説明

金属箔材の製造方法

【課題】 エンボス圧延ロールのエンボス金型における凹状の立体的パターンの空間内が圧延油の充満に因って塞がれた状態となることを回避すると共に、金属箔材のエンボス金型への固着を回避して、エンボス金型における凹状の立体的パターンを転写してなる凸状のパターンを確実かつ正確に形成する。
【解決手段】 エンボス圧延プロセスに先立って、圧延油8がエンボス圧延ロールであるワークロール1のエンボス金型における凹状の立体的パターン10の空間内に所定量を超えて充満することなく、かつ金属箔材5がエンボス金型に固着することのないように、金属箔材5の表面上における圧延油8の被膜圧延油量を調節して、金属箔材5の表面に圧延油8aを塗油した状態としておき、その後、ワークロール1を回転させながら金属箔材5の表面に押圧することで、金属箔材5の表面にエンボス金型の凹状の立体的パターン10を転写してなる凸状のパターン9を含んだエンボスパターンを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば銅箔や銅条のような金属箔材の表面に微小な凸状の立体的パターンを形成するエンボス圧延加工プロセスを含んだ、金属箔材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅箔材や銅条材は、極めて多様な工業分野や工業製品に用いられているが、例えばフレキシブルプリント配線板や各種放熱板などのように、使用形態として異種部材と接着されて用いられるものも少なくない。このような場合、両者の接着性を向上させるために、粗化めっきやエッチングなどのような化学的な表面処理や、ブラスト処理等の機械的な表面処理などを、両者または少なくとも一方の接着面に施すことにより、その接着面を敢えて適度に荒らす、という手法が採用されることが多い。あるいはさらに一般的に、銅箔材や銅条材以外の金属箔材や金属条材についても同様に、その表面を適度に荒らして微小な凹凸を形成するという手法が用いられる場合も多い。
【0003】
そのような金属箔材等の表面に微小な凹凸を形成する方法の一つとして、エンボス圧延と呼ばれる加工方法がある。
エンボス圧延加工方法は一般に、その主要な治工具であるエンボス圧延ロールと呼ばれるロール金型の加工面に形成された凹凸からなる立体的パターンを、加工対象の金属箔や金属板条に対してエンボス圧延プロセスによって転写させる加工方法である。エンボス圧延ロールの表面には、凹凸の立体的パターンが形成されており、そのエンボス圧延ロールを圧延機に取り付けて、エンボス圧延加工が行われる。
【0004】
銅箔などのような金属箔材にエンボス圧延加工を施すために用いられる圧延機は、図示は省略するが、圧延加工の対象となる金属箔材に対して回転しながら直接に接して圧延荷重を印加するように、その金属箔材の上下にそれぞれ1本ずつ配置された2本のワークロールと、そのそれぞれのワークロールをバックアップする中間ロールおよびバックアップロール等を備えている。その各種ロールには、例えば鍛鋼ロールなどが用いられるのが一般的である(特許文献1)。
また、圧延機は、ワークロールの径や、中間ロール、バックアップロールの本数などの違いによって、4段圧延機、6段圧延機、12段圧延機、20段圧延機など、様々な形式があり、具体的な用途や仕様に適したものが選択される。
このようなエンボス圧延加工においては、平圧延の場合と同様に、ロール金型および金属箔材の加工に起因した発熱を冷却する必要性、およびロール金型からの金属箔材の離型を円滑なものとする必要性、ならびに異物等の洗い流しなどの必要性から、圧延油が一般に用いられている(特許文献2)。
【0005】
前述の粗化めっきやエッチングなどのような化学的な表面処理方法、あるいはブラスト処理等の機械的な表面処理方法では、その処理時間が長く掛かる傾向にあり、また要求される粗度が大きい場合には益々処理時間が長く必要になったりプロセス管理がさらに煩雑になるなどして、生産性が悪化することとなる。また、ブラスト処理では砥粒のサイズとは異なった粗度が得られないので、粗度設定の自由度に制約も多い。従って、斯様な工業的生産性の観点から、処理時間が極めて短くて済み、生産性を飛躍的に高くすることができるエンボス圧延プロセスは、極めて有利な特質を備えた加工方法として、多大な期待が寄せられる加工方法である。
【0006】
【特許文献1】特開2001−179312号公報
【特許文献2】特開2006−281249号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のような従来のエンボス圧延加工方法によって、例えば0.1μm以上〜100μm以下のような高さを有する微細な突起状のエンボスパターンを銅箔材や銅条材の表面に形成する場合、圧延荷重やロール金型の仕様等を適切なものとしているにも関わらず、形成されたエンボスパターンの高さをはじめとする各種寸法や形状に、著しい不良や欠陥が多発するという問題があった。
本発明は、このような問題に鑑みて成されたもので、その目的は、加工対象の銅条材や銅箔材の表面に所望の寸法の微細な凸状パターンを含む立体的パターンを常に正確かつ確実に形成することを可能としたエンボス圧延加工方法を含んだ、金属箔材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の金属箔材の製造方法は、表面に凹状の立体的パターンを含んだエンボス金型を設けてなるエンボス圧延ロールを回転させながら加工対象の金属箔材の表面に押圧するエンボス圧延プロセスを行って、前記金属箔材の表面に前記エンボス金型の凹状の立体的パターンを転写してなる凸状の立体的パターンを含んだエンボスパターンを形成する工程を含んだ、金属箔材の製造方法であって、前記エンボス圧延プロセスに先立って、前記金属箔材の表面上に塗油される圧延油が前記エンボス金型の凹状の立体的パターンの空間内に所定量を超えて充満することなく、かつ前記金属箔材が前記エンボス金型に固着することのないように、前記金属箔材の表面上における前記圧延油の被膜圧延油量を調節して、前記金属箔材の表面に圧延油を塗油した状態としておき、その後、前記エンボス圧延ロールを回転させながら前記金属箔材の表面に押圧して、前記金属箔材の表面に前記エンボス金型の凹状の立体的パターンを転写してなる凸状のパターンを含んだエンボスパターンを形成することを特徴としている。
【0009】
なお、上記のような圧延油の被膜圧延油量を調節するための、さらに具体的な態様としては、前記金属箔材の表面に圧延油を塗油した状態にした後、前記エンボス圧延プロセス中には圧延油を供給することなく、前記エンボス圧延ロールを回転させながら前記金属箔材の表面に押圧して、前記金属箔材の表面に前記エンボス金型の凹状の立体的パターンを転写してなる凸状のパターンを含んだエンボスパターンを形成するようにしてもよい。
また、前記エンボス圧延プロセスに先立って、前記金属箔材の表面上における前記所定量を超えた被膜圧延油量に対応する余分な圧延油を除去するようにしてもよい。
また、前記圧延油を、揮発性溶媒で薄めて前記金属箔材の表面上に塗油するようにしてもよい。
また、上記の被膜圧延油量としては、5mg/m2以上200mg/m2以下に調節することは、望ましい一態様である。
あるいは、前記エンボス圧延プロセスが、圧延油の塗油を伴って行われる他工程の後に行われる工程である場合には、前記他工程で塗油されて前記金属箔材の表面上に残留している圧延油を、前記エンボス圧延プロセスにおける圧延油として流用するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、エンボス圧延プロセスに先立って、圧延油がエンボス圧延ロールのエンボス金型における凹状の立体的パターンの空間内に所定量を超えて充満することなく、かつ前記金属箔材が前記エンボス金型に固着することのないように、金属箔材の表面上における圧延油の被膜圧延油量を調節して、金属箔材の表面に圧延油を塗油した状態としておき、その後、エンボス圧延ロールを回転させながら金属箔材の表面に押圧することで、金属箔材の表面にエンボス金型の凹状の立体的パターンを転写してなる凸状のパターンを
含んだエンボスパターンを形成するようにしたので、エンボス圧延ロールのエンボス金型における凹状の立体的パターンの空間内が圧延油の充満に因って塞がれた状態となることを回避すると共に、金属箔材のエンボス金型への固着を回避して、そのエンボス金型における凹状の立体的パターンを転写してなる所望の寸法および形状を有する凸状のパターンを含んだエンボスパターンを確実かつ正確に形成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態に係る銅箔材の製造方法について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る銅箔材の製造方法におけるエンボス圧延加工工程で用いられる圧延機の一例として4段圧延機の概要構成を示す図、図2は、本発明の実施の形態に係る銅箔材の製造方法における主要な作用について、従来のエンボス加工方法と比較して模式的に示す図である。
【0012】
本実施の形態に係る銅箔材の製造方法では、図1に示したような圧延機が用いられる。この圧延機は、ワークロール1と、ワークロール2と、バックアップロール3と、バックアップロール4とを、加工対象の金属箔材5に対してエンボス圧延プロセスを行うための主要部として備えている。本実施の形態では、図1に示したように、条状(帯状)に形成された金属箔材5が、同図における左から右へと、矢印6で示した方向に送られていくように設定されている。
【0013】
ワークロール1は、その表面に凹状の立体的パターン10を含んだエンボス金型を設けてなるエンボス圧延ロールであり、加工対象の金属箔材5の表面に対して回転しながら直接的に接して圧延荷重を印加することで、その金属箔材5の表面にエンボスパターンを形成するように設定されている。すなわち、このワークロール1は、エンボス金型としてその表面に設けられている凹状の立体的パターン10を金属箔材5の表面に押し当てて、その部分の金属箔材5を塑性変形させることで、凹状の立体的パターン10を転写してなる凸状の立体的パターン9を含んだエンボスパターンを金属箔材5の表面に形成するためのエンボス金型である。
【0014】
ワークロール2は、金属箔材5を挟むようにワークロール1と対面配置されて、図1に示した一例では上方からワークロール1によって金属箔材5へと印加される圧延荷重を下方で支えることで、このワークロール2とワークロール1との間に挟まれた金属箔材5に対して所定の圧延荷重でエンボス圧延加工が行われるようにするためのものである。金属箔材5の片面(図1では上面)のみにエンボス圧延加工が施される場合には、このワークロール2の表面にはワークロール1の場合のようなエンボス金型は設けられていないことは言うまでもない。
【0015】
バックアップロール3、バックアップロール4は、それぞれワークロール1、ワークロール2に対して、一般的な圧延機の場合と同様に、ワークロール1、2の駆動制御や圧延荷重制御等の、いわゆるバックアップ機能を行うためのものである。
【0016】
本実施の形態に係る銅箔材の製造方法では、上記のような圧延機におけるエンボス圧延プロセスを行うための機械的構成それ自体については、一般的なものを用いることが可能である。
【0017】
本発明の実施の形態に係る銅箔材の製造方法では、上記のような圧延機のワークロール1によるエンボス圧延加工が施されるよりも前の段階での圧延油8の被膜圧延油量、すなわち図1に領域7として示した部分で測定される、金属箔材5の表面上における圧延油8aの被膜圧延油量を、金属箔材5とワークロール1との固着が生じてしまうような過少な
量を超えた被膜圧延油量であってかつ凹状の立体的パターン10に圧延油8が充満してしまうほどに過多な量よりも少ない被膜圧延油量という範囲内に調節しておく。
このようにすることにより、金属箔材5とワークロール1との固着が生じてしまうことを回避することが可能となると共に、金属箔材5の表面上に付着した圧延油8bがエンボス圧延プロセス中にワークロール1の表面に所定量を超えて多量に付着するなどして、そのワークロール1のエンボス金型の凹状の立体的パターン10の空間内に所定量を超えて充満してしまう(圧延油8c;図2の(b)参照)ことを回避することが可能となる。
【0018】
このようにして金属箔材5の表面上に圧延油8aを適量だけ塗油した状態(図2の(a)参照)にした後、エンボス圧延プロセスとして、ワークロール1を回転させながら金属箔材5の表面に対して所定の圧延荷重で押圧させることにより、金属箔材5の表面にエンボス金型の凹状の立体的パターン10を転写してなる凸状の立体的パターン9を含んだエンボスパターンを、所望の形状および寸法通りに、正確かつ確実に形成することができる。
【0019】
ここで、このエンボス圧延プロセス中では、圧延油8を追加供給することなく、ワークロール1を回転させながら金属箔材5の表面に押圧して、その金属箔材5の表面にエンボス金型の凹状の立体的パターンを転写してなる凸状のパターンを形成させるようにすることが、最も望ましい。
何故なら、エンボス圧延プロセス中に圧延油8を追加供給しながら(いわゆる「かけ流し」をしながら)金属箔材5の表面上における被膜圧延油量を均一なものにしようとすると、金属箔材5の表面上における圧延油8の被膜圧延油量が過多になる虞が極めて高くなるからである。また逆に、金属箔材5の表面上における圧延油8の被膜圧延油量が過多にならない程度の圧延油8をエンボス圧延プロセス中にかけ流しで供給しようとすると、それによって金属箔材5の表面上に塗油される圧延油8の被膜圧延油量が不均一なものとなる虞が極めて高くなるからである。
【0020】
このような、圧延機によって行われるエンボス圧延プロセスに先立って、適量の圧延油8を金属箔材5の表面上に塗油した状態にするための、さらに具体的な手法としては、例えば、塗油量を高精度に調節可能な専用塗油装置(図示省略)を領域7に配置して、上記のような圧延油8の被膜圧延油量を精確に調節しながら塗油を行うようにするという手法などが可能である。
また、領域7に配置された圧延油塗布用のロール(図示省略)でしごいて余分な圧延油8を除去しながら適量の圧延油8aを塗油することで、金属箔材5の表面上における被膜圧延油量を適量化することや、ロール以外にもブレードやスキージ等のような箆状の治工具を用いて同様の適量化を行うことなどが可能である。
もしくは、圧延機スタンドを、このエンボス圧延加工が行われる製造ライン中に前後2台並べて配置し、そのうちの前工程寄りに(領域7内に)配置された方の1台目で、金属箔材5の表面上に上記のような適量の圧延油8aを塗油し、その後工程寄りに配置された2台目で、既に適量の圧延油8が塗油された状態の金属箔材5に対してエンボス圧延プロセスを施すようにしてもよい。
【0021】
また、圧延油8を揮発性溶媒で薄めてから、金属箔材5の表面上に塗油するようにしてもよい。このようにすることにより、圧延油8の粘性が低下して、金属箔材5の表面上における圧延油8の延展性が向上し、かつそのような圧延油8の延展用ビヒクルとして機能させた余分な揮発性溶媒成分は、塗油後には揮発することとなるので、圧延油8の被膜圧延油量の均一化および適量化を、さらに確実に達成することが可能となる。
【0022】
ここで、上記の被膜圧延油量の具体的な好適値としては、例えば、凹状の立体的パターン10(形成目標とする凸状の立体的パターン9)の高さ方向の寸法が0.1μm以上〜
100μm以下の数値範囲に設定されている場合には、被膜圧延油量は5mg/m2以上
〜200mg/m2以下とすることが望ましい。このように設定することにより、微細な
凹状の立体的パターン10(または凸状の立体的パターン9)の寸法レベルに適応して、凹状の立体的パターン10内に圧延油8cが充満してしまうことを回避することができると共に金属箔材5とワークロール1との固着が生じてしまうことを回避することができる。
【0023】
あるいは、上記のようなエンボス圧延プロセスが、圧延油8の塗油を伴う他工程の後に行われる場合には、そのような他工程で既に塗油されて金属箔材5の表面上に適量に残留している圧延油8を、上記のエンボス圧延プロセスにおける圧延油8aとして流用するようにしてもよい。このようにすることにより、圧延油8の使用量のさらなる削減化を図ることが可能となると共に、圧延油8を金属箔材5の表面上に塗油するための設備や装置およびそれを動作させる手間や機械的エネルギ等のさらなる節約が可能となる。
または、他工程で既に塗油されて金属箔材5の表面上に残留している圧延油8の被膜圧延油量が過多である場合には、その余分な圧延油8を、既述のような手法を併せ用いて除去することで、金属箔材5の表面上の被膜圧延油量を適量化するようにしてもよい。また逆に、残留している圧延油8の被膜圧延油量が過少である場合には、不足分の圧延油8を、既述のような手法を併せ用いて金属箔材5の表面上にさらに塗油することで、金属箔材5の表面上の被膜圧延油量を適量化するようにしてもよい。
【0024】
次に、本実施の形態に係る銅箔材の製造方法における主要な作用について、従来の製造方法と比較・対照して説明する。
従来のエンボス圧延加工プロセスでは一般に、主要な治工具であるワークロール1の冷却や、異物の洗い流しなどを目的として、圧延油8のかけ流しをしながら、エンボス圧延プロセスを行っている。
そのエンボス圧延プロセスでは、ワークロール1の表面に形成されている凹状の立体的パターン10の空間内に、圧延荷重によって金属箔材5の表面付近が塑性変形して入り込むことにより、凸状の立体的パターン9が形成される。
【0025】
ところが、このとき、かけ流しを行って圧延油8を追加供給すると、図2(b)に示したように、金属箔材5の表面上における圧延油8bの被膜圧延油量が過多になって、それがワークロール1の表面に付着し、その凹状の立体的パターン10の空間内に圧延油8cが充満してしまう。そうすると、この状態で圧延荷重を加えても、金属箔材5は、凹状の立体的パターン10の空間内に流れ込むことができない。
このような要因によって、圧延荷重やロール金型の仕様等を適切なものとしているにも関わらず、形成された凸状の立体的パターン9の高さをはじめとする各種寸法や形状に、著しい不良や欠陥が多発するということを、本発明者らは種々の実験およびそれについての考察等により確認し、本発明を成すに至った。
【0026】
そこで、本実施の形態に係る銅箔材の製造方法では、上記のような従来の製造方法におけるエンボス圧延加工プロセスとは異なり、エンボス圧延プロセス中における圧延油8の追加供給(かけ流し)は行わない。
そして、エンボス圧延プロセスに先立って、金属箔材5とワークロール1との固着が生じるような過少な被膜圧延油量ではなく、かつ凹状の立体的パターン10に圧延油8が充満してしまうような過多な被膜圧延油量でもない、図2(a)に示したような適量の圧延油8を、金属箔材5の表面上に均一に塗油しておく。このようにすることにより、凹状の立体的パターン10に圧延油8が充満してしまうことを回避することができると共に、金属箔材5とワークロール1との固着が生じてしまうことを回避することができる。その結果、ワークロール1のエンボス金型における凹状の立体的パターン10を転写してなる所望の寸法および形状を有する凸状のパターン9を含んだエンボスパターンを、確実かつ正
確に形成することが可能となる。
【0027】
そのような圧延油8aの被膜圧延油量について、より具体的な数値の一例としては、凹状の立体的パターン10(あるいは形成目標とする凸状の立体的パターン9)の高さ方向の寸法が0.1μm以上〜100μm以下の数値レベルの場合には、5mg/m2以上〜
200mg/m2以下に設定する。
すなわち、エンボス圧延プロセス中における圧延油8の追加供給を行わないようにすると、圧延油8の被膜圧延油量が5mg/m2未満となって、金属箔材5とワークロール1
との間での固着が生じやすくなり、銅箔材のような薄い材料の場合には特に顕著に、その固着した部分を起点として、いわゆる板切れと呼ばれる材料損傷や、エンボス金型の破損等が生じてしまう。あるいは、材料損傷や金型破損等が発生じなかった場合でも、ワークロール1のエンボス金型における固着した部分の凹状の立体的パターン10の空間内に、金属箔材5の固着した部分が残留すると、次のエンボス圧延プロセス以降は、その固着が生じた部分に起因して、凸状のパターン9の寸法不良や形状欠陥等が生じることとなる。
他方、圧延油8の被膜圧延油量が200mg/m2超になると、ワークロール1の表面
の凹状の立体的パターン10の空間内に圧延油8cが充満してしまい、強大な圧延荷重を加えても金属箔材5が流れ込めなくなって、正確な形状および寸法の凸状のパターン9を形成することができなくなる。
このような理由から、本実施の形態に係る銅箔材の製造方法では、5mg/m2以上〜
200mg/m2以下を望ましい数値範囲として設定している。
【0028】
以上説明したように、本実施の形態に係る銅箔材の製造方法によれば、エンボス圧延ロールであるワークロール1のエンボス金型における凹状の立体的パターン10の空間内が圧延油8cの充満に因って塞がれた状態となることを回避すると共に、金属箔材5のエンボス金型への固着を回避して、ワークロール1のエンボス金型における凹状の立体的パターン10を転写してなる所望の寸法および形状を有する凸状のパターン9を含んだエンボスパターンを、確実かつ正確に形成することができる。
さらには、このような本実施の形態に係る銅箔材の製造方法によって加工される銅条材や銅箔材は、粗度を高精度に設定するこが可能となるため、各種アプリケーションに対する設計の自由度が大幅に向上する。従って、本実施の形態に係る銅箔材の製造方法は、高性能な金属素材の製品特性の向上等にも多大に寄与することができる。
【0029】
なお、本実施の形態に係る銅箔材のエンボス圧延加工用のワークロール1としては、例えば鍛鋼ロールや超硬ロールのような一般的な材質のものを用いることが可能である。
【実施例】
【0030】
上記の実施の形態で説明したような銅箔材の製造方法によって、銅箔材の表面に対してエンボス圧延加工を施す実験を行った。
図3は、本発明の実施例に係る製造方法で用いたワークロールのエンボス金型における凹状の立体的パターンの平面的配置を示す図、図4は、本発明の実施例に係る製造方法によって銅箔表面に形成された凸状の立体的パターン(突起)を含んだエンボス形状の一例を示す図、図5は、実施例1〜3および比較例1〜4の各試料について、エンボス圧延加工中の圧延油かけ流しの有無、被膜圧延油量、銅固着の有無、形成された凸状の立体的パターン(突起)の高さを、纏めて示す図である。
【0031】
圧延機として、上記の実施の形態で説明したような4段圧延機を用いた。金属箔材5としては、一般的なTPC材(C1100)からなる、厚さ33μm、幅40mmの圧延銅箔条材を用いた。
その圧延銅箔条材に適度な被膜圧延油量で圧延油8aの被膜を設けるために、まず鍛鋼からなる直径100mmφ×長さ230mmの平ロール(図示省略)を圧延機の前側(図
1の領域7内)に設置した。
【0032】
そして、実施例1として、金属箔材5にエンボス圧延が施されるに先立って、余分な量を除去しながら、上記の実施の形態で説明したような適量の圧延油8aを塗油した。この圧延油被膜塗布作業は、線圧約7kN/cmの荷重を印加しつつ行うものとし、板厚変動は実質的に無視できるものとした。圧延油8aとしては、比重0.8g/cm、40℃動粘度5cSt(=5×10−6/s)のものを用いた。
この実施例1では、被膜圧延油量は88mg/m2となった。このときの被膜圧延油量
の測定は、基準面積分の銅箔を切り出してヘキサン中に投入し、超音波洗浄してヘキサン内に圧延油を溶解させ、ヘキサンを揮発させてビーカー内に残留した圧延油量を重量法により測定する、という方法によって行った。
【0033】
このようにして圧延油8aが金属箔材5の表面上に塗油された状態にした後、エンボス圧延加工を行った。ワークロール1としては、直径50mmφ×長さ100mmの鍛鋼ロールを用い、そのロール表面には、図3に示したような平面的配置で凹状の立体的パターン10を形成しておいた。すなわち、個々の凹状の立体的パターン10は、横幅寸法11が22μm、縦幅寸法12が12μmで、その凹穴の深さ(図示省略)は均一に6μmとした。その個々の凹状の立体的パターン10同士の隣り合う配置間隔は、横方向間隔13が25μm、縦方向間隔14が20μmとした。このエンボス圧延加工は、線圧約17kN/cmの圧延荷重で行った。
【0034】
以上のようなプロセス条件により、実施例1のエンボス圧延加工を実施した。また、これとほぼ同様のプロセス条件で、被膜圧延油量のみを上記実施の形態で説明したような適量の範囲内で種々に変更して、実施例2、実施例3のエンボス圧延加工を実施した。
また、比較・対照のために、被膜圧延油量を上記の実施の形態で説明したものから敢えて逸脱した設定にしてエンボス圧延加工を行って、それを比較例1〜4として実施した。
そして、その個々の実施例1〜3、比較例1〜4の各エンボス圧延加工方法によって形成されたエンボスパターン(具体的には凸状のパターン9)およびワークロール1の表面のエンボス金型における固着の有無等について、レーザ顕微鏡およびSEM観察を用いて測定および観察を行った。
【0035】
実施例1〜3の試料(No.1〜3)はいずれも、図5に纏めて示したように、固着もエ
ンボスパターンの形状不良も発生しておらず、その凸状のパターン9(突起)も目標高さとして設定した6μm±0.3μmという寸法条件を満たす正確な高さ寸法を有するものとなっており、かつ図4に示したように、その形状および寸法は面内均一性の極めて高いものとなることが確認された。
これとは対照的に、比較例1〜4の試料(No.4〜7)の場合には、いずれも何らかの
不具合が発生した。
【0036】
比較例1、2の試料(No.4、5)は、エンボス圧延プロセス中に圧延油8bをかけ流
しながらエンボス圧延を行ったものである。これら比較例1、2では、圧延前の(投入材料の)被膜圧延油量は、上記の実施の形態で説明した範囲よりも低い(比較例1)、または規格内(比較例2)であるが、そのどちらもエンボス圧延プロセス中に大量の圧延油8bがワークロール1の表面に付着するため、そのワークロール1の表面の凹状の立体的パターン10の空間内に圧延油8cが充満して、その凹状の立体的パターン10の空間内に金属箔材5が流れ込めなくなり、それぞれ0.5μm、0.4μmのような極めて不十分な高さの凸状のパターン9しか形成することができなかった。
【0037】
比較例3の試料(No.6)は、被膜圧延油量を上記の実施の形態で説明したような範囲
よりも著しく少なくした場合の一例である。この場合には、凸状のパターン9の高さは5
.4μmとなり、比較的良好な寸法となったが、ワークロール1の表面における特に凹状の立体的パターン10の空間内やその周囲に、金属箔材5の固着した銅の一部分が残り、その部分を起点として板切れが発生した。
【0038】
比較例4の試料(No.7)は、被膜圧延油量を上記の実施の形態で説明したような範囲
よりも著しく多くした場合の一例である。この場合には、ワークロール1の表面の凹状の立体的パターン10の空間内に圧延油8cが充満して、金属箔材5の流入を阻害しているため、凸状のパターン9の高さが3.2μmとなり、目標値の6.0μmに比べて焼く半分程度と大幅に低いものとなった。
【0039】
次に、エンボスロールの立体的パターン10の形状を、直径10μmで深さ11μmの凹穴とし、かつその隣り合う凹穴同士の中心間距離を20μmとし、その他は上述の各実施例と同様の設定にして、金属箔材5にエンボス加工を行った。
その結果、固着もエンボスパターンの形状不良も全く発生しておらず、金属箔材5に形成された凸状のパターン9の突起の形状および寸法の再現性は極めて良好で、その面内均一性も極めて高くなることが確認できた。
また、エンボスロールの立体的パターン10の形状を、対角線の長軸が30μm、短軸が15μmの菱形で、深さ11μmの凹穴とし、かつその隣り合う凹穴同士の中心間距離を、長軸方向30μm、短軸方向15μmの千鳥配置とし、その他は上述の各実施例と同様の設定にして、金属箔材5にエンボス加工を行った。
その結果、固着もエンボスパターンの形状不良も全く発生しておらず、金属箔材5に形成された凸状のパターン9の突起の形状および寸法の再現性は極めて良好で、その面内均一性も極めて高くなることが確認できた。
また、エンボスロールの立体的パターン10の形状を、長軸が40μm、短軸が20μmの楕円形で、深さ11μmの凹穴とし、かつその隣り合う凹穴同士の中心間距離を長軸方向40μm、短軸方向20μmの千鳥配置とし、その他は上述の各実施例と同様の設定にして、金属箔材5にエンボス加工を行った。
その結果、固着もエンボスパターンの形状不良も全く発生しておらず、金属箔材5に形成された凸状のパターン9の突起の形状および寸法の再現性は極めて良好で、その面内均一性も極めて高くなることが確認できた。
【0040】
このように、本実施例に係る銅箔材の製造方法によれば、ワークロール1の表面に対する金属箔材5の固着や板切れあるいはエンボス金型の損傷等を引き起こすことなく、かつ製品における凸状のパターン9の寸法不良や形状欠陥等の品質上の不具合を生じることなく、ワークロール1のエンボス金型における凹状の立体的パターン10を転写してなる所望の寸法および形状を有する凸状のパターン9を含んだエンボスパターンを、確実かつ正確に形成することができることが確認された。
【0041】
なお、銅箔条材のエンボス圧延加工プロセスは一般に、一連の製造ラインで行われることが多く、そのような連続加工が行われるラインでは、圧延油は連続して送り出される銅箔条材と共に圧延機のワークロール等から持ち出されて行くので、ワークロールのエンボス金型の表面に付着して残留する圧延油の量は、そのとき使用している圧延油の粘性やワークロール1の面積やその他種々のファクタ等に対応して所定の量で均衡する。従って、そのような連続ラインで連続的にエンボス加工を行う場合でも、本実施例に係る銅箔材の製造方法によれば、圧延油がワークロールの凹状の立体的パターンの空間内に充満することを回避して、その凹状の立体的パターンを銅箔条材に正確かつ確実に転写することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施の形態に係る銅箔材の製造方法におけるエンボス圧延加工プロセスに用いられる圧延機の一例として4段圧延機の概要構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る銅箔材の製造方法における主要な作用について、従来のエンボス加工方法と比較して模式的に示す図である。
【図3】本発明の実施例および比較例に係るエンボス圧延加工プロセスに用いられるワークロール1の表面のエンボス金型における凹状の立体的パターンの平面的配置を示す図である。
【図4】本発明の実施例に係るエンボス圧延加工プロセスによって銅箔表面に形成されたエンボス形状(突起)の一例を示す図である。
【図5】実施例1〜3および比較例1〜4の各試料について、エンボス圧延加工中の圧延油かけ流しの有無、被膜圧延油量、銅固着の有無、形成されたエンボス形状(突起)の高さを纏めて示す図である。
【符号の説明】
【0043】
1 ワークロール(エンボス金型有)
2 ワークロール(エンボス金型無)
3 バックアップロール(上側)
4 バックアップロール(下側)
5 金属箔材
8 圧延油
9 凸状の立体的パターン
10 凹状の立体的パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹状の立体的パターンを含んだエンボス金型を設けてなるエンボス圧延ロールを回転させながら加工対象の金属箔材の表面に押圧するエンボス圧延プロセスを行って、前記金属箔材の表面に前記エンボス金型の凹状の立体的パターンを転写してなる凸状の立体的パターンを含んだエンボスパターンを形成する工程を含む、金属箔材の製造方法であって、
前記エンボス圧延プロセスに先立って、前記金属箔材の表面上に塗油される圧延油が前記エンボス金型の凹状の立体的パターンの空間内に所定量を超えて充満することなく、かつ前記金属箔材が前記エンボス金型に固着することのないように、前記金属箔材の表面上における前記圧延油の被膜圧延油量を調節して、前記金属箔材の表面に圧延油を塗油した状態としておき、その後、前記エンボス圧延ロールを回転させながら前記金属箔材の表面に押圧して、前記金属箔材の表面に前記エンボス金型の凹状の立体的パターンを転写してなる凸状のパターンを含んだエンボスパターンを形成する
ことを特徴とする金属箔材の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の金属箔材の製造方法において、
前記金属箔材の表面に圧延油を塗油した状態にした後、前記エンボスパターンを形成する工程では、圧延油を追加供給しない
ことを特徴とする金属箔材の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の金属箔材の製造方法において、
前記エンボス圧延プロセスに先立って、前記金属箔材の表面上における前記所定量を超えた被膜圧延油量に対応する余分な圧延油を除去する
ことを特徴とする金属箔材の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のうちいずれか1つの項に記載の金属箔材の製造方法において、
前記圧延油を、揮発性溶媒で薄めて前記金属箔材の表面上に塗油する
ことを特徴とする金属箔材の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のうちいずれか1つの項に記載の金属箔材の製造方法において、
前記金属箔材が、銅箔材または銅条材である
ことを特徴とする金属箔材の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のうちいずれか1つの項に記載の金属箔材の製造方法において、
前記被膜圧延油量を、5mg/m2以上200mg/m2以下に調節する
ことを特徴とする金属箔材の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のうちいずれか1つの項に記載の金属箔材の製造方法において、
前記エンボス圧延プロセスが、圧延油の塗油を伴って行われる他工程の後に行われる工程であり、
前記他工程で塗油されて前記金属箔材の表面上に残留している圧延油を、前記エンボス圧延プロセスにおける圧延油として流用する
ことを特徴とする金属箔材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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