性共に要求特性を満たさない結果となった。また平均粒径が小さい硬質粒子を用いた比較例2では、密着性が悪く、逆に平均粒径が大きい硬質粒子を用いた比較例3では、密着性は良好であったが塗装膜の表面に凹凸が生じる結果となった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の金属複合材料を示す、断面模式図である。
【図2】本発明の金属複合材料を示す、断面模式図である。
【符号の説明】
【0036】
1 金属基材
2 硬質粒子
3 塗装膜
4 硬質粒子(ウィスカ状)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム、マグネシウム合金、アルミニウム、及びアルミニウム合金からなる群より選択される金属基材、及び該金属基材の表面に埋め込まれた、該金属基材よりも硬度の高い、平均粒径が1μm以上40μm以下の硬質粒子を有する金属材料。
【請求項2】
前記硬質粒子は、Al、SiO、ZnO、ZrO、及びTiOからなる群より選択される1種以上である、請求項1に記載の金属材料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の金属材料の表面に塗装膜を有することを特徴とする、金属複合材料。
【請求項4】
金属基材を準備する工程、該金属基材よりも硬度の高い、平均粒径が1μm以上40μm以下の硬質粒子を該金属基材の表面に吹き付けて該金属基材の表面に埋め込む工程、を有する、金属材料の製造方法。
【請求項5】
エアロゾルデポジション法により、前記硬質粒子を前記金属基材の表面に吹き付けて金属基材の表面に埋め込む、請求項4に記載の金属材料の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の金属材料、若しくは請求項3に記載の金属複合材料を用いた、電子機器用筐体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−59466(P2010−59466A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−225674(P2008−225674)
【出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】