説明

金属管および該金属管の使用

金属管であって、該管の壁を通じての熱エネルギーの移動により該管外のまたは該管内の媒質または対象物を加熱するための管でありしかも該管の内面および外面の一方または両方において熱が輻射により少なくとも実質程度吸収または放出される管が、少なくともおおよそ750℃に加熱される時にその表面上に本質的にAl23の層を形成する材料で作られている。該管の外面および内面の少なくとも一方は、酸化後に0.7を超える輻射率係数を有する層を形成する金属、合金および金属化合物の1種によってまたは0.7を超える輻射率係数を有する金属酸化物から本質的に成る層によって被覆されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属管であって、該管の壁を通じての熱エネルギーの移動により該管外のまたは該管内の媒質または対象物を加熱するための管であり、該管の内面および外面の一方または両方において熱が輻射により少なくとも実質程度吸収または放出され、しかも該管は少なくともおおよそ750℃に加熱される時にその表面上に本質的にAl23の層を形成する材料で作られている管に関する。
【背景技術】
【0002】
かかる管は、あらゆるタイプの輻射加熱のために、たとえば炭化環境すなわち乾留石炭(コークス)が生成され得る環境において行われる輻射加熱のために用いられ得る。かかる管のこの特定使用が、以後に論考される。平滑管だけでなくフィン付き管も含まれる。
【0003】
このタイプの管は、SE C2 524 010から知られるように、該管内に流れる気体状炭化水素がエテンH2C=H2C(プラスチック工業で原料として用いられる)に分解される分解炉に用いられる。このタイプの管のこの特定用途が、以後に本発明を明らかにするために記載されるが、しかし本発明の範囲は決してそれに限定されない。
【0004】
分解管としても知られている輻射加熱管は、管内でエテンを形成させるために十分に高い温度(1100℃付近の温度もあり得る)に周囲のバーナーにより加熱される分解炉内にある。このベース材料の管を用いる利点は、該ベース材料が約750℃から950℃の温度に達する時に管の外面および内面上に本質的にアルミナAl23の薄層が形成されることである。この薄いアルミナ層は、ベース材料のFeが管内に流れるガスと接触するのを防ぐ。これは重要である。それは、Feはいわゆる接触炭化により、管の表面に乾留石炭を形成させるための触媒として働くからである。更に、熱分解炭化が、ガス流内で見られ得る。しかしながら、接触炭化が主問題である。このタイプのアルミナ層をもたらさない800HT合金のような他の普通に用いられる材料で作られた管では、乾留石炭が管内で生成されそして管の内壁上に堆積され、管内のガス流量および管内に流れるガスへの管からの熱移動を低減させてきた。他の普通に用いられる材料の管ではまた、乾留石炭による管の完全な閉塞の危険性があった。冒頭において定められたタイプの公知管はかかる在来管に関して有利であるけれども、SE C2 524 010に記載されたタイプの管に改善特徴を付与しようとする試みが継続している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、分解炉の効率を改善することになる冒頭において定められたタイプの管を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、本発明によれば、アルミナ形成管であって、酸化後に0.7を超える輻射率係数を有する層を形成する金属、合金および金属化合物の1種によって、または0.7を超える輻射率係数を有する金属酸化物から本質的に成る層によって、該管の外面および内面の少なくとも一方が被覆されている管を提供することにより達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
管の外面および内面の少なくとも一方に、0.7を超える輻射率係数、すなわちAl23の0.7より高い輻射率係数を備えた表面被覆層を付与することにより、Al23の外層を有する管に関して、該表面被覆層が施された場合に、増加した輻射率を有する管が得られることになる。狙いとする目的のために、たとえば炭化環境でのたとえば輻射加熱のために管を用いる場合、Al23が表面被覆層の下に存在することになり、その結果乾留石炭の形成が起こるのがやはり防がれる。これは、たとえば上記に挙げられた800HT合金と比較した場合、同じくらい頻繁に管から乾留石炭を除去するためのデゲイジング(degazing)操作を行うことは必要でないことを意味する。より高い輻射率係数はかかる管を通じての輻射加熱の増加効率をもたらすことになり、何故ならある加熱効果を得るために、より少ないパワーしか必要とされないことになるからである。これは、管の上記の気体状炭化水素を分解するための用途において、規定の流速にて管を通じて流れるガス混合物を規定の温度に加熱するためにより少ないパワーしか必要とされず、その結果パワーが節約され得、あるいは規定のパワーについて、規定の温度へのガス混合物の加熱を依然として達成する一方、ガス流速が増加され得ることを意味する。これは、全体として分解炉のより高い効率を得ることが可能であることを意味する。増加した輻射率係数のボーナス効果は、既に知られている輻射加熱管に関して、本発明の管による寿命の延長である。
【0008】
輻射による熱移動の理論によれば、輻射率係数は0と1の間の値を取り得、そして普通の材料については輝く金属表面についての約0.05の低い値から適切な表面粗さも有する或る材料についての0.9まで変動する。
【0009】
炭化環境での輻射加熱用に管を用いる場合、管の表面に存在すべきAl23の層は、管の製造がベース材料の十分に高い温度への加熱を伴う場合には管を製造する時に、または後で管の予定使用中に管が加熱される時に、形成されることになる。FeCrAlベース材料の非酸化表面は、この表面が表面被覆層により被覆されていても、同等の温度に加熱するとAl23層を形成するということが分かった。Al23層は、乾留石炭の生成を防ぐという特徴のほかに、最外表面層と管のベース材料部分(基材)の付着性も改善し得る。表面被覆層に用いられる材料は、好ましくは、Al23層の性質を変化させ得ないようにAl23への低い溶解度を有すべきである。
【0010】
本発明の実施形態によれば、表面被覆層は0.8を超える輻射率係数を与えるように設計され、これにより、このタイプの表面被覆層のない、したがって0.7の輻射率係数を有する管の場合に対して、実質的な効率増加がもたらされる。
【0011】
本発明の別の実施形態によれば、管の外面および内面の一方の面すなわち第1面のみが表面被覆層により被覆されていて、被覆層からガス雰囲気内に不所望物質が入る危険性が回避されねばならないガス雰囲気と、管の外面および内面の他方の面すなわち第2面とが接触するのを可能にする。輻射加熱の効率増加は、管の外面および内面の両方が表面被覆層により被覆される場合に最良になるが、被覆層から管外または管内のガス雰囲気内に不所望物質が入る危険性を回避することが要求される場合、一方の面を被覆するのを控えてよい。たとえば、分解炉における使用という上記の場合、表面被覆層からの物質が管内に流れるプロセスガス内に導入される危険性を回避するために(この物質は炉の下流のプロセス工程を乱す可能性があるので)、管の外面のみに表面被覆層を付与することが選ばれ得る。
【0012】
本発明の別の実施形態によれば、表面被覆層は、輻射加熱のための管の予定操作温度および/または環境において金属酸化物を自然に形成する金属または合金から成る。これは、増加した輻射率係数を達成する適当な方法を構成する。これは、輻射加熱のための操作温度における自然形成、並びに操作温度に上げるために管を加熱する段階のより低い温度における自然形成を包含する。
【0013】
本発明の別の実施形態によれば、表面被覆層の金属、合金または金属酸化物は、ニッケルもしくはコバルト、ニッケルおよび/もしくはコバルトを含有する合金、またはニッケルおよび/もしくはコバルトを含有する金属酸化物である。
【0014】
酸化コバルトは、高い温度にてAl23層を形成させるためのAl23の成長に対して、あるとしても小さい効果しか有さない、ということが示された。更に、Al23内におけるCo/CoOの溶解度は無視できる程度であり、出発時に表面上に存在する酸化コバルトは長時間後にも管の表面上にあり、あまり影響されないことを意味する。酸化コバルトの表面層が望ましい場合でさえ、金属コバルトまたは他のコバルト合金の表面層もまた、管が操作温度に達する時にそれが酸化されるようになる限り施されてよい。Coの層は、たとえば、真空蒸着により管に施用され得る。表面被覆層にニッケルを用いる場合、管の輻射率係数は、表面層がNiOに酸化される場合に増加する。Ni層は、たとえば、電解により管に施こされてよい。
【0015】
本発明の別の実施形態によれば、管は、10〜25wt%のCr、1〜10wt%のAl、0〜5wt%のMo、これらより少量の合金元素および残余のFeを含有するFeCrAlベース材料を有する。SE C2 524 010から知られたこの管ベース材料は、熱輻射のための使用に関して有利な特徴を有する。しかしながら、本発明は、ベース材料としてNiCrAl Feを有するS&C HT60のような高い温度すなわち750℃〜950℃にてAl23の層を形成するあらゆるタイプの管に適用可能である。
【0016】
本発明の別の実施形態によれば、ベース材料のMoの含有量は、2〜3.5wt%である。ベース材料中のかかるMo含有量はこの材料のより高い耐性をもたらすことになり、しかしモリブデン含有量を比較的低く保つ理由は、モリブデン含有量が高すぎる場合、蒸発しそして消失する揮発性酸化モリブデンMoO3が形成され得るので、材料のバルクはMoが部分的に枯渇され、材料の耐性が低減される。モリブデン含有量は、高い耐クリープ性およびそれに相応して管の寿命の顕著な増加をもたらす。
【0017】
本発明の別の実施形態によれば、管のベース材料は、小さい分率の合金元素ハフニウム、ジルコニウム、イットリウム、窒素、炭素および酸素の1種または2種以上を含有し、これらの合金元素の合計含有量は最大5wt%、好ましくは最大3wt%である。これらの合金元素は、耐クリープ性および/または耐腐食性の観点から好ましい特徴を管のベース材料に与え得る。
【0018】
本発明の別の実施形態によれば、表面被覆層は、>0.3μm、好ましくは>0.5μmの厚さを有する。管表面の輻射率係数の顕著な増加を得るために0.3μmを超える表面被覆層の厚さが要求され、表面被覆層に用いられる材料について可能な輻射率係数を得るために0.5μm超であるべきである、ということが分かった。表面被覆層の下に、その厚さとは無関係にAl23は形成され得るように思えるが、しかし無論、Al23層が形成される前に表面被覆層を施す際に、これが可能でないほど厚すぎてはならない。これは、かかる場合において、厚さが用心の目安として5μmを超えないように選ばれ得ることを意味する。
【0019】
本発明はまた、複数本の本発明による管を含む管システムに関する。かかる管システムは、媒質または対象を加熱するために用いられる場合に、上記の有利な特徴を有することになる。
【0020】
本発明はまた、エテンを形成させるためのように気体状炭化水素を分解するための分解炉であって、1本の本発明による輻射加熱用の管を含む分解炉に関する。かかる管を有する分解炉の機能およびその利点は、上記の開示から明らかである。
【0021】
本発明はまた、炭化雰囲気における本発明による管の使用であって、該管のアルミナ表面形成の性質から利益を得る使用に関する。
【0022】
本発明は、更に、管の外面において輻射熱を受け取ることによる管内の媒質の輻射加熱のための炉における本発明による管の使用に関する。かかる使用において、Al23を有する管に関して、外層が管のたとえば外面を覆っているので、利用可能なパワーはより効率的に利用され得るか、パワーは節約され得る。その場合に、管の内面のような他方の面もまた表面被覆層で被覆される場合には、効率は更に一層増加され得る。その場合に、媒質は好ましくは管内で気体状媒質の形態にあるけれども、固体材料または液体媒質もまたこのやり方で加熱され得る。本発明による管の特に有利な使用は、エテンを形成させるためのように管を通じて流れる炭化水素を分解するための分解炉においてである。しかしながら、本発明はまた、分解炉における以外のこのタイプの輻射加熱が行われる他の用途においても機能する、ということが指摘される。
【0023】
本発明による管の別の可能な使用は、管の周囲中に熱を輻射するために管を内部から加熱することにより炉内に置かれるべき物体を加熱するための炉においてである。熱処理のためにかかる炉内に置かれたたいてい冷たい物体の加熱は、外面および内面の少なくとも一方について増加した輻射率係数を有する管を用いることにより、より効率的になる。
【0024】
本発明は、無論、上記に記載された実施形態に決して限定されないで、添付の請求項に定められたとおりの本発明の基本的思想から逸脱することなくそれらの改変についての多くの可能性が当業者に明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属管であって、該管の壁を通じての熱エネルギーの移動により該管外のまたは該管内の媒質または対象物を加熱するための管であり、該管の内面および外面の一方または両方において熱が輻射により少なくとも実質程度吸収または放出され、しかも該管は少なくともおおよそ750℃に加熱される時にその表面上に本質的にAl23の層を形成する材料で作られている管において、酸化後に0.7を超える輻射率係数を有する層を形成する金属、合金および金属化合物の1種によって、または0.7を超える輻射率係数を有する金属酸化物から本質的に成る層によって、該管の外面および内面の少なくとも一方が被覆されていることを特徴とする金属管。
【請求項2】
表面被覆層が、0.8を超える輻射率係数を与えるように設計されていることを特徴とする請求項1に記載の金属管。
【請求項3】
管の外面および内面の一方の面すなわち第1面のみが表面被覆層により被覆されていて、被覆層からガス雰囲気内に不所望物質が入る危険性が回避されねばならないガス雰囲気と管の外面および内面の他方の面すなわち第2面が接触するのを可能にすることを特徴とする請求項1または2に記載の金属管。
【請求項4】
表面被覆層が、輻射加熱のための管の予定操作温度および/または環境において金属酸化物を自然に形成する金属または合金から成ることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属管。
【請求項5】
表面被覆層の金属、合金または金属酸化物が、ニッケルもしくはコバルト、ニッケルおよび/もしくはコバルトを含有する合金、またはニッケルおよび/もしくはコバルトを含有する金属酸化物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属管。
【請求項6】
管が、10〜25wt%のCr、1〜10wt%のAl、0〜5wt%のMo、より少量の合金元素および残余のFeを含有するFeCrAlベース材料を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属管。
【請求項7】
ベース材料のMoの含有量が2〜3.5wt%であることを特徴とする請求項6に記載の金属管。
【請求項8】
管のベース材料がより小さい分率の合金元素ハフニウム、ジルコニウム、イットリウム、窒素、炭素および酸素の1種またはそれ以上を含有し、これらの合金元素の総含有量が最大5wt%、好ましくは最大3wt%であることを特徴とする請求項6または7に記載の金属管。
【請求項9】
表面被覆層が、>0.3μm好ましくは>0.5μmの厚さを有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の金属管。
【請求項10】
管が分解管であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の金属管。
【請求項11】
複数本の請求項1〜10のいずれか1項に記載の管を含む管システム。
【請求項12】
エテンを形成させるためのような、気体状炭化水素を分解するための分解炉において、該分解炉が1本の請求項1〜10のいずれか1項に記載の管を含むことを特徴とする分解炉。
【請求項13】
炭化環境における請求項1〜10のいずれか1項に記載の金属管の使用。
【請求項14】
管の外面において輻射熱を受け取ることによる管内の媒質の輻射加熱のための炉における請求項1〜10のいずれか1項に記載の金属管の使用。
【請求項15】
管内の気体状媒質の形態の媒質を加熱するための請求項14に記載の使用。
【請求項16】
エテンを形成させるためのような、管を通じて流れる炭化水素を分解するための分解炉内に管が配置される請求項15に記載の使用。
【請求項17】
管の周囲に熱を輻射するために、管を内部から加熱することにより、炉内に置かれるべき物体を加熱するための炉における請求項1〜9のいずれか1項に記載の金属管の使用。

【公表番号】特表2009−520172(P2009−520172A)
【公表日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−543238(P2008−543238)
【出願日】平成18年11月15日(2006.11.15)
【国際出願番号】PCT/SE2006/050475
【国際公開番号】WO2007/064288
【国際公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(505277521)サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ (284)
【Fターム(参考)】