説明

金属溶解用ルツボ及びその製造方法

【課題】ジルコニア粉末の表面塗布ではなく、液状のジルコニウムキレートをバインダとして用いて、原料のCaOを成形して焼成することで液体から析出するジルコニアによってCaOを均一に被覆して、均一なCaO−ZrO共晶を形成することで、溶損の防止と、内表面に付着した溶鋼の剥がし作業と同時に改質層が剥がされることのない強固な改質が得られる金属溶解用ルツボ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】真空溶解炉で使用される酸化カルシウム(CaO)を主成分とする金属溶解用ルツボにおいて、原料となる前記CaOの粉体を液状のジルコニウムキレートをバインダとして成形、焼成して、骨材のCaOに均一なCaO−ZrO共晶を析出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不純物含量の少ない高純度合金を製造する際に用いられる金属溶解用ルツボおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
材料に含まれる不純物元素であるC、N、O、S等は、合金の加工性、靱性、耐食性等を低下させるという問題を生じるとともに、また、材質が均一化されにくく製造工程において歩留まりを低下させ材料の特性を最大限に発揮できないという問題を起こしていた。そのため、これらの不純物を低減させて、金属を超高純度化し、材料の特性を最大限に発揮する方法が種々検討されており、その1つの方法として真空誘導溶解炉(VIM)を用いて高真空下で溶解・精錬する方法が知られている。
【0003】
この真空溶解に用いられる溶解用ルツボの概略図を図4に示す。
真空溶解法の概要は、まず、ルツボ01に溶解する金属材料02を入れ、その後、ルツボ01内を排気し、アルゴン(Ar)ガスで置換することによってルツボ01内の酸素量を低いレベルにする。そしてArガス雰囲気下で金属材料02が溶け液体になる(溶落)。その後、溶融温度が目標温度に達した後、脱酸剤であるアルミニウム(Al)を添加して、出鋼する。
金属材料の特性は酸化物を作る酸素が材質に影響し、真空溶解は、酸素量を極限まで減らすことができるため、材料特性を飛躍的に向上させることができるが、微量の酸素は残る。そこで脱酸効果の高い脱酸剤であるAlを添加することで、微量酸素も取り除いている。
また、金属中のSやOを効果的に低減させるため、真空溶解では、溶鋼を清浄にする効果のあるカルシア(CaO)ルツボが使われている。
【0004】
しかしながら、このように真空溶解で用いるCaOルツボは、激しい溶損減肉により3〜5回の使用で、交換せねばならず、ルツボの寿命が短いという問題がある。特に、図4に示した溶鋼界面に近い側面03や、ルツボ底に近い側面04では溶損が激しい。
このCaOルツボの損傷は、溶鋼の脱酸に用いられるAlとの反応による低融点化合物のCaO−Al共晶の生成による。すなわち、このCaO−Al共晶の融点は約1400℃であるため、真空溶解において鉄を溶解する際の溶解温度の約1600℃によって数mm単位で容損するためであった。
【0005】
そこで、本出願人は、ルツボの寿命を延ばすために、CaOとの共晶温度が高いジルコニア(ZrO)が有効なことを見出し、ジルコニア粉末をエタノールに分散させたスラリーをルツボ表面に塗布し、これを1500℃程度の高温で焼成することで、高融点(約2260℃)のCaO−ZrOを形成することを見出し、ルツボの寿命が飛躍的に向上することを出願している(未公開)。
【0006】
この従来技術について、図5を参照して概要を説明する。まず、塗布すべき材料(カルシア安定化ジルコニア(CSZ)粉末、分散媒、エタノール)を準備する(S01)。次に材料を、エタノールを溶媒としてスラリーを作る(S02)。次に、既存のCaOルツボの前処理としてペーパーによって表面の平滑化を行い(S03)、エタノール、スラリーの塗布を行う(S04)。そして、自然または熱風乾燥(S05)後に、1600℃での焼成(S06)を行って、保管(S07)という一連の処理を行うことで、ルツボの内側面にCaO−ZrOの共晶を析出させている。
【0007】
一方、真空溶解に用いるルツボの化学的侵食を防ぐ対策として、例えば特許文献1が知られている。この特許文献1には、無機質耐火物よりなるルツボの内周面を含む器壁の表面にジルコニア(ZrO)を残留させた金属溶解用ルツボが示されている。
【0008】
【特許文献1】特開昭61−116284号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、この特許文献1に開示されたルツボの器壁の表面に残留させるジルコニアは、ジルコニア化合物液を焼成面に塗布したのみである。この方法では、極微量のジルコニアが焼成されたカルシア表面に付着するだけであり、劇的な効果は得られ難い。塩から析出する単斜晶ジルコニアは、量的に少ないことと安定な焼成面ではCaOが安定で反応しにくい。従って、本発明の様に研磨されたCaOルツボの器壁の表面でCaOとの反応による安定化ジルコニア層は、生成しないと考えられる。従って、室温では単斜晶系晶であるが、温度を上げると単斜晶から正方晶へ、さらに温度を上げると立方晶へ構造相転移することが知られており、この構造相転移は体積変化を伴うため、ルツボ表面から簡単に剥離してしまいCaOルツボの改質に寄与しないものである。そのため、ジルコニアをルツボに残留させる特許文献1に開示されたルツボは残留ジルコニアが破壊に至り、その後は化学的侵食を防げないという問題がある。
【0010】
さらに、特許文献1に開示された方法は、塩化ジルコニウム等の化合物の水溶液をルツボ内面に減圧含浸して、加熱することで空孔内に残留したジルコニウム化合物をジルコニアに転化しているが、CaOは水和性が高く、この方法を用いるとCaOが水により膨張するため、CaOルツボの基材を損傷してしまい適しないものである。
【0011】
また、真空溶解に用いるCaOルツボは、前記したような化学的侵食による減肉によって割れが生じて破損に至ることがあるが、CaOルツボ自体は他の材質のルツボに比べて低強度であるため、機械的強度不足、内部熱応力によって亀裂が発生しやすく、これらの原因で数回の溶鋼によって亀裂が発生し使用できなくなることもある。
【0012】
また、前記従来技術においては、ジルコニア粉末の粒径は、数ミクロンであるため、塗布による改質深さは数mm程度が限界であり、正常な溶解(十分に溶鋼粘度が下がりルツボから排出される場合)では問題は生じないが、溶解材料にクロムが多い場合など溶鋼粘度が高い溶解では排出が上手くいかないと残材がルツボ内に付着し、次に溶解する材料への混入を防止するためにルツボ表面から除去する際に、残材と同時に改質層が剥がれてしまうおそれがある。
【0013】
図6に示すようにルツボの内表面Aの改質層Bが剥がされると、改質効果がなくなり、剥離個所Cから溶損Dが進むため既存ルツボと同様に3〜5回の使用で、ルツボを交換しなければならない問題がある。
その結果、本来的には溶解回数が10回以上使用可能な改質ルツボでありながらこれを壊して交換しなければならず溶解コストが向上し、ルツボ寿命延長による製造設備、原材料等に関するコスト低減効果を得ることができない。
【0014】
そこで、本発明はかかる従来技術の問題点に鑑み、ジルコニア粉末の表面塗布ではなく、液状のジルコニウムキレートをバインダとして用いて、原料のCaOを成形して焼成することで液体から析出するジルコニアによってCaOを均一に被覆して、均一なCaO−ZrO共晶を形成することで、溶損の防止と、内表面に付着した溶鋼の剥がし作業と同時に改質層が剥がされることのない強固な改質が得られる金属溶解用ルツボ及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するため、本発明に係る金属溶解用ルツボは、真空溶解炉で使用される酸化カルシウム(CaO)を主成分とする金属溶解用ルツボにおいて、原料となる前記CaOの粉体を液状のジルコニウムキレートをバインダとして成形、焼成して、CaOに均一なCaO−ZrO共晶を析出させたルツボ焼成体からなることを特徴とする。
【0016】
かかる発明によれば、ジルコニウムを液状のジルコニウムキレートの形態で骨材となるCa0のバインダとして用いることによって、従来技術のようなジルコニア粉末をエタノールに分散させたスラリーをルツボ表面に塗布するものに比べて、ルツボを構成する骨材のCaO全体にCaO−ZrO共晶を析出させたことができ、鉄の溶解時の溶解温度が約1600℃以上となることによる溶損の進展を確実に防止することができる。
また、従来技術のように表層だけの改質ではなく、ルツボ成形体全体にわたってCaO−ZrO共晶を析出させるため、機械的強度も向上してCaOルツボの傾動時に外表面に亀裂が発生することを防止でき、ルツボの寿命を延長できる。
【0017】
液状のジルコニウムには、Zrに化合物のついたジルコニウムアシレートと、Zrの周囲をO、Rで修飾したジルコニウムキレートとの2種類の形態がある。
製品形態としては共に同じ液体でありながら化合形態の異なる2種類を比較してジルコニウムキレートによるバインダの方が機械的強度に優れていることを実験的に確認した。
【0018】
また、液体から析出するジルコニア(ZrO)は、超微量であり少ない添加量でCaOを被覆し、焼成によって均一な共晶が得られるため、少量のジルコニアによって溶損の進展を確実に防止するとともに、機械的強度を向上できる。
【0019】
また、好ましくは、前記ジルコニウムキレートから析出したジルコニウムが酸化して派生したジルコニア(ZrO)成分が前記ルツボ焼成体の0.3〜3重量%含まれているとよい。
0.3%より少ないと、CaO−ZrO共晶の析出が少なくなって溶損防止および強度向上の効果が得られ難くなり、3%を超えると原料コストが増大するので、かかる範囲が原料コストと溶損防止および強度向上との観点から適切な範囲が、0.3〜3重量%となる。
【0020】
また、好ましくは、前記焼成前にルツボ成形体の表面に、さらに液状のジルコニウムキレートが塗布されて、該表面にCaO−ZrO共晶を析出させるとよい。
このように、原料となるCaOの粉体を液状のジルコニウムキレートをバインダとして成形した後、焼成前にさらに液状のジルコニウムキレートをルツボ成形体の内側表面、外側表面、または内側と外側の両表面に塗布することで、強度向上を必要とする箇所に、簡単に、一層の強度向上と溶損防止を図ることができる。その効果は、液状のジルコニウムキレートを塗布したルツボを焼成して、高融点のCaO−ZrOを析出することにより、確実に発揮できる。
【0021】
また、本発明に係る金属溶解用ルツボの製造方法は、真空溶解炉で使用される酸化カルシウム(CaO)を主成分とする金属溶解用ルツボの製造方法において、原料となる前記CaOの粉体を液状のジルコニウムキレートをバインダとして用いて成形しその後焼成して製造することを特徴とする。
【0022】
かかる発明によれば、ジルコニウムを液状のジルコニウムキレートの形態でバインダとして用いて混練して成形し、その後焼成して製造するため、従来技術のようなジルコニアを表層に塗布するものに比べて、ルツボ成形体を構成するCaO全体にCaO−ZrO共晶を析出させたことができ、鉄の溶解時の溶解温度が約1600℃以上となることによる溶損の進展を確実に防止することができる。
また、従来技術のように表層だけの改質ではなく、ルツボ成形体全体にわたってCaO−ZrO共晶を析出させるため、機械的強度も向上してCaOルツボの割れやすさが改善される。
【0023】
また、製造方法の発明において好ましくは、原料コストと溶損防止および強度向上との観点からジルコニウムキレート中のジルコニア(ZrO)成分がルツボ全体の0.3〜3重量%含むとよい。
【0024】
さらに、好ましくは、前記焼成される前のルツボ成形体の表面に対してさらに、前記液状のジルコニウムキレートを塗布してから焼成することを特徴とする。
かかる構成によれば、原料となるCaOの粉体を液状のジルコニウムキレートをバインダとして成形した後、焼成前にさらに液状のジルコニウムキレートをルツボ成形体の内側表面、外側表面、または内側と外側の両表面に塗布することで、強度向上を必要とする箇所に、簡単に、一層の強度向上と溶損防止を図ることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ジルコニア粉末の表面塗布ではなく、液状のジルコニウムキレートをバインダとして用いて、原料のCaOを成形して焼成することで液体から析出するジルコニアによってCaOを均一に被覆して、均一なCaO−ZrO共晶を形成することで、溶損の防止と、内表面に付着した溶鋼の剥がし作業と同時に改質層が剥がされることのない強固な改質が得られる金属溶解用ルツボ及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【実施例1】
【0027】
本発明の実施例について、図1を参照しながら説明する。
図1は、酸化カルシウム(CaO)(以下カルシアという)を主成分とする金属溶解用ルツボの製造手順を示す。
まず、骨材となるカルシアの粉末を準備する(S1)。カルシアの粉末は、粒径3〜1mmの粗粒と、粒径1〜0.3mmの中粒と、0.3mm以下の微粒と、さらに100μmの微粉とを用意する。
次に、室温で形状を保持するためのバインダとしてPVP樹脂(ポリビニルピロリドン)を10%エタノール溶液あるいは、粉末で添加する(S2)。さらに、液体の有機ジルコニウムであるジルコニウムキレートを添加(S3)するとともに、液体の分散媒のエタノールを添加(S4)する。そして、これら、カルシアの粒子、高分子PVP、ジルコニウムキレート、エタノールを混合して混練器1によって混練する(S5)。
【0028】
カルシア粉末の配分割合は、粒径3〜1mmの粗粒を約20%(以下重量%を示す)と、粒径1〜0.3mmの中粒を約60%と、0.3mm以下の微粒を約20%として重量比で1対3対1の割合で配合すると成形性、焼結後の強度に好ましい。
さらに、100μmの微粉については1〜10%程度で調整され、高分子PVPは約0.5%添加するのが好ましい。
また、ジルコニウムはルツボ全体においては0.3〜3%含むのが好ましい。ジルコニウムが0.3%より少ないと、CaO−ZrO共晶の析出が少なく、溶損防止および強度向上の効果が得られ難くなり、3%を超えると原料コストが増大するので、かかる範囲が原料コストと溶損防止および強度向上との観点から適切である。
【0029】
次に、中子2、外型4、底板6からなる成形型8に、前記混練された混合物を流入してルツボ成形体10を成形する(S6)。その後、成形型8からルツボ成形体10を取り出して、200℃で1時間乾燥し(S7)、1600℃で4時間焼成して(S8)、CaOルツボ11を構成するルツボ焼成体12が製造される。
このようにして製造されたCaOルツボは、バインダとしての液体のジルコニウムキレートから析出するジルコニア(ZrO)が、骨材のCaOを被覆し、焼成によって均一なCaO−ZrO共晶を析出するため、少量のジルコニアによって、溶損の進展を確実に防止するとともに、機械的強度を向上できる。
【0030】
また、ジルコニア(ZrO)を液状でなく、粉末状のものを添加、混練して焼成するには強固な焼結体を得るには2000℃以上の高温が必要であり、高さが50〜60cm程度ある大型のルツボに対しては、大型の焼成設備が必要になりコスト面から不可能であったが、本発明のように液状のジルコニウムキレートを用いることで1600℃の焼成設備でよく設備の大型化を回避できる。
【0031】
液状の有機ジルコニウムには、Zrに化合物のついたジルコニウムアシレートと、Zrの周囲をO、Rで修飾したジルコニウムキレートとの2種類の形態がある。
製品形態としては共に同じ液体でありながら化合形態の異なる2種類を比較してジルコニウムキレートによるバインダの方が機械的強度に優れていることを試験によって確認した。
【0032】
試験は、表1に示すようにAlキレートと、Zrアシレートと、Zrキレートを使用し、φ30mm、高さ50mmの円柱状の試験体を形成して行った。
試験配合は図2の図表に示す配合とし、円柱体の製造は前記図1に示した方法で行った。
【0033】
図2に比較例1〜3、および実施例1−1、1−2の配合成分、および配合割合(重量%)を示す。図に示すように、比較例1は、CaOの骨材に対して、PVP粉末の樹脂バインダと、アルミナ(Al)キレートの有機バインダ(アルミニウムエチレンアセトアセテート・ジイソプロピレート)と、エタノールを混合したものであり、比較例2は、CaOの骨材に対して、PVP粉末の樹脂バインダと、ジルコニア(ZrO)アシレートの有機バインダ(ジルコニウムトリブトキシステアレート)と、エタノールを混合したものであり、比較例3は、CaOの骨材に対して、PVP粉末の樹脂バインダと、ZAlキレートとZrOアシレートとの組合せ有機バインダと、エタノールを混合したものである。
【0034】
これに対して、実施例1−1は、CaOの骨材に対して、PVP粉末の樹脂バインダと、ZrOキレートの有機バインダ(ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトネート)と、エタノールを混合したものであり、ZrOキレートを6.0%含む。また、実施例1−2は、CaOの骨材に対して、PVP粉末の樹脂バインダと、ZrOキレートの有機バインダ(ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート))と、エタノールを混合したものであり、ZrOキレートを5.0%含むものである。
【0035】
なお、図2に示す配合成分において、ZrOキレートが6.0%、5.0%含み、そのキレート中に12.9%、13.8%のジルコニウムを含み、結果としてルツボ全体でジルコニウム分が0.6〜0.8%含む例を示している。
【0036】
1600℃で焼成(図1参照)して製品化した段階で試験片の表面を観察した結果、比較例1、2、3においては、表面に微細なクラック、亀裂の発生が見られた。これはCaOが何らかの水分と水和したものと考えられる。
一方、実施例1−1、1−2のそれぞれにおいては、ジルコニア(ZrO)を液体のジルコニウムキレートの形態では水和は生じずに、表面にはクラック、亀裂の発生は見られなかった。
【0037】
次に、前記円柱試験片の強度試験について説明する。
圧縮試験機を用いて円柱試験片の強度試験を行った。さらに、圧縮試験機のフル荷重2000kg以上の圧縮力を付加するために、六角ボルト押し圧縮試験を行った。それぞれの結果を図3の図表に示す。
圧縮試験機の試験荷重上限の2000kgでも実施例1−1、1−2の試験片は壊れなかった。破断しなかった実施例1、2の試験片に対しては、ボルト、ナットからなる六角ボルト押し圧縮試験を行い、ナットで面押しして破断までの荷重を計測した。なお、六角ボルト押し圧縮試験用のナット13の形状について図4に示す。
【0038】
図3より、実施例1−1の試験片では最終的に応力が738.3(kgf/cm2)となり、実施例1−2の試験片では842.3(kgf/cm2)となり、比較例1のアルミナキレートのものに比べても応力が3倍ぐらい大幅に向上したことが確認できた。
また、ジルコニウムアシレートからなる比較例2に対しては、応力が7倍以上に向上していることが確認できた。
【0039】
以上実施例1−1、1−2によれば、従来技術のように表層だけの改質ではなく、ジルコニウムキレートをバインダとして用いることでルツボ成形体全体にわたってCaO−ZrO共晶を析出させるため、機械的強度も向上してCaOルツボの傾動時に外表面に亀裂が発生することを防止でき、ルツボの寿命を延長できる。
【実施例2】
【0040】
次に、第2実施例として、前記第1実施例によって成形されたルツボ成形体10の表面に、さらに、ジルコニウムキレートの液体を塗布する。すなわち、図1に示す製造手順でS6とS7との間において、成形されたルツボ成形体10の表面に該液体を塗布して、その後に乾燥(S7)、焼成(S8)する。
【0041】
図5に示すように例えばルツボ成形体10のルツボ内面に矢印P方向にジルコニウムキレートの液体を塗布すると、表面から浸透したジルコニウムキレートの液体中のジルコニア(ZrO)は、CaO粒子間に浸透してCaO粒子と反応してCaO−ZrO共晶を析出するが、液体のためジルコニア(ZrO)粉末スラリーを塗布する場合に比べて、表面から深くまで浸透可能である。
このため、実施例1における改質されたルツボ成形体10に加えてジルコニウムキレートを塗布した表層部分を一層強度向上することができる。
【0042】
なお、このジルコニウムキレートの液体の塗布は、ルツボ成形体10の内側表面、外側表面、または内側と外側の両表面のいずれの場合でもよく、内側の溶損防止の強化であれば内側表面に塗布すればよく、また、ルツボ傾動時に外表面に亀裂が発生しないようにするには外側表面に塗布するようにすればよい。
【0043】
なお、従来技術のようなジルコニア(ZrO)粉末スラリーとの併用塗布、あるいは、液体のジルコニウムキレートにジルコニア粉末を添加して塗布するようにしてもよいことは勿論である。
【0044】
以上の実施例2によれば、前記第1実施例によって成形されたルツボ成形体10の表面に、必要に応じて、さらに、にジルコニウムキレートの液体を塗布することによって、簡単に、一層の強度向上と溶損防止を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、ジルコニア粉末の表面塗布ではなく、液状のジルコニウムキレートをバインダとして用いて、原料のCaOを成形して焼成することで液体から析出するジルコニアによってCaOを均一に被覆して、均一なCaO−ZrO共晶を形成することで、溶損の防止と、内表面に付着した溶鋼の剥がし作業と同時に改質層が剥がされることのない強固な改質が得られるので、金属溶解用ルツボ及びその製造方法の提供に際して有益である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】実施例1の金属溶解用ルツボの製造手順を示す説明図である。
【図2】実施例1の比較試験の配合を示す図表である。
【図3】実施例1の強度試験結果を示す図表である。
【図4】強度試験の六角ボルト押し圧縮試験に用いられるナット形状を示す説明図である。
【図5】実施例2の説明図である。
【図6】従来技術の説明図である。
【図7】従来技術の説明図である。
【図8】従来技術の説明図である。
【符号の説明】
【0047】
1 混練器
2 中子
4 外型
6 底板
8 成形型
10 ルツボ成形体
11 CaOルツボ
12 ルツボ焼成体
13 六角ボルト押し圧縮試験用ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空溶解炉で使用される酸化カルシウム(CaO)を主成分とする金属溶解用ルツボにおいて、
原料となる前記CaOの粉体を液状のジルコニウムキレートをバインダとして成形、焼成して、CaOに均一なCaO−ZrO共晶を析出させたルツボ焼成体からなることを特徴とする金属溶解用ルツボ。
【請求項2】
前記ジルコニウムキレートから析出したジルコニア(ZrO)成分が前記ルツボ焼成体の0.3〜3重量%含まれていることを特徴とする請求項1記載の金属溶解用ルツボ。
【請求項3】
前記焼成前にルツボ成形体の表面に、さらに液状のジルコニウムキレートが塗布されて、該表面にCaO−ZrO共晶を析出させたことを特徴とする請求項1記載の金属溶解用ルツボ。
【請求項4】
真空溶解炉で使用される酸化カルシウム(CaO)を主成分とする金属溶解用ルツボの製造方法において、
原料となる前記CaOの粉体を液状のジルコニウムキレートをバインダとして用いて混練して成形し、その後焼成して製造することを特徴とする金属溶解用ルツボの製造方法。
【請求項5】
ジルコニウムキレートから析出したジルコニア(ZrO)成分がルツボ全体の0.3〜3重量%含むことを特徴とする請求項4記載の金属溶解用ルツボの製造方法。
【請求項6】
前記焼成される前のルツボ成形体の表面に対してさらに、前記液状のジルコニウムキレートを塗布してから焼成することを特徴とする請求項4記載の金属溶解用ルツボの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−243723(P2009−243723A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−88799(P2008−88799)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度独立行政法人新エネルギ・産業技術総合開発機構 超高純度金属材料の産業化委託研究,産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(594208536)
【Fターム(参考)】