説明

金属材料製造方法及び装置

【課題】金属板の表面にロウ材層を一体化した金属材料を簡略な設備で高能率に製造でき、且つ、広幅の金属板に対しても幅方向に高い厚み精度のロウ材層を形成できるようにする。
【解決手段】金属板1を繰出す巻戻機2と、巻戻機2から横方向に繰出した金属板1をU字状の垂下部16を形成して搬送する案内部17と、内部に溶融ロウ材7を収容して金属板1の垂下部16を浸漬させることにより金属板1表面に溶融ロウ材7を塗布する溶融ロウ材塗布装置4と、溶融ロウ材塗布装置4によって表面に溶融ロウ材7が塗布された金属板1を冷却してロウ材固化膜を形成する冷却手段5と、冷却手段5によりロウ材固化膜が形成された金属板1を圧下することにより金属板1の表面に平坦面のロウ材層が形成された金属材料22を得る圧下装置6と、圧下装置6で製造した金属材料22を巻き取る巻取機3とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属材料製造方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば、母材であるステンレス或いは耐熱合金等の金属板の両面又は片面に、ニッケル(Ni)等を主成分とするロウ材を層状に一体化させた金属材料を製造することが行なわれるようになっている。
【0003】
このようなロウ材層を有する金属材料を製造する方法を示すものとしては、所定形状に切断した各金属板の表面にロウ材粉末を粉末圧延方法により固着し、続いて焼結することによりロウ材層を一体に備えた金属材料をバッチ方式で製造するものが特許文献1に示されている。
【0004】
また、基板金属合金シートに、シート状のクラッドを圧着接合してクラッド自己ロウ付け合金を製造する方法が特許文献2に示されている。
【0005】
また、固相状態の皮材用板材の表面に芯材用溶湯が接触するように、冷却ロールによって形成された鋳造空間に連続的に供給して、芯材用溶湯を凝固させることにより、芯材表面に皮材が接合されたクラッド材を連続的に製造する方法が特許文献3に示されている。
【特許文献1】特開2004−025251号公報
【特許文献2】特開2002−210589号公報
【特許文献3】特開2002−263799号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に示すロウ材圧着材を製造する方法では、所定形状に切断した各金属板の表面にロウ材層を形成する作業をバッチ方式で行っているために、作業が繁雑で生産性が低いという問題があり、しかもロウ材層の層厚を高い精度で一定に保持することが技術的に難しいという問題がある。
【0007】
また、特許文献2に示すクラッド自己ロウ付け合金を製造する方法では、金属合金シートにシート状クラッドを圧着接合するため、シート状クラッドを予め製造しておく必要があり、このための設備と手間が必要であり、よって設備費が増加すると共に製造コストが増加するという問題がある。更に、極薄のシート状クラッド、或は広幅のシート状クラッドが要求される場合には、設備が更に複雑になって製造工程も増加するという問題がある。
【0008】
また、特許文献3に示すように、固相状態の皮材用板材の表面に、ノズルから吐出した芯材用溶湯を鋳造空間で接触させて冷却することにより皮材が接合されたクラッド材を製造する方法では、ノズルから鋳造空間に芯材用溶湯を吐出して皮材用板材表面に固化させる際の温度管理が非常に難しい問題があり、且つ装置が非常に複雑になる問題がある。特に、広幅の皮材用板材に適用する場合には幅方向の温度差が生じて更に製造が困難になる問題がある。更に、作業の停止時には前記ノズル内部や鋳造空間近傍に芯材用溶湯の固化物が残るために、この固化物を除去する作業が必要になって、作業能率が低下するという問題がある。
【0009】
本発明は、上記実情に鑑みてなしたもので、金属板の表面にロウ材層を一体化した金属材料を簡略な設備で高能率に製造することができ、且つ、広幅の金属板に対しても幅方向に平坦面のロウ材層を容易に形成できるようにした金属材料製造方法及び装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の金属材料製造方法は、横方向移動する金属板にU字状の垂下部を形成し、該垂下部を溶融ロウ材に浸漬させることにより金属板の表面に溶融ロウ材を塗布し、続いて溶融ロウ材が塗布された金属板を冷却することにより溶融ロウ材を固化させてロウ材固化膜を形成し、続いてロウ材固化膜が形成された金属板を圧下することにより平坦面のロウ材層が形成された金属材料を得ることを特徴とする。
【0011】
上記金属材料製造方法において、前記垂下部を溶融ロウ材に浸漬して引き上げる側の金属板に塗布された溶融ロウ材の余剰分を除去することにより、金属板表面に塗布される溶融ロウ材の膜厚を制御することは好ましい。
【0012】
また、上記金属材料製造方法において、前記溶融ロウ材と金属板の垂下部を非酸化性雰囲気に保持することは好ましい。
【0013】
本発明の金属材料製造装置は、金属板を繰出す巻戻機と、該巻戻機から横方向に繰出した金属板にU字状の垂下部を形成して搬送する案内部と、内部に溶融ロウ材を収容して前記金属板の垂下部を浸漬させることにより金属板表面に溶融ロウ材膜を形成する溶融ロウ材塗布装置と、該溶融ロウ材塗布装置により表面に溶融ロウ材膜が形成された金属板を冷却してロウ材固化膜を形成させる冷却手段と、該冷却手段により表面にロウ材固化膜が形成された金属板を圧下することにより平坦面のロウ材層が形成された金属材料を得る圧下装置と、該圧下装置で製造した金属材料を巻き取る巻取機と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
上記金属材料製造装置において、前記垂下部を溶融ロウ材に浸漬して引き上げる側の金属板に接近して配置され、金属板に塗布された溶融ロウ材の余剰分を除去することにより金属板表面における溶融ロウ材膜の膜厚を調整する塗布量調整装置を備えたことは好ましい。
【0015】
また、上記金属材料製造装置において、前記溶融ロウ材塗布装置が、ロウ材を収容して溶融するロウ材溶融炉と、該ロウ材溶融炉と前記金属板の垂下部を包囲するケーシングと、該ケーシング内に非酸化性ガスを供給する非酸化性ガス供給手段とからなることは好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の金属材料製造方法及び装置によれば、移動する金属板の表面に平坦面のロウ材層が一体に形成された金属材料を簡略な装置構成にて高能率に製造することができ、且つ、広幅の金属板に対しても平坦面のロウ材層を容易に形成できるという優れた効果を奏し得る。
【0017】
また、垂下部を溶融ロウ材に浸漬して引き上げる側の金属板に塗布された溶融ロウ材の余剰分を除去することにより、金属板表面に塗布される溶融ロウ材膜の膜厚を一定に制御できる効果がある。
【0018】
また、溶融ロウ材塗布装置を非酸化性雰囲気に保持したので、金属板表面に対する溶融ロウ材の付着性が高められる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
図1は本発明の金属材料製造方法を実現する金属材料製造装置の形態の一例である。
【0020】
図1中、1はロウ材接着層を備えた金属材料を製造するための母材である金属板であり、該金属板1はロール状に巻かれており、巻戻機2に装着されて繰出されるようになっており、巻戻機2から横方向に繰出された金属板1の先端は前記巻戻機2と隔てて設けられた巻取機3に巻き取られるようになっている。そして、前記巻戻機2と巻取機3との間には、溶融ロウ材塗布装置4と、冷却手段5と、圧下装置6が順次配置されている。
【0021】
前記、溶融ロウ材塗布装置4は、ロウ材を収容して加熱することにより溶融ロウ材7を生成するロウ材溶融炉8と、該ロウ材溶融炉8を包囲するケーシング9とを備えており、該ケーシング9には窒素N2等の非酸化性ガス10を供給する非酸化性ガス供給手段11を設けて、ケーシング9内部を非酸化性雰囲気に保持するようにしている。前記ロウ材溶融炉8には電気炉或はガス炉等の種々の加熱方式のものを用いることができる。
【0022】
前記ケーシング9内の上部には、前記金属板1の搬送方向である横方向に間隔を隔てて配置した支持ローラ12,13と、該支持ローラ12,13の夫々の下側に対応して配置され、金属板1に接近して金属板1の移動を案内するようにしたガイドローラ14a,14b、15a,15bとを備えて、金属板1をU字状に垂下させる垂下部16を形成するようにした案内部17が設けられており、前記U字状の垂下部16の下端を、前記ロウ材溶融炉8の溶融ロウ材7中に浸漬させるようにしている。
【0023】
この時、図1中右側のガイドローラ15a,15bは、塗布量調整装置18を構成している。即ち、矢印方向に移動する金属板1は垂下部16の浸漬によって表面に溶融ロウ材7が付着し、金属板1が溶融ロウ材7から引き上げられることにより金属板1表面に所要の厚さで塗布されるが、前記ガイドローラ15a,15bは付着した溶融ロウ材7の余剰分を除去し、これによって金属板1表面に塗布される溶融ロウ材膜の厚さが調整されるようにしている。このため、前記ガイドローラ15a,15bは図1中矢印で示すように相対的に近接・離反を行って塗布される溶融ロウ材膜の厚さを調節できるようにしている。なお、前記塗布量調整装置18は、前記ガイドローラ15a,15b以外に、ブレードコータ等に用いらるブレードを備えて金属板1に塗布された溶融ロウ材7の余剰分を除去する方式等、種々の方式のものを採用することができる。
【0024】
前記冷却手段5は、前記溶融ロウ材塗布装置4により所要の厚さの溶融ロウ材膜を形成するように塗布された金属板1を導くようにした冷却室19を備えており、該冷却室19に備えた供給口20から空気等の冷却流体21(ガス)を供給することにより、前記金属板1に塗布された溶融ロウ材膜を固化させてロウ材固化膜を形成するようにしている。前記冷却手段5は、金属板1に単に空気等の冷却流体21を吹付けるようにした簡単な構成のものでもよい。
【0025】
前記圧下装置6は、前記冷却手段5によってロウ材固化膜が形成された金属板1を導いて圧下ロール6a,6bにより圧下するようになっており、圧下装置6で前記ロウ材固化膜を有する金属板1を圧下すると、平坦面のロウ材層を備えた金属材料22が製造される。前記圧下装置6で製造された金属材料22は巻取機に巻き取られる。
【0026】
次に、図1に示した形態の作動を説明する。
【0027】
巻戻機2から繰出された金属板1の先端を、溶融ロウ材塗布装置4のケーシング9内に備えた案内部17の支持ローラ12に掛けた後、ガイドローラ14a,14bの間を上から下に向けて通し、続いてガイドローラ15a,15bの間を下から上に向けて通した後、支持ローラ13に掛けて冷却手段5を通し、更に圧下装置6を通して巻取機3に巻き付ける。このとき、前記U字状に垂下する垂下部16の下端部は、破線で示す如く、後にロウ材溶融炉8内に生成させる溶融ロウ材7の液面よりも高い位置になるように調整しておく。
【0028】
続いて、ロウ材成分を含有するロウ材原料を収容したロウ材溶融炉8を起動して内部に溶融ロウ材7を生成させる。
【0029】
次に、冷却手段5及び圧下装置6を駆動する。この時、圧下装置6に位置する金属板1は圧延されることがなく、金属板1に前記したロウ材固化膜が形成されると圧延が行われるように圧下ロール6a,6bの間隔が調整されている。
【0030】
次に、前記巻戻機2により金属板1を繰出すことにより図1中実線で示すようにU字状に垂下する垂下部16の下端部を溶融ロウ材7に浸漬させると同時に、巻戻機2による金属板1の繰出し速度と、巻取機3による金属板1の巻取り速度が等速になるように調整して、前記垂下部16の下端部が常に一定した長さで溶融ロウ材7に浸漬されるようにする。
【0031】
すると、垂下部16の金属板1の表面には溶融ロウ材7が付着し、金属板1が溶融ロウ材7から引き上げられることにより金属板1の表面には所要の厚さの溶融ロウ材7が塗布される。溶融ロウ材7が塗布された金属板1はガイドローラ15a,15bによる塗布量調整装置18に導かれることにより、ガイドローラ15a,15bの間隔によって溶融ロウ材7の余剰分が除去され、これによって図2に示す如く金属板1表面に所定厚さの溶融ロウ材膜23が形成される。
【0032】
溶融ロウ材塗布装置4によって所要厚さの溶融ロウ材膜23が塗布された金属板1は冷却手段5の冷却室19に導かれて冷却流体21により冷却され、前記金属板1に塗布された溶融ロウ材膜23が固化されることにより図3に示す如くロウ材固化膜24を形成する。
【0033】
前記冷却手段5によってロウ材固化膜24が形成された金属板1は圧下装置6に導かれて圧下され、これにより、図4に示す如く金属板1の表面に所定の層厚で且つ平坦面のロウ材層25が一体に形成された金属材料22が製造される。圧下装置6にて製造された金属材料22は巻取機3に巻き取られる。
【0034】
上記したように、金属板1の表面にロウ材層25が一体に形成された金属材料22は、前記ロウ材層25が金属板1に強固に一体化されているため、前記金属材料22の切断、打ち抜き、曲げ等の加工を行っても、前記ロウ材層25が金属板1から剥離する問題は生じない。従って、前記金属材料22を種々の形状に加工した加工品のロウ材層25の面に目的材料を密着させた状態にし、前記加工品と目的材料をロウ材層25が溶融する温度で加熱処理することにより、前記加工品と目的材料を一体に接着して目的に製品を製造することができる。この時、ロウ材層25は平坦面に形成されているため、目的材料を良好に密接させて接着することができる。
【0035】
なお、本発明は上記形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の金属材料製造方法を実現する金属材料製造装置の形態の一例を示す側面図である。
【図2】金属板の表面に溶融ロウ材膜が塗布された状態を示す断面図である。
【図3】金属板の表面にロウ材固化膜が形成された状態を示す断面図である。
【図4】金属板の表面にロウ材層が形成された状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 金属板
2 巻戻機
3 巻取機
4 溶融ロウ材塗布装置
5 冷却手段
6 圧下装置
7 溶融ロウ材
8 ロウ材溶融炉
9 ケーシング
11 非酸化性ガス供給手段
16 垂下部
17 案内部
18 塗布量調整装置
22 金属材料
23 溶融ロウ材膜
24 ロウ材固化膜
25 ロウ材層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
横方向移動する金属板にU字状の垂下部を形成し、該垂下部を溶融ロウ材に浸漬させることにより金属板の表面に溶融ロウ材を塗布し、続いて溶融ロウ材が塗布された金属板を冷却することにより溶融ロウ材を固化させてロウ材固化膜を形成し、続いてロウ材固化膜が形成された金属板を圧下することにより平坦面のロウ材層が形成された金属材料を得ることを特徴とする金属材料製造方法。
【請求項2】
前記垂下部を溶融ロウ材に浸漬して引き上げる側の金属板に塗布された溶融ロウ材の余剰分を除去することにより、金属板表面に塗布される溶融ロウ材の膜厚を制御することを特徴とする請求項1に記載の金属材料製造方法。
【請求項3】
前記溶融ロウ材と金属板の垂下部を非酸化性雰囲気に保持することを特徴とする請求項1又は2に記載の金属材料製造方法。
【請求項4】
金属板を繰出す巻戻機と、該巻戻機から横方向に繰出した金属板にU字状の垂下部を形成して搬送する案内部と、内部に溶融ロウ材を収容して前記金属板の垂下部を浸漬させることにより金属板表面に溶融ロウ材膜を形成する溶融ロウ材塗布装置と、該溶融ロウ材塗布装置により表面に溶融ロウ材膜が形成された金属板を冷却してロウ材固化膜を形成させる冷却手段と、該冷却手段により表面にロウ材固化膜が形成された金属板を圧下することにより平坦面のロウ材層が形成された金属材料を得る圧下装置と、該圧下装置で製造した金属材料を巻き取る巻取機と、を備えたことを特徴とする金属材料製造装置。
【請求項5】
前記垂下部を溶融ロウ材に浸漬して引き上げる側の金属板に接近して配置され、金属板に塗布された溶融ロウ材の余剰分を除去することにより金属板表面における溶融ロウ材膜の膜厚を調整する塗布量調整装置を備えたことを特徴とする請求項4に記載の金属材料製造装置。
【請求項6】
前記溶融ロウ材塗布装置が、ロウ材を収容して溶融するロウ材溶融炉と、該ロウ材溶融炉と前記金属板の垂下部を包囲するケーシングと、該ケーシング内に非酸化性ガスを供給する非酸化性ガス供給手段とからなることを特徴とする請求項4又は5に記載の金属材料製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−262522(P2007−262522A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−91020(P2006−91020)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】